Category Archives: 学生

メール2通

9月8日(月)

昨日の夕方、家でメールをチェックしていたら、Yさんからメールが届いていました。さっそく読んでみると、1週間ばかり一時帰国して休養すると書かれていました。

Yさんはクラスの中で活発に発言し、クラスをリードするような存在でした。それが、メールによると精神的に参ってしまい、しばらく休みたいと言います。私には見えないところで苦労・苦悩していたようです。授業中の威勢のよさも、そうすることで精神的な落ち込みを防ごうとしていたのかもしれません。虚勢を張っていたと言ってしまえばそれまでですが、Yさん自身、どうにか自分で処理しようと思っていたのでしょう。

今朝、学校へ来てからメールを見ると、Zさんからメールが来ていました。読んでみると、今学期で退学し、帰国すると書いてありました。確かに、先月初めに面談した時、帰国するかもしれないと言っていました。メールには必要最小限のことしか書かれていませんでしたから、なぜ進学をあきらめるに至ったとか、そもそも本当に進学をあきらめたのかなどはわかりません。でも、状況証拠から見ると、何らかの理由で日本留学を断念したことは間違いないところです。

残念ながら、日本での進学を夢見てKCPに入学した学生が、全員その夢をかなえられるわけではありません。挫折する学生もいます。Yさんは進むか退くかの瀬戸際に立っています。私にはYさんを励ますことぐらいしかできません。帰国を決めたZさんに対しては、これからの幸せを祈ることだけでしょう。自分の無力さを呪います。

明日はZさんのクラスに入りますから、出席していたら詳しい話を聞きます。

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将来像

9月5日(金)

読解の教科書の内容に関連して、学生たちが将来就きたいと思っている職業について聞いてみました。大学進学の学生は就職なんてかなり先の話だと思っているでしょうが、大学院や専門学校に進学しようと思っている学生は進学して一息ついたらすぐ就活です。だから、ある程度明確な方向性、将来像を描いていても不思議はありません。どんな仕事が出てくるかと楽しみにしていました。

ところが、専門学校志望の学生までもが、答えが漠然としていました。「自分に合った仕事」と言いますが、それどんな仕事なのか、学生の頭の中では像が結ばれていないようです。「自分の会社を作りたい」も同様で、何をする会社かは、今のところ不明です。

しょうがないかなあとも思います。私が学生たちと同年代の頃、今の子の姿は頭の片隅にもありませんでした。自分の専門性を活かして、就職した会社でそこそこ偉くなって…ぐらいしか考えていませんでした。しかも、今は技術もそれに伴って社会のありようも大きく変わりつつあります。数年先だって、何がどうなっているか想像しづらくなっています。

スペシャリストになりたいか、ジェネラリストになりたいかとも聞いてみました。Zさんは、スペシャリストだとその専門がAIに取って代わられる心配があるから、ジェネラリストがいいと答えました。最近の若者はこういう恐れを抱いているのですね。私の頃は、頭脳労働者は機械に駆逐されることはないと信じられていました。しかし、AIは頭脳労働者こそ標的にします。学生たちはどういう思いで進学するのでしょう。単に学歴を得ただけでは、21世紀中葉は生き残れないかもしれません。

学生の頭を活性化するためにあれこれ聞いているうちに、私自身がとても勉強になりました。

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よかったね

9月4日(木)

Sさんは、去年、新入生の学期に初級のレベル2で受け持った学生です。とてもやる気に満ちあふれていて、自分でどんどん勉強を進めていきました。語学のセンスもあったのだと思いますが、レベル2のテストは毎回満点に近く、次の学期はレベル4に、その次の学期はレベル6に上がりました。また、日本語プラスの受験科目の教師をつかまえては、あれこれ質問していました。

EJUでもしかるべき成績をあげ、去年の秋ごろから受験に臨みました。しかし、Sさんの志望する歯学部はどの大学も留学生をあまりとらないため、25年4月入学の入試はすべて失敗でした。理学部や工学部など普通の学部なら十分合格できたはずなのですが、一敗地に塗れることとなってしまいました。

そこでSさんは方針を変えました。何が何でも歯医者さんにならなければならないわけではありませんから、Sさんのしたい勉強ができて、留学生も入学しやすい学部を選ぶことにしました。そんな相談を受けたのが、先学期の中頃だったでしょうか。いくつか候補の大学を挙げ、Sさんに考えてもらうことにしました。

その中で、SさんはK大学を選びました。先週入試でしたから、夏休み直前に面接練習をしました。受け答えが今一つまとまっていませんでした。こうしたほうが印象が良くなる、簡潔ですっきりした答えになる、面接官の気を引くなど、山ほどコメントしてしまいました。

12:15に午前クラス終業のチャイムが鳴ると、選択授業のクラスの学生たちは帰っていきました。最後に残ったSさんが、帰り支度をしている私に「先生、K大学に合格しました」と報告してくれました。報告だけではなく、もうすぐ出願のY大学も受けたほうがいいかどうかという相談も兼ねていました。

1年遅れではありますが、まずはよかった、よかった。受験すべきかどうかは、どちらの大学のほうが、Sさんの勉強したいことが勉強できるかにかかっています。そういうヒントを出しておけば、Sさんならきっと最善の道を選び取ってくれるでしょう。

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不安材料

9月3日(水)

レベル1は中間テスト後の面接が真っ盛り。授業前にKさんとJさんの面接をしました。

Kさんは美術系の大学への進学を考えています。しかし、現状では日本語力が足りません。授業中はいつも一生懸命練習していますが、なかなか日本語力が伸びてきません。聞く力と話す力が問題です。詳しく話を聞いてみると、学校外でそういう練習をしていないようです。今は教科書に付いているQRコードから直接聴解教材にアクセスできますが、そういうのを存分に利用している形跡がありません。また、志望校についても、東京藝術大学しか出てこないようでは、研究が足りません。

2027年進学だとしても、留学生入試は来年の今頃です。残された時間は1年半ではなく、1年なのです。少しは焦ってもらわなければなりません。でも、そういう切迫感みたいなものは、Kさんからは漂ってきません。留学生活をエンジョイするのは結構ですが、進学にも目を向けないと、泣きを見ることになります。

Jさんは中間テストの成績がよく、レベル1から3にジャンプするのもありかなと思いました。しかし、本人はレベル2をしっかり勉強して、レベル2から4へのジャンプを狙うと言います。堅実です。こちらは大学で経済を勉強するそうですが、現時点では超有名大学を志望校に挙げています。本気でそこを狙うなら、来年の6月のEJUで高得点を取る必要があります。そのためには、2から4に進級するくらいの勢いで突き進んでもらいたいです。そういう意気込みが感じられましたから、有望株の1つとしておきましょう。

でも、何よりも心配なのは、Yさんです。授業後に面接の予定だったのですが、用事があると担任のM先生に連絡してきて、学校を休んでしまいました。どんな用事か知りませんが、レベル1のうちからこんな調子で気安く休んでいるようだと、将来は決して明るくはなりません。

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初めての笑顔

9月2日(火)

日本語プラスを終えて職員室に下りてくると、Cさんが待っていました。実は、退学の手続きに来たのです。入学以来出席率が低迷し、この先無遅刻無欠席で学校へ来てもビザがもらえる数字には手が届きそうもないので、私が引導を渡していました。Cさんは、まさか学校をやめろと言われるとは思っていなかったようで、私が最後通牒を送った時は非常に反発しました。

Cさんはなぜ出席率が悪いかというと、学校で、特にKCPみたいにみんなで何かすることを強く求められる学校で生活していくことが、性格的に会わなかったからです。国で独学に近い形で日本語を勉強し、入学時のレベルテストで中級と判定されました。初日にCさんからもっと上のレベルで勉強したいとクレームがあり、対応したのが私でした。Cさんの話し方はどう見ても中級ではなく、翌日から上級に移しました。

しかし、ちゃんと登校したのはせいぜい2週間で、そこから先は、気が向いたら来るといった感じでした。そんな調子ですから友だちもできず、だから学校へ来る気も湧かず、というふうに、悪い方へ転がっていきました。にもかかわらず、テストでは点を取るんですねえ。6月のEJUだって、校内で5本の指に入る高得点でした。学校は休んでいましたが、1人で勉強はしていたのです。

KCPにしがみついていても、教師からはがみがみ言われ、ビザのために早起きして気が向かない学校へ行かねばならず、日本での滞在費もかかるし、精神的にも肉体的にも経済的にも、いいことは1つもありません。ですから、私が上級に入れた責任もあり、退学を勧告したというわけです。

日本の大学に進学するにしても、Cさんの国から直接受験できる大学も結構あります。日本での生活費やKCPの学費を考えれば、受験のために渡航する費用ぐらい出るに違いありません。どうやら、そういうことがCさんにも伝わったようで、めでたく(?)退学となったワケです。

Cさんは、A大学、K大学、R大学を受験するそうです。ぜひ、受かって、「あんたたちには見捨てられたけど、こんな素晴らしい大学に合格したぞ!」と見返してもらいたいです。Cさんなら、できそうな気がします。憑き物が落ちたような、Cさんの笑顔が印象的でした。

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机の中のプリント

9月1日(月)

上級は週に1回、留学生が知らなさそうな日本社会を紹介し、それについて考える授業があります。9月1日と言えば防災の日ですから、関東大震災に触れつつ地震への備えについて考えてもらいました。

そもそも、9月1日が防災の日であることは、クラスの全員が知りませんでした。これは、しかたがないでしょう。日本は地震が多いということは、情報としてはどこかで見聞きしたことがありますが、その実感は全くないようです。東京は最近震度3ぐらいの地震も発生していませんから、学生たちも日本は地震が多いという情報も忘れ、警戒もほとんどしていないに違いありません。授業で見せた動画には、起震台に乗って震度6弱の揺れを体験する様子がありましたが、学生たちにも体験させたいです。私は起震台で震度7を体験しましたが、何もできませんでしたね。腰が抜けたわけではありませんが、腰が抜けたのと同じでした。

そのほか、木密地域は危ないとか、地震に備えて普段からどんなことをしておくべきかとか、いざという時に備えて区がどんなことをしているかとか、おばあさんから聞いた関東大震災の話とか、いろいろなことが動画の中にありました。私は、関東大震災の話はできませんが、東京での東日本大震災の話をしてあげました。それでもなかなか実感が伴わなかったようです。そりゃそうでしょうね。生まれてから地震を1度も経験したことのない学生すらいるのですから。

9月1日は防災の日だということを強く訴えて授業を終え、机の中に忘れ物がないかチェックしていたら、動画を見せる前に配ったプリントが1枚残っていました。あーあ、伝わらなかったみたいですね。

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38.5度だと

8月30日(土)

昨日、アリとキリギリスの話を使った授業をしました。アリが仲の良かったキリギリスに食物を与えず真冬の寒空に追い返したのは保護責任者遺棄致死罪に問われるかどうかということで、学生に話し合ってもらおうと思いました。ところが、クラスの大半の学生が、アリとキリギリスの話を知りませんでした。これはイソップ物語であり、一寸法師とか泣いた赤鬼とか、純粋な日本の昔話ではありませんから、誰もが知っているかと思いきや、まるで違っていました。

私が知っているアリとキリギリスの話は最後にキリギリスが死んでしまうのですが、知っていると言った学生の話は、アリがキリギリスを家に招じ入れたというものでした。結末がまるで正反対ではないかと授業後に調べてみたら、そういうストーリーもあるのだそうです。なんだかよくわからなくなってきました。

キリギリスが死んでしまうバージョンは、勤勉こそ何にも勝る、将来のために今汗を流すことの重要性といったことを説いています。キリギリスを助けるストーリーは、他者への慈悲、優しさの大切さを訴えているのだそうです。さらに、今では、人生の多様性とか、芸術の意義とか、そんな方面に話が進んでいるのだそうです。うさぎとかめなんかも、昼寝をしたにもかかわらずうさぎが勝って、“天賦の才に勝るものはない”なんていう結論になっているかもしれませんね。

さて、授業の方は、アリは無罪という意見が、有罪の3倍ぐらいと圧勝しました。でも、有罪を訴えた学生も、立派な論理を展開していました。

いや、今年のような暑さなら、アリも夏の間は働けず、そしてキリギリスと一緒に飢えてしまったかもしれません。東京の最高気温は38.5度、今年最高でした。

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180リットルも?

8月29日(金)

日本語プラスの生物は、「主な臓器」というテーマで、肝臓、腎臓、心臓を取り上げました。“肝心”ないしは“肝腎”という言葉があるくらいですから、この3つは、古来、重要な臓器として知れ渡っていました。それだけに、普段の生活の中でも、これらの臓器は話題になることがよくあります。

肝臓の働きの中に、解毒があります。まず、これを“かいどく”と読まないように注意し、「肝臓は体に有害な物質を分解しますが、有害な物質って例えば何ですか」と聞いてみました。真っ先に挙がったのが、アルコールでした。そうです。アルコールは解毒作用の一つとして、肝臓で分解されます。お酒の種類に関係なく、アルコールは毒です。酒は決して百薬の長などではなく、毒なのです。

さらに例を挙げるように促すと、「腐った食べ物」という答えが返ってきました。学生たち、痛い目に遭っているんですね。私が求めた答えは薬です。薬も最終的には肝臓で分解されます。健康な人にとっては毒になるものをあえて病人に与えたのが薬の出発点ですから、薬も毒なのです。“毒にも薬にもならぬ”なんていう表現があるくらいですからね。

次は腎臓。ここはおしっこを作る臓器ですが、そのおしっこの元は1日180リットル作られると言ったら、学生たちは驚いていました。その99%は腎臓内で再吸収されます。このときにグルコースも再吸収されます。再吸収されなかったら、糖尿病です。また、塩辛いものを食べると水が欲しくなる仕組みも、腎臓がかかわっています。

そして心臓。ここでは、血液型によって病気のなりやすさに違いがあるかという質問が出てきました。ABO式の血液型は、赤血球表面にある抗原の違いに基づいて決められます。これと病気のなりやすさは、あまり関係がなさそうです。Rh式も似たようなものです。

その他、血液のヘモグロビン、心臓のペースメーカーなど、心臓というか循環器関係もツッコミどころ満載です。さらに受験勉強を離れると、血液検査の正常範囲の数値として知っておいていい血球数なんかも取り上げました。

生物の学習内容は、物理や化学に比べて学生たちの身近にあうものや現象が多いです。だから、勉強してみると面白いし、役に立つし、おすすめなんですよ。

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10年後

8月15日(金)

「あなたは仕事を選ぶうえで、何を重視しますか」というテーマで、学生たちに話し合ってもらいました。意見を聞くと、第一はやはり給料。自分の興味に合う仕事も人気がありました。ワークライフバランス、やりがいなどという意見もありましたが、多くの学生の票を集めるには至りませんでした。

その次に、10年後、どんな仕事をしてどんなポジションにいるかという話をしてもらいました。給料を重視するのですから、課長とか研究リーダーとか、そこそこのポジションについているという答えが出てくると思いきや、働きたくないとか、仕事はロボットやAIに任せるという学生が、国籍に関係なく多かったです。

要するに、楽にお金を稼ぎたいのでしょう。大学を出たら必死に働いてお金をためて、そのお金を投資して、10年後は配当か何かで暮らすという、昔なら不労所得と蔑まれた働き方が輝いて見えました。

もちろん、発言の通りの暮らしをする(できる)学生はいないでしょう。あくせく働きながら2035年を迎えるというのが実際の姿ではないかと思います。でも、上述のような理想を持っていることは確かです。

私の若い時はどうだったかなあと思い出すと、学生時代に10年後の自分の姿を明確に描いていたとは言えません。でも、ドラえもんの道具に仕事を任せて自分は遊んでいるという近未来は考えていなかったと思います。早いうちに引退して好きなことをして人生を楽しむという道も考えないわけではありませんでしたが、実現可能性は低いだろうと思ってました。

そして、現実は、10年後どころか40年後も楽隠居には程遠い暮らしをしています。学生たちも、たぶんそうじゃないかな。だから、仕事は本気で選ばなきゃダメなんですよ。

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趣味日本語学習

8月14日(木)

授業後にクラスの学生の進路に関する面接をしました。

Cさんは、日本で進学も就職もせずに帰国すると言います。現在、リモートでしている仕事があり、国でそれを続けます。日本語の勉強は趣味だそうです。だから、入試に向けての読解や聴解などは、自分の必要とするないしは欲する勉強ではないので、あまり気が進みません。JLPTも、すでにN2に合格しており、日本で就職するつもりはないのでN1は不要であり、進んで取り組もうとは思いません。

趣味で語学を勉強するなんて、そして上級レベルまで上達するなんて、何とうらやましいことでしょう。そういう学習者を集めて授業ができたら、教師にとってもさぞかし楽しいことでしょう。でも、残念なことに、KCPは日本で進学する留学生のための学校であり、時には無理に知識を詰め込んだり、時には同じような練習を何回も繰り返したり、学習者にとってはつまらない授業もしなければなりません。楽しい日本語ではなく、苦しい日本語に陥っていることもあります。できないことをできるようになるまでさせるなんて、苦しい日本語の極致です。

Cさんは帰国したらどんな形で日本語と付き合っていくのでしょう。日本のドラマやアニメを見るなど、娯楽の日本語を追求するのでしょうか。日本語で思考回路を回してみて、新たな気付きを得ることだってあるかもしれません。これは発見の日本語かな。いずれにせよ、テストの点数に一喜一憂する受験の日本語とは大きく違います。

Cさんは、いい趣味を持っています。

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