Category Archives: 勉強

切れる前に

10月19日(木)

中級クラスの代講をしました。授業内容そのものは、教科書や教材がそろっていましたから、決められたところまで進めさえすればいいだけでした。しかし、担任のO先生からは、「学生の集中力がちょっと…」と懸念材料を示されていました。テンポよく、目先を変えて、学生を波に乗せる必要があるようでした。

前半はうまくいきましたが、授業開始後1時間足らずで、さっきまで元気いっぱいだったSさんが机に伏せてしまいました。Dさんも元気がなくなってきました。逆に、最初は線がつながっているのか切れているのかわからない雰囲気だったEさんが発言するようになりました。授業の最後の方は聴解問題だったので、QさんやWさんは飽きてしまったようでした。

O先生たちこのクラスの先生方のご苦労がよくわかりました。集中力の切れ方が予測不能で、雑談で息抜きをして集中力を復活させるべきか、集中しているうちに進むだけ進んでおくべきか、そのあたりの学生との駆け引きが難しかったです。何回もクラスに入れば勘所もつかめるのでしょうが、そもそもこの集中力のなさ加減では、これから先が思いやられます。

まず、EJUやJLPTでしかるべき成績を挙げるのが難しいでしょう。それゆえ、学生たちが思い描いている進学ができるかどうかも疑問です。出願書類を作成するときだって、細心の注意を払い続けなければなりません。私の観察では、それすら危ういですね。面接はどうなのかなあ。集中力が途切れた瞬間にあらぬことを口走ったりはしないかと、心配になってきました。

文法や聴解よりも、集中力をつける訓練をしたくなってきました。

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指名されても

10月18日(水)

「Pさん、次のところを読んでください」「…」。「Hさん、次のところを読んでください」「…」。「Aさん、次のところを読んでください」「…」。

この3人は授業に集中していない様子がうかがえましたから突然指名したところ、案の定でした。慌てて隣の学生にどこから読めばいいか教えてもらったり、適当に見当をつけて読み始めたり、ささやかな抵抗を試みましたが、クラス中に恥をさらすことになりました。

PさんもHさんもAさんも、受験を控えていますから、読解の教科書など読んでいるどころではないと思っているのでしょう。授業そっちのけで何をしていたか知りませんが、Aさんは今までもよくスマホでどこかのサイトを見ていることが多かったですから、大方そんなところでしょう。下を向いていましたしね。Hさんは昨日面接練習でボコボコにされていましたから、その立て直しでもしていたのでしょう。でも、それは授業中にするべきことではありません。そんな余裕のない学生は、だいたい落ちるものなんですがね。

読解力なくして日本の高等教育機関で勉強を続けることなどできません。こちらもそのつもりで上級のカリキュラムを組み立て、進学してから日本語で困ることのないようにしようと思っています。読解力がないまま進学したら、結局困るのはその学生自身です。しかし、Pさんたちには目の前の愉楽や試験などしか映らないのでしょう。1年先の自分自身の像すら思い描けないのです。

上級クラスでは常々「進学してから必要な日本語力」を意識させようとしています。でも、この3人を見る限り、私もまだまだ力不足です。

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我が道を行く

10月16日(月)

数学の時間、過去問を配るとみんな一斉に解き始めました。改めて問題文を読んでみると、1か所だけ授業で扱わなかった言葉がありました。問題に取り組んでいるのを中断するのは心苦しかったのですが、この言葉の定義をきちんと伝えないと、そのあとの問題は解きようがありません。偶然正解したとしても、そこに至るまでの道筋を論理的には説明できないでしょう。「なんとなくこれだと思ったから…」となるに違いありません。

私の説明を聞いていたDさんやLさんは正解が得られました。しかし、私が説明している間も解きつづけていたTさんは、そこから先ががたがたでした。Tさんは一番よくできる学生ですが、こういうことで変な方向に進んでしまうことがたびたびあります。

数年前の卒業生Qさんも、“思い込んだら試練の道を”突き進むタイプの学生でした。ほんのちょっとの勘違いなのですが、その誤差がどんどん拡大していって、ついには取り返しのつかないことになってしまうのです。Qさんは知識があり、その知識を組み合わせる力も持っていましたが、問題文を読み解く点に難があり、持ち前の能力を点数に結び付けられませんでした。Qさんは6月のEJUで痛い目に遭いました。そこで大いに反省し、11月にはどうにか軌道修正が間に合い、結果的には目標としていた“いい学校”に手が届きました。

Tさんはどうでしょう。6月にそこそこの点を取り、今回はそれに上積みしようと思っていますが、うまくいくでしょうか。残り1か月弱でそういうミスをなくせるかどうかが、運命の分かれ道です。

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頑な

9月15日(金)

Mさんは優秀な学生です。授業に集中し、板書はもちろん、教師の言葉もこれはと思ったことはノートに取ります。指名すると、確実に何か答えてくれます。教師からすると、授業を進めたいときに指名する、切り札的な学生です。また、Mさんが間違えたということは、他の学生も理解していないということであり、立ちどまるか2,3歩戻らなければならないことを意味します。

そのMさん、どうやら独習が好きなようです。グループワークになると、こちらが期待する仕事をしてくれません。リーダーシップなど言うに及ばず、水を向けても形式的な発言しないのが常です。ですから、グループを作るときには要注意人物です。

学期末が近づき、Mさんのクラスも期末タスクに取り組んでいます。グループ発表に向けての議論と作業をしていますが、Mさんは休んでしまいました。Mさんのグループは、他のメンバーが発表内容を決めていきました。メンバーにとって、こんなMさんは、グループのお荷物だったとしても不思議はありません。そういえば、日本人ゲストと会話をする日も休みました。7月のコトバデーも、休むだのなんだのと駄々をこねました。

Mさんの親御さんも、Mさんのそういうところにお気づきで、それを直すために留学させたのかもしれません。しかし、Mさんは親御さんがお考えになっているよりずっと頑固だと思います。かれこれ半年ほどMさんを見ていますが、グループ活動を厭う姿は全く変わりません。

Mさんは大学進学を目指していますが、面接でこんなところが見破られてしまったら、合格すら危ぶまれます。あと半年、いや、年内にどうにかしなければなりません。親御さんの期待に応えられるでしょうか…。

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数学の学生

9月14日(木)

今週になってから、Dさんが毎日昼休みに数学の勉強をしに私のところへ来るようになりました。Dさんの志望校はEJUの数学は必須じゃありませんが、なぜか勉強しようという気持ちになっているのです。

一流校と呼ばれている私立大学も、文科系の学部学科は数学が不要のところが多いです。だから、数学の勉強はしないでそういう大学に入ろうという考えも成り立ちますし、それで進学した学生も大勢います。

ところが、データを見ると、一流大学では数学不要でもEJUの数学を受験し、高得点を挙げている学生が多いです。募集要項のEJUの指定科目に「数学」と書かれていなければ、数学の成績を合否判定に使うことはありません。それでも数学が高得点の受験生が多く合格しているということは、面接をしているうちに頭脳明晰さみたいなものがにじみ出てくるのでしょうか。あるいは、その受験生が書いた小論文から、大学教授の心を引き付ける何物かがほとばしり出ているのでしょうか。

確かに、文科系の学問の多くは、数学を駆使することはあまりありません。研究の過程で得られたデータを加工する際に多少必要となることはあるでしょうが、最近は統計処理もエクセルがやってくれます。しかし、研究の根幹をなす論理的推論を学ぶには、その力を鍛えるには、数学が一番です。

ですから、Dさんには、なぜその答えを導き出したのかをきちんと説明するように言っています。易しい練習問題を解き、その解答過程を言わせます。場合の数や順列組み合わせとか、平面図形とか、今週はそのあたりで訓練しています。進学してからのことを考えて私のところに通ってきているとしたら、Dさんはかなりの大物です。

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動画を見る

9月11日(月)

上級のクラスでは、可能な限りニュースなどの動画を見せています。映像や字幕を補助にしてそこで何が語られているかを理解し、キャスターやコメンテーターの言葉をその場で聞き取ってもらうようにしています。最近のニュースや、読解教材に関連した動画などを使っています。

「じゃ、動画を見てください」と言って流し始めると、クラス内は大きく2つに分かれます。興味深げに動画に注目する学生と、息抜きのチャンスとばかりにスマホを取り出すグループとです。後者の人々にこそ耳の訓練をしてもらいたいのですが、なかなか思い通りに動いてくれません。

こういった学生たちは、概して受験勉強以外に興味を示しません。「読解のテストで動画が流れるわけでもないし」という考えなのか、一心不乱に下を向いて親指を動かします。動画が終わってからその内容に関して質問しても、当然のごとく答えられません。

動画を見せるのは、耳の訓練のためばかりではありません。社会性を持ってもらいたいからです。文法や読解の問題には答えられるけれども、そこから一歩外れてテキストの内容に関して質問されるとしどろもどろというのでは、真の意味で上級の実力を持っているとは言いかねます。

JLPTのN1かN2に合格するのが留学目的だというのであれば、それでもいいかもしれません。しかし、語学なんて使い倒さなければ意味がありません。動画を見てその内容について議論したり自分の意見を文章にしたりすることができて初めて、日本語を勉強した意義があるのです。

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アプリで勉強

8月29日(火)

今学期、Sさんはレベル1が2回目です。中間テストの成績は合格点を取りましたが、まだ安心できる状況ではありません。なにせ、レベル1の後半はて形、ない形、辞書形、た形と、山場の連続です。中間テストが多少よくても期末テストでしかるべき点数が取れるとは限りません。ちょうどて形導入の授業の後で面接でしたから、多少はこのままでは危ないという危機感が芽生えていたかもしれません。中間テストの直しも、真剣に取り組んでいました。

そのSさんに、自宅学習の状況を聞きました。毎日1時間、宿題が中心だそうです。宿題以外にどんな勉強をしているかと突っ込むと、「単語を覚えます」という答えが返ってきました。その覚え方を聞くと、スマホのアプリを使うと言います。そのアプリを見せてもらいました。見ると、単なる単語リストでした。その単語リストを見て覚えると言います。

何もしないよりはましでしょうが、単語リストを見てその単語が頭に入るのなら、日本語学校なんかに通う必要など全くありません。でも、今のSさんの単語力は、下から数えたほうが早いです。そんな単語力で進級しても、授業についていけないことは明らかです。単語リストを見て勉強したつもりになっているのだとしたら、今後の伸びも期待できません。

そこで、覚えた単語を使って文を作ることを提案しました。そのための練習問題集も見せて、それを買って毎日やってみるようにと言いました。問題集の写真を撮り、それを紀伊国屋あたりで見せれば、同じものが手に入るでしょう。その問題集をコツコツやっていけば、勉強時間も増え、必然的に日本語に触れる時間も長くなり、上述の山場をどうにかこうにか乗り越える目も出て来そうです。Sさん、ちゃんと挑戦してくれるかな。

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エアメル

8月22日(火)

夏休みをはさんでしまいましたが、中間テストが終わったので、学生面接が始まりました。

Zさんは今学期のレベル1の新入生です。KCPで日本語を勉強したら、日本で就職しようと考えています。しかし、現状では次の学期に進級できるかどうかきわどい所です。

「レベル1の勉強は難しいですか」「はい、少し難しいです」ときましたから、文法が難しいのかなと思いました。形容詞や「ます」の活用が入ってきていますから、その辺でつまずいているのかもしれません。「何が難しいですか。文法ですか、聴解ですか」と聞くと、Zさんは少し考えて「…単語が難しいです」と答えました。

さらに詳しく突っ込むと、要するに長音や促音の有無の判断が付かないようです。聞き取った文の意味はわかっても、それを正しく表記することができないのです。実際、その後の授業で“エアメール”という単語が聴解教材の中に出てきましたから、これをクラスの学生全員に書かせたところ、Zさんは“エアメル”でした。それが“air mail”であることは理解していましたが、カタカナ語として書くことはできませんでした。こうした単語が、今まで山ほどあったのでしょう。

Zさんのような学生は決して少なくありません。クラスの他の学生も、多かれ少なかれ同じ悩みを抱えています。初級の第1の壁かもしれません。でも、この壁を乗り越えないと、まず進級のボーダーラインの下に落ちてしまいます。そして、長音や促音があやふやだと、話すときにその影響が現れないとも限りません。そうなると、Zさんの夢である日本での就職だって夢のままで終わってしまいかねません。

残念ながら、これには決定的な解決法がありません。教師としては励まし続けるのみです。

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単語テスト

8月3日(木)

どんな言語でも、単語を覚えなければその言語が使えるようにはなりません。私だって、中学高校の時には英単語を覚えたし、大学では必修のドイツ語の単語を必死に覚えました(テストの直後に自動消去されましたが)。手は出したけど単語を覚えようとはしなかったフランス語と韓国語は、定型表現か耳で覚えた言い回ししかできません。

初級クラスで単語テストがありました。Xさんは単語テストがあるのをすっかり忘れていて、私が教室に入ったときに至っても、教科書やノートをひっくり返しながらなんとか頭に詰め込もうとしちる最中でした。今までのテストは、文法もディクテーションもその他すべて、合格点付近をうろうろしているMさんは、家で覚えてきたようですが、不安げな顔つきでした。

チャイムが鳴り、出席を取り終わると、情け容赦なくテストを始めました。試験時間は十分すぎるくらいありますが、覚えてこなかった学生にとっては、地獄の苦しみが長引くだけで、何のメリットももたらさないでしょう。よくできるYさんやFさんにとっては、2/3ぐらいは暇を持て余していたかもしれません。最後まで粘っていたのはMさんなどほんの数名でした。

さて、採点してみると、YさんFさんは満点、Xさんは健闘むなしく合格点には遠く及ばず、Mさんはきわどい所でどうにか合格でした。何のことはない、テスト前に予想した通りじゃありませんか。要するに、Mさんレベルまでは単語を覚えるいい機会になりましたが、それよりも下の、今覚えなければこの後落ちていく道しかないという学生たちは、覚えるきっかけを失った、チャンスが生かせなかったということです。

中間テストまでちょうど1週間。来週の木曜日は、みんな笑いましょうね。

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7月26日(水)

6月のEJUの成績が発表されました。学校全体としては悲喜こもごもといったところですが、私のまわりには“悲”の人が目立ちます。

Kさんは初めてのEJUでした。国では大学入試でも電卓が使えるので、EJUも当然そうだと思っていました。しかし、試験当日、試験官から電卓は使用禁止だと言われ、大いに動揺してしまいました。そこから立ち直れず、数学も理科も振るいませんでした。予想を上回るひどさだったようです。電卓が使えないことぐらい、受験票に同封されていた受験に関する注意を読めばすぐわかったはずです。でも、Kさんにとっては、受験で電卓を使うことは常識以前のことだったのでしょう。これも文化の違いだと割り切ってもらうほかありません。

Hさんも、理科数学の成績が伸びませんでした。理科系の大学だと理科や数学で平均点を大きく割り込んでいると、日本語で多少点が取れていたとしても、厳しい戦いになります。担任の先生のところに専門学校のパンフレットを持って来て、「ここにしようと思います」と相談を持ち掛けたそうです。進学に関しては早めに動けと指導していますが、見切りが早すぎます。

CさんとAさんは、日本語で失敗しました。危なっかしいなと思っていましたが、それがそのまま数字になって現れました。実力通りだと言ってしまえば身も蓋もありませんが、鍛え直して再挑戦です。Sさんに至っては、ショックのあまり寝込んでしまったとか。1日寝込むのは認めましょう。でも、明日からは捲土重来を目指してもらいます。

このように書くと、KCPはろくな教育をしていないと思われてしまうかもしれませんが、そんなことはありません。これだけ泣いた人がいるにもかかわらず、各科目の校内平均は全体平均をだいぶ上回っています。ご安心ください。

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