拍手はするけど

7月12日(月)

新学期2日目ですが、自己紹介をしました。学生たちは金曜日に自己紹介の要領を教わっており、土日でしっかり考えて、週明けに発表してもらったわけです。

1人1分ぐらいということになっていましたが、平均すると1分半ぐらいだったでしょうか。でも、だらだらとした30秒オーバーではなく、聞く価値のある話が続きました。しかし、「〇〇さんに質問、ありますか」と聞いても、ほとんど反応がなかった点が気になりました。マスクをしているので声がこもり、窓とドアを開けていたので教室外の音が容赦なく入ってきて、聞き取りにくかった点は否めませんが、それにしても、質問がなさすぎます。

このクラスに限らず、最近はおとなしいクラスが増えているようです。緊急事態が常態と化している現状がありますから、しゃべり合って盛り上がるのも危険です。でも、クラスのみんなが指名されるまで待っているとなると、学生たちの積極性を疑いたくなります。受け身の姿勢が標準となってしまったら、教師にとって授業がやりにくいのみならず、学生もコミュニケーション能力が養えません。

指名すれば何か応える学生たちばかりですから、バカだから答えられないのではありません。新学期にクラス替えがありましたが、各学生とも、かなりの学生は顔見知りです。授業中何も話さないのがデフォルトとなっているとしたら、それは心得違いです。1分半ぐらいの、実のある自己紹介ができる能力があるのですから、それを当意即妙に質疑応答する方面にも回してほしいです。

担当初日にして、今学期の課題が見つかりました。

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再起動

7月10日(土)

今学期は久しぶりに数学の受験講座を担当します。以前使ったプリント類を引っ張り出して、頭の中を数学モードに動かしていきました。

目的地が11月のEJUですから、4か月ほどしかありません。その間に文系も理系もその範囲を一通り触れなければなりません。少なくとも、理系なら微分積分に関しては、しかるべきレベルにまで持って行く必要があります。文系も、図形や整数論など、問題としてよく出るところは押さえておかないと、学生たちに志望校が狙える点数を取らせることができません。

4か月と言っても、本番直前は80分という試験時間内に過去問を解く訓練も必要ですから、いわゆる「勉強」に充てられる時間は、決して長くはありません。学生たちに自宅学習をする癖を付けさせることも、今学期の私の仕事です。理系だと、毎日2時間ぐらいは数学の勉強に使ってほしいですね。理科の勉強も2時間、日本語の勉強も2時間となると、これだけで6時間。TOEFLなど英語の試験も受けるなら、そのための勉強も欠かせません。受験生は時間がいくらあっても足りません。

私が担当している養成講座の講義の試験問題も作りました。こちらも、他の先生の講義や実技系の授業の準備もありますから、睡眠時間を削って取り組んでいます。ですから、教壇実習にどうしても必要な項目とか、日本語教師的な発想をするのに不可欠な内容とか、焦点を絞って問題を作りました。

来週からレベル4のクラスです。去年もおととしも、代講でちょいと入ったくらいじゃなかったかな。私の頭の中も、改造していかなければなりません。

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苦渋

7月9日(金)

7時過ぎ。養成講座の資料の手直しに集中していたら、ロビーから「おはようございます」と声をかけられました。業者さんが2階ラウンジの自販機の入れるおにぎりやパンを持って来ました。私の場合、学期休み中と学期中とで違うのは、朝、商品納入に来た業者さんのために2階の鍵を開けるかどうかというのもあるのです。

業者さんが来ると、まず、熱を測ります。といっても、熱があってお帰り願ったことは一度もありません。今朝はその時に、「また緊急事態宣言ですが、授業は普通通りにあるんですか」と心配されてしまいました。「学生の数は減っていませんか」というのも、商品を納入する立場とすれば当然の質問です。本気で日本で進学を考えている学生は、下手に帰国すると再入国が難しいですから、日本を離れるわけにはいかないのです。業者さん、ご懸念には及びませんよ。

お昼に入ったお店のテレビで、小池さんが悲壮な顔つきで記者会見をしていました。要するに、無観客になったけど、オリンピックの成功に向けて全力を傾けると語っていました。学校に戻ってパソコンを開くと、オーストラリアのテニスの選手が無観客で試合をしたくないということで、出場を取りやめたというニュースが出ていました。こういう選手がこれからどれだけ現れるかわかりませんが、バッハ会長ぐらいしか見ていないとなると、選手もやる気が湧かないでしょうね。

となると、このオリンピック、記録はあまり期待できないのかな、オリンピックを開催したけど記憶や記録に残る試合が少なかったとしたら、病原菌になすすべもなく敗れ去ったオリンピックとして、永遠に語り継がれることでしょう。小池さんは、そんなことまで考えたから、渋い顔だったのかもしれません。

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難問に挑戦

7月8日(木)

今月に入ってから、毎日のように養成講座の授業をしています。今担当しているのは、中上級の文法です。日本語の文構造とか用言の活用とか助詞の意味用法など、文法の根幹をなす事柄は、初級のうちに勉強してしまいます。みんなの日本語の50課まででやりつくします。中級以上は、もっぱら小技を身につけていきます。

小技とは、状況や心情をより鮮明に相手に伝える表現や、相手の言わんとしていることを正確に受け取る力などです。そういった小技の背景には、言語学や音声学など、純粋な文法以外の分野の応用も控えています。ですから、私の養成講座では、そう言ったところまで含めて、学習者が日本語でコミュニケーションできるようになるには何が必要か、教師は何を教えるべきかまで踏み込んでいきます。

受講生のみなさんに、中上級の教室でどんなことが行われているか実感してもらうために、私が最上級クラスで使っていた練習問題をやってもらいました。クラスでは時間をかけて説明した後に解かせた問題を、日本語ネイティブの受講生にはごく簡単な講義だけで挑んでもらいました。

説明を聞いた上で解くことが前提の問題にいきなり取り組んでもらいましたから、みなさん大変苦労していました。逆に言うと、いかに日本語ネイティブでも、最上級クラスの問題は本気でかからないと解けないのです。かなり荒っぽい形でしたが、どのくらいの授業をしているかおわかりいただけたようでした。

超級の学生は、KCPを出たらすぐに日本人の学生に伍して大学や大学院で勉強していきます。しかも、“いい大学”に入ったら、周りはかなりの知的レベルの日本人ですから、いい加減な日本語では相手にされません。学生たちの日本語力をそこまで引っ張り上げるには、教師側はそれ以上の日本語が整理された形で頭の中に格納されていなければなりません。私の講義は、それを目指しています。

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御苑の向こう側

7月7日(水)

熱海や山陰地方で線状降水帯が発生し、大雨が降りました。熱海では土砂崩れ、鳥取や島根では線路や道路が冠水しました。これから梅雨の末期を迎えます。全国どこでもこういう被害が発生するおそれがあります。

KCPは微高地にありますから、地下の駐輪場への入り口を死守すれば、学校の中にいるのが最も安全です。ただし、その裏返しで、付近のコンビニなどはKCPよりも低いところにありますから、早々に浸水して、食料の調達などに支障をきたすかもしれません。机の引き出しにお菓子ぐらい入れておいたほうがいいでしょう。

そういう目で国土地理院の3D地図を見ていたら、国立競技場って谷底にあるんですね。新宿御苑の千駄ヶ谷門の手前にある池から続く谷が国立競技場を通り、渋谷へと向かっています。そうです。千駄ヶ「谷」と渋「谷」を結ぶ谷筋が国立競技場をかすめているのです。

ということは、新宿付近に線状降水帯が現れたら、国立競技場はまっ先に沈没するということです。そこでオリンピックの競技をやっていたら、目も当てられません。いや、そんなやすやすと濁流の侵入を許すはずがありません。でも、備中高松城よろしく、水に囲まれて、選手・観客は外には一歩も出られないかもしれません。

そう思うと、1964年の東京オリンピックはうまい時期にやりましたよね。台風シーズンのピークをやり過ごし、秋晴れの季節を迎えていました。また、今回は、マラソンは、東京でするのは危険すぎるということで、札幌で行われます。前回は、国立競技場から飛田給まで、甲州街道を往復しました。

気象庁のページを見ると、島根県石見地方に強い雨雲がかかっています。何事も起こらないことをお祈りいたします。

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大きすぎる

7月6日(火)

エンゼルスの大谷が、31号ホームランを打ちました。松井の記録と並び、日本人大リーガー最多となりました。米国時間昨日の試合で“久しぶりに”単打を打ちました。この調子なら、単独トップに立つことは間違いありません。また、投打でMBLのオールスターに選ばれるという快挙も成し遂げました。

この大谷選手は、岩手県の水沢出身です。地元の中学を出て、菊池雄星が輝いていた花巻東高校に進学しました。甲子園では勝ち星に恵まれませんでしたが、プロに進んでからの活躍は多くの人が知るところです。

大谷選手が生まれ育った水沢は、高野長英、後藤新平、齋藤實といった、歴史ファンには見落とせない人たちの出身地でもあります。地学ファンなら、Z項発祥地であることも忘れてはなりません。

現在、この水沢は奥州市の一部となっています。2006年に付近の市町村と合併し、新しい市をつくりました。市域には、前沢牛で有名な旧前沢町も含まれています。

奥州市は、当然、岩手県に含まれますが、でも、奥州といえば岩手県が含まれます。地名「奥州」は岩手県の一部であると同時に、岩手県を包摂しているのです。言ってみれば、富山県あたりに北陸市ができたり、合併して栃木県東国市などと名乗ったりするようなものです。

大きすぎる地名を一地域の地名にしてしまったと思います。市域に旧江刺市があります。江刺は、岩手県南部の北上川東岸を指す地名で、水沢など西岸は胆沢(いさわ)と呼ばれていました。この両地方を合わせた胆江(たんこう)という地域名があります。これをいただいて、胆江市とするのが分相応だったと思います。

でも、胆江市では、“キモエシ”とか読まれかねません。だから、奥州市へと飛躍してしまったのでしょう。この際、大谷にホームラン50本、ノーヒットノーランでも成し遂げてもらいましょう。そういうビッグな選手が生まれ育った土地ならということで、大きな市名を認めてもらうのが、日本国民にとっても一番喜ばしい形です。

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身近なところに

7月5日(月)

土曜日の夜、駅の近くの小さなスーパーがやけに混んでいました。お惣菜の棚なんか、ほとんどすっからかんでした。よほどの目玉商品があったのだろうと思いながら家の近くまで来ると、何となく暗いのです。ショッピングモールの中核をなすスーパーが臨時休業でした。金曜日の夜は、ごく普通に営業していたんですけどね。

入口の張り紙を読むと、スーパー内の魚屋で陽性者が出たため、急遽休むことにしたとのことでした。今まで、私の親戚縁者、職場、友人など、親しい人に感染者はいませんでした。よく行く店がこういう形で臨時休業になるのも初めてでした(去年、最初の緊急事態宣言が出た時は、紀伊国屋書店が休業になり、大迷惑でしたが…)。ですから、私にとって、この魚屋さんが、一番身近な感染者となりました。

このスーパーに最後に入ったのは、確か先週の水曜日で、その時間にはもう魚屋は閉まっていました。ですから、私が濃厚接触者となる可能性はゼロです。でも、こういう心配をしなければならなくなったというあたりに、東京での感染の広がりを実感しました。

ここのところ、前の週に比べて1.2倍のペースで新規感染者が増えています。何としても有観客でオリンピックを開こうとしている菅首相を嘲笑うかのごとき増えようです。菅さんの夢を打ち砕くために苦しい思いをする新型肺炎にかかる人はいませんが、あたかもそうであるかのようにさえ見えます。都議選だって、前回が負けすぎですから多少は議席が増えましたが、到底勝ったとは言えません。

今週末から新学期ですが、学生たちも安全安心とは思っていないでしょう。

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不幸な合格者

7月3日(土)

昨日、K先生がM大学へ行って、先生と話をしてきました。その中で、今年M大学に進学したWさんが話題になりました。Wさんは留学生が少ない学部に進学しました。その学部に、Wさんと同じ国から直接募集でこの春に入学した学生がいるそうです。その学生は、入試の成績はWさんよりよかったのですが、M大学の先生とのコミュニケーションがほとんどとれず、Wさんを介してやり取りを行っているとか。

Wさんは入試フルコースを受けて合格しました。ペーパーテストの成績はさほどでもなかったのですが、面接で点を稼ぎました。Wさんと同じ国から来た新入生は、面接試験がなかったようです。だから、生の日本人の発話が聞き取れなかったり、生の日本人に自分の意思を伝える発話ができなかったりしているのでしょう。

Wさんは私たちと普通に話をしていました。わからないことをわかるまで聞き続けるなど、JLPTやEJUの聴解問題をやるだけでは絶対に身に付かないコミュニケーション力を、知らず知らずのうちに鍛えていたのです。それが、進学してから物を言っているのであり、そういう訓練をしてこなかった同級生との差になって表れているのです。

KCPの学生の中にも、せっかく日本で勉強しているのに、自分の国のコミュニティーから抜け出ようとせず、いつまでたっても話せない聞けない学生がいます。そういう学生は、授業で指名された時が、日本人と話す唯一のチャンスなのです。でも、こういう学生に限って、テストの点が高かったりするんですよね。そして、進学してからコミュニケーションが取れないことで大きな苦労を味わい、こんなはずじゃ…と絶望するのです。

7月期後半は、入試が始まります。不幸な合格者を出さないようにしていかなければなりません。

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心配事

7月2日(金)

大学や専門学校の留学生担当の方が時々いらっしゃいます。しかし、今年は学生がいません。オリパラが終わるまでは留学生の入国は難しいでしょうから、今、海外にいてKCPに入学を希望している人たちの入学は、早くて10月になりそうです。毎年、4月に入学して1年で進学していく学生もいますが、来日が遅れるとその分だけその数は少なくなるでしょう。

そして、11月のEJUの出願は7月ですが、11月に日本で受験できる確証がないと、出願する意欲も鈍って当然です。去年も、出願はしたものの、試験日までに待機明けの自由の身になれず、受験できなかった学生がいました。多くの大学がEJUを必須としているので、22年4月に大学に送り込める学生の数となると、本当に限られてしまいます。

大学院にしたって、状況は大きく変わりません。海外から日本の大学院の先生に接触する手はありますが、順調に来日し、試験を受け、進学の運びとなる学生が19年までと同等になるとは考えにくいです。

21年度入試で面接試験を省いたところは、日本語でコミュニケーションが取れない学生が入学してしまって困っているという話を聞きます。そうすると、現時点で日本にいて、面接試験が受けられる学生が有利だとも考えられます。もちろん、面接でコミュニケーション力が発揮でき売ればという仮定の下ですが。

大学や専門学校は学生数を確保したいでしょうが、学生の質も落としたくないに違いありません。学生の質は教育の質に直結していますから。そう考えると、今の学生たち、ちょっと心配だなあ…。

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文法を教える

7月1日(木)

月が替わりました。私は養成講座の授業が始まりました。中上級の文法です。でも、日本語の骨格を成す“文法”は、初級で勉強してしまいます。動詞の活用、助詞のはたらき、日本語の文構造、そういった事柄は、みんなの日本語の赤い本と青い本でほぼ勉強し尽くします。厳密に言うと、中級や上級の文法の時間に勉強することは、句法や語法です。

実は、中級や上級は、文法以外の時間に文法を勉強していることが多いのです。初級で勉強した文字通りの文法をどのように応用していくか、字面の裏側に隠された話者の真意をいかに探り当てるかなどを追求していきます。また、日本の文化や日本人の伝統的な考え方に基づいた言葉の使い方や表現の方法といったことも、機会あるごとに触れていきます。

これらは、日本人にとって当たり前すぎることなので、授業などで見過ごされがちです。また、受験のテクニックとも違いますから、問題集などで扱われることもあまり多くありません。しかし、学習者が日本人と意思疎通を図りながら日本で暮らしていく上は、どうしても必要なことです。JLPTや大学入試の点数につながらなくても、日本を生活の舞台とするなら、身につけておかねばなりません。その役目を担うべきは、日本語教師です。

日本語は、英語とは違って国際共通語ではありません。英語は、ノンネイティブ同士のコミュニケーションにも活発に使われています。しかし、日本語の場合、ノンネイティブはネイティブとのコミュニケーションの場面に使うのがほとんどでしょう。だから、上述のような日本語の使い方ができるようになっておく必要があるのです。

学習者が日本語を生かしていく際に不可欠なことは何か、それを受講生に伝えていきたいです。

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