これから3か月

10月15日(木)

今学期初めての日本語授業は、上級の入り口のクラスでした。自分の意見・考えを論理的に説明するという課題をしましたが、まだまだでしたね。意見までは言えます。しかし、その裏付けをこちらにわかるように伝えることができませんでした。

このレベルの学生たちには、論理的に説明する、ないしは論理的な説明を理解してそれを応用するというあたりに弱点があります。これを克服した暁に、真の意味での上級なったと言えます。そうなるまでには、もう少し時間が必要です。

大学や大学院に進学したら、論理的な議論の毎日です。ですから、こうした能力を今のうちに開発しておく必要があります。読解や聴解をはじめ、作文、口頭発表など、様々な機会を設けて論理的思考を鍛えていこうとしています。KCPの上級を何期か経験したら、完全とまでは言いませんが、そういう力がついてきます。そうなると、日本語力が足りなくて進学先で挫折するということはなくなります。

文法の例文も書かせました。こちらはまだまだでしたね。「は」と「が」の使い分け、特に対比の「は」が使えないんですねえ。いずれきちんと身に付けさせねばなりません。対比の「は」ならまだしも、上級になっても「大学を合格しました」などと書いているのは許せませんね。そんな文を書いていると大学に落ちるぞと言ってやりたいです。

「ほしいだ」「うれしいだ」などと書いているのもいました。こういう輩は即刻初級送りにしてやりたいですね。初級の先生方から、そんな学生なんか要らないと言われそうですが。

初回の感想は、鍛えがいのある学生が大勢いるといったところです。年末までしっかりやらなければ…。

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今の授業は

10月14日(水)

昼休みに、Xさんが来ました。Xさんは2年前にR大学に進学しました。しかし、1年でやめて、W大学に入り直し、今は2年生です。

Xさんが進んだ学科は、後期になってもオンライン授業が続いています。キャンパスへ行くのは試験の日だけだそうです。確かに、その学科は実験や実習はなさそうですから、その気になれば全面オンライン化も難しくはないのでしょう。でも、Xさんは、言葉には出しませんでしたが、ちょっと寂しそうな顔をしていました。

R大学だって十分以上に伝統があり、有名であり、教育力の高さには定評があるのに、そこを捨ててW大学に入ったのです。それにもかかわらず、家で自習に近い勉強しかできないというのは、さぞかし辛いことでしょう。W大学がいい加減なオンライン授業をしているとは思えませんが、学生の立場からすると、どんなに素晴らしいオンライン授業でも満たされないものがあるのではないかと思います。

今後は、大学の授業において、一定の割合のオンライン授業が定着すると言われています。オンライン授業は、現時点では緊急事態に対処する体制の1つですが、ごく近い将来、恒久的な大学教育の手法になるのかもしれません。そうなると、高等教育とは何ぞやという議論も湧き上がってくることでしょう。

私たちは、学生が大学や大学院に入るのをお手伝いするという立場です。高等教育のあり方が大きく変わるとなると、私たちの進路指導の方向性も変わってきますし、そもそも国境を越えて学生が移動するだろうかというところまで考えを及ぼさなければならなくなります。

Xさんは、また来ますと言って去っていきました。マスクを外して撮った写真のXさんは、笑顔だったでしょうか。

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頭脳の再構築

10月13日(火)

先週金曜日から新学期が始まっていますが、私は土曜日の受験講座を担当しただけで、クラス授業をしていません。もっぱら、日本語教師養成講座に携わっています。

10月から私が行ってきた授業は、中上級の文法です。N1の文法項目すべてについて懇切丁寧に解説していくなどということをしていたら、年末までかかっても終わりませんから、文法項目のとらえ方、どこに目を付けるかについて話してきました。特に、教師が例文を通して文法項目の意味を明確に理解することや、言葉による説明ではなく例文によって学習者に文法項目を教えるということに力を入れました。

上級になると、語法と文法が相互乗り入れするような形でその境界があいまいになってきます。また、文章や発話の文脈を捕らえて書き手・聞き手の意味するところを理解することが求められます。そういったことから、文法らしい文法よりも少し外側の事柄にも触れてきました。

そんなことよりも何よりも、受講生のみなさんの頭の中に、文法的な発想を植え付けること、文法理解の回路網を構築することを目指してきました。街なかで使われている敬語の間違いに気づいたり、主語と述語が一致していない、いわゆるねじれ文に違和感を抱いたり、興味深い言葉の使い方を見つけて感心したりさらなる応用例を探したりなどして、常日頃から文法を意識し、頭を訓練していってもらいたいのです。こういう訓練の積み重ねが、いずれは授業に生きてきます。

わずか半月ほどの私の授業でしたが、初回に比べれば受講生のみなさんは文法的な生活が送れるようになってきたように感じます。来週の月曜日は、今期の中上級文法のテストです。少しずつ形作られつつある文法的頭脳を駆使して、合格点を取ってもらいたいです。

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講義を聞く

10月12日(月)

今学期はどこかのレベルを主導的に担当することはありませんが、3つのレベルで授業をします。でも、その代わり、あちこちから教材作りを頼まれています。

超級クラスからは、聴解の授業の依頼が来ています。聴解と言っても、EJUやJLPTの過去問や練習問題をやるのではなく、話の要点をノートに取るというものです。学生たちが進学してから必要となる技能を磨いておこうという趣旨です。私は、ちょっとした長さの講義をするという役回りです。

今まで「身近な科学」で話してきた内容をまとめればどうにかなるのですが、ノートを取らせるとなると、少なくともはじめのうちは、ノートに取りやすい話し方を心がけなければなりません。パワーポイントは、図表以外は使わないことにしていますから、音声だけで専門的な内容を正確につかませるにはどうすればいいかなども多少は考えます。最終的には、学生が力を付けて、未知の内容の話でも要点を把握できるようになってもらいたいと思っています。

最近の大学には、パワーポイントがないと授業が理解できない学生が増えているそうです。パワーポイントなら文字も書かれているし、要点も強調されるし、事柄と事柄の関連も明示されますから、学生の理解の助けになります。しかし、それがないと、講義の要点も内容の関連も頭に入らず、結局、何もわからなかったということになってしまうそうです。

KCPの学生にはそんな大学生・大学院生にはなってもらいたくありませんから、こういう授業を企画しているわけです。学生たちがこの気持ちを受け取ってくれること願っています。

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顔を合わせて解く

10月10日(土)

雨が降り続くパッとしない天気でしたが、4週間後にEJUが控えていますから、EJU読解の受験講座を行いました。4月期、7月期はオンライン授業でしたが、今学期は対面で授業をします。解答時間を厳密に管理し、マークシートをしっかり塗るというところまで指導したいからです。また、問題に取り組んでいる時の学生の様子を観察したいという気持ちもあります。また、学生には、リラックスした状態で解くのではなく、他人の視線も感じながら、少し緊張した状態で解いても力が出せるようになってもらいたいと思っています。

実際にやってみると、目の前に問題文を読み、考え、鉛筆を動かす生身の学生がいる方が、コンピューター越しにしか学生の存在を感じられないオンラインより、ずっと安心します。問題用紙と解答用紙を配り、提出時間を告げた時に、明らかに脈拍数が下がったのが感じられました。試験監督をしていますからまるっきり気が緩んだわけではありませんが、オンラインの時よりリラックスしていました。

不思議ですね。目の前に誰もいない方が、何十もの目が光っている時よりも緊張するなんて。オンラインだと何をしているかわからないというのが、無言のプレッシャーだったのでしょうか。呻吟している学生を見て喜ぶなどという趣味はありませんが、どの程度苦しんでいるかを知るのは、その後の解説に生きてきます。

学生たちは淡々と問題を解き、時間が来たら黙って提出しました。マークシートの塗り方は、事前に注意しましたから、しかるべき濃さの鉛筆で枠からはみ出さないように几帳面に塗られていました。

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変温動物?

10月9日(金)

朝、窓が水滴で覆われていました。スーツで外に出るとひんやりしました。駅には首までしっかり包み込んだ人が何人かいました。K先生やO先生はコートを着てきました。今のところ、東京の最高気温は15.4度、11月中旬並みと、1か月ほど季節を先取りした気温となりました。

最近、出勤してすぐ、おでこで体温を測ると、35度台です。先月までは36.3度ぐらいが平均でしたが、今月に入ってからは35.8度当たりの日が多いです。今朝は、35.6度でした。それだけ顕著に気温が下がり、私の額から熱を奪っているのでしょう。その証拠に、しばらく仕事をしてから再度測定すると、36,2度でした。

0.5度も簡単に動いてしまうとなると、体温〇〇度以上は入構禁止というルールの有効性が揺らいできます。KCPでは37.5度をボーダーラインにしていますが、真冬の季節風に向かって歩いて来たら、37.5度も36.5度になってしまうかもしれません。新宿御苑前駅からここまでは北に向かって進みますから、あながち荒唐無稽な想像だとも言い切れません。

昼に外に出ると、傘を持つ手がどんどん冷たくなっていきました。お店に入ってから、出されたお茶で手を温めました。よく見ると、湯飲み茶碗を両手で包んでいる人が何人かいました。気象庁のデータが示すように、11月半ばぐらいのお店の様子でした。

新学期が始まりました。教科書販売の状況を見る限り、寒い中でもみんなまじめに登校したようです。午後の受験クラスで、非常に厳しい状況だから相当気を引き締めなければならないと発破をかけました。

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取り付ける難しさ

10月8日(木)

始業日前日で、他の先生方が明日の準備をなさっている中、私は日本語教師養成講座の講義でした。語彙の面から文法を見て、日本語の特徴を考察していくという授業です。

語彙というと、複合動詞について語りたくなります。KCPの学生が上級になってもなかなか使えるようにならないのが、この複合動詞です。例えば、「教室に大型モニターを/付けます/置きます」なんていうのは言えます。よくできる学生なら「設置します」ぐらい使うでしょう。しかし、複合動詞である「取り付けます」は、ほとんど聞こえてこないでしょう。これがスムーズに出てきたら、相当日本語を使い慣れていると言っていいでしょう。

私たちも手をこまぬいていたわけではありません。教わった、練習した直後のテストでは合格点を取りますが、しばらくしたら元の木阿弥です。授業中の私の発話や板書などに意識的に複合動詞を織り交ぜても、学生の意識にはなかなか残りません。学生たちにとって複合動詞は、読んだらわかり、聞いたらわかる、いわゆる理解語彙ではありますが、話したり書いたりする時に使える語彙かと言ったら、絶対に違います。

私たちネイティブの日本語話者は、無意識のうちに複合動詞を取り入れてコミュニケーションしています。自然に使いこなしていますから、「教室に大型モニターを付けます」しか言えない学習者の思考回路になりきることはできません。

そういうことを受講生に訴えましたが、なんだか愚痴をこぼしているような気になってきました。明日からの新学期は、学生と力を合わせて受験に立ち向かい、難関を乗り越えねばなりません。ぼやいている暇などありません。

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あれは3年前

10月7日(水)

昨日の夕方、3年前にO大学に進学したGさんが来ました。Gさんは、私をロビーに呼びスト、私がGさんをすっかり忘れているものと思って自己紹介を始めました。でも、Gさんは粘りに粘って卒業式後にO大学の合格を決めた学生で、私にとっては印象深い学生でした。

Gさんは夏ぐらいからいろいろな大学を受け続けました。そのたびに面接練習をたっぷりしました。自分の思いの丈をすべて語ろうとするので、1つの質問への答えが長くなり、そのうち自分でも何を言っているのかわからなくなるというパターンに陥るのが常でした。私だけではなく、K先生やH先生など、他の先生を捕まえて面接s練習していました。

しかし、なかなか芽が出ませんでした。卒業式でKCPとお別れするはずができず、残されたのは最難関のO大学だけとなり、本人も教師ももう1年頑張ることになりそうだと覚悟を決めた時、O大学合格の報が届きました。それをGさんの口から直接聞いた時、私はGさんに向かって深々と頭を下げました。「よくやった」「本当におめでとう」「お疲れさまでした」…、いくつもの感情が入り混じった最敬礼でした。

そのGさんも4年生です。大学院に進学することにしました。大学の勉強だけではなく、学外でも自分の好きな道を追求していると言って、Gさんが発行人になっている同人誌を1冊くれました。編集の大変さを身に染みて知ったと感想を一言。自分の思いを面接官役の私にぶつけることしかできなかったGさんが、多くの同人の思いを受け止めて同人誌を編んだのです。大きな成長を感じずにはいられませんでした。

今シーズンも何人かの学生の面接練習に付き合っていますが、Gさんほど思いを受け止めるのに覚悟のいる学生はいません。Gさんに面接官役をやってもらいたいなと思いました。

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志望校に向けて

10月6日(火)

理科系の大学を目指すGさんに小論文の課題と口頭試問で聞かれそうな理科の質問を伝えたのは先週のことでした。午前中、私が養成講座の講義をしている最中に答えを持ってきたようです。

小論文も口頭試問もたくさん出題したのですが、Gさんはそのすべてに答えていました。その点は立派だし、努力も認めますが、その代わり志望理由書を書くのが遅れているそうですから、優先順位を考えて取り組んでもらいたかったですね。出願がうまくいかなかったら、小論文も口頭試問もないのですから。

さて、まず、口頭試問の回答を読んでみました。悪くはありません。ポイントは捕らえています。しかし、それは文章としてであり、面接官の前でこれをそのまま話せるかと言ったら、おそらく無理です。いかにもインターネットで調べたという感じのこまごまとした専門的事柄は、実際には口から出てこないでしょう。今度会ったら、その点を指摘しなければなりません。いや、実際に面接練習をして同じ質問をしてみれば、「書く」と「話す」の差に愕然とするに違いありません。

次は小論文です。Gさんが一番自信を持っているという課題を読みました。原稿用紙2枚に書いてきましたが、無駄な部分が多く、それを省くとせいぜい1枚半です。本気で削ったら1枚に満たなくなるかもしれません。闘志が空回りしています。文章を膨らませる方向がちょっと違っているのです。好きだとか得意だとかというだけで文章を綴っていくと、小論文の肝になる部分が抜けてしまいかねません。自分の専門を踏まえた分野に話を広げていくよう指導しましょう。

でも、かなり高度な課題に食らいついてきたGさんは見込みがあります。上手に育てていきたいです。

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学期休み中ですが

10月5日(月)

学期休み中ですが、受験シーズンとあって、切羽詰まった学生たちが学校へ来ています。

午前中は養成講座でしたが、授業が終わるや否や声をかけられました。S大学への志望理由書、学習計画書を書き上げたKさんが最終チェックをしてくれとのことでした。詳しく見ていけば言いたいことはたくさんありますが、ここは感度を若干下げて、細かいことにはツッコミを入れず、大きな流れだけを捕らえました。面接で聞かれそうな点1つと、語句の修正1か所を指摘し、出願するように指示しました。

昼食を取って戻ってくると、ロビーでEさんが待っていました。面接練習の約束をしていましたが、予定よりも20分ほど早かったので、また、下を向いて何やらつぶやいているようでしたから、声をかけずにそばを通り過ぎて職員室に入りました。すると、5分後ぐらいにお声がかかりました。準備はできたと言いますから、15分ほど早かったですが、練習を始めることにしました。

担任のO先生の話によると、Eさんの最大の意問題点は緊張しすぎることで、それを何とかするのが私の役回りです。Eさんは以前受け持ったことがありますから、まんざら知らないわけではありません。しかしEさんは手指も声も震え、一生懸命さは伝わってきますが、話の中身は頭の中でかなり補わないと理解できません。しどろもどろなんていうレベルじゃありませんでした。話すべきことを暗記してきたそうですが、逆効果でした。緊張のため最初の言葉が出てこず、頭が真っ白になってしまったことは、Eさんの様子からすぐわかりました。

ですから、言いたいことを単語で整理するように言いました。文を丸暗記するのは、Eさんの場合は危険ですから、それはやめさせ、キーワードだけ押さえておくことにしました。こうすれば多少は負担が軽くなり、今後の練習のしかたによっては、今よりは滑らかにしゃべれるようになるでしょう。

今年は入試戦線に大いに異状があります。そこを勝ち抜くためには、学生も教師も力を出し合わなければなりません。

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