Monthly Archives: 7月 2021

肝心なものが

7月16日(金)

先日この稿で取り上げたCさん、今度は数学の問題を持って来ました。やはり、鉛筆と計算用紙を添えて。しかし、その問題は、最近のEJUの理系数学にはほとんど出ない範囲のものでした。そういう範囲も余さず勉強しようというのは、殊勝な心掛けですが、大学での理系の勉強には必須の積分を国の高校で勉強してこなかったと言っています。EJUがどうのこうのじゃなくても、積分を知らなかったら、何かの拍子に間違って進学できたとしても、進級は無理でしょうね。留年が度重なると、退学だってさせられかねません。

だから、そんな問題にから割り合っている暇があったら、今すぐ積分の勉強をはじめろと命じました。でも、私の言葉が通じなかったのでしょうか、Cさんは、しばらく経ってから、同じような系統の問題を聞きに来ました。やはり、前回の物理同様、問題文の読解ができていませんでした。私の説明だって、かなりかみ砕いてもなかなか通じませんでした。

Cさんに頭を痛める直前、文系の受験講座数学にBさんが出席していました。Bさんの志望校は美大で、数学は不要です。いわば、趣味で勉強しているようなものです。でも、Bさんは筋がいいです。計算力勝負の問題も、論理性を問う問題も、すらすら解いてしまいます。EJUの文系数学なら、おそらくCさんよりBさんの方が、いい点が取れるでしょう。その数学の才能を生かして…と思いますが、万里の波濤を乗り越え、ウィルスをものともせず留学に来ているのですから、好きなことを勉強してもらいましょう。すでに、第一志望校のオープンキャンパスにも参加したそうです。

週間予報に晴れマークが並んだかと思っていたら、梅雨明けです。Cさん、受験シーズン本番は、すぐそこですよ。

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例文

7月15日(木)

日本語教師養成講座は、「中上級の文法」の最終回。最終回は、毎クール、理論というよりは授業準備の実態みたいなことをお話しします。中上級の文法授業にはこんな準備が必要なんだ、こんな苦労をしているんだという舞台裏を少しだけ御覧に入れています。

初級なら、例えばみんなの日本語の文法解説書などが実際に教えるにあたっての手引書になりえます。みんなの日本語の教案を集めたサイトも、簡単に見つかります。中上級の文法となると、そういう書籍やサイトが少ないです。自由裁量の範囲が広いと言えば聞こえはいいですが、現実は道なき道を進むようなものです。

私がよくやっているのは、その文法の意味する範囲を明確化するための例文作りです。いろいろな状況や条件を想定し、その文法による表現が成立するかどうかを見ていきます。一種の思考実験です。こういうことをすると、文型辞典などには書かれていない裏の意味が浮かび上がることもあります。この文法で使う「た形」はテンスの過去なのか、アスペクトの完了なのかなど、普通の日本人にとってはどうでもいいようなことを、例文を作りながらあれこれ考えています。

しかし、こうして発見した新事実を授業で話すかと言えば、そういう機会はほとんどありません。ただ、このような訓練が、学生からどんな質問が出ても対応できるという自信につながっているとは思います。学生の質問に対して、例文で答えることだってできます。

養成講座はこれでしばらくお休みかと思ったら、一休み程度で次の授業が待ち構えています。すぐに準備に取り掛からねば…。

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香車

7月14日(水)

私が担当している中級クラスで、あるテーマについて3~4名のグループに分かれて話し合い、その結論を発表してもらうというタスクをしました。グループ活動をしている最中は各グループともお互いに自分の意見を主張し合い、議論が白熱しているようでした。

あまりの盛り上がりようを見て若干時間を延長しましたが、発表の時間が来ました。しかし、グループのうちのいくつかは、両論併記みたいな発表でした。意見の異なる2人が発表したグループすらありました。学生たちの発表は堂々としたもので、ほめてあげられます。しかし、意見を1つにまとめろという私の指示は、あまり守られませんでした。

このクラスの学生は、自分の意見を述べ立てることはできても、他人の意見を聞いたり、異なる意見の人を説得したり、お互いの意見を認め合ってグループとして1つの意見にまとめたりすることはできないようです。中級の入り口だと、こういうところまで求めるのは酷かもしれません。

自分の意見を引っ込めるとか譲るとか妥協するとかというのが苦手なのかなあ。そういうのは決して負けではないんですがね。意見の違いを乗り越えて1つの統一見解にまとめることこそ、コミュニケーションの神髄でもあります。そういうレベルに至るには、まだまだ長い道のりがあるようです。

中級会話の初回としては、心行くまで意見を主張できたことで良しとしなければならないかもしれません。今回できなかったことは、これから9月までの間に少しずつ伸ばしていくことにしましょう。

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読めない

7月13日(火)

夕方、私のクラスの学生・CさんがEJUの物理の問題を聞きに来ました。塾でもらったと思われる問題集を見せて、この問題がわからないから教えてほしいと言います。言うだけではなく、鉛筆と計算用紙まで準備していました。今まで何人もの学生が私のところまで理科や数学の問題を聞きに来ましたが、ここまで用意してきた学生はめったにいません。それだけ、Cさんの本気度が伝わってきました。

しかし、聞かれた問題のレベルはあまり高くなく、今、ここでつまずいているとしたら、6月のEJUは期待薄のようです。1問目について私が説明を始めると、問題文で使われている用語の意味を知りませんでした。それを説明すると、あっと言って、鉛筆を動かし、正解にたどり着きました。2問目は、私の説明の途中で、Cさんは重要な条件を読み飛ばしていたことに気づき、再度しっかり問題を読んで、これまた正解を得るに至りました。

つまり、Cさんは問題文の読み取りができていなかったのです。そのため、難易度的には大したことのない問題が解けなかったというわけです。今学期中級に上がったばかりのCさんにとって、日本語で書かれた物理の問題を一読で理解し、その答えを出すのは、かなりハードなタスクなのでしょう。国で勉強したことがあったり、学校ですばらしい成績を残してきたりしても、それをそのまま日本の大学入試に平行移動することはできません。

Cさんのクラスにはまだ1回しか入っていませんが、そのときの印象では、Cさんは決してできる学生ではありません。問題文の読解に苦しむのも不思議ではないという程度です。だから、読解や文法の授業を本気で受けてほしいのですが、今までの経験からすると、そういう学生に限って「物理の勉強が優先」とかって言いだすんですよね。そして、不合格街道をまっしぐらに突き進むのです。

鉛筆と計算用紙を差し出したCさんには、そういう道を歩ませたくないです。

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拍手はするけど

7月12日(月)

新学期2日目ですが、自己紹介をしました。学生たちは金曜日に自己紹介の要領を教わっており、土日でしっかり考えて、週明けに発表してもらったわけです。

1人1分ぐらいということになっていましたが、平均すると1分半ぐらいだったでしょうか。でも、だらだらとした30秒オーバーではなく、聞く価値のある話が続きました。しかし、「〇〇さんに質問、ありますか」と聞いても、ほとんど反応がなかった点が気になりました。マスクをしているので声がこもり、窓とドアを開けていたので教室外の音が容赦なく入ってきて、聞き取りにくかった点は否めませんが、それにしても、質問がなさすぎます。

このクラスに限らず、最近はおとなしいクラスが増えているようです。緊急事態が常態と化している現状がありますから、しゃべり合って盛り上がるのも危険です。でも、クラスのみんなが指名されるまで待っているとなると、学生たちの積極性を疑いたくなります。受け身の姿勢が標準となってしまったら、教師にとって授業がやりにくいのみならず、学生もコミュニケーション能力が養えません。

指名すれば何か応える学生たちばかりですから、バカだから答えられないのではありません。新学期にクラス替えがありましたが、各学生とも、かなりの学生は顔見知りです。授業中何も話さないのがデフォルトとなっているとしたら、それは心得違いです。1分半ぐらいの、実のある自己紹介ができる能力があるのですから、それを当意即妙に質疑応答する方面にも回してほしいです。

担当初日にして、今学期の課題が見つかりました。

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再起動

7月10日(土)

今学期は久しぶりに数学の受験講座を担当します。以前使ったプリント類を引っ張り出して、頭の中を数学モードに動かしていきました。

目的地が11月のEJUですから、4か月ほどしかありません。その間に文系も理系もその範囲を一通り触れなければなりません。少なくとも、理系なら微分積分に関しては、しかるべきレベルにまで持って行く必要があります。文系も、図形や整数論など、問題としてよく出るところは押さえておかないと、学生たちに志望校が狙える点数を取らせることができません。

4か月と言っても、本番直前は80分という試験時間内に過去問を解く訓練も必要ですから、いわゆる「勉強」に充てられる時間は、決して長くはありません。学生たちに自宅学習をする癖を付けさせることも、今学期の私の仕事です。理系だと、毎日2時間ぐらいは数学の勉強に使ってほしいですね。理科の勉強も2時間、日本語の勉強も2時間となると、これだけで6時間。TOEFLなど英語の試験も受けるなら、そのための勉強も欠かせません。受験生は時間がいくらあっても足りません。

私が担当している養成講座の講義の試験問題も作りました。こちらも、他の先生の講義や実技系の授業の準備もありますから、睡眠時間を削って取り組んでいます。ですから、教壇実習にどうしても必要な項目とか、日本語教師的な発想をするのに不可欠な内容とか、焦点を絞って問題を作りました。

来週からレベル4のクラスです。去年もおととしも、代講でちょいと入ったくらいじゃなかったかな。私の頭の中も、改造していかなければなりません。

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苦渋

7月9日(金)

7時過ぎ。養成講座の資料の手直しに集中していたら、ロビーから「おはようございます」と声をかけられました。業者さんが2階ラウンジの自販機の入れるおにぎりやパンを持って来ました。私の場合、学期休み中と学期中とで違うのは、朝、商品納入に来た業者さんのために2階の鍵を開けるかどうかというのもあるのです。

業者さんが来ると、まず、熱を測ります。といっても、熱があってお帰り願ったことは一度もありません。今朝はその時に、「また緊急事態宣言ですが、授業は普通通りにあるんですか」と心配されてしまいました。「学生の数は減っていませんか」というのも、商品を納入する立場とすれば当然の質問です。本気で日本で進学を考えている学生は、下手に帰国すると再入国が難しいですから、日本を離れるわけにはいかないのです。業者さん、ご懸念には及びませんよ。

お昼に入ったお店のテレビで、小池さんが悲壮な顔つきで記者会見をしていました。要するに、無観客になったけど、オリンピックの成功に向けて全力を傾けると語っていました。学校に戻ってパソコンを開くと、オーストラリアのテニスの選手が無観客で試合をしたくないということで、出場を取りやめたというニュースが出ていました。こういう選手がこれからどれだけ現れるかわかりませんが、バッハ会長ぐらいしか見ていないとなると、選手もやる気が湧かないでしょうね。

となると、このオリンピック、記録はあまり期待できないのかな、オリンピックを開催したけど記憶や記録に残る試合が少なかったとしたら、病原菌になすすべもなく敗れ去ったオリンピックとして、永遠に語り継がれることでしょう。小池さんは、そんなことまで考えたから、渋い顔だったのかもしれません。

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難問に挑戦

7月8日(木)

今月に入ってから、毎日のように養成講座の授業をしています。今担当しているのは、中上級の文法です。日本語の文構造とか用言の活用とか助詞の意味用法など、文法の根幹をなす事柄は、初級のうちに勉強してしまいます。みんなの日本語の50課まででやりつくします。中級以上は、もっぱら小技を身につけていきます。

小技とは、状況や心情をより鮮明に相手に伝える表現や、相手の言わんとしていることを正確に受け取る力などです。そういった小技の背景には、言語学や音声学など、純粋な文法以外の分野の応用も控えています。ですから、私の養成講座では、そう言ったところまで含めて、学習者が日本語でコミュニケーションできるようになるには何が必要か、教師は何を教えるべきかまで踏み込んでいきます。

受講生のみなさんに、中上級の教室でどんなことが行われているか実感してもらうために、私が最上級クラスで使っていた練習問題をやってもらいました。クラスでは時間をかけて説明した後に解かせた問題を、日本語ネイティブの受講生にはごく簡単な講義だけで挑んでもらいました。

説明を聞いた上で解くことが前提の問題にいきなり取り組んでもらいましたから、みなさん大変苦労していました。逆に言うと、いかに日本語ネイティブでも、最上級クラスの問題は本気でかからないと解けないのです。かなり荒っぽい形でしたが、どのくらいの授業をしているかおわかりいただけたようでした。

超級の学生は、KCPを出たらすぐに日本人の学生に伍して大学や大学院で勉強していきます。しかも、“いい大学”に入ったら、周りはかなりの知的レベルの日本人ですから、いい加減な日本語では相手にされません。学生たちの日本語力をそこまで引っ張り上げるには、教師側はそれ以上の日本語が整理された形で頭の中に格納されていなければなりません。私の講義は、それを目指しています。

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御苑の向こう側

7月7日(水)

熱海や山陰地方で線状降水帯が発生し、大雨が降りました。熱海では土砂崩れ、鳥取や島根では線路や道路が冠水しました。これから梅雨の末期を迎えます。全国どこでもこういう被害が発生するおそれがあります。

KCPは微高地にありますから、地下の駐輪場への入り口を死守すれば、学校の中にいるのが最も安全です。ただし、その裏返しで、付近のコンビニなどはKCPよりも低いところにありますから、早々に浸水して、食料の調達などに支障をきたすかもしれません。机の引き出しにお菓子ぐらい入れておいたほうがいいでしょう。

そういう目で国土地理院の3D地図を見ていたら、国立競技場って谷底にあるんですね。新宿御苑の千駄ヶ谷門の手前にある池から続く谷が国立競技場を通り、渋谷へと向かっています。そうです。千駄ヶ「谷」と渋「谷」を結ぶ谷筋が国立競技場をかすめているのです。

ということは、新宿付近に線状降水帯が現れたら、国立競技場はまっ先に沈没するということです。そこでオリンピックの競技をやっていたら、目も当てられません。いや、そんなやすやすと濁流の侵入を許すはずがありません。でも、備中高松城よろしく、水に囲まれて、選手・観客は外には一歩も出られないかもしれません。

そう思うと、1964年の東京オリンピックはうまい時期にやりましたよね。台風シーズンのピークをやり過ごし、秋晴れの季節を迎えていました。また、今回は、マラソンは、東京でするのは危険すぎるということで、札幌で行われます。前回は、国立競技場から飛田給まで、甲州街道を往復しました。

気象庁のページを見ると、島根県石見地方に強い雨雲がかかっています。何事も起こらないことをお祈りいたします。

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大きすぎる

7月6日(火)

エンゼルスの大谷が、31号ホームランを打ちました。松井の記録と並び、日本人大リーガー最多となりました。米国時間昨日の試合で“久しぶりに”単打を打ちました。この調子なら、単独トップに立つことは間違いありません。また、投打でMBLのオールスターに選ばれるという快挙も成し遂げました。

この大谷選手は、岩手県の水沢出身です。地元の中学を出て、菊池雄星が輝いていた花巻東高校に進学しました。甲子園では勝ち星に恵まれませんでしたが、プロに進んでからの活躍は多くの人が知るところです。

大谷選手が生まれ育った水沢は、高野長英、後藤新平、齋藤實といった、歴史ファンには見落とせない人たちの出身地でもあります。地学ファンなら、Z項発祥地であることも忘れてはなりません。

現在、この水沢は奥州市の一部となっています。2006年に付近の市町村と合併し、新しい市をつくりました。市域には、前沢牛で有名な旧前沢町も含まれています。

奥州市は、当然、岩手県に含まれますが、でも、奥州といえば岩手県が含まれます。地名「奥州」は岩手県の一部であると同時に、岩手県を包摂しているのです。言ってみれば、富山県あたりに北陸市ができたり、合併して栃木県東国市などと名乗ったりするようなものです。

大きすぎる地名を一地域の地名にしてしまったと思います。市域に旧江刺市があります。江刺は、岩手県南部の北上川東岸を指す地名で、水沢など西岸は胆沢(いさわ)と呼ばれていました。この両地方を合わせた胆江(たんこう)という地域名があります。これをいただいて、胆江市とするのが分相応だったと思います。

でも、胆江市では、“キモエシ”とか読まれかねません。だから、奥州市へと飛躍してしまったのでしょう。この際、大谷にホームラン50本、ノーヒットノーランでも成し遂げてもらいましょう。そういうビッグな選手が生まれ育った土地ならということで、大きな市名を認めてもらうのが、日本国民にとっても一番喜ばしい形です。

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