Monthly Archives: 5月 2025

新重文

5月17日(土)

太陽の塔が国の重要文化財に指定されるそうですね。言わずと知れた大阪万博のシンボルです。私より年若の重文は、おそらく代々木競技場に次いで2件目でしょう。

代々木競技場は、確かに私より若いですが、できたのは私が物心つく前です。丹下健三氏渾身のデザインであるあの大屋根を見て大泣きしていたと、母や伯母からよく言われたものです。

太陽の塔は、はっきりと記憶があります。1970年の大阪万博は見に行きましたから。父のお盆休みに合わせて行ったので、私たちが入場した日は、入場者数の最高記録を更新した日となりました。その後さらに更新されましたから、万博期間中最高とはなりませんでしたが、ベスト(モースト?)10には入っていると思います。ろいうわけで、とんでもなく混んでいる日に行ったので、太陽の塔は見ただけで入れませんでした。でも、太陽の塔の圧倒的存在感は、幼心に強烈に刷り込まれました。

その後、だいぶたってから、というか、わりと最近、万博記念公園内にある国立民族学博物館を見学しに行ったとき、太陽の塔の根元を通りました。ちょうど私が万博を見に行ったぐらいの年頃の子どもが、学校の遠足か何かで来ていました。太陽の塔に近づくことすらできなかったあの大混雑を思い出しました。

太陽の塔の重文と同時に、琵琶湖疏水も国宝に指定されます。こちらも、一番年若かどうかはわかりませんが、国宝としては新しい建造物でしょう。こちらも、浜大津の取水口から南禅寺のちょっと先まで、疏水に沿って歩いたことがあります。

私が生きているうちに、私より年若の国宝が生まれるでしょうか…。

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名言

5月16日(金)

最上級クラスは、毎週金曜日に「社会を知る」という授業があります。新聞記事などを読んだり、ニュース映像などを見たりして、“社会”を考え、議論するという授業です。

今週は、13日に亡くなったウルグアイのムヒカ元大統領を取り上げました。2016年に来日した際にはその発言が話題となり、子ども向けの本まで出版されました。そんなこともあり、日本では知っている人も結構いるように思うのですが、学生たちは全然知りませんでした。

ムヒカさんは数々の名言を残しています。その名言集を配り、どの言葉に一番共感を覚えるかというということで議論してもらいました。

学生たちに人気があったのは、

「貧しい人とは、少ししかものを持っていない人ではなく、無限の欲があり、いくらあっても満足しない人のことだ」

「人生で最も重要なのは勝つことではなく、歩み続けることだ」

「日本の子どもたちよ、急いで大人にならなくてもいい。子どもであることを楽しみなさい」

でした。

「日本の子どもたちよ…」を選んだ学生が、ずっと子どものままでいたいようなことを言っていたのが少し気になりました。

また、「人生で最も重要なのは勝つことではなく、歩み続けることだ」は、勝つことを追求する人がいたからこそ、人類は発展してきたと言えないこともありませんから、みんながみんな、この言葉に従ってしまうと、ちょっと心配です。

私は、「物を買うというのは、稼いだ金ではなく、人生の時間で買っているのだ」を選びました。今だって、遊ぶ金欲しさに働いていますからね。

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お国は中国です

5月15日(木)

中間テスト。普通なら、どこかのクラスに試験監督に入るのですが、今学期はレベル1のクラスを教えていますから、そのクラスの会話テストを担当しました。今までもアメリカの大学のプログラムで来ている学生の会話テストを何度もしたことがありますから、会話テストそのものは心配ありません。しかし、いつもは1日3人ぐらいなのに、今回は1クラス全員、20人の会話テストをしました。

3人だったら会話の内容はメモにとっておいて、あとで読み返せば十分に思い出せます。それに基づいて採点もできます。しかし、20人となると、そうはいきません。録音して、あとで聞き返しながら採点し、公平を期さなければなりません。質問もある程度は揃えておいた方が、実力の違いがよく見えてくるでしょう。

というわけで、自分のクラスの学生に対して少し白々しいのですが、「お国はどちらですか」という質問から始めました。この質問に、例えば「中国です」と答えれば、文句なしに○ですよね。ところが、「お国は中国です」と答えた学生が少なからずいました。

「トイレはどちらですか」「トイレはあちらです」は、もちろん○です。学生にしてみれば、トイレがお国に代わっただけなのに、「お国は中国です」はダメなのか、不思議に思うことでしょう。授業では、「お国はどちらですか」「中国です」を練習しています。自分に関することに尊敬語の“お”を付けてはいけないというルールも教わっているかもしれませんが、日本語を習い始めたばかりの学生の頭には残らなかったのだと思います。

「お国は中国です」と答えたからといって不合格になんかしませんが、教える側としては、考えさせられるものがありました。それ以外のやり取りでは、学生の知られざる一面が垣間見えて、楽しませてもらいました。学期後半の授業では、この会話テストで仕入れたネタを使って、授業を盛り上げていきたいです。

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できました

5月14日(水)

昨日に引き続き、最上級クラスの中間テストの読解問題作りに励みました。というか、今晩帰宅するまでに仕上げておかないと、テストの時間は確保してあるものの、テスト問題がないという前代未聞の事態になってしまいます。そうならないように、朝からコーヒーを飲んで目を覚まし、気合を入れて取り組みました。

今学期使っている読解テキストは初めて使う教材です。難解な文章が連なっており、教師も油断できません。学生にその文章を味わってもらおうとなると、留学生向け上級読解テキストを扱う時の数倍の力で立ち向かわなければなりません。試験問題を作ろうと読み直してみると、その数倍の力をもってしても読み落としていた部分がいくつも見えてきました。こんないい加減な授業をしてきた教師が試験問題を作るなど、おこがましいにも程があるとさえ思えてきました。同時に、この新発見を基に、もう一度授業をしたくなりました。でも、そんなことをされた学生は、いい迷惑でしょうね。

学生たちはどうなのでしょう。試験を明日に控えて教科書を読み返してみて、新たな発見をしているのでしょうか。そんなことができた学生がいたら、ぜひ、議論してみたいですね。そうやって、人生や社会や世の中を見つめる新たな眼が養われたのなら、読解の授業をやった甲斐があるというものです。

問題はどうにか作り上げました。授業で議論した内容を問題にし、合格点ぐらいは取れるようにしました。また、学生間の実力差が現れそうな問題も潜ませました。あとは印刷するだけです。

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持ち込み可

5月13日(火)

あさっては中間テストです。私が担当している最上級クラスでは、読解は教科書持ち込み可としました。最上級クラスですから、読解の問題文も長文になります。それだけの文章を入力するのも労力が非常にかかりますし、それを印刷する紙だってかなりの枚数になります。それを無駄だとまでは言いませんが、効率的だとは思えません。だから、教科書持ち込み可としたのです。

個人の教科書ならいろいろな書き込みがなされているのではないかと指摘する人もいるでしょう。でも、その書き込みは、その学生が授業をまじめに聴いていた証です。それを参考にして答えて高得点を挙げたとしても、授業をきちんと聞いていたか、ちゃんと参加していたかをチェックするという、中間テストの実施目的は達成されます。大学入試やJLPTみたいな試験ならそうはいきませんが、学校の定期試験は授業内容の理解度を見る試験ですから、これでいいのです。

でも、問題の作り方は変えなければなりません。穴埋め問題や並べ替えの問題は意味がありません。できれば学生の書き込みが生きるような問題を出してあげたいです。入力の手間が多少省けた分以上のロードがかかるかもしれませんが、これはかける価値があるロードではないかと思っています。

学生たちには、中間テストの読解は教科書がないと問題が解けないと、くどいほど伝えました。明日もダメを押してもらいます。そして、書き込みはいくらしておいてもいいとも言ってあります。これを聞いてわざわざ書き込みを付け加える学生がいるかどかわかりませんが、果たしてテストの結果はどうなるでしょう。

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何か飲まない?

5月12日(月)

「何か飲む?」「うん、飲む」。この会話に現れている2つの“飲む”は、明らかにイントネーションが違いますよね。?付きの方は、語尾でいったん下がったのちに上がって終わりますが、答えの方は下がったままで終わります。この違いは、教科書の文字を読んだだけではわかりません。実際の会話での発音を聞いたり、自分で話してみたりしないと身に付くものではありません。同様に、「何か飲まない?」「ううん、飲まない」(という会話が実際になされることはほとんどないでしょうが)における2つの“飲まない”も、イントネーションによって意味と役割の違いを表しています。「何か飲む?」ができたら、「何か飲まない?」も正しいイントネーションで発話できるでしょう。実際、私のクラスの学生たちは、ガイジンっぽくないイントネーションで話せるようになりました。

では、「何か飲む?」と「何か飲まない?」は何が違いますか。この2つ、レベル1の教科書にほぼ同時に出てきました。学生たちは、私の真似をしてイントネーションはどうにかできるようになったものの、“意味は?”と聞かれると、お手上げです。知っている単語をかき集めて、“丁寧”とか“気持ち”とかと答えますが、それだけでは言わんとしていることがさっぱり伝わってきません。

簡単に言ってしまうと、「何か飲む?」は「あなたは何か飲みますか」であり、「何か飲まない?」は「(一緒に)何か飲みませんか」です。こういう説明を、身振り手振りも交えてしたら、ある学生が「誘う?」などという、レベル1らしからぬ難しい言葉で聞き返してきました。速攻でスマホを見たのかもしれません。たとえそうだとしても、こちらの意図が伝わったことは確かですから、「うん、そうだね」と言って、さらに使う場面を与えました。

文字だけで勉強すると、上級になっても「何か飲まない?」が使えません。そういう芽をしっかりつぶしておくのが、初級の教師の役割です。

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難しくても

5月9日(金)

今学期の最上級クラスの読解では、日本人の高校生の教材を読んでいます。そのまま読ませると難解すぎて内容が取れないでしょうから、補助教材を用意します。今回は上野千鶴子さんの文章ですから、上野さんの人となりを紹介した後、上野さんが2019年に東大の入学式で祝辞を述べている映像を見せました。当時、その内容がとても話題になった祝辞です。

15分近い映像でしたから、最後までついてきてくれるだろうかと心配しましたが、ごく一部の学生を除いて、興味深げに耳を傾けていました。字幕にも助けられたと思いますが、よくついてきてくれたと思います。ジェンダーによる差を、データに基づいて示し、それが不当であると訴えていましたが、学生たちにはそういう論の進め方が新鮮だったようです。

こうやって、上野千鶴子さんの発想、考え方を大づかみしたうえで、読解テキストに入りました。今回は学生たちに内容を解釈してもらおうと思い、読むポイントをまとめたシートを配り、グループで考えてもらいました。「三人寄れば文殊の知恵」と板書しましたが、これを知っている学生はいませんでした。文殊は知恵の神様だと言ったCさんは、神様ではありませんが、よく知ってるねと褒めてあげました。

小グループになると話しやすいようで、教室のあちこちから議論が聞こえてきました。しばらくしてから話し合いの内容を聞きましたが、まあ、順当なところでした。上野さんの考えも、おおむね理解できたようで、安心しました。来週の授業が、この読解の山場です。脱落者を出さないようにしなければ‥。

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自信回復

5月8日(木)

Sさんが進学の相談に来ました。Sさんは優秀な学生です。しかし、昨シーズンはどこの大学にも落ちてしまい、4月からもKCPで勉強をつづけ、捲土重来を期しています。

Sさんは国公立大学を狙っています。それぐらいの力は持っていると思います。でも、大学に落ち続けたことが尾を引いているようで、自信を失っています。「私のEJUの成績で行ける大学がありますか」という質問が最初に出てきました。あと1か月余りに迫った6月のEJUに対しても、おびえているような感じがしました。

試験が好きな人はいません。どんな簡単な試験でも、逆に落とし穴が仕込まれているのではないかと疑心暗鬼に陥ってしまいます。今のSさんは、それが高じているような気がします。自分の答えに自信を持ってもらいたいのですが、自信をつけさせるにはどう指導すればいいか、これが難しいのです。ただ単に「自信を持って!」なんて言ったところで、Sさんの心は変わりません。

Sさんが、去年の11月の成績で入れそうな国公立大学はないかと聞いてきましたから、まずはそれに答えることにしました。論拠となるデータを示した上で「X大学ならSさんの点数でも十分手が届くよ」と言ってあげられれば、Sさんの気持ちも多少は上向くのではないでしょうか。そういう大学も含めて、Sさんが勉強したいことが学べそうな大学を何校かリストアップしました。

まじめなSさんのことですから、リストを渡せばそれらの大学について自力で深く調べることでしょう。そうしているうちに、その大学に入りたいと思うようになり、試験におびえるのではなく、積極的に立ち向かおうという気持ちが沸いてきたらと思っています。

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どうでしたか

5月7日(水)

レベル1のクラスで形容詞の過去を導入し、「○○はどうでしたか」も勉強したので、練習を兼ねて「運動会はどうでしたか」と学生たちに聞きました。私が聞く前に学生同士でQAの練習をしましたから、私の問いかけに対してわりとスムーズに答えが返ってきました。みんな「楽しかったです」「面白かったです」と答えました。それだけではつまらないので、「何が楽しかった/面白かったですか」と突っ込むと、これまたみんな、自分の出場した種目を挙げました。中にはルールを十分に理解せずに競技に加わっていたと思しき学生もいましたが、無我夢中でとんだりはねたりしたのがエキサイティングだったのでしょう。「疲れた」という声もありましたが、若い体が程よく動いた、心地よい疲れだったに違いありません。

その調子で、「連休はどうでしたか」もQA練習させました。その後に何人かの学生に聞きました。ところがこちらはパッとしませんでした。「どこも行きませんでした」が相次ぎ、「うちでゲームをしました」「宿題をしました」という学生ばかりでした。レベル1の日本語力では、どこかへ何かをしに行くとしても、意志疎通が大いに不安でしょうから、うちで勉強の合間にゲームをするくらいが関の山なのかもしれません。

私は、連休中は奈良県桜井市に滞在し、古墳やら遺跡やらを見て回りました。雨が降った昨日は別として、1日3万歩以上歩きました。気温がさほど高くなく、もちろん寒くもなく、外を歩くのに絶好のコンディションでした。

私が古墳や遺跡を好むのは、いくらでも想像力をはたかせることができるからです。姫路城の現存天守閣は美しいです。歴史的価値があります。でも、目の前に江戸時代に建てられた天守閣が屹立していたら、想像力はそこ止まりです。それに対し、下津井城跡や高取城跡には何もありません。想像力ははたらかせ放題です。この延長線上に○○寺跡や××古墳があるのです。説明版を隅から隅まで読んで、何があったか、どんな人が闊歩していたか思い浮かべるのが好きです。そういうところばかり、1日に何か所も訪れたというわけです。

私も運動会の日の学生同様、心地よい疲れを十分に堪能しました。

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1日限りのこいのぼり

5月1日(木)

今朝、校庭の上空にこいのぼりが泳ぎ始めました。4匹家族のささやかなものですが、こいのぼりを見上げると、心も上向きになります。気が付いた学生は、写真に撮っていました。残念ながら、明日は運動会で、しかも雨の予報ですから、また、その後4連休ということもあり、こいのぼりは夕方にはしまわれてしまいました。地元のみなさんもKCPの毎年こいのぼりを楽しみにしてくださっているとのことですが、今年はほんの数時間の遊泳でしたから、果たして楽しんでいただけたでしょうか。

上述のように、明日は運動会です。教職員はその準備にかかりっきりです。私も、授業で学生と一緒にラジオ体操の練習をしました。ラジオ体操は、小学校などでがっちり仕込まれ、大半の日本人ができるという意味では、立派な日本文化の1つです。私も体が覚えていて、例の音楽が流れ始めると、自然に腕を回したり体をひねったりしていました。教卓とホワイトボードの間の狭いすき間でしましたから、体を存分に動かせたわけではありませんが、深呼吸の頃にはうっすらと汗をかいていました。

明日は雨という予報が若干気がかりです。“学校へ行くより時間がかかるんなら、雨も降ってるし、明日から連休だし、休んじゃおうかな”などと考える不届き者が出かねません。最近の学生は、出席率が下がるのを気にしないきらいがあります。頭が痛いです。

KCPのこいのぼりは1日足らずでしたが、運動会会場までの道すらが、曇り空ながらも風にそよぐこいのぼりが見られるのではないかと期待しています。

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