Category Archives: 学生

早いもので

4月5日(水)

私がKCPにお世話になり始めたのは、ちょうど2000年のことです。今年は2017年ですから、来年あたりはそのころ生まれた子どもが新入生として入学してくる計算になります。私が社会人として働き始めたころに生まれた世代は、既に学生適齢期を過ぎ、今では見かけることもまれです。前の会社に勤めていたころは、一回り下の新入社員が同じ部署にやってきたとき腰を抜かすほど驚いたものですが、今では三回りよりももっと下の学生を相手に右往左往しています。

夕方、私がKCPの教師になって間もないころの学生Sさんが、姪を連れてやってきました。国の高校を出たばかりで、今学期からKCPで勉強し、日本で大学進学を目指すといいます。日本語は多少はわかるようでしたが、私たちの話のスピードにはついていけず、ニコニコ笑っているばかりでしたが、1か月もすれば日本語の勉強も進んで、緊張もほぐれて、教師にも普通にしゃべれるようになっているでしょう。

SさんはKCP卒業後、大学に進学し、そして誰もが知っている有名企業に就職しました。日本人ならその会社に定年までいることでしょうが、Sさんは周りからの慰留を振り切って辞めてしまいました。最近でも当時の上司から復帰しないかと声をかけられているそうですから、よほど優秀な社員だったのでしょう。

Sさんの日本語は日本人と変わるところがありませんが、どんなに引き止められても大企業からポーンと飛び出してしまうあたりは、変なふうに日本の色に染まっていないなと思いました。姪御さんはSさん宅に住まわせるそうですから、学生時代のSさん同様、きちんと勉強させてくれるでしょう。Sさんの目尻のしわに、時の流れとともに頼もしさも感じました。

地下水流

3月29日(水)

最上級クラスの期末テストの採点をしてみると、大学院で日本語教育を専攻することにしているSさんは、さすがにそれだけのことがあるという成績を挙げています。正解者がSさんしかいなかった問題もありました。その一方で、今年大学受験の予定のYさん、Hさん、Cさんあたりは少々振るいませんでした。この学生たちはそれなり以上の難関校を狙うつもりでいるようですが、先行きに暗雲が垂れ込めているような成績でした。

何より、筆答問題に十分に答えられていないのがとても気になります。3人とも話す力は十分ありますが、書く力には不安を覚えざるを得ません。選択問題のおかげでテストの点数は合格点に届いていますが、この学生たちが考えている大学の入試には日本語の独自試験や小論文などがあります。EJUだけで勝負が決まるならともかく、筆答問題を苦手にしていては、未来が開けてきません。

実際の入試までにはまだ少し時間がありますが、今のうちから頭の中の考えを文字化する力を鍛えていかないと、不完全燃焼のまま入試シーズンが過ぎてしまいかねません。私が来学期この3人を受け持つかどうかはまだわかりませんが、新学期の担任の先生には是非引き継いでおきたいです。

もちろん、3人にはこのことをはっきり伝えます。好きなように勉強させておいたら絶対に筆答問題の練習はしないでしょうから、意識してそういう訓練を積むようにアドバイスします。テストの成績とともに、いやでも苦しくてもあらゆることを文章で表現することこそが明るい未来につながると訴えていきます。

3人にとっても、ここでどこまで踏ん張れるかが日本留学の正否を決めます。そして、自分の人生をかけて日本留学をしているのですから、これからの半年あまりが人生の分かれ目なのです。学期休みでのんびりしているかもしれませんが、実は結構大変なことになっているのですよ、Yさん、Hさん、Cさん。

観察記録

3月24日(金)

期末テストの楽しみは、ふだん出会うことのない学生との触れ合いがあることです。午後は初級クラスの試験監督でしたが、知っている学生は1人だけでした。ですから、知らない学生がどんな学生かあれこれ想像を働かせてみます。問題の解き具合を見て、この学生はできそうだとか、進級がちょっと危ないのではないかとか、机に向かう姿勢から、勉強が好きそうだとかそうでもなさそうだとか、妄想を膨らませています。

試験監督の役割は不正の未然防止ですから、まじめな学生のクラスだとこれといってすることがありません。午前中のテストの採点をすることもありますが、熱中してしまうと本末転倒になりかねません。試験問題を解いてみるのもいいですが、それだってすぐに終わってしまいます。そうなると、学生観察に勝るひまつぶしはありません。

問題の解き方を見ているのも面白いですね。Aさんは注意すべき助詞に〇をつけて、慎重に言葉を選びながら答えを書いていました。Bさんはやや小さめの几帳面な字で、上級のよくできる学生たちの書く字に似ています。Cさんは読解の問題文の要所要所に線を引いていますが、その線が多くなりすぎて何が何だかわからなくなりつつあります。Dさんは、選択問題の答えを選ぶと、マークシートよろしくその番号を塗りつぶしました。〇で囲むのが普通で、レ(チェック)をつけるとか、選んだ記号を問題の横に書くとかはよく見かけますが、鉛筆で塗りつぶした学生は初めてでした。

それから、最近の学生は品がよくなったと思います。最後の科目は時間前でも提出したら帰ってもいいのですが、その時いすを机の上に上げます。かつては“ぐわっしゃーん”と隣の教室にも響きそうな音を立てる学生ばかりだったものですが、近頃は音がしないように細心の注意を払う学生が大半です。先生方の教育のなせる業だと信じたいです。

明日から、束の間の静けさが学校を取り巻きます。

開花

3月21日(火)

全国に先駆けて、東京で桜の開花宣言が出されました。もう少し正確に言うと、ソメイヨシノの開花宣言です。沖縄や奄美大島では、すでに1月にヒカンザクラの開花宣言が出されています。九州から北海道南部まではこのソメイヨシノが桜の開花宣言の対象となり、道央、道東、道北はエゾヤマザクラが開花の標準木となります。今日の最高気温は平年を2度ほど下回りましたが、先週後半から比較的暖かい日が続いたおかげで、開花宣言となったのでしょう。

昨日は暖かかったので、窓を思いっきり開けて大掃除をしました。冬物を片付ける勇気はありませんでしたが、窓を開けるのが億劫でなかなか行き届かなかった部分の掃除まで手がけることができました。そんなこともあり、そろそろ桜が咲くかなと思い、今朝は私の定点観測地点である四ッ谷駅の桜を見ようと思ったのですが、日の出直前なのと雨雲で暁光がさえぎられたのとが相まって、何も見えませんでした。明日は朝から晴れのようなので、桜のつぼみの膨らみ具合をしっかり観測したいと思っています。

そんな雨の中、今夜の夜行バスで関西に旅立つXさんが別れの挨拶に来ました。Xさんは、本当は24日の期末テストまでKCP勉強しなければならない学生ですが、今のアパートの契約が今日までなので、今夜進学先の関西へ向かうことになったのです。お世話になった先生方へと、ドーナツを買ってきてくれました。私も、ずいぶんお世話しました(?)から、お相伴にあずかりました。

Xさんの“サクラサク”は、東京の桜と違ってとても遅かったですが、つぼみがほころびつつあります。満開になるかどうかは、関西へ行ってからの勉強次第です。

花咲か爺さん

3月17日(金)

私のクラスで、ゲストをお迎えして、コロコロ紙芝居をしました。コロコロ紙芝居とは、立方体の箱を4つ組み合わせて、箱の見せる面をコロコロ変えながら、紙芝居のように物語を展開していくというものです。今回は、♪裏の畑でポチが鳴く…という童謡に合わせて、花咲か爺さんに挑戦しました。

花咲か爺さんは、どこかで聞いたことがある学生もいれば初めての学生もいました。ゲストが持ってきてくださった絵本をSさんが読むと、みんな耳を傾けていました。ですが、花咲か爺さんの歌は全員初めてのようでした。ゲストが歌いながらコロコロ紙芝居を次々展開していくと、学生たちの目に好奇心が宿り始めました。

今度は学生たちの番ですが、ゲストに歌ってくださいと言われても、すぐには歌えません。しかもコロコロの操作をしながらとなると、どうしても口の動きがおろそかになってしまいます。それでも何回か繰り返していくうちに歌えるようになり、ソロで歌いながら紙芝居をする学生も出てきました。そんな学生を写真に撮ったりもしながら、楽しんでいました。私も最後に実演させられ、冷や汗をかかされました。これで、今年の忘年会のかくし芸はばっちりOKですね。

上級になると、初級ほど声を出したり体を動かしたりという授業がなくなります。初級のうちは日本語を体で覚える部分もありますが、上級は日本語を日本語で理解することが強く求められますから、頭ばかりを使うようになります。そういう授業はメリハリを付けにくく、ともすると退屈しがちです。時には、歌を歌うなどという、いつもの授業とは対角の授業も刺激になると思います。来学期も何か目新しい企画を実施したいものです。

ごちゃごちゃ

3月15日(水)

Xさんは理系のセンスのある今年の期待の星です。順調に仕上がってきていて、6月のEJUでは高得点が期待できそうです。でも、不安なところがあります。それは、意外と教師に話を聞いていない点です。EJUの過去問をやって、答え合わせをして、解き方や理論の解説をして、質問はないかと聞くと、私が解説したことをそのまんま聞いてくることがあります。聞き取りができないわけではありません。私が解説しているときに自分の世界に入っちゃってるのか、問題を解くのに疲れて集中力が途切れてしまうのか、とにかく明らかに私の話を聞いていません。

でも、Xさんが聞いてくることは、私が何も解説をしなかったら鋭い質問と言えますから、何もわかっていないわけでもなく、伸びる要素も十分に感じられます。それだけに、私の解説をよく聞いた上で、さらに理解を深める質問をしてきてもらいたいと思うのです。

それからもう一つ、計算の途中経過をきちんと書き残さないところも気になります。Xさんがどこで間違えたのか調べようにも、ごちゃごちゃとあっちこっちに書き散らした計算メモでは考えの道筋が見えてきませんから、調べようがありません。Xさん自身だって、つまずいた場所が見えなかったら、同じ間違いを何回も犯しかねないんじゃないでしょうか。そして、各大学の独自試験は答えを導き出す過程も採点対象ですから、他人が読んでもわかるような答案の書き方もがっちりしつけていかなければなりません。

来学期の受験講座の説明会が始まっています。Xさんのように鍛え甲斐のありそうな学生がたくさん来てくれることを願っています。

若作り

3月13日(月)

先週の土曜日、A新聞の土曜版を見て、何じゃこらと思ってしまいました。シロウトさんの写真がでかでかと週間テレビ欄の1面を飾っているではありませんか。落ち着いて下のほうまで見ると、元アイドルのNさんの名前があるではありませんか。そう思ってその写真をもう一度よく見てみると、確かにNさんの面影が残っています。デビュー30年と書いてありましたから、Nさんが老けるのも無理はありません。

私の記憶に残っているNさんはデビュー間もない頃ですから、そのNさんに比べたら、今のNさんはしわもあれば皮膚もたるんでいるのはやむをえないところです。でも、やっぱり、土曜日の朝一番に襲ったショックは相当なものでした。アイドルはいつまでもアイドルであり続けることはできないと、また、年齢を重ねてこそにじみ出てくる味わいがあると、頭ではわかっていても、老境ともいえるNさんの顔写真には愕然とさせられました。だって、数年前ぐらいはシロウトさんに間違えるほどのことは絶対にありませんでしたよ。

日本には、とかく若いことに価値が置かれる傾向があります。特に芸能界はそれが強いですから、タレントさんは年齢不詳の不自然なほどの若作りをしがちです。そういう人たちに比べたら年齢相応のありのままの姿を新聞の写真に使ったNさんには好感が持てます。

夕方、来学期の受験講座の説明会を開きました。志望校のアンケートをとると、多くの学生がK大学とかW大学とかT大学とかH大学とかと答えていました。そういう超有名な大学名しか知らないということもありますが、そう書いている学生たちと、妙な若作りに走る俳優やタレントの顔が重なってきました。ただ、若作りと違うのは、これから私たちの指導に素直に耳を傾け、夜を日に継いで勉強し続ければ、望みがかなわないでもないというところです。

伝わるかな

3月10日(金)

初級のクラスに入りました。このクラスは、来週の月曜日に日本人のゲストを呼んで会話をすることになっていますから、その練習をしました。上級ならいきなり会話をしろと言われても、それなりに何とかできるでしょうが、初級はそうはいきません。中心テーマに至るまでの想定問答も考えておかないと、大混乱に陥りかねません。

あいさつのしかたとか、相槌の打ち方とか、アイコンタクトとか、話題の流れに沿った話し方とか、会話は単に丁寧体で話せばいいという問題ではなく、考えておかなければならないこと、気をつけなければならないことが山ほどあります。それに気付かせるのが、今日の授業の主目的でした。

ゲスト会話でいつも困るのが、学生たちの話したい内容と学生たちの語彙のギャップです。「ヨーロッパのビルは日本語で何といいますか」とCさんに聞かれましたが、これだけでは答えようがありません。Cさんにさらに情報を求めても、Cさんはそれ以上の言葉を知りません。それでもどうにかこうにか聞き出したところ、「洋風建築」のことでした。こういう言葉をそれぞれの学生が抱えているのです。自分の思いが伝わった喜びと同じくらい、思いが伝わらなかった悔しさも、会話能力を伸ばすと思います。

その後、今週末に受験を控えているZさんの面接練習をしました。今までに何回も練習をしましたから、志望理由や将来の計画など、主要な質問には十分対応できます。それ以外の部分で自分をアピールする戦略を一緒に考えました。そこで他の受験生に差をつけようという作戦です。そのZさんも、1年前は今日の午後の学生とどっこいどっこいの力でした。Zさんの受け答えを聞きながら、初級の学生の1年後に思いを馳せました。

取り消し

3月9日(木)

先週、もう1年KCPで勉強すると決心したGさんが、O大学に合格しました。O大学は第1志望ですから、当然、そこに進学します。4月からのKCPの授業料を納める準備をしていましたが、それをO大学の入学金に回します。KCPの近くに引っ越そうと、アパートの契約も済ませたとのことですが、こちらも解約です。難しい交渉をしなければならないと言いつつも、顔は笑っていました。

Gさんは、M大学の入学手続きを忘れるくらい準備に集中したのですから、それはもちろん、全力を挙げてO大学の試験に臨みました。しかし、英語の成績に自信がなかったGさんは、その結果には期待をかけていませんでした。でも、大逆転なのかミラクルなのかよくわかりませんが、合格してしまいました。面接のここがよかったのではないかとニコニコ顔で解説してくれましたが、受験直後や先週の木曜日の自信なさげな様子が嘘のようです。

終わりよければすべてよしと言いたいところですが、おそらくボーダーライン上の争いにかろうじて勝ち残っての合格でしょうから、喜んでばかりもいられません。「勝って兜の緒を締めよ」です。各駅で特急通過待ちみたいなことをしていたら、せっかく一発で受かった意味がなくなってしまいます。

EJUで大失敗したWさんも、高望みと思っていたJさんもYさんも志望校に受かりました。今シーズンは、土俵際で粘って白星をつかんだ学生が多かったように感じます。Gさん、Wさん、Jさん、Yさん、みんな入試直前には鬼気迫るものがありました。入試を精神論で片付けたくはありませんが、そういう執念も合格の一要素だったことは否めません。そういう意味で、私も学ぶところが多かった今シーズンの入試でした。

学生がたくさん来ました

3月8日(水)

卒業式が終わり、午前中の授業はなくなりましたが、その代わり会議がありました。会議を終えて職員室に戻ると、WさんとLさんが私を待っていました。WさんはD大学、LさんはS大学とT大学にそれぞれ受かったと報告してくれました。喜ばしい限りです。

Wさんは早速D大学の入学手続書類を持ってきて、書き方のわからないところを聞いてきました。ちょっと考えれば見当がつきそうなところや、注意書きを見ればわかるところもありましたが、私が読んでもよくわからず、電話で確かめろと指示を出した項目もありました。多少きついことを言われても、第一志望の大学に受かったWさんは、ニコニコしていました。

その2人と入れ替わりに、Nさんが進学相談に来ました。大学で何を勉強したいのかを聞いても、いまひとつはっきりしません。あれこれ聞いていくと、どうやら親から名のある大学に入るようにと言われているみたいです。そのため、大学を卒業したらどうするかよりも親の意向に沿おうとしている姿勢が見えました。今すぐ志望校を決めなければならないわけではありませんが、志望校によっては6月のEJUで勝負しなければなりません。その6月のEJUまであと3か月です。あんまりのんびりしているわけにもいきません。

昨日は、Cさんが自分の使った参考書や問題集を持ってきてくれました。妙にきれいなのがあるのが気になりましたが、後輩のためにという気持ちはありがたく頂戴しました。1年前のCさんは怪しさの塊みたいな学生で、国立大学に受かったのは本人の努力のたまものです。そのCさんが使った本ですから、ご利益が期待できそうです。

理科の受験講座では、早くも過去問フルセットに挑戦。EJUの影が迫ってきます。休む暇がないなあ…。