文化の違い?

6月24日(木)

レベル1のオンラインクラスの期末テストに、「テストです。消しゴムを借りてもいいですか」という問題を出しました。模範解答は、「いいえ、(借りては)いけません」を想定していました。

今までに何回も、この問題を出してきました。ただし、対面クラスで。ほぼ全員が、模範解答に近い答えを書いてきました。しかし、今回は様相が全く違いました。「はい、いいです」「はい、どうぞ」「すみません、ちょっと…」「すみません。今、使っていますから…」といった答えが続出しました。

対面授業では、テストの際に消しゴムの貸し借りは絶対してはいけないと、学期の最初に厳しく注意します。それでも貸し借りをした学生に対しては、教師は烈火のごとく怒ります。入試やJLPTなどで試験中に周囲の受験生に話し掛けようものなら、一発アウトです。そうならないようにしつけるのも、日本語学校の教師の役割です。

しかし、これは日本での常識に過ぎず、学生たちの国では必ずしもそうでもないのかもしれません。試験の最中であっても困っている人を助けるのが美徳だという考え方もあるでしょう。また、オンラインクラスの場合、試験中に消しゴムの貸し借りということ自体、ありえません。各学生が自室で受けるのですから。

ということで、この問題は、オンラインクラスにはふさわしくなかったのです。「はい、どうぞ」などの答えは、自分が話し掛けられたと考えての応答でしょう。作問者も、私を含め問題をチェックした教師も、こういった点に全く気付かずスルーしていました。意外な落とし穴にはまってしまいました。

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6月23日

6月22日(火)

先週末、区役所から封書が届きました。一瞬、これが噂のワクチン接種券かと思いましたが、表書きには赤字で「選挙」。都議選の告示まで間があるのに、早々と投票所の入場券が来たのです。私の区では、一般庶民のワクチン接種受け付けは、来週になってからだとか。

ワクチンを打っても感染を完全には防げないとか、でも感染率は大幅に下がるとか、しかし、ある変異種には効きが弱いとか、いろいろ言われています。現時点では打たないより打った方がよさそうだし、私は副反応を起こしやすい基礎疾患も持っていませんから、接種券が来たらできるだけ早く打ってもらおうと思っています。

昨日、去年までKCPにいらっしゃったO先生が、新たな職場・沖縄に向かわれました。沖縄は、唯一、緊急事態宣言が発せられたままの県です。O先生がワクチン接種済みかどうかわかりませんが、職場が感染者の多い本島ではないので、多少は安心できるかもしれません。

O先生がこの時期に沖縄へ行くと聞いて、うらやましいことが2つあります。1つは、沖縄の夏至が体験できることです。晴れれば、南中高度ほぼ90度の直射日光を浴び、影のない昼が味わえます。もう1つは、明日6月23日を沖縄で迎えられることです。6月23日は何の日か知っていますか。慰霊の日です。沖縄戦が実質的に終了した日です。今年も大規模な式典は行われないでしょうが、沖縄の人の心に触れる絶好の機会です。13日に自決した大田實司令官は「沖縄県民斯く戦えり 県民に対し後世特別の御高配を賜らんことを」と書き残しました。“特別の御高配”が米軍基地だとしたら、本土は沖縄をあまりに知らなさすぎます。本土のものが6月23日を沖縄で過ごすのは、このギャップを少しでも埋める意味もあるのです。

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最後の1つ前のテスト

6月21日(月)

期末テストの前日、授業の最終日。私のレベル1のオンラインクラスは、会話テストをしました。レベル1で勉強した文法や単語を使って、こちらが与えた場面での会話を作り発表するというタスクです。レベル1では毎学期やっていますから、対面授業では私も経験があります。でも、オンラインでの会話テストは初めてでした。

ごく短い会話の発表なら、授業中にもしてきましたが、ある程度まとまった会話の発表となると、果たしてうまくいくのだろうかという不安もありました。学生たちだって、ZOOMの画面越しに話し合って会話を作るのです。母語が同じなら私の目を盗んでこっそり相談することもできるでしょう。しかし、母語が違ったら、共通言語はお互いに自信が持てない日本語ですから、隔靴搔痒などというものでは済まないでしょう。

会話作成中のブレークアウトルームをのぞきに行くと、どのグループも日本語で話し合っていました。教室だと、私が見ていない隙に母語で話を進めようとするグループが必ずあるのですが、このクラスは不意打ちで訪れても日本語以外を使っているところはありませんでした。

その点は褒められるのですが、会話の発表となると、顔と顔を突き合わせていない弱点があらわになってしまいました。セリフが平板というか、感情がこもらないんですね。教室で教卓の前に仮ステージを作って発表させると、授業で習ったイントネーションをそのまま応用するグループが必ずいくつか現れるものですが、それがなかったのです。これは、オンラインの限界なのでしょうか。

それから、学生に定着した文法とまだまだの文法が、如実にわかりました。こちらはちょっと怖いなと思いました。学生の印象に残った文法とそうでない文法との差が、対面授業より激しいようです。思わぬところで反省材料を突きつけられました。

何はともあれ、明日は期末テスト。みんな、いい点とれよ。

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明日は本番

6月19日(土)

明日はEJUの本番です。去年は6月分が中止となり、留学生入試が大混乱に陥りましたが、今年は、国内に関しては、会場の変更が若干ある程度です。また、大学側もEJUが中止になっても対応できるように募集要項を変更したところもあります。去年は突然のことでうろたえるばかりでしたが、今年は2年目になって、多少は余裕が出てきました。明日の東京地方はあまり天気が良くないようですが、受験に支障はありません。

こわいのは、学生自身の行動です、寝坊したとか電車を乗り間違えたとか違うキャンパスへ行ったとかケータイのアラームを鳴らしたとか昼食を忘れてどこでも食べられなくて午後は頭が回らなかったとか、KCPの先輩たちはありとあらゆる失敗をやらかしてきました。でも、去年は、EJUがなくなって留学の計画を狂わせられた学生がいましたから、今年のみなさんには、受けられるチャンスは確実にものにしておいてもらいたいです。

EJUが終わったら、来週の火曜日が期末テストで、その後学期休みに入ります。休み中もぼんやり過ごすのではなく、志望校についての研究を進めてもらいたいです。そういうイベントをいくつか学生に紹介しています。新学期に入ったら、私立の出願が始まります。今年は留学生の数が少なくなりましたが、各大学は合格者のレベルを落とすつもりはないと言っています。コミュニケーション力を重視するとも言っています。

そういう目で見ると、私の身の回りの学生は、頼りなさげな感じがします。学生数が減った分だけ、濃密に見ていかねばと思っています。

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コミュニケーション

6月18日(金)

「Tさんは大学で何を勉強しますか」「私は国では理科系の勉強をしましたが、日本では文科系を勉強しようと思っています。Cさんは何を勉強しますか」「私は日本で理科系の勉強をしようと思っています」「じゃあ、受験講座で何を勉強する予定ですか」「化学と生物を勉強したいです。Tさんは何を勉強するつもりですか」「文科系の大学に行きたいですから、総合科目を勉強します。数学はわかりますから、受験講座で勉強しなくてもいいです」

レベル2の学生に受験講座の説明をしようと思ってZOOMを開いたら、CさんとTさんがこんな会話をしていました。多少不細工なところはありますが、授業で習った文法を使って、十分会話が成立しています。お互いに情報を与えたり受け取ったりして、コミュニケーションを取っていました。会話のテストだったら、満点をあげてもいいでしょう。

今学期、私が教えてきたクラスは、レベル1です。学期の初めのころに比べたら、ずっといろいろなことが話せるようになりました。でも、3か月後にCさんやTさん並みになっているだろうかというと、心もとないものがあります。CさんもTさんも特別高度な文法を使っているわけではありません。ただ、習った文法がよどみなく出てきています。つまり、勉強したことがきちんと定着しているのです。これが難しいのです。それができているから、満点をあげたくなってしまうわけです。

私のクラスは、来週の月曜日、期末の前日に、会話のテストがあります。私たちが精魂込めて教えた文法や語彙が、自然な形で使えるようになっているでしょうか。

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質問しにくい

6月17日(木)

初級のオンラインクラスで、先日行った文法テストのフィードバックをしました。来週の火曜日が期末テストですから、また、動詞の活用形があれこれ出てきてちょうど脱落者が増えるところですから、学生たちのテコ入れを図ろうと思いました。

テコ入れは、できたと思います。でも、想定の倍以上も時間がかかりました。サクサク進むかと思ったら、テストで間違えたことに関連して、各自が疑問点をぶつけてきましたから、話が広がる一方でした。どうにか収拾がついたと思ったら、休憩時間がすぐそこでした。

学生の疑問点を解消できたのはよかったですが。今までそれだけの疑問点を抱えさせていたのかと思うと、胸が痛みました。日本語がまだまだの学生たちですから、オンラインで質問となると、尻込みしてしまうのでしょう。偶然にも質問しやすい空気になったので、ここぞとばかりに聞いてきたのでしょう。

教室で質問するとクラスメートの目が気になるのではないかと思うのですが、学生たちにとってはそれよりもマイクを通して自分の質問意図を伝えることのほうが重荷を感じるのかもしれません。大学の講義では質問が出やすくなったという話をよく聞きますが、それは日本語に不自由しないからなのです。KCPでも、上級ではチャットが頻繁に使われます。

次の私の授業は、期末テスト前日です。学生たちがモヤモヤをなくし、すっきりした気持ちで期末テストを受け、すばらしい成績を取り、堂々と進級できるような手助けをしたいものです。

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さび落とし

6月16日(水)

自分が受け持っているクラスの授業は、1週間に1回か2回ありますから、連続的とは言えないまでも、継続的ないしは断続的に追跡できます。初級クラスなら、今、みんなの日本語のどの辺をやっているかは把握できているものです。流れに乗っているとも言えるでしょう。3か月で1クールですから、次の学期にまた同じレベルを担当するとしても、多少の新鮮さとともに、すぐにその流れがつかめます。

受験講座理科は、6か月で1クールぐらいのペースですが、各学期に最初からの学生がいますから、実質的には3か月で回転しているようなものです。前学期の反省を踏まえて多少資料をいじったり作り替えたり新機軸を加えたりなどしています。

ところが、日本語教師養成講座となると、6か月ごとですから、忘れたころに授業の担当が回ってきます。大筋は変わっていませんが、半年前に作ったパワーポイントを見て、「これで一体何をしたんだっけ」となってしまうこともあります。

あさってから、その久しぶりの養成講座です。先週から資料を見始め、少しずつ手直しをしています。こういうことをしながら、養成講座の頭を作っていきます。学生に教える授業とは違う発想が求められますから、それぞれの資料で何を言わんとしているか再確認しておかないといけません。

でも、そうやって準備しても、受講生を目の前にしたとたんに、「そういえば前回こんなことをしたっけ」などと思い出し、予定外の方向に進んでしまうこともあります。さて、今回はどうなるでしょう。

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軌道修正

6月15日(火)

私が教えている初級のオンラインクラスは、毎日宿題があります。一部は答えも送って、自分で答え合わせをするようにしています。そんなことをしたら答えを丸写しして提出するんじゃないかと思った方、KCPの学生の心はそこまで汚れてはいません。間違えたところは自分で赤で×を付けて、それを写真に撮って送ってきます。

しかし、ちゃんと直せているかとなると、個人差があります。成績のいい学生がきちんと直せて、芳しくない学生が間違い放置という図式は、容易に想像できると思います。問題をやってみてここはあやしいと思ったところを重点的に見て、間違いを見つけたらしっかり訂正する――ことができれば、自分の足で階段を上っていけます。それに対して、問題を解くことで精根尽きてしまうような学生は、異国の字どうしを引き比べて間違いを見つけるなど、至難の業です。

Yさんが提出した宿題には、大きなチェックマークがついていました。でも、ざっと眺めただけで間違いが3つ。うち1つは許してあげられないでもありませんが、ほかはちょっとねえ。最初の問題はすべての間違いが直してありましたが、その間違いが多くてうんざりしてしまったのでしょうか。

Mさんも間違いがけっこうありましたが、すべて直してありました。それにとどまらず、どうしてこの答えは不正解なのかという質問までありました。Mさんは今までもこういうパターンでした。間違いを自分で直し、納得がいかないところや疑問点を決して残しません。

気が付けば、期末テストまでちょうど1週間です。今学期学んだことをしっかり身につけて、すばらしい成績を挙げ、気持ちよく進級してもらいたいです。

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インクが減らない

6月14日(月)

今学期は、赤のボールペンのインクがさっぱり減りません。いつもの学期なら、テストの採点をはじめ、例文や作文の添削、宿題のチェック、学生からの質問への回答など、あっという間にインクがなくなっていきます。しかし、オンライン授業ばかりの今学期はそのどれもがなく、今月中にインクを使い切る見込みは全くありません。経済的で何よりです。

初級のクラスで、辞書形のテストがありました。formに書かせる(打たせる)ので、インクは1滴も減りません。採点も、まずはコンピューターがしてくれますから、私は「た べる」などのように不要なスペースがあるために不正解にされてしまったような例を救い上げるだけです。

要するに、うっかりスペースキーに触れてしまったとかという、紙のテストではありえないような間違いはなかったことにしてあげようという趣旨です。しかし、「もちます」の辞書形を「まつ」としてしまったのはどうでしょう。私のような老眼には、問題の字が小さいと「も」と「ま」を混同することもあり得ます。しかし、20歳前後の若い目にはそんなことはないでしょう。学生たちがローマ字入力ではなくひらがな入力をしているとすると、「も」と「ま」のキーは斜め上下の位置関係ですから、ミスタッチの可能性が否定できません。

でも、「た べる」は誤解を与えるおそれが非常に小さいでしょうが、「もつ/まつ」は致命的な誤解を与えかねません。ですから、こういうミスタッチはするなという意味でも、Xにします。

そして、そういう間違いを犯した学生は、試験時間を半分ぐらい余して答案用紙を送信しています。ろくに答えのチェックをせずに提出したのです。それに対して、クラスで最優秀のCさんは、一番あとに提出して満点です。

こういう分析が即座にできるところも、オンラインテストのいいところです。

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Chief cabinet secretary

6月12日(土)

菅さんがイギリスで温かいお言葉をいただいて喜んでいるようです。各国は日本に貧乏くじを引かせて、裏でほくそ笑んでいる――などと考えるのは、私の性格がねじ曲がっているからでしょうか。

オリンピックのために多大な費用と労力をつぎ込んできました。だから、今さら中止などしたくないのでしょうが、その費用と労力はサンクコストだとあきらめたほうが日本のためだと思います。日本側から中止を申し出た場合、IOCにも巨額の違約金を支払わなければならいでしょう。それも、オリンピックという大きなイベントを開催することがわかっていたのに感染症の蔓延を封じ込められなかった代償として、日本国民が分担するべきでしょう。思い切って中止することで、海外からの新たな病原菌の流入が防げ、また、海外から来た人たちに感染させることもないのですから、日本のためにも世界のためにも、それが一番です。

確かに、政府の方針が定まっていなかったことが、こういう現状をもたらした最大の原因です。しかし、そういうリーダーを選んだのは私たちです。一国の宰相としての器ではない人物を平気でトップに据えてしまうような国会議員や政党を選んだのは私たちです。国政選挙で半数近い有権者が棄権していますが、棄権は消極的に当選者に投票したのと同じことです。その当選者がこの災厄をもたらしたのですから、同罪です。

官房長官が主たる経歴という人が2代続けて首相になっています。会社で言えば、秘書室長しか経験したことのない人が社長になるようなものです。やっぱり、経理部長とか営業部長とか製造部長とか、そういう役職を経験した人が社長の座に就いた方が、会社はしっかりした道を進むと思います。経験不足、勉強不足の2人が首相になってしまったという点が、日本や日本国民の不幸です。

オリンピックで感染が広がったら、日本に留学しようと思っている人たちが入国できません。そういう学生に日々接している身としては、1日も早く学生の夢が叶う方向に進んでもらいたいです。それが同時に、日本が国際社会で認められる道だとも思います。

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