新機種導入

11月26日(木)

KCPにもようやくサーモグラフィーが導入され、今朝から使用開始しました。設置のしかたが悪いのか、微調整が足りないのか、すぐに反応しないこともあり、学生も教職員の、顔を近づけたり離したりしていました。私も3回ぐらい体を前後に揺らし、どうにか35.8度と測定され、めでたく入館を許されました。

今まではおでこに向けて赤外線を発射して体温を測っていました。この手の体温計で測定されることもよくありましたが、ほとんどの場合、測定後に「はい、どうぞ」とか言われて検問を通過させてもらうだけでした。でも、体温って非常にプライベートな数値ですよね。測定者はその数値が見られるのに、その体温の持ち主(?)であるこちらには知らされることなく処理されてしまいます。そんなとき、秘密を勝手に暴かれたような、プライバシーをのぞき見されたような、違和感というありふれた言葉で片付けてほしくない感情が残りました。

朝早く校内に入ってくる人に対しては、出勤しているのが私だけですから、私が体温を測っていました。私は上述の輸な感覚を抱いていましたから、おでこに向けてピッとやった後、体温計を180度回転させて、測定値を本人に見せていました。そのうえで「異常ありません。どうぞ」と言って、入ってもらいました。

街にサーモグラフィーが普及した結果、こんな違和感を覚えることはなくなりました。その代わり、サーモグラフィーが反応しないことで立ち止まらねばならないケースが出てきました。連休中、ある建物に入ろうとしたところ、サーモグラフィーの許可がもらえず、今朝の私のように体を揺らしたりかがんだりしなければなりませんでした。衆人環視というほどではありませんでしたが、何となく気恥ずかしかったです。

受付前の学生たちを見ていると、やはりサーモグラフィーでの検温がなかなか一発では決まらないようです。しばらくは、おでこにピッも併用していくことになるでしょう。

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切羽

11月25日(水)

人間は切羽詰まらないと動かないものです。特に受験生を見ているとそう感じさせられます。春から、少なくとも6月のEJUの中止が決まった時から、ずっと今年の受験は何が起こるかわからないから先手必勝で動けと言い続けてきました。にもかかわらず、いまだに動きの鈍い学生、動いていないに等しい学生がそこかしこにいます。レベルの高いところを狙い続け、ようやく滑り止めと言い始めた学生、志望理由書の書き方すら知らない学生、そんな剛の者もよく見かけます。

Aさんもまだ行き先が決まらない一人です。「B大学にあこがれているなら受けてもいいけど、ワンランク下のC大学にも出願しておきなさい」という話をしたのは、何か月前でしょう。B大学に落ち、C大学のⅡ期に出願となりましたが、競争率は1期よりずっと高く、今、不安にさいなまれています。もう1ランク下のD大学も考えざるを得ません。

Eさんの志望理由書は和文和訳が必要で、事情聴取をしながら言わんとしていることをまとめました。志望理由書の書き方は、夏ぐらいから練習しているはずなんですがね。Fさんも、日本へ来るまでに字数の大半を使い果たし、大学そのものについてはほとんど述べられていません。明日必着だからと、3時ごろ書類を持ってきたGさんに至っては、中身をじっくり確認する時間すらありませんでした。郵便局に寄った足で、5時までに持ち込みのH大学に駆け込むのだとか。私にはそんな度胸はありません。

こちらの思いを伝えきれていない、春の時点で学生たちから信頼を勝ち得ていなかった、こういったことが、切羽詰まらないと動かない学生を生んだ一因です。私たちの言葉を信じてくれた学生は、順調に合格を重ねています。コミュニケーションの大切さを訴えている当の本人が、コミュニケーションができていません。悩ましい限りです。

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社長になりました

11月24日(火)

昼食に出ようと支度をしていると、職員室の入り口付近から明るい叫び声が聞こえました。ちょっといいなりをした見慣れぬ人が入ってきました。「先生、Gさんですよ」と声をかけられましたが、私の頭の中で線がつながるまでしばらく時間を要しました。それもそのはずです。Gさんは13年前の卒業生です。顔つきも変わり、しかもマスクもしていますから、わからない方が普通です。

Gさんは15年前にレベル1に入学しました。その時のクラスの担任が私でした。努力家で、アルバイトをしながらでしたが、成績は常にクラスでトップを争っていました。レベル3課4の時には、新入生に勉強のしかたを手ほどきする先輩役を立派に務めました。その後も順調に進級を続け、KCP卒業後はA大学に進学しました。

A大学卒業後日本で就職したという消息を風の便りに聞きましたが、その後どうなったか全然わかりませんでした。そのGさんが、突然姿を現したのです。今は起業し、社長として多くの従業員の上に立っています。Gさん自身が波乱万丈と語っているように、言い知れぬ苦労はあったでしょうが、それを乗り越えて学校に錦を飾るかのように訪れてくれました。

私は学生の顔や名前をすぐに忘れてしまう方ですが、Gさんのことは明確に覚えていました。それは、やはり、公私ともに全力で留学生活に取り組み、苦しさに押しつぶされることなく夢をかなえたからです。進学後もそこがゴールだと思わず、新たな目標を掲げ、それに向かって突き進み、世間の荒波を乗り切り、今の地位を築いたのです。在校生たちに講演してもらいたいくらいです。

苦労を成長の糧にできる人って、違いますね。

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もう卒業?

11月20日(金)

ZさんがR大学の志望理由書をメールで送ると言っていたので、来週の教材を作りながらそれを待っていたら、職員室の入り口にあやしい影が。どうやら私を呼んでいるようです。行ってみると、卒業生のSさんとYさんとHさんでした。やはりマスク顔だとわかりにくく、声を聞いたりしぐさを見たりして、やっとわかりました。みんな大学4年生です。ついこの前卒業したばかりだと思っていたんですけどね。

Sさんは今通っているA大学の大学院のほかに、B大学の大学院にも受かったそうです。B大学の方が有名だからそちらにするとのことです。「将来はノーベル賞だね」などと、YさんやHさんにからかわれていました。

Hさんは、今通っているC大学の大学院にそのまま進学します。チューターとして、国の後輩に指導したり相談に乗ったりすることもあるそうです。

Yさんは留年です。人生に迷っていると明るい顔で言っていました。自分と向き合い、将来の道を見つめ直したいから、敢えてモラトリアムの道を選んだと、雄弁に語っていました。悩むのも、若者の特権です。

3人とも4年生ですから、授業がたくさんあるわけではありません。その数少ない授業もオンラインですから、暇でしょうがなく、だからKCPへ来たと言っていました。3人そろったのだから食事でもするのかと思ったら、それはしないのだとか。外食よりもコンビニ弁当だそうです。

Sさんは「Go To」を使って地方から東京へ出てきました。Go Toの地域限定チケットを見せてもらいました。菅さんは何をやっているんだとか言いながら、恩恵にあずかっているようです。伊勢丹で靴下でも買って帰りななどと言われていました。

進学指導を受けに来た学生を見て、懐かしがっていました。そう言えば3人とも、何回も面接練習したっけ。志望理由書をめぐって、議論も重ねました。そういう日々を思い出しました。

それはそうと、Zさんからの志望理由書のメール、まだ届きません…。

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原石

11月19日(木)

以前Fさんを受け持ったのは、緊急事態宣言が解除されて、全面オンライン授業から一部対面授業に変わった時でした。ですから、かれこれ半年ぐらい前のことです。今学期、またFさんのクラスで教えています。

半年前のFさんはまだ中級で、授業中教師の話に耳を傾け、几帳面な字でノートを取っていました。しかし、指名されたとき以外はまったく口を開かず、またマスクのせいで表情もつかめず、どこまで理解しているのか見えにくい学生でした。テストの成績を見る限り、

今学期のFさんは、授業後質問してくるようになりました。それもポイントを衝いた質問で、よく勉強していることがうかがわれます。以前は中級で、今回は上級ですから、その分だけ日本語が話せるようになったこともあるでしょう。自分の日本語に自信が持てるようになったのかもしれません。

Fさんの質問をつぶさに見ると、日本語の勉強が進んだからこそ浮かび上がってくる疑問を質問しているような感じがします。「は」と「が」の違いは、Fさんのような積み重ねが他の学生が、教科書の例文や読解テキストなどを見比べると、必ず抱く疑問です。自分なりの切り分け方では収拾がつかなくなり、教師の助けを借りて、それをバージョンアップさせるのです。

このような私の推測が正しければ、Fさんの日本語力はこれからが伸び盛りと言ってもいいでしょう。惜しむらくは、大化けする前に受験シーズンを迎えてしまいました。先日のEJUの結果次第では、国立を狙わせてもいいかもしれません。いずれにしても、楽しみな逸材です。

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何を狙って

11月18日(水)

授業が終わってから、日本語教師養成講座の受講生に呼ばれ、先月実施した文法の講義のテストについて解説しました。受講生にとっては復習を兼ねた補習のようなものです。

そこで出た質問の一つに、出題の意図は何かというのがありました。大問の1つは日本人もよく勘違いするので、そんなことがないようにというもの。2つ目は今回の講義は中上級の文法でしたから、そのレベルの文法の代表的なもの。3つ目は、学習者が間違えやすい文法で、教師はしっかり押さえておいて、学習者の誤りを正してほしいという願いを込めて。最後の1つは、一般人とは違う、日本語に対する目を養えたかどうかという点を見るものでした。

どの大問もそれなりに難しく、でもそれなりの成績は収めてほしい問題です。その中でも、私が秘かに重視していたのが、プロの目で日本語が見られるようになったかという点でした。最後の問題だけではなく、他の問題も含めて、全体を通して日本語文法の思考回路が多少なりとも形成できたかを見ようと思いました。

試験には全員合格でしたから、敢えて補習のようなことはする必要はありませんでした。でも、私の思いを伝える好機だと思って、受講生からのお誘いに乗った次第です。講義の際には伝えきれなかった思いをいくらかは申し述べることができました。受講生のみなさんの熱心さに感謝しています。

残念ながら、日本語文法の思考回路はまだ工事中の方が多いようでした。私の講義が終わった後、受講生のみなさんはその知識を応用する講義を受けています。テストを受けた時点よりはネットワークが構築されているのではないでしょうか。来月、またこの方々に講義するのが今から楽しみです。

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やっと始まります

11月17日(火)

昼に中間テストの採点をしていると、M先生が私を呼びます。悪い学生に説教をしろというのでしょうか。出席率が悪いのか、成績が悪いのか、素行が悪いのか、いずれにせよ気が重い話です。

行ってみると、マスクで顔が半分以上隠れた青年が立っています。???という顔をしていると、「先生お久しぶりです」と言いながら、マスクを外して顔全体を見せてくれました。卒業生のNさんでした。「今度、姉がお世話になります。よろしくお願いします」と、隣に立っているNさんよりやや小ぶりな、少し緊張気味な顔をした女性を紹介しました。2週間余り前に来日し、待機期間を終えてようやく登校したという次第です。

先月から少しずつ新入生が入国し、先週あたりからぱらぱらとクラスに入り始めています。Nさんのお姉さんもその1人で、おそらく明日からKCPの授業を受けることになるのでしょう。去年までのように、一斉に固まって入ってきてくれませんから、受け入れ担当者は連日大忙しです。今までも遅れて来日した学生はいましたが、ごく少数でしたからどうにかなっていました。しかし今回は全員がそうですから、大変さは桁違いです。まだ始まったばかりで、これからどんどん入ってきます。学期末にはどうなっているのでしょうか。

ところが、このところ新規感染者数が増え続けています。このまま入国を進められるのか、若干暗雲が漂ってきました。1月期は通常に近い受け入れができるかなあと期待していましたが、見通しは明るくありません。まさか4月期に影響が及ぶのではと、不安は拡大する一方です。

でも、それはさておき、Nさんのお姉さんをはじめ、この厳しい時期に、それこそ万難を排して入学してくれた学生たちを大切に育てていきたいです。

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塵も積もれば

11月16日(月)

金曜日の中間テストを採点しました。

超級の大学進学クラスは、大学入試の過去問を出しました。採点してみると、漢字の読み書きで助かった学生が目立ちました。読解問題の失点をカバーしてかろうじて合格点を取った者、漢字で点を伸ばして評定をワンランク上げた者、そんな学生がいました。先学期から通学授業の日には毎日漢字テストをやって来た効果が表れたようです。半年前は漢字で足を引っ張られることが多かったのですから、大きな進歩です。でも、読解の筆答問題は、相変わらず弱くて、困っています。

中級クラスは、漢字のテストでなくても、どんな易しい漢字にもフリガナを振らせました。これが悲惨な結果を招きました。“学生”“欠席”など、初級で勉強したか今まで何度も接してきたはずの漢字にも、正しいふりがなが書けない学生が続出しました。“がっせ”“けせき”などというのをいくつも見せられると、それ以降採点せずに不合格にしたくなりました。おそらく、そういう学生は、ふだん、「けせきが多いがっせ」などと発音しているに違いありません。それをきちんと注意してこなかった私たち教師にも責任はありますが、初級の入り口の頃に出てきて、毎日のように耳にしているはずの単語がきちんと発音できないというのは、その学生が日本語に積極的に接しようとしてこなかったのではないからでしょう。

大学進学クラスの学生は、私なんかいじめ抜いていますから、できないという印象が先に立ってしまいますが、中級クラスの学生と比べると、やはり格が違うなと思います。鍛え続ければ伸びるものなんですね。

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試験監督の目

11月13日(金)

中間テストがありました。私が監督したクラスは、何事もなく無事に終わりました。そのクラス、実は私が週に1日は入っているクラスで、テスト問題も一部は私が作りました。

自分が作った問題を目の前の学生が解くのを見ていると、何とも不思議な気持ちになります。この程度の難しさなら解いてほしいと願いながら作った問題に頭を抱えている学生を見かけると、なんだこいつと思ってしまいます。渾身の力を込めて、解けるものなら解いてみろというぐらいの問題は、苦しんでいる学生にもっと苦しめと心の中でつぶやいています。

あんまりすらすら解かれると、学生の力を見くびっていたかなと不安になります。全学生が呻吟しているとなると、合格者が1人もいなかったらどうしようと心配になります。75点平均ぐらいが、見ている立場でも、学生の力を測るという意味でも、穏やかな気持ちでいられます。

学生の答案をのぞき込むと、ひねりを利かせた問題に大半の学生がつまずいていました。大学進学クラスですから、こういう問題こそ正解にたどり着いてほしかったんですがね。来週からも手を緩めることなく鍛えていかねばなりません。期末テストでは、こちらからの攻撃を跳ね返してもらいたいものです。

採点してみると、やっぱり筆答問題がまだまだかなあ。本文の抜き書きで済まそうという答案が目立ち、それを要領よくまとめる力が足りません。授業中に感じていたことが、そのまま答案用紙上に現れました。四択から正解を選び出せても、本当の読解力とは言わないんですよ。

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朝日が沈む

11月12日(木)

この時期、私の出勤時間帯には、東の空がわずかに明るんでいます。御苑の駅から靖国通り方面に向かって進み、靖国通りの直前でKCPの方へ曲がると、ちょうど朝日の昇る方角になるのです。

2月の末ごろ、同じように出勤時の空にほの明るさを認めると、春が近づいてきたなと感じます。まさに光明を見出したわけであり、厳しい冬を乗り切った自分をほめてやりたくなります。気が付くと口元が緩んでいます。

しかし、今どきの同じような空の光景には、もう二度と光の世界に戻れないのではないかという恐怖心すら感じます。体を丸めて寒風に耐える自分が見えてきます。

いつの間にか、東京の最低気温が10度を割るようになりました。今朝は、あまりの風邪の冷たさに、マフラーを用意しました。でも、コートはまだです。それは、スーツの上着の下にカーディガンを着込んでいるからです。このカーディガンが意外に暖かく、コートなしでも苦になりません。

では、なぜカーディガンを着ているのでしょうか。それは、校舎内全体が寒いからです。換気のために窓とドアを開けっ払って授業をしていますから、校庭で授業するのと大して変わりありません。まさかコートを着て授業を行うわけにもいかず、夏の初めごろ在庫処分セールで買ったカーディガンが登場したというわけです。好判断をした半年前の自分をほめてやりたいです。

でも、まだ冬の入り口です。しかも、この先気温は平年を下回りそうだという長期予報も発表されています。ずっと換気優先の教室で授業していけるでしょうか。教室の暖房の設定温度を25度ぐらいにしないと、暖かい感じがしません。電気代がかさみそうです。

今年は、出勤時に朝日が見えなくなるのが一層寂しいです。

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