合格と出願不能

10月3日(土)

昨日の帰宅間際にメールをチェックしたところ、CさんからW大学に受かったという報告が入っていました。Cさんの実力なら受かったとしても不思議はありません。何はともあれ、「おめでとう」の返信メールを送りました。

Cさんは好奇心の強い学生です。なんにでもちょっかいを出してみようという精神にあふれています。私宛に時々質問メールが来ましたが、受験勉強に関する事柄だけでなく、日本語そのものや日本社会・文化に関する日ごろの疑問をつづったものもありました。昨日の合格報告のメールでも、三島由紀夫のこんなことが書かれている小説は何かと聞かれました。私が知っている範囲でそういう内容のものはありませんでしたから、わかりませんと答えるほかありませんでした。

その対極にいるのがRさんです。RさんはF大学を目指しています。その提出書類に学業以外の活動を書き表すものがあるのですが、これが書けなくて困っています。部活動、生徒会活動、ボランティア活動、そういった経験が全くなく、書きようがないのです。でっちあげるという手もありますが、そんなことをしたところで、面接などで簡単に見破られてしまいます。

Cさんなら学校公認の活動ではなくても、その手のネタには事欠かないでしょう。また、それを読み手であるF大学の先生方の興味を引くように表現する術も持っています。うまくすると、そこで面接が盛り上がって、合格してしまうかもしれません。

悲しいかな、Rさんは国にいた時から勉強しかしてきませんでした。それを責めるつもりはありませんが、少なくともF大学の求める学生像とは違うようです。無理してF大学に進んでも、4年間苦しむだけのような気がします。今のRさんをそのまま受け入れてくれる大学に進むのが、結局Rさんの幸せにつながるのではないでしょうか。

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準備が進む

10月2日(金)

期末テストが終わって1週間余りですが、来週の金曜日はもう新学期です。始業日の時点で新入生は入ってきませんが、新たな気持ちで在校生を迎える準備は抜かりなくしておかなければなりません。

その準備の一環として、午後から教室の掃除をしました。机などは、毎日の授業の後に、消しゴムのかすを集め、消毒のアルコールを吹きかけて拭いていますから、さほど汚れていないはずです。それでも、丁寧に見ていくと消しゴムのかすが残っていたり、飲み物を置いた跡が浮かび上がってきたりなど、拭き掃除に使った雑巾がいつの間にか薄汚れていました。

意外に汚れていたのが、各教室のモニターです。ほぼ垂直に立っているのですからごみやほこりなどがたまる余地などないはずです。しかし、静電気が発生して空気中の微粒子を引き寄せているようで、よく見ると画面全体がうっすら何かに覆われているようでした。そういう汚れは乾拭きすれば取り除けたのですが、ある教室の画面だけ、液体が飛び散ったかのような跡が付いていました。映し出された画像・映像を見るのに支障をきたすほどではなかったのか、学期中モニターが汚いというクレームはありませんでした。でも、明らかに汚れており、乾拭きでは取れませんでしたから、そこだけ洗剤を付けて拭き取りました。

それにしても、何の汚れだったのでしょう。コーラか何かのふたを開けた時に中身が飛び散ったのでしょうか。でも、炭酸飲料は教室内で飲んではいけないことになっています。もしそうだったとしたら、汚れがべとついて黒ずんで、教室の先生が気付いたでしょう。学生が汗を飛び散らせるほど暴れ回ったとは考えられません。どのクラスの学生も、教室内ではおとなしすぎるほどでした。傘のしずくを飛ばした学生がいたのでしょうか。でも、跡が付いていたのは私の背よりも高い位置ですし、そもそも傘は校舎に入るときにきちんとたたむことになっています。

結局原因はよくわかりませんでしたが、新学期の準備は着々と進んでいます。

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磨き上げる、研ぎ澄ます

10月1日(木)

月が替わり、10月期が始まりました。それと同時に日本語教師養成講座も新規受講生を迎えて開講しました。

私はいつも通り文法の講義を受け持ちます。初めのうちは、受講生の思考回路を変えることに力点を置きます。文法に敏感になる、何気なく聞いたり読んだり、いや、もっと受動的に自然に目や耳に入ってきた日本語の中から「あれっ」とか「おや?」とか「ちょっと待って」とか感じた言葉の使い方を拾い上げる感覚を身に付けてもらいます。そして、何がその違和感の元なのか分析し見極める感覚を磨くことが、日本語教師には不可欠だと思っています。

初回のネタには、ある新聞記事を使いました。助詞の使い方が悪いため誤解が生じかねない見出しの実例です。記事に出ていた1つは私も見かけてこれはひどいと思っていたものです。私がわざわざ取り上げたくらいですから、受講生のみなさんはみんな何がどう悪いのか気づきましたが、そういう心構えなしでこういう見出しに触れていたら、知らず知らずのうちに、文法的ではないけれども合理的な意味に解釈してしまったに違いありません。

確かに、文法的には変でも、話し手・書き手の言わんとしていることが感知できれば、その発話や文の文法性についてとやかく言うことはめったにありません。もちろん、誤解が生じたときは助詞が間違っているとか多義的に解釈できるとか、文句は言うでしょう。日常生活においては、それで全く問題ありません。というか、敢えて波風を立てることはしないでしょう。しかし、日本語教師の仕事は言語的に日常生活ではありません。一般庶民とは違う次元の空間に存在しています。その空間を自由に漂い、ましてやお金を得ようというのなら、その方面の感覚を研ぎ澄ますことが求められて当然です。

これから2週間ほどは、養成講座講師の日々が続きます。帰る前に明日の資料の準備をしておかなければ…。

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伝わる

9月30日(水)

今学期も始業日までに新入生が来る見込みはありませんが、留学ビザを持っている外国人の入国が少しずつ認められそうだということで、KCPに入学予定の学生に進学オリエンテーションを開きました。新入生本人は外国にいますから、もちろんオンラインです。日本語学校入学前ですから通訳付きです。

初対面でだれがどんな計画を持っているかもわかりませんから、初回は一般論です。今までのKCPの新入生たちがよく勘違いを起こしていたところを中心に、大学や大学院への進学についての心構えや準備しておくべきことなどから話していきました。

一番強調したのがコミュニケーション力の強化です。テストではいい点が取れるのですが、話がさっぱり通じない学生がいます。こちらの言いたいことも学生に届かなければ、学生の言わんとしていることも理解できません。しかも頭が固いとなったら、指導のしようがありません。日本語教師ですらお手上げなら、大学や大学院の先生方がそんな学生に貴重な時間を割いて丁寧に指導してくださるわけがありません。運良く入試を切り抜けたとしても、その先の運命は開けてこないでしょう。

コミュニケーション力は、日本語学校で鍛えられるものではありません。母語でもっても相手の意図するところがつかめない人が、外国語である日本語でどうして意思疎通が図れるでしょう。日本へ来るまでの間に、せめて相手の気持ちを理解しようという姿勢だけは鍛えてきてほしいです。同時に、相手に自分の気持ちや考えが伝わったかどうか感じ取れるようになってもらいたいです。

と、学生たちに多くを望みましたが、一方的なオンラインの話でどれだけ伝わったでしょうか。ZOOMの小さい画面だけからは、反応が今一つつかめません。これからもう何回かオリエンテーションをしていきます。少しずつこちらの考えをしみこませていこうと思っています。

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朝寝坊

9月25日(金)

朝からA先生が怒っていました。9時半にT大学の志望理由書と学習計画書を書いて持って来ると約束したHさんが、一向に現れないからです。会議の時間が迫ってきたのに、Hさんからは連絡すらありません。怒るなという方が無理な相談です。「こってり油を絞ってくださいね」と私に後事を託して、A先生は会議に行ってしまいました。

私は進学資料作りやデータ処理など、パソコンの前でする仕事をしながらHさんを待ちました。予定していた進学資料ができあがっても、まだ来ません。それに関連した調べ物をたっぷりしましたが、待ち人来たらず。そろそろお昼に行こうかなあと思い始めた1時半になって、やっとHさんが職員室に。

「遅刻しちゃいけないと思ってスマホのアラームをセットしたんですが、月曜日の8時にセットしてしまったんです」と言い訳されましたが、スマホのアラームは曜日ごとに設定できるのかと妙なとことに感心してしまいました。私はそういうのに頼らなくても目が覚めちゃうたちなので…。

「で、昨夜は何時に寝たの?」「2時です」「目が覚めたのは?」「11時でした」

2時と言えば、私はそろそろ起きようかという時間です。受験生ですから、2時まで一生懸命勉強していたのでしょう。でも、睡眠時間9時間はいかがなものでしょう。

本題の志望理由書と学習計画書はというと、朱の入れようがないほど内容ゼロでした。すでにA先生から1度指導を受けて書き直したはずなのですが、自己主張がまるでありません。文法的な誤りはありませんでしたが、読んでも何も頭に残りませんでした。A先生と同じことを言ったかもしれませんが、志望理由書や学習計画書を書く時のポイントをレクチャーしました。

出願は来週末だそうです。まだ少し時間がありますから、T大学の先生方の胸を打つような文章に仕上げてもらいたいです。いや、それよりも、早寝早起きの習慣を身に付けてもらうことの方が先でしょうね。

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使用語彙を増やそう

9月24日(木)

来月からまた日本語教師養成講座の授業を受け持ちます。私が担当する授業の中に、日本語の語彙に関する部分があります。日本語は他の言語に比べて日常使われる語彙数が多いという話をします。日本語の単語のルーツには、和語、漢語、それに外来語があり、また、話し言葉と書き言葉の違い、かたい場面とくだけた場面での言葉遣いの違いなど、語彙が増える要素ばかり目立ちます。日本語は、アルファベットの言葉の3倍くらい単語を覚えないと、語彙的に同じレベルにならないそうです。

このことは、当然、学習者にとっては重荷になります。日本語は、動詞の活用が規則的だとか、修飾語は被修飾語の前に来るとか、文法は決して難しくありません。だからとっつきやすいのですが、しかし、覚えるべき単語が続々と湧いてきて、上達しようと思うと、底なし沼にはまるがごとき様相を呈してきます。

KCPの学生も状況は全く同じで、昨日の期末テストでは、超級の学生たちもみんな語彙で討ち死にしました。漢字の読み書きに関してはかなりのレベルに到達している学生も、その読んだり書いたりできる漢字の言葉を正しく使えるかというと、残念な答えにしかなりません。これぐらいは正解してくれるよねと思った問題でも、実にあっけらかんと間違えてくれます。

読解のテストはそこそこの点が取れていますから、理解語彙はけっこうあるのでしょう。しかし、使いこなせる語彙となると、まだまだなのです。努めて語彙を増やす方向に授業を持って行っているつもりですし、短文作成などで使うチャンスも与えているはずなのですが、どこか何か足りないのでしょう。

かろうじて合格点くらいの答案に囲まれると、学生たちから責められているみたいです。

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入ってくるかも

9月23日(水)

今朝の朝日新聞の記事によると、1日1000人のオーダーで長期ビザを持っている外国人の入国が緩和されるそうです。その後、日経でもNHKでも同様の報道がなされましたから、おそらく、近い将来、そういう方向に国の方針が動くのでしょう。

留学生も例外ではないと言いますが、日本語学校の学生にまで順番が回ってくるには時間を要するでしょう。1日1000人ですからね。ビジネスが最初でしょうから、私たち下々がその恩恵にあずかるのは、だいぶ先のような気がします。アベノミクスでは実現しなかったトリクルダウンがいつになるか、すぐには見通しが立ちません。

そうは言っても、準備をまるっきりしないわけにはいきません。一斉に入国するのではなく、ぱらぱらと来日し、2週間の待機期間が終わり次第ぽつぽつと入学するのでしょう。入るレベルもばらばらでしょうから、今までにない対応が求められます。

何よりも、日本語学校には最長で2年までしか在籍できないというルールがそのまま適用されるとすると、進学の準備を急がなければならないという問題が持ち上がります。10月期の半ば以降に入学となると、実質的に5学期でKCPを卒業し、大学や大学院に進学しなければなりません。9月入学がいつの間にかどこかへ消えた今となっては、2022年4月に進学というのが現実的なラインなのです。入試はその半年ほど前ですから、それまでにしかるべき日本語力を付けなければなりません。

経営的にはもちろんのこと、日本語を教え、日本での進学を指導していく上でも難しい運営をしていかなければなりません。在校生の進学指導もこれから佳境ですし…。

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ひねりに耐える

9月18日(金)

今学期大学進学クラスでずっとやってきた聴解の授業のまとめをしました。EJUの過去問をさせたんですが、クラス全体でできのいい問題と、できの悪い問題と、傾向がはっきり分かれました。当たり前の話ですが、問題の中に出てきた言葉や文がそのまま選択肢に出てくると成績がよく、ひとひねり入るとちょっと下がり、ふたひねり入ると正解者が半分ぐらいになり、さらにひねられるとまぐれ当たりと変わらない正答率になります。ひねりまくっている問題は、スクリプトを読解の問題として出しても、かなりの学生が間違えるんじゃないかと思いました。

ひねりまくりの問題は、中級の学生あたりは捨ててもいいんじゃないかな。そんなに数が多いわけではありませんから、「ああ、わからなかった」と潔くあきらめることも戦術です。わからなかった問題、できなかった問題についてくよくよしていると、次の問題、その次の問題に悪影響を及ぼします。気持ちを切り替えて新しい問題に取り組むことが肝心です。

上級とか超級とか、いわゆる上位校を目指す学生は、そう簡単に問題を捨てるわけにはいきませんから、どうにかこうにかくらいついていかなければなりません。ひねりに耐えられる聴解力がある学生が、上級とか超級とかだとも言えます。そのためには、音を聞き取る力はもちろんのこと、その音から単語、単語から文、文から文脈と、理解を面的に立体的に展開していく力を養成する必要があります。それは語彙力でもあり、想像力でもあり、社会性でもあると思います。

来学期の目標ができました。10月期が始まったら、EJUまで1か月です。

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初みかん

9月17日(木)

今学期最後の授業を終え、教卓まわりの片づけをしていると、Mさんが面接練習をしてくださいと言ってきました。I先生から引き継ぎを受けていましたから、すぐに始めました。

部屋の入り方もきちんとできているし、声もよく通るし、姿勢も背筋をピンと伸ばして見事なものだし、視線も泳いでいないし、外観は合格です。答えも、大きな破綻はありませんでした。ちょっと文法を間違えたり、文が滑らかに言えなかったりもしましたが、コミュニケーションに影響を及ぼすものではありませんでした。しかし、インパクトがないのです。

志望理由も大学で勉強したいことも将来の計画もそれなりに言えています。不可ではないという意味で、10人の中の5人には残れるでしょう。しかし、このままでは10人の中の1人にはなれません。自分を売り込むという要素が乏しいのです。面接官の記憶に残る何かがなく、平板な印象しか与えません。

Mさんにそういうことを指摘すると、本人もうすうすとは感じていたようで、盛んにうなずいていました。本番の面接は来月に入ってからですから、答えを組み立て直す時間はあります。学期休み中にもう一度やることになるでしょうね。

面接練習を終えて食事に出た帰り道に近くの青果店をのぞいてみたら、信号機や山手線なんか問題外の緑色のミカンが店頭にあるではありませんか。待ちに待った酸っぱいミカンです。もちろん、即、買いました。ハウス物はだいぶ前から出回っていましたが、私は毎年露地物が出るのを待って、そのシーズンの初物を買います。お店の人の話によると、今シーズン初入荷とのことでした。今晩、うちで早速食べてみます。Mさんの面接の答えにも、緑色のミカンのような聞き手をキュッとさせるくらいの刺激が加わることを祈りながら…。

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水曜の朝のお楽しみ

9月16日(水)

土曜日から4連休で、連休明けの来週水曜日が期末テストですから、今週が実質的に今学期の最終週です。水曜日に担当してきた最上級クラスも、どうにか最後の授業を迎えることができました。このクラスはオンラインでしたから、学生と顔を合わせたのは中間テストの試験監督の時だけです。その時は全員マスクをしており、オンラインの時はマスクを外していますが、モニター上に各学生に割り当てられた豆粒ほどの画面では、顔をしっかり覚えるには至らず、学校の外で会ってもわからないでしょうね。

このクラスの授業は、語彙と文法が中心でした。毎週水曜日の朝はその下調べをすることになるのですが、その時間が今学期のひそかな楽しみでした。単語一つをとっても、学生たちが辞書で調べただけでは気付かないニュアンスを付け加えたり、関連語を付け加えたり、単に問題の答え合わせをしておしまいにはしませんでした。学生が知らないと思われる用法も紹介しました。超級クラスですから、日本人と同じレベルの話がガンガンできるのがうれしかったです。

文法も意味を教えるにとどまらず、類似表現との違いにも触れました。学生たちに間違った例文を書かせないということを目標にしていました。ですから、学生が提出してくる例文は私の授業の成績表でした。最上級クラスだけあって、理解は早いです。でも、違和感のある使い方が毎回散見されました。そういうのを見つけると、戦いに敗れたような無念さを感じました。

こういうふうに、単語の意味や文法についてねちこち調べるのは、私は大好きです。水曜日の朝は、至福の時間でした。

最終回の例文は、私の勝ちだったかな。みんな要点をつかんだ例文を書いてくれました。

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