Category Archives: 進学

好奇心

8月10日(木)

7月期の中間テストは、アメリカの大学のプログラムで来ている学生たちの一部にとっては、期末テストです。午前中に試験監督に入ったクラスにも、期末テストの学生が何名かいました。たまたま、その学生たちの会話テストをした関係で、このクラスの授業には入ったことがないのですが、この学生たちだけ知っているのです。みんな明るくよくしゃべる学生ですから、夏休み明けにこの学生たちが消えてしまったら、このクラスは成り立つのだろうかと心配になってしまいました。

この学生たちは、帰国するとすぐ国の大学の授業が始まります。時差ボケが治ったくらいのタイミングで新学期です。だから、中間テストまでしかKCPにいられないのですが、会話テストの時に聞いた話によると、かなり濃密な短期留学だったようです。日本語の勉強はもちろんのこと、留学の期間が短いことが最初からわかっていましたから、休みの日にもというか、休みの日だからこそ、ハードなスケジュールを組んでいた人が多かったみたいです。東京近郊に限らず、函館とか京都とか名古屋とか、日本全国をまたにかけて動き回っていました。学生たちにとっては幸いにも円安ですから、動き回りたくなるのかもしれません。

こういう学生は、いわば短距離走のランナーです。一方、日本で進学するためにKCPで勉強している学生たちは長距離走者です。ですから同列に並べてはいけませんが、それでもこうした好奇心とかバイタリティーとかは、長距離走者にも必要です。マラソンランナーたちは、もうすぐ帰国するスプリンターたちから何かを吸収できたかな。吸収した学生は、この先きっと、吸収したことが物を言う場面に出くわすはずです。

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暑い

8月2日(水)

朝、教室に入ると、まだ始業10分前だというのに、昨日・おととい休んだKさんがいました。私が授業の準備をしていると、近寄ってきて「先生、授業の後、時間がありますか。進学について相談したいです。それから、昨日とおととい休んだことについても」と言ってくるではありませんか。欠席理由については話を聞かなければと思っていましたから、もちろんOKです。

授業中のKさんは特に変わったところもなく、いつものように発言したり机にもたれかかったりしていました。クラスの学生も、そんなKさんにツッコミを入れたりディクテーションの答えを教え合ったり、ごく普通に相手になっていました。

授業後、Kさんは教室に残って、まず、昨日とおとといの欠席理由を。本人は軽度の熱中症と言います。Kさんの生まれ育った町は冬の寒さが有名で、夏はたまに30度を超えることがある程度です。ところが、今年の東京の夏は連日35度以上で、Kさんにとっては生まれて初めての暑さです。気温は夜になっても下がらず、でも電気代節約のためにエアコンをつけずに寝て体調を崩したのが先週のことです。たまらずエアコンを最強にして寝たら、半日以上も眠り続けてしまったというのが、昨日とおとといです。そして、昨日から眠らずに、今朝早く学校へ来たということでした。今学期に入ってから精彩を欠くことが多かったのは、そういうわけでした。

Kさんは来年大学進学を考えています。M大学を第1志望にしています。6月のEJUの成績を見る限り、十分勝負ができます。第2志望のA大学、T大学も有望です。それが、進学についての相談でした。でも、夏になるたびにこれだと、勉強が続けられるでしょうか。3つの大学の、夏休みの期間もきちんと調べたほうがいいかもしれません。

入試のある秋以降は、Kさんの季節です。きっとすばらしい結果を出してくれることでしょう。

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志望理由書は難しい

6月16日(金)

Rさんは今学期の新入生で、レベル1に入りました。でも、あさってのEJUを受けることはもちろん、来週出願締め切りのW大学を受験しようとしています。W大学は出願の際に志望理由書を提出しなければなりません。その下書きのチェックを担任のS先生に依頼したのですが、理系学部志望ということで、S先生から私のところに回ってきました。

日本語そのものは、翻訳ソフトか生成AIか何かに頼ったようで、意味が通っています。長さも、字数を正確に数えたわけではありませんが、見た感じでW大学の基準を満たしていそうです。コンピューターの力を借りたにせよ、レベル1の学生にしてはよくやったと思います。

しかし、中身は全然でした。W大学で勉強したいことをはっきり書いてあるのはいいのですが、Rさんの志望学部学科ではその勉強はできません。まるっきり的外れではありませんが、それを勉強したいからW大学のその学部学科というのには、無理があります。これは痛いですね。それ以外の志望理由はありきたりで、多くの受験生を集めるW大学では全く目立ちません。「有名ですから」「設備がいいですから」じゃあねえ…。

とはいえ、国の高校を卒業したばかりの、しかもレベル1のRさんに、他の受験生とは異なる志望理由を書けという方が酷です。日本人の受験生だって、有名だからとか友達に大きな顔ができそうだからとか自分の偏差値で行けそうだからとかという、留学生入試の面接でそんなことを言ったら一発アウトになりそうな理由でW大学を選んでいるのが大半じゃないでしょうか。

Rさんだって、本音を言えば、何はともあれW大学なのだと思います。深くは知らないW大学への志望理由書を書けと言われて当惑し、手探りでどうにか規定の字数まで書いたというのが実情でしょう。今年の経験を活かし、来年の今頃、立派なW大学の志望理由書が書けるようになっていてほしいです。

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魅力を伝える

6月10日(土)

最近、大学や専門学校の留学生担当の方から、「そちらにお邪魔して留学生入試についてご説明をさせていただきたいのですが」という電話がよくかかってくるようになりました。去年までは訪問を遠慮していたところも、5類になったこともあり、対面で説明しようというわけです。こちらとしても、電話で説明を受けたりメールを読んだりというよりも、募集要項の実物をはさんで対面し、直接説明を受け、疑問点は直ちに質問しその場で答えてもらえる方がはっきりしますから、来訪はお断りしません。

こちらへいらっしゃる担当者の方も、対面のほうが安心できるのでしょう。「そろそろよろしいかと存じまして…」とか、「ご卒業生の近況報告かたがた…」とか、顔と顔を突き合わせるとより効果的にアピールできるとお考えのようです。こちらも、その学校を学生にどう紹介するか、そのポイントをつかみたいですから、効果的なアピールは大歓迎です。いらっしゃった学校を志望しそうな学生、志望校として考えてもらいたい学生、そんな学生たちをその気にさせる手立てが欲しいのです。

ところが、こういう私の希望をかなえてくれる学校さんがあまりないんですねえ。パンフレットを見せてもらいながら通り一遍の説明を聞いても、募集要項で入試の概要を説明されても、それだけでは学生の印象に残る、学生の心を動かせる紹介はできません。「A大学はいい大学だよ」「B専門学校はKCPの卒業生が進学してるよ」では弱いですね。

来週もすでに2校の約束が入っています。気持ちが湧きたつようなお話を聞かせてください。

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マスクなし

6月5日(月)

昨日は1日中全くマスクをしませんでした。第1回の緊急事態宣言が出される前以来ですから、3年3か月ぶりか4か月ぶりでしょう。電車にも乗ったし、お店にも入ったし、ごく普通に生活しましたが、朝から夜までマスクなしで通しました。

今年3月から、マスクは本人の自由意思となりました。でも、私はマスクをしてからというもの風邪をひかなくなったというマスクの効用も実感していましたから、マスクを外すことには慎重でした。最後までマスクをし続けるのではないかという予感もしていました。

とはいうものの、やっぱりマスクは鬱陶しいですね。マスクを外して歩くさわやかさには勝てません。最初はちょっぴり罪悪感もあったのですが、今は咳やくしゃみでもしない限り、そんなものは感じません。

さて、午後から年に1度の校内進学フェアがありました。昨年まではマスクはもちろんのこと、フェイスシールドやアクリル板も繰り出したこともありましたが、今年はマスクなしの大学が過半でした。大学や大学院の授業も、同じようにマスクなしでやっているのかなと思いました。私は、外ではマスクなしでも、授業では大声を張り上げてしゃべりますから、一応マスクをしています。

マスクに関しては学生たちの方が保守的なようで、ノーマスクの大学担当者対マスクをした学生という図式が多かったように見受けられました。私のクラスのMさんはマスク派でしたが、数校のブースを回って資料を集めていました。いわゆる有名校ばかりではなく、堅実なところの話もしっかり聞いたようです。先学期受け持っていたKさんは女子大に興味を持っていると言っていましたが、その通りに女子大の話を真っ先に聞いたようです。

この学生たちが受験の本番を迎えるころには、マスクなしがさらに浸透していることを願っています。

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新しい道

5月22日(月)

Qさんは、あることを除いて、クラスでは目立たない学生です。その“あること”とは、遅刻です。今朝も、出席を取り、漢字テストの問題用紙を配り終わってふと振り返ると、教室のドアに一番近い席にQさんがいるではありませんか。すぐに問題用紙を渡し、ロスタイム1分ぐらいでテストを受けさせました。

そのQさんとの面接が、授業後にありました。遅刻が多い理由を聞いてみると、後遺症でした。去年8月に感染したQさんは、規定の日数で熱も下がり、PCR検査が陰性にもなり、登校を再開しました。しかし、どうも体調がしっくりきませんでした。Qさんの話をまとめると、寝ようとしても寝付けない日が続いているようです。ゲームなどをしながら夜更かしをしたため朝起きられないという、遅刻者のお決まりのパターンとは違うようです。

また、集中力も落ちて、勉強も長時間続けられません。20分頭を使ったら10分休むという感じでしか勉強できません。勉強の効率が著しく落ちています。予習の宿題だって、ほとんどしてきません。そのため、成績もパッとしません。だから、授業中も目立たない学生に甘んじているのです。大学院進学を考えていましたが、こんな体調では研究計画書の執筆など、受検準備すらできないだろうということで、あきらめました。

目標を専門学校進学としたQさんは、積極的にオープンキャンパスに参加しています。めぼしいところの資料も取り寄せて、着実に準備を進めています。進学の話から逃げているとしか思えない学生が大勢いる中、立派な心掛けです。「今から準備を始めれば、秋ぐらいには合格しているよ」と励ましてあげたら、少し笑顔を見せてくれました。

後遺症に悩まされ、進路変更も余儀なくされた実例を見せつけられて愕然とした反面、それにもめげずに自分で自分の道を切り開こうとしているQさんのけなげな姿に、心を動かされました。

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手堅く

5月19日(金)

日本留学を考えている外国人に日本のどこに留学したいかと聞いたら、多くの人は東京と答えるでしょう。では、2番目に人気を集めるのはどこでしょう。たぶん京都ではないかと思います。観光するなら北海道や沖縄が2位になるかもしれませんが、勉強するとなると、京都が強いのではないかと思います。

その京都の大学・専門学校の進学説明会がありました。説明会は、東京の日本語学校向けにオンラインで行われました。数年前から毎年このくらいの時期に開催されるのですが、2位は堅いのではないかと思われる京都が官民を挙げて留学生を集めようとする姿に、参加するたびに感心させられます。世界遺産の街、観光の街であるのと同時に、大学の街、学問の街でもあり続けたいのでしょう。留学生を集めるということは、国際都市の一側面もさらに強化したいと思っているに違いありません。

大阪、名古屋、札幌、福岡といった大都市と比べると、やっぱり京都には学問の街というイメージを強く感じます。これは日本人だれしも感じることだと思います。しかし、京都はそれにあぐらをかかず、果敢に攻めます。東京では味わえない青春が送れると訴えます。将を射んと欲すればまず馬を射よとばかりに、日本語学校の教師に攻勢をかけます。私はそういう京都に脱帽します。

本当は、遅くとも30年前、バブルがはじけた直後あたりから、日本国がこういうことをしなければいけなかったと思います。強みをさらに強くする手を打って、例えば半導体で確固たる地位を築いていれば、現今のような閉塞感には襲われなかったのではないでしょうか。人口減で社会が縮む一方という漠然とした不安も、こんなに色濃く漂うようなこともなかったと思います。

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漢字は苦手です

4月17日(月)

漢字のテストがありました。不合格者が3人いました。その3人は全員中国人でした。先学期の私のクラスも、漢字テストで不合格になるのは中国の学生ばかりでした。中国の簡体字と日本の漢字が微妙に違うことも原因の1つとして考えられるでしょうが、それだけで合格点(60点)にはるかに及ばない成績しか取れないことは説明できません。

ひとことで言ってしまえば、勉強していないのです。「教育」の読みを「きょいく」と書いたというのであれば、きちんと勉強していなかった、正確に覚えていないのだろうと思います。あるいはうっかりミスかもしれません。しかし、全く何も書いてないとなると、勉強してこなかったとしか思えません。空欄が1つか2つなら、度忘れという線もありえますが、解答欄の半分ぐらいが真っ白となると、勉強せずに受けたと結論せざるをえません。不合格の学生たちは、空欄が多かったのです。

この学生たちも、大学や大学院に進学したいと言っています。しかし、こんなにまで勉強していなかったら、進学先の授業についていけないでしょう。漢字の勉強だけでなく、勉強全般が嫌いだとしたら、進学する意味などありません。別の進路を探るべきです。勉強ではなく、努力を厭う気持ちがこの学生の心に巣食っているとしたら、人間として根本から鍛え直す必要があります。ここまでくると、私たちの手に余ってしまいます。

このテストで一番成績がよかったのは、アメリカの学生でした。韓国の学生も押しなべて好成績でした。もちろん、中国の学生だって何名かは高得点を取っています。しかし、かろうじて合格のもう3名も含めて、中国の学生の不振が目立ちました。国で漢字を使ってこなかったアメリカや韓国の学生がどれだけ努力をしているか、不合格の3名と土俵際だった3名は見習うべきです。先学期の私のクラスの漢字テストで不合格常連だった学生の末路を見れば、このままでは明るい将来などなことは明らかです。

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遅れてきた有望株

4月14日(金)

Cさんは、事情があって遅れて入国してきた新入生です。午前のクラスの授業後に、通常の日程で入国した学生たちはすでに済ませている日本語+のオリエンテーションをしました。大学院進学を目指していますから、研究計画書作成など、個別指導に関する説明が主でした。

楽でしたね。まず、こちらの言うことを一発で的確に理解してくれますから、話がトントントンと進みます。言葉のレベルを落としたり、具体的な例を示したり、筆談に及んだりなどということなく、説明が通じました。また、ノートを取っていましたから、要点をつかんでいることもよくわかりました。そして、Cさんが発する質問が実に的を射ているんですねえ。私が次に説明しようと思ったことを聞いてきたり、最重要ポイントを再確認したりという調子で、無駄な質問がありませんでした。こうまでスムーズにわかってもらえると、話すつもりのなかったことまで話してしまいます。Cさんの立場から見ると、理解が早いおかげで、他の学生が得られなかった情報まで手にできたということになります。

Cさんは、物事をてきぱきと進められるという意味で、頭のいい人だと思いました。それもそのはずです。国の大学を出てからしばらく、日本人なら誰でも知っている会社に就職し、最前線でバリバリ仕事をしてきたのですから。その経験から研究したいことが出てきて、日本の大学院に進もうとKCPに入学したという次第なのです。

志望校までは聞きませんでしたが、きっと説得力訴求力のある志望理由書や研究計画書を書くことでしょう。大学院の先生方にも好印象を与えることは疑いありません。来年の今頃は、どこかの大学院で研究を始めているに違いありません。

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どんな勉強?

4月13日(木)

昨日のこの稿で取り上げたHさん、数学のS先生によると、数学に関しては先学期から勉強しているPさんやWさんよりよくできるそうです。理系の数学が難しすぎるのではなく、本当に基礎を再確認したいのかもしれません。私の担当している物理も、解けると思った問題が解けず、前に戻って勉強し直すと言っていました。

学生は、とかく先へ先へと進みたがります。わかったつもりを繰り返したあげく、基礎がガタガタのまま、入学試験のような範囲の広い試験を受け、跳ね返されることがよくあります。「間違えた問題は間違えなくなるまで何度でも解いてみること」と言うと、Pさんは「同じ問題を何回も解きますか」とびっくりしたような顔で聞き返してきました。「日本の受験生はみんなそうしているよ」と答えると、不思議そうな顔をしていました。

Hさんがそういう学生ではなく、やり直しを厭わず勉強していくのなら、今後に希望が持てそうです。6月のEJUに間に合うかどうかは微妙なところですが、確実な前進を積み重ねれば、いずれ大きな力を身に付けるに違いありません。日本語も、過剰に未知への挑戦を続けるようなことがなければ、きっと芽を出しますよ。私たちも、そういう発想でHさんを指導していくことを考えるべきかもしれません。

ただ1つだけ気になるのは、「公式を覚えます」と言っていることです。公式を覚えれば、あるレベルの問題までは解けるようになります。しかし、公式のよって立つ原理や自然現象などを切り捨てて暗記にばかり走ると、それ以上の問題には太刀打ちできませんし、ましてや進学してからの勉強においては戸惑うばかりでしょう。そういうところも含めて、見守っていくつもりです。

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