Category Archives: 試験

コミュニケーション力

11月16日(水)

昨日に引き続き、中間テストの採点をしました。問題文をきちんと読んでいない学生のなんと多いこと。「あなたの考えを書きなさい」ときいているのに、本文中から長々と抜き出してきたり、「具体例を挙げなさい」という問題に“頭の中の考え”とかという漠然としたお話を書いたりと、×以外つけようのない答えが山ほど出てきました。

この学生たちも、大学院や大学の入試を受けます。筆記試験において的外れな答えは、どんなにたくさん書いたところで、1点ももらえません。出題者が答えてほしいと思っていることに答えなければ、低い評価にしかならないでしょう。これは、文章表現におけるコミュニケーション力だとも言えます。

面接試験でも、同じようなことをやらかすんじゃないかと、心配です。面接官の前置きの言葉を聞いて、それに対する返答を考えているうちに本題を聞き逃し、面接官を苦笑させるような答えを言っちゃうのでしょう。また、面接官の言葉のうち、自分の知っている単語のみを拾い出し、それを組み合わせて質問内容を想像し、“???”な答えを返しちゃうかもしれません。

学生たちの今学期の目標を見ると、「コミュニケーション力を伸ばす」などという文言がちらちらとあります。だけど、中間テストの答えを見る限り、コミュニケーション力が伸びた感じはしません。コミュニケーション力というと、とかく発信力に目を向けがちですが、相手の考えや気持ちなどを正確に受信する力も侮れません。その力あってこその話す力です。頓珍漢なことを雄弁に語っても、コミュニケーションは成り立ちません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

質問

11月14日(月)

「昨日のEJUはどうでしたか、Pさん」と、クラスの中で弁が立つPさんに聞きました。EJUの様子を詳しく語ってもらおうと思ったのですが、「まあまあです」とはぐらかされてしまいました。Pさんならそんなかわし方もできるということを見落としていた私の負けです。Yさんみたいな朴訥な学生のほうがかえってしゃべってくれたかもしれません。他のクラスの学生に聞いたところ、数学が難しかったと言っていました。

昨日はEJUでしたが、明日は中間テストです。学生にとっては「前門の虎、後門の狼」みたいな感じかもしれません。このクラスは文法テストの出来があまり芳しくありませんから、文法の復習をすることにしました。今学期勉強した内容をかいつまんで私がもう一度解説するというのは、あまりに親切すぎます。ですから、「まあまあです」の敵を取るつもりも加わり、「今学期勉強したところで質問がある人、どうぞ」と聞いてみました。ちょっと意地悪かなと思いつつも、だれが手をあげるだろうかという興味のほうが勝りました。

しばらくの沈黙ののち、「先生」と遠慮がちに質問したのはKさんでした。Kさんは、去年、レベル1で教えた学生です。中級で1回つまずいて、レベル1で同じクラスだった学生より1つ下のレベルで勉強しています。先学期の先生からの引継ぎでも、“できる”グループには入っていませんでした。「まあまあです」なんて気の利いた答え方は、無理でしょうね。しかし、休まずに学校に通い、真剣に授業を受けるKさんは、今までの蓄積がかなりあります。その蓄積がものを言い始めたのではないでしょうか。Kさんの質問は、実はみんなの疑問であり、私の板書をみんなが書き写していました。

まあ、昨日までEJUの勉強で、文法の復習にまで手が回らなかったということにしておいてあげましょう。でも、テストの採点は、そんなの関係なしですからね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

シャープペンシル禁止令

11月12日(土)

明日は11月のEJU本番です。学生たちには、昨日、受験に際しての諸注意を伝えました。脱いだり着たりして温度調節できる服装で行けとか、お昼を持って行けとか、ごく一般的な事柄のほかに、EJUを実施するJASSOから発表されている注意事項も伝えました。こちらも、大学によっては複数のキャンパスがあるところもあるから注意せよとか、身分証明書として在留カードを持ってこいなど、当たり前のものが大半です。

その中に、シャープペンシルでは試験が受けられないというのがあります。マークシート方式のテストの場合、HBの鉛筆で記入するというのが一般的注意事項ですが、シャープペンシルで記入しても普通に採点してもらえます。しかし、JASSOの注意事項には、「シャープペンシルは使用できません」と明示してあります。

ここからは私の想像ですが、JASSOは問題を撮影されたり、聴解聴読解の音声を録音されたりするのを恐れているのではないかと思います。だから、受験生にシャープペンシルのようなメカニカルな小物を手にしてほしくないのです。EJUには毎回のようにカンニング疑惑、問題外部持ち出し事件が発生しています。全受験生にとって公平な試験が行えるよう、シャープペンシル禁止令を出したのです。

このテストの結果いかんで自分の人生が決まると思っている受験生も少なくないでしょう。だから1ミリでも背伸びをしたくもなります。でも、そうやって手に入れた“いい大学”の学生の身分も、進学してからもしかるべき成績を収め続けなければ、はく奪されてしまいます。また、“いい大学”の卒業証書の効き目が意外なほど薄いことも、卒業後ほどなく気づかされます。大きなリスクを冒すわりに、得るものは少ないですよ。

明日、学生たちがEJUの問題に取り組んでいるころ、私はワクチン接種です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

何が必要?

11月10日(木)

今度の日曜日がEJUの本番ですから、今週までの受験講座はそれに向けての授業をしてきました。過去問解説が中心ですが、問題を解くのに使う理論や公式や知識・常識について質問が出てくることもあります。この期に及んで基礎に戻って…というのはやりたくないのですが、質問されたら答えなければなりません。

Nさんは、先学期まではそういう質問をよくしてきましたが、今学期は全然しません。理解が進んだのか、丸暗記に頼っているのかわかりませんが、ひたすら私の話を聞いています。それに対して、今学期から受験講座を受けているAさんは、わりと遠慮なく質問します。説明が長くなりそうな場合は、授業後に残すこともありますが、嫌がらずに残って解説を最後まで聞いてから帰ります。

Aさんの話によると、国では「これはこういうものだ」という授業ばかりで、“これ”を裏付ける理論やその周辺事項や応用展開などには触れられることがなかったそうです。疑問に思っても、聞ける雰囲気ではなかったと言っていました。どうやら、日本へ来て初めて、Aさんは知的好奇心が満たされ始めたようです。

昨日の文科系数学では、2次方程式の解の公式を導出しました。これは、できない学生には暗記せよと言います。式の変形を見せても混乱するだけですから。でも、昨日の学生たちは筋がいいので、最後までついてきてくれました。解の公式の導出なんか、EJUには絶対に出ません。にもかかわらず興味を持ってくれたことが、とてもうれしかったです。

大学は、知的好奇心の強さがものをいうところです。今のうちから鍛えておいてほしいと思いながら、授業をしています。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

共通テスト

11月8日(火)

数学のS先生が、盛んにJさんを褒めます。Jさんは今学期から受験講座数学を受け始めましたが、他の受講生と比べると、段違いによくできるのだそうです。みんなが1問目で頭を抱えている間に、最後の問題まで解いてしまいます。そして、答えも正しいのです。

受験講座化学の後で、Jさんに話を聞きました。すると、Jさんは国の理科系の大学を中退して日本へ来たと言うではありませんか。数学がよくできるわけです。高校の数学は忘れてしまったと言っていましたが、忘れていても段違いによくできるのだったら、思い出したらどのくらいのレベルになるのでしょう。Jさんは11月のEJUは受けないのだそうですから、その数学的直観力を11月の受験生に貸してもらいたいくらいです。

Jさんが何を狙っているかというと、2024年の大学入学共通テストです。日本人の高校生と同じ一般入試で進学するつもりなのです。最近、そういう外国人留学生が少しずつ増えています。KCPにも3年前ぐらいから現れ始めました。面接試験がないから話すのが苦手な学生にとっては、そのほうが有利かもしれません。また、留学生入試の定員が極端に少ない学部学科なら、一般入試のほうが入りやすいことだってあり得ます。

数学と理科の基礎はできていて、英語も大学で鍛えられたでしょうからひどいことにはならないとすると、Jさんにとっての難関は国語の古典です。来年になったら予備校に通ってそこそこの力はつけると言っていました。

そこまで計画的に考えているのなら、私もできるだけの支援はしましょう。驚いてばかりいるわけにはいきません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

右の耳から入って・・・

11月2日(水)

KCPでは、前の月の出席率が80%未満の学生には、欠席理由書を書かせます。これは内々の資料ではなく、入管への提出資料として使うことだってあります。公的書類の側面もあるのです。

Cさんは、残念ながら、欠席理由書を書かなければならない学生の1人です。私の授業の日にも姿を見せなかったこともあるし、遅刻も少なくないです。授業後に教室に残して欠席理由書の用紙を渡すと、Cさんはまず欠席日の欄に目をやりました。「先生、私、20日は入試でした。入試の日も欠席ですか」と、少し不満げな口調でクレームを付けました。

入試日は出席扱いにします。しかし、それには条件があります。事前に担任に欠席届を出す必要があります。急いで探してみましたが、Cさんの欠席届はありませんでした。

「Cさん、欠席届を出しましたか、これくらいの小さい紙の」「M先生にもらった紙ですか。それならうちにあります」「Cさんのうちに置いといても意味がないでしょう。どうして出さなかったの。欠席届がなかったら入試の日でも欠席です」「え、そんなこと知りませんでした。いつ言いましたか」「今学期の最初の日のオリエンテーションで言ったはずです」

学生は人の話を聞いていないんですね。うなずいていたからって安心してはいけません。Cさんの場合、先月11日の始業日の時点で、入試まで9日でした。入試まで90日だったら欠席届は他人事でもしかたありませんが、直前と言ってもいいタイミングだったのに、なんで自分事として聞かなかったのかなあ。また、M先生から用紙をもらったのなら、その時点で確認することだってできましたよ。

休み明けの金曜日もこのクラスですから、もう一度注意を促しましょう。ちなみに、Cさんは20日が出席になっても10月の出席率は80%に届きません。そちらも大問題です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

安全パイは危険

11月1日(火)

WさんはR大学とK大学を受けました。R大学が第1志望でした。手が届くかどうかぎりぎりのところでしたから、出願書類からかなり念入りに準備していました。面接練習も怠りなく繰り返していました。担当された先生方の話によると、まじめな性格が裏目に出て、表情も言葉も非常に硬いとのことでした。どうやらそれが本番の面接でもそのまま出てしまったようで、話が弾むといった感じにはならず、Wさん自身も面接はあまりうまくいかなかったと言っていました。結果は、案の定でした。

R大学はチャレンジ校で、入れたら最高にうれしいといった大学でした。それに対して、K大学は滑り止めのつもりで出願した大学です。安全第一に考え、時分のEJUの点数で受かりそうな学部学科を選びました。“ド田舎”――これが、試験当日、K大学まで行ったWさんが最初に抱いた感想でした。R大学も田舎にありましたが、R大学ならその“ド田舎”に耐えられても、K大学で4年間過ごすのはちょっと…というのが、偽らざる気持ちだったようです。それが表に出てしまい、面接官に見破られてしまったのでしょうか、安全パイのはずだったK大学にも落ちてしまいました。さすがにショックで、落ち込んでいるというメールが担任のM先生に届きました。

やはり、入りたいという気持ちを強く持たねば、合格は難しいです。Wさんよりも成績の低い学生が志望校に受かっているのは、入りたいオーラを出していたからでしょう。Wさんも痛い目にあって考え方を改めたに違いありません。“入れる大学より入りたい大学”という基本に戻って、次の出願に向かっていくことでしょう。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

楽しい思い出

10月31日(月)

私のクラスでは、文法のテストがありました。クラス全員、25分の試験時間をフルに使っていました。苦しげな表情を見せる学生もいました。先週の金曜日が川越小旅行だったので少々お遊び気分が盛り上がりすぎてしまい、週末にあまり試験勉強をしなかったのでしょうか。

授業後、すぐに採点しました。一番上に載っていたAさんの答案を採点すると、選択肢の問題はすべて正解でした。幸先がいいと思いながら、これを模範解答として、他の学生たちの選択肢の問題を先に採点しました。すると、みんなどこか何か間違えているんですねえ。結局、選択肢満点だったのはAさんだけでした。それを一発で引き当てたのは、確かについていたのですが…。

文法テストですから、当然、短文を作る問題もあります。ざっと見ると、白い部分が目立ちました。答えが書けなかったのです。もう少し詳しく見ると、このクラスは漢字の上に読み方を書くルールになっているのですが、それが守られていませんでした。私は試験中2回、フリガナをつけるように注意しましたが、学生たちはその余裕さえなかったのかもしれません。試験時間が余らなかったんですからね。

その短文をじっくり読むと、問題をよく読んでいないことがよくわかりました。“感激にたえない”の前に何か核問題に、“教えてもらいました”的な、“感謝にたえない”ならぴったりくる答えが過半を占めました。「感」だけ見て、「激」は読まずに「感謝」と反応してしまったのでしょう。同様に、問題を読んでいないとしか思えない答えが続出しました。文法以前の問題です。

結局、最高点ですらAさんの77点でした。平均点は……お恥ずかしくてここには書けません。

本日唯一の救いは、授業の最後に川越の話題を出した時、学生たちの顔が一斉に輝いたことです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

質問魔

10月27日(木)

またまた先週の登場人物が出てきます。受験講座物理を受けているFさんは国立大学を狙っています。Fさんの国では、“いい大学”に入るためには決められた範囲の知識をきっちり覚えることが何より大切なのだそうです。日本はそうではないので、各科目を深く勉強する楽しみがあると言っていました。

私に言わせると、EJUなんか知識の暗記比べの面が強いですよ。解いておもしろい問題が少ないです。何が悲しくてこんな七面倒くさい計算をしなければならないのだろうと感じさせられることがよくあります。そういう問題を解くための勉強でも、Fさんにしてみると楽しいようです。

私も意地で、知識を書き連ねるだけの模範解答にしないようにしています。受験のテクニックも教えますが、その背後や周辺にも触れます。学生によってはそれが無駄話に聞こえるでしょう。非効率的に映るかもしれません。しかし、受験において効率性だけを追求したら、進学後に苦労します。

Fさんは質問が好きなようです。先週に続いて、授業後に疑問点を私にぶつけてきました。相変わらず、その日本語を理解するのに苦労を伴うのが難点ですが、「これは覚えなければなりませんか」的な質問ではなかったところは評価しなければなりません。また、そういう点を伸ばしていきたいものです。

Fさんの質問に答えていたら、あっという間に1時間以上たってしまいました。1階に降りたら、明日の川越小旅行の職員最終打ち合わせが始まる直前でした。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

プレッシャーに耐える

10月5日(水)

朝9時のチャイムが鳴ると同時に、Gさんが面接練習に来ました。Gさんは、先週も面接練習というか、面接相談に来ました。そこで志望理由などの答え方の手ほどきをしました。それを参考に答え方を立て直し、再挑戦に来たという次第です。

しかし、残念ながら、その成果が挙がっているとは言えませんでした。Gさんは日本語を話す力に秀でていますから、それが伝わるような答え方をすることで、点を稼がなければなりません。しかし、Gさんの答えは表面的すぎて、日本語が多少上手なくらいでは得点に結びつかないでしょう。

こういう時、面接練習を受けた学生は、異口同音に緊張していたと言い訳します。おそらく、その言葉に嘘はないでしょう。しかし、面接本番では、緊張していてもそれなりの答えをして、自分の考えを面接官に理解してもらわなければなりません。言い訳は一切通用しません。

酷なようですが、どんなにプレッシャーがかかろうと、最低限のことは面接官に対して主張しなければなりません。本当に表面的な内容しか考えていなかったとしたら、Gさんの志望校・学部・学科を考えると、合格は絶望的だと言わざるを得ません。

そういうことを伝え、もう一度志望理由などの答え方を考えました。緊張のない状態で改めて聞いてみると、練習の時よりはしっかりした答えができました。頭の中がきちんと整理されていないんですね。そんな状態で面接に臨んではいけません。

Gさんのことですから、基本的なことは答えられるように自分で練習するでしょう。来週もう一度面接練習をしますから、その時はもっと厳しい質問もぶつけてみましょう。そうやって、Gさんの志望校レベルまで、Gさんを引き上げていきます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ