最後のふれあい

3月8日(月)

時折雨の降るあいにくの天気でしたが、卒業式を行いました。密を避けるため、3回に分けました。だから、忙しかったです。でも、卒業生の顔が間近に見られるお手頃サイズの式になりました。去年はついに行うことができず、日時予約制で卒業生に証書などを取り来てもらいました。それを考えると、大きな進歩かもしれません。

ずっとオンライン授業が続いたからでしょうか、ラフな服装で出席した学生が多かったと感じました。フォーマルな服装でと、先週、口頭でもメールでも何回か注意してきたんですがね。図らずして、お知らせの伝わりにくさを実感させられました。もちろん、朝、「昨日熱を出したから、大事を取って卒業式は欠席する」と欠席連絡をしてきた学生もいます。

別の角度から見ると、学生たちはこのように連絡が伝わりにくい悪条件の中で勉強を続け、卒業式にまでたどり着いたのです。確かに私たちも苦労しましたが、学生たちの苦労も察してあげるべきだと思いました。とかく、教師は教師側のもどかしさを語りがちですが、学生の不自由さにも思いをはせて授業を作っていくことが、2年目に突入したオンライン授業の課題です。

3回目の卒業式を終えて職員室に戻る途中、2階のラウンジをのぞいてみると、学生たちの輪がいくつかできていました。天気がよければ校庭に集まってもらいたいのですが、雨がぱらつくこの寒さじゃやむを得ません。“1つのテーブルに1人”などと無粋なことは言わず、目をつぶることにしました。やっぱり、会って話をしたいんですよね。

それから、もう1つ。今年はサイン帳を持って教師や学生から“ひとこと”をもらっている学生を何人か目にしました。これもまた、リアルな触れ合いを求める傾向の1つなのかなと思いました。

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ああ、バーベキュー

3月6日(土)

先週の卒業認定試験の際に行った卒業生アンケートに目を通しました。KCPでいちばん記憶に残っていることは何かという質問には、2019年秋のバーベキューという答えが圧倒的に多かったです。そう、卒業生にとって、これが、全校生が集まって実施した最後のイベントなのです。その後、イベントがなかったわけではありませんが、みんなで盛り上がるということはありませんでした。

このバーベキューのような全校行事をすると、クラスの何名かは、やりたくないとか出席のためだけに参加するとか自分に仕事は割り振らないでくれとか言い出します。実際にバーベキューの最中にずっとスマホをいじっていた学生もいました。しかし、アンケートを見てみると、参加したくないと絶対に言いそうな学生まで、楽しかったと答えています。オンライン授業ですぐどこかへ行っちゃうような自己中心的な学生も、みんなと一緒でおもしろかったと感想を述べています。私たちは、行事の実施に自信を持っていいようです。

そうは言っても、緊急事態宣言が延長されましたし、近い将来解除されたとしても、おととしのように何百人も集まって体育館で運動会というわけにはいきません。今年の卒業生はかすかに楽しい思い出がありますが、来年の卒業生はどうなることでしょうか。zoomとマスクの留学生活では、あまりにも寂しいです。

みんなで集まらなくても楽しめるイベントを生み出す、これもまた、with Coronaに向けての1つの課題です。オンライン授業の技を磨けばそれで十分というほど、甘くはありません。

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日本語が変わる?

3月5日(金)

「みんなの日本語」の掉尾を飾るのは敬語です。尊敬語と謙譲語の基本の部分を扱います。もちろん、教科書の問題でちょっと練習したくらいで過不足なく適切に使えるようになるわけがありません。日本語教師養成講座で敬語を扱っても、受講生はボロボロになるくらいですから。

日本語教師を目指す人たちは、日本語について興味・関心も持っているでしょうし、言葉に対する感度も高いことでしょう。そういう方々をもってしてもすぐには適切レベルにならないのですから、外国人である留学生が一発で身に付かなかったとしても、強く責めるには当たりません。

街を歩いていると、敬語の誤用例などいくらでも見つかります。「お~になります」という尊敬の表現を使うべきところで、「お~します」という謙譲の表現を使ってしまっている例が最も多いです。日本を代表する有名企業、優良企業でも、店内アナウンスやパンフレットなどでそんな誤用を犯しています。

日本人の大学生は、就活で鍛えられます。さらに新入社員教育で磨きがかけられます。しかし、そこがピークで、あとは頻繁に使う人でも誤用が定着してしまうものです。私はこういう商売をしていますから、そういうのに敏感に反応しますが、一般的な日本人は気にも留めないことと思います。

大多数の日本人が、尊敬語と謙譲語の区別がつかなくなったら、敬語は今の私たちにとっての古文みたいになるのでしょうか。読んで意味を理解したり話したりするのが特殊技能とされるのかもしれません。街の日本語を拾っていると、その日は案外近いような気がします。

学生たちはけなげに練習し、「お~になります」と「お~します」が使い分けられるようになりました。期末テストが終わったら、記憶の彼方に消えてしまうんでしょうがね。

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楽勝

3月4日(木)

Gさんは午後から入試です。でも、KCPからの書類も提出していなければ受験料すら払い込んでいません。出願書類や受験料などは、すべて受験後に持って行けばいいそうです。入試と言っても形だけで、受ければ合格だと言われたとか。卒業式まであと4日となるに至ってもどこにも受かってないGさんにとっては、これほどおいしい話はないでしょう。

もちろん、この学校はまともな学生選抜などしていないでしょう。頭数を揃えるのが第一義であり、教育は二の次以下に違いありません。私もこの学校のことは知っていましたが、学生には一切教えませんでした。しかし、Gさんはどこからかこの学校の情報を得て、試験当日、欠席しなければなりませんから、やむを得ず学校に伝えたのでしょう。

多くの学校は、まともな学校です。“レベルが低い学校”という烙印を押されていても、なにがしかの選抜はするものです。日本で勉強を続けるにはビザが必要な留学生に対して、とりあえず身一つで試験を受けに来てくれなどというところは、怪しいことこの上もありません。日本に居続けたい学生側と、どうにか学生を確保したい学校側と、両者の利害が一致した結果が、こういう試験なのです。

これだけでも十二分に驚くに値するのに、Kさんに至っては、今朝、Gさんからこの学校の話を聞いて、その場で受験を決めて、無断で授業を休み、受けに行ってしまいました。昨日まで、来週締切の大学の出願準備をしていると言っていましたが、もう面倒くさくなってしまったのでしょう。この学校に受かったら、予定していた大学は絶対に出願しないに決まっています。つい昨日までKさんの進路指導に当たってきた多くの先生方の努力は、はかなくなってしまったわけです。

日本語学校生がさらに少なくなる2022年度入試は、こういう入学試験方式(?)が横行するのでしょうか。

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どうなるのかな

3月3日(水)

7日が緊急事態宣言の期限ですが、ここへ来て雲行きがぐっと怪しくなりました。菅さんの力をもってしても、首都圏の知事が一致団結したら、解除はおぼつかないでしょう。実際、新規感染者数は下げ止まりどころか若干増える気配さえ見せています。世界的には増勢に転じたという報道もあります。

となると、4月期の新入生がどうなるか、非常に気懸かりです。予定通りに緊急事態宣言が解除されても、留学ビザの外国人がスムーズに入国できるか懸念されるのに、解除されなかったら絶望的でしょう。そうなると、去年同様に入学が後ろ倒しになり、日本語学習の期間がどんどん短くなり、…という一本道にはまり込みかねません。

EJUの出願が始まっていますが、今年は予定通り実施されるのでしょうか。11月の試験は、一部の会場が中止のやむなきに至りました。EJUのページによると、フィリピン会場がすでに中止になっています。まさかとは思いますが、東京都内の会場が中止に追い込まれたら、大混乱に陥ります。

こういう仕事をしていると、留学生が思い通りに進学できるかどうかに関心が集中してしまいます。努力を続けた学生が報われる形で、感染拡大防止の諸施策が遂行され、効果を上げることを切に願っています。政策の優先順位としては低いでしょうがね。

こちらとしては、なかなか家から出られない学生たちが精神的に参ってしまわないように、ということも考えておかねばなりません。いや、もう、動いています。「オンライン」を言い訳にしない教育を始めています。

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動きが鈍いと

3月2日(火)

つい先日合格を決めたXさんが、入学許可証を持って来ました。学校から入管への報告に必要ですから、進学する学生には入学許可証を持って来てもらい、学校でコピーを取っています。

ところが、そのXさんを見つけたY先生が「Xさん、何してんの! 授業中でしょう」と一喝。本来なら自分の部屋でオンライン授業を受けていなければならない時間に、学校へ来てしまったのです。担任教師としては怒らなければなりません。怒られたXさんは、シュンとなって帰りました。

その後、T先生と、担当している学生たちの進学先決定状況を確認しました。学期初めに比べれば未定者はかなり減りましたが、残っている学生はかなりのつわものたちです。そして、T先生の分析によれば、このつわものたち、動きが鈍いのです。教師からアドバイスをもらっても、動き始めるまでに時間がかかり、チャンスを逸してきた形跡があります。

さらに言ってしまうと、優先順位がつけられないという面もあります。Xさんがその典型でしょう。志望校から入学許可証が届いたら、うれしくなって、後先考えずに学校へ来てしまったに違いありません。Xさんに限らず、計画性がない学生、すぐに取り掛からなければならないことが見えない学生が、いつまでたっても進学先が決まらないという図式が見えてきました。

それに対し、NさんやGさんなどは、日本語力的には疑問符が付いていましたが、夏ぐらいから騒ぎ出して、周囲の教師も巻き込んで、昨年秋には合格を決めてしまいました。Aさん、Fさん、Wさんあたりも、合格が決まったのは年が明けてからでしたが、計画的に動いていましたから、思いを遂げることができました。

毎年、多かれ少なかれ、そういう傾向がありましたが、今年は特に顕著なような気がします。これを、卒業式後に残る学生の指導につなげていきます。

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行方不明

3月1日(月)

朝、学校へ来てパソコンを立ち上げると、Cさんからメールが来ていました。専門学校に出願するので推薦書がほしいと言います。Cさんの出席率を調べてみると、入学からは90%を超えていますが、ビザ更新後はKCPの推薦基準を大きく下回る数字でしかありません。今学期、私が担当したオンライン授業の時も、出席を取ると返事をしますが、授業中に指名しても答えが返ってきたためしがありません。そういう時は、文句なしで欠席にします。そういうのがたまりにたまって、ひどい出席率になったのです。

午前中、そのCさんのクラスの授業でした。朝一番に出席を取った時は返事がありました。その20分ぐらい後で教科書を読んでもらおうと指名したら、返事がありません。2度呼びかけましたが反応がありませんでしたから、授業に参加していないものとみなして、欠席にしました。休憩時間を挟み、後半の授業が始まる時に出席をとるとまた返事がありましたが、その後また行方不明に。授業の開始から終了まで、パソコンのカメラがオンになったことはありません。授業の最後にCさんに呼び掛け、授業後、出願しようと思っている専門学校の書類を全部持って学校へ来るようにと言いました。

約束の時間に現れたCさんは、悪びれたところもなく、推薦書はもらえないのかと聞きます。専門学校の書類を見ると、推薦書は必須ではありません。あると学費を減免してもらえるというものでした。出席率の話をし、KCPとしては推薦書を出せないと伝え、推薦書がなくても出願はできると伝えました。すると、Cさんは、わりとあっさり推薦書はあきらめました。

そもそも、推薦書を頼んだ相手の教師が担当する授業に返事だけして参加しないという根性がどうかしています。30分ほどCさんと話しましたが、出席率が下がったことに対する反省などは全くありませんでした。何でもオンライン授業のせいにしたくありませんが、入学してからオンライン授業が多かったCさんはKCPに対する愛着が薄いのでしょう。また、教師の目がないとなると好き勝手なことができると思い込んでいるに違いありません。

オリンピックとの兼ね合いもあり、8日に緊急事態宣言が解除されるという観測がもっぱらです。Cさんが日本でまじめに勉強するには、対面授業が欠かせないような気がします。4月か普通の学びができることを祈らずにはいられません。

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ボーダーラインなし

2月27日(土)

昨日の卒業認定試験を採点しました。私のクラスは両極端でした。できる学生とできない学生の差が激しく、余裕で合格か箸にも棒にもかからないかのどちらかでした。ボーダーライン上の学生にどこまで温情をかければいいだろうかと思っていましたが、悩むまでもなく判定できました。

やっぱり、授業中の態度が反映されていますね。オンラインなのをいいことに、接続だけして何をしているかわからないような学生は軒並み不合格でした。顔を出さず、指名しても反応しないのですから、授業を受けているとは見なせません。そういう学生が不合格になったのですから、真っ当なテストだったと言うことはできます。

1月期は、進路が決まった学生の気持ちをいかにして学校に引き付けるかが、毎年問題になります。学生も登校すればなんだかんだと言いながらも授業に参加せざるを得ず、だからなにがしか得るものもあります。しかし、オンラインの場合、いわばタガが外れた状態になり、学校から気持ちが離れた学生は際限なく落ちていきます。わずかな時間で縁が切れると踏んでいる学生には、北風も太陽も意味を成しません。

そういう学生の心もつかむコンテンツが提供できなかったという点においては、我々教師が非力だったこともあります。研究の余地も大いにあります。だけど、授業に参加しない学生ほど、私たちから見れば、日本語力に不安があるんですよね。昨日の試験に例文を作る問題がありましたが、それがほとんど白紙で大学や大学院の授業についていけるんですかと問いたいです。謙虚になってもらいたいです。

卒業認定試験も終わってしまったとなると、謙虚じゃない学生の目には、学校は消化試合にもならない授業をしていると映ることでしょう。それなら、こちらにも意地がありますから、一ひねりしてやりましょうか。

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今年初

2月26日(金)

今学期初めて、大勢の学生が登校しました。卒業認定試験を学校で行ったのです。卒業認定試験はKCPとしては一番重みのある試験ですから、“何でも持ち込み可”になりかねないオンラインのテストではなく、学生たちにご足労願ったのです。やはり、きちんとした試験でそれぞれの学生を卒業に値するかどうか判断するのが、学生に対する礼儀でもあると思います。入管提出用の書類を書いてもらうという面もありましたがね。

私は別件があったので試験監督に入りませんでしたから、教室のにぎわいを直接感じることはできませんでした。しかし、午後のクラスの教室に向かうとき、試験を終えた学生たちとすれ違いました。「先生、こんにちは」という声を久しぶりに耳にしました。マスクで顔の半分が覆われていますから誰が誰やらわかりませんでしたが、校舎にあふれる活気のかけらを味わえました。

実は、昨日の夜、T先生やA先生が1階のエレベーターの向かい側にひな人形を飾ってくださいました。ひな祭り当日の3月3日はオンライン授業で学生は登校しませんから、卒業生がみんな登校する卒業認定試験の日に合わせて桃の節句と春の訪れを感じてもらおうという趣向です。朝は試験前ですから目を向ける余裕もなかったようですが、試験終了後はスマホを向ける学生もいました。

次にこの学生たちが学校へ来るのは、卒業式の日です。密にならないように、いつもの年とは違う形で式を行いますが、精一杯心を込めて、卒業生を送り出す準備をしていきます。

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来年こそは

2月25日(木)

入試に受かった学生は、学力が高いこともさることながら、その志望校についてよく調べています。調べるとこを通してその学校が好きになり、より一層合格を引き寄せたのではないでしょうか。また、自分の到達目標がより明確になった面もあるでしょう。この大学でこういう勉強をすればこういう自分になれる――そんな将来像が多少なりとも見えてきたのだと思います。

逆に、落ちた学生は、多少学力があってもそういう面で訴えるものがなかったのだと思います。単に憧れだけで受験したり、大学名にひかれて出願したり、周囲に踊らされてしまったり、細かく分析すれば受けたきっかけはいろいろでしょう。でも、いずれにせよ、そこに確固たる自分がありません。そんな学生たちが、今、断末魔の苦しみを味わっています。入試行脚が卒業式以降も続きそうな学生も、1人や2人ではありません。

そうなってもらっては困るので、来年進学予定の学生たちへの進学授業で、大学で何を学ぶか、志望校をどうやって決めるかについて話しました。初級の学生には荷が勝っていると承知の上で、志望校選びの王道を語りました。通訳が入ったとはいえ、学生たちは初めて耳にする考え方に戸惑ったことでしょう。

初回は、それでもいいです。3月にもう3回この進学授業がありますから、じっくりと学生たちを洗脳していきます。EJUの成績や学校の名前だけで受験校を選ぶようなことだけはやめさせたいです。次回は、今シーズンさんざん学生に悩まされた書類についてかな。

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