Category Archives: 進学

追い込まれて

1月13日(水)

年が明けてから、まだ進学が決まっていない学生が急に焦りだしました。こちらが口が酸っぱくなるほど志望校のランクを落とせと言ってきたのに聞く耳を持たなかった学生たちが、青菜に塩みたいな顔で相談を持ち掛けてきます。ついこの前まで進学準備は自分でやるから干渉するなと言わんばかりの態度でしたが、今や無条件降伏状態です。もはや、プライドも何もありません。

進学指導の教師は、かかりつけ医的な面があります。ずっと健康状態を見てきて、カルテも内容が充実していて、お互いの間に信頼関係があれば、的確なアドバイスもできます。うるさいほど相談に来る学生には、こちらもかかりつけ医になれます。しかし、我が道を行っていた学生に突然来られても、これまでの状況把握から始めますから、一見さん扱いといったところでしょう。

だれにも頼らずに生きていける人なんて、世の中にほとんどいません。また、頼るべき人を間違えて取り返しつつかないことになった例は、枚挙にいとまがありません。毎年のことですが、この時期になると、もっと早く相談してくれたらと苦い顔をしてしまう日が続きます。今シーズンは、これまでにない特殊な受験環境でしたから、とにかく先手必勝と訴え続けてきました。しかし、それが伝わらなかったんですねえ。

いや、伝わった学生もいます。そういう学生は、今、緊急事態宣言でどこへも行けないのが残念だなどと、余裕をかましています。Ⅱ期やⅢ期で同じ大学を受けようとしている学生に、面接の手ほどきをしてあげようなどと言っている学生もいます。

信ずるものは救われる…としたいものです。

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危機感

1月7日(木)

GさんはすでにN大学、K大学を受験し、今週末にM大学の試験を控えています。3大学とも、合格発表は来週から再来週にかけてです。それ以外の大学は出願もしていませんから、全滅だったらどうするのかと聞いたところ、自分のEJUの成績で受かりそうな国立大学に出願すると言います。

Gさんは真面目な学生なのですが、のんきだというか、要領が悪いというか、動きが鈍い面があります。本当はT大学にも出願するはずでしたが、「必着」に間に合わずに受け付けてもらえませんでした。国立出願にしても、Gさんが行きたいと思っていたS大学は、昨年のうちに出願締切でした。Gさんが出願締切日だと思っていたのは、入学手続き締切日でした。

これは危ないと思い、M大学の面接練習よりも先に、国立大学はどこに出願するかという進学相談をしました。Gさんは東京か東京に近いところの大学がいいと言っていましたが、何が何でもそれにこだわっているわけでもありません。GさんのEJUの成績をもとに、そういうことを加味して、これから出願できる国立大学をいくつか選びました。あとは、Gさんが自分で詳しく調べて、最終決定します。

そもそも、GさんはN大学、K大学、M大学のどこかに受かるつもりでいます。うわさで知ったK大学の合格最低点が自分のEJUの点数よりも低いことから、妙な自信を持っています。ですから、その3大学の不合格最高点を示して危機感をあおり立て、他の大学への出願を本気で考えさせました。M大学の試験が終わったら、本当の意味でのすべり止めを考えさせて、出願に結び付けなければなりません。まだまだ先が長いです。

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ある退学

12月22日(火)

毎学期、期末テストを限りに学校を辞める学生がいますが、今学期はRさんもその1人となりました。表向きはコロナの感染者が増えてきたからということになっていますが、実情は進学をあきらめたからです。

実は、昨日、EJUの成績をもらった後、私のところへ相談に来ました。日本語の成績が思わしくなく、Rさんが考えていた国立大学に手が届きそうもありません。他の科目も、日本語の成績が同じくらいの受験生に比べればよく取れていますが、どんな学生と比べても抜群に素晴らしいかといえば、そんなことはありません。Rさんの持ち点でどうにか勝負できそうな大学名をいくつか挙げたところ、考えてみますとのことでした。そして、一晩考えた結果が、退学だったというわけです。

言っても詮無いことですが、6月のEJUが中止になったのが痛かったです。そこで痛い目に遭って軌道修正ができていれば、どうにか希望がつながったかもしれません。目標への道のりのどの辺まで来たかつかめず、このままでいいのだろうかという気持ちもあったことでしょう。そのせいでしょうか、6月以降、Rさんは焦りが目立ち、精神的にきつかったようです。私たちも力になろうとしましたが、Rさんに必要だったのは、家族の力だったようです。少々前ですが、そういう意味のことをぽろっと漏らしていました。

Rさんは国で進学するようですが、形の上では2浪です。辛い選択だったに違いありません。「外国での生活の経験を生かして…」などと口で言うのはたやすいですが、その生かし方もよくわからないのではないでしょうか。私の手を離れてしまったら、私には祈ることしかできません。でも、精一杯、Rさんに幸あれとお祈りします。

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休みだけど

12月21日(月)

昼(といってもかなり夕方に近かったですが)に外に出ると、門松が据えられていました。なんだかわけのわからないうちに2020年が暮れようとしていますが、新しい年が近いんだなあと思いました。

明日は期末テストで、その後、学生たちは休みに突入します。その前に進学クラスの学生の気持ちを引き締めてほしいと頼まれました。そのクラスはまだ行き先が決まっていない学生がほとんどで、正月休み返上でどうにかしないと、卒業式が来てもどうにもなっていないかもしれません。

「楽あれば苦あり、苦あれば楽あり」です。今楽しんでしまうと、後で苦しくなります。今は苦しくても、後で楽しい時が必ず来るものです。そういう思いを学生たちに訴えました。

盛んにうなずいている学生もいれば、線がつながっているとは思えないような顔つきの学生もいました。でも、ここで楽に走ってしまうと、卒業式には別の意味で涙を流さなければならなくなります。旧正月を祝う習慣の学生たちには、1月1日の正月返上はさほどでもないでしょう。だから、ここで精いっぱい踏ん張って、自分たちの正月を心から祝えるようにしてもらいたいです。その時期にも決まっていなかったら、もちろん、旧正月もへったくれもありません。日本人の受験生だって元日から勉強するのですから、留学生も負けてはいけません。

週末に届いたEJUの成績を渡しました。毎度のことながら、悲喜こもごもです。今シーズンはここにきて独自試験を中止する大学が出てきています。“悲”の学生をどうフォローしていくか、私たち教師も、“苦”がしばらく続きます。

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2つの志望理由

12月17日(木)

朝一番で、SさんのT大学の志望理由書がメールで届きました。読んでみると、先週あたり添削したU大学の志望理由書と内容がずいぶん違います。勉強したいことが全然違うのです。どの大学も全く同じ志望理由書というのも芸がありませんが、大学ごとにやりたいことがそれぞれ違うというのも困りものです。

どうやら、T大学とU大学の入りやすい学部学科を狙っているようなのです。こういうのを「嘘も方便」というのかどうかわかりませんが、なんだかデータに振り回されているような気がします。いや、データというほど客観的ではなく、噂を信じて右往左往しているというのが実情かもしれません。

受験は他の受験生との戦いです。だから、戦略的に動くことも必要です。国立大学の一斉試験日にどこを受けるかなどは、その選択が明暗を分けることだってあります。Ⅰ期とⅡ期の試験日程がある場合、Ⅰ期のほうが入りやすいことは広く知られています。こういう選択の場面でどちらを選ぶか戦略だと思います。

「受かりやすい」が第一の理由で受験校・学部・学科を決めるのは、戦略の範疇には入らないのではないでしょうか。そこに自分がなさすぎます。大学で何を学ぶかによって、その人の人生が決まることだってあります。「入れそう」だけで志望校を決めたら、一生悔いを残すことだってあるでしょう。

でも、今のSさんにこういう意見は響かないに違いありません。弱気の虫に取りつかれ、ごく狭い範囲しか見えなくなっています。焦りが前面に出ていて、冷静さが失われています。教師とはしては、一番指導が難しい場面です。T大学とU大学の志望理由が、Sさんの頭の中では1本筋が通っていることを祈りましょう。

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覚悟はよろしいか

12月16日(水)

進学コースの新入生に対して、来学期の受験講座のオリエンテーションをしました。今学期は新入生が来たおかげで、久しぶりに午後の教室がにぎやかになりました。来日し授業を受け始めた時期がばらばらだったため、今までは受験講座がありませんでしたが、来学期は早々に再開する予定です。そのためのオリエンテーションを行ったというわけです。

今学期まで受験講座を受けていた学生たちは、みんな卒業・進学しますから、来学期からの受験講座はメンバーが完全に新しくなります。先輩がいない状態で講座が始まります。新しい学生たちは、先輩の体験談を聞いたり、奮闘ぶりを間近に見たりするチャンスがないので、その点はちょっと気の毒です。

でも、何より気の毒なのは、新入生たちは時間がないことです。全員22年3月に卒業ですから、それまでに進学先を確保しなければなりません。今、レベル1の学生は、来年6月のEJUの時にせいぜいレベル3です。その日本語力で高得点を挙げるのは、至難の業です。それでも夏以降の入試に立ち向かうことが求めなれるのです。入試の際の面接では、日本語で面接官とコミュニケーションを取らなければなりません。

私が担当する理科を取りたいという学生も数名いました。1月から6月までのわずかな期間で実力を付けさせるにはどうしたらいいでしょう。私の目の前でオリエンテーションを聞いている学生たちの顔を見ながら、そんなことも考えていました。こちらも腹をくくりますが、学生たちにも相当な覚悟を求めることになりそうです。

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2年ぶりぐらいかな

12月11日(金)

久しぶりにレベル1の授業に入りました。待機期間明けの新入生がぽつりぽつりと来始め、レベル1のクラスを増やすにあたり、私も駆り出されたという次第です。

今学期の新入生は、日本の入国制限によってなかなか日本へ来られず、散々じらされた挙句にホテルに来日後2週間も監禁され、どうにかこうにかKCPの教室にたどり着いたという学生たちです。そのためなのか、勉強しようという意欲は今までの新入生よりも強いと感じました。途中の休憩時間には、今までの勉強で疑問に思っていた事柄を、一斉に質問してきた感がありました。日本語の勉強に飢えていたんだなあと思いました。

生の日本語が聞ける楽しみもあるのでしょうか。発音練習、リピート、コーラスもまじめにやっていました。でも、耳が遅れていること、口が回っていないことは覆うべくもなく、発音のやり直しや、私が学生の言葉が聞き取れずに聞き返す場面も少なくありませんでした。

何でも吸収しようとする、教師にとっていい学生たちではありますが、実力の絶対値は知れたものです。大学進学希望の学生たちは、来年の6月、まだ初級の段階でEJUを受けなければなりません、その成績を持ち点として、来年の今頃ぐらいまでの入試を戦うのです。なんともつらいものがあります。

他の日本語学校も似たりよったりだとすると、存外、日本語力の伸び代を高く評価してもらえて、今私が考えているよりも好ましい結果が得られるかもしれません。来週は、来学期の受験講座の説明会があります。この教室の学生たちも参加します。

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難題

12月9日(水)

午後から進学関係のお仕事が2件。まずはJさん。高校の時から有機化学が好きなので、大学でも有機化学を勉強したいといいます。でも、有機化学のどの分野を勉強すればいいですかという、何をいまさらという感じの困った相談です。大学院に進学して日本で就職したいそうですが、そういう外枠しか決まっていません。「先生のおすすめは何ですか」と聞かれましたが、居酒屋のメニューを決めるノリで将来を決めちゃいけません。

とはいえ、自分で考えろと突き放したら、Jさんは何もできないでしょう。ですから、有機化学の範囲で、研究対象としてこれから有望そうな分野をいくつか挙げました。そこから先は、自分の国のサイトでいいからよく調べて、勉強の方向性を決めるように指示しました。そうしてやっと、面接対策のスタートラインに立てるのです。

次はZさんの面接練習。出願した大学の面接試験がオンラインに変更されたので、zoomを使っての面接練習です。オンラインで、授業はもう何回もしましたが、面接練習は私も初めてです。やってみると、視線を合わせにくいので、やりにくかったです。対面だと、面接官の目を見て話せとか顔全体に視線を注げとか指導しますが、カメラ越しだと、本人の意図には無関係に、カメラの位置によっていかにも目をそらしたようになってしまいます。また、照明の当たり具合によって、暗い顔つきに映ってしまうこともあります。

これらは本質的なことではありませんが、面接官に与える印象はおろそかにできません。ボーダーライン上なら、そのわずかな差が天国と地獄の分かれ道となります。考慮しなければならないファクターが増えて受験生には気の毒ですが、嘆いているだけでは明るい未来は開けません。

対面の面接練習なら、気づきをメモして渡すこともありますが、オンラインはそういうわけにもいきません。Jさんには、メールでフィードバックしておきました。

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妥協できる?

12月2日(水)

まだどこにも受かっていないYさんが、滑り止めをどこにしたらいいか相談に来ました。今までに出願したところ、出願準備を進めているところは、すべて有名大学であり、たやすく入れるレベルではありません。明らかにYさんの憧れに沿った志望校です。もっと言ってしまうと、それ以外の大学を知らないのかもしれません。

11月のEJUはどうだったかと聞くと、各科目、不正解は3問だけですとか、2問しか間違えませんでしたとかという答えが返ってきました。そもそも、EJUの問題は持ち帰り厳禁ですから、通常の方法では正解不正解はわかりません。受験生が問題と答えを覚えてくるなど、不正を働かずに正解集が作れたとして、それがどこまで確かなものかはわかりません。それをもとに落としたのが何問だとかという議論をしても、そこにはかなりの誤差が含まれると考えるべきです。

しかも滑り止め校を決めるといいますから、Yさんの点数を低めに査定しました。今まで、「間違えたのは読解と聴読解1問ずつです」とか言っていた学生の実際の成績が280点だったなどという例をいくつも見てきました。日ごろの授業のYさんを見ていても、超素晴らしい点数は期待しない方が無難です。でも、私が口にした点数は、大いに不満足のようでした。

要するに、Yさんにとって一番望ましい答えは、今までにYさんが考えてきた大学の中に滑り止め校に相当するところがあるということなのです。しかし、私の見立てでは全滅のおそれもあります。滑り止めと言いつつこちらが本命となるだろうなあと思いながら、数校名前を挙げました。名前だけではそちらに気持ちが向かないでしょうから、就職とか大学院進学とか、少し先のことを考えさせました。その時に、これらの大学はYさんが考えてきた大学と比べて遜色がないという方向に話を持って行き、納得してもらいました。

毎年、妙にプライドが高い学生がいます。そういう学生が卒業式間際になって尾羽打ち枯らして相談に来ることを思えば、Yさんは現実的です。私が挙げた大学を、自分でも調べてみると言って帰りました。

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それが理由ですか

12月1日(火)

月が改まると、前の月の出席率が悪かった学生に欠席理由書を書かせます。これは、学生指導の面もありますが、入管への提出書類にもなり得る、重い意味を持った書類です。

私も上級クラスでこれを書かせました。Hさんは、遅刻・欠席はすべて寝坊と書きました。ここまで開き直られてしまうと、逆に言葉を失ってしまいます。12月は出席率100%で終わらせると誓いを立てましたが、具体的にはどうするのでしょう。どのように生活を立て直すかが運命の分かれ目です。

Mさんは昼夜逆転の生活を送っているようです。昨日の晩たまたま12時に寝たので、今朝8時の目が覚め、遅刻せずに学校へ来られたと言います。4時ごろ寝る日が多いとか。4時と言えば、私はもう眼を覚ましています。Mさんも生活習慣を改める必要があります。

DさんとJさんは、EJUが終わって緊張感がなくなってしまったと言います。EJUがゴールではなく、面接などの大学独自試験を受け、合格して初めてゴールです。いいや、入学し、勉強を進め、目標としていた知識や技術や能力を身に付けた時点で、やっと留学の最終到達点でしょう。就職してからのことは取りあえずおいておくとしても、EJUは通過点に過ぎませんから、そこで安心してもらっては困ります。こちらは精神の立て直しが不可欠ですから、HさんやMさんのような生活立て直し組より重症かもしれません。

みんな、今年は一時帰国をして一息つくということもできず、心身の疲れがたまっているに違いありません。でも、行き先が決まっていない以上、まだ気を緩めることはできません。ここで気を抜いたら、自分の将来を狭めることになります。人生には何回か無理をしなければならないときがあります。学生たちにとっては、それが今なのです。

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