よくそうにつかう

6月16日(火)

先週に引き続き、中級でもできるクラスの聴解の授業をしました。そのセリフの中に、「~浴槽につかることが好きな人が~」ということばがありました。学生たちは、これを「~浴槽につかうことが好きな人が~」と聞き取ってしまいました。精神を集中させて聞かせても、全学生が「浴槽につかう」と聞き取るのです。

いかにできるとは言っても、中級の学生にとって“つかる”は未知の語彙でしょう。一方、“つかう”は初級の語彙で、今まで数えきれないほど書いたり話したり聞いたり読んだりしてきたはずです。ですから、“つか…”と耳に音が入ってきたら、“…”に当てはまる音は“う”であっても“る”など想像もできないに違いありません。学生たちの耳には確かに子音rが届いて鼓膜を震わせているはずなのですが、脳はそのr音を無視して情報処理してしまいます。

知らない単語は聞き取れないという典型例です。「浴槽」だって、学生たちには聞いてすぐわかる単語ではありませんから、「~浴槽につかうことが好きな人が~」は意味不明なセリフだったことでしょう。絵を描いて、これが「浴槽につかる」だと説明し、もう一度聞かせたら、ようやく学生たちは眉を開きました。

日本語は語彙が多い言語です。「浴槽につかる」だって、「風呂の中に入る」とか「お湯に浸る」とか別の言い方もあり得ます。それを網羅するには、ライシャワーさん並みに、それこそ日本文化にどっぷりつからねばなりません。入試までの短時日でそこまで至るのは不可能です。でも、可能な限り引き上げてやりたいと思っています。

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意欲×意欲

6月15日(月)

午後の授業後、進学コースの学生に対して、来学期の受験講座の説明をしました。いつもの学期なら、教室の椅子が全部埋まるか、それでは収まり切れなくて講堂で実施するかしていたのですが、今学期は普通の教室でも3密に程遠い程度の学生しかいませんでした。

でも、集まった学生たちはみな熱心で、私の話を、メモを取りながら聞いていました。初級で、こちらが何も言わないのにメモを取り始める学生は珍しいです。先生から言われていたのかもしれませんが、それでもそれがすぐにできるというのは、なかなか有望です。

また、質問があるかと聞いたら、全員が質問してきました。どれもが本質的な内容で、質問すべきことをまとめて来ていたのかもしれません。私の回答を聞いてそれに対してさらに質問を重ねるという、上級顔負けの議論もできました。もちろん、初級の学生がわかるようにですから、語彙や文法のレベルは下げましたが、確かな手ごたえのある質疑応答ができました。

今月から通学授業が再開されましたが、教室での授業がどうも滑らかに進みません。マスクをしていることで気分的に発言が控えられ、教師側も発話が多くなり過ぎないように抑えている面もあります。ですから、このように活発な質疑応答は本当に久しぶりで、わずかな時間でしたが、とても気分よく過ごすことができました。

こういう意欲あふれる学生たちを見ると、こちらも彼らの力になりたいという思いが湧き上がってきます。教師の意欲をたきつけるほどの学生です。その夢を何とかかなえてあげたいです。

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あさイチの冒険

6月13日(土)

関東甲信地方が梅雨入りしたおととい、朝、ちょっとした冒険をしました。最寄駅から3つ新宿御苑前寄りの駅まで約4キロを、マスクをしないで歩きました。“朝”といっても、みなさんの感覚よりもはるかに早い時間帯で、曙の頃です。ですから、人ごみの中を歩いたわけではありません。

新聞を読みながら朝食を済ませ、ちょうど4時ごろ出発。日の出は4:24でしたから、その約20分前で、上空の雲がどうにか途切れているのがわかる程度の明るさでした。だんだん明るくなっていく街を歩くと、なんだか希望が湧き出てきます。だから、私は好きですね。

こんな早い時間に歩いている酔狂な人などいないだろうと思っていたら、4キロの間に10人ぐらいいましたね。散歩とかジョギングとかの人もいれば、自転車に乗っている人にも出会いました。スーツにネクタイではありませんでしたが、半袖のワイシャツに大き目のかばんという私の姿は、そういう人たちの目にどう映ったでしょう。

マスクをしている人としていない人と、半々くらいでした。半径2m以内に人がいなければ、マスクをしなくてもうつしたりうつされたりする恐れはないと言いますが、すれ違う時でも十分それくらいの距離を取ることができました。そうです。私はマスクをしない日常に戻る第一歩を記したかったのです。速足で歩き、久しぶりに、外の空気を鼻から直接、マスクを通さずに吸いました。明け方なのに車が多い幹線道路に沿って歩きましたからおいしいとまでは言えませんが、早朝のしっとりひんやりした空気は、鼻にも肌にも心地よかったです。

目的地に着いたら、地下鉄駅の入り口でマスクを装着。冒険は40分ほどで終わりました。

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声の本能

6月12日(金)

今朝、玄関のドアの鍵を開けて職員室に戻ろうとしたら、N先生がそのドアを開けて入って来られました。N先生のクラスは、先週の金曜日はオンライン授業でしたが、今週は教室での授業ですから、おいでくださったというわけです。N先生が出勤なさったのは、2月末以来、3か月半ぶりです。だからでしょうか、どことなく懐かし気にロビーを見渡していらっしゃいました。

気になったのは、声の張りでした。今までほどの響きがないように感じました。「うちにこもっていると、大きな声を出す機会がないから…」とのことでした。確かにそうですね。ご自宅でしたら、話す相手はせいぜい数人のご家族だけでしょう。教室では20人を向こうに回しますから、自ずと発声法が違ってきます。

オンライン授業だって、パソコンのマイクに声を拾わせればいいのですから、そんなに大きな声を出す必要はありません。理屈の上ではそうなのですが、やっているうちにいつの間にか大声を張り上げています。そして、授業が終わると、どっと疲れが出てくるのです。これは私だけではなく、KCPの先生はみんなそうです。オンライン授業の最中に廊下を歩くと、あちこちの教室から先生の声が響いてきます。教師とは、授業となると本能的に声が大きくなる生き物なのでしょう。N先生も、きっと、教室ではかつての美声で授業をなさったことでしょう。

今学期の授業は、来週で終わりです。東京はステップ3に入りましたから、このままいけば来学期は教室での授業が増えるのではと期待しています。その際には、今学期授業をお願いしなかった先生方にご登場いただくこともあるでしょう。先生方、のどのご準備はいかがですか。

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いざ臨戦態勢

6月11日(木)

早稲田大学の出願日が近づいてきたので、出願説明会を開きました。去年は教室に学生を集めて行いましたが、今年はもちろんオンラインです。本当は、目の前で書類を作らせたり卒業証明書や成績証明書などを持って来させて確認したりしたいところですが、まあ、しょうがないですね。

早稲田大学は毎年出願が早く、その年の6月までのEJUを利用してきました。今年は6月が中止になったため、6月のEJUの出願証明書提出で受験できることになりました。上智大学や青山学院大学が19年11月までのEJU利用と決定したのに対し、実に太っ腹です。その太っ腹ぶりに甘えて、受験生が集中することも考えられます。どの学部学科も、競争率が高くなるでしょう。

早稲田大学は、日本で一二を争う留学生の多さを誇っています。そういうプライドがあるため、懐の深いところを見せたのかもしれません。今回の対応で、確固たる信念を持って留学生を受け入れているんだと感じさせられました。留学生が多すぎて細かいところまで目が届かないのではないかと疑ってもいましたが、きっとそんなことはないのでしょう。

早稲田大学の受験生のデータを見ると、合否決定に占めるEJUのウェートはさほど高くないと思われます。むしろ、TOEFLなどの成績のほうが重視されている気すらします。今年も、EJUの成績はなくても、英語の外部試験の成績は必須としています。ですから、たとえEJUの成績がなくても、独自試験や英語などの成績で、自分の大学の校風に合った能力の高い留学生が選べるという自信があるのでしょう。

来週あたりから、志望理由書を見てくれという依頼が増えそうです。覚悟しとかなくちゃ…。

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気の迷い

6月10日(水)

受験講座の理科をずっと受けてきたGさんが、突然経済学部を志望すると言い出したという話を担任のA先生から聞き、授業後に呼び出してもらいました。

Gさんは、科学一般について非常に興味を持っていて、知識もかなり深いです。理科の各科目に対する勘も鋭いので、EJUの過去問も記述式の問題も、かなりできます。現に去年の11月のEJUでは、初級で受けたにもかかわらず、理科は校内で1、2を争う成績でした。日本語がまだまだの状況でしたから、この春ではなく、来年の春の進学を目指すことにしました。今学期に入ってから話した時も、自分の好きな理科の勉強ができる大学に進むと言っていました。そのGさんが経済学部と言い始めたといいますから、びっくりしました。

呼び出して話を聞いてみると、大学で専門的に勉強しようと思っていた分野は就職が難しそうだから、経済学部に進路を変えようと思っているとのことでした。大学、大学院と進学して、そのまま大学に残って研究を続けるのは、競争が厳しすぎて将来が見通せないと言います。一般の会社に就職して安定した生活を送りたいので、それなら経済学部がいいだろうと思ったそうです。

確かに、博士号を取り、そのまま研究を続けて教授にまでなるというのは、生半可なことではありません。しかし、研究なら企業でもできます。企業の研究は商品という形で社会に直結しますから、手ごたえもやりがいも感じられます。もちろん、企業は利潤を追求しますから、学問的興味だけで研究を続けることはできないかもしれません。競争だって大学の中よりも厳しいでしょう。でも、ビーカーやフラスコではなく、プラントで物を作ります。万ではなく億のお金を動かします。そういう快感を若いうちから味わえるのが企業の研究です。

どうやら、6月のEJUが消えて目標がなくなり、余計なことを考え始めたというのが真相のようです。Gさんは、また、理科オタクの道を歩み始めました。

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じっくり聞きましょう

6月9日(火)

教室での授業でも、換気をよくするため、ドアと窓を開けて行っています。隣のビル工事の音が入ってくることもありますが、教室内に空気がよどまないことを優先しています。しかし、聴解の授業となると、そういうわけにはいきません。確かに騒音の中での発話を聞き取らねばならない場面に出くわすことも多々ありますが、中級の学生にそこまで要求するのは酷というものです。

オンライン授業中も聴解の授業を行ってきましたが、学生たちの家のWeb環境によっては、音声が途切れてしまうこともあったそうです。教室なら学生の顔色をうかがいながら、聞き取れなさそうな個所を繰り返し聞かせたり、この言葉を教えれば理解が進むはずだという言葉を板書したり、小技がいろいろと使えます。

「じゃあ、始まます。聞いてください」と言って問題の音声を流し始めたら、1/3ぐらいの学生が何もせずに聞いていました。オンラインの時も、メモを取りながら聞くようにという指示を与えていたはずですが、この1/3の学生たちは、自分の部屋でボーっと聞いていたんでしょうね。できる学生を集めたクラスだと言われていたのですが、それでもこの程度です。他のクラスはどうだったのでしょう。

音声ファイルを送って学生に自宅学習してもらうというパターンもありますが、教師が補助線を引いてやらないと、何回繰り返して聞いても疑問点が解決しないこともあります。また、そういう切り分けが、オンライン授業や反転学習の長所を際立たせるのです。来週の火曜日も聴解の授業です。そんなあたりをもう少し深く考えて、授業を組み立てていきたいです。

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注目はオンライン?

6月8日(月)

今年の就職戦線は、オンライン面接が主力になっているそうです。昨シーズンまでの対面の面接(という表現も変ですが…)とは多少勝手が違うようで、身振り手振りを大きめにした方がいいとかという対策がどこかに書かれていました。内定率がいくらか低めで、これからが本番という方も大勢いらっしゃることでしょう。オンラインだと、地方の大学の学生はわざわざ東京まで出てくる必要がなく、ハンデが少なくなるのではないでしょうか。そういう意味では、就活のあるべき姿に近づいたとも言えます。

S大学から指定校推薦の要項が届きました。出願も試験も11月ですが、試験はオンライン面接となっていました。去年までは、もちろん、学生がS大学まで出向いて面接試験を受けていました。S大学は、前期の授業はすべてオンラインで行うとホームページに出ていました。ですから、5か月以上先の面接試験ですが、オンラインにすることは自然の流れだったのでしょう。

私もすべての大学の入試について調べたわけではありませんが、S大学よりも試験が早い大学でも、オンライン面接とはっきりうたっているところは少ないように思います。でも、今シーズンはS大学同様、オンラインでの面接に切り替えるところが出てきても不思議はありません。

今後そういう流れが強まるとすると、こちらもその対策を打たなければなりません。実物の教授が目の前にずらっと並ぶわけではありませんから、その分、学生はプレッシャーを感じなくてすむかもしれません。しかし、言語不明瞭で言いたいことが伝わらなくなる危険性は高まりそうです。

そういう意味で、就職戦線から目が離せなくなりました。

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3か月ぶりの快感

6月5日(金)

オンライン授業の3か月間、私のペンケースに異常が見られました。赤ペンのインクがさっぱり減らないのです。1か月に1本か、もしかするともっと激しく使っていたかもしれませんが、最近はとんとご無沙汰しています。去年、うちの近くのホームセンターで値引きをしたときにたくさん買い込んだのですが、それが袋に入ったまま職員室の机の引き出しに陣取っています。

今週から対面授業が始まりました。宿題のチェック、テストの採点、例文の直し、作文の添削と、久しぶりに赤ペンを握る機会が増えました。インクが目に見えるほど減ったわけではありませんが、線を引いたり、〇を付けたり、思いっきりペケにしたり、学生が書いた字の上に書きこんだり、2月までと同じように活躍しています。

学生にとってはどちらがいいのでしょうか。Google form上で電子的に採点されたり直されたりするのと、紙の上でアナログ的に赤を入れられるのと。

教師としては、記録を取っておきやすいという面では、コンピューターで処理する方が便利です。学生間の比較もすぐできますからね。しかし、私のようなアナクロなアナログ人間は、赤ペンを握った方が直したという実感が得られます。また、コメントの文字を荒らげることで「何考えとるんぢゃ!」とかって、内心の怒りを表すこともできます。

昨日学生に書かせた作文の添削をしました。最初に読んだKさんのは、“おっ、なかなかやりよるのお”という感じでした。この調子なら楽勝かなと思ったのも束の間、次のCさんので失速沈没しました。でも、真っ赤に染まった原稿用紙を見ていたら、なぜか快感が湧いてきました。

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大量不合格

6月4日(木)

おととい入ったクラスで漢字のテストをしました。過半数が不合格という悲惨な結果になってしまいました。また、学期の後半なら試験時間を大幅に余らせて手持ち無沙汰にしている学生が何名かいるのが通例ですが、そういう学生は1人だけでした。その学生は、90点でクラス最高点でした。日々の漢字の授業で勉強した単語をそのまま出していますから、満点が数人いるのが普通です。

オンライン授業だと、シャープペンシルを手に持って書くという練習が、どうしてもおろそかになります。パソコンなどで文字を打ち込むことはかなり上達したようですが、この3か月間、手で文字を書くという行為をほとんどしてこなかったのではないでしょうか。中国の学生の答案には、簡体字があちこちに見られました。漢字の読みも不正確でした。音読するようにと指導しているのですが、きっとしてこなかったんでしょうね。

作文の授業もありました。原稿用紙を目の前にするのもやはり3カ月ぶりでしたから、なかなか筆が進まなかったようでした。この時期の中級クラスなら、30分で400字くらい楽勝のはずなのですが、時間内に提出できたのが2名でした。その2名も、400字にちょっと欠ける長さでした。

要するに、書き慣れていないんですよね。書くのが遅く不正確になりました。このままだと、入学試験が心配です。志望理由書などは手書きを要求するところが多いですし、小論文や独自試験の日本語は手書きそのものです。オンライン授業期間中、学生たちが手書きをしてこなかったということは、日常生活においては手書きがほとんど必要ないということを意味します。入試関連の事柄だけが、とびぬけて保守的だとも言えます。

今、それについてどうこう文句を言っても始まりません。東京アラートにも負けず、学生を鍛えていくだけです。

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