Category Archives: 学生

行き場がなくなるよ

10月17日(水)

今学期は水曜日が午後の初級クラスで、午前中少し余裕があるはずでした。しかし、あれこれ雑用を片付けているうちに、あっという間に昼休みになってしまいました。まあ、開講日以来たまっていたこまごまとした用事を処理できたのですから、有意義だったと言えないこともありませんが…。

昼休みになったら上級の学生が押し寄せてきて、そちらの世話で手一杯です。そんな中、アポなしでG大学の方が訪ねてきました。お話を伺うと、日本人向けのAO入試に去年の2倍近い受験生が応募し、“若干名”とされている留学生の定員が少ないほうに動くかもしれないとのことでした。ですから、G大学を志望する学生がいたら是非早い時期の入試で受けてほしいというお勧めでした。KCPからG大学には、毎年何名かの学生が進学していますから、気を利かせてくださったのでしょう。

要するに、入試時期が遅くなればなるほど入りにくくなるということです。第1志望校の合否を見極めてから第2志望校以下に出願などと言っていたら、滑り止めになるはずの第2志望校の入試が第1志望校の入試よりもハイレベルになりかねないのです。

私たちはそういう情報をある程度つかんでいましたから、夏あたりから先手必勝という指導をしてきました。しかし、学生たちは自分たちに都合のいい情報ばかりを信じ、私たちがたきつけてもなかなか動こうとしません。でも、もはや悠長なことは言っていられません。首に縄をつけてでも出願に持って行かなければなりません。

午後の授業は、そんな学生の顔がちらついて、若干集中力を欠き、予定の進度まで進めませんでした。

違います

10月16日(火)

今学期はEJUが迫っていますから、始業日の翌日から受験講座が始まっています。私の理科も昨日から始まっています。今学期から受験講座に加わった初級の面々も、11月のEJUを受ける学生が大半ですから、過去問をやらせてみました。やはり日本語の読み取り・理解がかなり大変なようで、上級の学生たちの1.5倍から2倍ぐらいの時間がかかります。でも、初級の学生の多くが、来年6月に照準を合わせていますから、そのころには馬の上級の学生たち並みのスピードで解けるようになっているでしょう。

しかし、学生たちの国の教育カリキュラムと日本のそれとが違っている場合は、そのギャップ埋めなければなりませんから、さらに負担が大きくなります。SさんとTさんはそういう学生で、過去問の中の数問は国の高校では全く手をつけなかった範囲だと言いますから、来週はそのために時間を取って詳しい説明をすることにしました。

日本の大学は、よく、入るのは難しいけど出るのは易しいと言われてきました。かつてほどのことはないでしょうが、今でも多少はそういう気が残っているように思えます。もちろん、大学で勉強していくだけの能力や適性のない学生を入れてはいけませんが、EJUの出題範囲が学生たちの母国の教育カリキュラムと違うことが、他の面で高い能力を有している学生にとっての高い壁となっているとしたら、ちょっと違うんじゃないかなあと思います。

理系の大学で高校の数学や理科の補習をしなければならないという事例を耳にすると、そんな学生を無理して入れなくてもと思ってしまいます。留学生が大学に入ってから落ちこぼれてしまうよりは、入る前にはねられた方が、少しでも早い時点で軌道修正できますから、幸せなのかもしれません。

何はともあれ、今はSさんとTさんを来年6月までにEJUで勝負できるだけの力をつけさせることに集中します。

ヘアスタイル

10月15日(月)

久しぶりにRさんに会ったら、髪が短くなっていました。「ずいぶんすっきりしたねえ」と声をかけると、「はい。自分で切りました」と、はさみでチョキチョキするしぐさをしました。「自分で?」「はい。日本の(髪を切る)お見せには行ったことがありません」。

Rさんの実家は、髪を切るお金を節約しなければならないほど貧しいなんてことはありません。Rさんの口っぷりからすると、お金はあるけれども日本語でどう切るかを指示するのが難しくて、床屋や美容院へは足が向かないようです。Rさんは上級ですから、それぐらいのやり取りはできてほしいんですがねえ。

そこで思い出したのがOさんです。KCPにいたころは、自分で髪を切っていたかは聞いていませんが、Rさんと同じようにパッとしない風体でした。しかし、M大学に入ってしばらくしてから遊びに来た時には、ちょっとチャラい感じの“大学生”になっていました。間違いなく美容院で自分のしてもらいたい髪形を説明し、美容師とあれこれやり取りしてカットしてもらっていることが見て取れました。在学中はどちらかというと鈍重な雰囲気でしたが、会ったときは身のこなしも軽やかで、すっかり垢抜けていました。

Rさんも、2年後ぐらいにはそうなっているのかなあと思いました。なんだか信じられないような気もしますが、進学先で周りの日本人にもまれると、その影響を受けてごく普通の日本の大学生になるのでしょう。それは、日本語力の面では正しく「成長」でしょうが、人間的にはどうなのかな。でも、Rさんの第一志望校はM大学より田舎にありますから、今のRさんのいい意味での朴訥さは変わらないんじゃないかな…。あれこれ想像を膨らませました。

質問にお答えします

10月13日(土)

きのうの始業日に、上級の各クラスでは進路アンケートをしました。主に志望校の確認ですが、何か聞きたいことがあったら書いてくださいという項目に、何名かの学生が質問をよこしました。きのうは忙しくて見ている余裕がありませんでしたが、授業のない土曜日、じっくり読ませてもらいました。

理系志望のKさんは、日本の理系大学でちゃんと研究できるのは国公立だけで、私立はいい研究ができないという話を聞いたが本当かという質問でした。ある程度は当たっていますね。1つの研究室に所属する学生の数が、国立と私立ではかなり違います。国立のほうが手厚いと思いますが、国立大学も予算をばっさばっさと削られていますから、今後どうなるかは予断を許しません。また、一部の国立大学は授業料の横並びをやめて、若干高く設定するようになったともいいます。国立と私立の差が、条件の悪いほうに合わせる形で縮まってきているのではないでしょうか。

Yさんは、会計学科を出たら会計士以外の道があるかという質問です。専門性を生かす道は会計士だけではありません。わりとつぶしのきく専門なので、就職してから多様な場面で活躍できると思います。でも、就職したら勉強はおしまいではありません。むしろ、常に勉強していないと置いていかれてしまうくらいです。大学は、勉強のしかたを身に付ける場と言ってもいいかもしれません。

Rさんは、面接について詳しく知りたいと聞いてきました。面接については、私も他の先生方もあれこれ訴えてきたと思うんですがねえ。Rさんにとっては遠い世界の話だったのでしょうか。10月になって、志望校の面接試験が近づいて、現実味を帯びてきて、焦り始めているのだと思いました。Rさん意外にもこんな調子の学生がいることでしょうから、また改めて話をしなおさなければなりません。

以上3名には、そんな意味の回答をメールで送りました。今学期の終わりには、3人ともどこかに受かっていてもらいたいです。

飛び交う

10月12日(金)

教室のドアを開けると、入口の近くからも奥の方からも鋭い視線が飛んできました。スマホをいじっていた学生まで、わざわざ手を止めてキッとこちらをにらみます。新学期の初日は、学生も教師も緊張するものです。

教師は、事前に名簿も見られますし、新たに担当することになった学生についての情報を周囲の教師から集めることもできます。しかし、学生のほうは、始業日前日にクラス名と教室の連絡はもらいますが、そのクラスの担当教師については“当日のお楽しみ”です。ですから、教師が教室に足を踏み入れるやガンを飛ばすのです。

学期休み中にさんざん養成講座の授業をしてきましたが、やはりクラス授業は別格です。人数も多いし、手のかかる度合いも格段に違います。少なくとも3か月間、上級だとさらに長い期間、運命共同体ですから、お互いにどんな人間なのだろうと気になって当然です。

さて、今学期の最初のクラスは上級で、1/3ぐらいが以前どこかのレベルで受け持ったり受験講座で教えたりしたことのある学生でした。鋭い視線の後、知った顔が来たと表情が和らぐ学生もいれば、初顔合わせで厳しい顔つきのままの学生もいました。最近学校の内外での学生たちの規律が緩んでいますから、学生の気持ちを和ませるようなことは言わず、そのままオリエンテーションに突き進み、引き締まった空気を持続させました。

やっぱり、期末テストの日まで、教室の中を勉強しようという雰囲気で満たしたいです。楽しいクラスも大切ですが、得る物の多いクラスにしていくことが理想です。

出願できる?

10月9日(火)

10月は受験のシーズンでもあり、出願のシーズンでもあります。すでに合格が決まった学生もいますが、大半はこれからが勝負です。Hさんもそんな学生の1人…と言いたいところですが、少々事情が違います。

まず、Hさんは入学時期の関係から、この12月までしかKCPにいられません。たとえ日本で進学するにしても、年内に一旦国へ帰らなければなりません。ですから、受験できる大学は、試験日が12月までのところに限られるのです。帰国してまたすぐ日本に入国というのは、ビザの上で難しいので、年が明けてから試験の大学は避けておくのが無難です。

Hさんはいくつか志望校を挙げました。EJUの成績などから考えて、1校は明らかに無理。もう1校は、多少は可能性があるけれども、そこに受かるとは思わないほうがいいでしょう。さらにもう1つは、受かる可能性はありますが、仮面浪人前提の大学。行きたくなさげに挙げてきたもう2つの大学が妥当な線です。もういくつかこちらから提案して、それらに出願することにしました。

それに加えて、出席率が悪いです。ビザ更新後は危険水域にどっぷりつかっており、この出席率のままなら、大学進学後にビザがもらえる可能性は非常に低いです。ですから、10月から12月まで1日たりとも休むわけにはいきません。風邪をひいたりおなかを壊したりすることもできません。しかし、Hさん自身にその自覚や危機感がなく、どうにかなると思い込んでいます。同じような先輩が結局進学できたとか、塾の先生が大丈夫だと言っているとか、私たちに言わせれば根拠がないに等しいことを理由に挙げています。

上述の出願校にしたって、もし、KCPでの出席率を見たら、それだけでアウトにある恐れがあります。アウトにはならなくても、面接ではきっと出席率のことを聞かれるでしょう。Hさんはどう答えるつもりなんですかねえ。

今学期は、こういう学生のお相手をしていかなければなりません。

急成長

10月6日(土)

Yさんが入学式の在校生代表スピーチの練習に来ています。私は直接練習を見ていませんが、職員室に入ってきたときの表情を見る限り、かなりの手応えを感じているのではないかと思います。

Yさんは先学期の末に志望校への合格が決まり、今は上げ潮です。受かった勢いでスピーチを引き受けてしまったところもあるように思えましたが、どうやら決して勢いだけではないようです。難関を乗り越えたことで自分を信じられるようになり、その自信が体中からほとばしり出ているのです。わずかな間に大きく成長したと思います。来週の入学式では、先輩としてきっと堂々たるスピーチをし、新入生の目標となってくれることでしょう。

思うに、Yさんはプレッシャーを糧に伸びていける学生なんじゃないでしょうか。正直に言うと、Yさんが志望校に出願した時には、「当たって砕けろ」になるだろうなあと思っていました。でも、試験日が近づくにつれて、はたで見ていても力をつけてきたことがわかり、もしかすると…という気になってきました。そして、合格発表であり、在校生代表でありというわけです。

この姿を、国のご両親に是非お見せしたいです。さぞお喜びになることと思います。YさんはKCPの一番下のレベルから始めていますから、文字通り長足の進歩です。親御さんも今のYさんをご覧になったら、留学させてよかったとお思いになるに違いありません。

しかも、Yさんはまだまだ伸び盛りという感じがします。卒業までの半年、後輩たちをぐいぐい引っ張っていってもらいたいです。

受験が迫る

10月5日(金)

昼ごはんを食べに行こうとしていたら、Cさんが「急いで在学証明書がほしいんですが…」と申し込みに来ました。きのう、出席成績証明書を申し込んだばかりなのに何事かと聞いてみると、募集要項をよく読んだら日本語学区の在学証明書が必要なことがわかったとのことでした。Cさんは超級クラスの学生ですから、募集要項を隅から隅まで読んだ上で必要書類を全部申し込んだとばかり思っていたのですが、読み落としがあったようです。

中級ぐらいまでの学生だったら、一緒に募集要項を読んで何を申し込むべきか確認してから、書類の申し込みをさせます。超級だったら、しかもできるほうの学生のCさんならそんな心配は要らないだろうと思っていましたが、そうじゃなかったんですね。まあ、受験のときに日本語学校の在学証明書を必要とする大学は珍しいですから、いらないと思うほうが普通かもしれません。

昼食から戻ってくると、Lさんが来ていました。T大学には出願したのですが、もう1校受けたいといいます。Lさんが勉強したいことは、どこの大学でも勉強できることではありませんから、手当たり次第に出願するというわけにはいきません。しかも、Lさんはビザの関係上12月で帰国しなければなりませんから、試験日が1月の大学には出願できません。そんなわけで、非常に狭い範囲から受験校を選ばなければなりません。LさんのEJUの成績も考慮して、いくつかの候補校を選びました。その後しばらく、Lさんはその候補校を自分のタブレットで調べていました。

授業はなくても、受験は進んでいきます。

十人十色

10月4日(木)

期末テストの作文の採点をしました。先週のうちにざっと目を通し、気になるところには朱を入れておきましたから、2度目は内容までよく吟味して、主張がどれだけ伝わってくるか、独自性がどのくらい発揮されているかといったあたりを中心に、深く読んでいきます。深くといっても、初級の作文ですから、そんなに複雑・高度なことが書かれているわけではありません。ですから、文ではなく文章のレベルで書かれているか、今までに習った文法や語彙を使うべきときに使っているかといったあたりが、主たるチェックポイントになります。

とはいえ、クラス内でかなり差がついてしまっていることも確かです。Kさんは文法のミスがいくつかあったものの、言わんとすることが十分伝わってくる個性的な文章が書けています。中級に上がって、抽象語や微妙なニュアンスを表す文法を覚えれば、社会性のある論理的かつ説得力のある文章が書けるようになるでしょう。一方、Tさんは主張はわかりますが、文法の間違いがあまりにも多く、高い評価はできません。Sさんは論理が破綻しており、このまま中級の課題に取り組んだら、教師泣かせの作文を大量生産することになるでしょう。

Nさんは、成績はいいです。でも、どうやら安全運転に走った形跡があり、習った文法を思い切りよく応用しようという姿勢がありません。作文の採点基準に従うと、Nさんのようにミスの少ない文章が高得点になりやすいのですが、期末テストのNさんの作文にはもどかしさを感じます。点数はKさんといい勝負ですが、読後感は段違いです。

作文は文字の形で跡が残りますから、会話のように勢いですり抜けることはできません。文法力や語彙力を積み上げ、論理に従って書き上げるものです。私の学生たちが、新しいクラスでどのように伸びていくのでしょうか。

講義と採点

10月3日(水)

ここのところ、学期休み中に日本語教師養成講座の講義を担当することが多くなりました。学期が始まってしまうと、通常授業のほうに代講を立てなければならなくなるためです。今シーズンも、きのうから始まっています。

7月期は初級文法で、今学期は中上級の文法です。そうはいっても、私の文法の講義は、例えば「みんなの日本語」の範囲が初級だとか、N1の文法項目だから上級だとかという分け方ではありません。最初に教えるのは初級でも中上級になっても間違える文法とか、中上級では取り上げ方を変える項目とか、文法を語用論的に考えてみるとかしています。初級からの連続性と、日本語をコミュニケーションのツールとして考えた場合の位置づけに力点を置いています。

語用論では、日本人にとっては自明のことでも外国人にとっては意味不明のことを分析していくこともあります。また、授受表現や指示詞や受身・使役の高度な使い方など、上級の学習者が最後まで間違えることも取り上げています。私の講義では、学習者への教え方はやりませんが、教えるべきポイントは取り上げます。

午前中はそんな感じでパキパキ授業をしたのですが、午後、上級の期末テストの採点になると、勢いが衰えてしまいました。養成講座で訴えたことが、そのまま自分に跳ね返ってきたかのようでした。学期を通して学生たちに訴えたかったこと、できるようになってほしかったことが、一部の優秀な学生を除いて、からっきしだったのです。会話テストでとっさに言葉が出てこなかったのならわからなくもありませんが、学生たちの得意なペーパーテストでこれだと、少々頭が痛いです。理解が表層にも達していないおそれがあります。

この学生たちが卒業するまでに、どのように鍛えていけばいいでしょうか。宿題が重くのしかかります。