Monthly Archives: 2月 2021

春の気配

2月13日(土)

私が春を感じるのは、出勤した時に、学校の前の道から見える東の空がわずかに明るくなり始めるころです。今週の初めぐらいから、東の空の色が頭上の空の色よりわずかに薄くなり始めました。空がオレンジ色に染まるよりはるかに手前で、まだ白黒の世界です。ビルのすき間(谷間にも満たない狭さです)が白んだかなという程度に過ぎません。それでも、なんだか心が浮き立ちます。

職員室で受験講座の資料作りに励んでいると、O先生が「咲きました。いい香りですよ」と、梅の小枝を持って来てくれました。7階のお茶室の庭に咲いていたそうです。オンライン授業が続き、茶道部も活動ができません。久しぶりにお茶室に足を運んだO先生が、白梅のほころんでいるのを見つけたというわけです。梅の小枝は、O先生が一輪挿しに生けて、受付に飾ってくださいました。

お昼過ぎにZさんが来ました。去年の新入生ですが、W大学の大学院に受かったので、今学期いっぱいで退学します。その手続きを聞きに来たのかと思ったら、T大学の大学院も受けているけれども、そっちも合格したらどちらに進学した方がいいかという相談も受けました。「日本人だったら90%以上T大学だろうね」と答えると、退学手続きはT大学の発表の後まで待つということになりました。表情からすると自信ありげでしたから、期待してもいいかもしれません。

私がZさんの相談を受けている隣で、Kさんが志望理由書を書いていました。来週早々出願ですから、担任のO先生のチェックを受けてすぐに清書しているという次第です。O先生の顔をのぞき込むと、梅を生けていた時とは打って変わって、渋い表情をしていました。KCP全体の春は、もう少し先のようです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

最後のお勤め

2月12日(金)

今学期はずっとオンラインでの授業を続けていますが、始業日に学生にアンケートを取りました。進学先が決まっているか、これから受験すところはどこか、アルバイトはしているか、しているならそれはどこか、曜日と時間はどうか…など、学生の生活全般にわたるものでした。最後に、学校や教師への要望も聞きました。

Cさんは、それに対して「入試直前なので、面接練習をしてほしい」と答えました。その週の週末が入試でしたから、私が入試前日にオンラインで面接練習をしました。答え方がめちゃくちゃだったので、基礎からたたき直して、どうにかCさんの思いが面接官に伝わるようなレベルまで持って行きました。それが功を奏したかどうかは定かではありませんが、Cさんはその志望校に合格しました。

Cさんが受かったという情報は、M先生から聞きました。始業日のアンケートで進学先が決まっていないと答えた学生にさらなる聞き込みをした段階で、M先生がCさんの合格を知り、他の学生の合格情報と一緒に伝えてくださいました。責任を果たせて、ホッとしました。

ところが、その後、Cさんのクラスに入ることはあっても、Cさん自身の口から合格の報告は聞いていません。恩着せがましいことをするつもりはりませんが、一言あってもいいんじゃないかなあ。「おかげさまで」などという気の利いた言葉までは要求しませんが、「合格しました。ありがとうございました」ぐらいは言えますよね。

面接練習は教師の仕事の1つです。だから、受験する学生から要望があればして当たり前であり、その結果受かっても報告するいわれはないと考えているのでしょうか。残念ながら、日本の社会はそこまでドライに割り切る発想が広まっていません。Cさんが同じようなことを進学先で、おそらく次は就職試験で、やらかしたら、人間性を疑われるでしょうね。

これをCさんに教えてあげるのが、Cさんを教えた者としての最後の仕事でしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

何もしない

2月10日(水)

今学期は、水曜日の午前中は進学先が決まっていない学生への指導の時間です。2月も半ばになろうというのに吉報を1つも手にしていない学生は、日本力が足りないか、高望みしすぎか、手順を踏んで物事を進めるのが苦手か、その辺のどれかです。

Jさんは3番目のパターンです。T大学の編入学試験に出願しようと考えていました。国の3年制大学を出ていますから、できれば編入学と考えるのは普通です。しかし、考えているだけで動いていませんでした。今頃になって「15日が出願締め切りですが、今すぐ書類を申し込めば12日にもらえますか」と聞いてきました。そんな書類は、先月のうちにそろえておかなければいけません。それだけではありません。WEB出願なのに何もしておらず、国の学校が出した書類の和訳もしておらず、パスポートや在留カードのコピーもしていません。

私が必要書類を並べ立てると、JさんはあっさりT大学への出願をあきらめてしまいました。KCPの書類だって、担任の先生を拝み倒せば12日までに何とかなります。明日は授業がありませんから志望理由書などの書類作成に集中できます。それを金曜日の朝に学校まで持って来れば(Jさんの家は学校の近くなので、十分可能)、担任の先生の最終チェックを受けて、遅くとも夕方には郵送可能です。そのぐらいのこと、今までに何十人もの学生がやってきました。そして合格をつかみ取ってきました。しかし、Jさんはやるべきことの多さ(?)に気持ちがなえて、旗を巻いてしまったのです。

去年のまだ暑さの盛りの頃から計画的に動けと言われてきたはずです。先送りのあげくが、これです。今まで、自分で自分のことをしなくても、誰かがしてくれたんでしょうね。日本留学も、親か親戚かの言いなりで、主体性がなかったのかもしれません。だとすると、日本語力不足などよりはるかに手ごわい症状です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

森さんと同じ?

2月9日(火)

先週来、オリパラ組織委員会の森会長の発言が問題になっています。発言というよりは暴言に近く、内容は問題外です。多くの人が論評していますが、私は大坂なおみさんの意見が一番心に響きました。大坂さん自身、差別やら暴言やらと戦ってきた歴史があるからでしょう。

確かに、「いらんこと言うとらんでワシについてこい!」というトップダウン的なリーダーシップが必要な時もあるでしょう。でも、それは、3.11のような、本当の非常時に限られます(残念ながら、3.11の際にはこういうリーダーが現れず、10年たっても復興には程遠いのが現状です)。森会長が置かれている立場は、議論を尽くすことこそ求められます。その立場が理解できないのだったら、お年もお年ですから、後進に道を譲るべきでしょう。森さんが首相になったのは、ちょうど2000年のことです。もう過去の人です。

昨日の上級の文法テストを採点していたら、「彼は周囲の反対をものともせず、障害がある女性と結婚しました」という例文が出てきました。女性を議論の場から排除するかのような森会長の発言が問題になるのなら、この例文の、障碍者を結婚相手として避けたがる発想も問題です。結論として結婚したのですから、森会長の発言よりはいくらか光明が見えますが。

純粋に文法的観点からすれば、この例文はマルです。書いた学生に悪気があったとは思えません。しかし、悪気がないだけに、何かの拍子に誰かを傷つけるおそれが高いのです。あれこれ悩んだ末に、マルにしました。その上で、書いた本人にはフィードバックをしようと思っています。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

大差

2月8日(月)

上級クラスで文法のテストをしました。オンライン授業ですから、テストもオンラインです。学生の自室で受けるということは、教科書やノートは見放題ということになります。満点続出を防ぐひねくれた問題があるにしても、普通に勉強していれば80点ぐらいは軽く取れるはずです。

ひねくれ問題をものともせずに、満点近い点数をとったWさんやSさんはさすがです。授業で指名しても的を射た答えを返してくれるだけのことはあります。Yさん、Zさんもそのグループでしょう。不明な点はすぐに質問して解決するなど、前向きな態度が好成績につながっています。Cさんは、授業中の反応からは想像できない高得点でした。復習型の学生なのでしょう。

一方、Oさん、Iさん、Lさんはひどいものでした。出席を取る時だけ返事をして、あとは指名しても反応しなければ、ブレークアウトセッションになれば逃げてしまい、授業中何をしているかわかったものではありません。試験問題が教科書のどこから出ているのかすらわからなかったのではないでしょうか。ノートが真っ白けなのは、疑う余地がありません。

ボーダーライン上が、TさんやSさんです。応用問題はからっきしでしたが、教科書の例文に沿った問題で点を稼ぎ、かろうじて合格点を確保しました。教科書の使い方をしている分だけ、Oさんグループより上です。

要するに、勉強する学生はオンラインだろうと対面だろうと力を付けていくのです。オンラインだからと手を抜く学生は、伸びないどころか落ちていきます。最高点と最低点で4倍近い差が付きました。学期が始まって1か月なのにね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

王様がセンタク

2月5日(金)

「Aさん、次の例文を読んでください」「はい。『王様のような生活をしてみたいです』」「はい、じゃあ、みなさん、マイクオフのままでいいですから、私の後に一緒に読んでください。『王様のような生活をしてみたいです』…。じゃあ、Bさん、王様のような生活って、どんな生活ですか」「センタクします」「え、センタク? 王様は服を洗いますか。家族が着た服を洗うんですか」「いいえ、センタクです。…お金をたくさん使います。高い物を買います」

これをお読みのみなさんは、Bさんが何と答えようとしたかわかりますか。

「ゼイタク」でした。下々の民にしてみれば、王様の生活は贅沢に見えるでしょう。日本人の語感だと若干非難めいたにおいがしますから、例文のような「してみたいです」には合わないように思えます。しかし、そこは不問に付しましょう。Bさんなりに「王様のような生活」をあれこれ考えて「贅沢」という言葉にたどり着いたのだとしたら。

けれども、「センタク」という発音は許せません。発音が悪いにもほどがあります。KCPの学生の超ヘタクソな日本語によって日々訓練されている私ですら理解できなかったのです。普通の日本人に通じるはずがありません。パソコンのマイクにせいで済まされるレベルではありません。漢字が読めないか、「ゼイタク」と発音しているつもりでも「センタク」となってしまうのか、いずれにしても根が深いです。

対面授業なら一文ごとにコーラスさせて、変な発音はすぐに発見し訂正させます。その繰り返しで1ミリずつでも滑らかな日本語へと近づけられます。それが充分にできていないのが現状です。

Bさんも進学希望ですが、今年の秋ぐらいまでに面接にたえ得る発話力が得られるでしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

春一番の日に

2月4日(木)

観測史上最も早い春一番が吹いたそうです。お昼を食べに外に出た時、確かに強い風は吹いていましたが、暖かいとは思いませんでした。御苑の方から吹いていましたから南風でしたが、肌を刺す力は衰えておらず、春には程遠い感じがしました。

午後、教室でオンライン面接練習をしました。午前中使っていない教室でしたから、壁も床も椅子も机もキンキンに冷えていました。すぐにエアコンを入れ、風の強さを最高にし、どうにか練習ができる教室環境を整えました。KCPの教室は、道路に面している方は北向きで、廊下を挟んで反対側は窓を開けたらマンションで、いずれにしても日が差し込みにくいです。だから、使っていない教室は寒いのです。教室は、まだまだ冬真っ盛りです。それに加え、学生がいませんから、校舎全体がうすら寒いです。人間が放散する体熱ってバカにならないものだと、妙なところで感心させられています。

Kさんは。明後日がそのオンライン面接です。昨シーズンは留学生入試の面接をオンラインで行った大学は0に近かったですが、今シーズンは、夏の早稲田大学を皮切りに、オンライン面接が過半数ではないかという気がします。現状に鑑みれば、2・3月の入試はオンラインがほとんどなんじゃないでしょうか。

人にはそれぞれ得手不得手があるものですが、オンライン面接も想像よりずっと上手にこなす学生がいる一方で、カメラを通すと精彩を欠いてしまう学生もいます。Kさんは前者のようで、実にのびのびと受け答えをしていました。マイクのせいで聞き取りにくいことはありましたが、回答の内容は志望校の面接官を満足させられるのではないかと期待できるものでした。

Kさんは、自分の部屋でオンライン面接を受けるそうです。まさにホームゲームです。確実に勝ち点をゲットして、心の春を迎えてもらいたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

面接も読解も

2月3日(水)

午前中、午後クラスの学生の面接練習をしました。やっと中級になったくらいの学生たちですから、上級の学生に対するようなわけにはいきません。学生が緊張するようにプレッシャーをかけたのでよけいにいけないのでしょうが、「簡単に自己紹介してください」と聞くと、名前と出身地だけという、本当に簡単な自己紹介になってしまいました。やっぱり、何か一言でいいですから、自分を特徴づける、売り込む言葉がほしいですね。

Rさんは2度目ですが、プレッシャー下では覚えたことを答えるのが精いっぱいのようでした。それでも前回よりは内容の伴った答えになっていましたから、少しは進歩しています。自分の学びたいことが伝えられるようになっていましたから、光が見えてきました。本番までもう少し時間がありますから、一段階ずつ登っていきましょう。

経営学部志望のYさんは、中小企業診断士の資格を取りたいと言いました。大学院まで進学して、修了後は帰国して、中小企業が多い故郷の街の経済を支える人材になりたいと、拙い日本語ながらも将来構想を語ってくれました。今まで多くの学生の面接練習で面接官役をしてきましたが、こういう答えは初めてでした。経営学部といえば、みんな起業したりMBAを取ったりしたがります。その中で中小企業を支えることで地域貢献したいという目標は、大いに輝きます。

午後はRさん、Yさんのクラスを担当しました。う~ん、2人とも、読解も文法もまだまだだなあ。面接の受け答えだけ上手になっても、進学してから教科書が読めなかったら勉強どころじゃありませんよ。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

いい陽気ですね

2月2日(火)

初級クラスの漢字の時間に、「陽」の字を教えました。「陽」を使う熟語として「陽気」が挙げられていました。「陽気」には形容詞の用法と名詞の用法があります。形容詞の方は、教科書に出ている英語訳が“cheerful”、中国語訳が“快活的”となっており、「トムさんは陽気な人です」という例文も、まあ問題ないでしょう。

もう一方の名詞の「陽気」の英語訳は“weather”、中国語訳は“天気”となっていました。「天」の字を勉強した時に日本語の「天気」を勉強しており、その英語訳、中国語訳も“weather” “天気”でした。これだと、陽気=天気になってしまいます。

例文として出ている「いい陽気になりましたね」は、日本人の感覚では、絶対に「いい天気になりましたね」と同じではありません。後者は「晴れました」「青空が広がりました」に近い意味ですが、前者はそういう意味ではありません。2月の初旬に「いい陽気になりましたね」と言ったら、「暖かくなりましたね」でしょう。

じゃあ、天気と陽気は何が違うのでしょう。「東京は、5月が1年でいちばん陽気がいい」と言ったら、過ごしやすいという意味です。そもそも、「悪い陽気」とか「陽気が悪い」とかって、あまり言わないんじゃないでしょうか。「じめじめした陽気」ということもありますが、一般には「快適」というのが暗黙の了解になっていると思います。

お天気マニアとしてはいい加減に済ますことができませんから、無理を承知で初級の学生にそういう話をしました。しかもオンラインですから、こちらの気持ちがどれだけ伝わったかはなはだ心もとない限りです。初級担当のT先生がご覧になっていたら、即刻授業停止命令が出たことでしょう。

朝はけっこうな雨が降ってどうなることかと思いましたが、午後からはいい陽気になりました。124年ぶりの節分にふさわしい2月2日でした。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

画面の向こう側

2月1日(月)

オンライン授業の悩みの1つが、学生がどこまで本気かわかりにくいことです。すぐに顔を隠す学生が怪しいのは言うまでもありません。ですから、顔が出ていない学生はどんどん指名します。顔を出している学生も、部屋でぼんやりしているだけかもしれません。油断できませんから、顔が出ていても動きが少なかったら「はい、〇〇さん」と抜き打ちをかけます。

指名されても何をしたらいいかわからなかった学生は、1回は見逃してやります。しかし、2日目からは「はい、授業を聞いていませんでしたね。欠席です」と冷たく言い放ちます。指名に対して返答がなかったら、「××さん、いませんね。欠席ですね」と言って、欠席にします。何も言わずに欠席にしてもいいのですが、授業を聞いている学生に向けて、「授業に参加しないと欠席になるんだよ」と警告を発する意味も込めています。

そして、文法などの例文をチェックすると、授業を聞いていたかどうかは如実にわかります。特に上級は、単にどこかの例文集から引っ張ってきただけではうまくいきません。私の例文は要求度が高いですから、状況説明が足りないとか動作主がはっきりしないとか、理屈と膏薬はどこへでも付くさながら、ビシバシ文句を付けます。そういうろくでもない例文ばかりだったら、やはり授業を聞いていないと見なします。

これだけ学生を痛めつけても、zoomに名を連ねるだけの学生は少なくなりません。私たちも楽しい授業をと思っています。しかし、そういう流れをせき止めるような態度を取られると、強硬手段に出ざるを得ません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ