Category Archives: 日本語

Tシャツにジーンズ

12月13日(金)

Eさんはアメリカの大学のプログラムで留学してる学生です。このプログラムには、毎学期、オーラルテストがあります。授業後、Eさんにそのオーラルテストをしました。

私のオーラルテストのやり方は、自然なやり取りをしながらその学生の話す力を見極めていくというものです。Eさんは最初緊張していたようでしたから、クラスの先生の名前や、その先生方の中でだれが一番面白いかとか厳しいか、気楽に答えられて、でもその答えの中に文法力や語彙力が垣間見られるような質問をしました。

はじめは言葉を探しながら答えていたEさんでしたが、次第に即答に近くなってきました。口に潤滑油が回ってきたのでしょう。じゃあちょっと込み入った質問をということで、KCPでの勉強が終わったらどうするか聞いてみました。ファッション系の専門学校に行きたいそうです。続いて、アメリカではなく日本でファッションの勉強をするのはどうしてかと問うと、アメリカのファッションは簡単すぎるのだそうです。

アメリカ人は1年中Tシャツにジーンズ、寒かったらパーカーを着るだけだけど、日本にはきれいなファッションがたくさんあるのだそうです。確かに、私の周りのアメリカ人学生、特に男性は、冬でもTシャツにジーンズです。今年の3月に卒業したJさんは、まさにEさんの言う通りでした。薄っぺらいパーカーしか着ていないくせに風邪で休むとは何事かと激怒したこともありました。アメリカ人の修正だったんですね。

Eさんは日本人と変わらない服を着ていましたが、これは友達の誕生パーティーに着ていくくらいの服なのだそうです。おしゃれな服をいっぱい着たいから日本へ来たのであり、将来は自分でそういう服を作って、原宿あたりで売りたいと夢を語ってくれました。

気が付いたら、Eさん、最初のたどたどしい話し方が嘘のように、よくしゃべっていました。オーラルテスト、十二分に合格点です。

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望みはある?

12月9日(月)

Aさんは大学入試の面接が迫っています。EJUの日本語の点数はまあまあ以上ですが、話すのがよくありません。話せないわけではありません。早口なのと口をあまり開けずに話すのとが相まって、非常に聞き取りにくいのです。私は半年以上もAさんと付き合っていますから、Aさんの話し方に慣れています。そのため、Aさんの言わんとしていることがわかってしまうのです。しかし、大学入試の面接官は違います。Aさんの話し方では、10%も理解してくれないでしょう。そういうことを、夏の暑いころからAさんに伝えてきました。しかし、Aさんはどこ吹く風といった感じで、話し方を変えようとはしませんでした。

先週、面接練習をしました。その時、Aさんはその様子をスマホで録画・録音しました。そして、おそらく、自分で撮ったビデオを見たのでしょう。また、面接練習後のフィードバックで、話し方を今までよりもずっと強く注意されもしました。そんなことがあったので、その翌日から、Aさんは授業の際に例文など教科書を読む時には自分を指名してくれと申し出ました。今学期はやる気のなさが目立ったAさんでしたが、実際に指名してみると、本気を出して読んでくれました。

少しでも話す力を付けようとしての申し出なのですか、手遅れ感があります。早口で口を開けずにという話し方で固まってしまって、なかなか聞き取りやすい読み方にはなりません。「え、わからない。もう一度」と何回言われたでしょう。面接に間に合わそうという根性は買いますが、見通しは決して明るくありません。

もっと早い時期から厳しくしつけておくべきだったという反省は残ります。でも、面接までに残された時間で精いっぱい引っ張り上げるつもりです。

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期待していいのかな

12月6日(金)

昨日のこの稿に登場した初欠席のJさんは、朝からちゃんと出席しました。それどころか、授業後、担当のS先生に昨日の授業内容を全部聞いて帰ったそうです。期末タスクの準備も、グループの中心になって進めていたと言います。この調子なら、大崩れすることなく卒業式まで行くでしょう。

さて、その期末タスクですが、社会問題について調べて、グループで発表するというものです。そのグループは教師が決めます。成績≒日本語力、リーダーシップの有無、国籍、人間関係、テーマに関する知識量、まじめに毎日出席するかなどといった事柄を勘案し、学生を割り振ります。

このように書くと、教師は何でも知っていて、最適なグループを瞬時に作っているようにも見えますが、実は違います。あれこれ考えて、シミュレーションを重ねて、自信など全くないのに、このグループ分けなら絶対うまくいくよという顔をしながら発表するのです。

今回は成績があまりよくない学生を集めたグループがありました。グループ内の力の差がありすぎると、できる学生がこの課題を通して伸びていかないおそれがあるのです。それを避けるために、勝負に出たといったところです。社会問題について日本語で話し合えるだろうかと一抹の不安を抱いていましたが、全くの杞憂でした。むしろ、このグループが一番楽しそうにやっているように見受けられました。

もちろん、発表を見なければ最終判断はできませんが、果敢にかつ笑いを絶やさずテーマに取り組んでいる姿には、大いに期待が持てました。この発表がうまくいけば、このグループの面々も、自分の日本語に自信が持てるようになるのではないかと、秘かな期待を抱いています。

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おはようございます?

12月4日(水)

朝から、来学期の新入生へのオンラインインタビューをしました。プレースメントテストの結果、中級以上と判定された新入生のレベル決定をするための面接です。アメリカ本土にいる学生もいるため、朝8時から始めました。

「日本は“おはようございます”ですが、Pさんのところは、今、何時ですか」「あ、今、夕方の6時です」「じゃあ、“こんばんは”がいいのかな?」なんていう調子で、緊張をほぐしながら始めました。

それが効いたからかどうかわかりませんが、Pさんは実にのびのびと話してくれました。私は覚えていなかったのですが、10年近く前にもKCPで勉強したどうです。その後大学に行って、卒業して、アメリカで働いて、でも日本で働きたくてまたKCPで勉強しようと思ったそうです。

同じアメリカのAさんも、日本で就職したいと言っていました。来年7月のJLPTでN2を取り、仕事を見つけたいのだそうです。こういうふうに明確な目標を持っていると、崩れにくいんですよね。しかも、大学を卒業していますから、大人の分別も持ち合わせています。こんな学生がクラスに1人いると、クラスが引き締まるものなのです。

もう1人のSさんはアメリカの人ではありませんが、大学で歴史や文学を勉強したいと言っていました。国で入った大学は自分の勉強したいことが勉強できないので、退学して、日本で大学に入り直すのだそうです。歴史や文学なら、K大学がいいと薦めておきました。

面接した3人とも、発音がよかったのが印象的でした。もちろん、外国人特有のイントネーションはありましたが、発音そのものに変な癖がなく、聞き取りやすかったです。

あと1か月少々で、この3人に会えます。今から、とても楽しみです。

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地力

12月3日(火)

日本語プラスの授業の後で、受講していたGさんが研究計画書を見てほしいと言って、A4用紙4枚ほどを取り出しました。私がかつて専門にしていた分野なら、多少は意見が言えるかもしれませんが、それ以外の話だったら畑違いですから、見当違いの意見を吐いてしまうでしょう。それでもいいから読んでくれというので、目を通してみました。

残念ながら私の専門外の内容でしたが、興味を持っている分野ではありましたから、おもしろく読ませてもらいました。Gさんの狙いは、内容についての意見を求める点にあるのではなく、研究計画書の体裁が整っているかどうかを確認する点にありましたから、そんなに難しく考えずに読むことができました。

最低限の形式は整っており、論理的な矛盾もありませんでした。翻訳ソフトかAIかを使ったんでしょう、日本語も立派なものでした。一つ気になったのが、大学院の先生と日本語で話をするのかという点でした。もしそうだとすると、Gさんの日本語では心もとないこと極まりありません。

その辺を確かめると、質疑応答は英語でするとのことでした。「そりゃあ、理科系は英語だよ」なんて、日本語教師としてあるまじき発言をしてしまいましたが、Gさんが狙っているM大学なら、修論の発表はきっと英語でしょう。Gさんにとっての日本語は生活用語であって、学問のための言葉ではありません。研究の場こそ日本ですが、研究を進める頭脳は英語で回転しているのです。

何となく寂しいですが、これがに現在の日本語の地力です。

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上手すぎます」

11月27日(水)

先週の作文の採点をしました。中級クラスですから、習ったばかりの表現を使おうとして失敗したり、主張の訴え方が弱かったり、それどころか最初と最後で主張が変わってしまったりなど、未熟な点が目立ちました。その程度は計算済みですから、驚きはしません。そんな中で、Lさんの作文が目を引きました。漢字の誤字と末表現の抜けが各1か所あっただけで、文章としてはほぼ完璧でした。

しかし、作文を書く前にクラス全体に示した論理展開の見本をまるっきり無視していました。こういう構成を身に付けてもらいたいと思って、どういう意見であってもこれに従うよう指示したのですが、それには全くお構いなしでした。他の学生は多少なりともモニターに映し出された構成を参考にして書いていたのに、Lさんだけ“我が道を行く”でした。

それだけではありません。語彙レベルがやたら高いのです。「日々の生活」「住居を確保する」「経済発展を目指す」「雇用創出」「生活水準が向上する」「環境保護に重点を置く」「貧困を脱却する」など、私が普段見ているLさんなら絶対に使わない(使えない)単語が続々と書かれていました。

作文の時間に参考にしてもいいのは、教科書と自分のノートだけです。スマホをはじめ、電子機器は使用禁止です。しかし、Lさんの作文の内容を見るに、AIの影を感じずにはいられません。そういえば、Lさんは机に突っ伏すようにして書いていました。スマホを隠すためだったのかもしれません。

Lさんは2校の大学に合格して、余裕綽々である反面、学習意欲が低下しているところもいられます。作文なんて言う面倒くさいことになど、まじめに取り組む気がしなくなったのでしょうか。いずれにせよ、今週の作文の時間に事情聴取です。

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心配性?

11月22日(金)

Sさんは、昨日のJさん同様、進学先が決まっています。そして、これまたJさん同様、オンラインの事前教育が始まっています。5分の動画に2時間というJさんほどではありませんが、20分の動画にたっぷり1時間はかかるそうです。動画の視聴が義務付けられているかどうかわからないけれども、心配だから見ないではいられないと言っていました。そういうまじめな学生だからこそ、指定校推薦で受かったのでしょう。

年内に合格が決まる大学や専門学校は、入試が行われた時点での日本語力で合否を決めるわけではありません。入試時には“まだまだ”という感じの日本語力でも、3月の日本語学校卒業まで日本語の勉強と練習を続ければ、進学先の授業について行けるだけの日本語力を身に付けるだろうという見込みに基づいて合格を出します。ですから、合格したからと言って喜びすぎて遊んでばかりいると、進学してからひどいしっぺ返しに遭います。毎年、その辺のことが理解できない学生がいて困っています。

Sさんは決して成績がいい学生ではありませんが、自分自身でそれをよく自覚しています。だから、どんなに時間がかかっても事前教育の動画をすべて見ようとしているのです。それだけではなく、話す力も伸ばさなくてはと、授業中も一生懸命話そうとしています。3、4人のグループで議論するのが一番面白いと言っています。

その一方で、Wさんはダメ元で受けた有名校に合格してタガが外れかかっています。今はSさんよりも日本語力が上ですが、この調子だと先行き心配でなりません。

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自分の文章を読む

11月20日(水)

初級クラスのKさんが、昨日の宿題となっていた今学期の目標訂正版を提出しました。中間テストが過ぎ、学期初めに書いた目標を見直して、改めてスタートを切ってもらおうという発想です。

Kさんは目標そのものを変えたというより、目標の文言を直しました。私たちは学生からもらった今学期の目標を、一字一句直さずそのまま保管しておきました。それを、学期の半ばで読み直してもらい、変更すべきところは変更してもらおうというわけです。だから、Kさんのように、目標の軌道修正はせずに、その表現方法を変える場合もありうるのです。

学期初めのKさんの目標は、日本語になっていませんでした。Kさんは、昨日一時的に返却された今学期の目標を見て、愕然としたのかもしれません。“つい1か月半ほど前の私って、こんなに日本語が下手だったの?”なんて思ったかもしれません。再提出された目標は、だいぶまともになりました。Kさんは翻訳ソフトの手を借りるようなことはしませんから、自分で間違いに気づき、自分で直したのだと思います。

自分で書いた文章の誤文訂正は、できそうでできません。例えば、作文の時間に、自分で書いた文章を読み返して変なところは直して提出しろと言っても、そんなことをする学生はまずいません。読んでも間違いに気がつかないのです。思い込みが激しいので、誤用も正しく見えてしまうのです。

ところが、数週間時間が経つと、自分の文章でも自分の文章も相対化して見られるようになります。そうすると、目を曇らせていた思い込みもありませんから、間違いが見えてきます。これに加え、Kさんは、自身の日本語力の向上も、“あ、変な文を書いていたもんだ”という気付きにつながっているに違いありません。この進歩の実感が大切なのです。

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昨日の試験

11月18日(月)

昨日は汗ばむほどの日和で、日中は腕まくりをしていました。そんな中、第1回の日本語教員試験が実施されました。私は経験とか今までに取得した資格とかの関係で昨日の試験は免除でしたが、KCPの先生の中でも何名かの方が受験されました。

O先生の試験会場は、私が学生時代に住んでいたアパートの近くのビルでした。すなわち、築半世紀近い建物です。しかも、元地元民からすると、そのビルはどう考えても試験会場向きではありません。倉庫とか大安売りの会場とかという印象しかありません。取り壊して建て替えるという噂も耳にしていたのですが、ネットで調べたら、とりあえずその計画はなくなり、リニューアルされたそうです。でも、そう遠くない将来、そういう方向に進むとも報じられています。

要するに、老朽化した、試験会場向きとは言いかねるビルで試験が行われたのです。それに加え、長机に詰めて座らされ、その気になればカンニングし放題だったというではありませんか。また、O先生の試験室は、音響設備が不十分で、聴解問題がよく聞こえなかったそうです。同じ部屋の他の受験生は、全然聞き取れなかったと嘆いていたとか。そりゃあそうですよ、体育館みたいなところなんですから。

トイレの数も不足していて、休憩時間内に用を足すことができなかった人もいたそうです。休憩時間は15分でしたが、回収した答案用紙と問題用紙の数の点検に時間を要し、実質的には数分だったようです。大安売りの会場なら、多少お客さんが多くてもトイレ利用は分散しますから、トイレの数はさほど多くなくてもどうにかなるでしょう。しかし、試験会場となると、休憩時間にトイレ利用が集中します。そんな計算もせずに、単に面積だけで会場を借りたのでしょうか。尿意をこらえながら試験を受けた人が実力を発揮できなかったことは、想像に難くありません。そういう方の心中は、いかばかりでしょう。

“日本語教師の質を担保する国家資格”という触れ込みだったはずですが、そんなご立派な試験が、こんなひどい環境で行われたのです。看板倒れもいいところです。国が日本語教育をいかに軽視しているかがよくわかる試験でした。

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漢字難しい?

11月14日(木)

中級間テストの試験監督に入った上級クラスの最初の科目は作文でした。といっても、今学期の上級の作文は選択授業ですから、学生によって試験内容が異なります。20人のクラスに3種類の試験問題が混在していたため、最初はあわただしかったです。

そのあわただしさが落ち着いた後も、昨今はスマホ中毒の学生が増えていますから、試験時間が終わるまで教室中を油断なく見回らなければなりません。悪気がなくても、手が無意識のうちにスマホに伸びているということがあるのです。机の上に右手しか出していない怪しい学生が1人いましたが、近づいてみると、左手は太ももと椅子の間に挟み込んでいました。指先が冷たかったのでしょうか。

Kさんの横を通過した時、Kさんに呼び止められました。「先生、消しゴムを貸してください」とねだられました。「消しゴムも持ってこないで試験を受けるとは何事だ」と説教したいところですが、試験中ですから、「揚げます」と言って、黙って消しゴムを手渡しました。こういうことも予期して、試験監督に入るときは、消しゴムを数個持って行きます。それが役に立ちました。“備えあれば憂いなし”というのとはちょっと違う感じがしますが、ペンケースに忍ばせておいた消しゴムがKさんの元へと巣立っていきました。

せっかく消しゴムをあげたのに、その後のKさんの答案は空欄が目立ちました。最後の科目、漢字・語彙に至っては、試験用紙の裏側が真っ白でした。帰ろうとするKさんを呼び止めて「裏側は?」と聞くと、「全然わかりません」と言い残して、結局帰ってしまいました。

Kさんの、漢字・語彙以外の中間テストの答案用紙を見ると、気の利いたことを書いているではありませんか、ひらがなで。また、Kさんはこなれた日本語を話します。でも、漢字がここまで書けない読めないとなると、進学にかなり分厚い暗雲が垂れ込めていると言わざるを得ません。

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