悩み

5月26日(月)

授業後、レベル1のMさんと面談をしました。Mさんは国で働いていたこともあり、他の学生より少し年上で、落ち着いた感じのする学生です。4月に来日したばかりなのに、あさって引っ越しすると言います。来日した時、適当な家が見つからず、仮住まいのつもりで現在の住まいに入りました。Mさんの話によると、そこは又貸しの又貸しの…という具合で、ブラック物件のようなのです。そこで、つい先日、その住まいから抜け出し、今週はホテル住まいだそうです。何とか適当な物件が見つかり、あさって入居の運びとなったそうです。でも、電気、ガス、水道の申し込みには自信がないそうで、そういう時には事務所のスタッフに通訳を頼みなさいとアドバイスしました。

引き続き、同じクラスのYさんの話を聞きました。Yさんは目立たない学生で、決して素晴らしくよくできる学生でもありません。自分でもそれを自覚していて、“私は馬鹿ですか”と翻訳アプリを通じて聞いてきました。決してそんなことはありません。確かに再試になったテストもありましたが、その再試を教師から急かされることなく受け、ちゃんと合格しています。日本語がペラペラとは言い難いですが、学期の最初の頃と比べたら、大きく進歩しています。さらに話を聞くと、国にいた時いじめにあい、それで自信をなくしているようでした。日本で大学院に進んで、教育心理学を学び、自分のような境遇の子どもを助けたいと言います。そのぐらいの気持ちがあれば、大学院合格ですよ。Yさんが自信を持てるような授業の進め方をしなきゃと思いました。

レベル1の学生は、上級の学生とはだいぶ毛色の違った悩みを抱えています。教師がそれに1つ1つ向き合っていくことが、この学生たちの明るい留学生活につながるのです。

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場数

5月24日(土)

今週の火曜日にやったEJU記述の模擬試験の採点をしました。大半が今回初めて受験するレベル3・4の学生で、そこにEJU経験者の上級の学生が加わっているというレベル構成でした。

提出された文章を読むと全然違いますね。上級組は書き慣れている感じがします。問題文で指示された内容を織り交ぜて、自分の考えを書き上げています。レベル3・4の学生も、それなりの長さの文章は書いています。しかし、“両方の考え方に触れながら”と指示されているにもかかわらず、自分の意見を書くのに必死で、そのほかはおろそかになってしまったなどという学生がほとんどでした。やっぱり、

点数で言うと、上級の学生たちは厳しく採点して40点ぐらい、レベル3・4の学生は情けをかけて20~25点といったところでした。場数を踏むことって大切なんです。火曜日の授業がEJU未経験の学生の場数になれば、授業の目的は達成されたと言えるでしょう。

上級の選択授業で書かせた小論文も採点しました。こちらは場数の差はEJU記述ほどではないはずですが、やはり文章の出来にかなりの差がありました。これは、課題についてどれだけ真剣に考えたかの差だと思います。事実に基づいて議論してもらいたいので、書く前にスマホで調べる時間を与えました。その間、どこかのサイトの文章を丸写ししていた学生と、真に考えるヒントを得ようとしていた学生との差が文章に現れたと言っていいでしょう。前者は、文章はうまいのですが、どこかピントが合っていなかったり、内容が薄っぺらな感じがしたりしました。

30分で400~500字のEJUの記述は、ある種のゲームです。テクニックでどうにかできる部分もかなりあります。しかし、小論文は脳みそをフル回転しないと書けません。フル回転させる気がないのか、頭が空っぽだからに売みそも空回りなのかわかりませんが、書けていない学生の小論文を目の前にすると、これからどう指導していけばいいか、こちらの脳みそもフル回転しなければなりません。

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診てもらいました、見せてもらいました

5月23日(金)

ここ10日ほど、咳と鼻が出続け、収まる気配も見えません。最近のどが渇くのですが、水分が鼻水として出て行ってしまうからだろうかと疑いたくなるくらいです。咳をし過ぎたせいでしょうか、きのうあたりから右胸の筋肉が痛いです。変な態勢でせき込んだのに気づいていなかったんだと思います。そんなわけで、午後、近くの耳鼻咽喉科へ見てもらいに行きました。

予約制ではないところでしたが、15分待ちぐらいで順番が回ってきました。症状を聞き、「じゃ、口を開けて。左の方を向いてください」と、医者は口の中が映し出されるモニターを見るように指示を出します。「のどは赤くなっていませんね」と言いましたが、確かにその通り。赤くただれているのではないかと思っていましたが、拍子抜けでした。続いて鼻の中にカメラを突っ込むと、鼻水が絡まった鼻毛の束が大写しにされました。こちらも取り立てた異状はありませんでした。こういった患者自身が自分の身体を直接確認できるような医療器具が広く普及しているようです。たまに町の医者に行くと、勉強になるものです。結局、単なる風邪という診断でした。

処方箋をもらって薬局へ。医者の話によると、最近は風邪が流行っているので、病院に一番近い薬局では咳止めの薬がなくなってしまったとか。学校の近くで探すことにしました。

しばらく前のこの稿に書きましたが、病院からの処方箋調剤の場合、その薬局にない薬が1種類でもあったら、他のすべての薬も出してもらえません。ですから、事前に処方箋調剤薬局の位置を調べ、1軒目に入りました。すると、白衣の薬剤師さんが「1日3回、毎食後、2錠ずつ飲んでください」とスマホに向かって話していました。その向かい側には背の高い外国人のお客さん(患者さん)。用法を翻訳アプリに吹き込んでいたのです。スマホの画面を確かめたお客さん、満足気に「ありがとう」と言って店を出て行きました。

薬が出てくるまで時間がかかりましたから少し心配になりましたが、処方箋の薬は無事全種類そろいました。驚いたのはその値段です。1日当たり90円。ジェネリックにしてもらったからということもあるでしょうが、申し訳ないほどの安さです。この1週間分で、何とか治さなくちゃ。

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宝の持ち腐れ

5月22日(木)

朝一番で、昨日勉強した漢字の復習テストをしました。漢字の読み書きだけ、教科書に出てきたとおりという、何のひねりもない問題です。家で復習してくれば、悪くても合格点は取れるテストです。

ところが、私のクラスは受験者17名中7名が不合格という体たらくでした。その不合格者7名中6名が中国の学生でした。もう1名は漢字を完全にあきらめている学生ですから、実質的に不合格者は全員、漢字の本場から来た学生たちです。

確かに、中国語の漢字と日本語の漢字は微妙に違うこともあります。しかし、昨日習った漢字で“微妙に違う”に該当しそうなのは1字だけです。その字を書き間違えたからと言って、不合格にはなりません。

中国の学生は、漢字は見ればわかると思っています。確かにわかります。しかし、それは、目で見た字体と意味が中国語で結びついたに過ぎません。日本語の単語として記憶されていないのです。また、“見れば”わかるのであって、その漢字あるいは熟語の読み方は中国語であり、日本語の読み方は身に付いていません。同じ意味でも日本語と中国語で漢字表現のしかたが違うケースも枚挙にいとまがありません。そういうことに目を向けようとせずに“漢字は見ればわかる”なのです。

必死に勉強してきたと思われるアルファベットの国のAさんとXさんは、10問中9問正解で余裕の合格でした。試験時間ぎりぎりまで頭をかきむしりながら考えていたAさんに比べ、不合格6名は早々に誤答に満ちた答案を書き上げ、早く終わらないかなあという顔をしていました。なお、中国人学生の名誉のために言っておくと、唯一の満点は中国人のWさんでした。

漢字を知っているということは、日本語学習の上で大きなアドバンテージになります。しかし、不合格者はそのアドバンテージを全く有効活用していません。AさんやXさんから喝を入れてもらった方がいいんじゃないかな。

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震える

5月21日(水)

Cさんが授業前に職員室へ寒いと訴えに来ました。「暑い」「寒い」の感覚の違いは、毎年この時期に露わになります。急に気温が高くなり、それをそのまま暑いと感じて冷房を入れる学生がいる一方で、その冷風に耐えられないと感じる学生もいます。Cさんは耐えられない組です。

担任のN先生によると、以前にもこういう感覚の違いから「寒い」となってしまったことがあったとのことです。それなら、危険予知して羽織るものぐらい持って来ればいいのにと思いますが、生活力のない若者に要領よく振る舞えと求めることにも無理があります。

去年のBさんを思い出しました。Bさんも「寒い」を連発しました。寒かったら窓際に席を取ればいいとアドバイスすると、窓際の席だとホワイトボードの字が見えないと言って、冷気の吹き出し口近くの、教卓のそばを定位置としていました。多少は厚着をしたものの、授業中は冬(夏?)眠よろしくびくとも動かないこともありました。

そのBさん、進学先のD大学でどうしているでしょう。寒くて震えあがっているのでしょうか。授業が終わるたびにキンキンに冷え切った体を、初夏の陽光が降り注ぐキャンパスの芝生で温めている図が思い浮かびます。

Cさんには、私のカーディガンを貸しました。手渡すとすぐに着込んで、ボタンを几帳面に全部止めていました。そして、授業後に、「先生、ありがとうございました」と、教卓のところまでわざわざ返しに来ました。Cさん、こんな言葉が使えるんだと、失礼ながらそう思ってしまいました。

私は、レベル1のクラスなら、多少冷房が強かろうと、半袖シャツで十分です。知らず知らずのうちに、それだけ激しく動いてるのです。

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自力で発見

5月20日(火)

火曜日は上級の選択授業があります。私は小論文を担当しています。ある程度の長さの文章を読んで、それについて調べて、自分の意見や考えを書くということを毎週しています。学生たちはどんな課題に対しても、的外れではない小論文を書いてきます。

そういう、優秀と言っていい学生たちなのですが、1つだけ不満があります。それは、自分の間違いが見つけられないこと、書いたら読み返さずに提出しようとすることです。

Mさんは授業時間を30分ほど残して、今週の小論文を提出しようとしました。時間があるから読み返せと言っても、「大丈夫です」と言い張ります。とりあえず受け取って、Mさんの席の所で読んでみました。1行目に誤字がありました。その後も、誤字や不自然な文法・語彙の用法やねじれ文など、小論文全体を意味不明にするような致命的なミスこそないものの、このまま添削したら原稿用紙が血まみれになりそうでした。

「間違いがたくさんあります。時間は十分ありますから、もう一度読んで直してください」と言って、原稿用紙をMさんに返しました。Mさんは不満げに原稿用紙を受け取りましたが、直そうとはしませんでした。

その後、Cさん、Sさん、Tさんなどが提出しようとしましたが、出来具合はMさんと五十歩百歩でした。

小論文は、主に文科系大学の主要入試科目です。“いい大学”に受かろうと思ったら、おろそかにできる科目ではありません。同じような実力の受験生が大勢受験しますから、1点が明暗を分かつことだって十分考えられます。自分の間違いに気が付いて修正できる受験生は勝ち目がありますが、それができない、ないしはそれを放棄してしまった受験生は、不合格への道を歩むしかありません。

学生たちが書いている最中でしたが、そういうことを忠告して、読み返すようにと指示しました。CさんやSさんは読み直していましたが、Mさんはそんな気配が見られませんでした。一刻も早くスマホをいじりたかっただけだったのかもしれません。

さて、学生たちはどんな文章を書いたのでしょう。これから読んでいきます。

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新重文

5月17日(土)

太陽の塔が国の重要文化財に指定されるそうですね。言わずと知れた大阪万博のシンボルです。私より年若の重文は、おそらく代々木競技場に次いで2件目でしょう。

代々木競技場は、確かに私より若いですが、できたのは私が物心つく前です。丹下健三氏渾身のデザインであるあの大屋根を見て大泣きしていたと、母や伯母からよく言われたものです。

太陽の塔は、はっきりと記憶があります。1970年の大阪万博は見に行きましたから。父のお盆休みに合わせて行ったので、私たちが入場した日は、入場者数の最高記録を更新した日となりました。その後さらに更新されましたから、万博期間中最高とはなりませんでしたが、ベスト(モースト?)10には入っていると思います。ろいうわけで、とんでもなく混んでいる日に行ったので、太陽の塔は見ただけで入れませんでした。でも、太陽の塔の圧倒的存在感は、幼心に強烈に刷り込まれました。

その後、だいぶたってから、というか、わりと最近、万博記念公園内にある国立民族学博物館を見学しに行ったとき、太陽の塔の根元を通りました。ちょうど私が万博を見に行ったぐらいの年頃の子どもが、学校の遠足か何かで来ていました。太陽の塔に近づくことすらできなかったあの大混雑を思い出しました。

太陽の塔の重文と同時に、琵琶湖疏水も国宝に指定されます。こちらも、一番年若かどうかはわかりませんが、国宝としては新しい建造物でしょう。こちらも、浜大津の取水口から南禅寺のちょっと先まで、疏水に沿って歩いたことがあります。

私が生きているうちに、私より年若の国宝が生まれるでしょうか…。

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名言

5月16日(金)

最上級クラスは、毎週金曜日に「社会を知る」という授業があります。新聞記事などを読んだり、ニュース映像などを見たりして、“社会”を考え、議論するという授業です。

今週は、13日に亡くなったウルグアイのムヒカ元大統領を取り上げました。2016年に来日した際にはその発言が話題となり、子ども向けの本まで出版されました。そんなこともあり、日本では知っている人も結構いるように思うのですが、学生たちは全然知りませんでした。

ムヒカさんは数々の名言を残しています。その名言集を配り、どの言葉に一番共感を覚えるかというということで議論してもらいました。

学生たちに人気があったのは、

「貧しい人とは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」

「人生で最も重要なのは勝つことではなく、歩み続けることだ」

「日本の子どもたちよ、急いで大人にならなくてもいい。子どもであることを楽しみなさい」

でした。

「日本の子どもたちよ…」を選んだ学生が、ずっと子どものままでいたいようなことを言っていたのが少し気になりました。

また、「人生で最も重要なのは勝つことではなく、歩み続けることだ」は、勝つことを追求する人がいたからこそ、人類は発展してきたと言えないこともありませんから、みんながみんな、この言葉に従ってしまうと、ちょっと心配です。

私は、「物を買うというのは、稼いだ金ではなく、人生の時間で買っているのだ」を選びました。今だって、遊ぶ金欲しさに働いていますからね。

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お国は中国です

5月15日(木)

中間テスト。普通なら、どこかのクラスに試験監督に入るのですが、今学期はレベル1のクラスを教えていますから、そのクラスの会話テストを担当しました。今までもアメリカの大学のプログラムで来ている学生の会話テストを何度もしたことがありますから、会話テストそのものは心配ありません。しかし、いつもは1日3人ぐらいなのに、今回は1クラス全員、20人の会話テストをしました。

3人だったら会話の内容はメモにとっておいて、あとで読み返せば十分に思い出せます。それに基づいて採点もできます。しかし、20人となると、そうはいきません。録音して、あとで聞き返しながら採点し、公平を期さなければなりません。質問もある程度は揃えておいた方が、実力の違いがよく見えてくるでしょう。

というわけで、自分のクラスの学生に対して少し白々しいのですが、「お国はどちらですか」という質問から始めました。この質問に、例えば「中国です」と答えれば、文句なしに○ですよね。ところが、「お国は中国です」と答えた学生が少なからずいました。

「トイレはどちらですか」「トイレはあちらです」は、もちろん○です。学生にしてみれば、トイレがお国に代わっただけなのに、「お国は中国です」はダメなのか、不思議に思うことでしょう。授業では、「お国はどちらですか」「中国です」を練習しています。自分に関することに尊敬語の“お”を付けてはいけないというルールも教わっているかもしれませんが、日本語を習い始めたばかりの学生の頭には残らなかったのだと思います。

「お国は中国です」と答えたからといって不合格になんかしませんが、教える側としては、考えさせられるものがありました。それ以外のやり取りでは、学生の知られざる一面が垣間見えて、楽しませてもらいました。学期後半の授業では、この会話テストで仕入れたネタを使って、授業を盛り上げていきたいです。

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できました

5月14日(水)

昨日に引き続き、最上級クラスの中間テストの読解問題作りに励みました。というか、今晩帰宅するまでに仕上げておかないと、テストの時間は確保してあるものの、テスト問題がないという前代未聞の事態になってしまいます。そうならないように、朝からコーヒーを飲んで目を覚まし、気合を入れて取り組みました。

今学期使っている読解テキストは初めて使う教材です。難解な文章が連なっており、教師も油断できません。学生にその文章を味わってもらおうとなると、留学生向け上級読解テキストを扱う時の数倍の力で立ち向かわなければなりません。試験問題を作ろうと読み直してみると、その数倍の力をもってしても読み落としていた部分がいくつも見えてきました。こんないい加減な授業をしてきた教師が試験問題を作るなど、おこがましいにも程があるとさえ思えてきました。同時に、この新発見を基に、もう一度授業をしたくなりました。でも、そんなことをされた学生は、いい迷惑でしょうね。

学生たちはどうなのでしょう。試験を明日に控えて教科書を読み返してみて、新たな発見をしているのでしょうか。そんなことができた学生がいたら、ぜひ、議論してみたいですね。そうやって、人生や社会や世の中を見つめる新たな眼が養われたのなら、読解の授業をやった甲斐があるというものです。

問題はどうにか作り上げました。授業で議論した内容を問題にし、合格点ぐらいは取れるようにしました。また、学生間の実力差が現れそうな問題も潜ませました。あとは印刷するだけです。

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