大成長

7月9日(土)

午後、パソコンに向かってうなっていたら、「金原先生、きれいな女子大生が会いに来てくれましたよ」と声を掛けられました。職員室の入り口に、2年前の卒業生のGさんとWさんが立っていました。KCPにいた頃と比べてすっかりあか抜けていて、掛け値なしに”きれいな女子大生“でした。

話を聞くと、KCPに入学したのは高校卒業直後だったとのことですから、失礼を承知で言わせてもらえば、山出しだったわけです。右も左も日本語もわからず入ってきて、KCPでがっちり訓練され、進学先でさらにもまれて、気が付いたらすっかり大人になっていたのです。そうそう、「あか抜けたね」と言ったら、「そうですか。あんまり変わった気がしないんですが」と、明らかに言葉の意味を理解している反応が返ってきました。

2年前の卒業生ということは、第1波で卒業式が中止になった代です。密にならないように、予約制で証書を取りに来てもらった時にも、GさんとWさんは一緒でした。進学してからはオンライン授業で苦労もしたようです。2人とも授業は対面が好きだと言っていました。

Gさんは、もうすぐインターンシップをします。もう3年生ですから、それぐらい不思議ではありません。就職前提じゃないと言っていましたが、全然考えていないわけでもないでしょう。でも、大学院進学の目もありそうなことを言っていました。

Wさんは、自分の大学の学生課でアルバイトをしています。たくさん書類を提出し、面接に通って採用されたそうです。80%は日本人学生を相手に話を聞いたり指示を出したりで、留学生相手に母国語を使うのはせいぜい20%だとか。日本人学生のアルバイトと同列に扱われているようです。それから、学部で2人しかもらっていない奨学金ももらっているとか。KCPにいた時から頑張り屋さんでしたから、らしいなっていう感じでした。

KCPへ来たのは、別の用事で曙橋まで来て、地図を見たらすぐそばだと気がついたからだそうです。うれしいじゃありませんか。そうやってわざわざ足を延ばしてくれるのは。

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期待していいかな

7月8日(金)

中級の新入生のLさんは進学コースでの学生です。しかし、受験講座の受講登録がまだでしたから、始業日の授業が終わった後に呼び出して、話を聞きました。

大学で何を勉強したいか聞いたところ、たちどころにZ大学とJ大学の名前を出し、学科名まですらすらと答えました。ここまでよどみなく志望校学部学科名を言える学生は、在校生の中でもそんなに多くはありません。しかも、Z大学もJ大学も超有名校ではありませんが、知る人ぞ知るというタイプの所です。国で日本の大学についてきちんと調べてきたことがうかがえます。

受験講座の科目の説明をしても、一発でこちらの話を理解し、的を射た質問を返してきます。こういう学生は、話していて気分がいいし、予定外のことまで教えたくなります。実際、Lさんにも、Z大学やJ大学に進んだ学生の話をしてしまいました。

来日したばかりの新入生となると、中級あたりに入っても、こちらの言葉がうまく通じないことがよくあります。文章を読んで理解することはできても、同じ内容の談話を聞き取って理解して反応するだけの力がないのです。Lさんもそういう学生だと思って、最初、話すスピードを抑えたり言葉のレベルを下げたりしましたが、いつの間にか上級並みの話し方をしていました。

Lさんよりもだいぶ上のクラスの教科書販売にて。冗談めかして「Aさんには、この教科、難しいんじゃないかな。こっちの方がいいと思うよ」と言って初級の教科書を渡そうとすると、「あ、大丈夫です」と手を横に振ります。もちろん、Aさんの言いたいことはわかりますよ。コミュニケーションは取れていますよ。でも、Aさんのレベルなら、「これだったら、私、先生ができますよ」とか、「もう、全部頭に入ってます」とかって切り返してほしかったですね。

Lさんが何学期かKCPで過ごして、Aさんのレベルに上がってきたとき、ちょっと試してみたいですね。

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笹の葉さらさら

7月7日(木)

七夕とあって、6階講堂のステージ上には、短冊をぶら下げる枝が、笹と呼ぶにはだいぶ太い緑の幹から何本か突き出ていました。本物の笹ではなく、O先生たちの力作です。

その七夕飾りを見ながら、ウェルカムミーティングが開かれました。入学式と名乗らないのは、やっとのことで入国できた、先学期オンラインで参加していた学生もいるからです。そういえば、どこかで見た顔や、妙に教師になれなれしい学生がいました。

かつては入学式当日にオリエンテーションなどもしていたため、新入生のほぼ全員が参加しました。しかし、このところオンラインでのオリエンテーションが定着し、セレモニーのためだけにどれだけの学生が来るだろうかと案じていました。先輩学生として在校生も何人か集めていますから、新入生があまりに少ないと、ちょっと様になりません。

杞憂でした。用意した椅子がすべて埋まるほどの新入生が来ました。張り合いが出た先輩学生は、歓迎の言葉を述べたり、留学生活のアドバイスをしたり、校舎の中を案内したりしている時の顔つきが、いかにも誇らしげでした。いつの間に身につけたのか、風格すら感じられました。

新入生がたくさん来たということは、それだけ日本留学への期待も大きいのです。日本語の本場で、日々、生の日本語に接しながら学んでいくことに、大きな喜びを感じているのでしょう。もちろん、これから、期待がしぼみそうになることも、喜びが苦しみに代わることもあるでしょう。そういう学生たちを支えて、ピンチを乗り切らせることが私たちの仕事なんだなと、改めて確認した次第です。

ステージの“笹”には、新入生が書いた願いが掛けられていました。

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約束

7月6日(水)

昼食から戻ると、いきなり電話。「N大学ですが、ご挨拶にお邪魔したいと思っております。今週か来週、お時間を頂戴できませんか」という、訪問の予約の電話でした。このところ、こういう電話がよくかかってきます。学生の進路を確保するのも私たちの仕事ですから、時間の許す限りお会いすることにしています。

やっぱり、大学は留学生を確保するのがかなり難しくなっているのではないかと思います。KCPもそうですが、どこの日本語学校も、3年前には遠く及ばない在籍学生数でしょう。各大学の留学生入試の募集人員は、多くが“若干名”という曖昧模糊とした表現ですから、日本語学校の在籍学生数に比例して減っているとは到底考えられません。海外での直接募集と言っても、日本語学校からの進学者数の減り具合を補うには至らないでしょう。

先月までにも何校かの留学生担当の先生にお会いしましたが、いちばん気にされていたのは来年3月の卒業予定者数でした。景気のいい話をしたいのはやまやまですが、嘘や大風呂敷はいけません。実態をお話しすると、「この学校もか」というような色が浮かびます。

今シーズンの入試は、留学生の取り合いになることが予想されます。しかし、それは、合格ラインが下がることは意味しません。入学させた学生の退学率や留年率がやたら高いと、いったいどういう教育をしているのだということになります。ですから、どこの大学も、質を確保することは言うまでもありません。

すでに月曜日から11月のEJUの受付が始まっており、もうすぐ6月のEJUの結果が発表されます。受験生のみなさんには、心して戦いに臨んでもらいたいと思います。

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思い出しました

7月5日(火)

午前中、あるお役所の報告書が回覧されてきました。目を通しておくようにとのことでしたが、そのあまりのページ数に読もうという意欲が失せてしまいました。勇を鼓して読んでみても、同じような図表が何枚も続き、どこがどう違うのか、間違い探しをしているような気分になってきました。

40年近くも昔の話ですが、ある化学会社の新入社員の時、その会社が請け負ったナショナルプロジェクトに携わりました。年度末に報告書を書いてプロジェクトマネージャーに提出したところ、社内の報告書ならこれくらい簡潔に書いてほしいが、ナショプロの報告書は厚さが勝負だから、もっと長くしろと命じられました。枝葉末節だからと切り捨てたデータも載せ、書くまでもない考察も書き、丸々と太らせた報告書を再提出しました。

その後しばらくたってナショプロ全体の報告書が完成し、私の所にも回ってきました。読んでみると、私が太らせた報告書を、マネージャーがさらに手を加え、のばしていました。その見事な手腕に感心させられました。次の年度はその手腕をまねて、長い長い報告書を書き上げました。マネージャーからの書き直し命令はなく、ほぼそのまま報告書に載りました。

私が読んだ報告書も、若手の係官が必死になって枚数を増やしたのでしょう。先輩にダメ出しを食らい、毎晩遅くまでかけて、コピペした図表に微妙に手を加えている姿が思い浮かびます。ブラック職場の面目躍如じゃありませんか。

学生にはそんないかがわしい日本語は教えません。簡にして要を得た文章を書くことこそ、進学してから求められる技術、日本語力なのです。

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3度低下

7月4日(月)

梅雨明けから9日間続いた猛暑日が、ようやく収まりました。10日目の最高気温は29.3度、真夏日も避けられました。

真夏日にならなかったのは、朝9時前後に降った雨のおかげです。この雨によって、気温が3度近く下がりました。降水量はたった3ミリほどでしたが、気温を下げることには大いに貢献しました。昨日も私の家の近くは10時ごろに雨が降りましたが、傘を使うまでもないほどでしたから、かえって蒸し暑くなっただけでした。降水量がちょっと多いだけで、結果が大きく違うものです。

計算してみると、3ミリの雨水がすべて蒸発するとなると、その気化熱によってアスファルトも空気も3度どころではなく温度が下がります。誤差が生じたのは、水と空気とアスファルトの間だけで熱のやり取りが起こるという私の計算モデルが荒っぽすぎたからでしょう。ですが、わずかばかりの雨によってぐっと涼しくなることが計算でもわかりました。

受験講座理科では、氷が水になる時の融解熱、水が蒸発する時の蒸発熱(気化熱)は、水の温度を1度上げるのに要する熱量よりも文字通りけた違いに大きいという話をしています。今学期の授業では、この雨が降ると気温が下がるという仕組みをもっと精密に計算して、学生たちに示してみたいです。7月期はEJUの直前ではありませんから、このぐらいのお遊びは許してもらえるでしょう。

猛暑日が終わったかと思ったら、台風がやって来そうな雰囲気です。あまり強い台風ではなく、関東地方へ来るまでの間に温帯低気圧になる見込みですが、油断はできません。普段の年なら梅雨末期の台風です。災害が発生しても何らおかしくはありません。

新学期が始まるまでに、一波乱あるのでしょうか。ちょっと心配です。

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ささやかなセレンディピティ

7月2日(土)

(この稿は臭いがプンプンしそうなお話ですから、お食事前またはお食事中の方は、お食事を済ませてからお読みください)

もう何年も前のことですが、ある日、「大」の用事を終えて水を流そうとしたところ、うっかり「小」のボタンを押してしまいました。あちゃっと思いましたが、まさか手で流れを止めるわけにもいかず、成り行きを見守るほかありませんでした。水が止まり、便器の中を見てみると、きれいさっぱり流れているではありませんか。ペーパーの切れ端一つ残さず、澄んだ水がたまっていました。「小」って、けっこう強力なんだなあと思いました。

それ以後、学校のトイレを始め、「大」を致すたびに「小」で流していますが、ブツが流れ切らなかったためしがないと言っても過言ではないと思います(歯切れが悪いのは、「小」のさらに下の「極小」とかいうのを押したときには残念な結果に至ったからです)。レストラン、スーパー、駅、大学、図書館、ホテル、東京でも西日本でも北日本でも、「小」で「大」が流れてしまいます。お腹の調子が悪くて若干緩くても、だから大量のペーパーを使っても、お腹が快調でよくぞこんな大量にというときでも、黄土色のかけらも残すことなく、始末してくれます。今では、何の躊躇もなく、「大」のときでも「小」を選びます。こういうのも、一種のセレンディピティなんでしょうか。

「小」と「大」の使用水量の差を1リットルとしましょう。おむつと便秘の人を除いて、日本で1億人が1日に1回「大」して、それを「小」で流すようにすると、1億リットル=10万立方メートルの節水になります。ダムの総貯水量って何億立方メートルですから、1日に10万立方メートルなんて誤差にもならないでしょう。でも、異常に早い梅雨明けによって渇水が懸念されていますから、何もしないよりはましです。これをお読みのみなさん、「大」は封印して、「小」を活用しましょう。

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猫の額の木陰

7月1日(金)

新しい月が始まり、2022年の後半戦が始まりましたが、いきなり今年1番の暑さ、37.0度です。桐生とか伊勢崎とか勝沼とか、40度を超えたところよりはましだと思わなければいけないのでしょうが、数字を見ただけで元気がなくなります。

校舎に入ってくる人は、学生も教師もみんな温度センサーに引っ掛かります。駅の方から来ると、玄関に入る直前、ほんの数十メートルだけ日なたを歩くのですが、それが命取りになります。髪や服やかばんなどがその間にたっぷり熱を蓄えてしまいます。私は、郵便局の前の公園を一周して、木陰で熱を冷ましてから校舎に入るようにしています。そうすると、アラームに驚かされることはありません。

こうしてみると、木陰の威力って大したものです。あんな猫の額の半分ほどの公園に植わっているわずかばかりの木でも、私の体や持ち物から熱を奪ってくれるのです。涼しいというレベルには至りませんが、日なたを通って来た人たちとは明らかに違う結果になっているのですから。

こういう働きをする木を、安易に切り倒してしまったり、落ち葉の処理に手がかかるからと枝を払ってしまったり、日本中で虐待しています。世界各地で発生している森林火災だって、自然発火が原因の場合でも人災的要素が見逃せないと言います。近い将来、体温測定のアラームが鳴るだけでは済まない事態がもたらされてしまうかもしれません。

天気予報によると、来週は多少気温が下がりそうです。でも、湿度が上がりそうなので、結局、蒸し暑くてかなわんということになりそうです。体力を温存しつつ、新学期の準備を進めていきましょう。

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前に立った2人

6月30日(木)

先日、電車の中で本を読んでいると、誰か私の前に立ちました。ふっと見上げると、私の目の前にいるのは、別に知った顔でもなく、健康そうな大学生ぐらいの2人でしたから、私が席を譲る筋合いはないと思い、また、視線を本の上に移しました。

ところが、視野の上辺ぎりぎりぐらいのところで、何かがうごめいているような感じがするのです。気になってしかたがありませんから、またもや見上げると、例の2人が盛んに「手」を動かしていました。腕も指も手のひらも、一瞬たりとも止まることがありません。時には相手をつついたり体を揺らしたりもしています。そうです。手話で会話をしていたのです。相手をつつくという手話表現があるかどうかまではわかりませんが…。

たまに政府発表や政見放送などで手話を目にすることはありますが、それは一方的に情報を伝えるだけです。しかし、この2人の手話はまさに会話で、相手の話が終わるか終わらないかのうちに自分の話を始め、手の動きから想像するに、かなりの早口です。お互い目を真剣に見つめ合い、だから目にも物を言わせ、会話を弾ませていました。

見ていてほのぼのとしてきました。とても楽しそうでしたから、私も加わりたくなりました。でも、私が知っている手話は「ありがとう」ぐらいですから、仲間入りできる由もありません。

健常者はマスクで口を封じられ、どんなに仲が良くても電車の中では会話はできません。一方、この2人は、マスクをしなくてもよかったころと変わることなく、おしゃべりを楽しんでいます。耳には補聴器らしきものが入っていましたが、最近の若者はみんな耳に何か突っ込んでいますから、ちょっと見では違いがありません。健常者って、不便ですね。

2人は2駅ぐらい先で降りました。ようやく、本に集中できるようになりました。

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暖房?

6月29日(水)

トイレに立ち、職員室出入り口のドアの所まで行くと、半袖の腕と首筋に風が柔らかく当たりました。冷房特有の、肌を刺すようなひんやりとする風ではありません。暖房のように体をふわっと包み込むような生暖かい風でした。“えっ、この部屋、暖房入ってんの?”と、思わず天井を見上げてしまいました。見上げたところで、暖房か冷房かなんてわからないのにね。

換気用に開けてある本棚の上の窓から入った空気が、ドアからロビーを吹き抜けて玄関から出ていく、その風に襲われたのです。夕涼みの風なら“気持ちいい”となるところですが、明らかに不快感を伴う温風とも熱風ともつかない中途半端な風でした。涼風なら風の通り道で仕事をしたいところですが、こんな風だったら仕事の能率がかえって下がってしまいます。

私がトイレに立ったころ、東京は最高気温を記録したようです。またもや猛暑日で、この分だと明日もそうでしょうから、6月末は6連続猛暑日で締めくくられそうです。梅雨明けが異常に早かったのも、その後半端じゃない猛暑が続いてるのも、ラニーニャ現象が原因です。ラニーニャ現象は、エルニーニョ現象の裏返しで暑い夏になります。でも、その影響がこれほど顕著に現れるとなると、地球の破滅に1歩近づいたのではないかと、心配にもなります。

このところ、最高気温の予報に40度というのがよく現れます。明日の熊谷もそうです。私は中国の砂漠で40度を超える気温を味わったことがあります。砂漠だけに乾燥していたせいか、それに短時間だったので、どうしようもないという暑さではありませんでした。でも、日本の40度はどうでしょう。その気温に長時間さらされるとなると、体が受けるダメージは相当なものに違いありません。

これから2か月半ぐらい、こういう暑さに加えて電力綱渡り状態も続くのかと思うと、げんなりしてきます。でも、受験生にとっては実力を伸ばす夏です。そのお手つだをしなければ…。

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