また遅刻

11月25日(火)

Yさんは出席率があまりよくありません。何日も学校を休み続けるとか、非常に病弱だとかではありません。たまに風邪をひいて休むこともありますが、主に遅刻のせいで出席率が上がりません。私の授業の日によく出席率を尋ねますが、80%台前半をうろうろしていて、決して芳しいものではありません。

KCPでは目視による確認も含めて、1日に4回出席を取ることになっています。ですから、9時の段階でいないということは、4つのうち1つ欠席ですから、その日の出席率75%です。Yさんはこれをよくやらかします。入学時にそういう出席率の計算方式を教えていますが、実感が湧かないんでしょうね。自分の出席率の数字を見て初めて、思ったよりだいぶ低いことに気づいて、どうにかしようと動き始めます。Yさんもそんな1人です。

今朝はYさんのクラスに入りましたが、Yさんの姿はありませんでした。来たのは、後半の選択授業の時間から。これじゃ、出席率50%です。「また寝坊でしょう」と突っ込むと、照れ笑いをしながらうつむきました。

Sさんは先月珍しい記録を残しました。毎日学校へ来ていたのに、月間出席率は70%台でした。正確に言うと、月間出席率80%未満のブラックリストに載ったので出席状況を詳しく見てみたら、なんと毎日登校していたことが判明したのです。つまり、連日の遅刻で出席率がさっぱり上がらなかったというわけです。

YさんにしろSさんにしろ、勉強する気がないとか、進学を完全にあきらめたとかいうのではありません。日本の大学に進学するつもりですから、寝坊前提みたいな生活習慣を改めなければなりません。本人たちもそれはわかっていますが、どうにもできないのです。同病相憐れむ立場のEさんは、日本語学校の出席率を提出しなくてもいい大学を見つけてきて、そこに出願するようです。

これから、そういう学生たちが正念場を迎えます。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

質問タイム

11月21日(金)

日本語プラス生物の授業後、Yさんが残って授業で取り上げたことについて質問してきました。Yさんは日本の高校生向けの資料で勉強しています。勉強内容そのものは、図表を見ればある程度は見当がつきますが、専門用語の正確な定義とか用法とかとなると、1人ではどうにもならない部分があるようです。

私とのやり取りは、もちろん日本語です。Yさんはまだ中級ですから、立て板に水で質問できるわけではありません。質問のセリフもこちらの補助を参考にしながら組み立てていくといった感じです。私の回答も1回聞いただけで理解できず、追加説明が必要なこともよくあります。でも、多少時間がかかっても、最終的には理解にたどり着きます。よかったよかったと、お互い顔を見合わせることもよくあります。

はっきり言って、国の教科書を使って、国の言葉で説明してもらった方がずっと効率的です。わかっていてそうしないのは、Yさんの意地かもしれません。国の学生とはつるまないと、先学期の授業の時に言っていました。食事に行くのも、ほかの国の学生と一緒だそうです。自国のコミュニティーにどっぷり漬かっていてはいけないと思っているのでしょう。

Yさんは再来年の進学を考えています。だから、長期戦のつもりなのです。日本語で専門的な議論ができるようになることを秘かな目標にしているのかもしれません。私が最上級クラスを教えていると聞くと、「27年の1月の学期、私は一番上のクラスに入れますか」と聞いてきました。「頑張ればね」と答えておきました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

心配事

11月20日(木)

木曜日の上級選択授業・身近な科学は、毎回授業の最後にその日の授業内容に関するクイズを出します。それにどんな答えを書くかで、その学生がどれくらい真面目に話を聞いていたか見当がつきます。スマホでこっそり調べればわかってしまう問題のときもありますが、大体はスマホで調べた結果をそのまま書くと“こいつ、やったな”と気が付いてしまうものです。

チャイムが鳴って、みんなクイズの答えを出して教室を出て行きましたが、Lさんが黙々と答えを書いていました。Lさんは毎回話をしっかり聞き、クイズにもきちんと答えてくれます。自分のとったメモを見返しながら真摯に答えようとしますから、みんなよりいくらか遅くなることもあります。

せかすことなく教卓周りの片づけをしていると、3分遅れぐらいで出しました。“さようなら”と言って帰っていくのかと思いきや、「先生、日本で一番地震が少ないところはどこですか」と質問。先々週の身近な科学で取り上げた地震についての質問でした。

「難しい質問だなあ…。山口には大きな電波望遠鏡のアンテナがあるんだ。地震が起きるとアンテナの位置が微妙に狂って正確な観測ができなくなるから、地震が少ないところを選んだって聞いたことがあるけど」「本当ですか? 山口ですね」「いや、地震保険の値段を調べてみたら。地震が起きる確率が低いところは安いはずだから」「地震保険ですか。調べてみます」…

Lさんはいずれ日本に住みたいのですが、地震のない国出身ですから、地震は怖いです。先々週の私の話を聞いて、夢が潰えそうになっています。日本はどこで大地震が発生してもおかしくないと言っちゃいましたから。

その後、話が弾んで、フォッサマグナや活断層と原発についてまで、30分ぐらい話し込んでしまいました。どれもLさんにとってはネガティブな話ばかりでしたが…。

先々週のクイズにはグーグル先生かチャット君にお伺いを立てたと思われる答えも散見されましたが、授業をきっかけに関心を深めた学生もいるとわかると、やっぱりうれしいものです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

模範解答と面接

11月19日(水)

いろいろとしなければならないことが多く、上級クラスの中間テストの採点が延び延びになっています。どうにかしなければと午前中奮起しようとしたのですが、このテストの模範解答がありません。せっかく時間に少し余裕ができ、やる気も湧いてきたのですから、ここで挫折するのは癪です。

こういう時は、よくできる学生の答案用紙に頼るに限ります。候補として、Aさん、Zさん、Yさん、Bさんを選びました。最初の問題の答えを比べると、Aさんが全問正解で、他の3名はいくつか間違っていましたから、Aさんの答えを土台に模範解答を作ることにしました。次の問題以降もAさんの答えを参考にしながら解いていくと、すらすら問題が解けました。最終的にAさんは93点で、模範解答選びは大正解でした。

さあ採点に移ろうと思ったところに、午後のレベル1のクラスの学生が面接に来ました。午後クラスは授業後にたくさん面接をするわけにはいきませんから、午前中に持ってきます。いつの間にか、最初の学生Cさんの面接の時間になっていました。Cさんの次はXさんが控えています。Xさんの面接が終わるころには、午後の授業の準備を始めなければなりません。採点はまたも延期になりました。模範解答ができたという大きな進歩がありましたから、多とすることにしましょう。これさえあれば、意外と短時間で採点できそうな気もします。

面接では、2人とも、クラスの雰囲気がいいと言ってくれました。確かに、マイナスのオーラを出している学生はいませんから、教える方も楽しいです。でも、楽しい、楽しいで勉強が上滑りしてはいけません。そこのところは引き締めていかなければなりません。ためになる授業もしなければね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

ちゃんと読んでね

11月18日(火)

先週の火曜日の選択授業小論文は中間テストでした。その中間テストを1週間かけて添削し、成績をつけ、学生に返却しました。学生は、当然ながら、私の評価を一番気にしますが、私が本当に気にしてもらいたいのは、添削の部分です。自分の書いた文章がどのように直されたか、しっかり見届けることで、次の小論文の質を上げてほしいとずっと思っています。しかし、学生は見てくれないんですよね。すぐに新しい課題を与えると、同じような間違いを繰り返し、こちらも同じような直しをしなければなりません。

こんなことを続けていては進歩が見られないと思い、今週は各学生の小論文からいただけない文を抜き出し、それについて解説しました。言いたいことはわかるけど表現がおかしい文、何が言いたいかさっぱりわからない文、やたら長くて意味不明になっている文、小論文の結論としては全くパンチのない文、文意はわかるけど表現レベルが初級にとどまっている文、そういった文を取り出して、なぜそれではいけないのか、どう直せばいいのか、あるいは手の施しようがないのか、などを細かく解説しました。

「この文は、大学入試の採点官は絶対理解できません。ここから先、読まないで不合格にしちゃいますよ」なんて調子でボコボコにした文もありました。そう評された学生は、さぞかし耳が痛かったことでしょう。そして、私が入れた赤を参考に、返却した小論文を清書してもらいました。いつもより取り組み方が真剣でしたから、少しは心に響いたのかもしれません。

終業のチャイムが鳴って清書を提出してもらい、教室の片づけをしていると、KさんとSさんが質問に来ました。中間テストはイマイチの成績だった2人ですが、質問の内容は当を得ていました。気が付いてほしいと思ったことについて質問してきました。

まだ清書を読んでいませんが、期待できそうな感じがします。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

油断大敵

11月17日(月)

レベル1のクラスで初めての漢字テストがありました。レベル1は中間テストの少し前から漢字の勉強が始まり、中国人以外の学生たちも少しずつ漢字に慣れてきたころです。

毎学期のことですが、レベル1の漢字テストで悪い点を取るのは中国人の学生です。彼らにとっては易しすぎて勉強する気にもならないのでしょう。しかし、「このほん(     )は、三千円(     )です。」などという問題に、中国の簡体字を書いたり“さんせんえん”と答えたりしてしまうのです。Cさんは90点でしたが、間違えた問題は手紙と時計の読みでした。ちなみに、中国人以外の学生たちは、満点かそれに近い点でした。

「手紙」はCさんだけではなく、中国人の学生の半分ぐらいが「てかみ」と書いていました。こういう学生は、話すときも「てかみ」と発音しているケースが多いです。「さんせんえん」も同様です。Tさんは「中国」に対して「ちゅうごう」と書いていました。Tさんの発音は、確かに「ちゅうごう」に近いです。「てかみ」でも「さんせんえん」でも「ちゅうごう」でも、話し言葉の中なら文脈がありますから、誤解が生じることはまずないでしょう。しかし、聞き手の日本人に違和感を生じさせ、“下手!”という印象を与えてしまうことだってあるでしょう。

漢字テストは、これから期末テストまで、数回予定されています。初回の漢字テストで思わぬ不成績だった中国人学生たちも、きっと巻き返してくれることでしょう。ここできちんと気を引き締めれば、十分に間に合います。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

台風が来ませんでした

11月15日(土)

11月も半分が過ぎましたが、気が付いてみると、今年は東京地方には台風が来ませんでした。“えっ、八丈島は、先月、2つの台風が連続して来たじゃありませんか”と言われるかもしれませんが、台風が来なかったのは“東京都”ではなく“東京地方”です。

天気予報の世界では、行政区分の東京都を、東京地方、伊豆諸島、小笠原諸島と、3つの予報区に分けています。その中の東京地方は、今年は上陸したり通過したりした台風がなかったということです。例えば、 “福島県浜通り地方には台風が接近して雨風大変だったけど、会津地方は何ともなかった”というように、ある県の一部は台風に襲われたけれども、別の地方は影響がなかったということです。

都庁と八丈町役場の直線距離は286キロほどです。直線距離で言えば、東京~名古屋間よりも遠いです。これだけ離れていればお天気が違うのも当然です。

八丈島は、東京地方に雪が降るかどうかの分かれ目になる地点でもあります。西高東低の冬型が緩み、強い寒気団が関東平野まで出てきて、なおかつ絶妙のタイミングで低気圧が八丈島付近を通ると、都心をはじめ東京地方に積もるほどの雪が降ることがあります。歯切れが悪いのは、寒気の気温や低気圧のコースなど、条件がピシッとそろわないと降雪とはならないからです。八丈島は、そういう結びつきもある島です。

東京地方に台風が来なかった年はこれまでに何回かありましたから、異常気象とか温暖化とかという話とは直接結びつきません。全国的に台風による被害が激甚化している中、台風が来なかったというのはラッキーだったとは言えます。しかし、来年もこうなるという保証は、どこにもありません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

束になってかかってこられてます

11月14日(金)

昨日の中間テストの採点が、一向にはかどっておりません。火曜日に行った選択授業小論文の採点も、半分ほど残っています。計画では昨日までで小論文の採点は終わっているはずだったんですがねえ。机の上にはテストの束が4つ、小論文の原稿用紙が20枚ほど、デスクトップの中には会話テストの録画が1クラス分、採点を待っています。

私の場合、自分で教材を作らねばならない授業が多く、そちらを優先せざるを得ないため、中間テストの採点を先送りにしているという図式です。それでも、レベル1のクラスの採点は、すぐに手を付けないと各方面にご迷惑をおかけしかねませんから、何とかしたいと思っています。

さらに、来週月曜日にはレベル1の漢字テストがあり、宿題プリントを回収することになっています。レベル1は、勉強(授業)内容は難しくないのですが、細かいところまで目配りをしておかないと、変な癖がついてしまわないとも限りません。

それから、受験シーズンですから、その関係の面接練習や志望理由書のチェックや進路相談などといった仕事が飛び込んできます。こちらへいらっしゃった学校さんのお話もしっかりお聞きして、有益な情報へと昇華させて、KCPの学生が他校の受験生との競り合いに勝てるようにしていきます。

そんなこんなで、やること満載のまま、週末を迎えてしまいました。来週いっぱいぐらいまで、授業やら採点やらの締め切りをかろうじてかわす綱渡りの日々が続きそうです。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

重症患者

11月13日(木)

中間テストの試験監督クラスは、その学期に授業を受け持っていないクラスです。しかし、そのクラスに前の学期までに受け持ったことのある学生がいることはよくあります。というか、必ず何人かいると言ったほうがより正確でしょう。

午前中に入ったクラスは、半分ぐらいが先学期私が受け持った学生でした。9時のチャイムと同時ぐらいに滑り込んできたFさんは、先学期もギリギリセーフかアウトかが多かった学生です。相変わらずだなあと思いました。出席する日は朝早く来るCさんも、そのまんまでした。

「学生証を机の上に、ケータイ・スマホはカバンの中に。テストを提出しても教室の外に出ないでください。教室の中で勉強するのは構いません」など、テストの注意を伝えて、テストを始めました。上級クラスともなれば、“勝負”に出る学生はめったにいません。監督者として教室の中を歩き回りはしますが、カンニングの現行犯逮捕というより、未然防止が主たる目的です。

聴解テストの最中に見回りをしていたら、一番後ろの席のYさんがスマホを見ていました。ちらっと見えた画面からすると、SNSを見ていたようです。聴解問題の音声が流れていますから声を出すわけにいかず、スマホを指さして机の中にしまわせました。他の科目だったらスマホを取り上げるところですが、他の学生への迷惑を考えるとこの辺で妥協せざるを得ませんでした。

Yさんは先学期も授業中はスマホに集中し、依存症ぶりを遺憾なく発揮していました。中間テストの最中でも我慢できずにいじってしまったとなると、病状はさらに悪化したようです。これでは入試でもやりかねません。もちろん、失格・不合格です。その大学に“KCPの受験生は要注意”なんて思われるようになってしまったら、個人レベルの問題ではなくなります。

Yさんはスマホ断ちをしない限り、日本中どころか、世界のどこへ行っても、大学進学など無理です。火曜日のこの稿で取り上げたJさんも重症だと思いましたが、Yさんはそれ以上です。残念ながら、スマホ依存症回復コースは、KCPにはありません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

先生になりました

11月12日(水)

午前中、午後の授業の準備をしていたら、「先生、お客さんです。10年以上前の卒業生だそうです」と呼び出されました。

受付まで出て行くと、髪に白いものが交じり始めたKさんが軽く頭を下げました。Kさんは指定校推薦でM大学に進学しました。そこで博士を取り、日本で就職しました。ここまでは、だいぶ前に顔を見せてくれた時に語ってくれました。そして、この春に母校のM大学にスカウトされて、教壇にも立っていると言います。名刺の肩書は“講師”となっていますが、准教授になる見通しはついているみたいです。

KCP時代のKさんは、とにかく努力家でした。努力を続けられるという、貴重な資質を有していました。M大学に進学できたのもこの努力の賜物でした。10年近くかけて博士号を手にしたのも、この稀有な才能のなせる業に違いありません。さらに、就職先で実績を上げ、大学院までに学んだことを実践し、このたび母校に戻ったのです。普通の人にはなかなか歩めない道のりです。

Kさんは留学生入試にもかかわっていますが、最近の留学生は自分たちの頃よりレベルが低いと嘆いていました。M大学について研究せずに、単にEJUの点数だけで志望校を決めてくるので、面接しても入りたいという意欲があまり感じられない受験生が目立つとも言っていました。

今のKCPには受験生時代のKさんより日本語ができる学生がおおぜいいます。しかし、目標に向かって突き進む力はだいぶ劣るような気がします。また、KCPにも点数合わせで志望校を決める学生がいます。そんな学生がM大学を受験したら、Kさんに笑われてしまいそうです。「先生、どんな教育をしているんですか」などとねじ込まれたら恥ずかしいです。

Kさんに尻を叩かれた私は、気合を入れてレベル1の教室に入りました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ