Category Archives: 進学

外を見ろ

6月18日(火)

京都の大学の説明会を開きました。個々の大学の説明に先立って、京都市の留学生担当の方が、京都に留学する意義について話してくださいました。京都市の留学生に対する支援がとても手厚いことがよくわかりました。また、京都の大学全体が留学生を積極的に受け入れていこうとしていることも強く感じさせられました。

京都は、京大をはじめ、大学の街、学生の街というイメージがあります。市の人口の1割が大学生だそうですから、本当にそうなのです。同時に、市民も大学生を受け入れている、やさしく包み込んでいる感じがします。大学生は4年間しか京都で暮らさないかもしれないけれども、京都市民はよそから来た大学生に対して、その4年間、それこそ“おもてなし”の気持ちで接しているのでしょう。その延長線上に、留学生への支援体制があります。

京都は、明治維新後に天皇が東京に動座して、街が寂れかけた時、琵琶湖疎水をつくり、東山から市街地への落差を利用して水力発電を行い、その電力によって日本初の市街電車を誕生させました。このように、新しい文物を他に先んじて取り入れる気質もあります。だから、他の都市よりも一歩進んで留学生をドーンと受け入れようとしているのだと思います。

東京は、何もしなくても留学生が集まってくると思っているでしょうから、京都ほど留学生に対してフレンドリーではないような気がします。よーく探せば留学生支援策も見えてくるのでしょうが、東京都とかが音頭を取って京都市のように大学を取りまとめるというところには至っていません。もっとも、東京は大学が多すぎて、取りまとめる労力がとんでもなくかかってしまうのかもしれませんが。

何はともあれ、説明会に参加した学生たちは、京都の大学や京都で留学生活を送ることを真剣に考えてみるきっかけを得たようです。これを機に、東京から目を外に向けてくれればと思っています。

ダーティー

6月13日(木)

東京福祉大学の一件が世間を騒がせています。あんなに派手に留学生が行方不明になっちゃったら、学生管理が雑だったと言わざるを得ません。職員1人で100人もの留学生を見ることになっていたそうですが、本当に目が届いていたのはその1/5ぐらいじゃないでしょうか。

そもそも、“学部研究生”などという、法律違反でなければ何をしてもいいという脱法ドラッグみたいな発想で学生を集めることからして間違っています。大学関係者は学生に裏切られた的な釈明をしていますが、学生が支払う授業料などが目当てだったことは疑いありません。また、学生側にものびのびと働ける緩い管理へのニーズがあったことでしょう。この両者の利益が一致して、こういう仕儀になったのです。

日本語学校の側も、2月か3月になっても行き先の決まらない学生を引き取ってくれる大学を便利に使っていた面があります。日本語学習が非常に難しい背景を有する学生を大量に入学させてしまい、自分のところに在籍しているうちは不法滞在にさせたくないので、渡りに船とばかりにこうした大学に学生を送り込んだのでしょう。留学生30万人計画が達成間近だとはいっても、こういう到底留学生とは呼べないような存在も含めてのことですから、実際には道半ばです。

もう一つ、これが「福祉」大学を舞台に演じられているという点に不安を感じます。福祉というと、介護などで長時間労働低賃金というイメージがあり、それに加えてこうしたダーティーな話題を提供したとなると、さらに株が下がってしまうのではないでしょうか。日本人の福祉の担い手に悪影響が及ばないことを祈るばかりです。

眠そうな目

6月6日(木)

Kさんは今朝も眠そうな顔をして、遅刻寸前に教室に滑り込んできました。あと10日に迫ったEJUを受けますから、それに備えて夜遅くまで勉強していのでしょう。それはいいのですが、学校の勉強がおろそかになっているきらいがあります。最近、宿題を忘れたり毎日のテストでひどい点数を取ったりということが多くなりました。

Sさんは大学院入試が迫っています。やはり、その準備に追われていて、遅刻が目立ちます。「Sさん、それだけ勉強して大学院に合格しても、出席率が下がってビザが出なかったら勉強できなくなるんだよ」と注意していますが、今朝も重役出勤でした。遅刻のため平常テストが受けられず、進級にも影響が及びかねません。

「進学は先手必勝だ」と進路指導していますから、Kさんが6月のEJUにすべてをなげうつ気持ちも、Sさんが早い時期の入試を受けるのも、十分理解できます。でも、KさんもSさんも、今の日本語力では進学してから困ることは目に見えています。ちょうど日本語力を伸ばす時期が今なのです。ここで学校の勉強をおろそかにすると、基礎が不完全なまま中級や上級に進むことになり、砂上の楼閣が築かれることになります。

試験制度をいじって日本人の大学入試は早くなりそうになると、高校の勉強に差支えがあると大騒ぎになるのに、大学生の就活開始時期が早まることにも批判があるのに、留学生入試が6月に始まり、秋口ぐらいがピークだというのは野放し状態です。本気で世界の優秀な若者を集めようとしているのなら、留学生入試のありかたをもっともっと真剣に考えてもらいたいです。

書初め

6月4日(火)

昨日の夜、職員室の入り口から呼ばれ、推薦書を書いてほしいと頼まれました。私のクラスの学生でもないし、先学期受け持った学生でもないし、「私はあなたをよく知らないんですが、推薦書に何をどう書けばいいんですか」と聞きました。すると、「先生、Wですよ」という答えが返ってきました。思い出しました。去年S大学に進学したWさんでした。最後の学期は、私が担任でした。だから、推薦書と言えば私が書くことになります。

推薦書の材料にもしようと思って、詳しく話を聞いてみました。WさんはT大学の大学院に進学することを目的に来日したのですが、2018年度入試では失敗しました。それで、やむなくS大学に編入学しました。そういえばそんな事件がったなあとだんだん思い出してきました。そして、今回、T大学大学院に再挑戦するそうです。その出願書類の1つが、日本語学校からの推薦書なのです。

Wさんは、KCP在籍中、毎日図書室が閉まるまでずっと勉強していました。鋭いタイプの学生でも、要領のいい学生でもありませんでしたが、努力を継続できる学生でした。S大学に進んだ後も、T大学大学院への進学という大目標は決して忘れず、日本語の勉強をコツコツと続けてきました。それが実を結び、今では日経新聞が読みこなせるようになりました。ちょっと質問してみましたが、問題意識をもって日経を読んでいることがよくわかりました。

その他、将来計画なども聞き、推薦書のネタを十分に揃えました。そして、今朝、朝一番にWさんの推薦書に取り組みました。下書きから清書まで、1時間ちょっとでできました。今シーズン初の推薦書は、気持ちよく書けました。

大盛況

5月30日(木)

2時になっても、各大学のブースには順番待ちの学生が大勢いました。いつもなら1時半を過ぎれば会場はかなりスカスカになるのに、今回は終了予定時刻の2時を回っても、講堂は人いきれでムンムンしていました。

話を聞く学生があまりにも多く、いらっしゃったすべての大学の方々に名刺を配っている時間がありませんでした。留学生入試担当の方と直接お話をするというのが私の役目なのですが、それに影響が出るほどのにぎわいようでした。ピークのころは学生の勉強したいことを聞いては、比較的すいているブースを指示するという交通整理をしていました。例年より、会場でぼんやりしている学生が少ないように感じました。

大学院志望の学生は、さすがに大人で、自分の聞くべきことをきちんと考えてきたようです。話を聞くことができた大学の方たちは、そういう感想を漏らしていました。大学志望の学生はそこまでいかなかったようです。担当者が自分のスマホで大学のページを示し、ここに書いてあると教えていた場面も散見しました。

自分の欲しかった情報が得られた学生は、幾分興奮気味に私に報告してくれました。「先生、A大学は入試制度がこんなふうに変わりました」「B大学は出願締め切りが早くなりました」「C大学の先生に、TOEFLの点が高いと褒められました」「D大学に入りたかったけど、EJUで高い点が必要なのでやめました」「私の専門はE大学なら勉強できそうです」などなど、自分の日本語で得た貴重な情報を私に教えてくれました。

明日の運動会が終われば、EJUまで半月です。各自の志望校に向けて全力で突っ走り、この進学フェアで手に入れた情報を生かしてもらいたいものです。

80%

4月24日(水)

Jさんはとうとう学校へ来ませんでした。今月の出席率は、どうにか80%はキープしていますが、悪くはないという程度に過ぎません。このまま休み癖がついて楽な方へと落ちていったら、進学の目はなくなるでしょう。

このところ、進学先が日本語学校の出席率を重視するようになりました。成績が良くても出席率のせいで落とされてしまったと考えられる学生が現れています。Jさんもそういう道を歩み始めないとも限らないので、心配なのです。しかし、Jさんにそういう心配が伝わっていそうもなく、無断欠席を繰り返しています。

Jさんは、先学期は成績が振るわず、今学期進級できませんでした。そのため、同じ勉強をもう一度しているので、モチベーションが下がっているとも考えられます。でも、そんなことをしていたら、また進級できなくなってしまいます。同じレベルで足踏みを続けていたら、進学どころではありません。

もちろん、クラスの教師は注意していますが、こわいのは、Jさんが「またか」という気になってしまい、教師の言葉に耳を傾けなくなることです。卒業直前の切羽詰まった時期に及んで、頼れるのは日本語学校の教師しかいないという状況に追い込まれ、ようやく教師の言葉を正面から受け止めるようになる――という学生が毎年います。

進級を逃すくらいですから、Jさんはすばらしい日本語力を持っているとは言いかねます。出席率がよければそれをカバーすることもあり得ますが、80%をやっと上回る程度だったら、何のとりえもない学生になってしまいます。こういうことが、学生にはなかなか見えないんですよね。

だからと言って放置しておくわけにはいきません。4月なら修正可能ですから、手を尽くしていきましょう。

大学のレベル

4月23日(火)

Wさんは今学期の新入生です。理系の国立大学に進学したいという意気込みは評価できますが、大学で何を勉強するのかと聞くと、はっきりした答えが返ってきません。多くの国立大学がTOEFLのスコアを要求するが、自分はまだ受けていないと心配しています。何を勉強するにしても、TOEFLを受けていれば志望校選択の幅が広がりますから、Wさんの考えも否定するには当たりません。しかし、勉強の内容よりも大学のレベルばかりを気にするのはいただけません。

Wさんは、自分が知っている大学の名前を挙げては、盛んにどのくらいのレベルか尋ねます。偏差値的レベルが存在することは確かです。偏差値が少しでも高い大学にと目標を定めることも、向上心につながる面もあるでしょう。しかし、それが志望校選びの中心になってしまうと、本末転倒と言わざるを得ません。東大は無理でも、少しでも東大に近いレベルの大学に入りたいのです。

そうやって可能な限り偏差値の高い大学に入ったとしても、4年間持つかどうかは別問題です。日本人なら退学して入り直すという道もありますが、留学生はビザの問題がありますから、そう簡単に大学をやめるわけにはいきません。仮面浪人ということになりますが、そんなことをするくらいなら、最初から自分の進むべき道を明確にしてから進学するべきだと思います。理科系の場合、若い時にどのくらい創造的な研究ができるかが、研究者としての運命を左右します。若い頭脳を受験勉強という創造性とは程遠い勉強に費やすのはもったいないです。

でも、近年の国立大学は、予算を削られまくって創造性を養うどころではないとも聞きます。進学しても、研究室備え付けの古ぼけた本しか読ませてもらえなかったとなったら、留学生に愛想をつかされるでしょう。Wさんのように偏差値レベルを気にするのが、別の意味で重要になってくるかもしれません。

選挙と学生

4月16日(火)

日曜日から統一地方選挙の後半戦が始まり、私が住んでいる区でも新宿区でも区議会議員選挙が行われています。私の区は狭い区ですから、日曜日など、私の家の周りに何人もの候補者がうようよしていて、大混戦でした。ですから、ある候補者が政見を語っていても、別の候補者がすぐそばで演説をしていますから、どの話にもじっくり耳を傾けるなんて無理でした。

A候補は、前回の選挙からずっと毎週、区議会の報告を印刷して、地域の住民に配っていました。他の候補者は、選挙が近づいてからにわかに同様のチラシを配ったり4年間の活動をまとめてビラにして各戸のポストに入れたりしていました。当然、A候補の方が信頼できますし、選挙期間中の運動では出くわさなくても応援したくなります。

私は根っからの地元民ではありませんから、地縁とか血縁とかはありません。A候補に対したって、恩義を感じているわけではありません。でも、いや、だからこそ、毎週報告を配ってくれるA候補に親しみを感じるのです。話したことはもちろん、会ったことすらありませんが、他の候補はさらにもっと遠い存在ですから、私の1票はA候補へという気持ちです。

選挙じゃありませんが、進路指導も同じようなところがあります。受験講座などを通して日ごろから付き合いがあると、受験本番が近づいた時、こちらから力になろうかという気になります。それに対し、普段はろくに顔も見せないくせに、切羽詰まった時だけこちらを頼ってくる学生がいます。頼られたら何らかの形で応えますよ。でも、素性もわからない学生を親身になって世話するまでには、それなりに時間が必要です。自分の都合だけで利用しっぱなしという学生には、必要最小限の対応になってしまいます。

心が狭いと言われればそれまでですが、誰でも多かれ少なかれこうなんじゃないでしょうか。より良質な人間関係が作れるかどうかは、進学してから留学を成功に導けるかどうかにも直結していると思います。その練習を、今のうちにしておいてもらいたいです。

活躍

4月15日(月)

4月も半ばになると、進学した学生の噂もちらほら聞こえてきます。Aさんは新入生の中で目立っているとか、Bさんは日本語がよくできるから褒められたとか、そんな話が舞い込んできて、思わずニヤッとすることもあります。

しかし、いい噂だけではありません。Cさんは早くも出席率が50%ぐらいに低迷しているとか、Dさんは授業についていけずに頭を抱えているとか、心配な話も飛び込んできて、ドキッとしたりヒヤッとしたりさせられます。

出席率50%のCさんは、KCPにいたときから遅刻欠席が多くて問題を抱えていました。KCPは出席にはうるさいとされていますが、先生方にあれこれ注意されたにもかかわらず、出席状況が改善されませんでした。進学したら頑張るという本人の言葉を信じて送り出しましたが、頑張るには程遠い現状のようです。

だいたい、KCPの教師からあれだけうるさく言われても出席の悪かった学生が、進学したからといって急に朝早く起きられるようになって遅刻もせずに学校に通うようになるなんて、めったにあるわけがありません。KCP卒業時点で出席率が80%を切るような学生は、日本で勉強する資格がないとさえ思っています。ただ、まれに進学先で大化けする学生がいますから、“夢よ再び”と思ってしまい、進学先に送り出すのです。

その後、E専門学校の留学生担当の方がいらっしゃいました。「今年もよろしくお願いします」というお決まりのあいさつの後、E専門学校では、3名が合格しても日本語学校の出席率が悪すぎてビザがもらえなかったとおっしゃっていました。KCPから進学した学生は、みんな95%ぐらいの出席率でしたから問題ありませんでしたが、80%ぐらいで理由書を書かされた例もあったそうです。だから、E専門学校は、応募者に90%以上の出席率を求めることにしたそうです。

今年は、昨年以上に出席率が進学の可否を左右しそうです。

黒山の中の珠玉

4月12日(金)

文部科学省から学習奨励費の案内が来たので、受給希望者を募っています。政府の財政状況を反映してか、年々支給額が減っていますが、やはり、学生には奨学金は魅力的に映るようです。申し込み受付をしていた1階カウンターは、休み時間のたびに黒山の人だかりでした。

しかし、その“黒山”の大部分は、1次スクリーニングで落とされます。出席率の基準を厳しくしていますから、ちょっと体調が悪い程度で休んだり、しょっちゅう寝坊したりしているような学生は、そこでアウトになります。絶対休むななどとは言いませんが、気安く休む癖は持ってほしくないです。病気になったら休むのはしかたありませんが、病気にならないように健康管理することも、留学生の義務だと思います。

成績面で引っかかる学生もたくさんいるでしょう。学期を通し絵の各科目の成績は、せめて80点は取ってもらいたいです。学校を代表して学習奨励費をもらうのですから、それぐらいのすばらしい成績は取って当然です。かろうじて合格とか、ましてや赤点など、学習奨励費受給者として、絶対に許されるものではありません。でも、漢字が苦手だとか、作文は嫌だとか言って、努力を怠る学生がそこかしこにいます。そんな学生が名前を書いていたら、真っ先に消さなければなりません。

そして何より、この1年間、学校全体を引っ張ってくれそうな学生を選びたいです。卒業まで模範生であり続けるのは苦しいことだと思いますが、周りからの期待やプレッシャーをはねのけられた学生は、進学でも自分の思いを成し遂げています。

申し込みは、来週初めまで受け付けています。ぐっと絞って珠玉の数名になったら、最終面接に取り掛かります。