Category Archives: 進学

やめたいです

7月29日(火)

今学期の日本語プラスが始まって3週間目に入り、そろそろ脱落者がはっきりしてきました。いつの間にかクラスに来なくなる学生、きちんと届を出して辞めていく学生、調子いいことを言いつつ結局消えてしまう学生、いろいろな脱落のしかたがあります。

SさんとHさんは、きちんと届を出しました。授業内容が国で勉強したことと同じで易しいからという理由でした。国で勉強したことと同じことを勉強するというのは、その通りです。EJUの試験範囲は日本の高校の学習内容に合わせており、日本の高校と学生の国の高校と、勉強内容に大きな違いはありません。だから、日本語プラスの授業内容は国で勉強したことと同じだというのは、妥当な指摘です。

日本語プラスは、学生に勉強のペースを与えるという側面もあります。EJUまで自分できちんと勉強できるのであれば、日本語プラスを受けなくてもいいでしょう。でも、そういう学生は少ないんですよね。SさんとHさんがきちんと勉強できる学生かどうかわかりませんが、少し心配です。

それから、11月のEJUは受けないので、今すぐ勉強する必要はないという意味のことを言っているのも、気になるところです。27年4月の進学を考えているようですが、それには26年6月のEJUで好成績を残さなければなりません。そうでないと、志望校選びに苦労することになります。進学まであと1年半以上あることは確かですが、実は勝負が決まるまで1年足らずしかないのです。

そういうことをどんなに訴えても、学生にはなかなか伝わらないものです。

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グラフは苦手?

7月28日(月)

先週の授業で書かせた小論文を読み返していますが、どうもよろしくありません。グラフを見てそこから言えること、感じたこと、意見を書いてもらいましたが、グラフから読み取れることと意見とがごちゃごちゃになっている人が多かったです。そのグラフの読み取りも表面的なものが多く、大学の採点官をうならせるには至らなさそうな小論文が大半でした。また、学生たちはやりつけないことをやらされたので、文法や語彙の選択にまで注意が回らなかったようです。その前の週の小論文と比べると、誤用が目立ちました。

私は理系人間なので、グラフが出てくると喜び勇んで隅から隅までつっつき回します。小論文の試験だったら、グラフをねちこち見ているうちに時間がどんどん経ってしまい、結局何も書けなかったということになりかねません。学生たちは、私とはだいぶ違って、グラフをどう見たらいいのかよくわからなかった面もあるようです。

でも、それじゃ困るんですねえ。進学したら、文献を読んでそこに載っているデータから何かを探り当てるという作業を繰り返し、自分の論を打ち立て、それを検証していくということの繰り返しです。グラフを見て小論文を書くというのは、その前半部分のミニチュア版です。ここでつまずいているようだと、違うタイプの小論文試験で合格したとしても、進学後に苦しみそうです。進学後に日本語で困ることのないような実力をつけさせて学生を送り出すというのが、私たちの使命です。それに照らし合わせると、ここはもう一つ厳しくいかねばならないようです。

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どちらに進む?

7月22日(火)

Tさんは、日本語プラスの数学と化学と生物を取っています。動物が好きなので獣医になりたいと言っています。しかし、外国人留学生が獣医学部に入るのは、とても難しいです。私立大学なら、学費も半端じゃありません。薬剤師とも言っていますが、これまた獣医と同様です。

難しい所ばかり狙うのは、ご両親の影響もあるようです。Tさんが獣医や薬剤師のような高度な資格を取って、日本で生活していけたらいいとお考えのようです。確かにその通りですが、それは並大抵の努力ではかなわぬ望みです。その辺の事情が、Tさんもご両親も、明らかになっていません。

じゃあ、方向性を変えて、化学と物理で進学するとどんな道が開けてくるかという質問が出てきました。化学と物理なら、コンピューター全般をはじめ、逆説的ですが、獣医と薬剤師以外、だいたい何でもいけるのではないでしょうか。Tさんが好きなことと重なるかどうかわかりません。

親が子供の心配をするのは当然です。しかし、心配のしかたを誤ると、子供の将来を縛り、可能性を打ち消すことにもなりかねません。日本留学を決める前に、将来設計についてあれこれ調べ、比較検討し、相談を重ねて、進むべき方向性を決めたのだと思います。

でも、今、ご家族の中で、量的にも質的にも充実した日本留学の情報を持っているのは、Tさん自身です。Tさんは努力家ですから、安易な道に進むために情報を捻じ曲げるようなことはしません。そのTさんを軸に、もう一度きちんと話し合ってもらえないでしょうかねえ。

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わからない

7月17日(木)

「先生、Kさんは珍しい人ですね。日本語が全然上手になりませんよ。熱心に質問するのはいいんですが、何言ってるか全然わかりません。だから、質問されるとマーカー渡してホワイトボードに書いてもらうんです」と、数学のS先生がぼやいていました。

私の化学と物理の時間にもKさんは質問しますが、質問内容がわからないということはありません。私の答えを聞いているKさんの様子を見る限り、私の答えはKさんにとって的外れではなく、質疑応答が成り立ち、コミュニケーションも取れていたことになります。

S先生と私の最大の違いは、日本語教師であるかどうかです。つまり、Kさんの日本語は、日本語教師には通じますが、そうでない人には通じないのです。日本語教師は日々不完全な日本語にまみれて鍛えられていますから、一般の方には理解できない、ひどい発音やめちゃくちゃな文法もわかってしまうのです。

Kさんは決して不真面目な学生ではありません。出席率も100%です。授業中にいい加減なことをしているとは思えません。話す練習だって、一生懸命やっているでしょう。それでも、一般人のS先生には通じない日本語しか話せないのです。

だとすると、Kさんの資質ではなく、KCPの授業のあり方の問題なのかもしれません。確かに、私たちの授業をきちんと受ければ、大部分の学生は普通の日本人にも通じる話し方ができます。しかし、Kさんのような取りこぼしも出てしまっているのです。

Kさんは今年受験です。面接や口頭試問が待ち構えています。面接官、試験官は日本語教師ではありません。今のままでは、ここで点を稼ぐことは期待できません。どうにかして、この山を越える力をつけさせるのが、私たちの仕事です。

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どんな建築?

7月14日(月)

午後、Pさんが職員室の入口から、文字通り顔を出して、私を呼びました。今週から始まる日本語プラスの受講について相談したいとのことでした。

Pさんは建築の勉強がしたいです。しかし、高校を卒業してからしばらくは足りていたこともあり、高校で勉強した理科や数学を忘れてしまいました。化学は何とか暗記で行けそうだけど、物理はそれじゃ無理そうだから、日本語プラス物理を受けたいと言います。その前に、日本語プラス物理でどんな勉強をするのか知りたいというので、授業で使うパワーポイントの一部を見せながら、こんなことを勉強した記憶があるかと尋ねました。あるところはうなずき、別のところは首を横に振りという具合でした。

そして、数学や物理を勉強しないで入れて建築が勉強できる大学はないかと聞いてきました。この質問、毎年誰かがします。デザイン寄りの建築ならそういう大学もあります。しかし、耐震建築みたいな建築なら、物理も数学もしっかり勉強しておかないと、大学の授業にはついて行けません。

この点をPさんに確認すると、デザイン系の建築だと言いますから、具体的にB大学の入試科目を示して、これならPさんにも十分可能性があると励ましました。でも、そういう大学に入ったら、将来役に立つ建築の勉強ができるのだろうかと、別の心配が頭をもたげてきたようです。

こうなると、気が済むまで悩むのが一番の解決法ではありますが、来年4月に進学しなければならないPさんに、そんな余裕はありません。文転しようかなどと言い始めたPさんの尻を叩いて、物理の勉強もする、B大学も受けてみるという方向で話をまとめました。

今学期は、こういう相談が次々とやってくることでしょう。

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文章を書く

6月26日(木)

もうじわじわと2026年度入試が始まっていますが、最近は志望理由書など受験生が頭を使って考えなければならないはずの書類も、生成AIに書いてもらうのが常識となりつつあります。大学側もそれを前提に書類を受け取り、別の方法で学生の真の力を測ろうと方向転換を始めています。

だいぶ前になりますが、ZさんがA大学の志望理由書を持ってきました。文法的には直すところがほぼありませんでした。構成も非常に整っていて、このまま出してもそこそこ以上の評価はしてもらえそうでした。でも、同時に、どこかつかみどころのない、つるんとした印象も残りました。チャット君に書いてもらったのかなと思いましたが、本人に確認は取りませんでした。

私は“つるん”にとがった何かを取り付けようと、Zさんにあれこれ注文を付けました。Zさんの勉強したいことも知っていましたから、それが際立つようにと「このあたりはばっさり切ってしまえ」なんてアドバイスもしました。読み手の心に引っかかり、面接の場で議論になることを期待しました。

しかし、Zさんが書き直した改訂版は、初版とあまり変わりませんでした。私の意見は、チャット君に却下されたようです。私がZさんの心を動かせなかった、AIに負けたということです。でも、大学の先生はこんなに甘くはありません。A大学のようなレベルの高い大学なら、どこまで本気で考えているか、厳しく問うてくることでしょう。

最近、「Aiに書けない文章を書く」(前田安正、ちくまプリマ―新書)を読みました。「Aiは、文書は書けるけれども文章は書けない」と筆者は述べています。文書と文章の違いについて触れるとネタバレになりかねませんから、ここから先は「AIに…」をお読みください。

Zさんは志望理由書という文書を作成し、私は文章にしようとしたけど果たせなかったというのが、Zさんと私のやり取りの結果です。面接の場で志望理由書を文章にすべく、Zさんを鍛えていくほかないでしょう。

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進学フェア

6月9日(月)

12時少し前に私が6階の会場であいさつするころには、すでに数名の初級の学生が講堂の入口で待ち構えていました。私が教えているレベル1のクラスのSさんの顔もありました。

定刻12時になると、Sさんたちが狙っていた大学のブースに向かって行きました。いよいよ大学・大学院進学フェアの開始です。レベル1のクラスでも下位のTさんの姿も見えました。Sさんはともかく、Tさんは日本語で大学の担当者とやり取りできるとは思えないのですが、4つか5つの大学の話を聞いていました。盛んにうなずいていましたから、少しは話がわかったのでしょう。日本語力よりもコミュニケーション能力で勝負といったところでしょうか。Tさんの意外な側面を垣間見ました。

12:15に午前の授業が終わるや、Hさんが会場に飛び込み、一目散に第一志望の国立大学の元へ。その後、予定外の大学の話も聞いて、満足気に帰っていきました。Cさんも第一志望の大学のブースで長い時間話を聞いていました。日本語プラスの理科に出ている学生たちは、先週の授業で話を聞くべき大学を指示しておいたので、その大学の話に耳を傾けていました。

今度の日曜日が今年1回目のEJUですから、進学に対する具体像が描けないというのが、学生たちの本音でしょう。でも、そういう時期から動き回って、いろいろな大学の話を聞いたり実際に見に行ったりしていくと、秋口の受験シーズン本番で慌てふためくこともありません。“まだまだ”なんて思っている学生が、結局泣きを見るのです。

さて、KCPのみなさんは、好スタートを切れたかな…。

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距離

5月30日(金)

Nさんは頭の回転が速く、わりと弁も立ち、優秀な学生と言っていいです。最近書いてもらった進学スケジュールによると、大学院進学を考えています。授業後、そんなNさんと、進路のことを中心に面接をしました。

「大学院に進学したいんですね」と私が聞くと、「本心は専門学校に入って就職したいんです」と、いきなり番狂わせの答えが返ってきました。日本で修士の学位を取って帰国し国で就職する――というのが、ご両親の希望のようです。Nさん自身は、自分は勉強があまり好きではないので大学院進学には向かないと考えています。専門学校で興味のある技術を身に付け、それを生かした仕事をしたいというのがNさんの本当の希望です。

来日後、Nさんはご両親が出してくださったお金で大学院入試の塾に通いました。これがNさんにとってどうしても引っ掛かるところで、律儀なNさんとしては、そうあっさりと大学院進学をあきらめるわけにはいかないのです。「ありのままを話せば親はきっと理解してくれるだろうけど…」というのが、現在のNさんの心情です。

こういう悩みを抱える学生は、毎年必ず何人かいます。親と大喧嘩をした末、自分の希望を通した学生もいましたが、スポンサー様のご意向には逆らえず、不本意な勉強を続けた例もありました。中には、自分の怠け心を親との意見の不一致にすり替えようという不届き者も、たまにはいます。

私は実際に学生の様子を目にしている立場ですから、どうしても学生寄りになります。上述の不届き者にしたって、「お宅のお子さんは、お考えになっているほど勉強好きじゃないんですよ」と言ってあげたくもなります。

いくら通信技術が発達しても、物理的距離はいかんともしがたい場合があります。

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ITを勉強したい?

5月29日(木)

授業後、Gさんと面接しました。Gさんは来春大学に進学すると言っています。しかし、話を聞くと、毎日10時間寝ているそうです。そして、学校の外ではほとんど勉強していません。睡眠時間と学校にいる時間と通学に要する時間と食事などにかかる時間を差し引いても、まだ6時間ぐらいあります。その時間は何をしていくかと聞くと、遊んでいるとのことでした。これじゃ、進学なんて夢のまた夢ですよ。6月のEJUは自信があるかときくと、首を振りました。ここにはとても書けないような点数を目標としているようじゃ、先は明るくないです。

Gさんは理系日本語プラスを受けていますから、大学でどんな勉強をしたいか聞いてみました。ITという答えが返ってきましたが、さらに突っ込んでも具体的な内容は出てきませんでした。漠然とIT、だからなんとなく理系という発想で日本語プラスに出てきたのでしょう。数学や理科はどうかと聞くと、全然わからないと言っていました。だから、先週あたりから数学や理科の授業を休むようになったのでしょう。10時間も寝ているのなら、本気で精神的に落ち込んでいるわけでもなさそうですが…。

かなりまずい状況ですねえ。このまま目標を見失ってしまうと、勉強もやる気が出ず、生活も惰性に陥り、留学生活が人生の無駄遣いになりかねません。漠然とITならそこにもう一歩踏み込んでみて、クリアなイメージを持つことが必要です。結果的にITに進まなくても、何かがつかめるはずです。

それにピッタリなのが、再来週の月曜日に行われる大学・大学院進学フェアです。毎年、何校かの大学の担当者に来ていただいて、説明会、進学相談会を開きます。そこに、ITが学べるT大学が参加しますから、GさんにはT大学の先生の話を聞けと指導しました。Gさんが、これで上向いてくれればと思ています。

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自力で発見

5月20日(火)

火曜日は上級の選択授業があります。私は小論文を担当しています。ある程度の長さの文章を読んで、それについて調べて、自分の意見や考えを書くということを毎週しています。学生たちはどんな課題に対しても、的外れではない小論文を書いてきます。

そういう、優秀と言っていい学生たちなのですが、1つだけ不満があります。それは、自分の間違いが見つけられないこと、書いたら読み返さずに提出しようとすることです。

Mさんは授業時間を30分ほど残して、今週の小論文を提出しようとしました。時間があるから読み返せと言っても、「大丈夫です」と言い張ります。とりあえず受け取って、Mさんの席の所で読んでみました。1行目に誤字がありました。その後も、誤字や不自然な文法・語彙の用法やねじれ文など、小論文全体を意味不明にするような致命的なミスこそないものの、このまま添削したら原稿用紙が血まみれになりそうでした。

「間違いがたくさんあります。時間は十分ありますから、もう一度読んで直してください」と言って、原稿用紙をMさんに返しました。Mさんは不満げに原稿用紙を受け取りましたが、直そうとはしませんでした。

その後、Cさん、Sさん、Tさんなどが提出しようとしましたが、出来具合はMさんと五十歩百歩でした。

小論文は、主に文科系大学の主要入試科目です。“いい大学”に受かろうと思ったら、おろそかにできる科目ではありません。同じような実力の受験生が大勢受験しますから、1点が明暗を分かつことだって十分考えられます。自分の間違いに気が付いて修正できる受験生は勝ち目がありますが、それができない、ないしはそれを放棄してしまった受験生は、不合格への道を歩むしかありません。

学生たちが書いている最中でしたが、そういうことを忠告して、読み返すようにと指示しました。CさんやSさんは読み直していましたが、Mさんはそんな気配が見られませんでした。一刻も早くスマホをいじりたかっただけだったのかもしれません。

さて、学生たちはどんな文章を書いたのでしょう。これから読んでいきます。

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