Category Archives: 試験

何が必要?

11月10日(木)

今度の日曜日がEJUの本番ですから、今週までの受験講座はそれに向けての授業をしてきました。過去問解説が中心ですが、問題を解くのに使う理論や公式や知識・常識について質問が出てくることもあります。この期に及んで基礎に戻って…というのはやりたくないのですが、質問されたら答えなければなりません。

Nさんは、先学期まではそういう質問をよくしてきましたが、今学期は全然しません。理解が進んだのか、丸暗記に頼っているのかわかりませんが、ひたすら私の話を聞いています。それに対して、今学期から受験講座を受けているAさんは、わりと遠慮なく質問します。説明が長くなりそうな場合は、授業後に残すこともありますが、嫌がらずに残って解説を最後まで聞いてから帰ります。

Aさんの話によると、国では「これはこういうものだ」という授業ばかりで、“これ”を裏付ける理論やその周辺事項や応用展開などには触れられることがなかったそうです。疑問に思っても、聞ける雰囲気ではなかったと言っていました。どうやら、日本へ来て初めて、Aさんは知的好奇心が満たされ始めたようです。

昨日の文科系数学では、2次方程式の解の公式を導出しました。これは、できない学生には暗記せよと言います。式の変形を見せても混乱するだけですから。でも、昨日の学生たちは筋がいいので、最後までついてきてくれました。解の公式の導出なんか、EJUには絶対に出ません。にもかかわらず興味を持ってくれたことが、とてもうれしかったです。

大学は、知的好奇心の強さがものをいうところです。今のうちから鍛えておいてほしいと思いながら、授業をしています。

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共通テスト

11月8日(火)

数学のS先生が、盛んにJさんを褒めます。Jさんは今学期から受験講座数学を受け始めましたが、他の受講生と比べると、段違いによくできるのだそうです。みんなが1問目で頭を抱えている間に、最後の問題まで解いてしまいます。そして、答えも正しいのです。

受験講座化学の後で、Jさんに話を聞きました。すると、Jさんは国の理科系の大学を中退して日本へ来たと言うではありませんか。数学がよくできるわけです。高校の数学は忘れてしまったと言っていましたが、忘れていても段違いによくできるのだったら、思い出したらどのくらいのレベルになるのでしょう。Jさんは11月のEJUは受けないのだそうですから、その数学的直観力を11月の受験生に貸してもらいたいくらいです。

Jさんが何を狙っているかというと、2024年の大学入学共通テストです。日本人の高校生と同じ一般入試で進学するつもりなのです。最近、そういう外国人留学生が少しずつ増えています。KCPにも3年前ぐらいから現れ始めました。面接試験がないから話すのが苦手な学生にとっては、そのほうが有利かもしれません。また、留学生入試の定員が極端に少ない学部学科なら、一般入試のほうが入りやすいことだってあり得ます。

数学と理科の基礎はできていて、英語も大学で鍛えられたでしょうからひどいことにはならないとすると、Jさんにとっての難関は国語の古典です。来年になったら予備校に通ってそこそこの力はつけると言っていました。

そこまで計画的に考えているのなら、私もできるだけの支援はしましょう。驚いてばかりいるわけにはいきません。

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右の耳から入って・・・

11月2日(水)

KCPでは、前の月の出席率が80%未満の学生には、欠席理由書を書かせます。これは内々の資料ではなく、入管への提出資料として使うことだってあります。公的書類の側面もあるのです。

Cさんは、残念ながら、欠席理由書を書かなければならない学生の1人です。私の授業の日にも姿を見せなかったこともあるし、遅刻も少なくないです。授業後に教室に残して欠席理由書の用紙を渡すと、Cさんはまず欠席日の欄に目をやりました。「先生、私、20日は入試でした。入試の日も欠席ですか」と、少し不満げな口調でクレームを付けました。

入試日は出席扱いにします。しかし、それには条件があります。事前に担任に欠席届を出す必要があります。急いで探してみましたが、Cさんの欠席届はありませんでした。

「Cさん、欠席届を出しましたか、これくらいの小さい紙の」「M先生にもらった紙ですか。それならうちにあります」「Cさんのうちに置いといても意味がないでしょう。どうして出さなかったの。欠席届がなかったら入試の日でも欠席です」「え、そんなこと知りませんでした。いつ言いましたか」「今学期の最初の日のオリエンテーションで言ったはずです」

学生は人の話を聞いていないんですね。うなずいていたからって安心してはいけません。Cさんの場合、先月11日の始業日の時点で、入試まで9日でした。入試まで90日だったら欠席届は他人事でもしかたありませんが、直前と言ってもいいタイミングだったのに、なんで自分事として聞かなかったのかなあ。また、M先生から用紙をもらったのなら、その時点で確認することだってできましたよ。

休み明けの金曜日もこのクラスですから、もう一度注意を促しましょう。ちなみに、Cさんは20日が出席になっても10月の出席率は80%に届きません。そちらも大問題です。

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安全パイは危険

11月1日(火)

WさんはR大学とK大学を受けました。R大学が第1志望でした。手が届くかどうかぎりぎりのところでしたから、出願書類からかなり念入りに準備していました。面接練習も怠りなく繰り返していました。担当された先生方の話によると、まじめな性格が裏目に出て、表情も言葉も非常に硬いとのことでした。どうやらそれが本番の面接でもそのまま出てしまったようで、話が弾むといった感じにはならず、Wさん自身も面接はあまりうまくいかなかったと言っていました。結果は、案の定でした。

R大学はチャレンジ校で、入れたら最高にうれしいといった大学でした。それに対して、K大学は滑り止めのつもりで出願した大学です。安全第一に考え、時分のEJUの点数で受かりそうな学部学科を選びました。“ド田舎”――これが、試験当日、K大学まで行ったWさんが最初に抱いた感想でした。R大学も田舎にありましたが、R大学ならその“ド田舎”に耐えられても、K大学で4年間過ごすのはちょっと…というのが、偽らざる気持ちだったようです。それが表に出てしまい、面接官に見破られてしまったのでしょうか、安全パイのはずだったK大学にも落ちてしまいました。さすがにショックで、落ち込んでいるというメールが担任のM先生に届きました。

やはり、入りたいという気持ちを強く持たねば、合格は難しいです。Wさんよりも成績の低い学生が志望校に受かっているのは、入りたいオーラを出していたからでしょう。Wさんも痛い目にあって考え方を改めたに違いありません。“入れる大学より入りたい大学”という基本に戻って、次の出願に向かっていくことでしょう。

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楽しい思い出

10月31日(月)

私のクラスでは、文法のテストがありました。クラス全員、25分の試験時間をフルに使っていました。苦しげな表情を見せる学生もいました。先週の金曜日が川越小旅行だったので少々お遊び気分が盛り上がりすぎてしまい、週末にあまり試験勉強をしなかったのでしょうか。

授業後、すぐに採点しました。一番上に載っていたAさんの答案を採点すると、選択肢の問題はすべて正解でした。幸先がいいと思いながら、これを模範解答として、他の学生たちの選択肢の問題を先に採点しました。すると、みんなどこか何か間違えているんですねえ。結局、選択肢満点だったのはAさんだけでした。それを一発で引き当てたのは、確かについていたのですが…。

文法テストですから、当然、短文を作る問題もあります。ざっと見ると、白い部分が目立ちました。答えが書けなかったのです。もう少し詳しく見ると、このクラスは漢字の上に読み方を書くルールになっているのですが、それが守られていませんでした。私は試験中2回、フリガナをつけるように注意しましたが、学生たちはその余裕さえなかったのかもしれません。試験時間が余らなかったんですからね。

その短文をじっくり読むと、問題をよく読んでいないことがよくわかりました。“感激にたえない”の前に何か核問題に、“教えてもらいました”的な、“感謝にたえない”ならぴったりくる答えが過半を占めました。「感」だけ見て、「激」は読まずに「感謝」と反応してしまったのでしょう。同様に、問題を読んでいないとしか思えない答えが続出しました。文法以前の問題です。

結局、最高点ですらAさんの77点でした。平均点は……お恥ずかしくてここには書けません。

本日唯一の救いは、授業の最後に川越の話題を出した時、学生たちの顔が一斉に輝いたことです。

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質問魔

10月27日(木)

またまた先週の登場人物が出てきます。受験講座物理を受けているFさんは国立大学を狙っています。Fさんの国では、“いい大学”に入るためには決められた範囲の知識をきっちり覚えることが何より大切なのだそうです。日本はそうではないので、各科目を深く勉強する楽しみがあると言っていました。

私に言わせると、EJUなんか知識の暗記比べの面が強いですよ。解いておもしろい問題が少ないです。何が悲しくてこんな七面倒くさい計算をしなければならないのだろうと感じさせられることがよくあります。そういう問題を解くための勉強でも、Fさんにしてみると楽しいようです。

私も意地で、知識を書き連ねるだけの模範解答にしないようにしています。受験のテクニックも教えますが、その背後や周辺にも触れます。学生によってはそれが無駄話に聞こえるでしょう。非効率的に映るかもしれません。しかし、受験において効率性だけを追求したら、進学後に苦労します。

Fさんは質問が好きなようです。先週に続いて、授業後に疑問点を私にぶつけてきました。相変わらず、その日本語を理解するのに苦労を伴うのが難点ですが、「これは覚えなければなりませんか」的な質問ではなかったところは評価しなければなりません。また、そういう点を伸ばしていきたいものです。

Fさんの質問に答えていたら、あっという間に1時間以上たってしまいました。1階に降りたら、明日の川越小旅行の職員最終打ち合わせが始まる直前でした。

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プレッシャーに耐える

10月5日(水)

朝9時のチャイムが鳴ると同時に、Gさんが面接練習に来ました。Gさんは、先週も面接練習というか、面接相談に来ました。そこで志望理由などの答え方の手ほどきをしました。それを参考に答え方を立て直し、再挑戦に来たという次第です。

しかし、残念ながら、その成果が挙がっているとは言えませんでした。Gさんは日本語を話す力に秀でていますから、それが伝わるような答え方をすることで、点を稼がなければなりません。しかし、Gさんの答えは表面的すぎて、日本語が多少上手なくらいでは得点に結びつかないでしょう。

こういう時、面接練習を受けた学生は、異口同音に緊張していたと言い訳します。おそらく、その言葉に嘘はないでしょう。しかし、面接本番では、緊張していてもそれなりの答えをして、自分の考えを面接官に理解してもらわなければなりません。言い訳は一切通用しません。

酷なようですが、どんなにプレッシャーがかかろうと、最低限のことは面接官に対して主張しなければなりません。本当に表面的な内容しか考えていなかったとしたら、Gさんの志望校・学部・学科を考えると、合格は絶望的だと言わざるを得ません。

そういうことを伝え、もう一度志望理由などの答え方を考えました。緊張のない状態で改めて聞いてみると、練習の時よりはしっかりした答えができました。頭の中がきちんと整理されていないんですね。そんな状態で面接に臨んではいけません。

Gさんのことですから、基本的なことは答えられるように自分で練習するでしょう。来週もう一度面接練習をしますから、その時はもっと厳しい質問もぶつけてみましょう。そうやって、Gさんの志望校レベルまで、Gさんを引き上げていきます。

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緊張

9月30日(金)

約束の時間10時ぴったりに、スーツに身を固めたMさんが来ました。髪もきちんと整えられていて、一瞬、大学か専門学校かの方かと思いました。明日の10時にD大学の面接がありますから、そのちょうど24時間前に面接練習をしようというMさん流のこだわりです。

Mさんは、受験講座や進学相談などで私とは何回も話したことがあります。去年、オンライン授業をやっていた頃からの付き合いです。顔見知りなんていうもんじゃありません。しかし、ノックして教室に入った瞬間から顔つきが違っていました。案の定、「そういう勉強をしようと思ったきっかけは何ですか」と聞いたら、「子どもの頃…」と言ったきり、固まってしまいました。1分ぐらい待ちましたが、うつむいたまま、ピクリとも動きませんでした。

質問を別のに替えたら答えられましたが、いつもの元気さと日本語の滑らかさがありませんでした。一通りやってみたあとで話を聞くと、やはり、頭の中が真っ白になってしまったとのことでした。MさんはEJUの成績が今一つですから、面接で点を稼ぐ必要があります。Mさんの日本語なら逆転でD大学に受かる可能性が十分見込めると踏んで、D大学に勝負をかけたのです。言葉が出てこなくなってしまったら、勝ち目はありません。

Mさんには、答えがすぐに出てこなかった時の対処法を教えました。そうしたら、少しは安心したようで、表情に余裕が出てきました。いざという場合のお守りですが、実はある程度の日本語力がないとできません。でも、私はMさんならできると信じています。

Mさんはその緊急避難方法を聞いて、自分にできると思ったのでしょう。どうやら、どん底は脱したようです。

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期末テストの日

9月28日(水)

「はい、あと10分です。できた人は、出して静かに勉強してもいいですよ。教室の外に出る場合も、他のクラスはテスト中ですから静かにしていてください」と声を掛けると、数名の学生が提出しました。机を抱いて寝ていたSさんも、むっくり起き上がって教卓まで解答用紙を持って来ました。

そのSさんをはじめ、提出した学生全員が、かばんからスマホを取り出しました。外に出た学生はおらず、全員が教室内でスマホをいじり始めています。Sさんは、いつの間にかイヤホンを突っ込んでいるではありませんか。残念ながら、次の試験科目の教科書を開いて勉強を始めた学生はいませんでした。

学生たちはデジタルネイティブですから、スマホに教科書やノートを取り込んでいるのかもしれません。でも、スマホを操作する学生の顔つきや指先を見る限り、勉強している感じはしませんでした。デジタルネイティブだからというよりも、試験時間のほんの数十分スマホから離れただけで、スマホに飢えてしまったといった勢いで、スマホをなでたりたたいたりしていました。その後に提出した学生も、1名を除いてみんな、まずスマホでした。

試験監督が終わって一息ついていると、H先生が「図書室の辞書は借りられますか」と聞いてきました。常識的に辞書類は禁帯出です。H先生がそんなことをご存じないはずがありません。「入試で辞書可なんですが、『紙の辞書に限る』なんですよ」ということでした。学生御用達のスマホは、当然不可。かといって、たった1日の試験のために何千円もする辞書を買うかというと、それもちょっと…。そして、学校に頼ろうとしているわけです。2日が試験で、3日に返すという条件で貸すことにしましたが、その学生、紙の辞書が引けるのでしょうか。

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出直し

9月27日(火)

昨日から、先週行った上級の実力テストの結果をまとめています。どういうまとめ方をしても、Kさんがぶっちぎりの1位です。Kさんを東の横綱としたら、西の横綱は不在ですね。そのくらい差がついて、大関がTさんとZさんです。その次ぐらいから団子になって、三役クラスが数人、以下、前頭が20人ぐらい、十両が同じくらい…と続きます。試験日に欠席した学生は、番付外です。

Kさんは、6月のEJUでも、聴解・聴読解、読解、記述、すべて最高点でした。私のクラスではありませんが、もし、私のクラスだったら、Kさんの答案をまっ先に採点して、それを模範解答にして他の学生のテストを採点しますね。こういう学生が1人いると、教師は非常に楽です。いや、その前に、Kさんに満点を取らせない試験問題を作ることに精力を傾けるでしょう。横綱に土を付けるべく作戦を練る平幕力士の心境です。

さて、実力テスト番付の幕下にもならない位置に、Sさんがいます。SさんとKさんの日本語を比べたら、学生と教師くらいの差を感じます。Kさんには手加減せずに話せますが、Sさんには表現を選びます。Kさんの話はそのまま受け取れますが、Sさんの話は脳内同時通訳を介してから理解します。先日も「ズボンが自転車に入れて、自転車が壊れました」と言っていました。ズボンの裾が自転車に巻き込まれたんですよね。

そのSさん、自分自身でもテストができなかったことを痛感し、来学期は下のレベルで勉強したいと、担任の先生に申し出たそうです。超低空飛行で、中間や期末の試験の点数だけかろうじて合格点を取るということを繰り返し、上級まで来てしまったことが、こういう形で現れたのです。それに気がついただけ、Sさんは偉いです。卒業までの半年で、自分の基礎の抜け穴をしっかりふさいで進学してもらいたいです。

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