Category Archives: 進学

12月6日(木)

授業後、Hさんに呼び止められました。

「先生、2月の旧正月に一時帰国したいんですが、いいですか。久しぶりに家族が集まるので親が帰って来いって言うんです」「Hさんは推薦入学で合格したんですよねえ。推薦入学の学生は気安く欠席しちゃいけないんですよ」「私も最近帰っていないから…」「その推薦入学だって、出席率の基準をぎりぎりクリアしていただけでしたよね。このごろ風邪で休んでいますから、今はもう基準以下かもしれませんね」「でもこれ以外は毎日必ず来ますから…」「来るだけじゃ意味がありません。中間テストの成績はいったい何なんですか。あれが推薦入学の学生の成績ですか。成績優秀な学生を推薦するんです。期末テストだってよほど勉強しない限る合格点は取れないでしょうね。2月にそんなに休んだら、卒業認定試験で合格点が取れないと思います」「卒業まで頑張りますから…」「口ではいくらでも言えます。それが本当に実行できるかです」「はい、大丈夫です」「全然大丈夫じゃないと思います。もう一度考え直してください」

Hさんの現状は、どう見ても推薦入学の学生像から外れています。Hさんには言いませんでしたが、合格させてくださった大学に頭を下げて、推薦を取り下げようとすら思っています。Hさんは遊びまくろうとまでは思っていないでしょうが、気が緩んでいることは確かです。一時帰国に関して、きちんと断りを入れてきたことは認めますが、それで「はいわかりました」とは、絶対に言えません。

推薦入学で進学を決めた学生が、その期待を裏切る振る舞いをするのはよくあることですが、よくあることで済ますわけにはいきません。さて、Hさんにはどう対処しましょうか…。

勉強しなければなりません

12月4日(火)

午前の授業後、学生面接。Rさんは、塾の先生にMARCHぐらいは入れると言われ、次々受けましたが連敗中です。滑り止めのP大学には受かりましたが、本心はあまり行きたくないようです。関関同立も受けますが、予断を許しません。文科省の都内の大学に対する定員厳格化の波をもろにかぶっている例です。

Rさんは授業中のやり取りなどを聞いていると、地頭はいいことはよくわかります。しかし、その地頭のよさを生かしきれているかというと、全然生かしていません。EJUの後は家でごろごろしていることが多いなどという話を本人の口から聞くと、油断というか危機感のなさというか、受験生らしい緊張感が感じられません。定員厳格化によって、こういう中途半端な気持ちの学生が弾き飛ばされるのだとしたら、それもまた副産物の1つです。

HさんはRさんに比べるとずっとやりたいことが明確で、それが勉強できる大学を全国規模で選んでいます。その点はいいのですが、HさんもまたEJUの後、気が抜けた状態です。今は、国立大学をどこにするかに頭を悩ませています。EJUの成績が届くまでは、勉強も手につかないようです。

この2人は、なんだかんだと言いながらも学校へ出てきていますから、まだましなほうです。引きこもってしまったりこっそり遊びに行ってしまったりという話も耳に入ってきます。受験が激化すると、試験の合間にはこうした目標を見失ってしまう学生が増えてくるのかもしれません。

午後は、久しぶりにレベル1の代講でした。“なければなりません”の導入と練習でした。「レベル1で一番発音が難しい言葉は何ですか」「???」「『あたかかったです』です」(教室のあちこちで「あたたかかったです」と小声で発音練習)「『なければなりません』は、その次に難しいです」なんてやりながら大声を出していたら、面接のもやもやは吹き飛んでしまいました。

遅い報告

11月26日(月)

授業が終わるとBさんが駆け寄ってきて、「ご報告したいことがあります」と神妙な顔つきで話しかけてきました。「何ですか」「先生、C大学に合格しました」「おめでとう」…という具合で喜ばしい報告でした。

しかし、C大学の合格発表は先週の前半でした。ずっと何も言ってこなかったので、“落ちて恥ずかしくていえないのだろうか”とも思いました。普通の学生は、受かったら欣喜雀躍として報告に来るものですから。でも、Bさんは、性格的に、もし落ちたらすぐ次をどうするか相談に来るはずだから、何も言ってこないということはきっと受かっているんだろうとも思っていました。

困ったのはKさんです。高望みばかりしていて、EJUの成績などから見てほぼ絶望的なT大学を受験することにしています。しかも、滑り止めなしです。次の大学はT大学に落ちてから決めると豪語しています。普段から勉強しているならまだしも、遊んでばかりのくせして、この強気はいったいどこから出てくるのでしょう。

対照的なのはJさんです。第一志望のG大学の発表を明日に控え、ダメだった場合に備えてN大学の出願書類の準備を始めました。何が何でも日本で大学に進学するんだという強い意志があります。でもKさんとは違っていたって慎重です。N大学以外にも二の矢、三の矢を番えている様子です。

夕方からは2020年進学を目指す学生たち相手の受験講座。こちらはまだ具体的にどこの大学という声は上がっていません。あこがれレベルです。でも、そこに至るまでにどんな山坂が待ち構えているかは、少しずつ見えてきているようです。第二のKさんだけは生み出さないようにしなければと思っています。

さすが×3

11月16日(金)

中間テストが終わったとたん、面接練習やら志望理由書の添削やらで、てんてこ舞いでした。

まず、Lさんの面接練習。前回、質問に対する回答が、「貴校にはいい先生がたくさんいらっしゃいますから」など、誰でも答えられる内容だと指摘しました。今回はきちんと練り上げて、具体的な内容、他の受験生は答えられない答え方になっていました。もちろん、文法や語彙の誤りはありましたが、日本語教師ではなくても理解可能な範囲でしたから、あまりねちこち注意するのはやめました。さすが3回目、順調な仕上がりです。あさっての本番では、緊張せずに力を出し切ってもらいたいです。

続いてMさんの志望理由書添削です。一読して、なんだかすごく上手に書けているように思いました。だって、意味がすんなり頭に入ってきたのですから。火曜日に中級の小論文クラスの中間テストがあり、それを毎日読んでいるのですが、二読三読してももやが晴れない文章が多いのです。ですから、流し読みで言いたいことがすっとわかるMさんの志望理由書が輝いて見えてしまうのです。さすが、超級です。でも、よく読むと、「っ」が抜けているなんていう基礎的なミスから、修飾関係を入れ換えたほうが文意が通りやすくなるなどという高度なものまで、いくつか改善点が発見されました。内容的には問題がなく、こちらはそのまま清書して出願となるでしょう。

T先生とS先生の学生が出願書類の作成に呻吟しているところに、今年2人の志望校に入ったHさんが、実にタイミングよく来ました。挨拶もそこそこに2人の出願の面倒を見てもらうと、さすが経験者だけあって、適切な指示を出してくれました。多忙な両先生、大いに助かっています。書類の指導が終わると、受験の心構えも話してくれました。進学して半年あまりで、ずいぶん成長したものです。今、感心しながら耳を傾けている2人の学生も、来年の今頃は感心させるほうに回っているのでしょうか。

合格報告

11月9日(金)

Mさんが入学したのは今年の4月でした。国で日本語を勉強してきたのにプレースメントテストでレベル1に判定されたのが少し不満そうでした。ひらがなの読み書きから始めるクラスで、自分はこんなクラスにいるべき学生じゃないんだとばかりに、難しい文法(と言ってもレベル2で勉強するくらいの文法ですが)を盛んに使っていました。

お昼過ぎ、そのMさんが「先生、これ、見てください」と、スマホを差し出して見せてくれたのが、S大学の大学院の合格通知でした。レベル1の時からずっとそこに行きたいと言っていて、言うだけではなく着実に準備を進め、見事に初志貫徹したのです。やるべきことはきちんとやってきたのですから、当然の結果かもしれません。

T先生は「そうやって前にお世話になった先生のところにきちんと報告に来るような人だから合格したんですよ」とおっしゃっていました。確かにその通りで、必要なことを計画的にしてきたことがうかがわれます。また、そういうMさんなら、大学院進学が決まったからこれから卒業まで遊びまくるというのではなく、残された4か月ほどの間に可能な限り日本語力をつけて、進学先で日本語で困ることがないようにしていくでしょう。

それに比べて、私が受け持っている最上級クラスは、こっそり受かっている学生が続出で、噂を聞きつけて昨日聞き取り調査をしたら、Jさんなど2校も受かっていました。Jさんは、Mさんより日本語はできますが、進学してからそこの社会・コミュニティーに溶け込めるでしょうか。若干不安を覚えます。

これからとこれまで

11月8日(木)

初級の学生向けの受験講座は2本立てです。11月のEJUを受ける学生がいますから、無理を承知で過去問をしています。その過去問の解説を通して、物理や化学や生物の基本事項を教えていきます。日本語を読む力がまだまだですから、問題文を読むのに上級の学生の3倍ぐらいかかってしまいます。ですから、今度の日曜日の本番でも、彼らが思い描いている大学に手が届くほどの得点は挙げられないでしょう。今回はどのくらい難しかったか、時間が足りなかったか、できなかったか、緊張するか、母国の入試と雰囲気が違うかなどが実感できれば十分です。

その代わり、来年の6月が勝負の試験です。来週の受験講座からは、それに向けて体系的に勉強していきます。断片的な知識の堆積ではなく、日本語による脳内の理科ネットワークの構築を目指します。国で勉強してきたこともベースにして、“一を知って十を知る”みたいな頭になったら、実力が飛躍的に伸びます。今は私の日本語が苦しいでしょうが、ここを我慢すれば、進学してから日本語で勉強や研究ができる思考回路が築けるのです。

上級の学生向けの受験講座は、今週が最終回です。1年以上も私の授業に付き合ってくれた学生たちには、同志に似た感情すら生まれます。私には、もう、学生たちの健闘を祈ることしかできません。毎度のこととはいえ、気体と不安がない交ぜになったこの気持ちは、達成感とも自分自身の力不足を嘆くのとも違う、何とも形容のしようがないものです。

来週からは、受験講座をしていた時間に面接練習がバンバン入りそうです。

どこでもいい

11月5日(月)

受験講座の後、Lさんから絶対に合格できる大学はないかと聞かれました。LさんはすでにT大学に出願しています。また、以前、T大学以外にもいくつかの大学を紹介しています。その中から何校か出願するようですが、それだけでは不安なので、さらに安全確実な大学が知りたいということです。

Lさんは去年の1月に入学した学生ですから、今年の12月に卒業で、それまでにどこかに合格を決めなければなりません。年を越して受験することは認められません。そのため、焦っているのです。学部学科はどうでもいいから、とにかく受かる大学をと言い出す始末です。

最近、入管の指導が厳しくなり、1月入学生は翌年の12月に確実に出国しなければなりません。ですから、事実上、その後が受験日となる国立大学は受験できません。進学するなら、1年3か月で日本語学校を終えるようにという考えです。KCPはこの入管の考えに沿って学生を指導していますから、Lさんは、国立大学はきっぱりあきらめ、11月のEJUも受けず、6月の成績で合否が決まる年内に発表がある大学に照準を合わせています。

こういう入管の方針が、国外でどうもあまり理解されていないきらいがあります。入管も日本語学校のいろいろな方法で伝えてはいますが、周知徹底という段階には至っていません。1年3か月で進学しようと思ったら、1月に入学する学生は、中級ぐらいの日本語力をつけている必要があります。ところが実情はそうじゃないんですねえ。

ぼやいたところで規則は変わりません。Lさんを始めとする学生たちに、規則を守って後ろめたいところのない形で卒業進学させるのが、私たちの役目です。

お先真っ暗?

10月30日(火)

火曜日の選択授業は作文です先学期は初級クラスの作文を担当しましたが、今学期は中級クラスの小論文です。まだ小論文の基礎段階の学生たちですから、意見をまとめやすいテーマを選びました。

授業後、早速読んでみると、さすが中級、先学期の初級の作文に比べると、格段にすらすら読めます。もちろん、文法や語彙の誤りはありますが、何回読んでもいっこうに意味がつかめないという“作品”はありませんでした。

…といきたいところだったのですが、4人目ぐらいから雲行きが怪しくなり、8人目ぐらいは土砂降り状態でした。習った文法や語彙をどんどん使えと言ったのが裏目に出て、難しい表現を無理やり使おうとしたあげく、意味不明の文を産出している学生が続出しました。初級よりも文章が長い分だけたちが悪いとも言えます。

小論文ですから論理性を重視しているのですが、その論理に飛躍があり、私が置いてけぼりを食らったり、接続詞がいい加減でわけがわからなくなったり、段落の途中で話が急に変わってしまったりなど、“読解”を思う存分させていただきました。テーマとはまるで関係ない結論を出していた学生もいました。

この学生たちがこれから小論文試験のある大学を受けるのかと思うと、頭を抱えたくなります。EJUの記述はどうにか切り抜けられても、単にいい悪いとか好き嫌いではなく、社会性や論理性が求められる文章にはどう対応させていけばいいでしょうか。何とか合格したとしても、大学に入ってからのレポートはどうするのでしょうか。どうしようもない文章を書いていたTさんも、進学してから文章を書くのに非常に苦労したと言っていました。このクラスの学生の何名かはそういう道を歩むのでしょうね。

初めての志望理由書

10月29日(月)

朝、パソコンを立ち上げると、Hさんからのメールが来ていました。先週、K大学の志望理由書を見てもらいたいと言っていましたから、それが届いたのです。早速中を見てみると、文法や語彙の間違いはほとんどないのですが、書いてあることが一貫していません。前半と中盤と後半で、将来設計が微妙に違うのです。このままでは、何のためにK大学に入ろうと思っているのかわからないとされてもしかたがありません。

Hさんは先学期の新入生で、志望理由書を書くのも今回が初めてです。だから、いきなり上手な志望理由書が書けなかったとしてもしかたがありません。1年近く練習しても意味不明の志望理由書を書き続ける学生が山ほどいました。そういう人たちに比べれば、スタート地点がグッと高いと言えます。

調べてみると、K大学の出願締め切りは来月の半ば過ぎです。今から文章を練り上げていけば、立派な志望理由書になるに違いありません。また、その過程で自分自身がなぜK大学を目指すのか、K大学で勉強する意義を見つめ直すこともできるでしょう。そして、K大学がさらにもっと好きになることができたら、合格の可能性が上がることは疑いありません。

Hさんの場合、日本語の基本の部分がしっかりしていますから、「何も考えずにこれを書き写せ」などという強引な指導をする必要はありません。Hさん自身の言葉で志望理由を語ることができます。これは非常に大きな点で、意味不明な文章を書く学生は自分の思いを日本語で表現できないことが多いのです。私がどんなに感度を上げてその学生の気持ちになろうとしても、ギャップを完全に埋めることはできません。最初に述べた将来設計の部分さえきちんと書ければ、K大学の先生の心をつかむこともできるでしょう。

授業前に添削して返信しておきました。あさってあたりに第2弾が届くのではないかと期待しています。

郵便物

10月26日(金)

このところ毎日、どこかの大学から入学案内が届きます。私は、商売柄、大学の名前には詳しいほうだと思いますが、それでも知らない名前もあります。大学側は、日本語学校の一覧表か何かを見ながら機械的に発送しているのでしょう。入学案内を見て、1人でも受験し合格し入学したら、入学案内の作成・発送などにかかわる費用は元が取れてしまうのだと思います。

知っている大学なら、その大学について学生に語ることもできます。しかし、中身を知らない大学については、たとえ大学案内を見ても、語りようがありません。せいぜい大学の所在地についてあれこれ言うのが関の山です。これでは、KCPから受験者が現れるとは思えません。いただいたパンフレットに目を通して勉強できればいいのですが、今の私にはその時間がありませんから、私は学生を押す力にはなれません。

大学から担当者が来てくださると、様子ががらりと変わります。その大学の真のウリが見えてくるし、面と向かって話せば情も湧くし、その大学に対する親近感が全然違ってきます。条件の合いそうな学生に対して、その大学を推したくもなります。つまり、私がその大学の営業マンになったようなものです。もちろん、大学の担当者に会えば自動的に営業マンになるわけではありません。やっぱり、その人から何かを感じなければ心は動きません。

現在、日本には大学が768校あるそうです。この768校が減りつつある日本の高校生を奪い合い、優秀な留学生を確保すべく戦っています。その戦場の十字路にいると、勝ち残りそうなところとそうでもないところとが、戦いの砂塵の合間からぼんやり見えてきます。