年金

12月2日(火)

日本に住んでいる20歳以上の人は、国民年金保険料を納付しなければなりません。これは留学生でも例外ではありません。しかし、多くの留学生は、収入がないかそれに近い状態です。にもかかわらず、しかも留学生の場合は、年金がもらえる年齢まで日本にいるかどうかわからないのに、国民年金保険料をむしり取ろうというのはあまりにも無慈悲だと自覚しているのか、国は学生納付特例という、無収入の学生は国民年金保険料を納めなくてもいいという特例を設けています。これは日本人の学生にも適用されますが、日本人学生の場合は、少なくとも法律の建前上は、親世代の仕送りとなっていますから、たとえ支払ったとしても、親孝行と思えないこともありません。留学生は親孝行にはなりませんよね。

さて、その学生納付特例ですが、学生側が申請しないといけません。何もしないでいると納付義務が生じ、知らないうちに未納滞納となりかねません。そうなると、将来、大学や大学院を出て、何かをしようとするとき、その未納滞納が支障になるおそれもあります。かなり昔の話ですが、ある卒業生が、日本とは全然関係ない国の在留資格を申請するために、KCPの出席証明書を申請してきたことがありました。その卒業生は出席率が90%以上でしたから、KCPの在留資格がもらえなかったということはなかったでしょう。“過去”が思わぬところで利いてくるんだなあと驚いたことを今でも覚えています。

朝から上級の学生を対象に、年金事務所の方が学生納付特例の申請のしかたを説明してくださり、その場で申請書類を受け付けてくださいました。先週から予告していましたが、学生たちはわりと神妙に話を聞いて、きちんと申請書類を書き、提出していました。面倒くさがり屋の学生も、複数枚の申請書類を丁寧な字で埋めていました。これを見ていた20歳未満の学生も、自分たちの番になったらきちんとやってくれることでしょう。

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尻押し

12月1日(月)

レベル1は、いよいよ胸突き八丁にかかってきました。助詞もいろいろな使い方が出てくるし、動詞の活用も増えたし、微妙な違いを含んだ表現も出てくるし、教える方も苦しくなってきます。今までと同じ調子で教えていくと、学生たちは“???”になりかねません。こういう時は、どうにかして学生に印象を残すに限ります。理屈はよくわからないけど、なんか変なことをやったなあ…という方向に持って行きます。

「みんなの日本語」を使っていたころは文法が授業の柱でしたから、思い切って会話をふんだんに取り込んで特徴づけるということもしました。今は、使っている教科書がその反対の意識でつくられていて、会話が授業の中心ですから、文法のしくみに触れることで、学生の記憶になにがしかを残したいと思っています。

でも、やっぱり、主役は学生であり、日本語を身につける主体も学生です。教師は、学生をぐいぐい引っ張るというよりは、学生の尻押しをしている感じでちょうどいいのです。

私の尻押しは、学生の頭の整理のお手伝いです。例えば、既習事項の「写真を撮りますか」「写真を撮りませんか」「写真を撮りましょうか」は何がどう違うのか、これを学生に考えさせます。もちろん、ヒントぐらいは与えますよ。そして、その違いを自分でまとめて納得できれば、レベル2への道も開けていくでしょう。これの繰り返しが、胸突き八丁を越える杖だと思います。

気が付けば、12月です。ひと月でお正月です。学生が明るいお正月を迎えられるよう、今年最後のひと踏ん張りをしなければなりません。

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全面改訂

11月29日(土)

このたび、KCPは、文部科学省の認定日本語教育機関になりました。これを機会に、ホームページを全面的にリニューアルしようということになりました。その新ホームページに載せる写真撮影が行われました。

モデルを引き受けてくれた学生が朝から集まってきました。いずれも顔面偏差値がかなり高いです。普段の授業の時より少し小ぎれいにしていますから、なおさら引き立ちます。カメラマンのCさんは、国では本職でした。機材も本格的です。モデルもカメラマンも、特級です。

午前中は学校生活のいろいろな場面を想定して、教室やらラウンジやら、校内至る所で撮影したようです。午後は進学相談の場面ということで、私も駆り出されました。この写真撮影のために、明るい色のシャツとネクタイで出勤するようにと、昨日、A先生から言われていました。Bさんと進学相談のような話をしているうちに何枚か写真を撮られたようです。

その後しばらくして、今度は私一人だけの写真を撮りました。雑然とした私の机ではなく、広々とした机を前に、ポーズを取りました。座ったり立ったり、何パターンか撮ってもらいました。私は自分で写真を撮ることもしないし、撮られることもあまりありません。ですから、Cさんのカメラから連続的にシャッター音がするのですが、動いていいのか悪いのかわからず、とりあえずそのままの姿勢でいました。でも、ほとんど動きのないポーズの写真を何枚、何十枚と比べて、どれが一番いいかってわかるのでしょうか。

Cさんに見せてもらった写真はよく撮れすぎていて、ホームページでその写真を見た方が実物を見たら、“なんじゃこれ?”となってしまいそうです。M先生が遺影にいいとおっしゃいましたが、本当にそうです。

私はホームページの大改修には直接かかわっていませんから、“遺影”がいつ登場するのかわかりません。そう遠くない将来にリニューアルオープンするでしょうから、それまで首を長くして待つことにしましょう。

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鍛えたいですが

11月28日(金)

Xさんは日本語プラス生物でEJUの問題に取り組んでいます。大学で生物系の勉強がしたいというだけあって、毎回そこそこの成績を挙げます。頭の中に知識体系が形作られているようですから、うまく鍛えればどんどん伸びていけそうです。

ただ、その鍛え方に工夫が要りそうです。わからない、解けない問題の多くが、知識の有無ではなく、問題文ないしは選択肢の読解にかかわっているからです。「先生、わかりません」と持って来る問題の多くが、難易度☆ぐらいのレベルです。Xさんの実力からすると、解けないわけがありません。

問題文をかみ砕いて、時にはホワイトボードに図を描いたりもして、解きほぐしていくと、たいていどこかで“なあんだ、そんなことか”となります。独力では問題文が読み取れなかったというケースがよくあります。Xさん自身もそれに気づいていて、もどかしく思っています。

だから、Xさんの“わからない”は、学術的にわからないのか、日本語的にわからないのか、瞬時に見分ける必要があります。後者の場合は、文構造にさかのぼって、問題文や選択肢の読解のポイントを教えることもあります。

また、Xさんは、日本人の高校生向けの図版資料を参考書として持っています。そこかしこに書き込みがあり、努力の跡がうかがえます。日本語の勉強にもなっていることと思います。しかし、索引を使っている形跡がりません。“ベクターは何ですか”と聞いてきたので、図版を見ろと指示したら、出ていそうなページをあちこち開いては出ていなかったということを繰り返していました。私が索引を使ってベクターの出ているページをたちどころに開いてみせると、とても驚いていました。

耳から入ってきた言葉を索引で調べるのは、まだ中級のXさんには難しいこともあるでしょう。しかし、印刷された言葉なら、楽に調べられるはずです。それとも、索引ページの日本語単語の行列を見るとめまいを起こすのでしょうか。鍛え方が難しそうです。

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頭痛の原因

11月27日(木)

火曜日の選択授業・小論文で学生が書いた小論文をチェックしました。今週は文章読解型小論文に挑戦しました。1000字ほどのまとまった文章を読んだ上で、与えられた課題について書いてもらいました。今までは「こういう意見・考え方についてどう思いますか」というパターンが多かったのですが、今週は課題文から筆者の意見を読み取るところから始まりました。

初回ですから、読解に関しては多少助けてあげました。学生たちには理解しづらいだろうなというところには、解説を加えました。そして、書くべき課題についても、こういう構成で書くといいと説明しました。

さて、ふたを開けてみると、約半数の学生が的外れな小論文を書いていました。「なぜ○○が必要なのですか」という問いなのですが、「筆者の意見に賛成だ」「○○に反対だ」と書き出していました。1000字の文章どころか、わずか1行の指示文すら読み取れていませんでした。“課題は「なぜ」だから、賛成/反対で答えちゃいけないよ”と注意したにもかかわらず、堂々と賛成/反対で書き始めた学生が半数もいたのです。しかも、上級の学生たちだよ。激しい頭痛と吐き気に襲われました。

それに耐えながら「筆者の意見に賛成だ」の続きを読みました。予想通り、「なぜ」の答えは現れませんでした。入試の採点官だったら思い切り0点をつけるところですが、どこか1つでも評価できるところはないかと、目を最大変に見開いて探しました。無駄な努力でした。

すでに小論文入試を受けた学生たちもこんなのを書いたのでしょうか。だとしたら、受かるわけがありません。

賛成/反対組には、コメントで“なぜ”に答えていないと訴えました。そして、書き直しを命じることにしようかと考えています。

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タダで勉強

11月26日(水)

Gさんは高校大学時代を英語圏の国で送り、大学院は日本でということで来日し、現在、KCPの初級クラスで勉強しています。「英語の方が日本語より上手ですか」と聞くと、「もちろんです」と言いたげな顔をしつつうつむきました。その辺のところ、複雑な心境なのでしょう。

当然、英語で受験できる大学院を狙っています。先日も、大学院の入試関係で2日ほど欠席しました。クラスの他の学生たちは、日本語力的に見て26年4月進学は無理と考え、27年度進学を目指しています。でも、Gさんは来春の進学のために動き回っています。

英語プログラムが用意されているところとなると、やはりある程度のレベル以上の大学院となります。Gさんも苦戦が続いているようです。入試対策・勉強のために時間が費やされ、日本語の勉強に回せる分は限られてしまいます。だから、というわけでもないのでしょうが。中間テストを見ると、文法や単語をきちんと覚えていないことに起因するミスが目立ちました。このままでは、26年進学どころか、27年4月の進学も危うい感じすらします。

そんな話をGさんから聞いて職員室に戻ってくると、卒業生のMさんが来ていました。S大学に進学して、現在3年生だそうです。そして、もう、就職の内定が取れたと言っていました。つまり、27年4月入社の内定です。こんな早くに内定を出しちゃっていいの? と聞きたいですが、Mさんは嘘をつくような学生ではありませんでしたから、信じていいでしょう。

さらに驚いたことに、Mさんは奨学金のおかげで実質ほとんどタダで大学の勉強をしているのです。S大学はあちこち落ちまくった末に受かった大学で、Mさんの第一志望ではなく、いわゆる有名大学でもありませんでした。一時は仮面浪人して他大学に入る直すことも考えました。しかし思いとどまって勉強をつづけ、サークル活動もエンジョイしながら内定を手にしたのです。第一志望の有名大学に進学していたら、勉強と学費稼ぎのアルバイトに汲々とする日々を送っていたのではないでしょうか。

大学受験においては、Mさんは勝ったとは言い難いです。しかし、日本で就職するというのがゴールだとしたら、Mさんは勝ち組です。Gさん、どうです、あなたもゴールの設定を考え直してみては。

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また遅刻

11月25日(火)

Yさんは出席率があまりよくありません。何日も学校を休み続けるとか、非常に病弱だとかではありません。たまに風邪をひいて休むこともありますが、主に遅刻のせいで出席率が上がりません。私の授業の日によく出席率を尋ねますが、80%台前半をうろうろしていて、決して芳しいものではありません。

KCPでは目視による確認も含めて、1日に4回出席を取ることになっています。ですから、9時の段階でいないということは、4つのうち1つ欠席ですから、その日の出席率75%です。Yさんはこれをよくやらかします。入学時にそういう出席率の計算方式を教えていますが、実感が湧かないんでしょうね。自分の出席率の数字を見て初めて、思ったよりだいぶ低いことに気づいて、どうにかしようと動き始めます。Yさんもそんな1人です。

今朝はYさんのクラスに入りましたが、Yさんの姿はありませんでした。来たのは、後半の選択授業の時間から。これじゃ、出席率50%です。「また寝坊でしょう」と突っ込むと、照れ笑いをしながらうつむきました。

Sさんは先月珍しい記録を残しました。毎日学校へ来ていたのに、月間出席率は70%台でした。正確に言うと、月間出席率80%未満のブラックリストに載ったので出席状況を詳しく見てみたら、なんと毎日登校していたことが判明したのです。つまり、連日の遅刻で出席率がさっぱり上がらなかったというわけです。

YさんにしろSさんにしろ、勉強する気がないとか、進学を完全にあきらめたとかいうのではありません。日本の大学に進学するつもりですから、寝坊前提みたいな生活習慣を改めなければなりません。本人たちもそれはわかっていますが、どうにもできないのです。同病相憐れむ立場のEさんは、日本語学校の出席率を提出しなくてもいい大学を見つけてきて、そこに出願するようです。

これから、そういう学生たちが正念場を迎えます。

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質問タイム

11月21日(金)

日本語プラス生物の授業後、Yさんが残って授業で取り上げたことについて質問してきました。Yさんは日本の高校生向けの資料で勉強しています。勉強内容そのものは、図表を見ればある程度は見当がつきますが、専門用語の正確な定義とか用法とかとなると、1人ではどうにもならない部分があるようです。

私とのやり取りは、もちろん日本語です。Yさんはまだ中級ですから、立て板に水で質問できるわけではありません。質問のセリフもこちらの補助を参考にしながら組み立てていくといった感じです。私の回答も1回聞いただけで理解できず、追加説明が必要なこともよくあります。でも、多少時間がかかっても、最終的には理解にたどり着きます。よかったよかったと、お互い顔を見合わせることもよくあります。

はっきり言って、国の教科書を使って、国の言葉で説明してもらった方がずっと効率的です。わかっていてそうしないのは、Yさんの意地かもしれません。国の学生とはつるまないと、先学期の授業の時に言っていました。食事に行くのも、ほかの国の学生と一緒だそうです。自国のコミュニティーにどっぷり漬かっていてはいけないと思っているのでしょう。

Yさんは再来年の進学を考えています。だから、長期戦のつもりなのです。日本語で専門的な議論ができるようになることを秘かな目標にしているのかもしれません。私が最上級クラスを教えていると聞くと、「27年の1月の学期、私は一番上のクラスに入れますか」と聞いてきました。「頑張ればね」と答えておきました。

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心配事

11月20日(木)

木曜日の上級選択授業・身近な科学は、毎回授業の最後にその日の授業内容に関するクイズを出します。それにどんな答えを書くかで、その学生がどれくらい真面目に話を聞いていたか見当がつきます。スマホでこっそり調べればわかってしまう問題のときもありますが、大体はスマホで調べた結果をそのまま書くと“こいつ、やったな”と気が付いてしまうものです。

チャイムが鳴って、みんなクイズの答えを出して教室を出て行きましたが、Lさんが黙々と答えを書いていました。Lさんは毎回話をしっかり聞き、クイズにもきちんと答えてくれます。自分のとったメモを見返しながら真摯に答えようとしますから、みんなよりいくらか遅くなることもあります。

せかすことなく教卓周りの片づけをしていると、3分遅れぐらいで出しました。“さようなら”と言って帰っていくのかと思いきや、「先生、日本で一番地震が少ないところはどこですか」と質問。先々週の身近な科学で取り上げた地震についての質問でした。

「難しい質問だなあ…。山口には大きな電波望遠鏡のアンテナがあるんだ。地震が起きるとアンテナの位置が微妙に狂って正確な観測ができなくなるから、地震が少ないところを選んだって聞いたことがあるけど」「本当ですか? 山口ですね」「いや、地震保険の値段を調べてみたら。地震が起きる確率が低いところは安いはずだから」「地震保険ですか。調べてみます」…

Lさんはいずれ日本に住みたいのですが、地震のない国出身ですから、地震は怖いです。先々週の私の話を聞いて、夢が潰えそうになっています。日本はどこで大地震が発生してもおかしくないと言っちゃいましたから。

その後、話が弾んで、フォッサマグナや活断層と原発についてまで、30分ぐらい話し込んでしまいました。どれもLさんにとってはネガティブな話ばかりでしたが…。

先々週のクイズにはグーグル先生かチャット君にお伺いを立てたと思われる答えも散見されましたが、授業をきっかけに関心を深めた学生もいるとわかると、やっぱりうれしいものです。

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模範解答と面接

11月19日(水)

いろいろとしなければならないことが多く、上級クラスの中間テストの採点が延び延びになっています。どうにかしなければと午前中奮起しようとしたのですが、このテストの模範解答がありません。せっかく時間に少し余裕ができ、やる気も湧いてきたのですから、ここで挫折するのは癪です。

こういう時は、よくできる学生の答案用紙に頼るに限ります。候補として、Aさん、Zさん、Yさん、Bさんを選びました。最初の問題の答えを比べると、Aさんが全問正解で、他の3名はいくつか間違っていましたから、Aさんの答えを土台に模範解答を作ることにしました。次の問題以降もAさんの答えを参考にしながら解いていくと、すらすら問題が解けました。最終的にAさんは93点で、模範解答選びは大正解でした。

さあ採点に移ろうと思ったところに、午後のレベル1のクラスの学生が面接に来ました。午後クラスは授業後にたくさん面接をするわけにはいきませんから、午前中に持ってきます。いつの間にか、最初の学生Cさんの面接の時間になっていました。Cさんの次はXさんが控えています。Xさんの面接が終わるころには、午後の授業の準備を始めなければなりません。採点はまたも延期になりました。模範解答ができたという大きな進歩がありましたから、多とすることにしましょう。これさえあれば、意外と短時間で採点できそうな気もします。

面接では、2人とも、クラスの雰囲気がいいと言ってくれました。確かに、マイナスのオーラを出している学生はいませんから、教える方も楽しいです。でも、楽しい、楽しいで勉強が上滑りしてはいけません。そこのところは引き締めていかなければなりません。ためになる授業もしなければね。

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