Category Archives: 社会

見えない

10月18日(木)

医学部入試の合格者決定過程で不正が行われていた例が、最近相次いで発覚しています。差別を受けて不合格にされた方たちの悔しさは、いかばかりでしょう。

どの大学でも、浪人していない男性を優先的に合格させてきたようで、まるで家のことは専業主婦に任せてひたすら働いていた猛烈サラリーマンを育てる機関になったかのようです。医師の仕事はかなりハードだから女性には厳しすぎるという、理由とも言い訳ともつかない差別した側の言葉がそれを裏付けています。

医学部に進む留学生はほとんどいませんから、また、いたとしても留学生特別入試なら試験方法も合否基準も日本人受験生とは違いますから、留学生がこの不正の犠牲になっていたとは考えにくいです。しかし、合否判定に関しては、どこまで信じていいかわからないうわさが常に流れています。「A大学はB国の学生は合格しやすいが、C国の学生はなかなか合格できない」「D大学は高校を卒業したばかりで英語がよくできる女の学生を好む」「E大学は1つの日本語学校からの合格者は1人にしている」…。

もし、こういったうわさが事実なら、医学部入試の不正に匹敵するような差別です。あってはならないことだとは思いますが、うっすら実感できる話もあります。留学生入試は、日本人高校生入試に比べてブラックボックスの部分が大きいです。日本人向けの試験問題は公開しているのに、留学生向けの問題は非公開という大学も少なからずあります。こうした秘密主義が憶測を呼ぶのです。

そういう面から、私は今回の一連の不正事件に興味を持っています。

違います

10月16日(火)

今学期はEJUが迫っていますから、始業日の翌日から受験講座が始まっています。私の理科も昨日から始まっています。今学期から受験講座に加わった初級の面々も、11月のEJUを受ける学生が大半ですから、過去問をやらせてみました。やはり日本語の読み取り・理解がかなり大変なようで、上級の学生たちの1.5倍から2倍ぐらいの時間がかかります。でも、初級の学生の多くが、来年6月に照準を合わせていますから、そのころには馬の上級の学生たち並みのスピードで解けるようになっているでしょう。

しかし、学生たちの国の教育カリキュラムと日本のそれとが違っている場合は、そのギャップ埋めなければなりませんから、さらに負担が大きくなります。SさんとTさんはそういう学生で、過去問の中の数問は国の高校では全く手をつけなかった範囲だと言いますから、来週はそのために時間を取って詳しい説明をすることにしました。

日本の大学は、よく、入るのは難しいけど出るのは易しいと言われてきました。かつてほどのことはないでしょうが、今でも多少はそういう気が残っているように思えます。もちろん、大学で勉強していくだけの能力や適性のない学生を入れてはいけませんが、EJUの出題範囲が学生たちの母国の教育カリキュラムと違うことが、他の面で高い能力を有している学生にとっての高い壁となっているとしたら、ちょっと違うんじゃないかなあと思います。

理系の大学で高校の数学や理科の補習をしなければならないという事例を耳にすると、そんな学生を無理して入れなくてもと思ってしまいます。留学生が大学に入ってから落ちこぼれてしまうよりは、入る前にはねられた方が、少しでも早い時点で軌道修正できますから、幸せなのかもしれません。

何はともあれ、今はSさんとTさんを来年6月までにEJUで勝負できるだけの力をつけさせることに集中します。

時代を画す

10月11日(木)

仕事の合間に見たインターネットのニュースによると、来年の2月から丸ノ内線に新車が導入されるそうです。新型車は丸ノ内線のラインカラーである真っ赤な車体で、伝統のサインカーブをまとっているそうです。連結器の近くの窓は、四角ではなく丸窓です。今までの丸ノ内線の車両とはかなり趣が異なるようです。

今走っている丸ノ内線の車両は、もう30年にもなるそうです。私はもう1代前の車両も知っていますから、いまだに“新型車両”という気がしていましたが、30年といえば減価償却はとっくの昔に終わっていますよね。そして、30年といえばちょうど平成の長さです。平成を走り抜けたのが、今の丸ノ内線の車両なのです。そうすると、来年登場する新型車両は、現皇太子さまが天皇として在位している間じゅう走り続けるのでしょうか。

私のうちの近くを走っている日比谷線も、去年あたりから新型車両が走り始めました。来年ぐらいまでが端境期なのでしょう。こちらの車両も、1988年から走り始めたとのことですから、やはり30年です。また、沿線の築地から市場が移転するのと同時期に車両が入れ替わるというのも、1つの時代が終わったことを象徴するようで、感慨深いものがあります。

一般家庭のクルマは10年も乗らないでしょうから、このような形で時代を感じることはないと思います(個人的な思い入れは別ですが)。それに比べると、電車という公器がそれにかかわる人たちに与える影響力は大きなものです。だから、どんなに乗る人の少ないローカル線でも廃止となると反対運動が起きるのでしょう。

KCPだって、これにかかわった人たち、すなわち卒業生やかつての教職員のみなさんの心に何がしかの痕跡を残してきたはずであり、今後も残し続けていくでしょう。責任重大だなあと思います。

孤独な半袖

9月13日(木)

今朝、駅で電車を待っている人たちが黒くなっていてびっくりしました。月曜日の夕方の雨以来、気温がグッと下がって、秋を感じさせられています。今朝の最低気温18.5℃は、私が駅に着いたころに出ています。18.5℃なら秋のシックな服を着たとしても全く不自然ではありません。黒く見えたわけです。

私はまだ夏物の半袖のワイシャツを着ています。KCPは、9月いっぱいはノーネクタイの夏装束です。ノーネクタイなら半袖のほうがぴったり来ますから、多少肌寒くても半袖で押し通しているのです。でも、駅のホームで黒くなっていた人たちの目には、私はどう映ったのでしょう。

学生たちも、いつのまにか長袖が多数派になっていました。また、体調を崩して休む学生も増えているように思います。私のクラスのJさんもその1人のようです。8時半頃、欠席連絡のメールが入りました。

体調が悪かったら学校を休んで、一刻も早く回復を図るべきです。風邪をひいて咳をしながら学校へ来られても、うつされるかもしれませんから迷惑です。しかし、Jさんは最近の文法テストが思わしくなく、来学期進級できるかどうかの瀬戸際です。下痢とか頭痛とかで休んでいる暇などありません。KCPの授業は情け容赦なく進みますから、Jさんは次のテストも合格点が取れるかどうか怪しいです。

ひときわ暑かった今年の夏もようやく終わりが見えてきました。同時に、暑さ疲れが出てくる時期でもあります。Jさんみたいに進級がかかっている学生に限らず、受験でも正念場を迎えている学生がたくさんいます。健康管理にも気を使って、ここを乗り切ってもらいたいです。

朝の一騒動

9月12日(水)

朝、ようやくパソコンが立ち上がった頃、電話が鳴りました。学生からの欠席連絡かと思ったら、「Dタクシーです」というではありませんか。「お宅の学生さんがうちの車に忘れ物をしたんですが、どうしましょう?」「ああ、わざわざご連絡ありがとうございます。本人に伝えますので、学生の名前を教えていただけませんか」「すみません。学生の名前はわからないんですが」「え? じゃあ、どうして私どもの学生だとわかったんですか」「試験の成績通知書が入っていましてね、そこに学校の名前と電話番号が書いてありまして…」。どうやら、EJUの成績通知書に書かれた電話番号を見て、電話を掛けてくださったようです。

いろいろやり取りをして、学生のアルファベットの名前を聞きだし、システムで検索すると、上級クラスのBさんだということがわかりました。思うに、Bさんはアルバイトの帰りか飲んだ帰りかにタクシーを使い、降りたときに落としたか座席に置きっぱなしにしたかだったのでしょう。Bさんの住所と、Dタクシーの事務所はさほど遠いところではありませんから。

それから、Bさんにメールを送り、Dタクシーの事務所へ忘れ物を取りに行くように指示しました。在留カードが入っているとのことでしたから、ほったらかしにはできません。メールを送ったのが6:10ごろ。

その後は1日中授業や面接などで忙しかったのですが、Bさんのことはどこか気になっていました。でも、Bさんからは何の連絡もありません。クラスの授業には出ていたようですが、私には何も言ってきていません。在留カードやらEJUの成績やら、Bさんにとっては大切なものも入っているのに、どうしたのでしょう。明日の授業が終わったら、明日の先生に聞いてみましょう。

いつもと違う

9月11日(火)

朝、教室へ向かおうと外階段に出ると、スーツを着込んだSさんが私の後ろからついてきました。2人で一緒に教室に入ると、やはりスーツにネクタイのCさんが教室の隅に座っていました。そのCさんのそばには、ばっちりメイクをしてきたZさんがいます。午前の授業が終わったらすぐに、面接時の服装やメイクを指導してくれる特別講座があるのです。自分のファッションやお化粧について直接アドバイスしてもらおうと、馬子にも衣装みたいなスーツ姿で来たり、普段はスッピンに近い学生がきちんと口紅を塗ってきたりしているのです。

毎年、秋の衣替えが済んで、受験シーズンに差し掛かると、ネクタイの締め方を教えてくれという学生が数名私のところへ来ます。私は就職して以来何十年もネクタイを締めていますが、ネクタイの締め方は体で覚えてしまっていますから、改めて手取り足取り(いや、足は取りませんね、ネクタイなら)教えるとなると、戸惑ってしまいます。ましてやネクタイの選び方となると、自己流もはなはだしいですから、いくらオーソドックスに選ぼうと思っても、入試の面接の試験官の目には不自然に映るかもしれません。

そんなことなく、正統な着こなしや面接でのマナーを学んでほしいと思って、この講座が開かれたのです。私は学生指導などで講座の様子を直接見ることはできませんでしたが、参加した学生によると、ためになるアドバイスがもらえたとのことです。

人は中身だと言いつつも、見た目の第一印象でその人評価が決まる割合は50%を大きく上回るとか。志望理由書や研究計画書などの資料が豊富ですから、入試面接ではそこまで見た目の印象が占める割合は高くないとは思います。でも、決して無視し得ないほどの重さだと思います。

外見を整えるのも、面接官への気遣いであり、その学校への敬意の表れだと思います。今回の講座で得たことを生かして、合格に結びつけて、有意義な留学へとつなげていってほしいです。

激突

9月5日(水)

関西地方は台風21号の風雨によってかなりの被害が出ました。船が激突して橋げたがずれてしまった関西空港連絡橋の画像・映像にはただただ驚くばかりでした。その関西空港は、高潮で数十センチも浸水し、機能不全に陥っています。高潮といえば、芦屋の海岸にも襲ってきて、家が流されそうになったそうです。京都では文化財がかなり損害を受けたと報じられています。

稀に見る強力な台風が上陸したことは確かですが、こちらの想像を絶するようなところに傷跡を残しています。二条城や大覚寺もそうですが、大阪湾にコンテナが漂流しているというのは、阪神淡路大震災のときにもなかったことではないでしょうか。私が毎年春に歩き回っている平穏な街並みで、屋根が吹き飛ばされたり泥水が暴れまわったり車が燃えたりなどということが起こっているのです。にわかには信じられません。

そんな中で、JR西日本を始めとする鉄道各社が午前中から計画運休をし、電車がらみの被害がなかったことは特筆に値します。不満に感じた人も多かったと思いますが、船が激突した時に連絡橋の上を電車が通りがかっていたら、悲惨なことになっていたかもしれません。駅間で停電し、大勢の人が電車に缶詰にされたら大きなニュースになっていたでしょう。関空で5000名が缶詰には及ばないでしょうが。

今年は6月に大阪府北部地震がありました。比較的自然災害が少ないと思われていた関西の平野部に天変地異が集中しているようにも思えます。日本列島は災害列島だと改めて感じさせられました。

予算5000万円

9月4日(火)

「先生、東京のマンションはどちらがおすすめですか」と、Tさんから突然聞かれました。一瞬どういうことかわからなくてあれこれ聞き返してみると、Tさんのご両親がTさんのために東京でマンションを買ってくれると言っているのだそうです。ですから、都区内で買うとしたらどの辺のを買うのがいいかという質問でした。

「予算は?」「5000万円ぐらいです」「5000万あればこの近くでもいいのが買えると思うよ。富久クロスは億ションだっていうけど」…ということで、諸費用込みで5000万円ほどの物件を探しているようです。Tさんは大学院に進学して、もしかすると研究員として日本に残るかもしれません。そう考えると、5000万円で子どもにしっかりとした生活の場を与えるというのも、親としては妥当な投資のような気もします。Tさんが日本で仕事を続け、家庭を持ち、生活の基盤を築くのならそのマンションを持ち続けてもいいし、帰国するのならその時点で売り払っても子どもの充実した留学生活に寄与したとして、よしとするのでしょう。

富久クロスの億ションの話をしたらちょっと目つきが変わりましたから、Tさんの親御さんはもしかすると5000万円どころかもっと出すかもしれません。バブルの頃の日本人も、アメリカあたりでこんな勘定をしていたのでしょう。これが国の勢いの違いかなあと思います。先進国の中で日本だけがこの20年ほどの間で経済成長がほとんどありません。低成長といわれているヨーロッパ各国でさえ、経済規模が1.5倍ぐらいになっているそうです。

Tさんが5000万円か1億円のマンションで学生生活を送ってもいいですが、学生の本分と親御さんへの感謝は忘れないでもらいたいです。根がまじめなTさんならそんなことはないと思いますが…。

逝く

9月1日(土)

今週一番ショックだったニュースは、やっぱりさくらももこさんが亡くなっていたことがわかったというニュースです。サザエさん同様、ちびまるこちゃんも作者が亡くなってもアニメ放送自体は続くでしょうが、どこからともなく寂しさが湧き上がってきます。

さくらももこさんは私より少し若いですが、だいたい同じ世代と言えます。それゆえ、ちびまるこちゃんの1つ1つの場面やエピソードには、非常に強い共感を覚えます。そういう、懐かしさを共有できる人が亡くなったこと、子どものころの思い出を掘り起こしてその中に浸らせてくれる人がいなくなってしまったことが、寂しさの源だと思います。

サザエさんもドラえもんもクレヨンしんちゃんもかつての日本の家族や暮らしを描いていますが、私の世代にドンピシャリなのは、やはりちびまるこちゃんです。舞台設定が、1970年代の清水という、大都会でもド田舎でもない、ほどほどに田舎で人の温かみがあって子どもが街と自然の境目ぐらいで遊んでいてという、私が子供のころに過ごした環境に近いのです。上述のようにちびまるこちゃんは不滅でしょうが、なんだかちびまるこちゃんにも永遠に会えなくなり、郷愁を覚える街も一緒に消え去ってしまったような気がしてなりません。

日本のアニメにあこがれて来日する学生も多いですが、物心ついたのは21世紀という彼らにとっての“さくらももこ”はいったい誰でしょう。彼らが私の年代くらいになったときに子どものころの香りを呼び起こされる作品って何でしょう。そんなことを考えた一週間でした。

歩き心地

8月27日(月)

8月19日(日)14:34、室戸岬近くのバス停にバスが着くはずの時刻ですが、まだ来ていません。田舎のバスは、乗降のない停留所が多いので、終点にちょうど定刻に着くように、途中の停留所へはやや遅れ気味で来ることがよくありますから、数分の遅延は気になりません。14:44、10分経ちましたが、まだ来ません。バス会社に連絡しようかと思いましたが、停留所の時刻表には連絡先が書いてありません。終点で11分の接続で電車に乗る予定ですから、穏やかではいられません。14:50、16分遅れでバスが来ました。私が乗るや否や、バスは猛スピードで走り出しました。国道55号線の、追い越し禁止となっているようなS字カーブも攻めまくって、信号のないことをいいことに直線では思い切り踏み込み、とろとろ走っている軽自動車を追い抜き、見る見る遅れを回復し、駅前には4分遅れで到着。30分強の乗車時間で12分も稼いだのです。

…これが、この夏休み最大のビックリでした。先週はずっと四国にいましたが、室戸の翌日に高松へ移動したため、台風19号20号の影響もほとんどありませんでした。讃岐山脈の偉大さに感心させられました。徳島県では元気だった雨雲も、讃岐山脈にぶち当たると消えてしまうのです。先週は、四国は雨がよく降ったのですが、香川県だけは台風が通過した23日深夜だけでした。だから、最大のビックリがバスの遅延回復だったのです。

室戸岬のほかに、四国八十八か所の結願の寺・大窪寺、讃岐平野の真ん中に盛り上がる讃岐富士こと飯野山と、少々マニアックなところを狙いました。それぞれ、1日に30キロ以上歩きました。それぞれ、山の頂上から下界を見下ろすところがあり、大汗をかいて息を切らせながら苦しい思いをして登ったけれども、この景色が見られるなら苦しんだ甲斐があったと心の底から思いました。

四国は、歩き遍路の伝統があるからでしょうか、歩行者に優しいと思います。横断歩道のところで立っていると、車が止まってくれる確率が本州九州北海道より高いように思います。また、「へんろ道」とかかれた赤い矢印が電柱やガードレールなどに貼られていて、陰から導いてくれます。四国の主だった観光地はほとんど見てしまいましたが、なぜかまた行きたくなるのは、こんなことがあるからなのでしょう。