Category Archives: 進学

受かったよかった  

10月11日(水)

今学期の水曜日は、事実上先学期からの持ち上がりのクラスです。2/3ぐらいが先学期私のクラスだった学生で、それ以外に顔と名前を知っている学生が何名かいて、まるっきり初顔合わせは新入生のAさんはじめ、片手ほどの数でした。授業中盛んに指名して、覚えてしまいました。

持ち上がり組のSさんは、学期休み中に受験がありました。授業直後の1時に合格発表ということで落ち着きがないかと思いきや、先学期のSさんからは想像もつかないくらい積極的に質問してきました。先学期は受験のことで頭がいっぱいで、授業どころでなかったのでしょう。

一方でHさんは、これから大学院の受験を控えています。明るくしゃべってはいますが、内心はかなり焦りを感じています。試験対策に打ち込みたいから楽なレベルに入りたいと思っていたそうですが、下のレベルから飛び級でこのクラスに入りました。このクラスは難しいと言いつつも、誇らしげな表情もチラッと見せていました。Hさんが狙っている大学院はレベルが高いですから、KCPにいるうちに可能な限り高度な日本語を身に付けておいてもらいたいです。そういう意味からも、引っ張り上げたわけです。

授業後、数学の質問に来たPさんに対応したり、クラスで書かせた例文の添削をしたりしていると、Sさんからメールが届きました。合格通知が張り付けてありました。よかった、よかった。

さらに仕事をしていると、私目当ての卒業生が来ていると呼び出されました。この3月に卒業したLさんでした。KCP時代のLさんは、大学進学を目指していたものの、教師の注意に全く耳を貸さず、昼夜逆転した生活を送り、自分自身が何を目指しているかわからなくなっていたきらいがありました。当然受験校すべて不合格で、どうにか拾ってくれた学校に進学しました。

そのLさんが、憑き物が落ちたようなすっきりした顔立ちで、受付に立っていました。「先生、G大学に合格しました」と報告に来てくれたのです。学部学科を聞くと、G大学の中でも最難関と言ってもいいところで、競争率も6倍だったそうです。

去年の今頃は、半分けんか腰でかなり厳しいことも言いましたから、恨まれてもおかしくなかったのですが、わざわざ合格報告に来てくれました。1年たってようやく私たちの言っていたことを理解してくれたのでしょうか。Sさんも一歩間違えば第2のLさんになりかねないような勢いでした。どうにか踏みとどまってくれたので、一安心です。明るく外交的なHさんはそういう方面に進まないでしょうが、注意して見ていきましょう。

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リモート

10月4日(水)

KさんがR大学の志望理由書を書いたので見てくれと送ってきました。初稿は、意気込みは買えますがそこ止まりという感じで、最初と最後で書かれていることが微妙に食い違っていました。そういう点を細かくチェックして送り返すと、第二稿が届きました。日本人の友だちに見てもらったそうで、文章が整っていました。しかし、手垢のついた表現が目立ち、これではR大学の先生の記憶に残る志望理由書にはならないでしょう。

そこに手を入れた第三稿が送られてきました。だいぶよくなりました。でも、欲を言うと、R大学のネットのページなど、関連資料を読み込んで書いた文章とは思えません。R大学の試験官、面接官の先生方に訴える力を強めるには、資料を読んで、それに基づいてR大学で何を学び、どのように成長したいか、といったあたりを書く必要があるでしょう。そういったコメントを返信し次を待っているのが、今の私の状況です。

そんな面倒くさいことをするくらいなら、学生を呼び出せばいいじゃなかとお考えになるかもしれませんが、Kさんは一時帰国中です。海外にいる学生に志望理由書の指導ができるのですから、便利な世の中になったものです。出願もすべてオンラインでできたらさらにありがたいのですが、そこまでには至っていないようで、Kさんは日本に戻ったら、速攻で出願することになっています。

朝、Oさんも出願の最終チェックに来ていました。担任のM先生たちが寄ってたかって指示を出していました。お昼ごろラウンジで会ったら、自慢げに「出願は終わりました」なんて言っていました。午後はS大学の留学生担当の方が留学生入試の説明に。10月期は、入試本番の学期です。

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書類不備

9月27日(水)

O先生のところにJさんから電話がかかってきました。Jさんは先月末にK大学に出願しましたが、K大学から受験料を返すというメールが届きました。そのメールについてO先生に聞こうと電話を掛けたのです。O先生が席を外していたので、A先生が対応しました。

A先生がいろいろ聞き出すと、K大学は、Jさんの書類に不備あるので受理できず、したがって受験もできないので、受験料を返還するということのようでした。Jさんはそのメールの内容が理解できず、学校に電話を掛けたという次第です。

K大学に出願したJさんの友だちにはK大学から連絡が来て、足りない書類を追加で送ったりした人もいたそうです。でも、Jさんは締め切り日ぎりぎりに出願したので、K大学の書類チェックが遅れたのでしょう。

「願書をK大学に送る前に先生に見てもらいましたか」「はい」。O先生がチェックしたのにこのざまだとしたら、大問題です。「O先生に?」「いいえ、塾の先生に」。ということで、Jさんは担任のO先生をスルーして塾の先生に最終チェックをしてもらったのですが、結果的に書類不備のまま送ってしまったのです。

出願の時には塾を頼るのに、問題が発生するとこちらに持ち込みます。学生によくあるパターンです。塾の先生は国の言葉を話しますから、学生にとっては相談しやすいです。しかし、学生の進路に関して最終的な責任を持つのは、日本語学校です。責任を持つからには、学生にもすべての情報をこちらに回してもらいたいものです。

それはともかく、K大学からのメールも持て余しているようだとしたら、たとえK大学を受験しても受からなかったでしょう。むしろ、受験料を返してもらってラッキーと思わなければならないかもしれません。

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のんびり屋

9月22日(金)

昨日のこの稿に取り上げたJさんが、授業後にやって来ました。私宛にメールを送ったのですが、アドレスが間違っていたようです。

Jさんは、志望校としてK大学、R大学、M大学、O大学などを考えています。そのうち、R大学は出願締め切り日が来月早々に迫っています。ところが、Jさんは何もしていません。Web出願に必要なマイページも作っていませんでした。そのくせ、期末テストが終わったら一時帰国することにしています。ですから、Web出願の手続きのうち、今すぐにスマホでできるものをやらせて、手書きの志望理由書の用紙などをプリントアウトし、土日で考えてくるように命じました。R大学の明日すぐに締め切りがあるM大学の用紙も持たせて帰しました。

Web出願の中に、数百字のまとまった文章を書く部分がありました。Jさんは即興でそれを考え、スマホで打ち込みました。「先生、これでいいですか」と見せられた文章は、ネイティブチェックレベルの修正を加えれば、どこに出しても恥ずかしくない文章でした。Jさんにこんな力があるとは思ってもみませんでした。授業で書かせた作文だけでは、文章作成能力は見えてこないものなんですね。

でも、Jさんは、手書きはあまり好きではないようです。「日本の大学は遅れてますね」などと言いながら、志望理由書を考え始めていました。日本には手書き信仰みたいな文化(?)、伝統(?)がありますから、手書きの書類を提出させる方式は、もうしばらく残るでしょう。いや、生成AIの影響を少しでも小さくしようという切ない抵抗かもしれません。

週明けには、Jさんから志望理由書が届きます。期末テストの試験監督は、それを直しながらすることになりそうです。

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心の準備?

9月20日(水)

Xさんは、もうすぐD大学を受験します。そのため、今週から面接練習を始めています。私の担当は口頭試問です。選抜要項に、数学や理科の能力を問う口頭試問を行うと明記されていますから、その面倒を見ることになりました。

さて、Xさんに数学でよく使う式の導出をやってもらおうと思いました。全然できませんでした。その式を使ってEJUの問題などを解いているはずなのですが、なぜその式が得られたのかは、全くわかっていませんでした。「学校でこの式を教えられましたから」と言っていましたが、そういう丸暗記は好きになれません。

もちろん、その式を使いこなせれば、勉学を進める上で通常問題はありません。しかし、原理を知らずに使い続けるのは、技術者としては好ましい態度ではありません。何かに行き詰まったとき、原理に立ち戻れるかどうかは、意外と重い意味があると思うのです。

やさしめのEJUの問題を渡し、ホワイトボードを使いながら解き方を説明してもらおうと思いました。しかし、こちらも全然でした。志望理由などを聞く面接練習だと思って来たら、いきなり数学や物理の問題を突き付けられたのですから、心の準備もできていなかったのでしょう。

Xさんはかなりショックだったようで、また来週やりたいと言ってきました。期末テストが過ぎれば、お互い多少は時間的に余裕ができるでしょうから、じっくり取り組むこともできます。直前でぐっと力をつけ、一気に合格ラインを突破してもらいたいものです。そのための、来週です。

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数学の学生

9月14日(木)

今週になってから、Dさんが毎日昼休みに数学の勉強をしに私のところへ来るようになりました。Dさんの志望校はEJUの数学は必須じゃありませんが、なぜか勉強しようという気持ちになっているのです。

一流校と呼ばれている私立大学も、文科系の学部学科は数学が不要のところが多いです。だから、数学の勉強はしないでそういう大学に入ろうという考えも成り立ちますし、それで進学した学生も大勢います。

ところが、データを見ると、一流大学では数学不要でもEJUの数学を受験し、高得点を挙げている学生が多いです。募集要項のEJUの指定科目に「数学」と書かれていなければ、数学の成績を合否判定に使うことはありません。それでも数学が高得点の受験生が多く合格しているということは、面接をしているうちに頭脳明晰さみたいなものがにじみ出てくるのでしょうか。あるいは、その受験生が書いた小論文から、大学教授の心を引き付ける何物かがほとばしり出ているのでしょうか。

確かに、文科系の学問の多くは、数学を駆使することはあまりありません。研究の過程で得られたデータを加工する際に多少必要となることはあるでしょうが、最近は統計処理もエクセルがやってくれます。しかし、研究の根幹をなす論理的推論を学ぶには、その力を鍛えるには、数学が一番です。

ですから、Dさんには、なぜその答えを導き出したのかをきちんと説明するように言っています。易しい練習問題を解き、その解答過程を言わせます。場合の数や順列組み合わせとか、平面図形とか、今週はそのあたりで訓練しています。進学してからのことを考えて私のところに通ってきているとしたら、Dさんはかなりの大物です。

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初練習

9月4日(月)

午後、レベル3・4の学生の初面接練習に付き合いました。志望校の受験日が目前に迫っているのではなく、入試の面接の模擬体験をする授業で、面接官を務めました。

面接の受け方に関する基本的な講義を受けた後で、面接官の数に分かれて各教室へ。私のところへは4人の学生が来ました。

まず、Fさん。「どうして本学を志望しましたか」「経営を勉強しますから」というような、さっぱりかみ合わない問答を繰り返しました。そのうち、背筋が丸くなり、緊張していることが手に取るようにわかりました。

Eさんは「次は私」と勢い良く手を挙げたものの、面接の答えはFさんと違った意味でひどいものでした。「大学で自然と環境と動物のぼうこうを勉強したい」と言われたら、みなさんはどう受け取りますか。あれこれ聞いていくと、“ぼうこう”とは“保護”のことでした。これ以外にも発音が悪くて何を言っているかわからない場面がいくつもありました。

「本学で何を勉強しようと思っていますか」「文化です」と答えたきり、口をつぐんでしまったのはRさんです。しかたがいので、「文化といっても幅が広いですが、その中で特にどんな文化を勉強したいんですか」と聞くと、「いろいろな文化です」と、これまた新しい情報が全くない答えが返ってきました。

最後のHさんはファッションクリエーションを勉強したいとのことなので、「今のあなたの服装は、どんなところがおしゃれですか」と聞いてみました。レベル3・4の学生には難しいかなと思いましたが、Hさんは一言も説明できませんでした。初回とはいえ、これでは困りますねえ。

担当のO先生からは、面接の厳しさを味わわせてほしいと言われていましたが、その役目は果たせたと思います。私以外の先生が担当だった学生たちも含めて、その多くが何らかの形でこれから受験します。実際に出願し、面接日が近づいてから行う面接練習の際には、受け答えがずっと上手になっているでしょうが、こちらもさらに厳しい質問をします。それに耐えてやっとどうにか競争に勝てるのです。次に会う時までの成長に期待しましょう。

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のんびり留学

9月1日(金)

「私は国で悪い学生でしたから日本へ来ました」とJさん。高校の成績が悪く、国では大学に入れそうもないので、親から日本へ送り出されたと言っています。だから、日本で大学進学を目指しますが、何が何でも“いい大学”に入ろうとは思っていません。東京を離れて、のんびり勉強したいそうです。

そんな調子ですから、進学に関してはまだ何もしていないのかと思いきや、この前の学期休みに池袋で開催された、全国の大学が集まる留学生進学フェアに参加したそうです。そこでのんびり勉強できそうな大学をいくつか見つけてきたとのことですから、準備はのんびりというよりは周到に進めているようです。現に、M大学、O大学という名前がJさんの口から具体的に出てきました。そのどちらも、東京から遠く離れ、東京では有名ではありませんから、Jさんの本気度はかなり高そうです。

本人が本気でも、親が口出ししてきて、その本気の火を吹き消してしまうことがよくあります。でも、Jさんのご両親は、そんなことなさそうです。「国であきらめられていますから、日本でどんな大学に進学しても親は文句なんか言いません。大喜びです」。いい親御さんを持ったようです。

また、Jさんは、近所のお年寄りと仲良くなって、ファミレスで食事しながらお話をしているそうです。お年寄りが安保させていた犬の種類が、Jさんが国で飼っていたのと同じだったことから縁ができました。そのお年寄りにすると、孫をかわいがるくらいの気持ちなのでしょうか。ここにも、がりがり受験勉強をしないでのんびり留学しようというJさんの考えが見えます。

何だか、私まで留学したくなってきました。

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相談事

8月31日(木)

このところ、「EJUの点数が足りないんですが…」という相談がよく来ます。それなり以上の成績だった学生は、私になど相談せずに自分の行きたいところに出願するでしょうから、必然的に、不成績だった学生や、そういう学生の相談を受けた教師が私の周りに集まるわけです。

入学したばかりの初級の学生や、今まで好き勝手なことばかりしてきた学生が思わしくない成績表を見て頭を抱えるのは、ある意味しかたのないところです。後者は自業自得と言ってもいいでしょう。しかし、きちんと勉強してきた学生が平均点にも及ばぬ点しか取れなかったとなると、どうにか救いの手を差し伸べたくなります。

11月に勝負をかけることもそうですが、今の持ち点で受けられるところ、勝ち目のありそうな大学を探さなければなりません。EJU不要の入試方式がある大学が見つかれば、まずそこを考えます。データを見て、EJUよりも大学の独自試験を重視していそうな大学にも、目を付けておきます。そういった大学の中から、その学生の個性に合い、人生を豊かにできる勉強ができそうなところを選びます。

さらに、6月のEJUを受けませんでしたという学生もいます。Lさんもその1人です。6月のEJUの出願はKCP入学前でしたから、私たちの指導が行き届きませんでした。しかし、11月も、日本語しか出願しませんでした。文科系志望の学生にとって、絶望的なピンチです。総合科目は、受験することに意義があるのです。たとえ最低点でも、受けたという事実が必要な大学が少なくありません。「冗談でもいいから総合科目も」と言い続けてきたんですが、Lさんには届いていなかったんですね。

明日から9月、留学生入試のシーズンです。

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自己表現

8月30日(水)

午前の授業の後で、指定校推薦の面接をしました。指定校推薦に応募してきた学生が、推薦するにふさわしいかどうか、学校内で審査するための面接です。

Sさんは超級レベルの学生ですから、日本語には全く問題がありません。自然な話し方ができます。学力的にも優れていて、難関のH大学に志願しました。ところが、その志望志願した理由を聞くと、とたんに視線が天井を向いてしまいました。と同時に、機械が話しているかのごとき口調になりました。暗記したことを尾のまま話しているのが手に取るようにわかりました。話している内容は立派なものですが、心ここにあらずという感じがありありとうかがえました。

緊張していたこともそうですが、間違えてはいけないという意識があまりに強いと、こうなってしまいます。今回は学校の中での面接であり、私たち面接官側も学生をよく知っていますからこれでもいいですが、H大学の面接試験でこれをやったら、いかに指定校推薦とはいえ、落とされてしまうかもしれません。これから試験日まで、しっかり訓練する必要があります。

続いてOさんの面接をしました。Oさんも上級とはいえ、Sさんと比べると力の差があります。H大学ではなくB大学の指定校推薦を狙っています。人柄は校内で一番かもしれませんが、話す力には“?”が付きます。入学試験は人柄まで見てくれません。学校から提出する書類で訴えることはできても、面接の受け答えがおぼつかなかったら、確実に落とされます。Sさんの後だっただけに、Oさんのたどたどしさが目立ってしまいました。こちらも、特訓の上で本番に臨んでもらうことになります。

KCPは決していい加減に選んで指定校推薦の学生を選んでいるわけではありません。2名とも、H大学やB大学で勉強したい気持ちには、並々ならぬものがあります。それを伝える手段が面接試験の場しかないとなると、苦戦を余儀なくされます。それを乗り越えるトレーニングを、これから課していきます。

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