成長を感じる

4月8日(金)

Tさんは1年前にオンラインクラスのレベル1で教えた学生です。まじめな学生でしたが、鋭さに欠ける感じがしました。基礎問題はできても、応用問題は解けないというタイプでした。成績はクラスの真ん中か少し下ぐらいで、レベル2には上がれても、その後順調に進級できるだろうかと密かに心配していました。

そのTさんが、今学期、日本へやって来ました。順調に進級を重ね、今学期はレベル5です。来学期からは上級ですよ。ナチュラルスピードで話しかけても応じてくれますからね。立派に成長したものです。そして、義理堅いことに、この1年間にお世話になった先生方に、国から持ってきたお土産を配ってくれました。私は、健康にいいという干したきのこ(?)をいただきました。かけらにお湯を注いで、しばらく経ってから飲むのだそうです。この稿を書き終えたら、帰宅する前に飲んでみようかな。

同じクラスだったMさんにも生で会えました。思ったより背が高く、自室で受けていたオンラインの時より髪型が整っていて、見違えてしまいました。Mさんは大変な努力家でした。字が汚いと指摘を受けると、丁寧にきれいに書くようにし、会話練習には誰よりも真剣に取り組んでいました。そのおかげなのか、私の軽口にも笑顔でこたえられるだけの日本語を身につけていました。

TさんもMさんも、日本で何を勉強するか目標が明確になっています。だからこそ、監視の目が弱いオンライン授業でも努力を続け、力を伸ばしてこられたのです。日本へ来ただけで安心してしまう人たちではありませんから、これからも期待しつつ厳しく指導していきたいです。

夕方、同じく1年前にレベル1だったJさんが入国し、待機場所のホテルに着いたという連絡が入りました。しばらく、楽しみな日々が続きそうな雰囲気です。

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財布を持って来ませんでした

4月7日(木)

始業日です。始業日といえば教科書販売です。午前も午後も教科書売り場を担当しましたから、教科書を渡す時を利用して、昨日以上にしげしげとオンラインで教えた学生を観察してしまいました。「あなたがTさんか。去年の今頃は日本語が全然わからなかったのに、今学期は中級? 早いねえ」なんていうやり取りを何人かとしました。やっぱり、立体的に見えて生の声が聞けて、タイムラグなしで言葉を交わせるって、盛り上がりますね。

さて、私個人的には、教科書販売は忙しくも楽しかったのですが、若干由々しき事態が発生しました。それは、教室に財布を忘れたという学生が多かったことです。クラスの先生が教科書販売の場所まで学生を連れて来る際に、財布を忘れるなと言っています。昨日までに、教科書代としていくらぐらい必要かも伝えています。教室で教科書の説明もしています。にもかかわらず、中級・上級で数名の学生が財布を持って来なかったと、教室まで取りに戻りました。

今までそういう学生が全くいなかったわけではありません。しかし、こんなに続々と出てきたのは、私の知る限り初めてです。注意力が散漫なのか、聴解力が弱いのか、状況把握ができないのか、いずれにしても教科書を買いに行くのに財布を置いていく学生がこんなにいたとは気懸かりです。先生の言葉が理解できなかったとしたら、これからの授業はどうなるのでしょう。今学期末に控えているEJUやJLPTにも暗い影を落としかねません。中級・上級の学生にいたというと、夏ごろから始まる大学院入試も心配です。

ここまで考えたところで、もしかすると、こういう学生たちは財布からお札を出して物を買うという経験に乏しいのではないかと思い至りました。普段、○○payで支払いを済ませていると、買い物と財布が結び付かないでしょう。お金を知らない子供がいるということも聞いたことがありますが、学生たちもその仲間なのかもしれません。

そういうことも含めて外国から来た留学生を鍛えていくのが、日本語学校の仕事です。

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初対面の再会

4月6日(水)

初対面だけど旧交を温め合う――という不思議な光景が、あちこちで見られました。私も、Lさん、Cさん、Hさん、Mさん、Kさんと、“再会”しました。

密を避けるため午前と午後の2回に分け、このたび来日した学生を集めて、ウェルカムパーティーを開きました。去年の4月以降KCPに入学してオンライン授業を受けてきた学生と、今学期の新入生とをまとめて、いわば2022年4月期来日生を歓迎するイベントです。この中に、去年の4月期にレベル1で教えたCさんたちや、スピーチコンテストのスピーチ指導をしたLさんや受験講座で毎週のように顔を合わせてきたKさんがいたのです。

「わー、生Lさんだ」なんてはしゃいじゃいましたが、実は、「先生、私Lです」と名乗られるまで気が付きませんでした。オンラインの時はマスクなしでしたから、マスクありの顔は初めてだったのです。確かに、よく見ると、目元はLさんです。でも、Cさんは、髪型が変わったせいか、名乗られてもピンときませんでした。zoomの画面の1マスとは、ずいぶん印象が異なります。

レベル1の時に種をまいたCさんたちは、明日からレベル5です。この半年余り受験講座に食いついてきたKさんは今度の6月のEJUに勝負をかけます。みんな、成長すると同時に、日本留学生活の最初の山場を迎えようとしています。その時期に、直接顔を合わせて力になれるとは、教師として意気込みを感じずにはいられません。

歓迎のスピーチをするためにステージに上がった時、午前も午後も、数秒かけて会場を見回してしまいました。誰もが、日本へ来てKCPの校舎で勉強できる喜びに満ちた表情をたたえていました。この顔を曇らせることなく、学生たちを志望校へと送り出したいと思いました。

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進歩は退歩?

4月5日(火)

私が学生たちと同じ年齢のころに流行っていた曲の歌詞には、「ダイヤルを回す」とか「電話が来るのを待っている」とかという文句があふれていました。それによって恋のもどかしさやら相手を想う気持ちやらを表現していました。そういう曲を、映像のないカラオケで歌ったものです。

その後、携帯電話が普及すると、個人と個人がダイレクトにつながるようになりました。ダイヤルは回さなくなり、電話が来なかったらこちらからこちらから押し掛けることもまれではなくなりました。ちょうど、私がKCPにお世話になり始めたことのことです。なかなか携帯電話を持とうとしなかった私は、まわりにずいぶん迷惑をかけました。

更に時代が下ると、携帯電話はケータイになり、電話ではなくなりました。メールをやり取りする道具となり、通話をすることは少なくなりました。学生たちは私たちのはるか前を進んでおり、欠席者に電話をかけても無反応というのが当たり前になってきました。

今では、そのメールも、連絡手段としては風前の灯です。電話をかけても声が聞けないからとメールを送っても、メールをチェックしない学生が多いのです。学校からの連絡はメールでするので、1日に何回か必ずチェックするようにと言っても、反応が鈍いのです。そういう学生は、スマホを使い始めた時からお気に入りのSNSばかりで、メールを使う習慣がありません。自分のメールアドレスも電話番号も知らないんじゃないかな。

ですから、新学期直前のこの時期は非常に気を使います。連絡の抜け落ちがあっては困るのですが、抜け落ちのない連絡方法がなかなか見つかりません。通信使技術は発達しましたが、音声通話だけだったころのほうが、時間はかかっても連絡は確実だったような気さえします。

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今ごろどうしてるかな

4月4日(月)

東京の日本語学校に入学する留学生の多くは、漠然と東京で進学することを考えています。東京大学とか早稲田大学とかの憧れレベルから始まり、そこが無理ならMARCH、そこも難しかったら、それでも都内にというように志望校を選んでいく人が大半と言っていいでしょう。マンガ・アニメ関係なら京都精華大学をはじめ、京都の大学も有力な進学先になりますが、それ以外は、何はともあれ東京です。

Sさんもそんな学生の1人でした。横浜まで出るのが精一杯でした。しかし、自分の本当の実力を知ろうとしたのか、最後の最後に東北大学を受けました。受験直後は受かる可能性はないと言って、すでに権利を確保してあった都内の大学に進学する準備を始めていました。ところが、合格してしまいました。多少悩んで、結局、仙台へ行くことにしました。日本人の目からすれば悩むまでもなく東北大学なのですが、やはり東京に未練があったようです。仙台は小さな町だと言っていました。

でも、仙台で4年間暮らしたら、絶対仙台を離れたくなくなります。学問的にもそうでしょうし、町の魅力に取りつかれることは疑いありません。仙台が小さな町なのではなく、東京が肥大しすぎているのです。世界の潮流に取り残されることなく、ほどほどに田舎で心身ともにくつろげる町と言ったら、仙台や福岡、あるいは札幌か広島あたりではないでしょうか。名古屋はぎりぎりこのグループかな、それともちょっと大きすぎちゃってるかな…。

そのSさん、先週末に仙台へ旅立つ前にあいさつに来てくれました。名残惜しそうに、会う先生ごとに「ありがとうございました」「お世話になりました」と言っていました。

仙台は、これから花の季節です。満開の桜に迎えられての入学式かもしれません。それを見ただけで、東京よりいい所だと思うんじゃないかな。

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18歳になりました

4月1日(金)

新年度が始まるとともに、成人の年齢が18歳に下げられました。すでに選挙権が18歳から与えられていますから、当然と言えば当然です。親とかかわりなく契約が結べるようになるのは問題も大きいなどと議論も盛んになっています。

成人の年齢が下がっても、お酒が飲める年齢は20歳のままで下がりません。勘違いしないようにというキャンペーンが行われていると報じられていました。投票とか契約とかは社会の変化に応じてそれができるようになる年齢が決定されますが、お酒が飲めるかどうかは肉体的な完成度が関わることです。ローンが組める年齢が下がったからといって、その年齢でお酒も飲み始めていいというわけにはいきません。お酒を飲み始める年齢が早いほど、お酒にまつわる病気にもなりやすいと言われています。

KCPには、高校を卒業するかしないかのうちに入学する学生もいます。その歳で、外国でひとり暮らしとは、その辺をうろちょろしている日本人の大学生よりよっぽど大人だと思います。でも、これは平均値であって、学生一人一人をつぶさに見ると、しっかりしているのから、同郷の先輩たちに支えられてもふにゃふにゃしているのまで、十人十色です。

学生たちは自分の国の法律に基づいてお酒やたばこを始めるきらいがあります。ふにゃふにゃに限って背伸びしたがるものですから、大人のつもりでお酒を飲んじゃうんですよね。お前が酒を飲むのは、2年どころか20年早いと言ってやりたくなります。お酒を飲んだり契約を結んだりするということは、それに伴う責任も負うということを意味します。ここがわかっていない若い人が多いのが実情です。

もうすぐ、そういう勘違いをしている人も含めて、大勢の学生たちがKCPにやってきます。

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新芽

3月31日(木)

4年前の卒業生Lさんが、進学した大学を卒業し、そのまま大学院に進むことになりました。理科系だったらごく普通の話ですが、Lさんの専門は日本語教育です。大学院で何を研究するかは聞いていませんが、外国人の視点で日本語教育を捕らえ、私たち日本語ネイティブの教師にも有意義な成果を挙げてくれることを期待しています。

Lさんは成績優秀で、大学時代は学科でトップを争い、たいていは勝利していたようです。日本語教育能力検定試験には、昨年一発合格しました。大学から奨学金ももらってましたから、タダとは言わないまでも、実質的にかなり安い学費で勉強できたと思います。そんな学生ですから、大学だって簡単に手放したくはないですよね。

そういえば、昨年のスピーチコンテストで審査員をお願いした時、とても大学生とは思えないほど詳細なコメントを付け加えてくれました。スピーチを聞いてその内容はもちろん、発音、文法、文章構成力など、多角的な解析を加え、スピーカーの日本語学習者としての力量をはじき出していました。それを短時間のうちに文章化しているのですから、驚くばかりでした。

最近、私は養成講座の資料の再編をしており、その一環として「みんなの日本語」を読み返しています。図らずも、初級で教えるべき事柄の復習をしています。本当はそれ以外の教科書にも目を通すべきなのでしょうが、今の私には「みんなの日本語」で手いっぱいです。Lさんなら、私がかつて使っていた初級教科書の最新版も含めて、網羅的に何か言えるんだろうなあと思いながら、仕事を進めています。

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期末テストでした

3月25日(金)

どうにか、今学期も期末テストの日を迎えることができました。私が試験監督をしたクラスは、卒業式で大半の学生が出ていますから、見張るべき人数は少なかったです。密を避けるという意味からも机を離して配置しましたから、他人の答案をのぞき込むというのは不可能です。こっそり教科書を見るとかスマホに相談するとかも、学生の手元が丸見えですから、やる勇気のある学生はいないでしょう。そもそも、テストを受けたのは真面目な学生ばかりでしたから、そんな勝負に出るとは考えられませんでした。

学生の数が少ないですから、いつもと同じように教室を見回ると、学生の前やら脇やらをやたらと通り過ぎることになります。すると、学生が試験に集中できなくなるおそれがあります。ですから、試験時間の半分ぐらいは教室の後ろから学生たちを見ていました。

正面からだと、一心不乱に問題を読んだり、頭を抱えたり、ホッとした目つきになったりと、学生の表情に変化が生じること、その変化が学生ごとに違うことが手に取るようにわかるものです。しかし、テスト中のうしろ姿は変化に乏しいです。学生の顔つきを想像して、その乏しさを補いました。

午後から、アメリカの大学のプログラムでKCPへ来ていた2人の学生の修了式がありました。初級から始めて、漢字のハンデをものともせず、上級まで進んだ学生たちです。先生方は一様に、アジアの学生たちに刺激を与えてくれたことに感謝していました。対面授業でもマスク顔ばかりで単調になりがちだったところに、発想やら発言やらによって変化をもたらしてくれました。そういう意味で、大いなる功労者です。私も、「おめでとう」とともに、「ありがとう」とも声をかけました。2人とも、日本で就職です。企業もしっかり人物を鑑定しているんですね。

同時並行で、新入生のレベルテストも行われました。別れの季節から出会いの季節へと動き始めています。

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まだ復活せず

3月24日(木)

Kさんは理科系の受験講座を受けています。数学は、私の説明に対して質問したり、私の計算間違いを指摘したりできるくらいまで力が伸びてきました。時々ひっかけ問題にはまってしまいますが、ヒントを与えると自分ではい出してきます。6月のEJUも、ある程度は計算できそうです。

問題は、理科です。数学は数式を追っていけばかなりの所まで理解できますが、物理や化学はそういうわけにはいきません。私の授業はすべて日本語ですから、物理の法則や化合物の性質など、私の日本語がわからなかったらどうしようもありません。練習問題をさせてみると、私の話がちゃんと届いているか不安な状況です。

クラスの先生に聞いてみると、Kさんの日本語力は、順調に伸びているとは言い難いようです。先学期は進級できず、今学期も同じレベルをやっていますが、今学期も進級が危ういとのことです。この調子だと、EJUの日本語も期待薄なのが現状です。

Kさんは昨年夏、ワクチンを打った後に体調を崩し、学校もずいぶん休みました。それから半年以上たちましたが、まだ完全に健康を取り戻してはいないようです。これが日本語の習得に悪影響を及ぼしているのです。

いちばんもどかしい思いをしているのは、Kさん自身でしょう。あれだけ数学ができるのですから、理科系のセンスはあります。EJUが国の言葉で出題されれば、平均点は軽く超える成績が挙げられるでしょう。しかし、現在のKさんは…。こういう時期でなければ、健康な状態で勉強でき、今ごろ6月に向けて自信を持って歩んでいけたに違いありません。

来学期の受験講座は対面で行う予定です。どうにかKさんの力になりたいです。

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動き始める

3月23日(水)

学期が終わりに近づいたこの時期は、新学期から受験講座を受けたいという学生への説明会をする時期でもあります。先週から、学生のレベルやコースに応じて、何回か説明してきました。

Sさんも4月から受験講座を始めようと思っている学生です。大学で何を勉強したいかと聞くと、経営学か社会学とすぐに答えが返ってきました。これでも結構幅が広いのですが、漠然と数学はできないから文系に進みたいなどというのよりはずっとしっかりしています。即答に近かったということは、ある程度大学や学部について研究もしているということでしょう。具体的な志望校は挙がってきませんでしたが、現在上級ということは、名の通った大学を狙っているに違いありません。数学は苦手だとのことですから、私立大学です。とすると、範囲はかなり絞られてきます。そうそう、TOEFLの相場も聞いてきましたから、あのあたりの大学でしょうね。

去年のEJUの点数を聞くと、そういう大学を狙うには、日本語で60点ぐらい、総合科目は40点ほど、点数の上積みが必要です。これは、同時に、Sさんの6月のEJUにおける目標点でもあります。この目標がクリアできたら、受験講座の次の段階、出願準備に進むことになります。募集要項を取り寄せ、願書を作成したり、出願校によっては志望理由書を書いたりしていきます。

Sさんは半年前に受け持ちました。半分オンラインでしたから明確な印象はないのですが、真面目な学生だったという記憶はあります。今学期の担当の先生方も、Sさんは真面目な学生だから力になってあげたいと言っています。どうやら、鍛えがいのある学生を1人発掘したようです。

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