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スピーチ付き卒業式

3月11日(月)

卒業式後、当日式に参加できなかった卒業生が、証書をもらいに来ています。無断欠席の場合は取りに来ても証書は渡しませんが、事前連絡があった卒業生には職員室で渡すことにしています。

この後日の証書授与には、1つだけいいことがあります。当日は受け取る人数が多いので、証書の読み上げは最初の1人だけで、あとは「おめでとうございます」と声をかけながら手渡しします。しかし、“後日”は、卒業生を向き合って「おめでとうございます」だけでは間が抜けていますから、証書の文面をフルに読み上げます。その場にいる教職員が拍手で祝福します。そういえば、当日はすべての卒業生に拍手ではありませんね。

このように温かい雰囲気の中で証書がもらえるのですが、もらった卒業生はスピーチを求められます。これも卒業式当日にはない特典と言えないこともありませんが、当の本人にとっては、このスピーチはなかなかの難関のようです。

Kさんは、教室では気の利いたことを言ったり、他の学生とは違った観点から意見を述べてくれたりと、話すことに関しては教師も一目置いていました。本人も自信を持っていたのではないかと思います。ところが、証書をもらった後にスピーチを求められると、「2年間、KCPで勉強しました…」など、レベル1程度の文しか出てきません。スピーチをしてもらうと予告しておきませんでしたから、また、お世話になった先生、見慣れぬ顔の先生、職員室にいる教職員全員の注目を浴びていますから、緊張していたことは確かでしょう。結局、語彙的にも文法的にもレベル1の範囲を出ることのない挨拶に終わってしまいました。

KさんよりおとなしいFさんは、言うに及ばずです。どうにかこうにか「ありがとうございました」にたどり着いたといったところでした。

毎年、こんな感じです。堂々とスピーチできるのは、ほんのわずかです。もちろん、コトバデーを見てもわかるとおり、全校生の前で立派なスピーチができる学生もいます。卒業式で学生企画の司会を立派にやり遂げた学生もいます。でも、人前で話すことのKCP全学生の平均値は、まだまだと言わざるを得ないでしょう。来年度は、卒業式後に証書をもらいに来た時に立派なスピーチができる学生を育てたいものです。

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愛着の度合い

3月7日(木)

卒業式は、卒業生に学校に対する愛着の度合いがわかります。

無断欠席は、論外。私のクラスではAさん、Bさん、Jさん。この3人は出席していてもやる気があるのかないのかわからず、特に今学期は消化試合的な態度が見られました。卒業式には来ないかもしれないと思っていたら、予感が当たってしまいました。

普段着での出席は、もらえるものはもらっておこうという発想でしょうか。Dさん、Yさんあたりは、そこまで悪気はないのかもしれませんが、「フォーマルな服装で」と言っておいたのにラフな格好なのですから、学校への愛着は薄いのかな。

それなりの格好で来ているけど、証書の受け取り方がいい加減な学生は、予行演習欠席か、予行演習はしたけれども、そんなに真剣ではなかったので頭に残っていなかったのでしょう。あるいは、本番で悪い例をたくさん目にしたので、それに合わせて予行演習の手順を省略してしまったとも考えられます。私の手から奪うようにむしり取っていった学生たちは、何かうらみでもあるのでしょうか。

きちんとした作法で証書を受け取った学生は、KCPに愛着を感じてくれたと考えていいでしょう。悪い噂しか入ってきていなかったTさんがきっちりやってくれました。先生方の愛情に、やっと気づいたのでしょうか。最後の最後で見直しました。

受け取った後で何か一言つぶやいた学生は、学校に対してなにがしかの感謝の気持ちを表したいのでしょう。Pさんは「お世話になりました」と言ってくれました。「ありがとうございました」は結構多かったですね。このレベルの学生は、しっかり目を合わせて受け取ってくれます。こちらも「本当におめでとう。これからが本当の留学だからね」と声をかけてあげたくなります。

特別な服装で壇上に登った学生は、単に目立ちたいだけかもしれませんが、式を盛り上げよう、楽しもうという気持ちも感じられます。王様にも見えてしまう民族衣装をまとったEさんが登壇するや、会場全体から歓声があがりました。Sさんも国の伝統衣装を着てきてくれました。問題児のRさんに式後に服装を褒めると、うれしそうに服の解説をしてくれました。意外といい奴だったのかな…なんて思ってしまいました。

みんな、出ていってしまいました。明日から、学校が寂しくなります。1年後の別れがたい別れの日に向けての歩みが始まります。

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3月の定番2

3月6日(水)

明日に迫った卒業式を前に、卒業証書の受け取り方の練習をしました。KCPの卒業式は、壇上でひとりひとりに証書を手渡します。その証書を受け取る作法を教えるのです。

日本人の教師は、いつどこで教えられたのか、年齢によらず、片手ずつ出して証書の横をつかんで受け取って礼をする作法を、細かいところは多少違っていても、知っています。しかし、それは日本独特のものであり、学生たちは、国籍を問わず、そんな作法は知りません。卒業式のセレモニーとしての格調の高さを維持する上でも、学生たちにはあの作法を覚えてもらわなければなりません。何も教えないと、ステージのまんまん中で校長に正対して、早くよこせと言わんばかりにいきなり両手の手のひらを上に向けて差し出す学生が続出します。

最初に教師が実演しながら受け取り方を説明します。次に、学生たちに実際にやってもらいます。ステージのどこにスタンバイして、証書と記念品を受け取ったら、どこからステージを下りて自席に戻るかという、証書受け取りの前後も含めて予行演習します。

教師が実演したくらいですから、また、こういうことはするなと注意もしていますから、受け取り方はわかっているはずです。でも、毎年のことですが、教えられたとおりにきちんとこなす学生と、何じゃお前はと言いたくなる学生とが出てきます。後者はスマホに集中していたのでしょう。正対した時の目を見れば、前者か後者かだいたい見当がつきます。失敗は今ここでしておいて、明日きちんとやってくれればそれでいいんですがね。

終業のチャイムが鳴ると、予行演習を済ませた学生たちが帰っていきました。明日は会場の四谷区民センター集合ですから、もしかすると、予行演習でさんざん叱られたのが、この校舎の最後の思い出になってしまったかもしれません。

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3月の定番

3月5日(火)

卒業式直前の上級クラスの授業では、よく“お世話になった先生へのお礼状”を書いてもらいます。さすがの上級の中でも上の方、超級の学生でも、いきなりお礼状を書けと言われても書けるものではありません。ですから、私は、よく、10年余り前に中級まで勉強して進学していった学生からもらったお礼状を見本にしています。このお礼状は、文面には拙さが見られるものの文法的な誤りはなく、時候のあいさつ、感謝の言葉、読み手の健康を気遣う言葉と、お礼状の要素はすべて盛り込まれています。しかも「拝啓~敬具」でまとめられていますから、上級の教材としても十分に通用します。それどころか、日本人の大学生だってここまで書ける人って少ないんじゃないかと思われるほどです。

中級の学生が書いた文面ですから、超級の学生なら内容はすぐに理解できます。問題は、それを自分に合わせてカスタマイズできるかです。省エネタイプの学生は、時候の挨拶まできっちり写します。しかし、「専門学校に進みます。いつか先生に私が作ったケーキを食べてもらいたいです」という部分はどうにかしなければなりません。そこで頭を抱えてしまうんですねえ。今年の卒業生たちも、みんな呻吟していました。

「手紙の文章は、チェックはしませんよ」と言ってありますが、これも学生たちにとってはプレッシャーになるようです。せっかくのお礼状に誤用がいっぱいだったら、そりゃあ恥ずかしいでしょうね。でも、見本のお礼状を書いた学生は、誰のチェックも受けていません。しかも、今のようにAIにお願いすれば何でもしてくれるようになるより前の時代です。超級の学生にできないはずがありませんから、私は突き放します。

それぞれ、自分のお世話になった先生の名前を封筒に書き、手紙を入れて封をして出してくれました。「卒業式の前に読まれると恥ずかしい」と言っていますから、宛名の先生には卒業式後にお渡しします。

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少子化対策はやっぱりない

3月4日(月)

朝、出勤すると、ロビーに雛人形が飾ってありました。遅ればせながらですが、今年は2月29日が学校行事でみんな出かけましたから、しかたのないところでしょう。

昔は、「雛飾りを片付けるのが遅れると、お嫁に行くのが遅くなる」と言われたものです。それに従えば、KCPの女子在校生全員の婚期が遅れるということになります。でも、今時、婚期がどうのこうのということ自体、あまり話題にならなくなったような気がします。それだけ晩婚化、非婚化が進んだのです。

金曜日とは別のクラスで、日本の出生数と韓国の出生率の動画を見せて、どんな条件が整えられれば安心して子供を産み育てられそうかというテーマで話し合ってもらいました。数人のグループをいくつか作りましたが、どのグループもメンバーが意見を言い合っていました。

しかし、結論は厳しいものでした。多少は改善されつつあるものの、子どもを産み育てることにおいては女性の負担が大きく、動画で述べられていたように、自分のしたいこととの両立が難しいと訴えた学生もいました。また、親世代と自分たちの世代とで、子育てに対する考え方が違うから、子育てを親に頼れないという意見も出てきました。自分たちが子供の頃はその差が小さかったので、親世代はそのまた親世代(学生たちから見ると祖父母世代)に頼れたけれども、今は違うというわけです。そんな感じで、学生の多くが、積極的に子供を持ちたいとは思っていないようでした。

日本人の若者も同じように考えているんでしょうね。少子化の打開策を考えるよりも、少子化を前提とした社会づくりに力を入れるべきなのかもしれません。

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少子化対策はない?

3月1日(金)

今週は立て続けに2件、少子化の進行を示す統計が発表されました。1つは、昨年の日本の出生数が一昨年比5%減の75万人余りだったという厚生労働省の発表です。もう1つは、韓国の昨年の出生率が一昨年より0.06下がって0.72だったという韓国統計庁の発表です。両国とも少子化の進行が問題になっていましたが、さらに深刻化したというデータが示されました。

これを基に、上級クラスでどんな施策があれば子供を産み育てようという気になるかという話し合いをしました。学生たちはこれから子供を持つ(かもしれない)世代です。そして、クラスの大半が少子化に悩む国から来ています。そういう学生たちがどんな反応を示すか、アイデアを出すかに興味がありました。

「避妊薬などに高額の税金を掛ければいい」などという暴論は出てきたものの、残念ながら、膝を叩くような案は出てきませんでした。つまり、各国の施策は若者の心を子育てに向ける力はなく、かといって若者を子育てに向けされる妙案もないということです。さらに言えば、現代社会は若者が子育てに励むには不向きな構造になっているのです。だとすると、日本も韓国も他の国々も、少子化の進行は止められず、社会を支える層が薄くなることによる国家の崩壊は防ぎようがないということになります。

ほんの20分か30分の議論で素晴らしい政策が思い浮かんだら、どこの国も少子化に頭を抱えることはないでしょう。でも、学生たちが、どんな条件が整えば子供を産む育てる気になるか全然見当がつかないというのは、見過ごすことはできません。この状況を打破するには、コペルニクス的発想の転換が必要なようです。

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過半数確保

2月27日(火)

卒業認定試験翌日の上級の教室は、悲惨なものでした。9時1分前ぐらいに教室に入ると、片手をちょっと上回るほどの学生しかいませんでした。階段を駆け上がった方が早いのにエレベーターを待って乗ってくる学生がいますから、その学生たちに合わせてノロノロとタブレットを立ち上げ、出席を取る準備をしていると、予想通り、数名の学生が駆け込んできました。これでやっと過半数が確保できました。

教室を見渡すと、もともと出席率の高い学生と、出席率が悪いのでビザ更新に備えて0.1%でも数字を上げておこうと学校へ来ている学生と、その中間の学生と、それぞれ1/3ずつぐらいでしょうか。私が学生の立場だったら、やっぱり休んじゃうかなあ…。私はケチですから、支払った授業料分は取り返さねばと、しぶとく通い続けるような気がします。

ゆうべから今朝授業が始まる直前にかけて、昨日の認定試験の採点をしました。私が作問したクラスは、どこも「できるやつはできる、できないやつはできない」という順当な結果に落ち着きました。テストの時の“わからなかった”という記憶を学生たちが鮮明に持っているうちにテストの反省会を開きたかったのですが、過半数をやっと超える程度ではその意味も薄れてしまいます。でも、せっかく来た学生には有意義な授業をしてあげたいですから、予定通りに授業をしました。テスト前の授業では気づかなかった点に目を向けられた学生もいたみたいです。

それから、あさってのディズニーシー行きの説明もあったのですが、こちらも欠席組には伝わっていません。ネット経由でアップしてあるしおりを見てもらうほかありません。でも、行事の時って、説明を聞いていない学生に限って何かしでかすんですよね。一抹の不安が拭い切れません。

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新クラスの前触れ

2月26日(月)

卒業認定試験がありました。と言っても、私は試験監督ではなく、上級で卒業認定試験を受けない学生たちを集めた合同クラスの授業を担当しました。

一口に上級と言っても、今学期上級に進級したばかりの、よくできる中級と言った方がふさわしい学生から、その辺のバカ高校生よりもよっぽど日本語がよくわかる学生までいます。ですから、普通に授業をしたら上か下のどちらかがつまらない思いをすることになります。そういうわけで、上の上から上の下まで組み合わせたグループをいくつか作り、グループ学習をしました。

「下のレベルの人はわからないことを上のレベルの人に聞いてください。上のレベルの人は聞かれたら教えてあげてください」と指示しておいたからでしょうか、上の上組が質問に答えている場面が見られました。Qさん、Bさん、Lさん、Aさん、Cさんなど、自分が引っ張らなければという学生が自然発生的に現れました。

初級の学生の作文から拾ってきた誤用を直す課題では、上級らしい文法や語句などを用いた、私の想定を上回る訂正がいくつも出てきました。単に助詞や単語をいじるだけではなく、文の作りをガラッと変える訂正もあり、学生たちの力を見直しました。

このクラスの学生たちの一部は、4月からの新学期になると机を並べて勉強することになります。今は3月に卒業する学生たちの陰に隠れているところがありますが、来年度の最上級クラスを構成するメンバーであり、KCPをしょって立つ面々です。まっすぐに育っていってもらいものです。

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同じです

2月22日(木)

初級クラスの漢字の時間に「絵」が出てきたときのことです。教科書に「絵」「絵本」「絵画」と3つの言葉が載っていましたから、これに付け加えて「絵文字」を紹介しました。「えもじ」という読み方まで教えると、Gさんが「えもじ?」と大きな声をあげました。そして、「先生、同じです」と大発見でもしたかのように叫びました。

Gさんにとっては、SNSなどの文にくっつけるあれは、アルファベットの“emoji”でした。実は、それは元をたどると日本語の「絵文字」なんだと説明すると、「知りませんでした」と、これまた教室中に響き渡るような大きな声で驚きを表していました。

「絵文字」が“emoji”として英語にもなっているということは、情報としては知っていました。しかし、“emoji”を根っからの英語だと信じて疑わない人を目の当たりにすると、こちらの方こそ驚きの声をあげたくなりました。Gさんをはじめ世界中の多くの人々が、絵文字を自国語のごとくごく当たり前に使っているのです。短期間によくぞそこまで浸透したものだと感心せずにはいられません。“emoji”も“kimono”“sashimi”“tsunami”と同じレベルに達しているのです。いや、使われている頻度や範囲を考えると、先輩語を凌駕していると言ってもいいでしょう。

工業製品が日本の名刺代わりだったのは、私が若かった頃の話です。テレビや自動車こそが、富士山同様日本の象徴でした。時は流れ、ポケモンのあたりからソフトな名刺になり、“emoji”に至ったわけです。世界の文化を彩っているのですから、大いに胸を張りましょう。

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窓は、開けてあります

2月21日(水)

それにしても寒かったですねえ。昨日が春どころか初夏を思わせる暖かさでしたから、なおさら落差を感じさせられました。最高気温(13.2℃)は平年を上回りますが、これが記録されたのは、昨日の暖かさの余韻がまだ残っていた、日付が変わった直後でした。常識的感覚的意味での日中の最高気温は8度程度で、一番寒い時期(1月下旬)の平年値を1.5度ほど下回ります。でも、まだ2月ですから、こんな日があるくらいでちょうどいいのかもしれません。

そういうわけですから、昨日はコートなしの春の装いとは打って変わって、スーツの下にカーディガンを着こむという厳寒期仕様で出勤しました。それでも職員室ではなんとなく寒く、ひざ掛けが手放せませんでした。

午後の初級クラスの教室に入ると、エアコンがついているのに窓が開いていました。寒気のためかなと思って、何も言わずに出席を取って、予定されていた単語テストを行いました。テストが終わって、来週のディズニーシー行きの説明をしたあたりから、学生たちの気持ちが盛り上がってきました。

発音練習、漢字と、いつも通り授業を進めていくと、漢字の終わりぐらいに、開いている窓のすぐ前に座っているKさんが「先生、エアコン、消してもいいですか」と注文。「消してもいいですか」ではなく「消していただけませんか」としなければいけないところですが、それはさておき、窓は換気のためではなく、外の冷気を取り入れるために開けてあったのかと驚かされました。そして、なんと、Kさんの注文に異を唱える学生が1人もいませんでした。「エアコン、消してもいいですか」と確認を取ると、うなずく学生は数名いたものの、誰一人首を横に振りませんでした。このクラスは、放っておいても国籍の壁なくみんな誰とでもしゃべります。そのエネルギーが教室の空気を温めるのでしょうか。

漢字の後、聴解、文法と定番の授業が続き、最後は防災に関するお知らせをしました。終業のチャイムが鳴るまで、エアコンをつけてくれという声は上がりませんでした。

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