Monthly Archives: 7月 2022

本当にするの?

7月14日(木)

安倍さんが亡くなって(ご本人の無念さを思うと、“暗殺された”と表現すべきかもしれません)1週間になろうとしていますが、政府は国葬にする方針を固めたと報じられています。安倍派の下っ端議員が「国葬、国葬」と騒いでいたのに乗せられたのでしょうか。

私は、国葬はふさわしくないと思います。だって、戦後は吉田茂元首相だけですよ、国葬は。安倍さんは、首相の在任期間は史上最長でしたが、業績は吉田さんに比べたら3段落ちぐらいじゃないかな。ノーベル平和賞の佐藤栄作元首相ですら、国葬じゃありませんでした。リオでマリオになったくらいじゃ追いつきませんよ。

モリカケ桜は不問に付すとしても、安倍さんの仕事の評価はまだ定まっていません。せめてあと10年長生きしてくれれば、国葬に値するという声が自然発生的に湧き上がったかもしれません。誰かが変な忖度をした結果だとしたら、泉下の安倍さんも苦笑いじゃないでしょうか。いずれにしても、早すぎる死です。

安倍さん自身は、10年と言わずもっと長生きして、中曾根さんみたいになりたかったのではないかと思います。中曾根さんは、衆議院議員を引退してから自由な立場でのびのびと言いたいことを言っていたような気がします。中曾根さん自身、けっこう気分がよかったと思いますよ。亡くなる直前まで血色もよかったし。毎日何時間もかけて、新聞を隅から隅まで熟読していたと言います。安倍さんがそういう立場から歯に衣着せずに政治を斬りまくる激辛評論を聞いてみたかったですね。

当時の小泉首相(自民党総裁)に言われて、中曾根さんに国会議員引退の話を持って行ったのは、幹事長だった安倍さんです。

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因数分解のやり方

7月13日(水)

今学期の水曜日は、受験講座数学コース1です。文科系の大学進学希望者で、EJUの数学を受ける学生が対象です。先学期、EJUの直前対策をしたら難しすぎると言われましたから、今学期は数学の基礎から始めます。

どのくらい基礎からかというと、“3+5=8”をどう読むかというぐらい基礎です。もちろん、学生たちは、式の意味もわかりますし、こんな計算ができないはずがありません。しかし、“読む”となったら、さっぱりです。私が「さんたすごははち」と式を読み上げると、すかさずノートを取っていました。日本語の授業に当てはめるなら、教室用語の導入です。

そういったウォーミングアップが終わったら、展開と因数分解です。この程度は国の高校でも習っていますが、文系志望だと忘却の彼方ということがよくあります。練習問題をさせたら、因数分解で頭を抱えていました。理系人間だったら見た瞬間に答えがわかる問題だったんですがね。

これは頭がいいとか悪いとかではなくて、訓練の差です。因数分解をするチャンスが多ければ、カンも養われます。だから、数字の組み合わせから反射的に結果が思い浮かんでくるのです。これは、問題を解くのには便利な頭のはたらきですが、因数分解のしかたがわからない人に教えるとなると、実に具合が悪いのです。答えを出している本人が、自分の答えの出し方がわからないのですから、他人に教えられるわけがありません。

数学の教科書や参考書やサイトなどに載っている因数分解のしかたを読んでも、しっくりきません。しかたがありませんから、私のロジックを細かく分解して、でもそれを文字化するとかえってわかりにくくなりますから、ホワイトボード上で実演しながら解説することにしました。

それを見た受講生たち、うなずいてはいましたが、どこまでわかったでしょうか。直後に出した練習問題はあっさりできましたが…。次回からは、ユーチューブの先生の教え方を参考にしてみましょう。

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たくさんわかりませんでした

7月12日(火)

理科系の受験講座は、多くの場合、学生にとっては国の高校で勉強したことの復習です。文系の総合科目は日本の地理歴史政治経済も含みますから初めて聞く話もありますが、理科系は用語が日本語に置き換わるだけで、内容は同じです。日本ではNaClだけど、私の国ではSoClだなどという話は聞いたことがありません。

Jさんは今学期レベル3で、受験講座が受けられるようになりました。初日は、90分にわたって私の化学の授業を聞きました。その前に、S先生の数学も聞いています。授業後、「日本語、難しかった?」と聞いてみたら、「はい。たくさんわかりませんでした。でも、だいたい大丈夫です」と、どうとらえていいのか迷ってしまう答えが返ってきました。

受験講座は、日本語の授業と違って、図表や数式などを見ながら、その意味するところを理解していきます。進出語彙や文法の導入のあとで反復練習、応用練習とかというパターンがありません。講義を通して原子なら原子という物の概念をつかみ、それを応用して理解を深めたり広げたりしていくのです。Jさんの「わかりませんでした」は、“応用して理解を深めたり広げたり”という段階には至らなかったという意味でしょう。「大丈夫です」は、概念はどうにかつかめたと言いたかったのではないでしょうか。その証拠に、ここがポイントだというところは、事前に配っておいたレジュメになにがしか書き込んでいました。

Jさんには、今は苦しいと思いますが、ここであきらめずに食らいついていってほしいです。それが、進学後に役に立つ日本語力になるのです。

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進学先では

7月11日(月)

先週のこの稿に書きましたが、今週は学生の進学先となりそうな学校の方がおいでになります。週明け早々、2校の方とお会いしました。

その2校のお話、非常に似通っていました。まず、留学生の数は、受験者、在校生ともに減っているけれども、合格ラインは変えないという点です。合格ラインを下げて入学させても、甘い基準で入った学生は授業についていけないし、就職や進学となった時に厳しい目に遭うので、結局その学生のためにならないと言っていました。私もそう思います。進学はできたけれども留学にはならず、ついには退学というのでは、青春の無駄遣いです。もちろん、経済的損失も小さくはないでしょう。さらには、「どうせ自分は」とかという形で精神的に歪んでしまったら、一生を台無しにしかねません。

次に、入学試験ではコミュニケーション能力を重視するという点です。オンライン授業は、知識を身につけるなど、学業そのものに遜色を感じることはないけれども、教職員との間の微妙なコミュニケーションがうまくいかないことがあるようです。メールでお知らせを流すと、学生は受信するや翻訳アプリに持って行って、母国語で理解するそうです。そのため、教職員が日本語で強調したつもりの事柄が、留学生にだけ伝わらないことがあると嘆いていました。

授業はzoom、買い物や食事は無言で、ニュースは母国語で、アルバイトはしないとなると、学生は自分の日本語を試すチャンスがなく、したがって自分の日本語力に自信が持てないのではないでしょうか。だから、日本語で書かれたお知らせはすぐ翻訳してしまうし、レポートなども母国語で書いて翻訳となってしまうのです。学生たちだってそれがベストだとは思っていないでしょうが、そうしないと安心できないに違いありません。

今、KCPで学んでいる学生たちにはそんな思いをさせたくありません。そうならないためのプログラムを用意していますから、ぜひついてきてもらいたいです。

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大成長

7月9日(土)

午後、パソコンに向かってうなっていたら、「金原先生、きれいな女子大生が会いに来てくれましたよ」と声を掛けられました。職員室の入り口に、2年前の卒業生のGさんとWさんが立っていました。KCPにいた頃と比べてすっかりあか抜けていて、掛け値なしに”きれいな女子大生“でした。

話を聞くと、KCPに入学したのは高校卒業直後だったとのことですから、失礼を承知で言わせてもらえば、山出しだったわけです。右も左も日本語もわからず入ってきて、KCPでがっちり訓練され、進学先でさらにもまれて、気が付いたらすっかり大人になっていたのです。そうそう、「あか抜けたね」と言ったら、「そうですか。あんまり変わった気がしないんですが」と、明らかに言葉の意味を理解している反応が返ってきました。

2年前の卒業生ということは、第1波で卒業式が中止になった代です。密にならないように、予約制で証書を取りに来てもらった時にも、GさんとWさんは一緒でした。進学してからはオンライン授業で苦労もしたようです。2人とも授業は対面が好きだと言っていました。

Gさんは、もうすぐインターンシップをします。もう3年生ですから、それぐらい不思議ではありません。就職前提じゃないと言っていましたが、全然考えていないわけでもないでしょう。でも、大学院進学の目もありそうなことを言っていました。

Wさんは、自分の大学の学生課でアルバイトをしています。たくさん書類を提出し、面接に通って採用されたそうです。80%は日本人学生を相手に話を聞いたり指示を出したりで、留学生相手に母国語を使うのはせいぜい20%だとか。日本人学生のアルバイトと同列に扱われているようです。それから、学部で2人しかもらっていない奨学金ももらっているとか。KCPにいた時から頑張り屋さんでしたから、らしいなっていう感じでした。

KCPへ来たのは、別の用事で曙橋まで来て、地図を見たらすぐそばだと気がついたからだそうです。うれしいじゃありませんか。そうやってわざわざ足を延ばしてくれるのは。

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期待していいかな

7月8日(金)

中級の新入生のLさんは進学コースでの学生です。しかし、受験講座の受講登録がまだでしたから、始業日の授業が終わった後に呼び出して、話を聞きました。

大学で何を勉強したいか聞いたところ、たちどころにZ大学とJ大学の名前を出し、学科名まですらすらと答えました。ここまでよどみなく志望校学部学科名を言える学生は、在校生の中でもそんなに多くはありません。しかも、Z大学もJ大学も超有名校ではありませんが、知る人ぞ知るというタイプの所です。国で日本の大学についてきちんと調べてきたことがうかがえます。

受験講座の科目の説明をしても、一発でこちらの話を理解し、的を射た質問を返してきます。こういう学生は、話していて気分がいいし、予定外のことまで教えたくなります。実際、Lさんにも、Z大学やJ大学に進んだ学生の話をしてしまいました。

来日したばかりの新入生となると、中級あたりに入っても、こちらの言葉がうまく通じないことがよくあります。文章を読んで理解することはできても、同じ内容の談話を聞き取って理解して反応するだけの力がないのです。Lさんもそういう学生だと思って、最初、話すスピードを抑えたり言葉のレベルを下げたりしましたが、いつの間にか上級並みの話し方をしていました。

Lさんよりもだいぶ上のクラスの教科書販売にて。冗談めかして「Aさんには、この教科、難しいんじゃないかな。こっちの方がいいと思うよ」と言って初級の教科書を渡そうとすると、「あ、大丈夫です」と手を横に振ります。もちろん、Aさんの言いたいことはわかりますよ。コミュニケーションは取れていますよ。でも、Aさんのレベルなら、「これだったら、私、先生ができますよ」とか、「もう、全部頭に入ってます」とかって切り返してほしかったですね。

Lさんが何学期かKCPで過ごして、Aさんのレベルに上がってきたとき、ちょっと試してみたいですね。

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笹の葉さらさら

7月7日(木)

七夕とあって、6階講堂のステージ上には、短冊をぶら下げる枝が、笹と呼ぶにはだいぶ太い緑の幹から何本か突き出ていました。本物の笹ではなく、O先生たちの力作です。

その七夕飾りを見ながら、ウェルカムミーティングが開かれました。入学式と名乗らないのは、やっとのことで入国できた、先学期オンラインで参加していた学生もいるからです。そういえば、どこかで見た顔や、妙に教師になれなれしい学生がいました。

かつては入学式当日にオリエンテーションなどもしていたため、新入生のほぼ全員が参加しました。しかし、このところオンラインでのオリエンテーションが定着し、セレモニーのためだけにどれだけの学生が来るだろうかと案じていました。先輩学生として在校生も何人か集めていますから、新入生があまりに少ないと、ちょっと様になりません。

杞憂でした。用意した椅子がすべて埋まるほどの新入生が来ました。張り合いが出た先輩学生は、歓迎の言葉を述べたり、留学生活のアドバイスをしたり、校舎の中を案内したりしている時の顔つきが、いかにも誇らしげでした。いつの間に身につけたのか、風格すら感じられました。

新入生がたくさん来たということは、それだけ日本留学への期待も大きいのです。日本語の本場で、日々、生の日本語に接しながら学んでいくことに、大きな喜びを感じているのでしょう。もちろん、これから、期待がしぼみそうになることも、喜びが苦しみに代わることもあるでしょう。そういう学生たちを支えて、ピンチを乗り切らせることが私たちの仕事なんだなと、改めて確認した次第です。

ステージの“笹”には、新入生が書いた願いが掛けられていました。

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約束

7月6日(水)

昼食から戻ると、いきなり電話。「N大学ですが、ご挨拶にお邪魔したいと思っております。今週か来週、お時間を頂戴できませんか」という、訪問の予約の電話でした。このところ、こういう電話がよくかかってきます。学生の進路を確保するのも私たちの仕事ですから、時間の許す限りお会いすることにしています。

やっぱり、大学は留学生を確保するのがかなり難しくなっているのではないかと思います。KCPもそうですが、どこの日本語学校も、3年前には遠く及ばない在籍学生数でしょう。各大学の留学生入試の募集人員は、多くが“若干名”という曖昧模糊とした表現ですから、日本語学校の在籍学生数に比例して減っているとは到底考えられません。海外での直接募集と言っても、日本語学校からの進学者数の減り具合を補うには至らないでしょう。

先月までにも何校かの留学生担当の先生にお会いしましたが、いちばん気にされていたのは来年3月の卒業予定者数でした。景気のいい話をしたいのはやまやまですが、嘘や大風呂敷はいけません。実態をお話しすると、「この学校もか」というような色が浮かびます。

今シーズンの入試は、留学生の取り合いになることが予想されます。しかし、それは、合格ラインが下がることは意味しません。入学させた学生の退学率や留年率がやたら高いと、いったいどういう教育をしているのだということになります。ですから、どこの大学も、質を確保することは言うまでもありません。

すでに月曜日から11月のEJUの受付が始まっており、もうすぐ6月のEJUの結果が発表されます。受験生のみなさんには、心して戦いに臨んでもらいたいと思います。

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思い出しました

7月5日(火)

午前中、あるお役所の報告書が回覧されてきました。目を通しておくようにとのことでしたが、そのあまりのページ数に読もうという意欲が失せてしまいました。勇を鼓して読んでみても、同じような図表が何枚も続き、どこがどう違うのか、間違い探しをしているような気分になってきました。

40年近くも昔の話ですが、ある化学会社の新入社員の時、その会社が請け負ったナショナルプロジェクトに携わりました。年度末に報告書を書いてプロジェクトマネージャーに提出したところ、社内の報告書ならこれくらい簡潔に書いてほしいが、ナショプロの報告書は厚さが勝負だから、もっと長くしろと命じられました。枝葉末節だからと切り捨てたデータも載せ、書くまでもない考察も書き、丸々と太らせた報告書を再提出しました。

その後しばらくたってナショプロ全体の報告書が完成し、私の所にも回ってきました。読んでみると、私が太らせた報告書を、マネージャーがさらに手を加え、のばしていました。その見事な手腕に感心させられました。次の年度はその手腕をまねて、長い長い報告書を書き上げました。マネージャーからの書き直し命令はなく、ほぼそのまま報告書に載りました。

私が読んだ報告書も、若手の係官が必死になって枚数を増やしたのでしょう。先輩にダメ出しを食らい、毎晩遅くまでかけて、コピペした図表に微妙に手を加えている姿が思い浮かびます。ブラック職場の面目躍如じゃありませんか。

学生にはそんないかがわしい日本語は教えません。簡にして要を得た文章を書くことこそ、進学してから求められる技術、日本語力なのです。

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3度低下

7月4日(月)

梅雨明けから9日間続いた猛暑日が、ようやく収まりました。10日目の最高気温は29.3度、真夏日も避けられました。

真夏日にならなかったのは、朝9時前後に降った雨のおかげです。この雨によって、気温が3度近く下がりました。降水量はたった3ミリほどでしたが、気温を下げることには大いに貢献しました。昨日も私の家の近くは10時ごろに雨が降りましたが、傘を使うまでもないほどでしたから、かえって蒸し暑くなっただけでした。降水量がちょっと多いだけで、結果が大きく違うものです。

計算してみると、3ミリの雨水がすべて蒸発するとなると、その気化熱によってアスファルトも空気も3度どころではなく温度が下がります。誤差が生じたのは、水と空気とアスファルトの間だけで熱のやり取りが起こるという私の計算モデルが荒っぽすぎたからでしょう。ですが、わずかばかりの雨によってぐっと涼しくなることが計算でもわかりました。

受験講座理科では、氷が水になる時の融解熱、水が蒸発する時の蒸発熱(気化熱)は、水の温度を1度上げるのに要する熱量よりも文字通りけた違いに大きいという話をしています。今学期の授業では、この雨が降ると気温が下がるという仕組みをもっと精密に計算して、学生たちに示してみたいです。7月期はEJUの直前ではありませんから、このぐらいのお遊びは許してもらえるでしょう。

猛暑日が終わったかと思ったら、台風がやって来そうな雰囲気です。あまり強い台風ではなく、関東地方へ来るまでの間に温帯低気圧になる見込みですが、油断はできません。普段の年なら梅雨末期の台風です。災害が発生しても何らおかしくはありません。

新学期が始まるまでに、一波乱あるのでしょうか。ちょっと心配です。

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