絶望的?

10月2日(木)

面接練習をしたいということで朝9時に呼んだHさんが、9時になっても来ませんでした。よく遅刻する学生ですから、そのうち「寝坊しちゃいました」なんて、頭をかきながら入ってくるのではないかと思っていたのですが、9時半になっても何の連絡もありません。10時から打ち合わせが入っていますから、今さら来られても、ろくな面接練習ができません。

10時の打ち合わせが終わり、1階に下りてきたのが11時過ぎ。Hさんが来た気配はありませんでした。席に戻ると、下痢をしたので遅れるというHさんからのメールが10時過ぎに入っていました。しかし、私は12時に病院の予約を入れていましたから、中途半端な時間に来られても待たせるだけになってしまいます。12時半に来いというメールを送って、病院へ向かいました。

病院は待ち時間もなく、検査の結果を聞くだけでしたから、あっという間に終わってしまいました。「異状なし」と告げられただけです。ですから、12:15には学校に戻っていました。

結局、Hさんが来たのは12:45頃でした。言い訳を聞く時間も惜しいので、すぐに面接練習を始めました。意地悪な質問もしましたが、Hさんは黙り込んでしまうことなく、苦し紛れではなさそうなまっとうな受け答えをしてくれました。他の質問も水準以上の内容でした。しかし、言葉使いがいけません。Hさん自身は後で緊張していたと言っていましたが、「やっぱ」とか「めっちゃ」とかくだけた言い方が随所に出てきました。本番でこの話し方をしたらアウトだろうなと思いました。

自分の思いを口から訴えられない学生が大勢いる中で、どんどん言葉が出てくるHさんは頭の回転の速さも感じられ、立派なものだと思いました。でも、タメ口に近い話し方では、お堅いイメージのあるG大学は拾ってくれないでしょう。

それよりも何よりも、受験当日に下痢だろうと頭痛だろうと発熱だろうと、大幅遅刻は門前払いです。そもそも体調管理ができないような受験生には、合格の資格などありません。あさっての朝は、ちゃんと決められた時間までに行ってくれるでしょうか。それが一番不安です。

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本番

10月1日(水)

先週末、SさんからT大学に提出する志望理由書の添削を頼まれました。誤字脱字はありませんでした。それぐらいはAIが見てくれるのでしょう。直さなければ絶対に落ちるだろうというような、致命的におかしな部分もなく、このまま出してもどうにかなりそうな感じはしました。しかし、T大学は“ダメではない”程度で入れてくれる大学ではありません。何か光るもの、とがった部分が欲しいところです。Sさんの志望理由書に最も欠けているのがそれでした。土台が他大学に出した志望理由書で、それに多少手を加えてT大学向けに書き直したものです。そういう文章になる方が自然であり、右から左へと流れ作業でこなして書き上げた文章という感じが拭えませんでした。

そういう意味のことを返信すると、丸一日ほど経ってから、改訂版が送られてきました。今度は自分で調べ考え、字数制限に合わせて推敲を繰り返したと思われる志望理由書でした。どこの大学にも通用しそうな内容が消え、その代わりにT大学の特徴をとらえた志望理由が書かれていました。だいぶとがってきたかなという印象でした。これ以上とがらせると、お読みになる先生によっては嫌悪感を抱かれるのではないかと思い、不自然な日本語表現を指摘してOKを出しました。

程なく、そこを直して志望理由書が無事完成したというメールが届きました。T大学の出願はこれからですが、このくらい時間に余裕を持って動いてもらいたいものです。明日締切なんていう時に志望理由書を送り付けられても、こちらも焦ってしまい、じっくり読んで手を加えるどころではありません。

さて、Sさんの志望理由書は私の手を離れました。次は面接練習でしょうか。面接練習と言えば、明日は朝からHさんを鍛えなければなりません。

受験の秋、本番です。

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カラリ

9月26日(金)

18日以来、8日ぶりに最高気温が30度を超えました。日中外出しましたが、気温の高さは感じたものの、肌を包み込むような熱気はなく、日陰に逃げたいという暑さではありませんでした。空も、先日までのような、いかにも水蒸気をたくさん含んでいそうな白っぽい感じではなく、“天高く”という表現がぴったりくる青さでした。

気象庁のページを見てみると、18日までに比べて、最近は湿度が低くなっています。最低湿度が40%台の日が続いています。18日以前は70%台の日もちょくちょくありましたから、さわやかさの原因はこの湿度の低さにあるに違いありません。

今年ほど夏と秋の境界が明確な年は珍しいのではないでしょうか。夏は9月18日まで、秋は19日からと、スパッと切り分けることができます。真夏日はもう何回かあるかもしれませんが、熱帯夜になることはないでしょう。秋が19日から始まり、彼岸の入りが20日でしたから、「暑さ寒さも彼岸まで」も律儀に具現してくれました。

夏だった頃、今年は秋があるのだろうかという話をこの稿に書きましたが、それはまだ生きているようです。今年はあっという間に気温が下がり、冬は例年より寒いくらいだそうです。“秋の気温は釣瓶落とし”といったところでしょうか。寒い冬が来るなら温暖化は止まったのでは、と思いたくなりますが、これもまた温暖化のせいで偏西風の吹き方が変になり、日本上空に寒気団が訪れるからだそうです。

短い秋になりそうですが、精一杯楽しもうではありませんか。

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謎の会話

9月25日(木)

昨日に続いて、レベル1の会話テスト。

「10月に国の友達が日本へ来ます」「そうですか。どこへ行きますか」「京都へ行きたいです」「京都へ行くなら清水寺がいいですよ。今、秋ですからきれいですよ」「昼ご飯、何を食べますか」「京都ならおいしい料理がたくさんありますよ」「私は松屋の牛丼を食べます」「京都は松屋やすき家の牛丼じゃなくて、京都の食べ物を食べたほうがいいですよ」

…というような、話が通じているのかいないのかよくわからない会話が続きました。わあたしは筋を追いかけるので精いっぱいでしたが、当の本人たちは妙に楽しそうでした。こんな会話でお互いに意思疎通ができているのでしょうか。テストですから教師が介入するわけにはいきません。もどかしい気持ちを抱えながら既定の字いかんが来るまで会話を聞き続けました。

さらに、このような会話を採点しなければなりません。発音や流暢さはどうにかつけられますが、やり取りそのものの評価や習った文をきちんと使っているかどうかとなると、頭を抱えてしまいます。上述の場合、「昼ご飯、何を食べますか」と質問した学生は、話題を変えようとしたのです。レベル3あたりなら「ところで」などという便利な接続詞を使ってくれるのでしょうが、レベル1の学生にはそんな器用なまねは望むべくもありません。

逆の見方をすると、このやり取りは中級あたりの教材に使えるかもしれません。「これじゃ何を言っているかわからないでしょう。だから接続詞って大事なんですよ」という方に学生の頭が向かないものでしょうか。

採点は一応終わりましたが、明日、醒めた目でもう一度録画を見てみるつもりです。

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牽引力

9月24日(水)

レベル1の期末テストの1科目として、会話テストをしました。中間テストでは教師と学生の会話でしたが、期末テストでは学生同士でしてもらいます。教師と学生なら、教師がリードして、時には手加減をして、会話を進めていけます。しかし、学生同士ではそういうわけにはいきません。お互い協力し合って会話を作り上げていくところに、中間テストにはない難しさがあると言えます。

最初はSさんとKさんのペア。教室ではSさんの方が1ランク上という感じです。課題を見せると、SさんがKさんに話しかけ、Kさんがそれに答えました。その答えを聞いてSさんがさらに質問するという流れが続きました。Sさんは、Kさんが質問の意味を理解していないと感じると、言い方を変えて質問していました。教室での力の差がそのまま会話テストにも現れたなと思いました。

次のMさんとGさんは、教室ではGさんの方がよく話します。Mさんはめったに口を開きません。ところが、課題を示すと、Mさんが先手を取ってGさんに質問して会話が始まりました。その後は、MさんがSさん、GさんがKさんで、Mさんが会話を引っ張り続けました。Mさんがここまで話をするなんて、全く予想できませんでした。Mさんはおとなしいですがコツコツじっくり勉強するタイプで、それがここで一気に花開いたという感じでした。

SさんとMさんは、相手の反応を見ながら会話を作り上げていく力が備わっていました。大したコミュニケーション力だと思います。レベル1でも期末テストになるとここまでできるようになるのです。こちらも勉強になりました。

その次のAさんとBさんは、2人ともよくしゃべる学生ですから、会話テストでも話が盛り上がりました。これは予想通り。そのまた次のZさんとYさんは、ペーパーテストでは点を取りますが、会話力には巨大な“?”が付く2人です。これまた予想通り、竜虎相打つと申しましょうか、ハラハラドキドキさせられました。

AさんとBさんは、SさんやMさんのような会話の牽引役が務まるでしょう。ZさんとYさんはどう見ても牽引役にはなれそうにありません。KさんとGさんは、ZさんやYさんが相手なら、いわば追い詰められて、会話を引っ張るのではないかという気がします。この成長の差はどこから来るのか、それを突き止めるのが今後の課題です。

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条例成立

9月22日(月)

愛知県豊明市のスマホ条例が可決成立しました。10月1日から施行されます。市議会では19人中12人が賛成したそうです。罰則規定はないものの、スマホの利用制限を謳った条例は全国初です。この条例は今学期、上級の授業「社会を知る」で取り上げましたから、関心を持って見ていました。

条例では、1日のスマホ使用時間を2時間以内にすると規定されています。この2時間には職務や学習で使用する時間は含みません。余暇時間に趣味・娯楽などで使うのが規制の対象です。

この稿でも散々述べてきたように、授業中もスマホが手放せない学生が少なからずいます。依存症的症状の学生も、各クラスに1人や2人はいるんじゃないでしょうか。息抜きでスマホを見るのはともかく、スマホが体の一部と化しているのではないかと疑いたくなるような使い方は異常です。

だいぶ以前の卒業生Gさんは、今思うと、スマホ依存症の走りでした。どんなに注意してもスマホを手放そうとしませんでした。自分で依存症だと言っていました。理数系のセンスのある学生だったのですが、EJUのようなマークシート方式の問題はできたものの、答案を書く問題は最後までできませんでした。それができたら、かなり“いい大学”に入れたことでしょう。しかし、進学したのは、Gさん自身も少し不満の残る大学でした。

最近、「ルポ誰が国語力を殺すのか」という本を読みました。3年前に発売された単行本が今年7月に文庫化されなした。そこにもスマホの問題がありました。KCPで成績が低迷している学生も、実はこの本に取り上げられている例と似たような状況なのかもしれないと思いました。

海外に目を転じると、オーストラリアは、12月から16歳未満のSNSの利用を禁じる法律が施行されます。EUも来年未成年のSNS利用を規制する法案を提出するそうです(日経新聞による)。そういう規制が広まらないと、先進国では少子化で減った子どもの半数がスマホ依存症…などということになりかねないとすら思っています。KCPの学生を見ていると、そんな悪夢が頭をよぎります。

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組み合わせ

9月20日(土)

毎学期実施している上級の実力テストの採点をしました。私のクラスは、予想通りというか順当にというか、授業の時に“こいつできるな”と思った学生が好成績でした。欠席がちな学生や、出てきてもぼんやりしているような学生は、悲惨な成績でした。

この実力テストは、進級の可否には関係ありません。来週の期末テストでしかるべき点数を取れば、実力テストの結果が悪くても進級できます。1つ上のレベルではなく、もう1つ上のレベルに飛び級したらどうかと声をかける時などに参考にします。もちろん、次の学期の教材選定や授業の進め方の決定の際も判断材料の1つにします。

期末テストは、授業で取り上げたことが理解できたかどうかを見るテストです。まじめに出席し、教師の話をよく聞き、グループワークなどにも積極的に参加してきた学生が、点が取れるようになっています。実力テストは、学生にとって初見の文章から問題が作られます。ですから、まじめに出席していなくても点が取れることだってあります。

学生の日本語力をより正確に表しているのは、実力テストでしょう。じゃあ、実力テストの成績順にクラス編成すればいいかというと、そういうわけでもありません。やっぱり、クラス内にも多様性が必要です。同じタイプの学生ばかりだったら、刺激に乏しいクラスになってしまいます。

そういう意味では、今の私のクラスはほどほどに成績もキャラクターも人生経験もばらついています。グループ活動をすると、学生たちは毎回“へーぇ”と感じさせられているようです。

とはいえ、このクラスも解体しなければなりません。どんな組み合わせにしたら、学生たちに新しい“へーぇ”を配給できるでしょうか。

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秋初日

9月19日(金)

すっかり秋めいちゃいましたねえ。今朝の最低気温は18.6度で、東京の気温が20度を割ったのは3か月ぶりだとか。また、日中の最高気温は26.3度でしたが、この前の日曜日は最低気温でさえ26.6度でした。昨日まで生暖かかった外階段の金属製の手すりも、12:15に授業が終わって1階へ降りて来る時でも触るとひんやりしました。

気象庁の観測データを細かく見ていくと、昨日の午後3時頃を境に、南ないし西寄りの風だったのが、北ないし東寄りの風に変わりました。ほぼ同時に、それまで北陸地方の沿岸にあった前線が、関東南岸にまで南下しました。東京の気温は、10分間で2度余り下がり、その後も下がり続けて、秋に突入しました。同じころ、大阪でも20分で4度下がりました。秋の空気が入り込んだのです。

急に涼しくなったせいかどうか知りませんが、毎朝早く登校してラウンジで勉強しているSさん、今朝はのどが痛いとのことで、かすれた声で「おはようございます」と挨拶していました。私の教室では、暑がりのCさんがエアコンを強くすると、寒がりのLさんは比較的気温の高い窓際でも震えていました。クラスのみんなが一致団結してエアコンがんがんなら話は簡単なのですが、こういう微妙な気温の時期は、室温のかじ取りが難しいです。

先日のこの稿で、“10月1日に衣更えができるだろうか”と書いてしまいましたが、この調子だと滝のような汗を流しながらスーツ姿という最悪の事態には陥りそうにありません。予報によると、真夏日は復活しても、熱帯夜は打ち止めのようです。

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明るい顔

9月18日(木)

Hさんが今学期で退学します。帰国して、国で勉強して、大学受験の際は短期ビザで来日するそうです。出席率があまり芳しくなく、出席しても机を枕に寝ていることがたびたびありました。すでに上級まで来ていますから、ここで退学したとしても学び残したことはさほど多くないはずです。

退学届けを出した報告に来たHさんの顔つきが今までになく明るくすがすがしく、私たち教師から、何で休んだんだとか、授業中に寝るなとか、どうして宿題をしてこないんだとか、小言を言われ続けてきた毎日が、よほど重苦しかったのでしょう。そういうのから解き放たれればのびのびと勉強ができ、受験にもプラスに作用するかもしれません。

そう考えると、日本語学校の教師なんて、因果な商売です。本人のためと思って注意したり指導したりしても、それが裏目に出ることが稀ではありません。授業の時にHさんの笑顔を見たかったですが、教師としての務めを果たそうとすると、それがかなわないんですよね。

留学ビザの制度や留学生入試の仕組みを基準に考えると、やっぱり学生には厳しく当たらなければなりません。普段優しく接していても、最後の最後には真反対の態度を取らざるを得なくなります。それなら日々悪役を続ける方がましでしょう。

私の方も、もうHさんと対立する必要がないと思うと、肩の力が抜けました。期末テストまであと3回しか授業がありませんが、何とかKCPはあなたの敵ではないんだよ、退学してもいつでも力になるよとメッセージを送りたいです。

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会話テスト不合格

9月17日(水)

レベル1は、今、授業中に会話テストをしています。1日に2ペアぐらいずつ、その場で課題の絵を見せて、会話を作り発表してもらいます。課題の絵と言っても、学生にとっては初めて見る絵ではなく教科書に載っている絵ですから、手も足も出ないなどということはありません。教科書丸暗記を披露するのではなく、自然な会話を聞かせてほしいのです。さらに、教科書にはないオリジナリティーが加わっていれば、高得点につながります。

こういう仕組みなら、誰でも好成績が挙げられそうですが、そうは問屋が卸しません。Fさんはその典型です。テストではそこそこの点を取るのですが、話すことに関してはからっきしだめです。授業中に自ら進んで発言することはなく、例えばます形を与えてて形を言わせるなどというのをやらせてみても、まともに答えられたためしがありません。指名されて漢字教科書の例文を読むのが精いっぱいの所です。

そのFさんの会話テストがありました。ペアの相手はTさんでした。昨日会話テストだったのに休んでしまったという負い目があるのか、Fさんをたきつけて会話を盛り上げようとしますが、Fさんにはそう簡単に火が付きません。結局、Tさんの闘志(?)が空回りして終わってしまいました。私の採点は、Tさんは合格点、Fさんは甘くつけても合格点には届きませんでした。

KCPでは会話を重視していますから、このままでは、Fさんは進級できないかもしれません。でも、進級させたら上級になっても話せない学生を生み出すことに直結してしまいます。面接試験が重視される留学生入試においては、非常に不利であることは言うまでもありません。でも、おそらく、Fさんには危機感などないんですよね。

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