Category Archives: 学生

点数は正直

10月4日(金)

先学期の担当クラスのデータチェックをしていたら、会話の中間タスクと期末タスクの成績が未入力でした。これでは学生に成績表を渡せませんから、急いで入力しました。

中間タスクはペアでのロールプレイ、期末タスクはグループで調べたことの発表でした。中間タスクは普通体でのくだけた会話、期末タスクは丁寧体でのわかりやすい説明を見たことになります。どちらもコミュニケーション力を構成する太い柱です。だから両方ともできてほしいのですが、そういう学生はなかなかいません。唯一、Lさんが中間も期末も高得点でした。Lさんは授業中の発言も多く、同国人にも母語を使って話すことはありませんでした。やっぱりねという感じでした。

次はHさんとPさんでしょうか。Lさんよりは発言が少なかったですが、普段から話すときは単語や単文止まりではなく、勉強した表現も織り込んで、考えたことを伝えていました。CさんやGさんは、会話よりも発表が高得点でした。この2人はおとなしいので、会話のキャッチボールよりは自分のペースで調べたことを語る方が性に合っていたのでしょう。逆に、ZさんやJさんは、会話の方が振るっていました。調べたことを原稿にしたまではよかったのですが、それを棒読みしてしまったことが響きました。

Wさんは、どちらもお情けで合格という点数でした。指名されたとき以外はしゃべらないし、しゃべっても単語を並べるだけでした。おそらく、学校外では日本語を使っていないのでしょう。KCPを出た後、日本社会でうまくやっていけるのか、心もとない限りです。

学生の特徴を意識して採点したわけではありませんが、成績には学生の特徴が現れるものだと、妙に感心してしまいました。

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24時間営業大好き

10月3日(木)

期末テストの作文は、“子どもを育てるとしたら、田舎と都会とどちらがいいか”というテーマででした。これをお読みのみなさんは、いかがですが。私のクラスの学生は、9対1で都会組の圧勝でした。

しかし、よく読むと、まず、Jさんは子どもについては全く触れておらず、自分が都会に住みたい理由を滔々と述べていました。文法の間違いも多く、お情けのCをあげるのがやっとです。

Kさん、Lさんは、子どもについて触れていますが、それは最初の段落だけでした。2段落目からは、田舎は不便でかなわんということを書き連ねていました。Mさんは、都会には塾があるからいい学校に進学する際に有利だと言っています。でも、今、塾の宿題に追われて苦しんでいるのはMさん、あなたですよね。

他の学生も似たり寄ったりで、多少の濃淡はあるものの、行間からにじみ出てくる思いは、“田舎には住みたくない”でした。都会は電車が便利で通学に時間がかからないと言いますが、田舎は自転車で通える範囲に学校があることも多いんですよ。便利な電車に乗りたいのは、子どもではなく自分自身なのです。田舎に24時間営業のコンビニが少ないのは確かですが、24時間営業に頼っているのは都会人だけですよ。

数名が、子どもが病気になった時すぐ対応できるのは都会だと書いていましたが、Nさんは田舎のきれいな空気を吸っていれば病気にならないと主張しています。これはNさんに軍配を上げたいです。また、Oさんは、都会にいるとスマホゲームばかりしていて、遊びを通して身につくスキルが身に付かないと言っています。これは、Oさん自身の反省かな。

学生の都会志向の強固さを改めて感じさせられました。そういえば、このクラスの学生の志望校は、大部分が東京でした…。

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メール送信

10月2日(水)

今学期の新入生のプレースメントテストはもうだいぶ前に終わり、先週はプレースメントテストの結果で中級以上に判定された学生の面接をしました。面接でのやり取りも加味して、レベルを最終的に決定します。

私が担当した学生たちは、みんな話す力がもう一歩でした。まだ国にいますからオンラインの面接でした。だから、回線の状況によっては聞き取りにくかったこともあるかもしれません。そのハンデを差し引いても、普段日本語の勉強はしていても、会話はしていないんだろうなと感じました。

学生たちは異口同音に、KCPではコミュニケーション力を付けたいと言いました。そうだろうなと思いました。漢字の読み書きや文法、もしかしたら読解問題の解法のテクニックまで練習しているかもしれませんが、会話はテキストを「読む」くらいしかしていないのでしょう。それでいきなり、「KCPで勉強以外にどんなこと、してみたい?」なんて聞かれたら、オンラインの向こう側で目を白黒させていたとしても無理はありません。

Aさんは、「こんにちは。KCPの金原です。よろしくお願いします」と私が話しかけるや、「Aと申します。これからお世話になります。私は日本で大学院に進学したいです。どうぞよろしくお願いいたします」と、いかにも何かを読み上げている口調で言いました。あいさつ文を作り上げた努力は認めますが、どうせなら自然な話し方ができるまで練習しておいてほしかったですね。

9月にレベル4だった私のクラスの、できない学生といい勝負の話し方でした。Aさんが3か月練習すれば、同じクラスのできる学生並みになれるかな、なってほしいなと思いながら、レベル判定をしました。

午後、Aさんたちに判定結果をメールで送りました。コミュニケーション力を付けるには、今までとは質の違った練習をしなければなりません。覚悟はできていますか。

ほどなく、Aさんからは返信のメールが来ました。文面からは覚悟のほどはわかりませんが、ガンガン鍛えていきますからね。

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採点

9月27日(金)

昨日の期末テストの読解を採点しました。一番熱心に授業に参加しているJさんが一番いい成績だったという、実にまっとうな結果となりました。授業中もスマホを握りしめている学生たちは、軒並み沈みました。教科書の文章に集中しなければならないのに、右手の指先にばかり神経が行ってしまっていたら、頭の中には何も残りませんよ。

全体的なことを言うと、学生たちは質問文をよく読んでいないんだなということがわかりました。“当時”とはいつのことですかと聞いているのに、“大学生の私”などと答えてしまった学生が1人や2人ではありませんでした。せめて“私が大学生の時”と答えてくれたら、部分点はあげられたのですが…。授業では“筆者が大学生だった時”と教えたような気がするんですが、耳よりも指先に精神を集中していたら、そんなことは覚えちゃいませんよね。

比較的よくできたのは、本文から言葉を選んでくる穴埋め問題でした。これだって、できない学生はとんでもないところから言葉を引っ張ってきたり、5文字分ぐらいのスペースしかない解答欄に無理やり本文1行を押し込もうとしたり(その1行の中のキーワードを答えてほしかった)と、やりたい放題をしてくれました。かなり好意的に採点しましたが、それでも点をあげられない答えがザクザク出てきました。

こんなふうに学生に対して愚痴をこぼしたくもなりますが、こちらにも改めるべき点がなかったかと反省もしています。各段落の、文章全体の肝をつかませるにはどうしたらいいか、これは永遠の課題です。また、Jさんの授業の受け方を、次の学期の学生たちにいかに伝えるか、そして実践してもらうかということもそうでしょう。

今度は、新学期までの期間が短いです。その間に態勢を立て直さねばなりません。

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たかのやま

9月25日(水)

期末タスクの発表会をしました。この日のためにここ1週間、毎日調べ物をしたり発表原稿を作ったりそれを発表する練習をしたりしてきました。その成果をクラスメートの前で発表するのです。

タスクの内容は、数名のグループに分かれて、ある県について調べ、それを発表するというものです。私のクラスは、愛知県、鳥取県、和歌山県、熊本県、青森県が取り上げられました。この中で、愛知県は知らなくても名古屋走っている学生は多いでしょうが、他の県は初めて知ったという学生が大半だったのではないかと思います。

それでいいのです。知ったら、興味を持ったら、さらに調べて、できれば現地に赴いて直接見て聞いて触ってくることをしてもらいたいのです。東京以外は北海道と大阪と京都と沖縄しか知らないのでは、日本に留学している意味がありません。友達の発表を聞いて、日本の多様性に気付いてほしいのです。

学生の聞いている態度を見る限り、自分の担当以外は無関心ということはなさそうでした。何か引っかかるものを見つけたようです。“高野山”を“たかのやま”と読んでしまうなど、不正確な情報もありましたが、津軽弁の動画に笑いこけたり、太平燕の写真に目を輝かせたり、印象に残る情報もあったと思います。

今回は1グループ10分ということだったのですが、どのグループも制限時間を大幅に超えてしまい、発表が終わったのは授業終了時刻を15分もオーバーしていました。でも、誰一人として時計を気にすることなく、最後まで発表に耳を傾けていました。話す方も聞く方も、成長したなと思いました。

さあ、明日は期末テストです。進級がかかります。

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彼岸まではいいけど

9月24日(火)

それにしても、計ったように“暑さ寒さも彼岸まで”ですね。先週末の彼岸の前日までは真夏日でしたが、おとといの彼岸の中日は、雨が降ったこともあり、最高気温が30度を割り、昨日はさらに下がり、今朝に至っては、最低気温17.7度、肌寒ささえ感じました。半袖でマンションの外に出た瞬間、カーディガンを羽織ってくればよかったと思いました。“秋冷”は言い過ぎかもしれませんが、今までが夜でも暑苦しかっただけに、そんな言葉も使いたくなります。

いろいろな秋の感じ方があると思いますが、私は全国の最高気温ランキングで秋を感じます。暑い盛りの頃は、熊谷とか山形とか江川崎とか日田とか北見とか、本州四国九州、時には北海道の内陸部や盆地がベストテン(暑すぎますからワーストテン?)を競い合います。しかし、暑さが衰えてくると、沖縄の各地点が上位を独占します。現時点では沖縄勢が独占とまではいきませんが、上位に進出するようになりました。

涼しくなると心配になってくるのが、学生たちの風邪です。どうしてこんなに病弱なのかと言いたくなるくらい、季節の変わり目に風邪をひいて欠席する学生が多いです。今朝の私のクラスは欠席6名。そのうち2名は遅刻してきましたが、4名は声が出ないとか連絡してきていますから、気温が下がったせいで風邪をひいたのかもしれません。エアコンのつけすぎでも風邪をひく、ようやく学問の秋っぽくなったと思ったら風邪をひく、いったい、いつがベストシーズンなのでしょう。

そんなことを言っても、あさってが期末テストです。

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不合格

9月20日(金)

授業後、Sさんが先週のテストの再試を受けました。先週は残念ながら合格点には届きませんでしたから、もう一度よく勉強して再挑戦したというわけです。

このテストには、友達同士の会話のスクリプトを作るという問題がありました。この問題には、勉強した表現や語彙を使うことはもちろん、“友達同士の会話”らしい文末表現で答えてもらおうという出題意図がありました。授業でも練習したのですが、この問題で点が取れたか取れなかったかで、成績に大差がつきました。

この問題をほぼノーミスで答えられたJさんは、満点に近い成績で、クラスで一番でした。しかし、Jさんは例外で、多くの学生がこの問題で沈みました。配点が大きかったこともあり、少なからぬ学生がこの問題で失点を重ねたせいで不合格になりました。Sさんもその1人でした。

Sさんの答案は、先週よりはいい点でしたが、合格点にはわずかに届きませんでした。先週と同じく、会話のスクリプトを作る問題ができませんでした。Sさんはまじめな学生ですから、教科書に載っている事柄は確実に覚えます。しかし、会話の文末表現は今学期だけでなく、先学期も先々学期も、会話の時間に練習しているのですが、教科書に出ているわけではありませんから、Sさんはスルーしてしまったのでしょう。

そして、Sさんがテストの答えとして書いた会話スクリプトは、Sさんのしゃべり方そのものなのです。まるでSさんが答案用紙に乗り移って私に話しかけてきたかのようでした。今は、ろくな会話をしなくても生活できてしまいます。ですから、Sさんのように非常にぎこちない会話しかできなくても生活に不便を覚えないのです。

Sさん、あなたは努力を惜しまない学生ですから、進級させてあげたいです。でも、その努力の方向を考え直さないと、ごく近い将来、身動きが取れなくなってしまいますよ。

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説明する

9月19日(木)

WさんとZさんは、理科系志望の良きライバルです。もうすぐ入試本番を迎えます。その入試に、口頭試問があります。理科系大学の口頭試問は、「どうして本学を志望したんですか」などという一般的な面接の質問に加え、理科や数学に関する質問もなされます。例えば、数年前のある卒業生は、「ニュートンの法則を説明してください」と聞かれたそうです。

ニュートンの法則といえば物理の基礎の基礎ですから、理科系の受験生なら誰でも知っています。しかし、それを改まって説明しろと言われると、言葉に詰まってしまいます。頭でわかっていること、国の言葉で理解していることを日本語わかりやすく説明するというのは、留学生にとってはかなり高度な口頭発表です。

大学によっては、それほど難しくない問題をその場で解かせて、答えを導くまでの過程を説明させることもあります。口頭試問の時間は1人当たり20分ぐらいですから、長考に沈まなければならないような難問は出されません。数分以内で解ける問題ですが、答えに至るまでにどんな道筋をたどったかわかりやすく説明するとなると、話は別です。

物理の時間に、EJUの過去問を使って、WさんとZさんに口頭試問の練習をしてみました。2人とも、EJUの過去問ぐらいは解けます。しかし、予想通り、説明する段になると、しどろもどろの支離滅裂、ホワイトボードには前衛芸術並みの絵と国籍不明の文字、一緒に説明を聞いた学生も“???”でした。

WさんとZさんも、もどかしく悔しいに違いありません。合格はその悔しさ、もどかしさを越えた先にあります。まだまだ鍛えなければなりません。

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静かな授業

9月18日(水)

私のクラスは期末タスク真っ盛りです。数人のグループになって、各メンバーが与えられた課題についで調べ物をして、それを総合して発表します。昨日から始まったばかりですから、まだ調べ物の段階です。このクラスの学生はよくしゃべるのですが、調べ物の最中は水を打ったように静まり返っていました。鉛筆を動かす音の分だけ、テスト時間中の方がうるさいくらいでした。今どきの学生は、スマホで何かしている時が、一番精神集中できるのでしょうか。

今回のタスクは、ある県についていろいろな角度から調べて発表するというものです。グループ内で役割分担を決めて、各自が調べた結果を持ち寄ってパワーポイントを作り、発表します。もちろん、そこで使うべき(使ってほしい)表現や語彙は、今学期の授業で入れています。ですから、ただ単に調べ物をすればいいという問題ではありません。ネットに書いてあることをそのまま丸写しして発表しても、点数は付きません。それを自分なりに咀嚼して、理解できたことをクラスメートにわかるように伝えるという点に主眼があるのです。

同時に、クラスメートの発表を聞いて、新たな知見を得ることもまた、この期末タスクの目的です。学生が知っている都道府県と言えば、1都1道2府と沖縄県ぐらいでしょう。埼玉県は春に行った川越をピンポイント的に知っているくらいでしょうか。例えば鳥取県などという学生にとって縁遠い県について調べたり、その結果を聞いたりしたら、それはそのまま学生たちの視野が広がることにつながります。

調べ物の最中の静けさが、知的好奇心爆発の前兆現象であることをひそかに祈っています。

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最後です

9月13日(金)

授業が終わって職員室に戻ろうとしていると、Mさんが「先生、来週の火曜日は授業をしますか」と聞いてきました。「いいえ。このクラスの授業はいつも通り、水曜日と金曜日ですよ」と答えると、Mさんは「じゃあ、今日が先生の最後の授業でした。どうもありがとうございました」と、頭を下げました。Mさんは、アメリカのプログラムできていますから、今学期の終業が普通の学生より少し早いのです。火曜日まで授業を受けて、水曜日に期末テストを受けて、すぐに帰国ですから、顔を合わせられるかどうかわかりません。それで、わざわざお礼を言ってくれたのです。義理堅いじゃありませんか。

「期末テストでもいい点数を取って」と言って、2、3歩行くと、今度はJさんから、「先生、私、今日までなんです。明日、国へ帰ります。今までどうもありがとうございました」と、いつもと変わらぬ明るい声と満面の笑みで声をかけられました。どうせ退学するんだから、最後は遊びまくろうなどというよからぬ考えに傾くことなく、こうしてきちんと挨拶してくれるのです。まさしく、立つ鳥跡を濁さずです。

調べてみると、Jさんは入学から今まで、1コマだけ欠席が付いているだけで、出席率は限りなく100%に近いです。また、どんな授業にも全力で取り組み、何でも吸収しようという意欲が表情にあふれ出ていました。Jさんを見ていると、こちらも教える意欲が湧いてきます。各クラスにJさんみたいな学生がいると、教師の授業の質も上がり、学校全体が活気に満ちてくるのではないかとさえ思いました。

Jさんは日本で進学するつもりで受験の授業も取っていましたが、ご両親から帰って来いと言われて、帰国を決意したと聞いています。今学期の初めの時点では来年の3月までKCPで勉強すると言っていましたから、事情が変わったのでしょう。残念ですが、親の意見には逆らえませんよね。

私が「Jさん、お元気で」と声をかけると、Jさんは「先生もお大事に」と、最後の最後に笑わせてくれました。

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