Monthly Archives: 9月 2022

学生の食生活

9月15日(木)

学期末が近づくと、アメリカの大学のプログラムで来ている学生へのインタビューテストがあります。その学期に習った文法や単語が使えるか、それまでに勉強した事柄を組み合わせてまとまった話ができるか、こちらのナチュラルスピードについてこられるか、コミュニケーション力はどうかなどということを、話をしながらチェックします。しかし、私にとってこのテストの一番の楽しみは、学生の生活の一端を知ることです。

Eさんは料理には自信を持っています。しかし、今住んでいる寮はキッチンが狭いので、その料理の腕が発揮できません。やむを得ず、コンビニ弁当が食生活の中心です。「Eさんが作った料理とコンビニで買ったお弁当と、どちらがおいしいですか」と聞いてみました。「コンビニのお弁当はいろいろありますが、私の料理の方がおいしいです」とちょっと誇らしげに答えました。今はお好み焼きに挑戦していますが、きれいな形にならないと嘆いていました。たこ焼きもよく食べるそうです。

Gさんは、朝、ポテト料理を40分ぐらいかけて作ります。このポテト料理は絶対おいしいのだそうですが、どんな料理かは、まだ初級のGさんには説明できませんでした。日本の料理では、カツ丼やカレーがおいしいと言っていましたが、アメリカ人のGさんから見ると、カレーは日本料理何ですね。「納豆は食べられますか」と聞いたら、「食べようと思いましたが、ダメでした」と、鼻をつまんで答えてくれました。

2人は今学期が終わったら帰国します。またたこ焼きを食べに、納豆に再挑戦しに、ぜひ来てもらいたいです。

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お昼の公演でみんな好演

9月14日(水)

お昼に、演劇部の発表会がありました。出し物はアラジン。演劇の公演を想定して設けたステージではありませんから、照明もよくないし、マイクも音を十分に拾っているとは言えません。でも、演劇部の面々は、アラジンっぽい衣装に身を包み、精一杯声を張り上げ、体を大きく動かし、ステージの端から端まで使って、日ごろの練習の成果を見せてくれました。

私のクラスのCさんやLさんも、午前中の授業で指名した時の蚊の鳴くような声とは打って変わって、講堂の内番後ろで見ていた私にも聞こえる声でセリフを言っていました。発声練習もしているのかどうかわかりませんが、マスク越しでもよく通る声でした。なんだ、大きな声も出せるんじゃん。

30分近い公演でした。出演したどの学生も、けっこうな量のセリフをこなしていました。授業中はつっかえつっかえ教科書を読んでいるかもしれない学生たちが、演技をしながらよどみなく話しているじゃありませんか。よどみがなさすぎて、セリフが上滑りしていた場面もありましたが…。ステージに立ったりマイクを握ったりすると人が変わるという例はよく聞きますが、演劇部の面々は好ましい方向に変わった観たようです。こういう経験が、学生の自信を生み出してくれればと思っています。

ステージが終わった後、演劇部全員で写真を撮っていました。マスクを外したら、自然に笑顔が浮かんできたようです。指導をしてきたN先生も、昨日までの心配げな表情が嘘のような晴れがましい顔で隅に立っていました。

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体が資本

9月13日(火)

Pさんがまた受験講座を欠席しました。Pさんは先学期から理科系の受験講座を取っています。先学期はEJU直前講座が中心だったので難しかったようですが、11月のEJUに向けて再スタートを切った今学期は、基礎の部分から始めたこともあって、どうにかついてきていました。しかし、夏休み明けぐらいから欠席が続いています。

先週の金曜日の授業後、Pさんが受付へ来て、私を呼びました。話を聞くと、最近体調が悪くて、午前中の日本語の授業に出るのがやっとなのだそうです。受験講座がある午後は、家で体を休めているとのことでした。Pさんの場合、受験講座への出席は、在籍管理上の義務ではありません。出欠状況が入管報告事項となっている日本語の授業を優先するのは、理にかなっています。

とはいえ、体力的に日本語の勉強でいっぱいいっぱいというのであれば、ちょうどあと2か月後に迫ったEJUが心配です。Pさんは、金曜日に私に事情説明した話し方からしても、日本語の力はある程度以上備わっています。EJUでもそこそこ以上の点が期待できますし、面接試験で落とされることもないでしょう。むしろ、コミュニケーション力を高く評価されると思います。しかし、理科系の科目は、先学期からあまり進歩がないとすると、心細い限りです。妥協して来年4月に進学するか、もう1年勉強して初志貫徹するか、厳しい選択を迫られそうです。

感染して入院という事態にこそ陥っていませんが、体力的にはそれよりもひどい状況かもしれません。欠席する時には義理堅く連絡してくれるPさんに、何とか救いの手を差し伸べたいのですが…。

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素晴らしい学生ですか

9月12日(月)

水曜日の会話の授業で、学生たちの自己PRをさせようと思っています。入試の面接試験で時々聞かれ、聞かれた学生が意外と困るのがこれなのです。自己PRの出来不出来が合否に大きく響くことはないでしょうが、他の試験科目や書類審査で甲乙つけがたいとなれば、これが運命の分かれ目にならないとも限りません。

面接試験は自分を売り込む機会です。“私はこんな素晴らしい学生です”ということを面接官に向かってアピールする場です。面接官に好ましい印象を残す、自分を覚えてもらうということに主眼を置いて、答えていくのです。面接官に忘れ去られてしまったら、合格から遠ざかってしまいます。

面接官にとって聞くに値する素養や経験や性格を有していても、受験生の側にそれを伝える力がなければ、そういうものを持っていないのと同じです。せいぜい15分ほどの入学試験の面接試験で受験生のすべてを知るのは不可能です。だからこそ、訴えるポイントを知っておくべきなのです。

また、 “この受験生が入学したら、自分たちはどんなことをしてあげられるだろうか、何を教えていけばいいだろうか”ということを考えながら面接していると言っていた先生もいらっしゃいました。とすると、自己PRとまではいかなくても、自分の思いを伝えることぐらいできないと、最悪の場合、“この受験生に何をしてあげられるかわからないから、不合格にしよう”などということにもなりかねません。

水曜日の事前課題プリントを作りました。明日、配ってもらうつもりです。

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何が売れるでしょう

9月10日(土)

「輸出産業は円高で経営が苦しくなっているので、為替を円安に誘導する」などということが、昭和末期か平成初期の、“Japan as No.1”のころにはよく言われました。事実、円高不況というのがあり、数字の上では確かにそうなのですが、自国の通貨が強いことのどこがいけないのだろう、わざわざ自国の通貨を弱くする必要があるのだろうかなどと、経済のよくわからない私はそう思っていました。強い円のおかげで、外国に対して意味も根拠もない優越感に浸っていただけかもしれませんが。

政府と産業界の“努力”が実って、半導体も電気製品も自動車も、バンバン輸入するようになりました。それに代わる産業が国内で生まれたかというと、アニメなどのコンテンツとインバウンドの観光業ぐらいでしょうか。しかし、観光業はこの2年余り、目に見えないほどの大きさのウィルスにやられっぱなしで、全く振るいません。世界中のだれひとり予測できなかったこととはいえ、実に脆弱な基盤の上に立っていたものです。

今、日本を代表する産業って何でしょう。サブカルは産業って呼べるのかなあ。日本留学は知識や技術の輸出を考えられないこともありませんが、日本を支える産業とは言い難いです。それに、日本の国が弱ってしまったら、前途洋々たる若者は寄り付きませんよ。“円安をフルに活用して、日本で遊んじゃおう!”なんていう人たちが中心になっちゃうかもしれません。

1ドル150円が目の前です。ロシアのルーブルに対してすら安くなっているそうじゃありませんか。こうなったら、大昔に1ドル250円で作ったトラベラーズチェックが日の目を見る日が来ることを楽しみに待つほかありません。

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偉大な方が

9月9日(金)

エリザベス女王が亡くなりました。在位70年、96歳の大往生です。英国のみならず、世界に君臨していたと言ってもいいくらい、王様らしい王様でした。おそらく、今年最大の世界のニュースとなるでしょう。

40年近くも昔、当時は卒業旅行という言い方はしていませんでしたが、就職直前にヨーロッパへ行きました。この中に女王様がお住まいなんだなあと思いながら、観光客らしくバッキンガム宮殿の衛兵の交代を見ました。私と同年代のダイアナ妃よりも、女王を最初に思い浮かべました。

そのダイアナ妃を始め、女王は多くの王室の方々に先立たれました。また、王室が、日本の皇室とは比べ物にならないくらい強い批判にさらされることもありました。ダイアナ妃の死に対して冷たすぎるなどというのもその一例です。でも、顔色一つ変えず公務をこなしたり世界各国を訪れたりされる姿に、なぜか安心感を覚えました。

そして、女王ご自身が見送られる日が来てしまいました。葬儀は、慣例に従えば18日だそうです。こちらは堂々の国葬です。英国民の4人に3人が女王を支持しているとかですから、英国民誰もが、世界中の人々が、国葬の日に衷心から冥福をお祈りすることでしょう。

こんな国葬の見本みたいなのを見せつけられてしまうと、岸田さん、いよいよもって分が悪いですね。死者を冒瀆するつもりなど毛頭ありませんが、エリザベス女王と比べたら、安倍さんも色が褪せてしまいます。しめやかで厳かであろう女王の国葬の翌週ぐらいに、反対の声の中、ろくに黙祷もしてもらえない国葬だと、安倍さんもかえって成仏できないのではないでしょうか…。

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少なくなりました

9月8日(木)

あちこちから入手した進学データを加工編集しています。もう出願の季節ですから、早く進めなければなりません。細かな分析をしているときりがありませんから、まずは必要最小限の加工をして、データを見やすい形にし、先生方に進路指導の際に使っていただこうと思っています。

そうやって手を付けてみると、留学生の数が減ったんだなあと実感させられます。例えば6月のEJU日本語の受験者数は13,560人で、全盛期の半分ほどです。11月のEJUの応募者数でも22,000人弱ですから、元に戻ったとは言い難いです。入国規制が緩和されましたが、それで解決できるほどの問題ではありません。

K大学の方が入試の説明にいらっしゃいました。EJUの基準点は変わっていませんから、留学生の数が減ったからと言って、大学に入りやすくなりそうだというわけでもありません。そりゃそうでしょうね。日本語が通じない留学生を入れても、他の学生の邪魔にしかなりませんからね。

毎年、受験シーズンが進むにつれて“〇〇大学△△学部は入りやすい”というような怪情報が流れ出します。昨シーズンは入管の特例措置が発表されたためか、怪情報に惑わされた学生はあまりいなかったようですが、今シーズンは特例措置はないでしょうから、どうなるでしょう。こちらもしっかり目を光らせていなければなりません。

お昼過ぎに、卒業生のHさんが来ました。D大学に進み、今はR大学の大学院修士2年生で、博士課程はK大学に進学しようと考えているそうです。Hさんの時代は学生がたくさんいて、授業時間以外は面接練習をしていたような気がします。そういえば、Hさんにもデータを見せながら、あなたの持ち点でD大学なら勝負できそうだとか、滑り止めはE大学でどうだとか、そんな話もしましたね。

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はなむけのことば

9月7日(水)

1時ごろ、午前中にあった私のクラスの授業に欠席したXさんが受付に現れました。私や担任のM先生を呼ぶでもなく、事務職員と話をしています。カウンターまで出ていくと、Xさんは退学届けを書いているところでした。昨日、N大学の大学院に合格し、もう間もなく授業が始まるので、退学して引っ越しするそうです。

担任のM先生から、進学先が決まり、9月中に授業が始まるので、早々に退学するだろうと聞いていました。だからXさんの退学に驚きはしませんでした。でも、机を並べて学んできたクラスメートに挨拶ぐらいはしてほしかったです。昨日も休んでいますから、おとといのコトバデーが最終登校日でした。

明日から、クラスの出席簿にはXさんの名前はありません。だから、出席を取る時に教師がXさんの名前を呼ぶこともありません。自然消滅というか、フェードアウトというか、クラスの学生にとっては「最近、Xさん、見ないね」という感じで消えていくのでしょう。

立つ鳥跡を濁さずと言いますが、Xさんの場合、あまりにも濁さなさすぎます。「N大学に進学します。お世話になりました」ぐらい言ってもよかったんじゃないでしょうか。ミラーさんだってみんなの日本語の25課で言っていますよ。Xさんもそこを通ってきていますから、知らないはずがありません。

こういうあたりの教育が足りなかったのかな。N大学では日本人に囲まれて暮らしていくのですから、こんな一言の有無で人間関係が築けたり崩れたりします。来週にも新しい生活が始まるXさんへのはなむけとして、ちょいと説教してあげるべきだったかもしれません。

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組み合わせる

9月6日(火)

今、受験講座を受講している学生たちは、11月のEJUを目指しています。11月13日の試験日から逆算すると、来学期はひたすら過去問で鍛える必要があります。そうすると、今学期中に試験範囲内の講義は一通り終わらせておきたいところです。9月になると、今まで勉強したことを組み合わせて理解を深めたり練習問題を解いたりすることが増えてきます。

頭の中に物理や化学や生物のネットワークができ上ってきてほしい時期なのですが、今学期の学生たちはそこがまだまだのようです。単一の知識で答えられる問題は順調なのですが、3つ4つの知識の合わせ技で答えるとなると、旗色が悪くなってきます。大学に進学したら、高校理科の科目の枠を超えて頭をひねらねばならないことばかりです。現状でそれについて行けるかなあと心配になります。

私は高校で地学を勉強しました。地学は、物理、化学、生物を総合した科目です。岩石の成り立ち一つを取っても、物理的に見たり化学的に想像したりしながら、そこに化石でも入っていたら生物学的発想も必要です。そういう訓練をしてきたせいか、物理や化学や生物を外側から見る目が育ちました。数学も含めて、これらを道具として使って、自分の解くべき問題を解こうと考えるようになりました。まあ、こういう考え方を持つことはは、エンジニアとして働けば必要に迫られるんですけどね。

今の学生たちにそういうことを伝えたいのですが、なかなか伝えきれません。何より、1週おきに休む学生には、思いは届きません。Pさん、Kさん、あんたたちのことですよ。

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コトバデー

9月5日(月)

7月に予定されていましたが、感染拡大のため延期していたコトバデーを開催しました。スピーチコンテストがクラス代表のスピーカー1名で競っていたのに対し、このコトバデーはクラスの学生全員が出場します。ですから、今学期はどのクラスも密かに練習に励んでいたのです。

残念だったのは、立派な会場を使う予定だったのが、延期したために6階講堂になってしまったことです。ステージも狭ければ音響設備も貧弱で、しかもzoom配信で発表を聞くことになり、当初の計画とはだいぶ違うものになってしまいました。しかし、現在の感染状況に鑑みると、このあたりが精一杯かもしれません。

そんな悪条件にもめげず、学生たちは練習の成果をステージ上で見せ聞かせてくれました。結果として練習期間が延びたおかげで、朗読など、教室で指名されて読解の教科書を読むときより数倍上手でした。まず、つっかえないし、イントネーションもかなり改善されているし、学生によっては感情も込めていたし、この経験を“やればできるんだ”という自信につなげてほしいと思いました。

スピーチコンテスト部門に参加した学生たちは、みんな自ら立候補しただけあって、主張も明確だったし、相当練習したんだなと思わせられる話しっぷりでした。他人とは違った視点で物事を捕らえた発表もあれば、自分の偽らざる気持ち・決意を表明したスピーチもあり、以前のスピーチコンテストに勝るとも劣らぬレベルだったことは確かです。

学生たちには、これを機に話すことに目を向けてもらいたいと思います。話すことはコミュニケーションの基本です。入学試験でも進学後も就職してからも、コミュ力は必要不可欠です。このコトバデーが、そんなことに気付くきっかけになってくれればと思います。

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