入学式挨拶

みなさん、ご入学おめでとうございます。このように世界中の国々からたくさんの若者がこの学校に入学してくれたことをうれしく思います。

日本語に限らず、語学の勉強は、それを専門にしようと思っている人、あるいは外国語の勉強が趣味だという人以外、それ自体がゴールになることはありません。ある言語を身に付け、それを使って何かをするところにゴールが設定されるものです。みなさんは、日本語で何をしようと思っていますか。

大学院や大学への進学を考えている人は、その進学先での研究や勉強が当面のゴールでしょう。専門性を身に付け、磨き、その後、仕事を通して世の中に貢献しようと考えているのではないでしょうか。芸術系志望の人は、先生からの教えを吸収して自分の技量を上げるために、日本語を学ぶという人も多いと思います。

このように、みなさんにとって日本語は、そしてそれを学ぶ場であるKCPは、人生における通過点に過ぎません。勉強の時期が過ぎたら日本語はそれ以上必要なくなるかもしれませんし、KCPは学歴としてみなさんの履歴書を飾るわけでもありません。しかし、私たちはみなさんにKCPで濃密な日々を送ってもらいたいと思っています。

日本語は、ひらがな、カタカナ、漢字、さらにはアルファベットまで加えれば4種類の文字で構成されるという、世界に類を見ない言語です。それだけに難しくもあり、挑戦のしがいがある言語です。語彙面では擬音語擬態語、文法面では敬語や授受表現など、上級になっても学ぶことが多い、奥深い言語です。

最近は自動翻訳が発展し、レベル1の学生も立派な日本語で欠席理由をメールしてくることもあります。私たちも、時には翻訳ソフトを便利に使わせてもらいます。だからといって、進学先での勉学において日本語の重要度が下がることは考えにくいです。勉強内容が高度になればなるほど、日本語学習の重要度は増します。

日本で就職しようと思っている人は、仕事を円滑に進める上で、日本語は必要不可欠です。大きな仕事をなすためには、良好な人間関係が欠かせません。日本語が理解できずに良好な人間関係を築くことは不可能です。それも、表面的な日本語力ではありません。相手の心の内を推し量れるレベルの日本語力です。

KCPは、このような、いくらでも深掘りできる日本語を、みなさんの実力に合わせて、みなさんが満足するまで教えていきます。みなさんが設定したゴールによっては、みなさんに嫌がられてもそのゴールに到達できるレベルの日本語力にまで、みなさんを鍛え上げていきます。覚悟していてください。

それと同時に、KCPでの生活がみなさんの人生を彩るものとなるように、様々な企画を用意しています。みなさんのクラスには、みなさんにとっての外国人が必ずいます。みなさんが今までに在籍した学校よりも幅広い年齢層の同級生がいます。そういった人たちと刺激し合って、みなさんの人間性を豊かにしていってください。

また、クラブ活動や学校行事も、みなさんの留学生活を豊かにするものと信じています。それらを通して、交友関係を広げたり日本に対する理解を深めたりしてください。こうしているうちに、日本語もKCPも、みなさんにとって単なる通過点ではなくなっていきます。これこそが、有意義な留学生活なのです。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

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秋空

10月6日(金)

気象庁のサイトによると、最近は最高気温の上位10地点が沖縄の観測点で占められています。暑さの盛りの頃は、常連の熊谷とか多治見とか、あるいは東北地方でも福島とか山形とか盆地が上位に名を連ねていました。沖縄は、多少渋滞に巻き込まれたとしても車で30分も走れば反対側の海岸についてしまうくらいの幅しかないくらい海に囲まれていますから、真夏日にはなっても、猛暑日にはなりません。10月ともなると、今度は海の保温機能が働き、また、南にあることから、いつまでたっても涼しくならないのです。

KCPの前の道に出ても、高いビルに囲まれていますから、空はとても狭いです。でも、その空が、朝からとても高く、また、雲一つなく晴れ渡っていました。これだけ照っても東京の最高気温は25℃をやっと超えた程度でした。ひと月前だったら猛暑日間違いなしだったんですがね。そして、朝の最低気温は17.9℃で、今シーズン最低でした。熊谷は15.1℃、多治見に至っては11.2℃でした。いずれも今シーズン最低です。11.2℃だったら、暖房を入れているかもしれませんね。

私は今週から日本語教師養成講座の授業をしています。2階の教室ですから、空は見えませんでしたが、日差しは見えました。澄んだ空気の明るさが感じられ、こんな日は教室で授業じゃなくて外を歩きたいなと思いました。そんなわけで、お昼はちょっと遠くまで行き、食事を済ませてから公園で本を読みました。風がやや強かったですが、心地よかったです。

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懐かしい語り口

10月5日(木)

お昼といっても3時過ぎですが、駅に向かって歩いていると、Hさんにばったり出会いました。Hさんは、3年半前に第一波が来るまで、朝、職員室のお掃除をお願いしていました。第一波以降、不要不急の外出はするなと言われたり、そもそも、オンライン授業になり学生が来なくなったりとかで、朝のHさんのお掃除は中止になりました。

Hさんは地元の方ですから、その後も年に何回か見かけることがありました。今年の前半まではお互いにマスク姿でしたから、時には「あの人、Hさんかな?」なんていう感じで、半信半疑でお辞儀をすることもありました。近づいて話すわけにはいきませんでしたから、世間話も「お元気ですか」「はい、おかげさまで」という程度で切り上げていました。

久しぶりにマスクなしの顔で立ち話をしました。Hさんは電気屋さんで電熱式の鍋を買って帰る途中でした。お子さんやお孫さんもこの近くに住んでいますから、おでんか石狩鍋か水炊きか知りませんが、みんなを呼んでつつくんでしょうね。Hさんの顔も、そんな冬の団欒を楽しみにしているようでした。

お掃除をしながら自慢話をしていたHさんのお孫さんは、20年の1月で、確か中1でしたから、今は高2です。来年は受験です。心身ともに大きく成長したことでしょう。またその自慢話をHさんから聞きたいものです。お孫さんの話に限らず、Hさんの話を聞いていると、おもしろくて仕事が進みませんでした。そんな朝のひと時がまた戻ってくるといいなあと思いながら、「では、また」と挨拶をして、お互い反対方向へ歩いていきました。

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リモート

10月4日(水)

KさんがR大学の志望理由書を書いたので見てくれと送ってきました。初稿は、意気込みは買えますがそこ止まりという感じで、最初と最後で書かれていることが微妙に食い違っていました。そういう点を細かくチェックして送り返すと、第二稿が届きました。日本人の友だちに見てもらったそうで、文章が整っていました。しかし、手垢のついた表現が目立ち、これではR大学の先生の記憶に残る志望理由書にはならないでしょう。

そこに手を入れた第三稿が送られてきました。だいぶよくなりました。でも、欲を言うと、R大学のネットのページなど、関連資料を読み込んで書いた文章とは思えません。R大学の試験官、面接官の先生方に訴える力を強めるには、資料を読んで、それに基づいてR大学で何を学び、どのように成長したいか、といったあたりを書く必要があるでしょう。そういったコメントを返信し次を待っているのが、今の私の状況です。

そんな面倒くさいことをするくらいなら、学生を呼び出せばいいじゃなかとお考えになるかもしれませんが、Kさんは一時帰国中です。海外にいる学生に志望理由書の指導ができるのですから、便利な世の中になったものです。出願もすべてオンラインでできたらさらにありがたいのですが、そこまでには至っていないようで、Kさんは日本に戻ったら、速攻で出願することになっています。

朝、Oさんも出願の最終チェックに来ていました。担任のM先生たちが寄ってたかって指示を出していました。お昼ごろラウンジで会ったら、自慢げに「出願は終わりました」なんて言っていました。午後はS大学の留学生担当の方が留学生入試の説明に。10月期は、入試本番の学期です。

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前日

9月29日(金)

明日D大学の面接試験を受けるXさんの面接練習をしました。Xさんは先週から集中的に面接練習をしてきました。本番前日にその成果を確認しようというわけです。

まず、面接室の入り方は軽くクリア。まあ、入り方が多少雑だったとしても、それが原因で落とされることはないでしょうが。声もよく出ていました。目をそらすことなく、また、貧乏ゆすりなど面接官に悪印象を与えそうな癖もなく、面接を受ける際の態度も問題がありませんでした。

入試に限らず面接試験では、面接官の印象に残らなかったら合格はできません。その点、Xさんには秘密兵器があります。自作のおもちゃです。これを出すタイミングの研究をしました。「こんなものを作ってしまう私は、貴校の建学の精神そのものです」という流れが一番自然ではないかということになりました。おもちゃそのものは、くだらないと言ってしまったらXさんに失礼ですが、それが正直な感想です。でもその制作過程は確かにD大学好みの香りが漂い、そこを起点に口頭試問になだれ込むことも可能です。

その口頭試問ですが、先週出した宿題は少々荷が重かったようです。結果を暗記する勉強を積み重ねてきたXさんには、暗記しているその結果を導き出すというのは、かなりの難事業でした。考え方を教えると、目からうろこみたいな顔つきになりました。

Xさんは、面接官の頭と心に印象を残せそうなネタは持っています。それをうまく使えば、D大学の先生が乗ってきてくれれば、勝ち目は十分にあります。もはや私にできることは祈ることしかありませんが、明日のお昼ごろ、Xさんが面接を受ける時間あたりに、精一杯念を送ることにしましょう。

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作り直し

9月28日(木)

来週から日本語教師養成講座の対面授業が始まりますから、その準備をしました。去年から今年にかけて、養成講座のオンライン授業用の資料を作ってきました。その資料作成の際に調べたことも対面授業に取り入れようと思い、こちらのレジメの改訂にも取り掛かりました。

KCPの養成講座は少人数制ですから、受講生の年齢や職業、経歴などに合わせて授業を進めていきます。同じレジメを使っても、話の持って行き方や提示する例文、取り上げる話題など、毎回微妙に変えます。また、受講生の理解度も違いますから、それを感じ取って、サラッと進めたり時間をかけたりします。

そんなことを考えながら、進み方が速かったらこんな話題を付け加えようかとか、こんな受講生がいたらレジメのこの部分はこんな扱いにしようとか、あれこれ想像を膨らませました。とりあえず来週使う分ぐらいはできました。新しい受講生と顔を合わせるのが楽しみになってきました。

養成講座を担当するたびに何か発見があります。そのため、レジメがだんだん厚くなってきました。この発見はぜひ次の受講生に伝えたいと思うことが多く、内容を入れ替えるよりも蓄積していくことの方が多いのです。一度レジメに入れてしまうと、なかなか捨てられないんですよね。

日本語学校や日本語教師にかかわる制度が新しくなろうとしています。制度がどうにかなったところで日本語教師に求められる資質が180度変わるわけではありません。体にしみこんでいる日本語を、改めて頭で理解し直し、外国人学習者にわかりやすく伝えていく力が何よりも必要であることに変わりはありません。

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書類不備

9月27日(水)

O先生のところにJさんから電話がかかってきました。Jさんは先月末にK大学に出願しましたが、K大学から受験料を返すというメールが届きました。そのメールについてO先生に聞こうと電話を掛けたのです。O先生が席を外していたので、A先生が対応しました。

A先生がいろいろ聞き出すと、K大学は、Jさんの書類に不備あるので受理できず、したがって受験もできないので、受験料を返還するということのようでした。Jさんはそのメールの内容が理解できず、学校に電話を掛けたという次第です。

K大学に出願したJさんの友だちにはK大学から連絡が来て、足りない書類を追加で送ったりした人もいたそうです。でも、Jさんは締め切り日ぎりぎりに出願したので、K大学の書類チェックが遅れたのでしょう。

「願書をK大学に送る前に先生に見てもらいましたか」「はい」。O先生がチェックしたのにこのざまだとしたら、大問題です。「O先生に?」「いいえ、塾の先生に」。ということで、Jさんは担任のO先生をスルーして塾の先生に最終チェックをしてもらったのですが、結果的に書類不備のまま送ってしまったのです。

出願の時には塾を頼るのに、問題が発生するとこちらに持ち込みます。学生によくあるパターンです。塾の先生は国の言葉を話しますから、学生にとっては相談しやすいです。しかし、学生の進路に関して最終的な責任を持つのは、日本語学校です。責任を持つからには、学生にもすべての情報をこちらに回してもらいたいものです。

それはともかく、K大学からのメールも持て余しているようだとしたら、たとえK大学を受験しても受からなかったでしょう。むしろ、受験料を返してもらってラッキーと思わなければならないかもしれません。

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語彙テストと想像力

9月26日(火)

テストが終わったら採点というのが、教師の宿命です。昨日の初級クラスの漢字に引き続き、朝から採点三昧でした。

中級クラスの聴解は、EJUの聴読解を想定した問題と、カタカナディクテーションでした。この問題は担当のH先生の温情で、誤字1か所につきマイナス1点という採点法でした。私が担当だったら〇×式にして、“ディクテーション”を“ティクテーション”と書いたら1点もあげないんですがね。でも、この採点方法で何名かの学生が不合格を免れました。

ディクテーションは、一面では語彙テストです。たとえ自分の耳には“ティクテーション”と聞こえても、日本語にはそんな単語はないと判断し、“ディクテーション”と書かなければならないのです。しかも、昨日のテストは前後の文脈がある中でのカタカナ言葉ですから、なおのこと“ディクテーション”とする必然性があります。そう考えると、ちょっと長めの単語のスペリングミスが目立ちました。私もカタカナディクテーションの授業を担当しましたから、責任の一端を感じなければなりません。

上級クラスの文法は、選択式の穴埋め問題と決められた表現を使う短文作成でした。穴埋め問題は、はっきり言って、学生に点数をあげるための問題です。この問題を全問正解かそれに近い点数で通過したうえで、実力差を見る短文作成問題に取り組んでほしかったです。しかし、クラスの下位集団は穴埋め問題でガタガタになり、短文作成では挽回するすべもなく、あえなく討ち死にしました。

穴埋め問題をクリアした中位と上位の学生の差は、想像力の差のように思いました。想像力を働かせて、与えられた条件を上手に生かしてきれいな文が書けた学生が高得点で、こちらが想像力を働かせないと状況が理解できないような文しか書けなかった学生は、そこまでには至りませんでした。

さて、明日は、最難関の作文の採点が待っています。・・・そういえば、昨日も「明日」って書きましたね。

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かあしん

9月25日(月)

朝、出勤して私が最初にする仕事は、先週まではエアコンをつけることでした。でも、今朝はエアコンをつけませんでした。出勤した方が暑いと思ったらつけてもらえばいいと思っていましたが、誰もつけずに夕方まで。先週のこの稿で「季節が少し進んだ」と書きましたが、今朝は「だいぶ進んだ」と言いたくなる涼しさでした。

みなさんは、「暑い」の反対語は何だと思いますか。レベル1の漢字の期末テストに出ました。レベル1で習う感じの範囲では「寒い」なのですが、何人かの学生が「涼しい」と答えました。これも今朝の涼しさの影響でしょうか。この漢字は未習ですが、習った漢字で答えろとは書いていなかったので、〇にしました。

その漢字テストの別の問題に、「かあしん」と答えた学生がいました。もちろん誤答ですが、どんな漢字の読み方だと思いますか。私もこういう誤答は初めて見ました。その学生は「母親」をこう読んだのです。点数はあげられませんが、座布団は3枚ぐらいあげたいですね。

私は上級クラスの作文の採点をします。試験監督をしたA先生のメモに、「Eさんがスマホで漢字の読み方を調べようとした」と書かれていました。確かに、「漢字にはふりがなをつけること」という指示を出しました。しかし、スマホで調べてもいいとは言っていませんし、そもそもテスト中にスマホをいじること自体、厳禁です。Eさんは授業中でもすぐスマホに頼ろうとしていました。それが体に染みついているんですね。いや、漢字の読み方なんて、まるで気にしていないんですよ、きっと。

明日は、その作文を、気合を入れて読みます。

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のんびり屋

9月22日(金)

昨日のこの稿に取り上げたJさんが、授業後にやって来ました。私宛にメールを送ったのですが、アドレスが間違っていたようです。

Jさんは、志望校としてK大学、R大学、M大学、O大学などを考えています。そのうち、R大学は出願締め切り日が来月早々に迫っています。ところが、Jさんは何もしていません。Web出願に必要なマイページも作っていませんでした。そのくせ、期末テストが終わったら一時帰国することにしています。ですから、Web出願の手続きのうち、今すぐにスマホでできるものをやらせて、手書きの志望理由書の用紙などをプリントアウトし、土日で考えてくるように命じました。R大学の明日すぐに締め切りがあるM大学の用紙も持たせて帰しました。

Web出願の中に、数百字のまとまった文章を書く部分がありました。Jさんは即興でそれを考え、スマホで打ち込みました。「先生、これでいいですか」と見せられた文章は、ネイティブチェックレベルの修正を加えれば、どこに出しても恥ずかしくない文章でした。Jさんにこんな力があるとは思ってもみませんでした。授業で書かせた作文だけでは、文章作成能力は見えてこないものなんですね。

でも、Jさんは、手書きはあまり好きではないようです。「日本の大学は遅れてますね」などと言いながら、志望理由書を考え始めていました。日本には手書き信仰みたいな文化(?)、伝統(?)がありますから、手書きの書類を提出させる方式は、もうしばらく残るでしょう。いや、生成AIの影響を少しでも小さくしようという切ない抵抗かもしれません。

週明けには、Jさんから志望理由書が届きます。期末テストの試験監督は、それを直しながらすることになりそうです。

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