目標

8月7日(土)

今週の作文の採点をしました。中級クラスの作文は、論理的な文章が書けるようになることが目標です。EJUの記述や入試の小論文を念頭に置いた目標設定です。私のクラスのみなさんは、ある程度そういうことが意識できるようです。どうしようもない学生もいましたが、大半の学生は論理が破綻することなく結論まで至っていました。

しかし、これだけで「よかったね」というわけにはいきません。中級の作文の本筋からはいくぶん外れますが、何人かの学生が書いていた「(進学するために)知識を覚える」という意味の表現です。

入試に通るためには、確かに知識が必要です。私だって、受験講座で「これはそのまま覚えてください」と学生に向かって言うこともあります。“元素記号Cは炭素である”というのは、知識と言えばまさにその通りです。

しかし、それを作文に堂々と書いてしまうのはどうなのでしょう。「知識を覚える」のは、コンピューターの仕事です。覚えるだけなら、AIよりも1世代か2世代古いコンピューターが得意としたことです。ですから、「知識を覚える」と書いた学生には、たとえ文章全体の評価は高かったとしても、「キミは20世紀のコンピューターと競い合いたいのかね」と言ってやりたいです。

出願書類の志望理由書や学習計画書にこれを書く学生が、毎年何人かいます。大学・大学院などの高等教育機関・研究機関は、知識を覚える場ではなく、発想力を鍛える場です。知識は果実ではなく、種か苗です。知識を学ぶために進学するのだとしたら、将来はAIの僕です。AIを使い倒す仕事をしたかったら、そこからなにがしかの発展がなければなりません。

今から知識を覚えることにとらわれているようでは、先が見えています。この作文を返すときには、そういう点にも触れておこうと思っています。夏の盛りが過ぎたら受験シーズンですからね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

不思議な物体

8月6日(金)

朝、学校に着いたら、地下駐輪場の入り口付近の路上にオレンジ色の何物かがぶちまけられていました。「やられた。ゲロだ」と背筋に寒気が走りましたが、近寄るとゲロにしてはオレンジ色が鮮やかで、ドロドロ具合が足りないように見えました。においも、ゲロ特有の、それこそ吐き気を催すようなものではなく、それよりは刺激が強いように感じました。断言はできませんが、キムチじゃないかとも思いました。

少なくとも、昨夜9:30少し前、私が学校を出たころには、“キムチ”はありませんでした。とすると、夜中に学校の前の道を通り、キムチを落っことしたのでしょうか。ゲロだとしたら、大酒を飲んで足元をふらつかせながらここまで来て、オエッとやらかしたのでしょう。いずれにしても、学校の前の、表通りとは言い難い道を真夜中に歩いていた人がいたということです。

確かに、夜遅い時間帯の地下鉄は、おととしあたりと比べたら、明らかに乗客が減っています。ロングシートに1人か2人ぐらいしか座っていないことだって珍しくありません。それを見ると、人出が減っているのだなと思います。しかし、本当に夜中に外を徘徊する人が減ったかと言ったら、そうでもないのかもしれません。飲む人は何があってもしっかり飲んでいるのです。日本選手の金メダル獲得なんか、格好の肴ではありませんか。

オリンピック期間中に、累計感染者数が約15万人増えました。開会式の頃の全国の新規感染者数が、今や東京都の1日分です。専門家の懸念が、そのまま現実化しています。それでも菅さんの頭の中では、オリンピック大成功なのでしょうね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

最大の問題は

8月5日(木)

9月になると、大学の指定校推薦の出願が始まります。学生が出願に必要な書類をそろえるのに必要な時間を考えると、今すぐ募集して、夏休み前ぐらいに校内面接をした上で、9月出願の大学に推薦する学生を決めなければなりません、そういうわけで、今週から指定校推薦の案内をしています。

Cさんが、S大学の指定校推薦に興味があると言ってきました。出席率やEJUの成績など、S大学が提示している推薦条件は満たしています。もちろん、S大学はCさんが勉強したいと思っていることが勉強できます。

このまま指定校推薦入学の校内審査に応募するかと思いきや、S大学の前にR大学を受けると言います。そして、R大学に受かったらそちらに進みたいとのこと。合否発表が10月下旬で、「否」だったらS大学の指定校推薦に応募するというのがCさんの本当の希望のようです。S大学は第2志望で、その大学がたまたま指定校推薦をしているので、一丁やってやるかというのが本音なのでしょう。

それも困ったものなのですが、さらに大きな問題があります。Cさんの日本語です。EJUの日本語みたいな4択問題なら点が取れるのですが、話したり書いたりとなると、発音や文法がボロボロで意味不明になります。上述のやり取りも、相手が私ですからどうにか通じたのであり、S大学やR大学の先生だったらCさんの考えは全く通じないに違いありません。昨日の作文は、その私ですらさじを投げてしまいました。「何を言っているかわかりません」と書いて、Fを付けました。

Cさんには、大学に入りたかったら話し方の特訓が絶対必要だと言っておきました。志望理由書は教師の添削で何とかできても、面接の受け答えはごまかしようがありません。Cさんはどんな結論を出すのでしょうか。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

やさしくない

8月4日(水)

オンライン授業だと、テストや例文や作文や宿題プリントなど、毎日何枚もの文書を学生に提出させます。志望理由書や小論文など、入試では手書きの書類や答案を要求するところが多いですから、学生たちに手書きを忘れさせないようにと、授業関連の提出物も手書きがほとんどです。ノートなどに手書きしたものを写真に撮り、それをメールで送らせるのです。

テストや宿題などを提出させたら、教師はそれをチェックしなければなりません。学生は自分の分だけで終わりですが、教師はクラスの人数分だけ目を通し、時には添削しなければなりません。紙ならばボールペンを走らせてどんどんチェックしたり採点したりできますが、写真で送られてきた答案などを採点したり直したりするとなると、確かに便利なアプリも出ていますが、大いに苦労させられます。老眼をしょぼつかせながら学生からの提出物に朱を入れるのは、かなりの重労働です。去年はそこまで技術が進歩していなかったので、デジタルなやり取りが大半で、こういう苦労はあまり感じていませんでした。

その重労働に拍車をかけるのが、学生が送ってくるファイルの名前です。スマホでノートの写真を撮って、それをそのまま送ってくる学生が大半です。すると、数字とアルファベットが組み合わせられた無機質ななまえのファイルが続々と届きます。若手の先生がシステムを組んでくれて、学生ごとの振り分けはできるようになっています。しかし、各学生のフォルダには同じようなファイル名がずらっと並びます。

オンラインの初日に、「作文0804」のように、中身がわかるファイル名を付けるように指導したのに、それを守っているのはほんの一握りの学生です。そういう学生は、概して優秀です。さらに、ファイルが細切れになっている例も目立ちます。1つのテストの答案を、ご丁寧に3つに分けて送ってきた学生もいます。3つ組であることがわかるようなファイル名ならまだしも、例の意味不明なファイル名ですから、見つけ出すだけでけっこうな労力が必要です。そういうのに限り、順番がばらばらだったり、ノートがあさっての方を向いていてそれを直すのにひと手間かかったりするのです。

こんなところにも学生の人間性が現れると言ったら言い過ぎかもしれません。でも、オンラインが始まってたった3日で、学生のやさしさのなさを痛感させられています。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

実力養成

8月3日(火)

先学期から化学の受験講座を受けてきた学生の授業が一通り終わりましたから、まとめの問題をしました。どのぐらいできるのだろうかと楽しみにしていましたが、授業のほとんどが私の解説になってしまいました。ZOOMの画面に映る顔を見ていると、初めて聞くかのようにうなずいている場面もありました。

やっぱり、演習をしないと知識の応用はできないものです。今回も、そういう意味も込めて、似た出題傾向の問題もたくさん揃えています。1つの事柄に対し、違った角度から出された問題に取り組むことにより、その事柄への理解も深まります。今まで見逃してきた気付きもあるでしょう。それを確実に取り込むことによって、真の実力をつけてもらいたいと考えています。

化学に限らず、問題は最後まで解ききることが、きちんと答えを出すことが肝心です。実力を伸ばすには、そういう地味な努力が必要です。この点をなかなか理解してくれない学生が多くて困ります。その点、うなずきすぎるくらいうなずいてくれる学生は、伸びしろがありそうです、その気持ちを受験の本番まで維持させること、安易な道に向かわせないようにすることも、私の仕事です。

とはいえ、東京の感染状況を見ていると、果たして入試がきちんと行われるのか、心配になってきます。昨シーズンは大学側も受験生側もうろたえていた面がありました。今シーズンは良くも悪くも慣れてきましたから、少しは落ち着きが見られると期待しています。想定を上回る状況となれば、何がどうなるかわかったものではありません。

何がどうなってもいいように、学生たちに自信を与えていきたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

はい上がるために

8月2日(月)

ついに、今学期も、全面オンライン授業に、私の感覚では、転落してしまいました。毎日3千人じゃ、限界ですね。海外に大事なお子さんを送り出している親御さんの気持ちを考えると、無理押しはできません。

今の学生たちは、入学以来どこかでオンライン授業を経験しています。だから、オンライン授業のやり方そのものや雰囲気や長所・短所といったことはわかっていると思います。長所を生かすことはもちろんですが、いろいろな形のオンライン授業を受けてきたのですから、短所をいかに補うかもしっかり認識しておいてもらいたいところです。私たちもより良い授業をと研究工夫を重ねてはいますが、私たちの力だけでは完璧にはなりません。学生も補完すべきところは補うことで、自分の受けた授業をより価値のあるものとすることができるのです。

文法で、「コロナが流行して以来、~するようになりました」という例文を作らせました。「~マスクをするようになりました」「~毎日手を消毒するようになりました」「~家で食事するようになりました」「~家で映画を見るようになりました」など、学生の生活がにじみ出る例文が出てきました。“家で”の例文からは、ステイホームが徹底されていることがうかがえます。

私だったら、マスクと消毒は学生に言われちゃったから、「~朝、電車に乗った時、窓を開けるようになりました」が一番かな。冷暖房の季節でも、換気が優先です。それに、朝、私が窓を開けておけば、その電車が車庫に入るまでずっと開いているでしょうから、感染拡大防止にささやかに貢献しているつもりです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

7月31日(土)

Fさんは努力家です。教室では一番前に席を取り、板書は漏らさずノートに撮っています。クラス全体に問いかけると、真っ先に答えてくれます。いつも正しい答えというわけではありませんが、課題に真剣に取り組んでいることがよくわかります。もちろん、宿題を忘れたことなどなく、予習復習をきちんとしていることは疑いありません。

しかし、そのFさんには弱点があります。それは濁点です。濁点の有無のせいで満点を逃した漢字テスト、丸がもらえなかった文法例文、そういった残念の残骸が多数あります。Fさん自身も気づいているに違いありませんが、なかなか直せないようです。

午前中、そのFさんの作文を読みました。今週の課題は創造的な文を書くということで、字数は400~500字でした。クラスの多くの学生が、400字に達しないか、400字になるや終わりにしてしまっているのに対し、Fさんの作品は原稿用紙3枚に及びました。それも、文章がだらだらと続いた挙句の3枚ではなく、創造性たっぷりの文章でした。そこは大いに評価できるのですが、文章が長くなるのに比例して、濁点のミスも増えているのはいただけません。

文意が不明になるような致命的な間違いはありませんが、日本語教師の悲しい性で、濁点の過不足があるたびに立ち止まってしまい、一読しただけではFさんの文章の良さが伝わってきませんでした。濁点を修正した作文を改めて読み直して、ようやくうなり声をあげるのです。

Fさんは、おそらく、日本語の音が正確につかめていないのでしょう。それゆえ、発音も清音と濁音の中間ぐらいになっているのではないかと思います。しかし、マスク越しで、しかも換気のため開け放った窓から外の音が入ってくるとなると、教師がその微妙な発音を確実に捕らえて注意し、言い直させるというのは、至難の業です。

来週からまたオンライン授業です。Fさんのような学生も力を付けていけるような授業を作りたいです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

 

冷たい視線に見守られて

7月30日(金)

「昨日の宿題の答え合わせをします。プリントを出してください。じゃあ、1番、Qさん、読んでください」「…」「どうしたんですか」「プリントを持って来ませんでした」

クラスの他の学生たちは、またかという顔をしていました。Qさんは、自分のしたいことしかしません。宿題プリントを持って来るのを忘れたのではなく、端から宿題などやる気がなかったのです。深く突っ込んでもよかったのですが、そうすると真面目に勉強しようとしている学生たちの時間を奪うことになりますから、「あ、そう」と冷たく突き放して、答えられそうな学生を指名しました。

答え合わせの最中、Cさんの右手は机の中、視線もそこに向かっていました。スマホをいじっていることは明らかでした。Cさんは誰にも気づかれずにうまくスマホを操作しているつもりなのでしょうが、みんな気付いています。私が注意しないのは、スマホが見えていないからではなく、Cさんに関してはさじを投げているからです。

その後、学生に文法の例文を発表してもらったら、スマホ中毒という言葉が出てきました。学生の視線はせっせとスマホで何かしているCさんへ。当のCさんはその視線を感じることなく、右手の先に集中しています。ここまで来ると、生きた教材になりますから、むしろありがたくさえなります。

東京は3日連続で3000人超えです。学生ぐらいの年代の若者へのワクチン接種がなかなか進んでいないという現状にも鑑み、来週月曜日からオンライン授業にすることに決定しました。自分の部屋でとなったら、Cさんは勉強しないだろうな。そして、年末ぐらいに「どこにも合格していないんですが、どうしたらいいでしょう」って、顔を引きつらせて相談に来る姿が、次第に鮮やかになってきました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

千仭の谷

7月29日(木)

午前の授業が終わると、Cさんが1階に下りてきました。昨日発表された6月のEJUの成績をもとに、どこに出願するかの相談です。

日本語は私の予想を上回る成績でした。でも、「いい大学」をねらうには物足りない数字です。理科はいい成績と言っていいでしょう。しかし、数学はどこかで失敗した形跡がある点数でした。全体として、ぜいたくを言わなければどこかのまあまあレベルの大学に入れそうな成績でした。

しかし、Cさんの最大の弱点は、話せないことです。本人は上手なつもりで話しているのですが、それがさっぱりわからないのです。授業で発言してくれるのはありがたいのですが、非常に聞き取りにくく、3回ぐらい聞き返さないと趣旨がつかめません。教師はそうやってCさんの言わんとするところを理解するために努力しますが、入試の面接官は違うでしょう。わからなかったらそれで終わりです。

Cさんの場合、マスク越しであることを差し引いても発音が悪いです。おそらく、口をあまり動かさずに話しているのでしょう。それに加えて、語彙や文法の間違いもあります。「リーミクをでます。いいですか」って、どういう意味だと思いますか。私が翻訳して差し上げましょう。「立命館大学に出願したいのですが、私の成績で合格できそうですか」。

これがわかってしまう自分が怖いですが、立命館大学の先生は絶対に理解してくださらないでしょうね。もうそろそろ、Cさんをボコボコにして鍛え直さなければなりません。それがCさんの未来を切り開く道なのですから。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

油断? 堕落?

7月28日(水)

私のクラスでは、今学期2回目の漢字テストがありました。中級レベルの漢字テストは、単なる読み書き問題だけではありません。語彙的要素も含んだ問題も出されます。初回のテストではその問題に戸惑った学生もいたようです。今回はそういう学生もどういう勉強をして試験に臨めばいいかわかったようです。

しかし、全体的に見ると成績が下がった学生が多かったです。実力差が出やすい語彙の問題だけではなく、点数の稼ぎどころであるはずの読み書きの問題で減点を重ねる学生が目に付きました。なあんだ、初級と変わらないじゃないかという気持ちが兆しているのかもしれません。悪い意味でこのレベルに慣れてしまった様子がうかがえます。緊張感が緩んでいるのだとしたら、中間テストもだんだん近づいてきていますから、引き締めてかからなければなりません。

昨日の私のクラスは、おととい出された宿題の提出率が非常に悪かったです。「宿題を出してください」と言うと、みんな、一瞬ばつの悪そうな表情を見せて下を向いてしまいました。こういうのを見ると、安直だなあと思います。2つのクラスは別のクラスですが、学生の発想には似通ったものを感じます。楽な方法に流れようとするんですよね。

そんな中、2回の漢字テストどちらも満点近い点数を取ったOさん、みんなが忘れてきた宿題をきちんと提出したKさん、前回は語彙問題で沈んだけれども今回はそこで好成績を挙げたGさん、こういった学生には期待が持てます。まあ、普段からしっかりしていますから、当然ではありますが。

来週は文法テストがあります。さて、どうなるでしょう。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ