Category Archives: 学生

香車

7月14日(水)

私が担当している中級クラスで、あるテーマについて3~4名のグループに分かれて話し合い、その結論を発表してもらうというタスクをしました。グループ活動をしている最中は各グループともお互いに自分の意見を主張し合い、議論が白熱しているようでした。

あまりの盛り上がりようを見て若干時間を延長しましたが、発表の時間が来ました。しかし、グループのうちのいくつかは、両論併記みたいな発表でした。意見の異なる2人が発表したグループすらありました。学生たちの発表は堂々としたもので、ほめてあげられます。しかし、意見を1つにまとめろという私の指示は、あまり守られませんでした。

このクラスの学生は、自分の意見を述べ立てることはできても、他人の意見を聞いたり、異なる意見の人を説得したり、お互いの意見を認め合ってグループとして1つの意見にまとめたりすることはできないようです。中級の入り口だと、こういうところまで求めるのは酷かもしれません。

自分の意見を引っ込めるとか譲るとか妥協するとかというのが苦手なのかなあ。そういうのは決して負けではないんですがね。意見の違いを乗り越えて1つの統一見解にまとめることこそ、コミュニケーションの神髄でもあります。そういうレベルに至るには、まだまだ長い道のりがあるようです。

中級会話の初回としては、心行くまで意見を主張できたことで良しとしなければならないかもしれません。今回できなかったことは、これから9月までの間に少しずつ伸ばしていくことにしましょう。

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読めない

7月13日(火)

夕方、私のクラスの学生・CさんがEJUの物理の問題を聞きに来ました。塾でもらったと思われる問題集を見せて、この問題がわからないから教えてほしいと言います。言うだけではなく、鉛筆と計算用紙まで準備していました。今まで何人もの学生が私のところまで理科や数学の問題を聞きに来ましたが、ここまで用意してきた学生はめったにいません。それだけ、Cさんの本気度が伝わってきました。

しかし、聞かれた問題のレベルはあまり高くなく、今、ここでつまずいているとしたら、6月のEJUは期待薄のようです。1問目について私が説明を始めると、問題文で使われている用語の意味を知りませんでした。それを説明すると、あっと言って、鉛筆を動かし、正解にたどり着きました。2問目は、私の説明の途中で、Cさんは重要な条件を読み飛ばしていたことに気づき、再度しっかり問題を読んで、これまた正解を得るに至りました。

つまり、Cさんは問題文の読み取りができていなかったのです。そのため、難易度的には大したことのない問題が解けなかったというわけです。今学期中級に上がったばかりのCさんにとって、日本語で書かれた物理の問題を一読で理解し、その答えを出すのは、かなりハードなタスクなのでしょう。国で勉強したことがあったり、学校ですばらしい成績を残してきたりしても、それをそのまま日本の大学入試に平行移動することはできません。

Cさんのクラスにはまだ1回しか入っていませんが、そのときの印象では、Cさんは決してできる学生ではありません。問題文の読解に苦しむのも不思議ではないという程度です。だから、読解や文法の授業を本気で受けてほしいのですが、今までの経験からすると、そういう学生に限って「物理の勉強が優先」とかって言いだすんですよね。そして、不合格街道をまっしぐらに突き進むのです。

鉛筆と計算用紙を差し出したCさんには、そういう道を歩ませたくないです。

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拍手はするけど

7月12日(月)

新学期2日目ですが、自己紹介をしました。学生たちは金曜日に自己紹介の要領を教わっており、土日でしっかり考えて、週明けに発表してもらったわけです。

1人1分ぐらいということになっていましたが、平均すると1分半ぐらいだったでしょうか。でも、だらだらとした30秒オーバーではなく、聞く価値のある話が続きました。しかし、「〇〇さんに質問、ありますか」と聞いても、ほとんど反応がなかった点が気になりました。マスクをしているので声がこもり、窓とドアを開けていたので教室外の音が容赦なく入ってきて、聞き取りにくかった点は否めませんが、それにしても、質問がなさすぎます。

このクラスに限らず、最近はおとなしいクラスが増えているようです。緊急事態が常態と化している現状がありますから、しゃべり合って盛り上がるのも危険です。でも、クラスのみんなが指名されるまで待っているとなると、学生たちの積極性を疑いたくなります。受け身の姿勢が標準となってしまったら、教師にとって授業がやりにくいのみならず、学生もコミュニケーション能力が養えません。

指名すれば何か応える学生たちばかりですから、バカだから答えられないのではありません。新学期にクラス替えがありましたが、各学生とも、かなりの学生は顔見知りです。授業中何も話さないのがデフォルトとなっているとしたら、それは心得違いです。1分半ぐらいの、実のある自己紹介ができる能力があるのですから、それを当意即妙に質疑応答する方面にも回してほしいです。

担当初日にして、今学期の課題が見つかりました。

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心配事

7月2日(金)

大学や専門学校の留学生担当の方が時々いらっしゃいます。しかし、今年は学生がいません。オリパラが終わるまでは留学生の入国は難しいでしょうから、今、海外にいてKCPに入学を希望している人たちの入学は、早くて10月になりそうです。毎年、4月に入学して1年で進学していく学生もいますが、来日が遅れるとその分だけその数は少なくなるでしょう。

そして、11月のEJUの出願は7月ですが、11月に日本で受験できる確証がないと、出願する意欲も鈍って当然です。去年も、出願はしたものの、試験日までに待機明けの自由の身になれず、受験できなかった学生がいました。多くの大学がEJUを必須としているので、22年4月に大学に送り込める学生の数となると、本当に限られてしまいます。

大学院にしたって、状況は大きく変わりません。海外から日本の大学院の先生に接触する手はありますが、順調に来日し、試験を受け、進学の運びとなる学生が19年までと同等になるとは考えにくいです。

21年度入試で面接試験を省いたところは、日本語でコミュニケーションが取れない学生が入学してしまって困っているという話を聞きます。そうすると、現時点で日本にいて、面接試験が受けられる学生が有利だとも考えられます。もちろん、面接でコミュニケーション力が発揮でき売ればという仮定の下ですが。

大学や専門学校は学生数を確保したいでしょうが、学生の質も落としたくないに違いありません。学生の質は教育の質に直結していますから。そう考えると、今の学生たち、ちょっと心配だなあ…。

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文法を教える

7月1日(木)

月が替わりました。私は養成講座の授業が始まりました。中上級の文法です。でも、日本語の骨格を成す“文法”は、初級で勉強してしまいます。動詞の活用、助詞のはたらき、日本語の文構造、そういった事柄は、みんなの日本語の赤い本と青い本でほぼ勉強し尽くします。厳密に言うと、中級や上級の文法の時間に勉強することは、句法や語法です。

実は、中級や上級は、文法以外の時間に文法を勉強していることが多いのです。初級で勉強した文字通りの文法をどのように応用していくか、字面の裏側に隠された話者の真意をいかに探り当てるかなどを追求していきます。また、日本の文化や日本人の伝統的な考え方に基づいた言葉の使い方や表現の方法といったことも、機会あるごとに触れていきます。

これらは、日本人にとって当たり前すぎることなので、授業などで見過ごされがちです。また、受験のテクニックとも違いますから、問題集などで扱われることもあまり多くありません。しかし、学習者が日本人と意思疎通を図りながら日本で暮らしていく上は、どうしても必要なことです。JLPTや大学入試の点数につながらなくても、日本を生活の舞台とするなら、身につけておかねばなりません。その役目を担うべきは、日本語教師です。

日本語は、英語とは違って国際共通語ではありません。英語は、ノンネイティブ同士のコミュニケーションにも活発に使われています。しかし、日本語の場合、ノンネイティブはネイティブとのコミュニケーションの場面に使うのがほとんどでしょう。だから、上述のような日本語の使い方ができるようになっておく必要があるのです。

学習者が日本語を生かしていく際に不可欠なことは何か、それを受講生に伝えていきたいです。

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変容

6月25日(金)

学期休み中は、教師の勉強会がよく開かれます。特に昨今は学校のあり方が大きく変わりましたから、それに関して外部の講演会や研修会に参加した先生の報告会が行われます。

F先生も、そういう形で学校外から得てきた考え方を発表してくださいました。その中で、学校における教育が、知識や技能を伝達する様式から学習者の変容を促す様式へを変化しつつあると述べていました。確かにその通りだと思います。社会が求める教育は、答えを与える教育から、答えにたどり着く力を与える教育へと変わってきました。私もそういう方向性に沿って、自分が担当している授業の内容を作り上げています。

しかし、学生がそれについてきていないと感じることもよくあります。典型的なのが受験講座です。EJUの過去問を解かせると、多くの学生の関心事は答えが合っているかどうかです。それだけと言っていいかもしれません。なぜその答えになるのかというところには、さして興味を示しません。2問間違えたとか、この問題は3番か5番か迷って5番にしたら当たったとか、そんな感想ばかりです。

どうしてその問題を間違えたのか、また、自信なく選んだ選択肢が正解だったらなぜそれが正解だったのか、その点を追求しない限り実力は伸びません。そういう点に目が向くように日ごろから指導しているつもりなのですが、実を結んだとは言い難いのが現状です。進学してからのことも考えて勉強するようにと、特に上級の学生には訴えていますが、まだまだ進学するための勉強にとどまっています。大学院進学希望の学生なんか、まさしくそうだと思うんですがね。

次の学期には出願シーズンが始まります。視野狭窄のまま出願することのないように、学生たちを指導していきたいものです。

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文化の違い?

6月24日(木)

レベル1のオンラインクラスの期末テストに、「テストです。消しゴムを借りてもいいですか」という問題を出しました。模範解答は、「いいえ、(借りては)いけません」を想定していました。

今までに何回も、この問題を出してきました。ただし、対面クラスで。ほぼ全員が、模範解答に近い答えを書いてきました。しかし、今回は様相が全く違いました。「はい、いいです」「はい、どうぞ」「すみません、ちょっと…」「すみません。今、使っていますから…」といった答えが続出しました。

対面授業では、テストの際に消しゴムの貸し借りは絶対してはいけないと、学期の最初に厳しく注意します。それでも貸し借りをした学生に対しては、教師は烈火のごとく怒ります。入試やJLPTなどで試験中に周囲の受験生に話し掛けようものなら、一発アウトです。そうならないようにしつけるのも、日本語学校の教師の役割です。

しかし、これは日本での常識に過ぎず、学生たちの国では必ずしもそうでもないのかもしれません。試験の最中であっても困っている人を助けるのが美徳だという考え方もあるでしょう。また、オンラインクラスの場合、試験中に消しゴムの貸し借りということ自体、ありえません。各学生が自室で受けるのですから。

ということで、この問題は、オンラインクラスにはふさわしくなかったのです。「はい、どうぞ」などの答えは、自分が話し掛けられたと考えての応答でしょう。作問者も、私を含め問題をチェックした教師も、こういった点に全く気付かずスルーしていました。意外な落とし穴にはまってしまいました。

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最後の1つ前のテスト

6月21日(月)

期末テストの前日、授業の最終日。私のレベル1のオンラインクラスは、会話テストをしました。レベル1で勉強した文法や単語を使って、こちらが与えた場面での会話を作り発表するというタスクです。レベル1では毎学期やっていますから、対面授業では私も経験があります。でも、オンラインでの会話テストは初めてでした。

ごく短い会話の発表なら、授業中にもしてきましたが、ある程度まとまった会話の発表となると、果たしてうまくいくのだろうかという不安もありました。学生たちだって、ZOOMの画面越しに話し合って会話を作るのです。母語が同じなら私の目を盗んでこっそり相談することもできるでしょう。しかし、母語が違ったら、共通言語はお互いに自信が持てない日本語ですから、隔靴搔痒などというものでは済まないでしょう。

会話作成中のブレークアウトルームをのぞきに行くと、どのグループも日本語で話し合っていました。教室だと、私が見ていない隙に母語で話を進めようとするグループが必ずあるのですが、このクラスは不意打ちで訪れても日本語以外を使っているところはありませんでした。

その点は褒められるのですが、会話の発表となると、顔と顔を突き合わせていない弱点があらわになってしまいました。セリフが平板というか、感情がこもらないんですね。教室で教卓の前に仮ステージを作って発表させると、授業で習ったイントネーションをそのまま応用するグループが必ずいくつか現れるものですが、それがなかったのです。これは、オンラインの限界なのでしょうか。

それから、学生に定着した文法とまだまだの文法が、如実にわかりました。こちらはちょっと怖いなと思いました。学生の印象に残った文法とそうでない文法との差が、対面授業より激しいようです。思わぬところで反省材料を突きつけられました。

何はともあれ、明日は期末テスト。みんな、いい点とれよ。

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明日は本番

6月19日(土)

明日はEJUの本番です。去年は6月分が中止となり、留学生入試が大混乱に陥りましたが、今年は、国内に関しては、会場の変更が若干ある程度です。また、大学側もEJUが中止になっても対応できるように募集要項を変更したところもあります。去年は突然のことでうろたえるばかりでしたが、今年は2年目になって、多少は余裕が出てきました。明日の東京地方はあまり天気が良くないようですが、受験に支障はありません。

こわいのは、学生自身の行動です、寝坊したとか電車を乗り間違えたとか違うキャンパスへ行ったとかケータイのアラームを鳴らしたとか昼食を忘れてどこでも食べられなくて午後は頭が回らなかったとか、KCPの先輩たちはありとあらゆる失敗をやらかしてきました。でも、去年は、EJUがなくなって留学の計画を狂わせられた学生がいましたから、今年のみなさんには、受けられるチャンスは確実にものにしておいてもらいたいです。

EJUが終わったら、来週の火曜日が期末テストで、その後学期休みに入ります。休み中もぼんやり過ごすのではなく、志望校についての研究を進めてもらいたいです。そういうイベントをいくつか学生に紹介しています。新学期に入ったら、私立の出願が始まります。今年は留学生の数が少なくなりましたが、各大学は合格者のレベルを落とすつもりはないと言っています。コミュニケーション力を重視するとも言っています。

そういう目で見ると、私の身の回りの学生は、頼りなさげな感じがします。学生数が減った分だけ、濃密に見ていかねばと思っています。

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コミュニケーション

6月18日(金)

「Tさんは大学で何を勉強しますか」「私は国では理科系の勉強をしましたが、日本では文科系を勉強しようと思っています。Cさんは何を勉強しますか」「私は日本で理科系の勉強をしようと思っています」「じゃあ、受験講座で何を勉強する予定ですか」「化学と生物を勉強したいです。Tさんは何を勉強するつもりですか」「文科系の大学に行きたいですから、総合科目を勉強します。数学はわかりますから、受験講座で勉強しなくてもいいです」

レベル2の学生に受験講座の説明をしようと思ってZOOMを開いたら、CさんとTさんがこんな会話をしていました。多少不細工なところはありますが、授業で習った文法を使って、十分会話が成立しています。お互いに情報を与えたり受け取ったりして、コミュニケーションを取っていました。会話のテストだったら、満点をあげてもいいでしょう。

今学期、私が教えてきたクラスは、レベル1です。学期の初めのころに比べたら、ずっといろいろなことが話せるようになりました。でも、3か月後にCさんやTさん並みになっているだろうかというと、心もとないものがあります。CさんもTさんも特別高度な文法を使っているわけではありません。ただ、習った文法がよどみなく出てきています。つまり、勉強したことがきちんと定着しているのです。これが難しいのです。それができているから、満点をあげたくなってしまうわけです。

私のクラスは、来週の月曜日、期末の前日に、会話のテストがあります。私たちが精魂込めて教えた文法や語彙が、自然な形で使えるようになっているでしょうか。

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