Category Archives: 学生

変身できたかな

9月2日(月)

今朝は、馬子にも衣裳みたいな、どことなくぎこちないスーツ姿の学生が何人も職員室の前を通っていきました。お昼の時間に、面接身だしなみ講座があるからでです。スーツ屋さんの店長さんがいらっしゃって、スーツの着こなしや、男性ならネクタイの結び方、女性ならメイクのポイントなどを教えてくださいます。去年開催して好評だったので、今年もそろそろ入試の面接シーズンに突入しますから、また開くことになったのです。

「人は外見よりも中身が大切だよ」と日ごろから言っていますが、「人は見た目が9割」なんていう本がベストセラーになってしまうほどですから、表面的なものも無視はできません。初めて入ったクラスで、初めて顔を合わせた学生に対しても、やっぱり第一印象で判断してしまう傾向はあります。クラスの学生なら、その後いくらでもその第一印象を修正するチャンスはありますが、入試の面接は一発勝負です。中身の素晴らしさが伝わる前に拒絶されてしまうことの方が多いのではないでしょうか。

また、こういう講座を受けて、それに基づいて身支度を整えて面接に臨んだとなれば、それが試験場での自信につながると思います。堂々とした態度で面接官の前に立てば、面接官の目を引き付けることもできるでしょう。逆に、「こんなスーツの着方で面接官に変に思われないだろうか」などとびくびくしていたら、その自信のなさを面接官に見抜かれて、減点されてしまうかもしれません。昨今の留学生入試はどこも競争が激しいので、減点の要素は1つでもなくしておかなければなりません。

朝、馬子にも衣裳だった学生たちはどうなったでしょう。帰りがけの姿を見逃してしまいましたから、講座の効果をすぐに確かめることはできませんでした。でも、入試の結果で効果を示してもらえれば、それで結構です。

君子豹変す

8月30日(金)

Kさんは先学期の新入生で、私のクラスでした。シャキッとしたところがなく、特別な理由もなく遅刻したり欠席したりし、来ても筆記用具を持ってこなかったり、持って来てもろくにノートを取らなかったり、成績といえば、テストでかろうじて合格点を取り、どうにか墜落は免れるという超低空飛行でした。テストや作文の字は汚く、読むのに一苦労しました。授業で指名しても、ぼそぼそと答えるだけで、やる気とか元気とか覇気とかいうものとは無縁の学生でした。進級させるかどうかさんざん迷ったのですが、数字的には合格ですから、目をつぶって上げてしまいました。

そのKさんが、お昼から行われた専門学校フェアに姿を現しました。まず、自分から進んでこういう場に現れたことに驚いてしまいました。進路について前向きに考え始めたのなら、大きな進歩じゃありませんか。そして、2校のブースで、それぞれかなり長い時間、話を聞いていました。専門学校の方に一方的に話されて理解できるのかなあと心配になりましたが、どちらのブースでも姿勢が前のめりになっていましたから、何かに引き付けられているのだろうと思っていました。いや、そうだと信じようとしていました。

学生たちが帰った後、Kさんと話していた2校の方に、ご挨拶も兼ねて、お話を伺いました。「…Kという学生がお邪魔したかと思いますが、いかがでしたか」「あーあ、Kさんですね。真剣に話を聞いてくださいましたし、こちらの方面にとても強い興味をお持ちのようでしたし、何より質問が的を射ていましたね。本気で考えていることが伝わってきました。先生からも是非当校にと薦めていただけませんか」。え、あのKさんが的を射た質問? とても信じられませんでしたが、外交辞令ばかりだとは思えませんでした。

目指す地点が明確になると学生は強くなるものですが、Kさんも自分の将来像が描けてきたのでしょう。Kさんの進学する上での最大の弱点は出席率です。86%と聞いた専門学校の方は、来年3月まで頑張ればいい数字になると励ましてくださいました。

来週は9月。専門学校の出願がぽつぽつ始まります。

直しにくい

8月29日(木)

夏休みが明けてから、いろいろな学生から進学相談を受けています。今年も受験シーズンに突入したんだなあと実感しています。

初級クラスのYさんは、Z大学に出す志望理由書を持って来ました。分量的にも内容的にもかなりの力作ですが、どう見てもだれかの手が入っているとしか思えません。言い回しが妙に難しいのです。でも、日本人が書き直したんじゃないでしょうね。間違え方がいかにも外国人なのです。おそらく、身の回りの同国人か、Z大学に進学した先輩化に見てもらったのでしょう。確かに言いたいことはよくわかりますが、中途半端にうまい日本語だと、かえって直すのが難しいのです。

上級クラスのTさんはA大学を目指しています。Tさんの志望理由書は、明らかにTさんが独力で書いたものです。Tさんの話し方がそのまま文章になっています。黙読すると、Tさんの声が聞こえてきます。他人に頼らずに書き上げた点は評価しますが、このままでは書類審査で落とされかねません。私はTさんの事情をよく知っていますから、この志望理由書でも意味はわかります。しかし、冷静に考えて、Tさんのことを全然知らないA大学の先生には、Tさんの思いは伝わらないでしょう。

また、2人とも、余計なことを書いているため、面接でそこを突かれて沈没するおそれがあります。初級のYさんはしかたないにしても、上級のTさんはどこかで教わっているはずなのに。

ということで、YさんのもTさんのも、ほぼ全面的に書き直しとなりました。Tさんのは直すところだらけで、ゼロから私のペースで書けます。“日本語教師が手伝いました”という文章にならないように注意しながら書きました。ところがYさんのは元の文章を生かそうとすると、非常に添削しにくいのです。思いのほか時間がかかってしまいました。

留学生入試の競争が激化していますから、各学生の出願校数が増えそうです。ということは、これからこういう仕事が増えるということです。学生の皆さん、お手柔らかにお願いしますよ。

落とし物忘れ物

8月27日(火)

夏休み中、学生たちは思い思いに羽を伸ばしたようです。Hさんは青春18きっぷを買って、榛名山まで行ったそうです。KCPの学生で夏休みに榛名山に登った学生は初めてじゃないかな。誰でも行きそうな観光地ではなく、渋い選択だと思います。

しかし、Hさんは、その青春18きっぷも入っている財布を、横須賀で落としてしまいました。気が付いてすぐに警察に届けたといいますから、初級にしてはいい度胸であり、あっぱれです。

幸い、その財布はとても親切な方に拾われました。その方は財布の中にあった学生証を見てKCPに電話をくださり、配達記録郵便でKCPに送ってくださることになりました。それが、昨日の話。

しかし、現時点でまだ届いていません。先方もいろいろと事情がおありでしょうから、昨日のうちに送れなかったのかもしれません。ただ、Hさんはちょっと焦っています。明日の授業後、飛行機で広島へ行き、木曜日と金曜日は大学院の入学試験を受けることになっています。それだけならいいのですが、広島からの帰路は、週末を利用して、青春18きっぷでこの夏最後の旅を企画しているのです。

Hさんは財布を落としたために、夏の旅が危うくなっています。実は、私も九州旅行中に忘れ物をして危うい目に遭いました。

平戸では温泉旅館に泊まりました。大浴場と露天風呂と2か所でお風呂をたっぷり味わい、部屋へ戻ってきたら、鍵がないではありませんか。2か所の脱衣室とその間の廊下やエレベーターなどを2往復して探しましたが見つかりませんでした。仕方なくフロントでカギをなくした旨を訴えると、合鍵で部屋を開けてくれました。しかし、部屋の金庫に全財産を入れ、その鍵も部屋の鍵と一緒だったため、一挙に無一文になってしまいました。フロントの方は、やさしい顔つきで探しておくと言ってくれましたが、不安を抱えたまま床に就きました。

翌朝、こわごわとフロントに電話をかけると、露天風呂の近くの冷水器の上に置かれていたとのことでした。確かに、冷水器で水をたくさん飲みました。鍵は戻ってきたものの、こういうミスは今までしなかったのになあと、自分の記憶力と異常時対処能力の衰えを実感させられ、少し寂しくなりました。

Hさんの青春18きっぷが明日の昼までに届くことを祈っています。

V字回復

8月16日(金)

日本語学校に通う留学生は、出席率が悪いと留学ビザの更新ができなくなります。学生の本分は勉強ですから、学校を休んであまり勉強していない学生は、ビザがもらえなくて帰国となってもやむを得ません。

Kさんもビザが危ない学生の1人です。先学期も私が受け持ちましたが、風邪を引いたとかお腹が痛いとか言いながら、よく休みました。本人はそんなに休んでいないつもりだったのかもしれませんが、出席率は毎月80%を割り込み、欠席理由書を書かされていました。それだけ派手に休むものですから、授業内容がきちんと頭に入るはずもなく、期末テストでひどい点数を取り、進級できませんでした。

先学期の期末テスト後に一時帰国したのはいいのですが、国でインフルエンザにかかって日本へ戻るに戻れなくなり、今学期初めて登校したのは始業日から1週間以上も過ぎてからでした。当然その間も出席率は下がり続け、もはや1コマたりとも休めなくなりました。

もう終わったなと思っていましたが、学校へ来始めてからは遅刻が数えるほどある程度で、毎日学校へ来ています。今月は、なんと、出席率100%です。それでも入学以来の出席率は70%台で、依然ビザ更新危険水域にあります。これからも全く油断はできません。

出席率はまだまだですが、成績は上がりました。やっぱり授業は切れ目なく聞き続けなければ実力向上につながらないのです。授業が面白くなれば学校に通うのも面白くなり、さらにもっとわかるようになり…という正のスパイラルに乗ったように思えます。

明日から夏休みです。Kさんの正のスパイラルが休み明けにも維持されていることを祈るばかりです。

大洪水

8月15日(木)

西日本に台風が近づいているという話をしたら、Sさんが自分の故郷もついこの前台風に襲われて大洪水になったと言って、その時の写真を見せてくれました。Sさんの友人が送ってきたもので、屋根まで泥水につかった車が何台も写っていました。大雨で堤防が決壊したのでしょう。

Sさんも、家族や友人を相当心配したようです。長い時間連絡が取れなくなってしまった友人もいたと言っていました。授業で「今、気になっている人」というテーマで自由に会話をさせたら、Sは「家族」と言ってきました。大洪水のことを知らずに「どうして?」と聞いたら、「秘密です」という答えが返ってきました。町が湖みたいになっていましたから、無事は確認できてもこれからしばらくの生活は不自由なものになるに違いありません。Sさんはそういうことをみんなの前で言いたくなかったのでしょう。

聴解の教材の中に、「気象庁」という言葉が出てきました。気象庁は何をするところかと聞いてみると、学生たちは声をそろえて天気予報と答えました。「それから」と言って答えを促すと、「台風」という声が上がりました。「西日本は台風が来ていますよねえ。それから?」と別の答えを求めましたが、それ以上の答えは出てきませんでした。

気象庁は台風情報も出しますが、河川の洪水予報も出しています。河川の水位が大きく上がると見たら、氾濫警戒情報とか氾濫危険情報とかを出します。自治体はそれをもとに住民に避難勧告を出します。こういう仕組みがSさんの故郷にあるのかどうかは知りませんが、たとえ仕組みがあって避難できて命は助かったとしても、町の再建には時間がかかることでしょう。

Sさんの故郷の写真を見ていたら、去年の倉敷の大洪水を思い出しました。広範囲が水浸しになり、いまだに再建途上です。九州北部の集中豪雨に見舞われた地域も生々しい傷跡が残っていると言われています。「100年に1度」が毎年のように発生しています。これも地球温暖化の影響なんだろうかと、Sさんと話し合いました。

プライドズタズタ

8月13日(火)

中間テストは明日ですが、火曜日の選択授業の中間テストは1日前倒しです。私が担当している上級の大学入試過去問のクラスも、某大学の過去問を用いて中間テストを行いました。

問題が思ったより難しく、学生たちは制限時間をいっぱいに使って呻吟していました。最初からあきらめてふて寝を決め込むような不届きな学生はいませんでしたが、果たしてどれだけできたかどうか、非常に心配です。

まず、漢字の読み方をカタカナで書けと、答え方が指定されているのに、ひらがなで書いていた学生が5人もいました。問題文にはもちろんそう書いてあるし、解答用紙にもわざわざ明記したし、テストを始める時に口頭でも注意したにもかかわらず答え方を間違えるとは、これから受験を控えている学生がすることとは到底思えません。採点官は喜んで×を付けるでしょう。競争が激しいのですから、こういう隙を見せてはいけません。

それから、敬語の問題があまりにできなさすぎます。初級の最後に勉強して以来、何回となく授業で取り上げているはずですし、人によっては実際に使う場面に遭遇していると思います。確かにちょっとひねった問題でしたが、この問題は日本人の高校生向けの問題ではなく、留学生入試の問題です。難しくてできなかったは、言い訳にもなりません。

解答用紙を集めた後、「どこの大学の問題ですか」と聞かれました。J大学の問題だと答えると、教室中にざわめきが起こりました。J大学などすべり止めにも考えていないという顔つきの学生もいましたが、そういう学生ほど顔が引きつっていました。

学生にとっては厳しい結果になりそうですが、今、尻に火がつけば、本番には間に合うでしょう。学期の後半に奮起してもらいたいです。

よくできるけど

8月9日(金)

今朝、電車の窓から朝日を見ると、東の彼方のビルのてっぺんから、どうにか頭を出している程度でした。昨日が立秋ですから、もう、夏至よりも秋分の方が近いのです。日中は猛暑日が続いていますが、朝日を見る限り、秋を感じずにはいられません。

夏至直後に始まった今学期も、もうすぐ中間点です。昨日の選択授業の中間テストを皮切りに、文法などの中間テストがある14日までに、いろいろな中間テストが目白押しです。

私のクラスでは、会話の中間テストをしました。授業で習った文法や語彙を駆使して、与えられたシチュエーションにふさわしい会話を作り上げ、実演します。もちろん、発音やイントネーションなどもしっかり見ます。

こういうテストを毎学期やっていますが、難しいなあと思うのは、相手に応じて言葉遣いの丁寧さを決めていかなければならないことです。初級の入り口はですます体しか教えていませんから迷うことはありませんが、私が教えているレベルぐらいになると、丁寧体と普通体、状況によっては一部敬語についても選択肢に加えなければなりません。

あらかじめ注意して、学生たちの目をそちらにも向けさせるようにしていますが、発表の段階になると、みんな丁寧語のフラットな人間関係ができてしまいます。それはそれで幸せな世界かもしれませんが、私にはちょっと生きにくいかな。

結局、日本語だけで生活する空間に身を置かないと、お互いの阿吽の呼吸で言葉遣いを変えるワザなんか身に付かないのでしょう。それができるのは、やっぱり進学してからです。日本語学校の擬似日本語空間は日本語を勉強する場であり、日本語で何かを勉強するようになって、日本人っぽい日本語がしみ込んでくるのです。

ネットワーク構築

8月7日(水)

理科ができる学生は、頭の中に理科のネットワークが築かれています。知識体系が形作られていて、1つの事柄から連鎖反応的に他の事柄につながっていき、広範囲の知識や情報が結ばれます。その結果、思わぬ発見をしたり新たな疑問が浮かんだりして、学問的に深まっていきます。

この域に達すると、雪だるま式に知識が増え、より高いところから理科全体を俯瞰できるようになり、勉強する面白さが感じられるようになります。自分のエンジンでどんどん前進できるようになります。こういう学生は、理科の勉強のために受験講座を受けるというよりは、受験講座で扱った学習項目や試験問題を起点に、そこから派生した物事を理科的に考えるのを楽しんでいるようにさえ見受けられます。

もちろん、こんな学生はごく一部です。今期の学生も、まだ知識の堆積を図っている最中です。私が何かを言ってもそこで立ち止まってしまい、話題が広がりも深まりもしません。1つの知識を1つの知識として受け取るのがやっとのようです。頭の中で線がつながって、高速道路網か新幹線網が部分的にでも開業するのは、秋も深まってからではないかと思います。

日本語のクラスでも同じで、クラスで中位ぐらいから下の学生は、今習ったばかりの文法しか見ていません。伸びる要素のある学生は、新しい文法や語彙を今までに教わった文法や語彙に関連付けて、頭の中に配置していけます。こういう学生が、応用力があると言われるのです。

かつてよく語られたセレンディピティは、この延長線上にあるように思えます。ノーベル賞クラスの大発見はしてくれなくてもいいですが、日本語力が伸びるきっかけをつかむ準備ぐらいはしておいてほしいなあ。

尊敬のまなざし

8月6日(火)

アメリカの大学のプログラムでKCPに留学している学生と話す機会がありました。そのうち2人が、日本史を専攻していて、ハーバード大学の大学院で研究を続けると言っていました。その研究対象も、徳川家康とか源平合戦とかという多くの人が手を付けたものではなく、幕末維新期の庶民の生活とかその時期の津軽藩の動向などという、あまり研究がなされていない分野でした。

2人の話を聞いているうちに、私もその方面に興味が湧いてきました。庶民の衣食住の欧米化がいつどのような形で進んだか、それも一様に進んだのではなくまだら模様を描きながら広がっていったのでしょうから、それを追いかけるのはさぞかし面白いだろうと思いました。また、畿内や江戸周辺ではなく、津軽という辺境ともいうべき地域に目を付けた点も、私にとっては新しい視点に感じられました。

研究を進めるには、古文書を読むことも必要です。日本人ですらごく限られた人しか読めないそういった文献を、外国人である2人は、非常な苦労は伴うものの、どうにか読んでいると言いますから、驚きを禁じえませんでした。「変体仮名は苦手ですね」とも言っていましたが、こちらは変体仮名など読もうとも思いません。

私は、歴史は好きですが、高校のとき古典文法がさっぱりわからなかったので、大学で歴史を勉強することはあっさりきっぱりあきらめました。私が読めるのは夏目漱石までですから、古文書の解読は専門家に任せて、そのエッセンスだけを現代文で勉強させてもらえれば十分だと思っています。歴史好きの素人以上は望んでいません。

だから、異国の古文書に果敢に挑む2人を見ていて、素直に尊敬しました。何年か後に、2人の研究成果に触れるのを、今から楽しみにしています。