ちゃんと読んでね

11月18日(火)

先週の火曜日の選択授業小論文は中間テストでした。その中間テストを1週間かけて添削し、成績をつけ、学生に返却しました。学生は、当然ながら、私の評価を一番気にしますが、私が本当に気にしてもらいたいのは、添削の部分です。自分の書いた文章がどのように直されたか、しっかり見届けることで、次の小論文の質を上げてほしいとずっと思っています。しかし、学生は見てくれないんですよね。すぐに新しい課題を与えると、同じような間違いを繰り返し、こちらも同じような直しをしなければなりません。

こんなことを続けていては進歩が見られないと思い、今週は各学生の小論文からいただけない文を抜き出し、それについて解説しました。言いたいことはわかるけど表現がおかしい文、何が言いたいかさっぱりわからない文、やたら長くて意味不明になっている文、小論文の結論としては全くパンチのない文、文意はわかるけど表現レベルが初級にとどまっている文、そういった文を取り出して、なぜそれではいけないのか、どう直せばいいのか、あるいは手の施しようがないのか、などを細かく解説しました。

「この文は、大学入試の採点官は絶対理解できません。ここから先、読まないで不合格にしちゃいますよ」なんて調子でボコボコにした文もありました。そう評された学生は、さぞかし耳が痛かったことでしょう。そして、私が入れた赤を参考に、返却した小論文を清書してもらいました。いつもより取り組み方が真剣でしたから、少しは心に響いたのかもしれません。

終業のチャイムが鳴って清書を提出してもらい、教室の片づけをしていると、KさんとSさんが質問に来ました。中間テストはイマイチの成績だった2人ですが、質問の内容は当を得ていました。気が付いてほしいと思ったことについて質問してきました。

まだ清書を読んでいませんが、期待できそうな感じがします。

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油断大敵

11月17日(月)

レベル1のクラスで初めての漢字テストがありました。レベル1は中間テストの少し前から漢字の勉強が始まり、中国人以外の学生たちも少しずつ漢字に慣れてきたころです。

毎学期のことですが、レベル1の漢字テストで悪い点を取るのは中国人の学生です。彼らにとっては易しすぎて勉強する気にもならないのでしょう。しかし、「このほん(     )は、三千円(     )です。」などという問題に、中国の簡体字を書いたり“さんせんえん”と答えたりしてしまうのです。Cさんは90点でしたが、間違えた問題は手紙と時計の読みでした。ちなみに、中国人以外の学生たちは、満点かそれに近い点でした。

「手紙」はCさんだけではなく、中国人の学生の半分ぐらいが「てかみ」と書いていました。こういう学生は、話すときも「てかみ」と発音しているケースが多いです。「さんせんえん」も同様です。Tさんは「中国」に対して「ちゅうごう」と書いていました。Tさんの発音は、確かに「ちゅうごう」に近いです。「てかみ」でも「さんせんえん」でも「ちゅうごう」でも、話し言葉の中なら文脈がありますから、誤解が生じることはまずないでしょう。しかし、聞き手の日本人に違和感を生じさせ、“下手!”という印象を与えてしまうことだってあるでしょう。

漢字テストは、これから期末テストまで、数回予定されています。初回の漢字テストで思わぬ不成績だった中国人学生たちも、きっと巻き返してくれることでしょう。ここできちんと気を引き締めれば、十分に間に合います。

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台風が来ませんでした

11月15日(土)

11月も半分が過ぎましたが、気が付いてみると、今年は東京地方には台風が来ませんでした。“えっ、八丈島は、先月、2つの台風が連続して来たじゃありませんか”と言われるかもしれませんが、台風が来なかったのは“東京都”ではなく“東京地方”です。

天気予報の世界では、行政区分の東京都を、東京地方、伊豆諸島、小笠原諸島と、3つの予報区に分けています。その中の東京地方は、今年は上陸したり通過したりした台風がなかったということです。例えば、 “福島県浜通り地方には台風が接近して雨風大変だったけど、会津地方は何ともなかった”というように、ある県の一部は台風に襲われたけれども、別の地方は影響がなかったということです。

都庁と八丈町役場の直線距離は286キロほどです。直線距離で言えば、東京~名古屋間よりも遠いです。これだけ離れていればお天気が違うのも当然です。

八丈島は、東京地方に雪が降るかどうかの分かれ目になる地点でもあります。西高東低の冬型が緩み、強い寒気団が関東平野まで出てきて、なおかつ絶妙のタイミングで低気圧が八丈島付近を通ると、都心をはじめ東京地方に積もるほどの雪が降ることがあります。歯切れが悪いのは、寒気の気温や低気圧のコースなど、条件がピシッとそろわないと降雪とはならないからです。八丈島は、そういう結びつきもある島です。

東京地方に台風が来なかった年はこれまでに何回かありましたから、異常気象とか温暖化とかという話とは直接結びつきません。全国的に台風による被害が激甚化している中、台風が来なかったというのはラッキーだったとは言えます。しかし、来年もこうなるという保証は、どこにもありません。

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束になってかかってこられてます

11月14日(金)

昨日の中間テストの採点が、一向にはかどっておりません。火曜日に行った選択授業小論文の採点も、半分ほど残っています。計画では昨日までで小論文の採点は終わっているはずだったんですがねえ。机の上にはテストの束が4つ、小論文の原稿用紙が20枚ほど、デスクトップの中には会話テストの録画が1クラス分、採点を待っています。

私の場合、自分で教材を作らねばならない授業が多く、そちらを優先せざるを得ないため、中間テストの採点を先送りにしているという図式です。それでも、レベル1のクラスの採点は、すぐに手を付けないと各方面にご迷惑をおかけしかねませんから、何とかしたいと思っています。

さらに、来週月曜日にはレベル1の漢字テストがあり、宿題プリントを回収することになっています。レベル1は、勉強(授業)内容は難しくないのですが、細かいところまで目配りをしておかないと、変な癖がついてしまわないとも限りません。

それから、受験シーズンですから、その関係の面接練習や志望理由書のチェックや進路相談などといった仕事が飛び込んできます。こちらへいらっしゃった学校さんのお話もしっかりお聞きして、有益な情報へと昇華させて、KCPの学生が他校の受験生との競り合いに勝てるようにしていきます。

そんなこんなで、やること満載のまま、週末を迎えてしまいました。来週いっぱいぐらいまで、授業やら採点やらの締め切りをかろうじてかわす綱渡りの日々が続きそうです。

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重症患者

11月13日(木)

中間テストの試験監督クラスは、その学期に授業を受け持っていないクラスです。しかし、そのクラスに前の学期までに受け持ったことのある学生がいることはよくあります。というか、必ず何人かいると言ったほうがより正確でしょう。

午前中に入ったクラスは、半分ぐらいが先学期私が受け持った学生でした。9時のチャイムと同時ぐらいに滑り込んできたFさんは、先学期もギリギリセーフかアウトかが多かった学生です。相変わらずだなあと思いました。出席する日は朝早く来るCさんも、そのまんまでした。

「学生証を机の上に、ケータイ・スマホはカバンの中に。テストを提出しても教室の外に出ないでください。教室の中で勉強するのは構いません」など、テストの注意を伝えて、テストを始めました。上級クラスともなれば、“勝負”に出る学生はめったにいません。監督者として教室の中を歩き回りはしますが、カンニングの現行犯逮捕というより、未然防止が主たる目的です。

聴解テストの最中に見回りをしていたら、一番後ろの席のYさんがスマホを見ていました。ちらっと見えた画面からすると、SNSを見ていたようです。聴解問題の音声が流れていますから声を出すわけにいかず、スマホを指さして机の中にしまわせました。他の科目だったらスマホを取り上げるところですが、他の学生への迷惑を考えるとこの辺で妥協せざるを得ませんでした。

Yさんは先学期も授業中はスマホに集中し、依存症ぶりを遺憾なく発揮していました。中間テストの最中でも我慢できずにいじってしまったとなると、病状はさらに悪化したようです。これでは入試でもやりかねません。もちろん、失格・不合格です。その大学に“KCPの受験生は要注意”なんて思われるようになってしまったら、個人レベルの問題ではなくなります。

Yさんはスマホ断ちをしない限り、日本中どころか、世界のどこへ行っても、大学進学など無理です。火曜日のこの稿で取り上げたJさんも重症だと思いましたが、Yさんはそれ以上です。残念ながら、スマホ依存症回復コースは、KCPにはありません。

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先生になりました

11月12日(水)

午前中、午後の授業の準備をしていたら、「先生、お客さんです。10年以上前の卒業生だそうです」と呼び出されました。

受付まで出て行くと、髪に白いものが交じり始めたKさんが軽く頭を下げました。Kさんは指定校推薦でM大学に進学しました。そこで博士を取り、日本で就職しました。ここまでは、だいぶ前に顔を見せてくれた時に語ってくれました。そして、この春に母校のM大学にスカウトされて、教壇にも立っていると言います。名刺の肩書は“講師”となっていますが、准教授になる見通しはついているみたいです。

KCP時代のKさんは、とにかく努力家でした。努力を続けられるという、貴重な資質を有していました。M大学に進学できたのもこの努力の賜物でした。10年近くかけて博士号を手にしたのも、この稀有な才能のなせる業に違いありません。さらに、就職先で実績を上げ、大学院までに学んだことを実践し、このたび母校に戻ったのです。普通の人にはなかなか歩めない道のりです。

Kさんは留学生入試にもかかわっていますが、最近の留学生は自分たちの頃よりレベルが低いと嘆いていました。M大学について研究せずに、単にEJUの点数だけで志望校を決めてくるので、面接しても入りたいという意欲があまり感じられない受験生が目立つとも言っていました。

今のKCPには受験生時代のKさんより日本語ができる学生がおおぜいいます。しかし、目標に向かって突き進む力はだいぶ劣るような気がします。また、KCPにも点数合わせで志望校を決める学生がいます。そんな学生がM大学を受験したら、Kさんに笑われてしまいそうです。「先生、どんな教育をしているんですか」などとねじ込まれたら恥ずかしいです。

Kさんに尻を叩かれた私は、気合を入れてレベル1の教室に入りました。

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11月11日(火)

上級の選択授業の中間テストがありました。あさってが読解や聴解など、クラス授業の科目の中間テストですが、選択授業はそれに先立って行われます。

私の担当科目は小論文。まず、先週の授業で書いた小論文を添削したものを返し、簡単に講評。その後、中間テストの課題を配り、書いてもらいました。スマホを見るのは厳禁ですが、上級各レベルで使っている文法や語彙などの資料ファイルは見てもいいことにしました。授業で勉強した表現を実際に使ってみることも勉強のひとつですから。上級の授業で取り上げる表現は硬いものが多く、小論文で事実を叙述したり自分の意見を主張したりするのにはちょうどいいです。上級まで上がってくる学生は、くだけた表現、初級中級で勉強した文法や語彙はそこそこ使えますが、フォーマルな文章語となると、まだまだなところがあります。それを少しでも何とかするのが、この授業の役割のひとつです。

学生たちはスマホをかばんにしまい、課題に取り組み始めました。課題文を印刷した用紙の空白にメモをしながら構成を練る学生、課題文の難解なところを母語に直して理解しようとする学生、いきなり原稿用紙に書き始める学生、しばらく考え込む学生、実に十人十色でした。

終了15分前ぐらいに、Jさんが手を挙げました。行ってみると、書き終わったので提出してもいいかと聞いてきました。読んでみると、1段落目に2つの間違いがありました。それを指摘し、最後まで読み直すようにと指示しました。しかし、机の下に隠した左手にはスマホがしっかり握られており、推敲に関してはあまり期待しませんでした。

Jさんは、1段落目の間違いは直したようですが、私が他を見回っている間に、案の定、スマホを始めました。読み直しよりもスマホを優先したようです。

テスト終了後、真っ先にJさんの小論文を読みました。予想どおり、1段落目は直されていました。しかし、結論の段落は意味不明でした。志望校不合格間違いなしの出来でした。感情的にはF評価ですが、結論の手前までは内容がどうにか理解できるので、お情けのC評価としました。

そして、Jさんをスマホ依存症者リストに加えました。

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入れませんでしたが…

11月10日(月)

昨晩、テレビをつけると、東北地方で地震が発生し、太平洋沿岸に津波注意報が発表されているという緊急情報が画面の隅っこに出ていました。大船渡、釜石、久慈などで10~20センチの津波が観測されたという観測結果も出てきました。幸いにも、それ以上大きな津波は来襲することなく、海面は沈静化していきました。大勢の方が避難したようですが、被害は出なかったとのことで何よりです。

昨日の津波避難に合わせたわけではありませんが、午前中、避難訓練を行いました。地震が発生し、まず、各教室で机の下に身を隠しました。その後、近隣で地震に伴う火災が発生したため校舎から避難するという想定で、教師・学生が教室から校庭へ下りてきました。今回は人員確認を行っただけでそのまま引き返しました。

私はその人員報告を受けるという立場で、校庭に立っていました。避難してくる様子を見ると、学生たちはわりとまじめにやっていました。スマホを見ながらたらたらと歩いてきたなどという不届き者はいませんでした。頭部を保護するために鞄を頭にのせてきたり、煙を吸わないようにとハンカチで口や鼻を覆ってきたりと、一工夫加えて避難してきたクラスもありました。

午後は、教室内で机の下に入るところまでしました。もっとも、私のクラスのKさんは体が大きすぎて机の下に入れませんでしたが。

日本で暮らすのなら、いつ大地震に遭遇してもおかしくありません。本当に3.11並みの大地震に襲われたら慌てるでしょうが、1度でも体を動かしたことがあるのとないのとでは、その後の行動に大きな違いが出るはずです。それが運命の分かれ目になるかもしれません。机の下に入れなかったKさんも、それ以外の方法で身を守るんだという発想をしてくれれば、訓練を実施した甲斐があるというものです。

でも、そういう日が来ないのが、一番いいんですけどね。

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勉強したいこと

11月8日(土)

来週、指定校推薦の面接を控えている学生2名の面接練習をしました。2人とも入試の面接は初めてだと言いますから、面接室の入り方から教えました。この辺は常識的に振る舞えば、失礼に当たることはないでしょう。とはいえ、不安の芽は1つでも摘んでおくに限りますから、きっちり指導しておきます。

Pさんは先学期私のクラスにいた学生です。いくら注意してもタメ口で話す癖が直らない学生でしたが、今学期の担任H先生の厳しいご指導のおかげで、みごとに“です・ます”で話せるようになっていました。意地悪をして、絶対に答えを用意していないだろうと思われる質問をしてみても、崩れることはありませんでした。これは、本物になったのかもしれません。

Qさんは課題の小論文の出来があまりパッとしませんでしたが、面接の受け答えはしっかりしていました。本番でもこれくらいやってくれれば、小論文でマイナスがあったとしても、面接で挽回できるでしょう。

指定校推薦の面接は、落とすための面接ではありません。大学側としては、受け入れた後どのように指導していけばいいか、そのヒント、方向性をつかむという面もかなりあります。ですから、大学で勉強したいことや留学の目的・目標、卒業後の計画などを明確に述べる必要があります。これができないと、大学側は目の前の受験生に何をどう指導していけばいいかわからず、そんな学生には来てもらっても困るという結論にもなりかねません。そんな状況に陥らないように、何を勉強したいかはっきり伝えろと指導しておきました。

来週の後半ぐらいに、直前練習をしておけば安心でしょう。

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教師も勉強

11月7日(金)

あさってが11月のEJU本番ですから、日本語プラスの生物も最後の模擬試験でした。解き終わったYさんに模範解答を渡すと自己採点して、「先生、5番の問題がわかりません」と、できなかった問題について質問してきました。PPTなどを用いて解説すると、わかってくれました。

「先生、塾ではこの辺の知識は勉強しませんでした。でも、よくわかりました」とYさん。塾の教育内容と日本の高校生物のシラバスには若干違いがあるようです。塾の先生はYさんと同国人の大学院生ですから、自分が勉強していないことは教えなかったのでしょう。

教師と言えども得手不得手はあります。でも、広く浅くのEJU生物ぐらいなら、不得手でもどうにかできると思います。どうにかするのが、教師だと思います。たとえ学校で勉強してこなくても、自分で勉強して教えるのが、仕事に対する責任ある態度だと思います。

数年前大活躍したPCR法などというのは、私が若いころにはなかった技術です。RNAワクチンも新しい技術です。私はそういうものも勉強して、少なくとも受験生に教えられるくらいにはなりました。私のような年寄りでもそうしているのですから、学問の第一線で活躍している大学院生なら、自分の習ってこなかったことを勉強してEJUの問題に対抗できるくらいになるなど、朝飯前のはずです。

Yさんは来年6月のEJUで好成績を挙げて、国立大学に進むという計画を持っています。十分可能性があります。私も後押ししていくつもりです。

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