Category Archives: 学生

目の前じゃないから

8月30日(月)

理科系の数学の受験講座は、微分と積分を扱っています。7月、対面授業をしている頃は、微分積分の前段階をやり、さあこれからが山場だというところでオンラインになってしまいました。オンラインだと、受講生に問題を送ることはできても、その問題をどのように解いているか、答えが出るまできちんと計算しているか、解けない場合はどこでつまずいているか、そういうことが見えません。解いている手元を映せというのも難しいですし、答案用紙を送ってもらって添削というのでは、効果半減です。今、目の前で解かせて、悪いやり方を現行犯で見つけて直させたいのです。

理科系の学部学科は、数学がわからなかったら勉強ができません。入試はうまいことする抜けたとしても、入学してから進級できません。数学の単位が取れないのみならず、物理や化学も不合格となるでしょう。その数学の根幹をなすのが、微分積分です。物理など、教科書が微積語で書かれていると言っても過言ではありませんから、微分積分ができなかったら専門の勉強に進めません。受験講座理科系数学は、その基礎部分を築く授業なのです。だから、「鉄は熱いうちに打て」ではありませんが、間違いの芽を確実に摘み取りたいのです。

それから、KCPの学生は、問題を最後まで解ききらないきらいがあります。途中まで解いて答えまでの道筋が見えたらそこでやめてしまう学生が目立ちます。EJUの成績を見ると、詰めが甘くて失点につながったんじゃないだろうかという点数が随所にありました。今年K大学に進学したWさんには、答案用紙に指差してそういうところを徹底的に指導しました。

数学を受けている皆さんに、私の声と危機感はどこまで響いているでしょうか。

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悲喜こもごも

8月28日(土)

私のクラスのBさんは、7月のJLPTの結果がオンラインで見られると知るや、すぐに聞いてきました。KCPで団体申し込みをした学生の合否結果と成績は、学校に届くのです。

調べてみると、N2に合格でした。すばらしい成績とは言いかねますが、各科目満遍なく点を取って、合格点を上回っていました。Bさんは、多少おっちょこちょいのところがありますが、オンライン授業でもいい加減なことはせず、宿題も確実に出し、着実に進歩しています。KCP入学以来ずっとこういう勉強を積み重ねてきたとしたら、それが実を結んでの合格です。

Bさんから私に言えば結果を教えてもらえると聞いたのか、Jさんからも結果が知りたいというメールが届きました。調べてみると、同じN2が不合格でした。総得点は合格基準を上回っていますが、科目ごとの合格に必要な最低点に届かなかった科目があったため、不合格となったのです。Jさんも、いくらか軽いところはありますが、コミュニケーションは問題なく取れます。対面授業の頃は、日本語力がない学生の代弁すらしてくれました。どこで失敗したのかよく見極めて、12月には合格してほしいところです。

成績一覧表をよく見てみると、N1もN2も、受かっている人はそれなりの人が多いです。そりゃ無理だよねっていう学生は、だいたい落ちています。KCPのJLPT受験者数なんて、特に今年は、たかが知れています。でも、合格者も不合格者も“やっぱり”感満載だとしたら、JLPTは妥当な評価になっているということです。

オンラインが続き、自室にこもることが多いとなると、勉強のペースも乱れがちです。そこを引き締めていかないと、JLPTも大学も大学院も、合格には結びつきません。

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不安な日々

8月27日(金)

夏休み明けの月曜日から、Vさんが受験講座を休んでいます。日本語の授業も出席したのは1日だけです。ワクチンの副反応がひどいようです。オンライン授業にも参加できない状態が1週間も続いているとなると、体力の衰えが心配です。もうすぐ9月だというのに、この前までの天候不順を挽回しなければと思っているかのごとき暑さです。平熱に戻った程度で耐えられるでしょうか。

Vさんは6月のEJUの結果が思わしくありませんでしたから、この時期にガンガン鍛えたいところです。夏休み前までは、本人もそのつもりでいたようです。しかし、こうなってしまっては、無理は禁物です。去年の秋、ほんの一瞬、鎖国が解かれたすきに入国したはいいですが、思わぬ落とし穴にはまってしまいました。でも、ワクチンを接種しなかったら、それもそれで心配が募るでしょう。

Hさんは、まだ入国できず、自国からオンライン授業に参加しています。受験講座の時間が終わって、私がサヨナラと言いながら画面に向かって手を振ったら、「先生、質問があります」と呼び止めました。授業内容についての質問かと思ったら、「先生、私はいつ日本に入れますか」と聞いてきました。

正直に言って、一番してほしくない質問ですね。わからないというのが事実であり、本音でもあります。でも、それではHさんの気持ちは晴れないでしょう。ですから、今年も同じようになるか全くわからないけれども、去年はこうだったという話をしました。希望を持たせすぎるわけにはいきませんが、希望の灯を消してしまってもいけません。

多くの学生が、それぞれの不安を抱えたまま、受験シーズンに踏み出そうとしています。

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欠席理由

8月26日(木)

JLPTの団体申し込み者の成績が届き、データを見てみた時、あまりの欠席者の多さに愕然としました。しかし、よく調べてみると、海外にいる学生が、7月のJLPTの頃には入国して受験できるだろうと思って出願したのに、実際には入国できずに受験もできなかったという例が、欠席者の3/4を占めました。そういう学生を除き、日本にいたのに受験に行かなかった学生となると、その割合は、むしろ例年より低いくらいでした。

7月のJLPTの申し込みは3月から4月にかけてでしたから、その頃は6月半ばに入国し、7月4日に受験するというプランも現実味がありました。オリンピックもやることだし、選手が入国するなら留学生も入国できるだろうという楽観的見通しを否定はできませんでした。

受験できなかった学生にとっては、受験料が無駄になってしまったこともそうですが、この試験でN1かN2を取って来春進学するという計画が瓦解の危機に瀕していることの方が厳しいです。去年と同じように、秋に一瞬門戸が開き、その時に入国するという道があるのでしょうか。ここ数日、東京の新規感染者数は先週に比べて減っていますが、絶対数は相変わらずです。全国的には右肩上がりのところが多く、全く予断を許しません。

入国できないがゆえに受験できなかった学生の中に、私のクラスのHさんもいました。N1ですからたやすいことではありませんが、何でも吸収しようと意欲的なHさんなら手が届かなかったとも限りません。初級ですがオンライン授業で実力をグングン伸ばしていたMさんやWさんだって、N2を受けていたら結果が楽しみでした。

最大の問題は、日本にいたのに受験しなかった学生どもです。感染予防にかこつけたのではないかと疑いたくなる名前もちらほら。海外で切歯扼腕している学生たちに比べたら、ずっと恵まれているのに…。

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さんななめよん

8月25日(水)

我が社は3:1の割合で、パート社員が多い――これは中級の漢字の教科書に載っている例文です。3:15は読めても、3:1は読めないだろうと思い、「さんたいいち」と教えてあげました。ZOOMの画面は、全学生がメモを取っている様子を映し出していました。ここまで準備すれば、この文は誰でも読めるはずです。現に、私が指名したLさんはすらすら読んでくれました。

「じゃあ、Lさん、3:1の割合ということは、この会社はパートの社員がどのくらいいるんですか」と聞いてみました。75%という答えが返って来ればいいことにしていましたが、Lさんの答えは「さん、ななめ、よん」。教室のホワイトボードに大きく「3/4」と書いたら、Lさんは盛んにうなずいていました。

その「3/4」を指さして、「誰か、これ、読める人」と聞いても反応なし。「Wさん、あなたは理科系だから読めるでしょう」と、6月のEJUでも優秀な成績を収めたWさんを指名しました。しかし、「読めません」と一言。しょうがないので、「よんぶんのさん」と大きく板書しました。そして、「これは小学生でも読めます。大学や大学院に進学して“さんななめよん”なんて言ってたら恥ずかしいですよ。というか、話が通じません」などと脅している間に、こちらもみんなノートに書き写しているようでした。

中級ともなれば、けっこう小難しい表現も勉強し、それを作文などで応用する学生も出てきます。しかし、分数が読めなかったり、足の裏がわからなかったりというように、意外な落とし穴をかなり抱えています。これをお読みの日本人のみなさん、「さんななめよん」などと言っている外国人を見かけたら、優しく接してあげてください。学校の授業ではなかなかそこまで手が回らないのです。

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日本にいているうちに

8月24日(火)

中間テストの採点をしていたら、Wさんが「…日本にいているうちに…」という誤答をしているのを見つけました。「います」に「ています」をくっつけるとは妙に凝ったことをするなあと、逆に感心してしまいました。

その後数人の答案を採点し、Gさんの答案を採点していくと、なんと、「…日本にいているうちに…」という答えがあるではありませんか。Wさん、Gさんの前に何十人もの学生の答案を見てきましたが、「…日本にいているうちに…」と書かれた答案は1枚もありませんでした。もちろん、その後も現れませんでした。

なんとなくこの2人の答案はリズムが似ていると思って、まさかと思いつつも調べてみると、他の誤答も含めてほぼ同じでした。もしやと思って個人データを開いてみると、2人はルームメートでした。試験の最中は気付きませんでしたが、2人が相談したことは疑いようがありません。さらに、他の教科の答案でも、極めて疑わしい類似性が確認されました。

WさんもGさんも、できない学生ではありません。きちんと勉強すれば十分合格点は取れたはずです。しかし、ほんの出来心か、自室で受けられるという気楽さからか、あらぬところで協力体制を築いてしまったようです。こちらも試験時間中ZOOMの画面を通して監視していましたが、教室での試験に比べたら、目の届かぬ範囲が広すぎます。

この2人への対応も難しいです。現行犯じゃありませんし、オンライン説教じゃ迫力半減だし、かと言って何も手を打たないわけにもいきませんし、頭が痛いです。万が一、入学試験でこんな妙ちくりんなことをしたら、一生を棒に振りかねません。さて、どうしましょうか。

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特徴をつかむ

8月10日(火)

全面オンラインになり、1週間が過ぎました。学生たちのマスクの顔にいくらか慣れてきて、多少は顔の区別がつくようになったころにオンラインが始まりましたから、当初は、マスクを着けていない学生たちの顔がとても新鮮でした。マスクの顔から想像がつく顔もあれば、「えっ、あんた、こんな顔してたの?」って言いたくなるような顔もありました。学生たち同士はどうだったんでしょうね。

今学期は2つの同じレベルのクラスを受け持っています。オンライン授業になってから、どちらのクラスで何を教えたか、ごちゃごちゃになっています。作文と読解は教えるクラスが決まっていますから問題ないのですが、文法や漢字や聴解は両方のクラスで教えますから、混乱がはなはだしいです。対面授業の時は、マスクの顔は特徴がないとはいえ、この聴解はこちらのクラスでやったとか、文法でこの練習をしたのはあっちのクラスだとか、どうにか区分けができました。しかし、オンラインになって、学生の顔の特徴がよりはっきりしたにもかかわらず、わけが分からなくなってきているのです。

こうしてみると、実際に会うということのインパクトを改めて感じずにはいられません。オンラインで何でも仕事が進むようになっても、最後の決め手は対面だと言っている人が結構いるのもよくわかります。私たちは知らず知らずのうちに、何らかのオーラを発しているのでしょうか。

こういう状態がまだ当分は続きそうです。モニター画面の学生の顔を精一杯大きくして、クラスごとのカラーの違いを感じ取っていきましょう。

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目標

8月7日(土)

今週の作文の採点をしました。中級クラスの作文は、論理的な文章が書けるようになることが目標です。EJUの記述や入試の小論文を念頭に置いた目標設定です。私のクラスのみなさんは、ある程度そういうことが意識できるようです。どうしようもない学生もいましたが、大半の学生は論理が破綻することなく結論まで至っていました。

しかし、これだけで「よかったね」というわけにはいきません。中級の作文の本筋からはいくぶん外れますが、何人かの学生が書いていた「(進学するために)知識を覚える」という意味の表現です。

入試に通るためには、確かに知識が必要です。私だって、受験講座で「これはそのまま覚えてください」と学生に向かって言うこともあります。“元素記号Cは炭素である”というのは、知識と言えばまさにその通りです。

しかし、それを作文に堂々と書いてしまうのはどうなのでしょう。「知識を覚える」のは、コンピューターの仕事です。覚えるだけなら、AIよりも1世代か2世代古いコンピューターが得意としたことです。ですから、「知識を覚える」と書いた学生には、たとえ文章全体の評価は高かったとしても、「キミは20世紀のコンピューターと競い合いたいのかね」と言ってやりたいです。

出願書類の志望理由書や学習計画書にこれを書く学生が、毎年何人かいます。大学・大学院などの高等教育機関・研究機関は、知識を覚える場ではなく、発想力を鍛える場です。知識は果実ではなく、種か苗です。知識を学ぶために進学するのだとしたら、将来はAIの僕です。AIを使い倒す仕事をしたかったら、そこからなにがしかの発展がなければなりません。

今から知識を覚えることにとらわれているようでは、先が見えています。この作文を返すときには、そういう点にも触れておこうと思っています。夏の盛りが過ぎたら受験シーズンですからね。

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最大の問題は

8月5日(木)

9月になると、大学の指定校推薦の出願が始まります。学生が出願に必要な書類をそろえるのに必要な時間を考えると、今すぐ募集して、夏休み前ぐらいに校内面接をした上で、9月出願の大学に推薦する学生を決めなければなりません、そういうわけで、今週から指定校推薦の案内をしています。

Cさんが、S大学の指定校推薦に興味があると言ってきました。出席率やEJUの成績など、S大学が提示している推薦条件は満たしています。もちろん、S大学はCさんが勉強したいと思っていることが勉強できます。

このまま指定校推薦入学の校内審査に応募するかと思いきや、S大学の前にR大学を受けると言います。そして、R大学に受かったらそちらに進みたいとのこと。合否発表が10月下旬で、「否」だったらS大学の指定校推薦に応募するというのがCさんの本当の希望のようです。S大学は第2志望で、その大学がたまたま指定校推薦をしているので、一丁やってやるかというのが本音なのでしょう。

それも困ったものなのですが、さらに大きな問題があります。Cさんの日本語です。EJUの日本語みたいな4択問題なら点が取れるのですが、話したり書いたりとなると、発音や文法がボロボロで意味不明になります。上述のやり取りも、相手が私ですからどうにか通じたのであり、S大学やR大学の先生だったらCさんの考えは全く通じないに違いありません。昨日の作文は、その私ですらさじを投げてしまいました。「何を言っているかわかりません」と書いて、Fを付けました。

Cさんには、大学に入りたかったら話し方の特訓が絶対必要だと言っておきました。志望理由書は教師の添削で何とかできても、面接の受け答えはごまかしようがありません。Cさんはどんな結論を出すのでしょうか。

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やさしくない

8月4日(水)

オンライン授業だと、テストや例文や作文や宿題プリントなど、毎日何枚もの文書を学生に提出させます。志望理由書や小論文など、入試では手書きの書類や答案を要求するところが多いですから、学生たちに手書きを忘れさせないようにと、授業関連の提出物も手書きがほとんどです。ノートなどに手書きしたものを写真に撮り、それをメールで送らせるのです。

テストや宿題などを提出させたら、教師はそれをチェックしなければなりません。学生は自分の分だけで終わりですが、教師はクラスの人数分だけ目を通し、時には添削しなければなりません。紙ならばボールペンを走らせてどんどんチェックしたり採点したりできますが、写真で送られてきた答案などを採点したり直したりするとなると、確かに便利なアプリも出ていますが、大いに苦労させられます。老眼をしょぼつかせながら学生からの提出物に朱を入れるのは、かなりの重労働です。去年はそこまで技術が進歩していなかったので、デジタルなやり取りが大半で、こういう苦労はあまり感じていませんでした。

その重労働に拍車をかけるのが、学生が送ってくるファイルの名前です。スマホでノートの写真を撮って、それをそのまま送ってくる学生が大半です。すると、数字とアルファベットが組み合わせられた無機質ななまえのファイルが続々と届きます。若手の先生がシステムを組んでくれて、学生ごとの振り分けはできるようになっています。しかし、各学生のフォルダには同じようなファイル名がずらっと並びます。

オンラインの初日に、「作文0804」のように、中身がわかるファイル名を付けるように指導したのに、それを守っているのはほんの一握りの学生です。そういう学生は、概して優秀です。さらに、ファイルが細切れになっている例も目立ちます。1つのテストの答案を、ご丁寧に3つに分けて送ってきた学生もいます。3つ組であることがわかるようなファイル名ならまだしも、例の意味不明なファイル名ですから、見つけ出すだけでけっこうな労力が必要です。そういうのに限り、順番がばらばらだったり、ノートがあさっての方を向いていてそれを直すのにひと手間かかったりするのです。

こんなところにも学生の人間性が現れると言ったら言い過ぎかもしれません。でも、オンラインが始まってたった3日で、学生のやさしさのなさを痛感させられています。

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