Category Archives: 学生

合格と出願不能

10月3日(土)

昨日の帰宅間際にメールをチェックしたところ、CさんからW大学に受かったという報告が入っていました。Cさんの実力なら受かったとしても不思議はありません。何はともあれ、「おめでとう」の返信メールを送りました。

Cさんは好奇心の強い学生です。なんにでもちょっかいを出してみようという精神にあふれています。私宛に時々質問メールが来ましたが、受験勉強に関する事柄だけでなく、日本語そのものや日本社会・文化に関する日ごろの疑問をつづったものもありました。昨日の合格報告のメールでも、三島由紀夫のこんなことが書かれている小説は何かと聞かれました。私が知っている範囲でそういう内容のものはありませんでしたから、わかりませんと答えるほかありませんでした。

その対極にいるのがRさんです。RさんはF大学を目指しています。その提出書類に学業以外の活動を書き表すものがあるのですが、これが書けなくて困っています。部活動、生徒会活動、ボランティア活動、そういった経験が全くなく、書きようがないのです。でっちあげるという手もありますが、そんなことをしたところで、面接などで簡単に見破られてしまいます。

Cさんなら学校公認の活動ではなくても、その手のネタには事欠かないでしょう。また、それを読み手であるF大学の先生方の興味を引くように表現する術も持っています。うまくすると、そこで面接が盛り上がって、合格してしまうかもしれません。

悲しいかな、Rさんは国にいた時から勉強しかしてきませんでした。それを責めるつもりはありませんが、少なくともF大学の求める学生像とは違うようです。無理してF大学に進んでも、4年間苦しむだけのような気がします。今のRさんをそのまま受け入れてくれる大学に進むのが、結局Rさんの幸せにつながるのではないでしょうか。

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伝わる

9月30日(水)

今学期も始業日までに新入生が来る見込みはありませんが、留学ビザを持っている外国人の入国が少しずつ認められそうだということで、KCPに入学予定の学生に進学オリエンテーションを開きました。新入生本人は外国にいますから、もちろんオンラインです。日本語学校入学前ですから通訳付きです。

初対面でだれがどんな計画を持っているかもわかりませんから、初回は一般論です。今までのKCPの新入生たちがよく勘違いを起こしていたところを中心に、大学や大学院への進学についての心構えや準備しておくべきことなどから話していきました。

一番強調したのがコミュニケーション力の強化です。テストではいい点が取れるのですが、話がさっぱり通じない学生がいます。こちらの言いたいことも学生に届かなければ、学生の言わんとしていることも理解できません。しかも頭が固いとなったら、指導のしようがありません。日本語教師ですらお手上げなら、大学や大学院の先生方がそんな学生に貴重な時間を割いて丁寧に指導してくださるわけがありません。運良く入試を切り抜けたとしても、その先の運命は開けてこないでしょう。

コミュニケーション力は、日本語学校で鍛えられるものではありません。母語でもっても相手の意図するところがつかめない人が、外国語である日本語でどうして意思疎通が図れるでしょう。日本へ来るまでの間に、せめて相手の気持ちを理解しようという姿勢だけは鍛えてきてほしいです。同時に、相手に自分の気持ちや考えが伝わったかどうか感じ取れるようになってもらいたいです。

と、学生たちに多くを望みましたが、一方的なオンラインの話でどれだけ伝わったでしょうか。ZOOMの小さい画面だけからは、反応が今一つつかめません。これからもう何回かオリエンテーションをしていきます。少しずつこちらの考えをしみこませていこうと思っています。

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朝寝坊

9月25日(金)

朝からA先生が怒っていました。9時半にT大学の志望理由書と学習計画書を書いて持って来ると約束したHさんが、一向に現れないからです。会議の時間が迫ってきたのに、Hさんからは連絡すらありません。怒るなという方が無理な相談です。「こってり油を絞ってくださいね」と私に後事を託して、A先生は会議に行ってしまいました。

私は進学資料作りやデータ処理など、パソコンの前でする仕事をしながらHさんを待ちました。予定していた進学資料ができあがっても、まだ来ません。それに関連した調べ物をたっぷりしましたが、待ち人来たらず。そろそろお昼に行こうかなあと思い始めた1時半になって、やっとHさんが職員室に。

「遅刻しちゃいけないと思ってスマホのアラームをセットしたんですが、月曜日の8時にセットしてしまったんです」と言い訳されましたが、スマホのアラームは曜日ごとに設定できるのかと妙なとことに感心してしまいました。私はそういうのに頼らなくても目が覚めちゃうたちなので…。

「で、昨夜は何時に寝たの?」「2時です」「目が覚めたのは?」「11時でした」

2時と言えば、私はそろそろ起きようかという時間です。受験生ですから、2時まで一生懸命勉強していたのでしょう。でも、睡眠時間9時間はいかがなものでしょう。

本題の志望理由書と学習計画書はというと、朱の入れようがないほど内容ゼロでした。すでにA先生から1度指導を受けて書き直したはずなのですが、自己主張がまるでありません。文法的な誤りはありませんでしたが、読んでも何も頭に残りませんでした。A先生と同じことを言ったかもしれませんが、志望理由書や学習計画書を書く時のポイントをレクチャーしました。

出願は来週末だそうです。まだ少し時間がありますから、T大学の先生方の胸を打つような文章に仕上げてもらいたいです。いや、それよりも、早寝早起きの習慣を身に付けてもらうことの方が先でしょうね。

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使用語彙を増やそう

9月24日(木)

来月からまた日本語教師養成講座の授業を受け持ちます。私が担当する授業の中に、日本語の語彙に関する部分があります。日本語は他の言語に比べて日常使われる語彙数が多いという話をします。日本語の単語のルーツには、和語、漢語、それに外来語があり、また、話し言葉と書き言葉の違い、かたい場面とくだけた場面での言葉遣いの違いなど、語彙が増える要素ばかり目立ちます。日本語は、アルファベットの言葉の3倍くらい単語を覚えないと、語彙的に同じレベルにならないそうです。

このことは、当然、学習者にとっては重荷になります。日本語は、動詞の活用が規則的だとか、修飾語は被修飾語の前に来るとか、文法は決して難しくありません。だからとっつきやすいのですが、しかし、覚えるべき単語が続々と湧いてきて、上達しようと思うと、底なし沼にはまるがごとき様相を呈してきます。

KCPの学生も状況は全く同じで、昨日の期末テストでは、超級の学生たちもみんな語彙で討ち死にしました。漢字の読み書きに関してはかなりのレベルに到達している学生も、その読んだり書いたりできる漢字の言葉を正しく使えるかというと、残念な答えにしかなりません。これぐらいは正解してくれるよねと思った問題でも、実にあっけらかんと間違えてくれます。

読解のテストはそこそこの点が取れていますから、理解語彙はけっこうあるのでしょう。しかし、使いこなせる語彙となると、まだまだなのです。努めて語彙を増やす方向に授業を持って行っているつもりですし、短文作成などで使うチャンスも与えているはずなのですが、どこか何か足りないのでしょう。

かろうじて合格点くらいの答案に囲まれると、学生たちから責められているみたいです。

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ひねりに耐える

9月18日(金)

今学期大学進学クラスでずっとやってきた聴解の授業のまとめをしました。EJUの過去問をさせたんですが、クラス全体でできのいい問題と、できの悪い問題と、傾向がはっきり分かれました。当たり前の話ですが、問題の中に出てきた言葉や文がそのまま選択肢に出てくると成績がよく、ひとひねり入るとちょっと下がり、ふたひねり入ると正解者が半分ぐらいになり、さらにひねられるとまぐれ当たりと変わらない正答率になります。ひねりまくっている問題は、スクリプトを読解の問題として出しても、かなりの学生が間違えるんじゃないかと思いました。

ひねりまくりの問題は、中級の学生あたりは捨ててもいいんじゃないかな。そんなに数が多いわけではありませんから、「ああ、わからなかった」と潔くあきらめることも戦術です。わからなかった問題、できなかった問題についてくよくよしていると、次の問題、その次の問題に悪影響を及ぼします。気持ちを切り替えて新しい問題に取り組むことが肝心です。

上級とか超級とか、いわゆる上位校を目指す学生は、そう簡単に問題を捨てるわけにはいきませんから、どうにかこうにかくらいついていかなければなりません。ひねりに耐えられる聴解力がある学生が、上級とか超級とかだとも言えます。そのためには、音を聞き取る力はもちろんのこと、その音から単語、単語から文、文から文脈と、理解を面的に立体的に展開していく力を養成する必要があります。それは語彙力でもあり、想像力でもあり、社会性でもあると思います。

来学期の目標ができました。10月期が始まったら、EJUまで1か月です。

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初みかん

9月17日(木)

今学期最後の授業を終え、教卓まわりの片づけをしていると、Mさんが面接練習をしてくださいと言ってきました。I先生から引き継ぎを受けていましたから、すぐに始めました。

部屋の入り方もきちんとできているし、声もよく通るし、姿勢も背筋をピンと伸ばして見事なものだし、視線も泳いでいないし、外観は合格です。答えも、大きな破綻はありませんでした。ちょっと文法を間違えたり、文が滑らかに言えなかったりもしましたが、コミュニケーションに影響を及ぼすものではありませんでした。しかし、インパクトがないのです。

志望理由も大学で勉強したいことも将来の計画もそれなりに言えています。不可ではないという意味で、10人の中の5人には残れるでしょう。しかし、このままでは10人の中の1人にはなれません。自分を売り込むという要素が乏しいのです。面接官の記憶に残る何かがなく、平板な印象しか与えません。

Mさんにそういうことを指摘すると、本人もうすうすとは感じていたようで、盛んにうなずいていました。本番の面接は来月に入ってからですから、答えを組み立て直す時間はあります。学期休み中にもう一度やることになるでしょうね。

面接練習を終えて食事に出た帰り道に近くの青果店をのぞいてみたら、信号機や山手線なんか問題外の緑色のミカンが店頭にあるではありませんか。待ちに待った酸っぱいミカンです。もちろん、即、買いました。ハウス物はだいぶ前から出回っていましたが、私は毎年露地物が出るのを待って、そのシーズンの初物を買います。お店の人の話によると、今シーズン初入荷とのことでした。今晩、うちで早速食べてみます。Mさんの面接の答えにも、緑色のミカンのような聞き手をキュッとさせるくらいの刺激が加わることを祈りながら…。

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水曜の朝のお楽しみ

9月16日(水)

土曜日から4連休で、連休明けの来週水曜日が期末テストですから、今週が実質的に今学期の最終週です。水曜日に担当してきた最上級クラスも、どうにか最後の授業を迎えることができました。このクラスはオンラインでしたから、学生と顔を合わせたのは中間テストの試験監督の時だけです。その時は全員マスクをしており、オンラインの時はマスクを外していますが、モニター上に各学生に割り当てられた豆粒ほどの画面では、顔をしっかり覚えるには至らず、学校の外で会ってもわからないでしょうね。

このクラスの授業は、語彙と文法が中心でした。毎週水曜日の朝はその下調べをすることになるのですが、その時間が今学期のひそかな楽しみでした。単語一つをとっても、学生たちが辞書で調べただけでは気付かないニュアンスを付け加えたり、関連語を付け加えたり、単に問題の答え合わせをしておしまいにはしませんでした。学生が知らないと思われる用法も紹介しました。超級クラスですから、日本人と同じレベルの話がガンガンできるのがうれしかったです。

文法も意味を教えるにとどまらず、類似表現との違いにも触れました。学生たちに間違った例文を書かせないということを目標にしていました。ですから、学生が提出してくる例文は私の授業の成績表でした。最上級クラスだけあって、理解は早いです。でも、違和感のある使い方が毎回散見されました。そういうのを見つけると、戦いに敗れたような無念さを感じました。

こういうふうに、単語の意味や文法についてねちこち調べるのは、私は大好きです。水曜日の朝は、至福の時間でした。

最終回の例文は、私の勝ちだったかな。みんな要点をつかんだ例文を書いてくれました。

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昔の名前

9月15日(火)

学生から相談を受けたという先生の相談を受け、建築が勉強できる大学を調べました。私が受験生だったころは、建築を勉強すると言えば全国どこでも工学部建築学科でした。ところが、震災の前後から、建築学部というのが生まれ、工学部から独立する傾向が見られるようになりました。そして、実際に調べてみると、この建築学部またはそれに類する名前の学部が十指に余るほどでした。

さらに言うと、昔ながらの建築に加えて、デザインに重きを置く建築を学ぶ学科が目立ってきました。微積も複素平面も波動も熱力学も原子物理も、ガリガリ理系の勉強をして入る「建築」と、そういう勉強よりも絵を描いて入る「建築」とに分かれています。後者は美術系の延長線上にもあります。KCPからも、毎日美術室でデッサンの練習をしていた学生がそういう学部学科に入っています。

その学生は土木方面でもいいとのことなので、土木についても調べました。これまた昭和の受験生は土木学科に進みましたが、平成の初期あたりから土木学科が改名し、令和の受験生は土木学科を受けることは不可能に近くなっています。「都市」とか「環境」とかという言葉と組み合わせて、新しいイメージを創り出しています。土木という、文字通り土や木の泥臭いにおいがする学問ではなく、人と自然の共生みたいなクリーンな感じのする研究へと変身しています。

とはいえ、旧来の建築学や土木工学がなくなっていいわけがありません。自然災害の多い日本で私たちが生きていくには、地震波を解析し、微積をフルに活用して編み出した耐震建築や免震構造が必須だし、河岸や海岸に堤防を築いたりトンネルや橋で交通の便を確保したりすることだって不可欠です。

その学生に直接会っていませんから本当に何を勉強したいのかわかりませんが、日本で建築だ土木だというのなら、ぜひともそういう方面にも目を向けてほしいものです。

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にわか雨に降られて

9月11日(金)

密にならないうちに早めにお昼を食べに行こうと、職員室の窓から空を見上げると、いやな色の雲が広がっていました。念のために折り畳みを持って出かけました。

天ぷらをいただいて、食休みに昨日から電車の中でも読んでいる新選組の短編集を少し読んで店から出ると、ちょうど雨が降り出したところでした。アスファルトに当たった雨粒が跳ね上がるほど強い降りで、傘を持っていない人たちが雨宿り先を探して走り回っていました。折り畳みが無駄にならなかったのはいいのですが、もう少し小説を楽しんでいればよかったなあと思ったほどのにわか雨でした。学校まで5分かかるかかからないかでしたが、ズボンの裾はびっしょり濡れました。

雨は学校に着いて程なくやみました。30分も降っていませんでしたがけっこうな雨量だろうと思って気象庁のページを見ると、東京(千代田区)、練馬、府中、世田谷の新宿を取り囲む4地点のアメダスには降水が記録されていませんでした。雨雲の動きを見てみると、確かに新宿付近を強い雨雲が南から北へ通過していました。そこで、神奈川県の日吉、相模原中央、埼玉県のさいたま、越谷のアメダスの観測値も見ましたが、やはり降水量は0.0ミリでした。つまり、雨雲はアメダスの計測点を巧妙に避けて移動したため、私が遭遇したにわか雨は、気象庁のデータ上は、存在しなかったことになっているのです。

へーと思っていたら、TさんがK大学を受けるという噂が流れてきました。そんなそぶりは全然していなかったのに。毎年、こういう教師にとって寝耳に水の受験があります。受験日直前に面接練習をしてくれと言われて初めて気付き、すでにしょうもない志望理由書を出願書類として提出した後で、絶望的な気持ちで特訓するというパターンです。今回はどうにか事前にキャッチできましたが、中にはお昼の雨雲みたいに情報網をすり抜けて、落ちた時点で発覚というのもよくある話です。今年の入試は何があるかわかりませんから、こういう例はなくしたいです。

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難物

9月10日(木)

HさんはM大学のコミュニケーション関連の学部を目指しています。日本以外の外国でも暮らしtことがあり、異文化コミュニケーションに興味があるので、大学でもその方面の勉強をしたいと言っています。

ですから、「国を離れて外国で暮らした時、どんなところに異文化を感じましたか」と聞いてみました。すると、「食事と文化と生活方法に感じました」という答えが返ってきました。「もう少し具体的に言うと?」「A国の人は早起きでした。日本は通勤電車が混んでいます」という調子で、議論がかみ合いませんでした。こんな基本的なツッコミで焦点がぼやけた答えしかできないようでは、M大学に手が届きそうもありません。

異文化コミュニケーションという響きのよいカタカナ言葉にあこがれているのでしょう。あこがれも専門分野を選ぶきっかけにはなりますが、あこがれのままで熟成させることなく入試に臨んだら、合格の目はありません。Hさんは、これから出願までの間に、異文化コミュニケーションの何たるかを勉強し、大学で何を学ぶか自分の頭の中で組み立てなければなりません。

ロボットを作りたいというだけのCさんも、議論が深まらない学生です。どんなロボットかと聞いても要領を得ませんし、機械工学科で機械を勉強したいと訴えられても、聞き手は困ってしまいます。Cさんの頭の中には何かがあるのでしょうが、それがこちらには漠然としか伝わってきません。こちらも、徹底した脳内改革が必要です。

出願の山場に向かって、この手の学生が続々と現れてきそうです。繁忙期到来です。

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