Category Archives: 勉強

わたしはできる?

4月9日(水)

今学期は、月曜日と水曜日がレベル1のクラスの担当です。レベル1は、言うまでもなく、大半の学生が新入生で、先学期成績が振るわずに進級できなかった学生がぽつりぽつりといる程度です。したがって、顔と名前が一致する学生はいません。プレースメントテストの結果を調べれば、誰ができそうとかあぶないかもしれないとかが、多少は見当が付きます。でも、リーダーシップがあるとか細かいところによく気がつくとか飽きっぽいとかわがままとか、性格的なところは皆目わかりません。“前学期担当の先生”というのがいませんから、引継ぎもありません。予備知識なしで授業に臨むわけです。そういう意味で、最初のうちは授業を組み立てるのに苦労します。

とはいうものの、授業でやり取りを進めていくと、そういったことが自然に見えてきます。まず、こちらは「こんにちは」とあいさつしたのにスマホを見続けているような学生は、要チェックです。出席を取る際に、手をわずかに上げるだけで返事をせず、目も合わせようとしない学生に対しても、警戒信号をともします。こういった見かけ上のアラームは、その後さらに突っ込んで見ていくと解除されることもよくあります。

Kさんは出席を取った時点で要注意リストに名前が載った学生です。連絡事項を伝えてから、昨日の宿題を回収しました。清音、濁音、半濁音のひらがなを書いてくることになっていました。ひとりひとりから用紙を集める時も、Kさんから受け取った用紙に素早く視線を走らせると、ひらがなから若干の違和感がにおいました。その直後、ひらがなのディクテーションをしました。単語を読み上げながら学生の字を見て回ると、なんと、Kさんは半分ぐらいのマスが空欄でした。音声と文字が一致していないのです。宿題は家で時間をかけてやりましたからどうにか乗り切れたものの、聞き取ってすぐに書かなければならないディクテーションとなると、お手上げだったのでしょう。もはや、第一級、いや、超特級の要観察学生です。授業後、事情聴取をしようと思っていたら、あっという間に消え去ってしまいました。警戒レベルは、さらに上がりました。

宿題をチェックしたり日報を書いたりした後、引継ぎを兼ねて担任のN先生に報告すると、Kさんは、昨日、レベル1ではなくレベル2のクラスに入りたいと言ってきたそうです。日本人の友達がいて、すでにアルバイトも始めているとか。日本人の友達とは、雰囲気や勢いでコミュニケーションができてしまうのでしょう。でも、KCPでの勉強は、それではすみません。日本での進学を希望しているのなら、なおさらのことです。

できるだけ早くKさんの発想を変えさせてあげないと、悲惨な運命が待ち受けています。

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新しい芽

3月13日(木)

卒業生がいなくなって人数が減ったので再編成された中級クラスに入りました。知っている顔がほとんどいないクラスでした。私のなじみの顔は、みんな昨日出て行ってしまったのです。学生たちも、昨日までのクラスの友達はよく知っていますが、別のクラスだった学生はあまり知らないということで、状況は私とさほど変わりません。なんとなくおどおどした顔が、(おそらく昨日までのクラスごとに)教室に並んでいました。

授業を始めると、やはり様子見なのか、積極的に手を挙げる学生がいませんでした。こちらも顔と名前が一致しているわけではないので名簿を見ながら指名すると、結構答えられました。優秀な学生たちが残っているようです。本当に優秀なら、きっかけさえ与えれば、クラスが沸き立つはずです。

幸い、期末タスクのグループワークが予定されていました。このグループワークをてこに、誰でも手を挙げられるクラスにしていこうと思いました。数人ずつのグループに分かれると、互いに名乗り合うところから始まって、タスクをより良い形に仕上げようというムードが、各グループから立ち上がってきました。グループワークなのにスマホの興じる学生はおらず、日本語よりも母国語が上手になりそうなグループもありませんでした。期末テストまで10日ほどのクラスですが、最後まできちんと勉強しようという意欲が感じられました。

このクラスの学生たちは、その気になれば、どこかの大学に合格できたでしょう。しかし、それでは満足せず、もう1年KCPで勉強して、もっと“いい大学”にしようとしています。グループワークなどの様子を見る限り、実現の可能性は十分にあります。7月期か10月期あたりに、上級の上の方のクラスで再会したいものです。

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科学ねの関心

2月18日(火)

上級クラスで、読解の教科書に「科学に関するニュースで興味を持ったこと/ものはありますか」という問いかけがありましたから、それをそのまま学生に聞いてみました。すると、半数以上の学生がスマホを取り出しました。科学に関するニュースを検索したのでしょう。数分時間を与えて、何人かの学生に聞いてみました。AI技術とか、地震とかといった答えが返ってきましたが、「特にありません」も1人、2人ではありませんでした。

科学への関心が薄いんだなあと思いました。科学に気づく力が弱いと言ってもいいでしょう。料理だって化学反応の一種だし、月は天文学の入口です。インフルエンザを始め、病気関係はみんなそうですよね。日本各地に大雪が降っているのも、スマホで検索できるのも、みんな科学の助けがあればこそです。この世の森羅万象が科学に通じていると言ったら、さすがに言い過ぎでしょうか。

単に科学に興味がないだけなら、個人の趣味の範囲かもしれません。しかし、世の中全般に興味がないとなると、看過できません。自分の身の回りの、自分に直接かかわりのある事柄にしか興味を示さないのだとしたら、世の中を生き抜いて行けません。そんな狭い世界で満足しているのなら、何のために生まれ育った国の外に出たのでしょう。留学の果実の過半に目も向けずに捨ててしまうのと同じです。

ノーベル賞の理論や技術に興味を持てなどとは言っていません。でも、上述のような事柄に何の関心もなかったら、惰性で生きているだけのような気がするんですがねえ。これは、私が理系人間だから感じてしまうことなんでしょうか。

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変更

2月14日(金)

朝、Iさんが担任のK先生に何事か言いに来ました。そのK先生が私に「Iさんが先生の選択授業に出たいと言っているんですが…」と聞きに来ました。私の選択授業は“身近な科学”で、Iさんの興味の向かう先とはだいぶ違うと思います。Iさんが学期初めに選んだ選択授業は、“美術館に行こう”でしたから。

K先生からさらにもっと話を聞いてみると、美術館に行くのは面倒くさいから、どこにも出かけない選択授業に変えたいということでした。Iさんは自分で“美術館に行こう”を選んだんですよ、学期初めに。第2志望に回されたとかじゃありません。それぞれの説明を読んだ上での選択です。上級の学生ですから、その説明文がわからないなどということはありません。読んでもわからなかったのだったら、上級にいる資格がありません。中級どころか、初級に落ちてもらいたいくらいです。

先週も行きたくないとごねて、結局選択授業の時間は帰ってしまったそうですから、しかたなく引き受けました。身近な科学の時間になっても、Iさんは話を聴こうというそぶりも見せませんでした。ひたすらスマホ三昧です。教室の一番隅っこの席に陣取っていましたから、まじめに聴いている学生に悪影響はないだろうと思い、無視しました。そんな学生にかかわりあっている時間がもったいないですから。

要するに、Iさんは、自分のごく狭い興味対象外には、無関心なんですね。新たな分野を開拓しようなどとは全く思わないのです。進学先は決まっていますが、こんな気持ちじゃ、進学先でもろくな勉強はできないでしょう。でも、進学先はKCPの選択授業みたいに気安く変えることはできません。

1年後、いや、半年後、Iさんはどこで何をしているのでしょう。

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ノート

1月24日(金)

今学期の選択授業・身近な科学は、授業の最初に白い紙を渡し、それにノートを取ってもらうことにしています。そして、授業の最後に、授業をよく聞いていれば、きちんとノートを取っていれば必ず解けるクイズを出します。

このクラスには、上級1期目の学生から、4月期から上級に在籍している学生までいます。同じ上級とはいえ、日本語力にはだいぶ差があります。しかし、こうしてノートを取らせてみると、より上のレベルの学生がより上手にノートが取れるとは限らないことが見えてきます。そして、ノートが取れている学生は、概してクイズの成績がいいです。私のクイズは、ネットで調べても答えが見つからない問題ばかりですから、授業をきちんと聞いて、それを記録に残すことができる学生がいい点数だというのは、妥当な結果です。

最上級クラスのAさんやBさんは、あまり点が伸びませんでした。授業中はうなずいていましたから、よく理解できているのだろうと思っていたら、そうでもありませんでした。上級1期目のCさんは、細かくノートを取っていました。私が見てもよくわかる形でまとめられていました。こういう人は頭脳明晰なんだろうなと思いました。

身近な科学の学生たちは、ほとんどが4月から進学します。日本人の学生に伍して大学や大学院の授業を受けるとなると、ノートがきちんととれるかどうかが運命の分かれ目になるでしょう。卒業生へのはなむけの授業のつもりでやっています。春にはありがたみを感じてくれるかな…。

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まじめです

12月10日(火)

今学期の日本語プラス理科系の学生たちはとてもまじめで、最後まで休まずに授業を受けそうな勢いです。授業中に指名したときの答え方を聞く限り、日本語を話す力はまだまだです。しかし、板書や私が話した言葉をノートに取ったり、日本人の高校生向け参考書の図表や写真などを参考にしたりしている姿は、今後に期待が持てます。練習問題をさせると、だいぶ正解するようになってきました。

11月のEJUから翌年の6月のEJUまでは7か月ありますから、基礎から鍛えるにはちょうどいい時期です。受講する学生も、翌々年進学という気持ちで固まっていますから、焦る気持ちがありません。したがって、こちらも長期戦が展開できます。しかも今回は根がまじめな学生と来ていますから、毎回の理科の授業が楽しみでした。準備をする段階から心が掻き立てられるものを感じています。資料のコピーにも力が入ります。

その一方で、Dさんが退学しました。Dさんは去年の夏学期から日本語プラスを受けてきましたが、学校をすぐ休んでしまう癖がどうしても直らず、帰国することになりました。勘がいい学生でしたから、きちんと勉強を続ければどんどん伸びたことと思います。それだけに残念でなりません。私に会うといつもにこにこしていたのですが、その裏側には大きな闇を抱えていたのでしょうか。

今までの様子を見る限り、今学期の理科系の学生たちには欠席病の予兆は見られません。上手に育てて、学生たちの夢をかなえさせてあげたいです。

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勉強法

11月21日(木)

中間テスト後の学生面接が始まりました。

Jさんはすでに専門学校の合格が決まっています。驚いたことに、オンラインの事前教育が始まっているそうです。さらに驚いたことに、5分の動画を見終わるのに2時間かかるときもあるとのことです。日本語の講義にも慣れていないし、専門用語もわからないし、大変すぎると言いつつも、Jさんは笑顔たっぷりの表情でした。

Jさんは完ぺきを目指す性格です。細かいところまでがっちり予習して、わからなかったことは教師にどんどん質問します。どれもが的を射た質問で、答える側にとっても意外な気付きが得られることが稀ではありません。そのJさんの質問数が、最近減ったのが気になっていましたが、裏にこんな事情があったんですね。Jさんが2時間かけて見る動画も、他の新入生は1回通しで見て終わりにしてしまうんじゃないでしょうか。

でも、そういうJさんの勉強に対する姿勢が、今のJさんの日本語力を形作っているのです。そして、入学前からこんなに準備(予習?)に余念がないのですから、専門学校に進学してからも、知識や技術をどんどん身に付けていくことでしょう。

Jさんはまだ中級ですが、会話力だけなら上級の学生と比べても決して見劣りしません。だから、アルバイトで鍛えられているのかと思ったら、全然したことがないとのことでした。Jさんは、教科書や聴解教材にあった語彙や表現を、例文や会話の中で積極的に使おうとします。もちろん使い方が間違っている時もありますが、そうやって間違えながら身に付けていくというのが、Jさんの流儀なのでしょう。初級の頃からの積み重ねが、“上手”につながっているのです。

来年の3月の卒業まで、Jさんはこの勉強法を変えずにいくでしょう。そして、さらに大きな成果を手にして進学していくに違いありません。4月からの専門学校では、日本人学生以上の成績をあげるのではないかと期待しています。

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心地よい疲れ

11月12日(火)

朝から1日中研修を受けてきました。研修なんて、何年ぶりでしょう。別に勉強が嫌いなわけではなく、私の場合、日本語プラスのいろいろな科目を引き受けている都合上、そう簡単に出られないのです。EJUも終わったことだしということで、特別に1日だけ休講にしてもらい、出かけてきたという次第です。

ゆうべは遅かったので睡眠不足気味ですが、学生に授業中寝るなと注意している手前、自分が居眠りをするわけにはいきません。講義が始まる前にたっぷりコーヒーを飲んでおきました。でも、そんなことは全くの杞憂でした。知らなかったことを知るというのは楽しいものです。自分の仕事に引き付けて考えられる内容でしたから、なおのこと興味が引かれました。

昼食は、食べ過ぎると午後からまぶたが重くなりかねませんから、少なめに抑えました。もちろん、食後のコーヒーはたっぷりと。会場の周りを歩いて、体を動かすことでも目を覚ましました。

午後は、午前中の聴講形式ではなく、グループディスカッションでした。ですから、眠くなっている暇などなく、お昼に補った糖分をすべて脳に回して課題に取り組みました。グループのメンバーの発言も、他のグループの意見も刺激になり、脳が活性化されました。私の意見も、多少は他のメンバーに刺激を与えたようでした。

KCPの午前午後の授業時間に相当する時間、講義を聴き、演習に取り組みました。ずっと座っていましたから肉体的には疲れていないはずなのですが、研修が終わってからしばらくは立ち上がれませんでした。日本語プラスをたくさん受講している学生たちも、こんな感じなのでしょうか。

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1年前のピヨピヨ

10月12日(土)

来週の火曜日から日本語プラスが始まりますから、名簿を作ったり学生に時間割メールを送ったりといった仕事をしました。10月期は、学期が始まって1か月ほどでEJUがあり、2か月弱でJLPTがあります。そのための追い込みの授業と、翌年の6月のEJUや7月のJLPTに勝負をかける学生向けの授業と、二兎を追うことになります。学生の側も、早く進学したいという気持ちと、もう1年勉強して“いい大学”を狙いたいという気持ちが交錯する時期です。そういうことに関する、答えるのが非常に難しい進学相談が増えるのもこの学期の特徴です。

私も、連休明けの火曜日にいきなり2つの受験授業が待ち構えています。11月10日までは目の前に試験が迫った学生たちのケアを優先し、来年6月に高得点をと考えている学生には、EJUが終わってから目をかけていきます。学生たちが今考えているような大学に入るには、6月のEJUが天王山です。でもその天王山に勝つには、半年以上も前の今から助走を始めなければなりません。

今、大きな顔をしてのさばっている学生たちも、1年前はピヨピヨしていました。ただし、順調に育って主力メンバーになった学生もいれば、途中のレベルの主みたいに同じレベルで足踏みしながら大きな顔をしている学生もいます。何がこういう差をもたらすんでしょうねえ。

ピヨピヨのみなさんには、1年先輩の実力の高さも、それでも悩む姿もしっかり記憶して、来年の今頃には大黒柱になっていてもらいたいです。

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メール送信

10月2日(水)

今学期の新入生のプレースメントテストはもうだいぶ前に終わり、先週はプレースメントテストの結果で中級以上に判定された学生の面接をしました。面接でのやり取りも加味して、レベルを最終的に決定します。

私が担当した学生たちは、みんな話す力がもう一歩でした。まだ国にいますからオンラインの面接でした。だから、回線の状況によっては聞き取りにくかったこともあるかもしれません。そのハンデを差し引いても、普段日本語の勉強はしていても、会話はしていないんだろうなと感じました。

学生たちは異口同音に、KCPではコミュニケーション力を付けたいと言いました。そうだろうなと思いました。漢字の読み書きや文法、もしかしたら読解問題の解法のテクニックまで練習しているかもしれませんが、会話はテキストを「読む」くらいしかしていないのでしょう。それでいきなり、「KCPで勉強以外にどんなこと、してみたい?」なんて聞かれたら、オンラインの向こう側で目を白黒させていたとしても無理はありません。

Aさんは、「こんにちは。KCPの金原です。よろしくお願いします」と私が話しかけるや、「Aと申します。これからお世話になります。私は日本で大学院に進学したいです。どうぞよろしくお願いいたします」と、いかにも何かを読み上げている口調で言いました。あいさつ文を作り上げた努力は認めますが、どうせなら自然な話し方ができるまで練習しておいてほしかったですね。

9月にレベル4だった私のクラスの、できない学生といい勝負の話し方でした。Aさんが3か月練習すれば、同じクラスのできる学生並みになれるかな、なってほしいなと思いながら、レベル判定をしました。

午後、Aさんたちに判定結果をメールで送りました。コミュニケーション力を付けるには、今までとは質の違った練習をしなければなりません。覚悟はできていますか。

ほどなく、Aさんからは返信のメールが来ました。文面からは覚悟のほどはわかりませんが、ガンガン鍛えていきますからね。

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