Monthly Archives: 11月 2023

最悪から這い上がれ

11月16日(木)

Kさんは、先週金曜日、滑って落ちるという、受験生にあるまじき行為で足にけがをしました。重ねて今週月曜日にも、足をかばったのでしょうか、同様の状況でけがをひどくしました。そんなわけで、火曜日の中間テストも欠席でした。しかし、今週末、志望校の面接試験があります。Kさんにとっては初めての入試面接です。もとはと言えば金曜日に面接練習をする予定でした。それを火曜日の中間テスト後に変更し、それもできなくなってしまいました。昨日の夜、「明日、学校に行って、授業後に面接練習します」というメールが届きました。状況を確認すると、歩いて登校できるとは到底思えませんでした。案の定、今朝も登校できず、その代わり、「午後、オンラインで面接できませんか」というメールが来ました。

午前の授業が終わった空き教室を借りて、オンライン面接練習をしました。私は、zoomを使うのも久しぶりでしたから、こっそり復習をして、面接練習に臨みました。

画面に映るKさんは上半身だけですから、けがの様子はわかりません。そうしたら、けがをしたばかりの、内出血して腫れた足の写真をわざわざ見えてくれました。証拠写真のつもりだったのでしょうか。

肝心の面接練習は、弁が立つKさんですから、サクサク進みました。でも、「貴校のキャンパスはすごく素敵だと思いました」といった感じで、志望理由などの内容が薄かったです。初めてでしたから、しかたがないのかな。

そういった点を指摘すると、Kさんはいつもとは打って変わって、神妙な顔つきで聞いていました。そして、明日も面接練習をすることにしました。Kさんなら、軌道修正をしてくれるでしょう。

そして、今週末の本番ですが、無理してスーツを着ていくよりも、ジャージに松葉杖ぐらいの方が、同情を誘っていい結果につながるでしょうか。難しいところですね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

打ち上げ

11月15日(水)

昨日の作文、読解、文法、漢字に引き続き、選択授業の聴解の中間テストをしました。私が担当しているのはビジネス日本語で、ビジネス日本語能力テスト(BJT)の問題を中心に授業をしています。ですから、その中でやさしそうな問題を選んで、中間テストにしました。

テストが終わり、解答用紙を回収してすぐに、今聞いたばかりの問題を再び聞いて、答え合わせをしました。「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、“わからなかった”“間違えた”“これでいいんだろうか”などといった意識が残っているうちに、どこが悪かったか気づいてもらおうという計算です。

やさしそうな問題にしたつもりだったのですが、今までの授業でやっていない問題ばかりでしたから、学生たちには手ごたえがありすぎたようです。ビジネスの世界で使われる日本語となると学生にはなじみが薄く、2回目を聞いても顔をゆがめている学生が多かったです。

学生たちは、音声そのものは聞き取れているのですが、耳慣れぬ語彙や表現があちこちに現れたことが、苦戦の原因でした。「社員食堂で打ち上げをしています」と言われても、何をしているのかわからなかったというようなところです。学生にとって、“打ち上げ”と言えば、ロケットでしょう。

KCPの学生は多くが進学しますが、就職を考えている学生も、少ないながらいます。この選択授業も、興味本位ではなく、近い将来に役立つだろうと考えて取っている学生もいます。そういう学生の力になれるよう、期末に向けて特訓メニューを考えていきましょう。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

怪しい学生

11月14日(火)

朝6時半、「金原先生、おはようございます」と、ロビーから呼びかけられました。真っ暗な中から顔を出したのはEさんでした。「勉強したいです」「2階のラウンジ、開いてなかった?」「はい、閉まってました」ということなので、鍵を持って一緒に2階へ。ドアに鍵を差し込んで回すと、なんとなく開いてるっぽい感じがしました。逆向きに回すとカチャッといって、レバーを押してもドアはびくともせず、鍵がかかってしまいました。何のことはない、Eさんはドアが閉まっているのを見て、鍵もかかっていると思い込んでしまったのです。

中間テストや期末テストの日には、こういうふうに朝非常に早く出てくる学生がいます。ラウンジで勉強する学生もいますが、中には夜更かししてそのまま登校し、ラウンジでひと眠りという輩もいます。昨日昼まで寝ていて欠席したEさんは、そういう疑いが濃厚です。

試験監督に入った中級クラスは、成績停滞気味の学生が多いと知らされていました。最初の試験科目・作文の原稿用紙を配り、課題を提示すると、学生たちは一斉に書き始めました。ここまではいつもの試験監督と同じですが、このクラスは試験特有の良い意味で張り詰めた空気に欠けています。その原因は、貧乏ゆすりでした。教室のあちこちで膝が揺れています。教室内を見て回ると、小刻みに上下にだったり、左右に大きくだったり、机の下でうごめく生物が目についてなりませんでした。

「貧乏」ゆすりと呼ぶくらいですから、日本人はこれをみっともないものとみなしています。しかし、学生たちの生まれ育った社会では、必ずしもそうでもないようです。面接練習でもよく見かけます。でも、しっかりした学生は、きちんと座っているものです。体を動かさずにはいられないという落ち着きのなさが、このクラスの停滞の一因ではないかと思いました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

朝一の香り

11月13日(月)

朝、鍵を開け、誰もいない真っ暗な職員室に入ると、甘酸っぱいような芳香がほのかに漂ってきました。あ、やっぱり。実は、土曜日に、F先生のご実家から、毎年恒例のりんごが届きました。F先生がお休みだったので、届いた箱のまんま、机の上に置かれていたのです。1日半の間密閉されていた職員室に、りんごの香りが広がっていたというわけです。これをかぐと、晩秋というか初冬というというか、季節の移ろいを感じます。

ついこの前まで「暦の上では冬なのに、夏日を記録しました」などと言っていたのに、週末あたりから暦通りどころか暦を先取りする勢いの寒さが続いています。今朝は、北海道から沖縄まで、今期最低の気温を記録した観測地点が多かったようです。雪も北海道の朱鞠内や青森県の酸ヶ湯のような常連地点だけではなく、鳥取県の大山でも結構積もっています。ただし、雪がたくさん降るのは、日本海の海水温が高く、そこを吹き渡る季節風がたっぷりと水蒸気を吸い込むからでもあり、地球温暖化の結果でもあります。

さて、明日は中間テスト。こういう定期試験の前日の日本語プラスの授業は、自主休講する学生が大勢いるのですが、今学期私が担当している文系数学クラスは、全員出席しました。うち1名は、昨日のEJUの数学があまりに手応えがなく、また一からやり直したいということで出てきたとのことですから、喜んでばかりもいられません。でも、6月に向けて再スタートの初日としては、出足好調で期待が持てます。

鞄の中にはりんごが入っています。大切に持ち帰って、部屋に置いて、気持ちが安らぐ香りを部屋に満たしてもらってから、いただくつもりです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

前日の合格発表

11月11日(土)

明日のEJU本番を控え、日本語プラスのEJUの最終授業が行われました。急に冬が襲ってきたような寒さでしたが、来るべき人はちゃんと来て、授業を受けていました。

授業後、AさんとCさんが「来週からJLPTのクラスに出てもいいですか」と許可を求めてきました。拒否する理由などありません。こういう学生は、応援したくなりますね。Cさんはこれからあちこち受験するようですが、Aさんは昨日M大学の合格が決まりました。でも、いや、だからこそ、日本語学校にいるうちに日本語のレベルを高められるだけ高めておきたいのでしょう。進学したら、日本語にじっくり向き合う時間など、なかなか取れるものではありません。

2人と入れ替わりぐらいに、Oさんが教室から下りてきました。Oさんは、先月、K大学の指定校推薦入試を受けました。実は、午前中、その結果が速達で届いたのです。結果通知を受け取り、「合格」の文字を見つけたOさんは、いかにもホッとしたという顔つきになりました。周りの先生方から「おめでとう」と言われ、ようやく笑顔を見せました。

K大学は難関大学の1つですから、指定校推薦入試と言っても、願書を出して「はい、終わり」というわけではありません。H先生にしごかれながら課題の小論文を書いていました。でも、その甲斐があって、Oさんの日本語力は明らかに伸びました。授業中に指名すると、先学期までは「わかりません」とごまかすこともありましたが、今は的を射た気の利いたことを言うようになりました。作文は、もちろん、長足の進歩です。

Aさんも、M大学を受けたことで、考えに筋が通ってきたような気がします。こういうように、入試を通して成長する学生こそ、大学が求める学生なのでしょう。だとすると、頭を抱えたくなるような学生が多くて…。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

朝の数学

11月10日(金)

このところ毎朝Kさんが数学の勉強に来ます。日本語プラスも受けていますが、それに加えて練習問題をしに来るのです。あさってのEJUで好成績を挙げたいのでしょう。Kさんは文科系志望の学生ですから、数学が絶対必要というわけではありません。それでも勉強したいというのですから、立派な心掛けです。

今朝は確率の問題をしました。昨日の朝宿題として出しておいた問題を家でやってきて、その答え合わせです。ある問題は、答えを導き出す筋道に怪しいところがあるものの、最終的には正解にたどり着きましたから、EJUレベルなら点がごっそり稼げます。別の問題は、問題の捉え方を間違えていましたから、再挑戦。こちらも正解を得られたものの、計算の要領があまりに悪かったので、その点を注意しました。

毎日こんな調子です。先週は整数の性質、今週は場合の数と確率を集中的に取り上げています。急激に力が伸びたとは言えませんが、あてずっぽうに近いやり方からは脱却し、論理性のある解き方ができるようになってきました。こういう考え方ができれば、2次関数や三角比などの問題も光明が見えてきます。

数学の勉強を通して身に付けるべきことは、2次方程式の解の公式や平面図形の定理などではありません。何より論理的な考え方です。Kさんは、国の高校で数学ができる生徒ではなかったでしょう。でも、今、数学の根幹を少しずつ身に付けつつあります。たとえEJUの数学で素晴らしい成績が得られなくても、数学的思考法はKさんの財産として残ります。

Kさんは、来週月曜日までの宿題を手に、教室に向かいました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

おとなしいクラス

11月9日(木)

初級のクラスは、どこのクラスでも、「会話」となると喜んで話し始めます。習った文法や語彙を使っての会話ですから、話せることは限られています。それでも、こんな時はどう話せばいいかと、自分の話したいことを身振り手振りも交えて私に訴えかけ、応用範囲を少しでも広げようと目を輝かせます。

中級あたりになると、ある課題に関しての意見を言い合うようなことが中心になってきます。意見のない学生は黙り込んでしまいますが、他の学生の意見を聞いているうちになにがしか語りたくなり、いつの間にか口を開いているものです。

「うちのクラスの学生はおとなしいですよ」と脅されて代講に入った上級クラス、本当におとなしい学生たちばかりでした。指名されれば何か答えてくれましたが、クラス全体に聞くとなしのつぶてでした。不吉な予感を抑えつつ作文の時間に入りました。課題について話し合わせたうえで作文を書かせてくれという指示を受けていましたから、クラスを数名ずつの数グループに分けて、話し合いを始めました。

私が作文を担当しているクラスなら、各グループが口角泡を飛ばして議論をします。しゃべり疲れて書けなくなるのではと心配したくなるほどです。グループを回っていると、「先生はどう思いますか」「こんな場合、日本人はどうしますか」など、議論に巻き込まれそうになります。

ところがこのクラスは、グループに分かれても静かなままです。近くまで寄ると、やっと話し声が拾えるという程度です。かといって、スマホに夢中になっているわけでもありません。最後に各グループでどんな話が出たか発表してもらいましたが、案の定、ありきたりの内容でした。

そして、作文を書いてもらったのですが、出来はどうだったのでしょう。提出された作文は、そのまま担当のS先生に渡しました。S先生が呻吟なさることのないよう祈るばかりです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

なんとなく

11月8日(水)

最近出席率が思わしくないKさんに話を聞きました。Kさんは専門学校への進学という目標がありますが、その目標に向けての行動ができません。突き詰めて言うと、なんとなく夜更かしをして、朝起きられなくて、学校を休み、その結果出席率が下がり続けているのです。この“なんとなく”というのが、一番困ります。原因が不明確ですから、原因をつぶして問題を解決するという手が使えません。Kさん自身も「11時には寝るようにする」と言いますが、具体的にどのようにして11時に寝るのかと追及すると、答えが返ってきません。

Cさんも出席率が下がり気味なので話を聞きました。ゲームをして寝るのが遅くなり、朝しかるべき時間に起きられないと言います。ゲームという原因がはっきりしているだけ、Kさんよりましかもしれません。しかし、どのようにしてゲームをせずに寝る習慣をつけるのかとなると、これまた答えが返ってきません。おそらく、受験勉強から一時でも逃れたいからゲームをしているのでしょう。この先入試が続くCさんは、まだまだ受験勉強から逃れられず、それはゲームからも逃れられないことを意味します。事情聴取の際は神妙な顔をしていましたが、もしかすると、今頃もうゲームにのめりこんでいるかもしれません。

日本での留学を続けるなら、ビザ更新が必要です。その際、今のKさんやCさんのような出席率では、新しいビザが出ない恐れがかなり強いです。そういうことを説いて聞かせても、どこまで心に響いているのか、私自身も手ごたえがありません。毎年必ず現れるこういう学生への対処法には、マニュアルはありません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

軽さゆえの?

11月7日(火)

先週のこの稿に書いた風邪がなかなか抜けません。熱は出ないのですが、咳が完全には止まりません。のどもじわじわと痛痒いようないがらっぽさが続いています。龍角散では太刀打ちできないと見て、昨日、学校の近くの医者に診てもらいに行きました。

そこは10年ぐらい前に通って以来ですから、診察券が使えるかどうか心配でした。診察券は受け付けてもらえましたが、感染症予防のためとのことで、待合室から外に出されてしまいました。例年の11月ならちょっと耐えられないでしょうが、今年はちょうどいい陽気ぐらいの感じでした。文字通り本の立ち読みをしながら待つこと数分、白衣の先生が出てきて、症状を聞きました。「熱はないが、10日ほど前から咳が出てのどが痛い。夜、せき込んで寝られないことがある」と答えると、また数分後に看護師さんが処方箋を持ってきました。1160円、ちょうどおつりなしで払えたので、引き換えに領収書をもらいました。看護師さんが私を見て、外で待たせてもひどくなるようなことはないだろうと判断したんでしょうね。

保険で3割負担ですから、元値は3900円弱。医師と看護師の人件費、処方箋発行の手数料、医院の賃料、その他公租公課、用役費を考えると、それほどとんでもない額ではないのかもしれません。でも、何とも軽く扱われた感じがしてなりませんでした。その足で薬局に寄って処方箋の薬をもらっておこうと思ったら、お薬手帳を持ってくるのを忘れたのに気が付きました。取りに学校に戻ったら、仕事の海に飲まれて、結局行けずじまいでした。

お昼に外に出たついでに、薬をもらってきました(…と日本人はよく表現しますが、ちゃんと代金を支払っていますから、厳密には買っているんですよね。保険で7割引きですから、四捨五入したら「もらう」になってしまうのでしょうか)。すると、なんと、7種類の薬を渡されました。昼食後に飲むよう指定された薬は、4種類6粒。寝る前の飲むのが2種類。腕に貼る経皮吸収の薬もありました。夜せき込むことがあるという症状に対処した薬を出しておいてくれたのです。

受験生の面倒を見ている身としては、「金原先生に風邪をうつされて受験できなかった」などと言われないようにしなければなりません。今度の日曜日は、EJU本番です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

作文テストの前に

11月6日(月)

午前中の授業の後半は、来週の火曜日に控えている中間テストの作文の課題について説明しました。先学期から、私のクラスでは、中間・期末テストは、事前に課題を発表し、それについて調べたり学生同士で話し合ったりする時間を設けています。その結果、質の高い作文が増えました。和文和訳が必要な意味不明の文字列や、原稿用紙の1枚目と2枚目で話が食い違っている大作や、突き詰めてみると実にありきたりの結論だったり、「~かもしれない」を連発して批判を避けようとしていたり、そんな読むに堪えない、あるいは解読・読解不能の文章が絶滅しました。

もちろん、誤字や文法ミス、表現の拙さや誤解を招きかねない書き方などは随所に見られます。しかし、たった原稿用紙2枚足らずの文章を理解するのに半日を要するなどということはなくなりました。主張はそれなりに伝わってくるようになりました。

上級とはいえ、いや、上級だからこそ、課題を見て思うことをまとめるのには時間を要するのです。日本語で考えられる幅が広がるからこそ、あれこれ書きたくなり、短い試験時間内には起承転結をつけられないのでしょう。1週間ほどの時間と、クラスメートと話し合うチャンスと、多角的な物の見方につながるヒントを与えれば、少なくともまあまあレベルの文章が書けるのです。

さて、問題は欠席した学生どもです。授業でこういう刺激を受けなければ何もしそうにないやつらです。出席した学生たちが盛り上がっていたグループ討議を経ずに中間テストを受けるとなると、採点する立場として大いに不安を感じずにはいられません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ