Category Archives: 学生

受験以前に

1月24日(月)

昨年12月のJLPTの結果がオンラインで発表になりました。例年より受験者数は少なかったですが、合格率は特別良くも悪くもなく、いつもどおりでした。昨年7月にN1に1点差で落ちたGさん、2点足りなかったSさん、Oさんは順当に合格。全く歯が立たなかったCさんやTさんも余裕の合格でした。かなり努力したのでしょうね。中には返り討ちにあった学生もいましたが…。

JLPTは19点未満の科目があると、他がたとえ満点でも合格できません。つまり、極端に弱い科目を作ってはいけません。そういう目で見て心配なのが、漢字が足を引っ張ったと思われるJさん、Eさん、Kさん、読解に手も足も出なかったみたいなDさん、Kさんなどです。N1に合格したけど読解が危なかったLさんは、いい気にならなければいいのですが…。

今回は、当日欠席の学生が少なかったことも特徴と言っていいでしょう。受けるべき学生がしかるべき準備をして受けた結果で、記念受験的な学生が少なかったのです。しかし、敵前逃亡したのは、ああやっぱりと思えるような学生ばかりでした。

涙を誘われたのは、出願したのに来日できずに受験できなかった学生たちです。意欲的に勉強していた学生たちには気を落とすことなく努力を続けてもらいたいです。とはいえ、いかに精神的にタフでも、明るい日の光が差すことを信じられなくなったら、挫折してしまってもおかしくはありません。

もはや水際作戦など用をなしていません。今年のJLPTにはこんな受験生が出ないことを願うばかりです。

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後がない

1月20日(木)

1月期の受験講座は、6月のEJUを目指す学生たち向けの授業が始まります。化学は周期表、物理は等速直線運動と、基礎に戻ります。その一方で、先学期まで受験講座を受けていた学生たちの受験シーズンでもあり、面接練習などを依頼されることもよくあります。

受験講座から戻ると、Lさんが待っていました。親がどうしても国立大学と言うので、P大学、D大学、E大学に出願します。同じような学部学科に出願したならともかく、EJUの持ち点を基準に、興味の向かうままに学科を選んだので、生物やら機械やら、ベクトルが全くそろっていません。そういった学科で何が勉強できるかよくわからないから教えてくれという相談でした。

出願前ならそもそも論に立ち返って出願先の再考を促すところですが、今週末に面接という大学もあるくらいですから、そんな悠長なことは言っていられません。各大学のサイトを見せながら、見ておくべきポイントを教えていきました。こんなことは夏ぐらいにやっておくべきなのですが、その頃のLさんは私たちを全然頼りにしていませんでした。ぎりぎりになってから来られても、可能な指導は限られています。

Lさんの次はMさん。来週早々S大学の面接があるので、集中的に面接練習をしたいとのことでした。落ちたら帰国という背水の陣を敷いているのですが、Mさんの出願した学科はS大学の中でも屈指の競争率の学科です。それに加え、Sさんは11月のEJUで何かやらかしたらしく、実力よりもはるかに低い成績に終わっています。正直に言って、勝ち目の薄い勝負です。そういうことは承知の上で、やれるだけのことはやり、悔いが残らないようにしておこうというのがSさんの考えです。決意が固いようなので、引き受けることにしました。

Sさんと同じく、全滅だったら帰国すると言っていたWさんがT大学に合格したという知らせが聞こえてきました。Wさんも国立をいくつか受けると言っていましたから、面接練習が回ってくるかもしれません。なんだか忙しくなってきました。

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体育会的数学

1月19日(水)

今まで、理科系の数学の受験講座は、90分の授業を週に2日行っていました。それを、今学期は、180分で1日にしてみました。日本語のクラス授業同様、前半と後半の間に15分の休憩をはさみます。この方式の方が、練習問題をする時間が取れるのではないかと思って始めてみたというわけです。

やってみると、確かにそういう感じがしました。週当たりの授業時間は変わらないのに、なんだか余裕があるように感じられるのです。初回は一応予定したところまで到達しましたから、練習問題をやった分だけ進度が遅くなったというわけではありません。

その点はよかったのですが、練習問題をさせてみると、計算力が足りないという問題が浮かび上がってきました。前々から薄々感じていたことですが、KCPの学生は計算問題をおろそかにするきらいがあります。やれと言ってもそんなのちょろいとばかりに無視します。そのくせ、EJU本番で何かやらかして、思ったように点数を伸ばせないのです。EJUの数学は計算力が命なのに、それを直視しようとしません。

練習問題、計算問題をすることによって、数学的な勘が養われます。反射神経が鋭くなると言ってもいいでしょう。式を見ただけでこんな感じに因数分解にできるんじゃないかとかグラフの概形が見えてきたりとか、図形問題で補助線が浮かび上がってきたりとか、そういう域にまで達してもらいたいものです。

6月までの受験講座はこの計算力を重視して、体育会的に体で覚える数学にしていきたいです。

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%の争い

1月18日(火)

今学期は、大部分の学生が3月で卒業していきます。進路が決まっている学生はそのまま4月から進学先に通えばいいのですが、現時点では未定の学生も少なくありません。その中の一部の学生は、入管が打ち出した特例により、4月以降もKCPで勉強します。入国が大幅に遅れたために計画通りの日本語学習ができなかった留学生への救済措置です。これにより、日本語学校の在籍期間が2年を超えても勉強が続けられるようになりました。

しかし、この救済措置は誰でも受けられるわけではありません。出席率が低かったら、進学先が決まらなかったのは、日本語力が足りなかったからではなく、日本語習得に対する熱心さが足りなかったからでしょとされてしまいます。日本語学校の世界は出席率がすべてを取り仕切っていますから、当然のことです。

午後、Qさんが職員室で先生方と話していたのはその件です。これから受験する大学もありますが、本人的にはもう1年勉強して“いい大学”に進もうと思っているようです。しかし、お手軽に休んだツケが回ってきました。救済してもらえないおそれもある数字になっていました。

国費留学生87名の入国が認められるそうです。日本に入国できないまま卒業修了の時期が迫ってきた留学生たちが対象です。私費留学生、それも日本語学校への留学生の入国が認められるのはいつのことでしょう。そういう人たちのことを考えたら、Qさんは今日本にいるのですから、とても恵まれています。その好条件をみすみす逃しちゃうのかなあ。そういう危機的状況だということがわかっているのでしょうか。

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耳を鍛える

1月15日(土)

今学期の受験講座が始まりました。土曜日のメニューは、毎学期、EJUの日本語と、JLPTのN1とN2です。私はEJUの日本語を担当しました。「さあ、過去問やるよ」でもよかったのですが、受講する学生の意識を高めようと、先学期末に発表された昨年11月のEJUの結果について触れました。

やはり、留学生が入国できない影響は大きく、昨年11月のEJUの受験者数は、その2年前までの半分程度に落ち込みました。平均点があまり変わっていないのは、問題の質が安定しているからでしょうか、得点等化のおかげでしょうか。

EJUが始まったころは300点というのが一つの目標でしたが、今は300点では「悪くはないね」というくらいです。今回の結果に当てはめると、上から26%、偏差値で58ぐらいです。学生たちが考えている大学のレベルには距離がある感じです。偏差値65というと343点ですから、かなりがっつり訓練しなければ手が届きません。

そのぐらいの点を取るには、苦手分野を作ってはいけません。KCPの学生は、押し並べて聴解・聴読解が弱いようなので、今学期の受験講座では聴解力の強化に力を入れます。今までの分析によると、教授の講義を聞くタイプでつまずきやすいという結果が得られていますから、そこを重点的にやっていきます。大学に進学しようという人が教授の講義の内容をつかみかねていては、話になりません。

学生の手ごたえはどうだったのでしょう。大あくびをしていたCさんは、楽勝宣言かな、それとも集中力が途切れちゃったのかな…。

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チャイムがない日々

1月14日(金)

おととし、オンライン授業が始まって以来、校舎内のチャイムを止めています。学生がいなかったらチャイムは無意味だし、対面授業の時でも密を避けるためにレベルごとに授業時間をずらしていますから、全校が統一的に動くことがありません。それゆえ、学生が来ていてもチャイムは鳴らしません。

午前中、用事があって学校の中をうろちょろしていたら、外階段の踊り場でおしゃべりしている学生たちに会いました。時計を見ると、中級レベルの休憩時間に差し掛かっていました。私が通りかかると、わざわざおしゃべりを中断して「先生、こんにちは」とあいさつしてくれました。私も「こんにちは」とあいさつを返すと、その学生たちは安心したかのようにおしゃべりを再開しました。

校舎内に入ると、廊下のベンチで黙食している学生やエレベーターホールで立ち話している学生がちらほら程度。密回避にはなっているようでした。私が前を通ると、黙食の学生はぴょこんと頭を下げました。食べながらスマホに熱中している学生は、もちろんそのまま。立ち話の学生は「こんにちは」と言ってくれました。KCPの学生は義理堅いですね。担当の先生が教室に入ると、それにくっついて学生たちも教室に収まっていきました。

授業を担当している時は、チャイムが鳴らないのにすっかり慣れてしまいました。授業をしていない傍観者の立場だと、いつの間にか学生が湧きだしたり、潮が引くように消えていったり、その波が何回か押し寄せたりというのが、まだ不思議な感じがします。

新規感染者数が順調に力強く増えていますね。チャイムに合わせて全校一斉にという日が、ぐんぐん遠ざかっていくようです。

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久しぶりの超級クラス

1月12日(水)

今学期から、午前クラスの始業時刻を30分遅らせました。9時だとラッシュのピークにかかりますが、9:30始まりなら山場を越えていますから、多少なりとも密が避けられます。午後のクラスは、逆に、始業を30分早めました。そうすると、学生の帰宅時間帯が夕方のラッシュの直前になります。学生の安全を考えての変更ですが、学生たちは、「朝寝坊できていいや」とか「早く帰れてラッキー」とかって思っているだけかもしれません。

最上級クラスに代講が生じたので、そこに入りました。さすが最上級クラスだけあって、先学期の中級クラスとは日本語の通じぐあいが全然違います。ビザや日本語学校の在籍期間に関する複雑な話も、1回説明しただけで理解してくれました。

学生資料を見ると、このクラスの学生はみんな“いい学校”に進学することを目標に勉強してきました。すでに目標を達成した学生も、この3か月に勝負をかける学生もいます。いずれにしても、日本人の大学生や大学院生の中でも優秀な人たちに伍して勉強や研究をしていくことになります。とすると、進学したらおちおち日本語など勉強している暇などありません。

学問は議論です。議論とは相手の意見を正確に理解し、自分の主張を明確に相手に伝えることです。その繰り返しでお互いの考えが深まり、アウフヘーベンが生まれ、高みに達することができるのです。一方的にまくしたてたり、相手の言い分に聞き耳を立てたりしているだけでは、高い授業料を支払って高等教育の場に身を置く意味がありません。

だから、卒業式までにそういうことができるだけの日本語力を付けていってもらいたいのです。

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デジタルネイティブの本能

1月5日(水)

私の世代は、社会人になりたての頃は新人類などと呼ばれましたが、今や完全に旧人類です。コンピューターを本格的に使うようになったのは就職してからで、卒論や修論のデータは紙で管理が中心でした。それに比べると、今の学生たちはデジタルネイティブで、コンピューターを母語のように扱います。

そういう学生たちに、コンピューター経由で進学に関するアンケートを取りました。年末にフォームを送ったのですが、回収率が芳しくありません。催促のメールを送っても、なかなか反応してくれません。オンライン授業での提出物の様子を見ていると、すぐに100%近く回答が来ると思っていましたが、そうはありませんでした。

宿題やテストは提出しないとすぐに痛い目に遭わされますが、このアンケートはそんなことがないからかもしれません。しかし、アンケートを紙で配っていた時は、欠席者を除いてほぼ全員が提出していました。紙に書かれたデータを手入力するのは確かに手間でしたが、回収率の高さには代えられません。

紙のように課題が現物として存在すると、早く片付けなければという意識が働くのでしょう。パソコンかスマホの中の電子的な存在となると、緊急を要しないと見るや、後回しにしてしまうのです。デジタルネイティブのはずの学生たちも、根っこの部分にアナログな思考回路が垣間見えます。

嫌なこと、見えないものはなかったことにという、人間の本能とも言える発想が、デジタルネイティブの行動様式を変えてしまったとも考えられます。とすると、人間って意外と進歩しないものなんですね。真のデジタルネイティブは、今の学生の次の世代なのかもしれません。

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改めて、留学の意義

12月27日(月)

今年最後の出勤日を迎えましたが、2021年は新入生がまともに入国できない1年となってしまいました。オンライン授業に参加してみたものの、あまりの先行きの不透明さに挫折してしまった学生も少なからずいました。私が学生の立場でも、見切りをつけたでしょうね。

そういう学生にとって、2021年はどんな年だったのでしょう。空白の1年と感じているのでしょうか。日本語を勉強しても、その進歩を感じる機会がなく、また、日本での進学が具体化する方向にもなかなか進まず、精神的につらかったに違いありません。無為徒食とすら感じていた学生もいたようです。

私たちはそういう学生たちに何かしてあげられたかというと、非常に限られた範囲でしか手を差し伸べられなかったと思います。学生の気持ちを燃え立たせ、意欲を長続きさせようとあれこれ手を打ってきました。しかし、結果的に見て、それが有効に作用したとは言い難いのが現状です。

総括すると、「日本での留学生活」が見えてこない状況で学生のモチベーションを維持させるのが大変に困難だったということです。留学とは単なる勉強ではなく、今まで慣れ親しんだ環境とはまるっきり違った世界に身を置くことで見えてくる何物かをつかむ点にこそ意義があるのです。

それぐらい、わかっているつもりでした。でも、こういう、留学の基本認識の重みを、身をもって感じさせられたのが2021年でした。来年、私たち教師が、あるいは学校が成長するか否かは、この原点をどこまで深く追求できるかではないかと思っています。

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予定は?

12月25日(土)

机の上に置く、予定を書き込むカレンダーを新しくしました。早速、1月12日の1月期始業から、予定を書き込みました。おととしもこうして予定を書き込んだものの、その予定が木っ端微塵に打ち砕かれました。昨年末書き込んだ予定は概ね実施されましたが、思い描いたものとは違った形になったものもかなりありました。

11月のEJUの成績が、受験した学生たちからぼつぼつ届いています。今年は学生の絶対数が少なかったので出願者数も受験者数も当然少なくなりました。事務所の窓際には、渡されることのなかった受験票の入った水色の封筒が置かれています。日本で受験できると信じて出願したのに来日が叶わず、欠席者扱いになってしまった学生たちの怨念がこもっているような気すらします。おろそかには扱えません。

そういう学生が全国の日本語学校に大勢いたのでしょう、11月のEJUの欠席率は4割に迫る、半端な数ではありませんでした。オミクロン株の市中感染が始まりかけているという現状では、留学生の入国は当分見込めそうにありません。この欠席者のみなさんは、来年6月のEJUを受けるのでしょうか。それとも、もう待ちきれないと日本留学をあきらめてしまうのでしょうか。

そう考えると、こういった学生たちのカレンダーはまだ真っ白かもしれません。何をどう書き込んだらいいのか見当がつかないでしょう。希望的観測だけでは、予定とは言えません。でも、悲観的な年間計画では、心が折れてしまいます。春秋に富む学生たちは、その前途が洋々としているからこそ、悩みも深いのです。

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