Category Archives: 学生

話す力

7月17日(金)

A先生の代講で上級クラスに入りました。このクラスは大学受験の学生を集めたクラスですから、EJUを意識した授業内容になっています。読解や、その基礎となる語彙の勉強をしました。でも、私は可能な限り学生の話をさせようとしてみました。感染防止の観点から、ディスカッションの形はとれません。「どうしてその答えを選んだんですか」というように、単語ではなく文で答える質問を次々としていきました。

このクラスに限らず、オンライン授業の影響で、学生は口が重くなりがちです。必要最小限の単語で済まそうとする傾向が見られます。しかし、そういう答え方では入試の面接は突破できません。他の学生に差をつけるには、文で答えられるようになっていなければなりません。面接官に、この受験生とはコミュニケーションが取れたと思ってもらうには、こういうやり取りを重ねていくことが必要です。

学生たちは、ビビりながらもどうにかこうにか自分の考えを発表していました。日本語の間違いがないわけではありませんでしたが、日本語教師が相手でなくても誤解が生じるような間違い方ではありませんでした。まあ、大した長さの発話ではありませんから、いやしくも上級の学生なら当然と言えば当然です。

いつもの年ならこれから面接の受け答えを練習していくところですが、今年はちょっとやりにくいです。いや、そもそも、入試がきちんと行われるのでしょうか。前期のみならず、後期も全面的にオンライン授業をすることにした大学も出てきています。そういう大学も、入試だけは予定通り実施するのでしょうか。

そろそろ留学生入試の足音が聞こえてくる時期になりました。でも、入試の要項が発表されていない大学が目立ちます。何となく不安を感じます。

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距離感

7月15日(水)

肌寒い日が続いています。東北地方には低温注意報が出ているところすらあります。雨もよく降っています。先々週あたりからずっと日本のどこかで川があふれたりがけが崩れたりしているような気がします。「大雨への警戒はもう2、3日必要です」という注意喚起が1週間以上続いているのではないでしょうか。まあ、安倍首相の「瀬戸際」も2月ごろから続いていますが…。

雨が降っていなければ、校庭の日陰を探して昼ご飯を食べたり教科書を広げたりする学生が見られますが、最近は校庭の入り口の扉も閉まったままです。一部の学生はラウンジに流れています。しかし、ラウンジは、3密回避のため、1つのテーブルに椅子は1脚のみにしています。そんなわけで、昼休みにラウンジをのぞくと、1つのテーブルに1人ずつ、入口に背を向けて、黙々と何かをしています。近寄りがたい空気が漂っています。

もちろん、みんなで仲良くおしゃべりされたら困りますから、これが2020年の東京におけるあるべき姿です。いや、学校としては授業が終わったらすぐ帰宅するように指導していますから、たとえ“黙々と”であれ、ラウンジの椅子が埋まるほど学生が残っているのは、理想の姿ではありません。

それはともかく、こういう状況で学生同士、学生と教師の心的距離を詰めるにはどうしたらいいでしょう。休み時間に親しくおしゃべりをしている学生を見かけると、思わずにらんでしまいます。ざっくばらんに話をしたい学生がいても、ちょっと腰が引けてしまいます。私が担当している受験講座理科は受講生が比較的少ないですから、授業を通して関係を深めるという手もあります。でも、それができるのは“比較的少ない”学生たちだけです。

太平洋高気圧が強まって夏になったら、こういうムードが少しは変わるのでしょうか。

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大活躍

7月14日(月)

午前中はM先生の代講で中級クラス、午後は今週から始まった受験講座の生物と、対面授業を6コマこなしました。こんなにたくさんの対面授業は、2月の下旬以来ですから、4か月半ぶりになります。

午前のクラスの何名かは、先学期、1つ下のレベルで先月1か月だけ受け持っていた学生でした。でも、大部分は初対面ですから、アウェー気分です。そんなことお構いなく、名簿を見ながらバシバシ指名してテンポよく答えさせられるのが、対面のいいところです。オンラインだと、学生側のマイクのON/OFFがあるため、どうしても流れが滞りがちです。そして、私自身マスク越しの対面授業にも多少は慣れてきたのか、アウェーであるにもかかわらず、何回か笑いを取ることができるようになりました。明後日、今学期受け持っているクラスの授業をする時に、この経験を生かしていきたいです。

午後の受験講座は、先学期はずっとオンライン授業でした。同じようにパワーポイントを見せながら授業を進めましたが、実物の学生が目の前にいると、反応もしっかりつかめますし、問いかけもしやすいです。復習問題や応用問題を出して考えさせることができます。オンラインでも考えさせる問いかけはできますが、もう少し考える時間を与えれば答えにたどり着きそうなのか、これ以上時間をかけても答えが出てきそうにないのか、その見極めができません。対面だとちょうどいいタイミングで解説に入れます。

受験講座の各科目は、これからは口頭試問も念頭に置いて、日本語で論理的に話す練習も少しずつしていく必要があります。オンラインでもできないわけではありませんが、対面の方がやりやすいことは確かです。学生に話させてみると、思ったことが日本語で表現できず、非常にもどかしそうな顔をしていました。

明日は、オンラインで6コマ。どんな授業になるでしょうか。

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一抜けた

7月13日(月)

今シーズンの合格者第1号が出ました。9月入学の大学に照準を合わせて、かなり前から準備をしていたそうです。オンライン授業、EJU中止、オープンキャンパスなし、入試日程が決まらない、学生たちの焦りと危機意識の薄さなど、さえない話題が多かったところに、久々の明るいニュースです。

合格したHさんは、9月には、オンラインかもしれませんが、大学の授業が始まりますから、それまでにはKCPを退学します。でも、明日にでも辞めたいと言っていますが、それはいただけません。

まず、入管法を厳密に解釈すれば、大学に入学する2か月も前に日本語学校をやめてしまうと、その間所属機関がなくなり、身分が宙ぶらりんになるため、法律違反となります。今は状況が特別ですから、直ちに帰国しろとはならないかもしれませんが、それはあくまでも「かもしれない」話です。近々、一部の国からの入国規制が緩和されるとの話もありますが、そうなったら「帰国しろ」となるかもしれません。帰国した場合、最近の新規感染者数の増え具合から、Hさんの国が日本への渡航を差し止めることだってあるかもしれません。

それから、2か月ものんびり過ごしてしまったら、入学して授業が始まってからが恐ろしいです。3月にオンライン授業が始まる前に、日本は危ないからと一時帰国した学生がオンライン授業に参加すると、実に見事に日本語を忘れているんですねえ。KCPをやめても日本にいるのですから、一時帰国した学生に比べれば日本語に触れる機会もはるかにたくさんあるでしょう。しかし、国の言葉ですべてが解決するコミュニティー内で生活していたら、どうなるかわかったものではありません。

勉強しなくてもいいならそれで済ませたい気持ちはわかりますが、いやしくも最高学府で勉強しようと思っている学生が、勉強から逃げ出そうとしてはいけません。

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一緒がいい

7月10日(金)

授業後、先学期私が受け持っていたHさんが職員室に呼び出されていました。Hさんは、今学期の担任の先生に恋人と同じクラスにしてほしいと訴えていました。恋人と一緒に勉強できればやる気も湧いてくると言います。

KCPでは、恋人同士は同じクラスにしません。一緒のクラスにすると、ろくな結果を生まないというのが今までの経験からわかっています。学校にいる3時間かそこらの間くらい別々に過ごしたって、恋人は逃げたり消えたりしません。同じ教室で隣に座り、先生よりもお互いの方に目を向けていたら、成績が上がるはずがありません。

YさんとMさんも恋人同士でした。新入生の時、2人とも私のクラスでした。2人の住所が全く同じで、ゲストハウスとかルームシェアとかという形態ではないところでしたから、確かめてみると一緒に暮らしているとのことでした。一緒に暮らすなとまでは言いません。でも、生活を教室まで持ち込んで、いつもくっついているというのはいただけません。座席指定制にして離れた席にしたり、グループワークでは必ず別々にしたりと、こちらも2人が日本語に集中できるようにと工夫しました。もちろん、次の学期からは違うクラスにしました。

でも、2人は休み時間になると、七夕の織姫と彦星よろしく、非常階段やラウンジで会っていました。そんな2人を見ているとほほえましくもありましたが、教室でも同じ調子でやられたらかないません。心がほんの少し痛みましたが、クラスは分けて正解だったなと思いました。YさんとMさんは卒業後も一緒だそうです。

仲がいいのはまだしも、2人が険悪な関係になってしまうと、教室全体に暗雲が立ち込めることもあります。2人は全然違う意味でお互いしか見えませんから、これまた厄介です。教師が下手に口や手を出すと、余計にこじれてしまいます。

Hさんのクラスは変えるつもりはありません。恋路は学校の外で歩んでもらいます。

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おとなしさの陰に

7月9日(木)

新学期が始まりました。今学期の担当クラスは、大学受験の学生を集めたクラスです。6月のEJUが中止になり、11月に懸けている学生たちの切磋琢磨の場です。優れた素質を持った学生たちだということなので、KCPの看板にもなってもらいたいところです。

とはいえ、まだ粗削りなところがありますから、今学期中にどこまで鍛えられるかで学生の運命が決まります。教師が一人で張り切っても意味はなく、個々の学生の伸びようとする意志が必須です。初日の様子を見る限り、よく言えば内に秘めた闘志を感じ、悪く言えば覇気が表に出ていません。戦う集団に育ってくれるのだろうかという不安もよぎりました。

このクラスは通常の日本語の授業もしますが、進路指導もしていきます。EJUが先延ばしになったからと言って、のんびり構えられては困りますから、最初にガツンとという意味も含めて、2021年度外国人留学生入試の出願戦略について話しました。本当は、私が語るのではなく、学生たちと議論をしたかったのですが、闘志は内に秘められていますから、そこまでには至りませんでした。6月が中止になっただけに、自分たちが受験生だという自覚が湧いてきていないのかもしれません。

授業の後処理をして、お昼を食べて戻ってくると、東京の新規感染者が224人というではありませんか。緊急事態宣言の頃よりもひどい数字です。こんな状況が続くと、そもそもまともな入試が行われるかも危なくなってしまいます。大学だって、1年中オンライン授業かもしれません。アメリカはオンライン授業ばかりなら留学ビザを出さないそうですが、学生も留学した気にならないでしょうね。

将来に対するこんな不透明さが、学生をおとなしくさせていたのかもしれません。

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敬語

7月8日(水)

おとといに引き続き行った養成講座の授業のテーマは待遇表現。敬語が中心でした。敬語はみんなの日本語の49課と50課、初級の最後に勉強します。毎学期、学生たちが苦労させられるところです。でも、みんなの日本語レベルの敬語が使えれば、日本社会でそれなりにやっていけます。いや、49・50課を身に付けたら、“ガイジン”などと侮られることは絶対にないでしょう。

その敬語ですが、養成講座受講生のみなさんも、毎期、かなり苦労なさいます。尊敬語と謙譲語を混同するくらいは当たり前で、敬語の誤用訂正となると、ほとんどお手上げ状態ですね。社会経験のある方でも、そうそうすんなりいくものではありません。だって、KCPの教師ですら、よーく聞いてみると完璧とは言えませんからね。他人の敬語の間違いに気づいて一人でにやけている私みたいな人種が異常なのです。

毎回話題になるのは“おられる”です。「社長は会議室におられます」「先生はラウンジでくつろいでおられます」は、敬語という観点から正しいかどうかです。“目上の人がどこかにいる”または“目上の人が何かしている”という意味で“おられる”を使っていいかと聞かれたら、少なくとも私は絶対に使いません。

“おる”は“いる”の謙譲語です。その謙譲語を尊敬動詞にしたところで、根本のところでへりくだっているのですから、目上の人に対して敬意を表したことにはなりません。ただし、西日本では「どこにおったん(=どこにいたの)」「ちょっと子供見とって(見ておって=見ていて)」のように、謙譲とか尊敬とか関係なく“いる”の意味で“おる”を使います。ですから、西日本の方の“おられる”は、尊敬動詞と考えてもいいでしょう。

日本語教師を目指そうという、日本語に対する意識が高い方々にとってもこれぐらいややこしいのですから、学生がすぐには使えないのも当然です。明日から、また学生たちがそれに向かって挑戦していきます。

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6月22日(月)

朝から雨で気温が上がらず、先週風邪で休んだSさんは、厚手のセーターを着ていました。換気のため窓とドアを開け放った教室は風通しがよすぎて、Sさんぐらいの服装がちょうどよかったかもしれません。

私は漢字の採点を担当しました。平均点は70点前後で、去年までの期末テストと大差がありません。満点に近い学生もいれば、1桁の学生もいます。同じレベルでもずいぶん差がつくものだというのも、いつもの学期の感想と同じです。ただ、今回は、中間テストと比べると、大半の学生が大きく成績を下げていました。

中間テストのころは、まだ全面的にオンライン授業でしたから、中間テストもオンラインで実施されました。どういう出題のしかたをしたかは詳しくはわかりませんが、スマホやタブレットで答えられるような出題方式だったことは確かです。中間テストは電子的に答え、期末テストは手書きで答えたのです。この差が、多くの学生の成績が下がった理由にほかなりません。

ここで考えなければならないことは、学生の実力をより正確に表しているのはどちらの方式かということです。それを判定するには、学生に求められる漢字力はどちらの方式で測った力に近いかです。ここまで考えると、紙に鉛筆で漢字やその読み方を書く方式が優れているとは言い切れないような気がします。

現在は、ワープロで文字を書くのが標準です。私も、この稿もそうですが、手書きで文章を書くなどめったにありません。それこそ、学生の作文を添削するときぐらいでしょう。となると、おそらく選択式だったオンラインの漢字テストの方がより現実的な漢字力を見ていると言えないこともありません。

これからは、テストの出題方式も成績の算出法も、考え直さなければならないでしょう。これもまた、コロナ後の1つの表情でしょう。

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6月20日(土)

午前中は受験講座EJU、今学期最後の授業をしました。学期初めの計画では、「明日はいよいよEJU本番です。この授業を通して伸ばしてきた実力を発揮すれば、きっといい成績が取れるでしょう。今晩は早めに寝て、明日に備えてください」なんて挨拶をするはずだったのですが、肝心のEJUが中止になってしまい、はなはだしい空振りになってしまいました。

やはり、EJU中止が本決まりになってから、目標を見失ったのか、参加しなくなった学生が何名かいました。次の目標が5か月先となると、気も抜けてしまいますよね。だからこそ、最後まで休まずに出席し続けた学生たちの方をほめるべきでしょうか。

このEJUの中止について、今週になって朝日新聞が取り上げました。その少し前には、神戸新聞も取り上げています。でも、それ以上の広がりはありませんでした。世間の人々にとっては、大学入学共通テストの日程追加や、文科省が各大学に入試範囲の縮小を依頼したことが大きなニュースです。留学生よりうちの息子や隣のうちのお嬢さんです。

日本人の高校生が受ける入試は、こういう形でコロナ禍による授業の遅れへの配慮が見られます。留学生入試はどうなのでしょう。自粛で家にこもりっきりだった今年の日本語学校生は、去年までの学生に比べて発話力が弱いです。例年と同じ基準でばっさり切られてしまうと、留学生にとっては辛いですね。量より質ということで、定員厳格化もあり、情け容赦なくやられてしまうのではないかと、教師も落ち着きません。

同時に、日本に残っている日本語学校生も少なくなっているはずですから、案外楽には入れちゃうんじゃないかと、甘い期待も寄せています。しっかり見極めていかなければなりません。

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会話が弾む

6月19日(金)

午前の授業が終わった後、アメリカの大学のプログラムできている学生の面接テストをしました。月曜日に行われる文法や読解などのペーパーテストのほかに、このプログラムでは会話力も測定します。

私が担当した2名はどちらも上級の学生でした。マスク越しというハンデがあるにもかかわらず、発音が不明瞭になることもなく、あっという間に規定の時間が過ぎました。さすがに上級ですね。手加減せずに話しかけてもこちらの言っていることをきちんと理解し、適切な応答をしました。自分で会話を膨らませていくすべも身に付けていて、話がどんどん広がっていきました。

もちろん、ミスが皆無だったわけではありません。しかし、聞き手である私に誤解を与えるような間違え方ではなく、コミュニケーションを取る上では何の支障にもなりませんでした。陰険な日本語教師が相手だから重箱の隅をほじくり回して小骨の先っぽのような異物を摘出しますが、普通の日本人だったら気づかなかったかもしれません。私が今学期教えた中級の学生たちも、あと1学期か2学期のうちにこのくらいまで話せるようになってくれたらと思いました。でも、たぶん無理だろうなあ…。

Sさんは、納豆以外の和食はすべて食べられると豪語しました。自分以外はみんな日本人という会社への就職が決まっています。Sさんの会話力なら十分務まるでしょう。

Cさんは明治大正時代の日本史・日本文化、特に建築に興味があると言いました。具体的にどんな建築かと聞くと、きちんと答えが返ってきました。大学でその方面の勉強をするそうです。

しっかりした目標と興味を持っているからこそ、日本語の勉強にも身が入り、力がどんどん伸びたのでしょう。漢字の国ではないところから来て、初級で入学し、順調に進級してきているのです。立派なものです。

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