Category Archives: 勉強

次の学期で

12月7日(月)

先月から、入国後の待機期間を終えた新入生が来始めています。レベルテストをしてレベルを決定するのは今までと変わりありませんが、今回は学期の途中から既存のクラスで授業を受け始めるケースがほとんどですから、私たちも手探りの部分があります。もはや期末テストまで2週間ほどですから、今からとなると1月期も同じレベルで勉強するケースも多いです。

大半が初級ですが、私が担当している中級クラスにも数名加わりました。次の学期も同じレベルというと何となく不満なところもあるようですが、聴解の生教材を聞かせると、黙ってしまいます。JLPTの練習問題など、作られた教材を聞き答えを選ぶ訓練はしてきましたが、まとまった話を聞いて内容を把握し、それを表現するとなると、KCPでずっと鍛えられてきた学生にはかなわないようです。全然聞き取れず、自信を失ったという新入生もいました。来学期も同じレベルで実力を蓄えることに納得したようです。

まあ、焦って1つ上のレベルに入ったところで、4月からの学期では同じクラスになってしまうでしょう。現在上級に在籍している学生たちは、みんな卒業しますから、今、中級の学生で、4月以降も残る学生が最上級クラスを構成することになるのです。そういうわけで、長期的に考えたら、基礎部分の穴をしっかり埋めておくことの方が、大きく伸びることにつながり、受験で好結果をもたらすことになるでしょう。

そういう学生たちを見ていると、学生たちがどうして日本で勉強したがるのかも見えてきます。問題集や教科書では培えない力を得たいのです。オンラインなら国でも受けられますが、そういう授業では学べないものに浸りたいのです。それに応えてこそ、学生の求める学校であり、理想的な教師なのです。

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熱演が無駄

12月3日(木)

「はい、ここまでのことで、質問ありませんか。……ない? なかったら、例文を書いてください」と、学生たちに今やったばかりの文法を使った例文を書かせました。文法の授業を締めくくる恒例の儀式と言ってもいいでしょう。

学生が例文を書いている最中、私は教室中を回って、学生たちの手元をのぞき込みます。もちろん、密にならず、変なプレッシャーを与えずという距離は保ちます。学生が作ったばかりの悪い例文を見つけ出し、どこが悪いか学生全員に考えてもらいます。同時に、私の説明が足りなかったところや練習が必要だったところを補います。

Cさんの例文を見ると、私が書いてはいけないと注意したタイプの例文でした。赤で板書し、ホワイトボードをたたいてここが重要だと訴えたのに、それを無視した例文を作っていたのです。すぐに、教室全体に響く声で、「こういう文を書いてはいけないって言いましたよね。思い出してください」と再度注意しました。Cさんも、書いたばかりの例文を消して、また考え始めました。

ところが、Cさんの教科書やノートを見てみると、私が赤で書いた重要ポイントも、ホワイトボードをたたいて強調した注意点も、何も書かれていませんでした。わずかにその文法の意味しか記されていませんでした。参考になるのがそんなメモ書きみたいなものしかなかったら、教科書の例文を見たって、どこに目を向けるべきかわかるはずがありません。

Cさんみたいな学生は、板書事項をまとめた解説を配ったって、おそらく見ないでしょう。学生が書いて提出した例文は添削して返しますが、教師が入れた赤は読んでいないに違いありません。その証拠に、Cさんのこの前の文法テストは…、いや、お恥ずかしくて点数は明記できません。

2度目の解説はきちんと聞いていたようで、Cさんが提出した例文は、一応要点は捕らえていました。でも、別のところに文法ミスがあり、○にはできませんでした。その文法を勉強した時も、ろくにノートを取っていなかったんでしょうね。

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塵も積もれば

11月16日(月)

金曜日の中間テストを採点しました。

超級の大学進学クラスは、大学入試の過去問を出しました。採点してみると、漢字の読み書きで助かった学生が目立ちました。読解問題の失点をカバーしてかろうじて合格点を取った者、漢字で点を伸ばして評定をワンランク上げた者、そんな学生がいました。先学期から通学授業の日には毎日漢字テストをやって来た効果が表れたようです。半年前は漢字で足を引っ張られることが多かったのですから、大きな進歩です。でも、読解の筆答問題は、相変わらず弱くて、困っています。

中級クラスは、漢字のテストでなくても、どんな易しい漢字にもフリガナを振らせました。これが悲惨な結果を招きました。“学生”“欠席”など、初級で勉強したか今まで何度も接してきたはずの漢字にも、正しいふりがなが書けない学生が続出しました。“がっせ”“けせき”などというのをいくつも見せられると、それ以降採点せずに不合格にしたくなりました。おそらく、そういう学生は、ふだん、「けせきが多いがっせ」などと発音しているに違いありません。それをきちんと注意してこなかった私たち教師にも責任はありますが、初級の入り口の頃に出てきて、毎日のように耳にしているはずの単語がきちんと発音できないというのは、その学生が日本語に積極的に接しようとしてこなかったのではないからでしょう。

大学進学クラスの学生は、私なんかいじめ抜いていますから、できないという印象が先に立ってしまいますが、中級クラスの学生と比べると、やはり格が違うなと思います。鍛え続ければ伸びるものなんですね。

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カビとオンライン

10月30日(金)

日本への入国規制が緩和され、KCPに入学する予定だった学生も少しずつ来日することになっています。入国しても自由に歩き回れるわけではありませんが、かと言って待機しているホテルなどに何もせずにいさせるわけにもいきません。学校に通えるようになったらすぐに授業ですから、少しでも準備をしておいてもらいたいところです。現在、学校を挙げてその対応に当たっています。

午後、卒業生のLさんが来ました。卒業後、わりと頻繁に顔を出してくれていましたから、また暇つぶしにでも来たのだろうと思っていました。ところが、涙なくしては聞けない事情が隠されていました。

Lさんは、現在、M大学の3年生です。昨年度の後期の授業や試験が終わったころ、一時帰国しました。世界的に見ても、新型肺炎の患者数が少ないことでした。ところが、新学期が始まるので日本に戻ろうとしたその日に、Lさんの国は出国禁止令をだしたのです。以後半年、鎖国状態の日本に戻れず、ずっと国で過ごしていました。そして、今月、入国規制緩和の恩恵にあずかって、やっとの思いで日本への再入国を果たし、規定の自宅待機期間を何事もなく過ごし、自由の身になって初めて訪れたのがKCPということでした。

半年間家賃だけ払って空き家だったLさんの部屋は、上の階からの水漏れのせいでカビだらけだったそうです。カビの胞子なんか吸い込んだら、肺炎よりもひどい病気にかかりそうな気もしますよね。

踏んだり蹴ったりみたいなLさんでしたが、大学の授業は完全オンラインだったので、国で何の支障もなく受けられたそうです。世界中どこからでも受けられるんですね。そういう話は耳にしていましたが、実際にその恩恵にあずかった人を目の当たりにして、非常に腑に落ちました。

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指名してみると

10月26日(月)

オンライン授業の日は、とにかく指名しまくります。油断していると、コンピューターの向こう側で何をしているかわかりませんから。対面授業よりも細かくいろいろなことを学生に聞きます。口を動かすという面もありますが、学生の注意をこちらに向けさせるという意味の方が強いです。居眠り半分で授業を受けさせたら、日本語力が付かないことは言うまでもなく、手抜きに対する罪悪感が薄れてしまうことの方が大きな問題です。

ということで、文法の時間にJさんに例文を読ませようと指名しました。するとJさんは、「学校に教科書を置いていますから、今、教科書がありません」と言います。こいつ、学校に教科書を置きっぱなしにしているのかなと思いました。でも、状況をよく確かめると、先週末、学校に教科書を忘れたようでした。

対面授業日以外は学校へ来てはいけないと指導していますが、教科書を忘れたのなら、事前に電話を1本かけてくれれば、教科書を渡すことぐらいできました。週末受験続きだったらまだしも、Jさんはそうでもなさそうです。勉強する気がないのでしょうか。

Jさんは極端な例ですが、指名しても要領を得ない学生は後を絶ちません。「先生、どこを読みますか」などと聞いたり、全然違うところを読んだりという学生は、集中力がない証拠。何か別のことをしていたのかもしれません。指名後しばらく反応がない学生も、怪しいです。わからないのだとしたら予習不足です。どこをやっているのかわからないのだとしたら、聞く力が足りないのかもしれません。

逆に、こういう学生に合わせてしまうと、まじめに予習して授業に参加している学生たちは、つまらなくなってしまいます。そんないい学生向けに、ちょっと知的好奇心をくすぐる仕組みもちりばめておかなければなりません。

そういう学生たちを引っ張って、どうにかこうにかその日の目標地点までたどり着くのは、けっこうな重労働です。

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今の授業は

10月14日(水)

昼休みに、Xさんが来ました。Xさんは2年前にR大学に進学しました。しかし、1年でやめて、W大学に入り直し、今は2年生です。

Xさんが進んだ学科は、後期になってもオンライン授業が続いています。キャンパスへ行くのは試験の日だけだそうです。確かに、その学科は実験や実習はなさそうですから、その気になれば全面オンライン化も難しくはないのでしょう。でも、Xさんは、言葉には出しませんでしたが、ちょっと寂しそうな顔をしていました。

R大学だって十分以上に伝統があり、有名であり、教育力の高さには定評があるのに、そこを捨ててW大学に入ったのです。それにもかかわらず、家で自習に近い勉強しかできないというのは、さぞかし辛いことでしょう。W大学がいい加減なオンライン授業をしているとは思えませんが、学生の立場からすると、どんなに素晴らしいオンライン授業でも満たされないものがあるのではないかと思います。

今後は、大学の授業において、一定の割合のオンライン授業が定着すると言われています。オンライン授業は、現時点では緊急事態に対処する体制の1つですが、ごく近い将来、恒久的な大学教育の手法になるのかもしれません。そうなると、高等教育とは何ぞやという議論も湧き上がってくることでしょう。

私たちは、学生が大学や大学院に入るのをお手伝いするという立場です。高等教育のあり方が大きく変わるとなると、私たちの進路指導の方向性も変わってきますし、そもそも国境を越えて学生が移動するだろうかというところまで考えを及ぼさなければならなくなります。

Xさんは、また来ますと言って去っていきました。マスクを外して撮った写真のXさんは、笑顔だったでしょうか。

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嵐の前の静けさ

9月5日(土)

進学指導用の資料を作るために、いくつかの大学のデータを調査・比較しました。個々の大学の学部や学科の構成は、外からもわかりやすいというか、目にする機会も多いですから、“うん、そうだね”という程度です。でも、何校かの学部や学科を並べると、改めて新しい学部が増えたなあと思いました。

私が受験生だったのは40年以上も昔ですから、その頃は工学部とか経済学部とかという古典的な学部学科名ばかりでした。その代わり、名前を聞けばどんな勉強をするかだいたい見当がつきました。しかし、最近は一筋縄ではいかない名前の学部学科が増えました。また、似たような学部名でも勉強する内容がだいぶ違うという例もあります。学生に進路を誤らせないようにするには、指導する側もしっかり勉強し、データをアップデートしておかなければなりません。

それから、学部卒業後の進路に考えさせられました。まず、文科系学部の大学院進学率の低さです。国立大学ですら1桁%にとどまります。文科系大学院生の大半が留学生だという話はよく聞きます。理科系も、よく調べてみると思っていたよりも低く、50%程度でした。日本は先進国の中でいちばん学歴の低い国だというのも事実かもしれません。

新しい名前の学部が増えたのは、学際的分野の研究が進んだからでしょう。文学とか農学とかという前世紀のくくりでは収まらないほどに研究範囲が広がったのです。でも、それなら、学部の4年間だけではその範囲を学びきることなんてできないんではないでしょうか。「広く浅く」では、大学は教育の責務を果たしたとは言えません。また、学ぶ側も真に価値のある教育を受けたことにはなりません。4年のうち1年ぐらいは就活に費やされるんですから、なおさらです。

東京は、台風10号の影響もなく、暑いですが穏やかな1日でした。大きな嵐が近づいているのにのうのうと暮らしているあたり、低学歴なのに気づかず世界と競争することになる日本のようです。

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理系脳の構築

9月3日(木)

このところ、理科の受験講座ではEJUの過去問をやっています。11月8日の本番までの授業時間数を考えて、先月末から各科目毎週1回分ずつ取り組んでいます。今までは10月になってから始めましたが、今年は事実上11月の試験の一発勝負ですから、少しでも早く試験に慣れておいてもらいたいのです。

もう一つ、過去問をやりながら、私の授業で説明が足りなかった部分や学生の理解が浅かった部分を補っていくという意味もあります。授業の時と同じスライドを見せることもありますが、一通り勉強した後で見ると、初めて見た時とは違う何かを感じるかもしれません。「ああ、そうか! これはこういうことだったのか!」「あれとこれはこういう関係があったんだ!」なんていう発見が必ずあるはずです。初めての時は、その項目のごく近傍しか見えていなかったのが、全体を勉強した後で復習すると、鳥瞰図的に見えてくるものです。

復習では、教える方も、学生にとって未習事項がなくなっていますから、意識的に他の項目と関連させて説明することができます。そうすることによって、各科目の全体像が立体的に浮かび上がってくると思います。これは、EJU対策というだけでなく、理科全体に思考回路を張り巡らすという意味も持っています。理科の知識が点在している状態から、それらが有機的につながった状態へとグレードアップしていくのです。

学生たちはまだ手ごたえを感じていないでしょうが、今から種をまき続ければ、11月にはきっと確かな実りを手にすることができるでしょう。

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泣く前に

9月1日(火)

K先生の代講で、中級の大学進学クラスに入りました。大学進学を目指しているにしては勉強のしかたが甘いと、このクラスに入っている先生方から聞かされていました。授業をしてみると、予習をしていなかったり、していても通り一遍だったりで、確かに先生方のおっしゃる通りだと思いました。

どうしてこうなったかというと、他流試合が不足しているからだと思います。このレベルの学生は、例年なら、6月のEJUの結果にショックを受けて、尻に火が付いているはずです。しかし、今年はそれがなく、その代わりにいくつかの外部試験を受けるように勧めてきましたが、受験者数はそれほどでもありませんでした。その試験の結果が大学入試には使えないからでしょう。そうじゃなくて自分の力を知るためだと力説しても、学生たちの心にはなかなか響きません。唯一、校内実力テストがほぼ全学生の受けたテストですが、「校内」なので、その結果のインパクトは今一つ弱いようです。

授業中にちょっと突っ込んだ質問をするとすぐ答えに詰まるというのが気になりました。私の質問のしかたが、K先生をはじめとするこのクラスの先生方とは違うという面もあるでしょう。でも、漢字の語彙として出てきた「満潮」の対義語ぐらいは調べてきてほしかったなあ。

おそらく、このクラスの学生たちは、かなり高いレベルの大学を志望校としているに違いありません。このまま放置しておいたら、私大入試第一陣の結果が出るころには、いたるところで悲鳴が上がっていることでしょう。最近は言ったいろいろなクラスで同じようなことを感じています。学生たちにそうさえないよう、手立てを考えなければなりません。

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緩み

8月27日(木)

この前の日曜日に日本語の外部試験がありました。7月のJLPTが中止されましたから、日本語学習者が自分の実力を客観的に評価してもらえるチャンスが消えてしまいました。それを補う一助として、また、入試などで自分の日本語力を示すデータとして、学校が受けておくように勧め、学校を通して出願しました。

数十名が出願したのですが、そのうち十数名が受験しなかったと、主催者側から連絡がありました。私のクラスのKさんもその1人でしたから、授業後に理由を聞きました。すると、寝坊したというではありませんか、確かにKさんは授業中にうつらうつらしていることがあります。W大学を目指して毎晩遅くまで勉強しているのでしょう。先週の土曜日もきっとそうだったのだと思います。しかし、日曜日の試験をすっぽかしてはいけません。

これがW大学の本番の試験だったら、論外もはなはだしいです。だから、Kさんは絶対にこんなことはしなかったでしょう。気が緩んでるなと思いました。W大学出願直後は、ある種の高揚感から、勉強に限らずなんにでも張り切って取り組む姿が目に浮かびます。日が経つにつれて緊張感が薄れ、本人の地金が出てきたのです。

まだ若い学生たちにとって、気持ちをコンスタントに保つことは難しいと思います。でも、それができないと、いつまでたっても「やればできる」のレベルにとどまります。そういう人の「やれば」は、非常に大きな仮定であり、だいたい最後までやらないかやれないものです。

「やれば」の壁は厚いのです。

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