Category Archives: 学生

妥協できる?

12月2日(水)

まだどこにも受かっていないYさんが、滑り止めをどこにしたらいいか相談に来ました。今までに出願したところ、出願準備を進めているところは、すべて有名大学であり、たやすく入れるレベルではありません。明らかにYさんの憧れに沿った志望校です。もっと言ってしまうと、それ以外の大学を知らないのかもしれません。

11月のEJUはどうだったかと聞くと、各科目、不正解は3問だけですとか、2問しか間違えませんでしたとかという答えが返ってきました。そもそも、EJUの問題は持ち帰り厳禁ですから、通常の方法では正解不正解はわかりません。受験生が問題と答えを覚えてくるなど、不正を働かずに正解集が作れたとして、それがどこまで確かなものかはわかりません。それをもとに落としたのが何問だとかという議論をしても、そこにはかなりの誤差が含まれると考えるべきです。

しかも滑り止め校を決めるといいますから、Yさんの点数を低めに査定しました。今まで、「間違えたのは読解と聴読解1問ずつです」とか言っていた学生の実際の成績が280点だったなどという例をいくつも見てきました。日ごろの授業のYさんを見ていても、超素晴らしい点数は期待しない方が無難です。でも、私が口にした点数は、大いに不満足のようでした。

要するに、Yさんにとって一番望ましい答えは、今までにYさんが考えてきた大学の中に滑り止め校に相当するところがあるということなのです。しかし、私の見立てでは全滅のおそれもあります。滑り止めと言いつつこちらが本命となるだろうなあと思いながら、数校名前を挙げました。名前だけではそちらに気持ちが向かないでしょうから、就職とか大学院進学とか、少し先のことを考えさせました。その時に、これらの大学はYさんが考えてきた大学と比べて遜色がないという方向に話を持って行き、納得してもらいました。

毎年、妙にプライドが高い学生がいます。そういう学生が卒業式間際になって尾羽打ち枯らして相談に来ることを思えば、Yさんは現実的です。私が挙げた大学を、自分でも調べてみると言って帰りました。

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それが理由ですか

12月1日(火)

月が改まると、前の月の出席率が悪かった学生に欠席理由書を書かせます。これは、学生指導の面もありますが、入管への提出書類にもなり得る、重い意味を持った書類です。

私も上級クラスでこれを書かせました。Hさんは、遅刻・欠席はすべて寝坊と書きました。ここまで開き直られてしまうと、逆に言葉を失ってしまいます。12月は出席率100%で終わらせると誓いを立てましたが、具体的にはどうするのでしょう。どのように生活を立て直すかが運命の分かれ目です。

Mさんは昼夜逆転の生活を送っているようです。昨日の晩たまたま12時に寝たので、今朝8時の目が覚め、遅刻せずに学校へ来られたと言います。4時ごろ寝る日が多いとか。4時と言えば、私はもう眼を覚ましています。Mさんも生活習慣を改める必要があります。

DさんとJさんは、EJUが終わって緊張感がなくなってしまったと言います。EJUがゴールではなく、面接などの大学独自試験を受け、合格して初めてゴールです。いいや、入学し、勉強を進め、目標としていた知識や技術や能力を身に付けた時点で、やっと留学の最終到達点でしょう。就職してからのことは取りあえずおいておくとしても、EJUは通過点に過ぎませんから、そこで安心してもらっては困ります。こちらは精神の立て直しが不可欠ですから、HさんやMさんのような生活立て直し組より重症かもしれません。

みんな、今年は一時帰国をして一息つくということもできず、心身の疲れがたまっているに違いありません。でも、行き先が決まっていない以上、まだ気を緩めることはできません。ここで気を抜いたら、自分の将来を狭めることになります。人生には何回か無理をしなければならないときがあります。学生たちにとっては、それが今なのです。

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週明けのメール

11月30日(月)

朝、メールを見ると、昨日の夜遅く、Aさんからメールが届いていました。S大学の志望理由書に目を通してくれとのことでした。

Aさんは塾に通っていますから、おそらく塾の先生が手を入れたのでしょう。S大学を志望するに至ったきっかけ、S大学で何を学び、将来どのような道を進もうと思っているかなど、志望理由書に欠かせない内容がきちんとまとめられていました。和文和訳が必要な暗号解読のような文章とはレベルが違います。あっという間に読めてしまいました。

しかし、つぶさに見ていくと、小さな文法の誤りもありましたが、専門用語の使い方が間違っているところが散見されました。文脈に沿って好意的に読めば理解可能ですから、致命的なミスではありません。でも、用語の正しい定義を知らないことは知られてしまいますし、知ったかぶりをして失敗していると見られないこともありません。その点も指摘しておきました。

学生たちもこういうことがあるのは織り込み済みのようで、塾で指導してもらっても最終チェックは日本語学校の教師のところへ持って来ます。私たちは学生にとって最後の砦のようなものなのです。語句や文法のネイティブチェックは言うまでもなく、大学で勉強する内容が的確に表現されているかも見る必要があります。塾の先生と言っても多くの場合は大学生でしょうから、自分の専門外の事柄についてどれだけ知っているかとなると、心もとないものがあります。

もちろん、私たちだってこの世の森羅万象に通じているわけではありませんから、チェックするのに苦しい場合もあります。ただ、私たちが見て明らかに間違っているとわかるような間違いがあるような志望理由書は、大学の先生に鼻で笑われてしまうでしょう。そうならないように精一杯目を光らせるというのが、私たちの仕事です。

Sさんは、“11月30日消印有効”にかろうじて間に合ったようです。次は、面接練習です。

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ちょっと苦くてね

11月27日(金)

A:「これ、おいしいね」B:「ちょっと苦くてね」

さて、Bさんはおいしいと言っているのでしょうか、おいしくないと思っているのでしょうか。

上級クラスでこういう問題をやったら、学生たちの意見はほぼ半々でした。Bさんは「ちょっと苦くておいしいね」の「おいしい」を省略しているわけですが、半分の学生はそれを理解していなかったということになります。

これはJLPTの練習問題でしたが、コミュニケーションの問題でもあります。それができなかった学生は、現実の生活において、日本人とのコミュニケーションがうまくいっていないおそれがあります。文法や読解や漢字や、その他いろいろな問題が解けるようになることも大切ですが、コミュニケーションに齟齬が生じていたら、生活の基盤が脅かされかねません。

留学生入試には面接がつきものですが、これはコミュニケーション力のテストでもあります。どんなに立派な志望理由を述べ立てても、コミュニケーションが取れないと感じた学生は落とすと明言している大学もあります。自分の気持ちや考えを相手に伝えるにとどまらず、相手の言わんとしていることをきちんとつかむ能力も見られます。そう考えると、このクラスの学生の進路が不安になってきました。

大学などを卒業した後、日本で就職したら、日々「ちょっと苦くてね」です。この手の会話が半分しかわからなかったら、変なガイジンの壁は突破できません。聴解の前にやった読解の教材が、たまたま言語表現に現れる日本人の精神性に関するエッセイでした。学生たちは、その2つを組み合わせて、妙に感心している風でした。

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切羽

11月25日(水)

人間は切羽詰まらないと動かないものです。特に受験生を見ているとそう感じさせられます。春から、少なくとも6月のEJUの中止が決まった時から、ずっと今年の受験は何が起こるかわからないから先手必勝で動けと言い続けてきました。にもかかわらず、いまだに動きの鈍い学生、動いていないに等しい学生がそこかしこにいます。レベルの高いところを狙い続け、ようやく滑り止めと言い始めた学生、志望理由書の書き方すら知らない学生、そんな剛の者もよく見かけます。

Aさんもまだ行き先が決まらない一人です。「B大学にあこがれているなら受けてもいいけど、ワンランク下のC大学にも出願しておきなさい」という話をしたのは、何か月前でしょう。B大学に落ち、C大学のⅡ期に出願となりましたが、競争率は1期よりずっと高く、今、不安にさいなまれています。もう1ランク下のD大学も考えざるを得ません。

Eさんの志望理由書は和文和訳が必要で、事情聴取をしながら言わんとしていることをまとめました。志望理由書の書き方は、夏ぐらいから練習しているはずなんですがね。Fさんも、日本へ来るまでに字数の大半を使い果たし、大学そのものについてはほとんど述べられていません。明日必着だからと、3時ごろ書類を持ってきたGさんに至っては、中身をじっくり確認する時間すらありませんでした。郵便局に寄った足で、5時までに持ち込みのH大学に駆け込むのだとか。私にはそんな度胸はありません。

こちらの思いを伝えきれていない、春の時点で学生たちから信頼を勝ち得ていなかった、こういったことが、切羽詰まらないと動かない学生を生んだ一因です。私たちの言葉を信じてくれた学生は、順調に合格を重ねています。コミュニケーションの大切さを訴えている当の本人が、コミュニケーションができていません。悩ましい限りです。

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原石

11月19日(木)

以前Fさんを受け持ったのは、緊急事態宣言が解除されて、全面オンライン授業から一部対面授業に変わった時でした。ですから、かれこれ半年ぐらい前のことです。今学期、またFさんのクラスで教えています。

半年前のFさんはまだ中級で、授業中教師の話に耳を傾け、几帳面な字でノートを取っていました。しかし、指名されたとき以外はまったく口を開かず、またマスクのせいで表情もつかめず、どこまで理解しているのか見えにくい学生でした。テストの成績を見る限り、

今学期のFさんは、授業後質問してくるようになりました。それもポイントを衝いた質問で、よく勉強していることがうかがわれます。以前は中級で、今回は上級ですから、その分だけ日本語が話せるようになったこともあるでしょう。自分の日本語に自信が持てるようになったのかもしれません。

Fさんの質問をつぶさに見ると、日本語の勉強が進んだからこそ浮かび上がってくる疑問を質問しているような感じがします。「は」と「が」の違いは、Fさんのような積み重ねが他の学生が、教科書の例文や読解テキストなどを見比べると、必ず抱く疑問です。自分なりの切り分け方では収拾がつかなくなり、教師の助けを借りて、それをバージョンアップさせるのです。

このような私の推測が正しければ、Fさんの日本語力はこれからが伸び盛りと言ってもいいでしょう。惜しむらくは、大化けする前に受験シーズンを迎えてしまいました。先日のEJUの結果次第では、国立を狙わせてもいいかもしれません。いずれにしても、楽しみな逸材です。

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塵も積もれば

11月16日(月)

金曜日の中間テストを採点しました。

超級の大学進学クラスは、大学入試の過去問を出しました。採点してみると、漢字の読み書きで助かった学生が目立ちました。読解問題の失点をカバーしてかろうじて合格点を取った者、漢字で点を伸ばして評定をワンランク上げた者、そんな学生がいました。先学期から通学授業の日には毎日漢字テストをやって来た効果が表れたようです。半年前は漢字で足を引っ張られることが多かったのですから、大きな進歩です。でも、読解の筆答問題は、相変わらず弱くて、困っています。

中級クラスは、漢字のテストでなくても、どんな易しい漢字にもフリガナを振らせました。これが悲惨な結果を招きました。“学生”“欠席”など、初級で勉強したか今まで何度も接してきたはずの漢字にも、正しいふりがなが書けない学生が続出しました。“がっせ”“けせき”などというのをいくつも見せられると、それ以降採点せずに不合格にしたくなりました。おそらく、そういう学生は、ふだん、「けせきが多いがっせ」などと発音しているに違いありません。それをきちんと注意してこなかった私たち教師にも責任はありますが、初級の入り口の頃に出てきて、毎日のように耳にしているはずの単語がきちんと発音できないというのは、その学生が日本語に積極的に接しようとしてこなかったのではないからでしょう。

大学進学クラスの学生は、私なんかいじめ抜いていますから、できないという印象が先に立ってしまいますが、中級クラスの学生と比べると、やはり格が違うなと思います。鍛え続ければ伸びるものなんですね。

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総花的

11月11日(水)

授業後、Jさんが力作を持って来ました。R大学の志望理由書です。規定の字数より少し多くなってしまったので、いくらか削りたいと言います。

まず、一読しました。入りたいという意欲があまりに強く、あれもこれも勉強したい、R大学で勉強したら何でもできる人間になれそうです…というような内容で、かえってJさんの個性が見えなくなっていました。1つの文にいくつもの事柄を盛り込もうとしているため、文が長く、主語と述語がかみ合わないねじれ文になっていました。そのねじれ文が数本集まって1つの段落を構成します。こうなると、その段落の要点が全く見えません。

私がねじれ文を指摘すると、Jさんはなんで私の気持ちがわからないんだという顔をしました。でも、この「それ」は何を指すのかとか、この「を格」はどの動詞にかかるのかとか、文法的に追及していくと、あえなく沈没してしまいました。さらに、Jさんが何でもやります的な意味で書いた文が、読み手に誤解を与えるもとになっていました。

そういう、不要ないしは不用意な文や語句を削っていくと、規定の字数を大きく下回ります。だって、言いたいことは「入りたい」しかないんですから、突き詰めていけばスカスカになってしまいます。この志望理由書を提出して、それに基づいて面接されたら、Jさんは何も答えられないでしょう。「何でも勉強します」は、「何も勉強しません」と同じです。

結局、全体的に焦点を絞って構成を組み立て直して書き直してくることになりました。明日、また持って来るそうです。授業後、また攻防戦が繰り広げられるでしょう。

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道半ば

11月10日(火)

先週の火曜日は休日でしたから、超級の進学クラスに入るのは2週間ぶりです。オンライン授業は担当していましたからそんなに久しぶりという感じではありませんでしたが、顔を合わせると、やはり、オンラインとは違った趣を感じます。

EJUが終わって何か変わっているかなと思いましたが、これから受験本番の学生たちばかりですから、ある種の緊張感が漂っていることは変わりありませんでした。しかし、だからこそ、志望理由書をまだ書いていないとか、出願書類に手を付けていないとか、そもそも志望校に迷っているとか、そういう学生が浮き上がって見えてきました。出願書類の最終点検などというのは、進んでいる方です。

そんな中、授業後にCさんがこっそり合格の報告をしてくれました。面接本番で聞かれたことが私と一緒に面接練習したことと同じだったので、自信を持って答えられたとのことでした。私たち教師は、練習の相手まではできますが、その成果を本番で発揮できるかどうかは学生自身の実力です。Cさんは「先生のおかげです」と言ってくれましたが、Cさんにはその志望校に合格するだけの地力があったのです。直前の練習の様子では落ちてもしかたがないと思っていました。それを合格ライン以上に持って行ったのは、Cさんの底力であり執念です。

Cさんは進学コースの学生で、初級の頃はKCPの進学授業を受けていました。しかし、それが難しかったのか、効率が悪いと思ったのか、中級ぐらいから離れていきました。しかし、最後に頼ったのは私たちでした。行ったきり帰ってこず不合格を重ねる学生が少なくない中、よく戻ってきてくれたと思います。

明日はこのクラスの学生2人の志望理由書を見る約束をしました。どんな展開になるでしょう。

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休んでいます

11月9日(月)

昨日のEJUの出来具合が気になるところですが、私のクラスはオンラインでしたから、詳しくは聞きませんでした。オンラインの小さい画面では学生たちの微妙な表情がつかめませんから、変なツッコミ方をして学生を傷つけてしまうおそれがあります。手加減が難しいのです。

気になるのは、受けた学生が2人全くオンラインに出てこなかったことです。Sさんは受験講座で面倒を見てきました。まじめな学生ですから、めったなことでは休まないはずです。ショックが大きくて立ち直れないのでしょうか。Tさんも気安く休む学生ではありません。授業後電話をかけてみましたが、反応はありませんでした。明日、ケロッとして登校してきてくれればいいのですが…。

SさんもTさんもそうですが、今年は昨日のEJUが実質的に一発勝負という学生が少なくありません。これに失敗したら不本意な進学をするか、日本留学をあきらめるかという厳しい選択を迫られるケースも考えられます。第一志望校には入れなくても、実力相応校には手が届いてほしいと思っています。学生たちの希望と実力と試験結果と各大学の特色と、そういったものを総合的俯瞰的(菅首相的な意味ではなく、文字通り)に見極めて、学生が進学してから満足できるような進路指導をしていくことになります。教師にとっての正念場です。

さて、オンライン授業に出席した学生たちですが、いつも以上に予習ができていませんでした。教科書の例文は漢字が読めないし、宿題はやっていないか間違っているかだし。それぐらいは大目に見てあげなきゃいけないかなと思いましたが、よく考えたら昨日EJUを受けていない学生もたくさんいたのです。

進路指導より先に、精神のたるみの解消が必要です。

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