Monthly Archives: 1月 2023

30秒前精神?

1月18日(水)

今学期私が持っているクラスの学生たちは、みんなスリルを味わうのが好きなようです。8:55ぐらいに教室に行っても誰もいないということすらありました。私はタブレットの接続具合を確認したり、授業で使う資料を画面に出す準備をしたりしたいので、授業が始まる5分前ぐらいには教室に入るようにしています。その時に誰もいないとか、いても1人とか2人とかというと、学生が来るんだろうかと心配になってきます。

でも、毎日、8時59分30秒あたりから、学生が怒涛のごとく押し寄せます。そして、始業のチャイムが鳴り、出席を取っている最中にもなだれ込み、出席簿上遅刻扱いにならずに済む学生がほとんどです。出席を取り終わった時点で遅刻・欠席の学生は、せいぜい2人ぐらいとなります。

綱渡り常習者のLさんは、丸ノ内線沿線に住んでいます。最寄駅8:41発の電車に乗れば教室に9時ちょうどに着くと計算しています。しかし、うちを出るのがほんのちょっと遅れ、その電車を逃すと次の電車は8:44発となり、教室着が9:03で、惜しくも遅刻です。8:41発に乗れても、その電車が微妙に遅れればアウトです。どうしてもう1本前の電車に乗らないのかと聞いても、Lさんは頭をかくばかりです。

他の学生も似たり寄ったりでしょう。時間の観念がないわけではなく、むしろありすぎるからこそ、9時ピッタリに滑り込むのです。じゃあ時間の無駄遣いをしていないのかと言ったら、間違ってもそんなことはありません。せめて、その時間の観念を5分早めてもらいたいです。

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どこへ行きたい?

1月17日(火)

今学期は上級の選択授業も担当します。私がやるのは、留学生目線の日本の観光ガイドを作ろうというプロジェクトです。日本の観光ガイドを作るには、まず、日本を知らなければならないということで、初回は日本の紹介をしました。

日本は島国ですが、これをお読みの皆さんはいくつぐらいの島があると思いますか。学生に聞いたら、30とか50とか、よほど思い切った学生で200などという答えでした。島の定義のしかたにもよりますが、間違ってもそんな少数ではありません。だいたい7000だと言ったら、全員が驚いていました。30なんて、佐渡島、淡路島など、有名な島だけでもそれぐらいになっちゃいますよ。

次は地方の名前、都道府県名です。地方の名前は、中部地方と中国地方で考え込んでいる学生が目立ちました。都道府県名は、関東地方と京都大阪あたりはできましたが、それ以外は北海道沖縄を除いて出来が悪かったですね。

都道府県名が全部出そろったところで、行ったことがある都道府県を聞いてみました。南関東と京都大阪奈良が多く、それに北海道が続く感じでした。他は1人か2人でした。遠出を控えろと言われ続けてきましたからしかたない面はありますが、学生の行動範囲はあまり広くありません。がっかりだったのは、行ったことがある県として埼玉を挙げた学生が約半数だったことです。先学期、川越であんなに盛り上がったのに…。あの日は、ちょっと遠いところまで行ったけど、そこが埼玉県だったとは思わなかったというところでしょう。

最後に、行ってみたい都道府県を挙げてもらいました。すると、沖縄北海道が票を伸ばしました。近畿地方も人気がありましたが、兵庫県はパッとしませんでした。どうやら、神戸と兵庫県が結びつかなかったようです。中国四国九州中部東北も、ごく少数の学生が支持しただけでした。

要するに、知らないから行きたいとも思わないのです。「進学先として地方の大学も考えろ」と指導しますが、地方がどんなところか知らなかったら、学問する場として選ぶはずがありません。この辺を是正していくのも、この授業の役目だと思って、今学期取り組んでいきます。

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85%

1月16日(月)

午後、F専門学校の留学生担当の方が学生募集の説明にいらっしゃいました。KCPからも毎年のように進学している学校ですから、どこの学科が定員になったという情報以外、取り立てて新しい話はありませんでした。募集を打ち切った学科も「ぜひ学生を送ってください」と言われた学科も、恐らくそうだろうなという感じでした。年が明けても定員になっていない学科は、学生募集にテコ入れしないと3月までに定員を埋められないかもしれません。今週はこのF専門学校のほかに、もう1校来校予定があります。

「出席率の基準はどの辺でしょうか」と聞いてみると、「出願資格は“80%以上“となっていますが、今は90%以上が常識でしょうね。85%でも印象は悪いですね」という答えが返ってきました。F専門学校は学生募集にテコ入れを始めたようですが、出席率に関しては妥協するつもりがないようです。出席率85%だったら、面接で休んだ理由を聞くとも言っていました。

こちらも、そうやすやすと妥協してほしくはありません。留学ビザは勉強するためのビザですから、出席率80%=欠席率20%では留学ビザで日本にいる意味がありません。出席率80%とは、平日5日のうち1日休んでいるということです。つまり、週休3日です。仕事なら段取りを上手につければそれも可能でしょうが、語学の勉強で週休3日はいただけません。

夕方、週休3日でアルバイトに精を出している学生が叱られていました。この学生も日本で進学するつもりのようですが、受け入れ先がこんなことを考えているなんて、気づいていないでしょうね。

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どこへ行こうか

1月14日(土)

2019年以前は、節分の日に、学生を連れて豆まきを見に日枝神社へ行っていました。力士数名、有名人少々を含む方々が、仮設の舞台から福豆の入った袋をまき、我々下々の民はそれをダイレクトキャッチし、福をつかむという図式でした。袋の中に“当たり”が入っていると、景品がもらえました。氏子になっている企業がスポンサーになっているのでしょう。私なんかは、たくさんキャッチした学生から、“はずれ”の豆の袋を1つ2つ分けてもらうのが常でした。

2020年は、ちょうど感染が拡大し始めるころでした。日枝神社の豆まき自体は行われたものの、学生も教師も人込みを恐れて日枝神社まで行きませんでした。去年とおととしは、オンライン授業だったり、出かけるような空気ではなかったりということで、日枝神社なんて全く念頭にありませんでした。

今年こそは日枝神社復活と思ったのですが、残念ながら、今年も豆まきはしないそうです。他の神社へ行ってもいいのですが、午前クラスの授業にちょうどいい時間帯に豆まきをしてくれるのは、日枝神社ぐらいなのです。4時ごろからというところが多いようです。最近の感染状況や新しい菌株の感染力を見ると、現時点で予定しているところも中止に追い込まれるかもしれません。今年も教室でひっそりなんでしょうか。

豆まきの準備中の神社やお寺を見ても面白くないでしょうし、でも、教室で豆まきの動画を見るだけでは不完全燃焼のような気もします。もう少し、頭を悩ますことにします。

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二十歳を祝う会

1月13日(金)

授業が終わったら、本当は何人かの学生を捕まえたかったのですが、それをほったらかして6階へ。12時半から「二十歳を祝う会」が開かれました。

「成人式」というと、成人年齢が18歳に下がったので18歳が対象となりますが、やっぱり子供と大人の区切りは二十歳かなあ。18歳で成人になった人がまだ少ないからでしょうか、日本の多くの地域で「二十歳を祝う会」的な催しが行われています。

二十歳の学生と比べると、私はその3倍の期間を生きています。会場にいる学生が生まれたころ、私はすでに2つ目の仕事として日本語教師を選び、KCPで教えていました。でも、この仕事が選べたのは、その前の20年間があったからこそだと思っています。最初の仕事は化学会社の研究員・エンジニアでしたから、日本語教師とは縁もゆかりもありませんでした。ただ、文法について考えるのは好きで、また、暇さえあれば本を読んでいましたから、自然に語彙も増えました。司馬遼太郎をはじめ、多くの作家から珠玉の言葉を学びました。それがこの仕事に生きていることは、疑う余地がありません。

ですから、二十歳の学生にも、興味の幅を広げて自分を鍛え続けてほしいと思っています。私は、今の私を思い描きながら二十代、三十代…と生きてきたわけではありませんが、若い時にまいた種を、今、刈り取っています。私は、残念ながら、日本の国の外で学ぶ機会はありませんでしたが、学生たちはそのスタートラインに立っています。この留学生活を充実させれば、年を取ってからあでやかな人生が送れます。

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通訳の効果

1月12日(木)

学校になついている学生は、教師が手伝ってほしいと声をかけると、喜んで手を貸してくれます。声をかけずとも、荷物をたくさん抱えていると、「持ちましょうか」と言ってくれる学生が少なくありません。「持ちましょうか」さえ未習の初級の学生は、アイコンタクトで申し出てくれます。

このところ感染拡大防止のため活発ではありませんが、学校行事のスタッフも人気があります。こちらの指示が伝わることが前提ですから上級の学生に限られますが、いつも期待以上の働きをしてくれて、本当に助かっています。必ず機転の利く学生が何名か出てきて、その学生を中心に仕事が回るのです。

そんな教師のお手伝いの中で、学生の評価が一番高いのは通訳です。たまたま職員室の前を通りがかった学生を捕まえて初級の学生への通訳を頼んでも、まず間違いなく引き受けてくれます。だいぶ前のことですが、レベル2の学生にレベル1の学生への通訳をしてもらったことがあります。こちらはレベル2の学生にもわかるような日本語を話しているのですが、それを自国語に訳している学生の表情は、自信に満ち溢れていました。また、レベル1の学生の質問や意見を、つたないながらも、私にわかる日本語にしてくれました。「どうもありがとう」とお礼を言うと、「うれしいです」と返ってきました。“お役に立てて”とまでは言えないあたりが、レベル2なのですが…。

今学期の木曜日のクラスには、Mさんがいます。Mさんは先日の入学式で通訳をしてくれました。授業中、クラス全体に多少難しいことを聞いても、真っ先に答えてくれました。できる学生がもっとできるようになった感じです。学校行事の通訳は、教職員、学生の目が集まりますから、花形中の花形です。それをやり遂げたことで、自信が確かなものになったのではないでしょうか。

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どの科目を取りますか

1月11日(水)

Cさんは今学期から受験講座を受ける学生です。どの講座を取るか決めてもらうため、授業後に説明をしました。

「Cさんは大学で何を勉強しようと思っていますか」。これは文系か理系か確認する質問であると同時に、日本語力チェックもしています。これがわからないようだと、受験講座についていくのは厳しいかもしれません。Cさんは難なく「文学か経済を勉強しようと思っています」と答えました。

「文学か経済…。ずいぶん離れていますねえ。文科系の人は、総合科目は絶対取ってください」「はい、わかりました。経済を勉強するときに数学が必要ですが、受験講座の数学は何を勉強しますか」と聞かれたので、EJUの数学コース1の範囲である数学Ⅰと数学Aの教科書を見せました。2次関数のあたりでCさんの顔が青ざめてきました。志望校を聞くと、A大学、M大学、N大学の名が挙がりました。いずれも国立大学ではありませんから、少なくとも文学部ならEJUの数学が要求されることはないでしょう。

Cさんは自分が置かれている状況もよく理解しているし、きちんと理解できるまで質問も繰り返すし、話の内容も筋が通っているし、このまま順調に伸びてくれれば上述の志望校も夢ではありません。何より、こちらの言ったことをきちんと聞き取っているところが心強いです。でも、数学をあきらめてしまったのは、理系人間としては寂しいですね。

数学は、図形の問題が解けたり順列組み合わせの計算ができたりするのが到達目標ではありません。図形の問題や順列組み合わせの計算に使う論理性こそ、その根本です。それは、文学の研究にも必要とされます。

数学嫌いを生まない教育をしている国って、あるのでしょうか。

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実力が発揮できない

1月10日(火)

Yさんが志望校に落ちてしまいました。私も面接練習をしたのですが、面接試験にたどり着く前に、小論文ではねられてしまいました。

Yさんは、どうも自己表現が不得手なようです。授業でも、作文の成績は文法や読解などと比べると見劣りします。話をさせると、よく聞くと筋が通っているのですが、よく聞かないとそれがわかりません。面接練習ではパッと聞いてすぐわかる話し方を練習しましたが、その成果を発揮する以前に散ってしまいました。

最近は日本人の入試でも総合選抜が幅を利かせ、面接や小論文で合否が決まる例が増えているようです。でも、ペーパーテストの良し悪しで合否が決まる入試も残っています。これに対して、留学生入試は大半の大学学部学科で面接があり、文系学部を中心に小論文を課すところも多いです。つまり、日本人ならテストの点だけで入れる試験方式もあるのに、留学生にはそういうチャンスが与えられないケースも少なくないのです。

となると、Yさんのような不器用な学生は、不利な立場に置かれることになります。確かに、大学に進学したら、どんな学問をするにせよ、文章力は必要です。自分の意見や考え、あるいは疑問を語れなかったら、学術的な探求をしたことにはならないでしょう。私たちも、テストの点数だけがいい学生には、こうした自己表現の力も養うように指導しています。ただ、人間には得手不得手があります。不得手な部分を克服しようと努力を続けている学生が壁に跳ね返されるのを見ると、ひときわ心が痛みます。

1か月くらいかけてYさんを観察してくれたら、どんな大学だってYさんが欲しいと言いますよ。だから、より一層残念です。

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入学式挨拶

みなさん、ご入学おめでとうございます。このように多彩な新入生のみなさんがこのKCPに集ってきてくださったことを非常にうれしく思います。

今、私は「多彩な」と申し上げました。世界には200以上もの国があり、それぞれの国がいくつかの地域に分かれます。こうした地理的な意味での多彩さもあれば、民族的あるいは文化的な観点から多彩さを論じることも可能です。さらには、年齢や経歴、経験、今までの専門、将来の計画…、このように考えると、ここにいらっしゃるみなさんおひとりおひとりが個々に違っていると言えます。

みなさんは金子みすゞという詩人をご存じでしょうか。金子みすゞは、今から100年余り昔の大正時代から昭和初期にかけて本州の最西端・山口県を拠点に活動し、500編以上の詩を作り、わずか26歳で亡くなりました。

その金子みすゞの詩で、日本人に最もよく知られている、愛されているのが「私と小鳥と鈴と」です。その詩の最後に「鈴と、小鳥と、それから私、みんなちがって、みんないい」という一節があります。これこそ、日本人を魅了してやまない金子みすゞの心です。

金子みすゞは、この詩を通してお互いの個性を尊重しあおうと訴えています。皆さんが持っている多彩さ、すなわち個性は尊重されるべきものです。しかし、その前提として、自分の身の回りの人の個性を尊重しなければなりません。自分の個性ないしは意見を主張するだけでは、単なるわがままに過ぎません。そんな人は、いずれ誰からも尊重されなくなる、相手にされなくなるでしょう。

自分と同類の人たちを理解するのはたやすいことです。しかし、異質な人たちを理解するには、自分からその人たちを知ろうとする努力が不可欠です。ある人を知るには、その人とのコミュニケーションが欠かせません。そのコミュニケーションの有力なツールが言語であり、みなさんは日本語という言語を学びにこの場にいるのです。

多種多様な人々を理解すると、みなさんの人間的な幅が広がります。人間性を高めるといってもいいでしょう。人間性が高まれば、尊重される人物から尊敬される人物へと進化します。みなさんが思い描いている自分自身の将来像には、多かれ少なかれ、尊敬される人物という面があると思います。この留学は、自分とは違う人たちと知り合うことを通して、そういう将来像に近づくチャンスだと考えてください。

留学は旅行とは違います。写真を撮ってお土産を買って通り過ぎていくだけではありません。その地に暮らし、風土に根差した文化を味わい、そして浸り、多くの人々と交わり、時には力を借り、時には力を貸し、連帯感を築き、あるいは苦い思いもしながら、お互いを理解し合い、見識を高めていく人生の一場面です。知識や情報を得るだけなら、インターネットで十分です。体験すること、生身の人間と触れ合うこと、そして異質なものを受け入れること、受け入れられなくてもその違いを尊重すること、そこに留学の意義を見出してもらいたいです。

今ここにいるみなさんも、“みんなちがって、みんないい”のです。

本日は、ご入学、本当におめでとうございました。

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名前を書く欄

1月6日(金)

午後、Fさんが大学出願に必要な書類を申し込みに来ました。申込用紙に、必要書類の種類とその枚数、名前や学籍番号や提出先などを記入します。Fさんは、名前の欄に、姓と名を分けて、カタカナで名前を書きました。ところが、書類の申し込み用紙の名前を書く欄には、若干小さめの字ですが、(漢字)、(英字)という表示があります。それが目に入っていなかったのでしょうね。

テストの時や提出物にいつもそうしていますから、ほとんど反射的にそう書いたのでしょうが、ちょっと注意不足でしたね。学校内の書類ですから、受け取る側の指摘に従って書き直せばそれで済みますが、大学に提出する書類でこんなミスを犯したら、最悪の場合、出願が認められなくなります。Fさんはクラスの中ではしっかりしているほうですが、それでも間違えてしまうのですから、他の学生はどうなのでしょう。

でも、多くの大学がオンライン出願となっています。“英字”の欄にカタカナを入力したら、すぐにエラーが出て気が付くでしょう。同様に、不適切な入力があると、やり直しを指示されます。そういうシステムに慣れているため、細かい字まできちんと読まずにパッと書いてしまうのかもしれません。

人間が犯すケアレスミスをフォローしてくれるのはありがたいことですが、そのせいで人間の注意力が衰えていくのだとしたら、恐ろしいことです。コンピューターの助けなしでは、いずれ人類は、社会を保てなくなる、生きていけなくなるのでしょうか。

私も同じようなミスをちょくちょくやらかしますが、こちらは細かい字が読めないせいで…。

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