悲喜こもごも

8月28日(土)

私のクラスのBさんは、7月のJLPTの結果がオンラインで見られると知るや、すぐに聞いてきました。KCPで団体申し込みをした学生の合否結果と成績は、学校に届くのです。

調べてみると、N2に合格でした。すばらしい成績とは言いかねますが、各科目満遍なく点を取って、合格点を上回っていました。Bさんは、多少おっちょこちょいのところがありますが、オンライン授業でもいい加減なことはせず、宿題も確実に出し、着実に進歩しています。KCP入学以来ずっとこういう勉強を積み重ねてきたとしたら、それが実を結んでの合格です。

Bさんから私に言えば結果を教えてもらえると聞いたのか、Jさんからも結果が知りたいというメールが届きました。調べてみると、同じN2が不合格でした。総得点は合格基準を上回っていますが、科目ごとの合格に必要な最低点に届かなかった科目があったため、不合格となったのです。Jさんも、いくらか軽いところはありますが、コミュニケーションは問題なく取れます。対面授業の頃は、日本語力がない学生の代弁すらしてくれました。どこで失敗したのかよく見極めて、12月には合格してほしいところです。

成績一覧表をよく見てみると、N1もN2も、受かっている人はそれなりの人が多いです。そりゃ無理だよねっていう学生は、だいたい落ちています。KCPのJLPT受験者数なんて、特に今年は、たかが知れています。でも、合格者も不合格者も“やっぱり”感満載だとしたら、JLPTは妥当な評価になっているということです。

オンラインが続き、自室にこもることが多いとなると、勉強のペースも乱れがちです。そこを引き締めていかないと、JLPTも大学も大学院も、合格には結びつきません。

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不安な日々

8月27日(金)

夏休み明けの月曜日から、Vさんが受験講座を休んでいます。日本語の授業も出席したのは1日だけです。ワクチンの副反応がひどいようです。オンライン授業にも参加できない状態が1週間も続いているとなると、体力の衰えが心配です。もうすぐ9月だというのに、この前までの天候不順を挽回しなければと思っているかのごとき暑さです。平熱に戻った程度で耐えられるでしょうか。

Vさんは6月のEJUの結果が思わしくありませんでしたから、この時期にガンガン鍛えたいところです。夏休み前までは、本人もそのつもりでいたようです。しかし、こうなってしまっては、無理は禁物です。去年の秋、ほんの一瞬、鎖国が解かれたすきに入国したはいいですが、思わぬ落とし穴にはまってしまいました。でも、ワクチンを接種しなかったら、それもそれで心配が募るでしょう。

Hさんは、まだ入国できず、自国からオンライン授業に参加しています。受験講座の時間が終わって、私がサヨナラと言いながら画面に向かって手を振ったら、「先生、質問があります」と呼び止めました。授業内容についての質問かと思ったら、「先生、私はいつ日本に入れますか」と聞いてきました。

正直に言って、一番してほしくない質問ですね。わからないというのが事実であり、本音でもあります。でも、それではHさんの気持ちは晴れないでしょう。ですから、今年も同じようになるか全くわからないけれども、去年はこうだったという話をしました。希望を持たせすぎるわけにはいきませんが、希望の灯を消してしまってもいけません。

多くの学生が、それぞれの不安を抱えたまま、受験シーズンに踏み出そうとしています。

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欠席理由

8月26日(木)

JLPTの団体申し込み者の成績が届き、データを見てみた時、あまりの欠席者の多さに愕然としました。しかし、よく調べてみると、海外にいる学生が、7月のJLPTの頃には入国して受験できるだろうと思って出願したのに、実際には入国できずに受験もできなかったという例が、欠席者の3/4を占めました。そういう学生を除き、日本にいたのに受験に行かなかった学生となると、その割合は、むしろ例年より低いくらいでした。

7月のJLPTの申し込みは3月から4月にかけてでしたから、その頃は6月半ばに入国し、7月4日に受験するというプランも現実味がありました。オリンピックもやることだし、選手が入国するなら留学生も入国できるだろうという楽観的見通しを否定はできませんでした。

受験できなかった学生にとっては、受験料が無駄になってしまったこともそうですが、この試験でN1かN2を取って来春進学するという計画が瓦解の危機に瀕していることの方が厳しいです。去年と同じように、秋に一瞬門戸が開き、その時に入国するという道があるのでしょうか。ここ数日、東京の新規感染者数は先週に比べて減っていますが、絶対数は相変わらずです。全国的には右肩上がりのところが多く、全く予断を許しません。

入国できないがゆえに受験できなかった学生の中に、私のクラスのHさんもいました。N1ですからたやすいことではありませんが、何でも吸収しようと意欲的なHさんなら手が届かなかったとも限りません。初級ですがオンライン授業で実力をグングン伸ばしていたMさんやWさんだって、N2を受けていたら結果が楽しみでした。

最大の問題は、日本にいたのに受験しなかった学生どもです。感染予防にかこつけたのではないかと疑いたくなる名前もちらほら。海外で切歯扼腕している学生たちに比べたら、ずっと恵まれているのに…。

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さんななめよん

8月25日(水)

我が社は3:1の割合で、パート社員が多い――これは中級の漢字の教科書に載っている例文です。3:15は読めても、3:1は読めないだろうと思い、「さんたいいち」と教えてあげました。ZOOMの画面は、全学生がメモを取っている様子を映し出していました。ここまで準備すれば、この文は誰でも読めるはずです。現に、私が指名したLさんはすらすら読んでくれました。

「じゃあ、Lさん、3:1の割合ということは、この会社はパートの社員がどのくらいいるんですか」と聞いてみました。75%という答えが返って来ればいいことにしていましたが、Lさんの答えは「さん、ななめ、よん」。教室のホワイトボードに大きく「3/4」と書いたら、Lさんは盛んにうなずいていました。

その「3/4」を指さして、「誰か、これ、読める人」と聞いても反応なし。「Wさん、あなたは理科系だから読めるでしょう」と、6月のEJUでも優秀な成績を収めたWさんを指名しました。しかし、「読めません」と一言。しょうがないので、「よんぶんのさん」と大きく板書しました。そして、「これは小学生でも読めます。大学や大学院に進学して“さんななめよん”なんて言ってたら恥ずかしいですよ。というか、話が通じません」などと脅している間に、こちらもみんなノートに書き写しているようでした。

中級ともなれば、けっこう小難しい表現も勉強し、それを作文などで応用する学生も出てきます。しかし、分数が読めなかったり、足の裏がわからなかったりというように、意外な落とし穴をかなり抱えています。これをお読みの日本人のみなさん、「さんななめよん」などと言っている外国人を見かけたら、優しく接してあげてください。学校の授業ではなかなかそこまで手が回らないのです。

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日本にいているうちに

8月24日(火)

中間テストの採点をしていたら、Wさんが「…日本にいているうちに…」という誤答をしているのを見つけました。「います」に「ています」をくっつけるとは妙に凝ったことをするなあと、逆に感心してしまいました。

その後数人の答案を採点し、Gさんの答案を採点していくと、なんと、「…日本にいているうちに…」という答えがあるではありませんか。Wさん、Gさんの前に何十人もの学生の答案を見てきましたが、「…日本にいているうちに…」と書かれた答案は1枚もありませんでした。もちろん、その後も現れませんでした。

なんとなくこの2人の答案はリズムが似ていると思って、まさかと思いつつも調べてみると、他の誤答も含めてほぼ同じでした。もしやと思って個人データを開いてみると、2人はルームメートでした。試験の最中は気付きませんでしたが、2人が相談したことは疑いようがありません。さらに、他の教科の答案でも、極めて疑わしい類似性が確認されました。

WさんもGさんも、できない学生ではありません。きちんと勉強すれば十分合格点は取れたはずです。しかし、ほんの出来心か、自室で受けられるという気楽さからか、あらぬところで協力体制を築いてしまったようです。こちらも試験時間中ZOOMの画面を通して監視していましたが、教室での試験に比べたら、目の届かぬ範囲が広すぎます。

この2人への対応も難しいです。現行犯じゃありませんし、オンライン説教じゃ迫力半減だし、かと言って何も手を打たないわけにもいきませんし、頭が痛いです。万が一、入学試験でこんな妙ちくりんなことをしたら、一生を棒に振りかねません。さて、どうしましょうか。

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450mから

8月23日(月)

お正月の時点では、夏休みは九州へ行く予定を立て、宿も足も全て押さえました。王塚古墳、秋月城址、大牟田と荒尾の炭鉱跡、バルーンミュージアム、善導寺、うきはのかっぱ、志賀島一周、香椎宮、余裕があれば平尾台か英彦山…どうです、絶対に一緒に行きたくないでしょう。すべて知っている人は、相当な九州オタクですね。

しかし、そんなものは緊急事態宣言の前に雲散霧消しました。たとえ強行したとしても(私が預託していた飛行機は、定刻で飛んだようです)、先週前半の九州は大雨でしたから、福岡空港と、そこから地下鉄で通じている博多・天神から一歩も出られなかったでしょう。そうなると毎日博多駅か福岡空港のマッサージ屋さんに入り浸って、大散財を繰り返したに違いありません。

結局、休み中に「出かけた」と言えるのは、東京スカイツリーだけでした。私のうちからスカイツリーまで、直線距離で3キロ、道のりで4キロですから、「不要不急」ではあったかもしれませんが、「遠出」ではありません。電車で行くと四角形の3辺を回ることになるので、電車賃のわりには乗換えばかり多くて時間短縮にはなりません。そこで、九州へ持って行くはずだった水筒に冷たい麦茶を仕込んで熱中症に備え、徒歩45分の旅に出ました。

遠見が聞きそうな晴れた日を選びましたから、スカイツリーに着いた頃には汗びっしょり。麦茶がおいしかったです。350mの天望デッキからでも十分東京やその近郊まで見渡せましたが、450mの天望回廊まで上がると、見え方が全然違いました。羽田空港が、その差が一番大きかったと思います。見下ろす角度の差なんでしょうね。御苑がずいぶん広々しているのに驚きました。その御苑をはじめ、東京には案外緑が多いんだなとも思いました。私のマンションも、とてもよく見えました。たった3キロ先なのですから。

帰りに、スカイツリーから徒歩数分のたばこと塩の博物館に寄りました。こちらは、製塩の子供向けの解説と、喫煙や喫煙具の文化的展示が中心で、理系人間には若干物足りない内容でした。それでも隅から隅まで2時間近く見学しましたかねえ。

夏休みは、穏やかに過ぎ去っていきました。

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地図と作文

8月13日(金)

スマホの地図は、街を歩くときに便利です。自分の現在地がわかるとともに、目的地に向かってきちんと進んでいるかどうかもわかります。何となく右へ曲がってしまったけど、これはちょっとまずいぞなどという判断もすぐにつきます。私も重宝させてもらっています。

しかし、街の全体像をつかむとなると、紙の地図の方が勝っていると思います。確かに、指先だけで地図の拡大縮小ができますが、画面の小ささはいかんともしがたいものがあります。街と街の位置関係となると、やっぱり紙の地図でしょう。暇な時に眺めて楽しむとなったら、完全に紙の地図です。といっても、地図を眺めて暇をつぶす人はあまりいないでしょうが。

さて、中間テスト。全面オンライン授業ですから、テストも当然オンラインです。オンライン特有のトラブルもいくつかありましたが、致命傷にはならずに済みました。

そして、採点です。私は作文の授業を担当していますから、作文の採点をします。学生が家で書いた原稿用紙を写真に撮り、それをメールで送ってもらいます。教師はそれをタブレットで開いて原稿用紙に直接朱を入れます。朱を入れる操作は難しくはありません。誤字脱字、語彙や文法を直すのには、タブレットは向いています。しかし、文章全体の構成の良し悪しを判断して直すとなると、タブレットはやりにくいです。

私が老眼だからかもしれませんが、タブレットに原稿用紙1枚を映し出すと、字が読めないのです。読める程度に拡大すると、段落単位の読み取りがしにくいのです。私が担当している中級は、構成を意識して書くように指導しています。それなのに構成に手を加えられなかったら、指導の効果が半減です。

明日から夏休みです。5月の連休に続いて、どこへも行かない1週間が待っています。でも、テストの採点はしませんよ。

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声の主

8月12日(木)

お昼を食べに出かけようとしたら、「先生、こんにちは」と声をかけられました。3月に卒業したKさんが書類の申請に来ていました。Kさんは卒業の学期に受け持った学生で、正直に言って成績はあまりよくなかったですが、クラスを盛り上げてくれました。堂々と言った答えが間違っていて、自然にクラス全体を和ませるというタイプの学生でした。そう、Kさんの方から声をかけてくるなんて、いかにもKさんらしいです。

Kさんは、日本で働くことを目指しています。だから「成績はあまりよくなかった」ではいけないのですが、テストでは測りにくいコミュニケーション力を持っています。日本語は下手なんだけど、なぜか通じちゃうという学生が時々いますが、Kさんもそういう学生でした。そのためなのかもしれませんが、手を差し伸べたくなる学生でもありました。たぶん、進学先でもそういうキャラを発揮しているんじゃないかな。

また、Kさんはクラスの日直の仕事をまじめにやり遂げる学生でした。指名されると机といすを几帳面に並べ、消毒のアルコールをふりかけ、机の中に忘れ物がないかしっかり調べてくれました。適当に済ませてさっさと帰ろうとする学生も多い中、Kさんのこういう愚直さは好ましく映りました。

Kさんの場合、エントリーシートがどうのこうのという就職戦線を勝ち抜くというよりも、人柄が武器となって、人づてに就職先が決まるんじゃないかって気がします。その方がKさん自身にとっても幸せなのではないでしょうか。時間もなかったし、こういう時期でもありますからゆっくり話せませんでしたが、Kさんの顔つきには自信が感じられました。

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声が出ない

8月11日(水)

朝、出席を取ると、JさんはZOOMに顔を出すや否や、チャットで「扁桃腺炎で声が出ません」と訴えてきました。自室内で授業を受けていることは明らかだったので、「はい」という声の返事はなくても出席としました。声が出ないと言っているのですから指名するわけにもいかず、かと言って野放しにもできませんから、いつもよりJさんの画面を頻繁にのぞき込むことで、ずっと出席していることの確認を取りました。

Jさんは最後まで画面から消え去ることなく、課題もきちんとこなしましたから、授業態度に関しては問題ありませんでした。しかし、担任のO先生に届いたメールによると、ゆうべエアコンをつけっぱなしで寝たため、のどを傷めたとのことでした。確かに、昨日は今年最高の暑さでした。その熱気が残り、当然のごとく熱帯夜でした。だからエアコンをつけて寝たというのは理解できますが、こういう時期にのどを傷めてはいけませんよ。今、世界を震撼させているのは呼吸器系の伝染病なのですから。

毎年、この時期になるとエアコンが原因で風邪をひく学生が目立ちます。しかし、今は「ああ、またか」で済ませられる状況ではありません。医者にかかるのも一苦労だし、余計な病気で体力を消耗したところに真打が襲い掛かってくることだって十分考えられます。そういうことも考えて健康管理をしてもらいたいなあ。

でも、Jさんはオンラインだから授業に参加できたのです。対面授業だったら、きっと欠席したことでしょう。熱はなかったそうですが、声も満足に出せないような体調で、外には出たくないでしょう。こういう学生も救える点が、オンラインの真骨頂だとも言えます。

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特徴をつかむ

8月10日(火)

全面オンラインになり、1週間が過ぎました。学生たちのマスクの顔にいくらか慣れてきて、多少は顔の区別がつくようになったころにオンラインが始まりましたから、当初は、マスクを着けていない学生たちの顔がとても新鮮でした。マスクの顔から想像がつく顔もあれば、「えっ、あんた、こんな顔してたの?」って言いたくなるような顔もありました。学生たち同士はどうだったんでしょうね。

今学期は2つの同じレベルのクラスを受け持っています。オンライン授業になってから、どちらのクラスで何を教えたか、ごちゃごちゃになっています。作文と読解は教えるクラスが決まっていますから問題ないのですが、文法や漢字や聴解は両方のクラスで教えますから、混乱がはなはだしいです。対面授業の時は、マスクの顔は特徴がないとはいえ、この聴解はこちらのクラスでやったとか、文法でこの練習をしたのはあっちのクラスだとか、どうにか区分けができました。しかし、オンラインになって、学生の顔の特徴がよりはっきりしたにもかかわらず、わけが分からなくなってきているのです。

こうしてみると、実際に会うということのインパクトを改めて感じずにはいられません。オンラインで何でも仕事が進むようになっても、最後の決め手は対面だと言っている人が結構いるのもよくわかります。私たちは知らず知らずのうちに、何らかのオーラを発しているのでしょうか。

こういう状態がまだ当分は続きそうです。モニター画面の学生の顔を精一杯大きくして、クラスごとのカラーの違いを感じ取っていきましょう。

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