Category Archives: 学校

一緒がいい

7月10日(金)

授業後、先学期私が受け持っていたHさんが職員室に呼び出されていました。Hさんは、今学期の担任の先生に恋人と同じクラスにしてほしいと訴えていました。恋人と一緒に勉強できればやる気も湧いてくると言います。

KCPでは、恋人同士は同じクラスにしません。一緒のクラスにすると、ろくな結果を生まないというのが今までの経験からわかっています。学校にいる3時間かそこらの間くらい別々に過ごしたって、恋人は逃げたり消えたりしません。同じ教室で隣に座り、先生よりもお互いの方に目を向けていたら、成績が上がるはずがありません。

YさんとMさんも恋人同士でした。新入生の時、2人とも私のクラスでした。2人の住所が全く同じで、ゲストハウスとかルームシェアとかという形態ではないところでしたから、確かめてみると一緒に暮らしているとのことでした。一緒に暮らすなとまでは言いません。でも、生活を教室まで持ち込んで、いつもくっついているというのはいただけません。座席指定制にして離れた席にしたり、グループワークでは必ず別々にしたりと、こちらも2人が日本語に集中できるようにと工夫しました。もちろん、次の学期からは違うクラスにしました。

でも、2人は休み時間になると、七夕の織姫と彦星よろしく、非常階段やラウンジで会っていました。そんな2人を見ているとほほえましくもありましたが、教室でも同じ調子でやられたらかないません。心がほんの少し痛みましたが、クラスは分けて正解だったなと思いました。YさんとMさんは卒業後も一緒だそうです。

仲がいいのはまだしも、2人が険悪な関係になってしまうと、教室全体に暗雲が立ち込めることもあります。2人は全然違う意味でお互いしか見えませんから、これまた厄介です。教師が下手に口や手を出すと、余計にこじれてしまいます。

Hさんのクラスは変えるつもりはありません。恋路は学校の外で歩んでもらいます。

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塩素のにおい

7月7日(火)

あさってから新学期なので、午後から教室の消毒をしました。教職員が全教室を手分けして、いすや机をはじめ、学生・教師が触れそうなところを、消毒液でよく拭きました。毎日の授業後も消毒液を吹きかけていましたから、どうしようもなく汚れているということはなかったでしょう。しかし、最近、じわじわと感染者数が増えて来ていますから、念を入れておくに越したことはありません。

床とか窓とか、しゃがみこんだり伸び上がったりしないと手が届かない場所まで手掛けたわけではないのですが、うっすら汗をかくほどの仕事量でした。今学期は始業日までに新入生が大挙してやってくることはありませんから、学期前の準備も比較的楽でした。ですから、ちょっと額に汗するくらいで、新学期を迎えるにふさわしい雰囲気になります。お正月を迎えるにあたって大掃除をするようなものでしょうか。

九州の大雨に見舞われた地域に比べれば、教室の消毒なんてゴミみたいなものです。家の中を濁流が通り抜けたんですよ。倒木やら車やら、果ては隣の家まで流れ込んできたんですよ。畳も家具も衣類も家電製品も台所用品も仕事道具もみんな泥水に浸かっちゃったんですよ。消毒液でちょちょいと拭けば終わりじゃありません。

大きな被害を受けた熊本県人吉市へは、5年ほど前の夏休みに行きました。鎌倉時代から続く相良氏の城下町で、街の人たちはその歴史に誇りを持っています。また、熊本県唯一の国宝・青井阿蘇神社は風格を感じさせる拝殿を持っていますが、球磨川のほとりと言ってもいいところにありますから、被害が心配です。

消毒後の教室には、かすかに塩素のにおいが残っていました。人吉のみなさんは塩素まみれになるくらいに消毒をするところから立ち上がるんだろうなと思いました。七夕の夜も、人吉には雨が降っているようです。

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わざわざ来ました

6月3日(水)

3時過ぎ、オンラインの受験講座の前半が終わって、窓際でぼんやり外を眺めていると、「先生、卒業生のWさんが書類の申し込みに来ています」と声をかけられました。数日前、ビザ更新に必要な書類を申し込みたいとメールを送ってきましたから、KCPのホームページから直接申請できると教えました。メールが来たのは緊急事態宣言が解除されたころでしたが、出歩かないに越したことはありませんから、そう答えておきました。

1階の受付まで下りると、Wさんが申請書類に必要事項を記入しているところでした。「KCPは学校で授業が始まったんですか」「うん、今週からね。でも、全部の学生が一緒にならないように、レベルによって来る日を変えてるんだ。Wさんのところは?」「うちの大学は、今学期は学校で授業がありません。オンラインだけです」「Wさんみたいな専門だと、それは困るよねえ」「はい。でも、私はコンピューターグラフィックスですから、まだましです。だけどやっぱり、大きな制作は大学に事前に申し込んで設備を使わせてもらってるんです。彫刻の学生なんかはかわいそうですよ、何にもできませんから」

去年の今頃思い描いていた大学生活とはだいぶ違うようです。1年生ですから、まだ焦ってはいないでしょうが、もどかしさは感じていることと思います。KCPまでわざわざ来たのも、うちから一歩も出られない、出る用事がない、そういう憂さを晴らす意味もあったのではないでしょうか。

今年就活とか大学院進学とかという卒業生はどうしているでしょうか。去年の秋あたりに夢を熱く語っていた何人かの顔が頭をよぎりました。

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復活初日

6月1日(月)

学生が登校しての授業が再開されました。といっても、全校の学生全員が一斉に登校したわけではありません。月曜日は上級、火曜日は中級というふうに、登校する学生の数を絞っています。

登校した学生は、まず、検温です。自宅で測った体温を提出してもらっていますが、学校の入り口で最終チェックです。それを通過したら、次は手の消毒。そして、エレベーターは使わず、階段で各自の教室へ。自宅に閉じこもっていた学生にとっては、いい運動になるでしょう。オンライン授業は9時半開始で、教室での授業は9時開始ですから、遅刻者が大量に出るのではないかと心配していました。でも、学生たちは思ったより早く登校し、9時過ぎに駆け込む学生がわんさかという事態には陥りませんでした。また、いつもの半分のクラスしか登校させなかったので、どこかで学生が滞留するようなこともありませんでした。

授業開始直前の教室を見て回りました。廊下のベンチでパンをほおばる学生もいましたが、概して幾分緊張気味に、教室におとなしく座ってスマホをいじったり教科書を見たりしていました。

休み時間になると、何名かの学生は近くのコンビニまで買い物に行きました。でも、オンライン授業になる前まで見られた、飲み食いしながら学校まで戻ってくるという姿はありませんでした。そういう意味では、以前よりお行儀がよくなりました。

下校時は登校時に比べて緊張が解けた様子がうかがえました。数名で談笑するグループもありましたが、「密」になることなく解散していきました。時折小雨が降る肌寒い天気だったので、校庭には誰も入らず、テーブルといすとベンチが寂しく濡れていました。

私は授業に出ませんでしたが、教室で学生に接した先生方によると、みんな神妙に授業を受けていたようです。学生たちは「学校で」勉強することの意義を感じ取ったでしょうか。逆に言うと、私たちはそれを感じさせられたでしょうか。これからそういう点を検証していきたいです。

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これから始まる

5月30日(土)

今学期の私は、日本語教師養成講座と受験講座にかかりっきりで、通常クラスにはほとんど関わってきませんでした。オンラインだと1人の教師が大勢の学生を相手にできますから、私がいなくてもどうにかなっていました。

来週の月曜日から、教室で授業を行うようになります。それで、クラス数が増えますから、私も駆り出されて授業をすることになりました。教える内容そのものは、以前に扱ったことがありますから、教室で戸惑うということもないでしょう。心配なのは、今までとは授業の進め方を大幅に変えなければならないことです。

まず、こちらはマスク+フェイスシールドで教壇に立ちます。やっぱりしゃべりにくいし鬱陶しいし、声も通りにくいですから、言葉を厳選して授業を組み立てなければならないでしょう。無駄話をしていると、フェイスシールドの内側が曇ってしまうかもしれません。要領よくしゃべらないと、こちらの意図が学生に伝わらないかもしれません。

それから、ペアや少人数のグループになって活動することも、「密接」につながりますから、避ける必要があります。教室の机の配置も、学生同士が面と向かい合わないようにしています。安易に、「じゃあ隣の人と…」などということができません。それに代わる何かを開発し、教師が一方的に講義する形ではなく、学生が受身にならないようにしていきます。これが結構難しいんじゃないかな。

さらに、授業後に机などを除菌したり、教室の窓を開けて換気したりという、授業の周辺事項が増えます。学生指導にも、感染拡大防止という観点が加わります。期末テストまで1か月足らずですが、新しい挑戦に富んだ毎日になりそうです。

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文化の違いを乗り越えろ

5月27日(水)

6月から週に何日かは学校での授業を始めようと準備を進めています。3密を避けるために常に学生がたむろしていたラウンジをどうするか、授業後の除菌・消毒をだれがどのように行うか、そういった問題をひとつひとつつぶしています。登校した学生の体温測定をどうするかも大きな問題です。職員が非接触型体温計で測るところまではいいのですが、計測のために行列ができてしまっては意味がありません。学生全員が定刻までに来てくれれば話は単純なのですが、遅刻されると問題が複雑になります。

そんな問題よりはるかに大きな、おそらく解決不能な難題があります。手洗いの励行が感染防止に有効なことは論を待ちません。また、学生たちも手を洗いはします。しかし、洗った手をどうするかというと、自然乾燥か服や髪で拭くというのが一般的です。そんなことでは、せっかく洗った手が、服や髪についていた雑菌・ウィルスで汚れてしまいます。ちょっと考えればそのくらいわかるはずなのですが、ハンカチやタオルを持っている学生は、皆無に近いです。長年にわたって口を酸っぱくして注意しても、まったく効き目がありません。

ハンカチを持つことを厳しくしけるのは、日本の文化のようです。学生たちはそんな教育を受けて来ていませんから、突然持てと言われても、その意義が理解できません。教師が意義を説いたところで、心から納得するには至りません。学生の食習慣や勉強のしかたなどに違いを感じることはよくあります。でも、そのあたりは学生の方から日本流に歩み寄ることが多いです。ところが、このハンカチを持たない文化だけは、微動だにしませんね。

刻一刻と学生の登校日が迫っています。うまい対策がないものですかね。

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数学の本

5月21日(木)

Tさんから、受験講座の数学の教科書がほしいというメールをもらいました。受験講座の数学は大学入試向けですから、理系の大学院を目指しているTさんにはやさしすぎます。ですから、私の手持ちの参考書を教えました。紀伊国屋が営業を再開したようですから、そこへ行って他の専門書も手に取って見てみてはどうかとアドバイスしました。

いつもの年なら今ごろはそろそろ大学院の先生に接触を始める時期ですが、今年は3月ぐらいからほとんど前に進めない状況に陥っています。Tさんは、そういうあたり、どうなっているのでしょう。することがないから数学の試験勉強でもするかっていう状況だったら、ちょっとまずいですね。でも、全受験生が同じように何もできないのなら、それもまた、ある意味平等です。

そうはいっても、受験生としては不安でしょう。大学院選びにしても、学生がいる狭い世界では真に意味での“いい大学院”が見つかるとは限りません。別の視点にも立って、立体的にこれからの学び舎や自分の将来を捕らえて初めて、進むべき道が浮かび上がってくるものです。研究計画書にしても、ネットの情報を集めて形を作っても、学生の初稿は穴だらけです。理屈の上ではコンピューター上で進学先を決定できないことはありません。でも、デジタルネイティブの学生たち自身が、それだけでは安心できない様子です。

進学先選びをする学生たちによくこう言います。これから、大学で4年、大学院で2年、生活するところを選ぶのです。単に学校の名前だけで選んではいけません。入学金やら授業料やらと考えると、数百万円の買い物です。悩んで当たり前、慎重にならない方がおかしいです。一時の勢いだけで決めてはいけません。

学校での授業が再開されたら、Tさんの話をじっくり聞いてみるつもりです。

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解除の先に

5月14日(木)

「ポストコロナ」とか「コロナ後」とかという言葉によく接するようになりました。従前の社会の仕組みを改めようと、各方面が動き始めています。

在宅勤務が広がると言われています。始めてみたら案外うまくいったという声が結構あるようです。しかし、いわゆる現場は、なかなかなじみません。お店も工場も交通機関も、完全な無人化までにはまだまだ長い道のりがありそうです。学校もその現場の1つです。原理的には教師の自宅から遠隔授業を実施することも可能です。しかし、それが今までと同様の教育効果をもたらすかとなると、大きな疑問符が付きます。でも、遠隔授業の要素を取り入れた授業の進め方は、検討の余地があります。学生管理の方法も含めて、学校運営のあり方を考えるきっかけにしていく必要があると思います。

3密を避ける動きもとどまることはないでしょう。考えてみれば、3密は高度経済成長期かバブル期の残滓です。“みんなが一斉に”が当たり前だったころの名残です。時差出勤しても大きな問題が生じないことがわかってきました。実店舗に足を運ばなくても物が買えます。ウチ飲みが流行っています。個性の時代と言われて久しく、「みんなちがって、みんないい」に光が当たるようになったのは、いつのころからでしょう。仕事も遊びも日常生活も、集団離れが進みつつあります。

それから、マスクが外出時の標準装備になるかもしれません。コロナウィルスへの感染の心配は消えても、未知の病原体を恐れる気持ちは、容易にはなくならないでしょう。インフルエンザや花粉症の季節だけではなく、1年を通してマスクをする人が増えると思います。

東京は月末まで続きますが、39県で緊急事態宣言が解除されました。これらの地方でどんな生活が始まるのでしょうか。注目していきたいです。

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やさしい日本語

5月7日(木)

電話が鳴りました。「はい、KCPです」。Sさんが電話を取りました。どうやら、授業料の支払いとビザの更新に関する問い合わせのようです。去年の4月に入学した学生は、だいたいビザの期限が6月末か7月初めです。この学生も、おそらくそうなのでしょう。

「授業料を払ってもらった時にビザの更新の手続きもしますから…」と説明しています。あれ、それで通じるんだろうかと心配になりました。

このセリフの場合、“授業料を払ってもらった”の主体は、KCPです。でも、学生にとって“授業料を払ってもらった”といったら、“私が親に授業料を払ってもらった時”という文が、まず頭に浮かぶのではないでしょうか。後半部分は、主体があなた(=学生)でもKCPでも大勢に影響はありません。

この学生が今どのレベルかわかりませんが、去年の4月にレベル1で入学して、今学期中級レベルだったら、すんなり理解できたでしょうか。いや、「授業料」「払った」「ビザ」「します」しか聞き取れず、そのおかげで授業料支払い時にビザ更新手続きもすると受け取れたかもしれません。

「やさしい日本語」が少しずつ広がってきています。日本人が、日本で暮らす外国人が理解できる日本語を使って、情報伝達などを進めようという動きです。阪神淡路大震災の時に、外国人が情報を得られず困難な状況に陥ったという反省から始まっています。外国人が大勢暮らす自治体を中心に、活用が進められています。

この「やさしい日本語」の精神で上記のセリフを言うとすると、どうなるでしょう。考えてみてください。Sさんに悪気はなかったとはいえ、ちょっと勉強してもらわなきゃね。

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朝のお勤め

5月1日(金)

人通りは減っているはずなのに、一向に減らないのが投げ捨てられた吸い殻です。今朝は5本も拾いました。毎朝出勤したらまず学校の前に変なものが落ちていないか点検しますが、吸い殻が0本になる日は最近めったにありません。風邪で吹き寄せられたとは考えられませんから、学校の前の道を歩いていた人がポイと捨てたに違いありません。

マスクをしたままたばこは吸えませんから、あごマスクかなんかの状態で吸ったはずです。たばこは煙とともに息も吐き出しますから、吸っていた人が無症状感染者だったらウィルスもまき散らしたことになります。ポイ捨てした人全員が無症状感染者だったとは思いませんが、あまりいい気持ちはしません。私の想像力はたくましすぎるでしょうか。

志村けんさんが亡くなったのも、ヘビースモーカーだったため病気の勢いが増したためだと言われました。自分の命を削っていることに気が付かないのでしょうか。きっと依存症なのでしょうね。だから、健康を害することになりかねないことにもお構いなしに吸い続け、しかも吸殻をポイ捨てして恥じるところがないのです。新宿区は条例で路上喫煙を禁止しています。それにも触れています。罰則こそありませんが、条例違反は取り締まりの対象です。

受動喫煙禁止法で、4月から屋内での喫煙が禁止され、たばこは外で吸わざるを得なくなったため、路上喫煙禁止条例など意識の外になり、こうした状況になってしまったとも考えられます。依存症だとしたら、そういう思考回路であることもうなずけますね。明日からも地道に学校前をきれいにしていくほかありません。

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