Monthly Archives: 6月 2023

出藍の誉れ

6月15日(木)

土曜日にEJU日本語の過去問の授業をするので、その問題を解きました。まともに解いても面白くないので、読解は最初に選択肢だけを見て、どれが正解か見当をつけてから、本文を読みました。すると、結構当たるんですね、これが。こんな了見の狭いことは言わないだろうとか、常識で判断するとこれだねとか、科学的にはこれだろうとか、そんないい加減極まりない選び方でしたが、1/3以上は正解でした。これだけでも400点中100点ぐらいになるんじゃないかな。

でも、これは学生には教えられません。年寄りのこすい考え方を、前途有望な若者にまねさせるわけにはいきません。変な思考回路を身に付けると、EJUでは点が取れるかもしれませんが、それ以外においては百害あって一利なしでしょう。本文を読まなくても答えられちゃう問題を出しているほうを責めるべきです。

読解ではずる賢く立ち回れましたが、聴解と聴読解では敵を取られました。集中力が途切れた瞬間にポイントを聞き落とし、正解に至らなかった問題がいくつかありました。寝不足気味という面もありますが、年齢による集中力の衰えであることは否定できません。学生には「集中して聞け」などと偉そうなことを言っていますが、自分だってできないじゃありませんか。

それにしても、こんなに落としていては、実際に受験したとしたら、超級の学生何名かには負けてしまうかもしれません。私と一緒にテストを受けて、私よりいい点を取ったら、その学生は自信を持ってくれるでしょうか。だったら、集中力が衰えてもいいでしょう。

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発表練習

6月14日(水)

私が受け持っている中級クラスは、日本人ゲストをお呼びして、期末タスクの発表練習をしました。あさってが発表本番なので、その2日前に本格的な発表練習をし、前日に最終の修正をかけようという心づもりです。私も、学生たちの発表がどこまで進んだか見てみようと思っていました。

発表2日前なのに、ほとんどの学生が原稿を見っぱなしだったのが、何よりの不安材料となってしまいました。ゲストの方からもご指摘を受けましたが、原稿の日本語が難しすぎます。あちこち調べるのはいいのですが、調べた結果を吟味せずにそのまま発表原稿にしてしまっているのはいただけません。原稿が自分の言葉になっていないから、原稿を読み上げることになってしまうのです。

目が原稿に向かっていますから、パワーポイントの図表を活かして発表するという段階には至っていません。モニター画面を指し示しながら発表したのは、Dさん1人だけでした。これでは発表になりませんから、発表が終わった後で、こんなふうにするんだよと私が実演して見せました。

そもそも、声が小さいです。これまた原稿を読もうとするせいなのかもしれませんが、教室の一番後ろに立つと、蚊の鳴くような声しか聞こえてこない学生も数名いました。これじゃあ、原稿を黙読してもらった方が、発表者の考えが聴衆に伝わります。

ゲストの方からいただいた貴重なアドバイスも取り入れて、明日、手直しをしてもらいます。でも、考えてみれば、学生たちは自分にとって外国語である日本語でなにがしか発表しようと挑戦しているのです。足りない点を指摘しまくりましたが、心の中では立派なものだと秘かに感心しています。

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神戸牛

6月13日(火)

毎学期、学期末が近づくと、アメリカの大学のプログラムでKCPに留学している学生たちのオーラルテストがあります。その学期までに勉強した日本語を使って、どれだけ話ができるか、コミュニケーションがとれるか、そういったことを見るテストです。

Jさんは、ちょうど半年勉強して、期末テスト後に帰国します。でも、その前に家族が来日し、東京、大阪、神戸を旅行するそうです。東京はJさんが案内して、みんなで原宿や渋谷へ行きます。妹が原宿で買い物したがっているのでいろいろなお店を紹介してあげると、家族との再会を待ちかねているかのような顔で言っていました。神戸は、牛肉が大好きなお父さんのリクエストで行くことにしました。お父さんは、ネットで調べて神戸牛食べ放題の店を見つけ、そこを予約したとか。お父さんにおいしい肉をたくさん食べさせてもらうと、これまたうれしそうに教えてくれました。牛肉を思い描きながら、期末テストを乗り越えると言っていました。

Aさんは、国で5年余りも1人で日本語の勉強を続けてきました。そして、4月に来日し、3か月の勉強を終えて、やはり期末テスト後に帰国します。国での勉強は聞くことが中心だったので、KCPでは何より書くのが大変だったと言っていました。読むのも遅いので、読解のテストは問題が全部読めず、いい点が取れませんでした。後で問題をもう一度見て、時間切れで手が回らなかった問題に解けるのがいくつもあって悔しい思いをしたこともありました。でも、そういった話を、今学期勉強した文法や語彙を交えて語れるのですから、それは留学の成果と言っていいでしょう。

2人とも、充実した留学生活が送れたことは、言葉の端々から感じられました。また日本へ来たときに、ぜひKCPに顔を出して、近況を聞かせてくれればと思います。

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千差万別

6月12日(月)

月曜日の中級クラスは、今週末の期末タスク発表に向けて、先週末から準備に励んでいます。4つのグループに分かれて取り組んでいますが、早くも順調そうなグループと怪しげなグループの間に差が生まれつつあります。

YさんやTさんのグループは順調組です。授業中はどちらかというと周りの学生に引っ張ってもらうことの多いYさんは、そのいつも引っ張ってくれる学生がみんな違うグループになってしまったため、自分が先頭に立たざるを得なくなりました。リーダーっぽい役割を担いつつあるようです。Tさんは発表用パワーポイント作りで活躍しています。漢字が苦手なはずなのに、パソコンの画面をちらっとのぞいたところ、正しい漢字を使ったタイトルや文が並んでいました。

LさんとPさんのグループは、危ないです。メンバー4人のうち2人が休んでしまいましたから、LさんPさん2人が受け持ったところだけで仕事を進めるほかありません。休んだ2人は電話をかけても応答せず、無断欠席です。あさってはリハーサルなので、明日は何が何でも来てもらわねばなりませんが、果たしてどうでしょう。出席した2人で話し合いながらパワーポイントも作成していましたが、2人のうちでなんとなくリーダー役のLさんは、どことなく不安げでした。

MさんTさんSさんのグループは、3人がマイペースで仕事をしていました。話し合いながら進めるようにと言っても、私がそばを離れると、また黙々と個人作業です。授業終了間際にMさんとTさんは話し合い始めましたが、全体をつなげた時に、違和感満載のストーリーになっているのではないかと心配です。

Cさんがリーダーになるのではないかと思ったグループは、合議制と言えば聞こえはいいですが、話し合った割にはまとまりがないような気がしてなりません。メンバー全員が話し合っている分だけ、上の2つのグループよりましだと思わなければならないのでしょうが、教師としては安心できません。

戦力均等を旨としてグループを作ったつもりなのですが、だいぶ差がついてしまったみたいです。でも、授業が終わってからオンラインで急に話が進むこともよくあります。それはそれでありがたいのですが、それだと日本語で仕事を進めたかどうかわからない面があります。そうだとすると、何のためにおタスクなのか、わからなくなります。ましてや、生成AIなんて使っていたら…。

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魅力を伝える

6月10日(土)

最近、大学や専門学校の留学生担当の方から、「そちらにお邪魔して留学生入試についてご説明をさせていただきたいのですが」という電話がよくかかってくるようになりました。去年までは訪問を遠慮していたところも、5類になったこともあり、対面で説明しようというわけです。こちらとしても、電話で説明を受けたりメールを読んだりというよりも、募集要項の実物をはさんで対面し、直接説明を受け、疑問点は直ちに質問しその場で答えてもらえる方がはっきりしますから、来訪はお断りしません。

こちらへいらっしゃる担当者の方も、対面のほうが安心できるのでしょう。「そろそろよろしいかと存じまして…」とか、「ご卒業生の近況報告かたがた…」とか、顔と顔を突き合わせるとより効果的にアピールできるとお考えのようです。こちらも、その学校を学生にどう紹介するか、そのポイントをつかみたいですから、効果的なアピールは大歓迎です。いらっしゃった学校を志望しそうな学生、志望校として考えてもらいたい学生、そんな学生たちをその気にさせる手立てが欲しいのです。

ところが、こういう私の希望をかなえてくれる学校さんがあまりないんですねえ。パンフレットを見せてもらいながら通り一遍の説明を聞いても、募集要項で入試の概要を説明されても、それだけでは学生の印象に残る、学生の心を動かせる紹介はできません。「A大学はいい大学だよ」「B専門学校はKCPの卒業生が進学してるよ」では弱いですね。

来週もすでに2校の約束が入っています。気持ちが湧きたつようなお話を聞かせてください。

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2人の学生

6月9日(金)

Sさんは、次の学期に進級できるかどうか、微妙な成績です。中間テストが振るわなかったので、平常テストや期末テストでその分を挽回しなければなりません。しかし、現時点ではそこまでに至っていません。Sさん自身は進級できそうだと思っているのかもしれませんが、教師の目から見ると、読解も聴解も、話す力も書く力も、もう一度同じ勉強をしたほうがいいレベルです。

最大の原因は、ボールペンで字を書くことにあります。間違いに気づいて直すときに、きちんと修正テープか何かを使えばまだしも、Sさんはボールペンでくしゃくしゃっと消して、その横か上に直した答えや文などを書き込みます。しかも、赤ではなく黒のボールペンで、汚い字で。ですから、直した直後はともかく、しばらく経つと何が何だかさっぱりわからなくなります。勉強したことが積み上がらないのです。

一方、Yさんは大きく伸びました。おとなしいので、学期の最初はどこまでわかっているかつかみかねるところがりました。Sさんよりはできる感じがしましたが、そんなに大きな差ではないように思えました。でも、今は、2つ上のレベルに進級させてもいいんじゃないかというくらいの力がついています。テストの採点は、まずYさんのをして、それを模範解答として、他の学生の答案を見ていきます。Sさんの倍ぐらいできるんじゃないでしょうか。

Yさんは、板書したことはもちろん、教師が口で言っただけのことも几帳面にメモしています。教科書もノートも、それを見ただけで要点がわかり、復習ができ、他の項目との関連も一発でつかめます。予習を怠ることなく、出席率も宿題提出率も100%です。私は、このクラスで授業をするとき、Yさんの知的好奇心を満足させるような何かを付け加えることにしています。何かを与えたら、与えただけ吸収してどんどん伸びていく感じがします。

とはいえ、教師の本当の仕事は、Sさんをどうにかすることです。

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そうまでして?

6月9日(木)

KCPは、校舎・敷地内全面禁煙です。喫煙所はもちろんのこと、灰皿すら置いていません。タバコを吸いたい人は、付近の喫煙所へ行くか、学校にいる間は我慢するか、どちらかです。

付近の喫煙所と言っても、学校のすぐ隣などにはなく、歩いて数分かかります。ですから、15分の休憩時間内にタバコを吸おうとすると、走って喫煙所へ行って、大急ぎで吸って、また走って戻ってくるという感じになります。そんなではあまりにあわただしく、タバコ本来の“一息つく”には程遠いです。それでも吸いに行く人がいますが、タバコを吸ったことのない私など、何のために吸うのだろうと思ってしまいます。

走ろうが何しようが喫煙所まで行って吸って授業開始までに戻ってくるのなら、正当な行為です。誠にお恥ずかしい話ですが、最近、学校至近の喫煙所ではない場所でタバコを吸う学生が後を絶ちません。多くが駐車場などの私有地に無断で入り込み、一服に及んでいます。これは住居不法侵入であり、立派な犯罪です。

捕まった学生たちは、日本人もそこで吸っていると不満げに言います。でも、それは、犯罪の真似をしてもいい、模倣犯は許されると言っているのに等しく、言い訳にも理由にもなりません。

昨日も5人の学生が捕まりました。昼休みに、その5人への締めの説教をしました。次に同じことをしたら即刻退学だと通告しました。夕方、その学生たちの反省文を読みました。喫煙所が遠いとか、早くタバコが吸いたかったとか、要するに学校が何回も繰り返してきた喫煙に関する注意を軽視していたのです。「二度としません」という言葉が躍っていましたが、どこまで信じられるでしょう。しばらくは、この学生たちをマークしていきます。

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欠席するおそれがあります

6月7日(水)

朝、授業の準備をしていると、Tさんからメールが届きました。「昨日の食べた料理のせいで、お腹が痛くなって、寝られなくなりました。今日クラスを欠席するおそれがあります。」と書いてありました。

これを文法の時間に習った通りに素直に解釈すると、「欠席するかもしれない/欠席する可能性がある」となるでしょう。でも、常識的に考えて、Tさんは欠席届のつもりでこのメールを送ったことは明らかです。その証拠に、この文に続いて「ごめんなさい」という言葉がありました。KCPは欠席を厳しくとがめますから、思わず謝ってしまったに違いありません。

「~せいで」「~おそれがある」は、今学期クラスで勉強した文法表現です。Tさんは、おそらくお腹の痛みに耐えつつ文法の教科書を見ながら、その2つの文法を組み合わせて、このメールを作成し送信したのでしょう。それが、この文法を教えた私たち教師への礼儀であり、恩返しでもあると思っていたかもしれません。「お腹が痛いので学校を休みます」で十分なのにこんな文面にしたのには、そんな心情が隠されているような気がします。

Tさんのメールは、欠席届としてはふさわしくないですが、習ったばかりの文法を果敢に使おうとした点は評価してあげられます。向こう傷ですから、名誉の負傷です。翻訳ソフトが作った文よりは、よっぽど血が通っています。

メールの返信には「お大事に」としか書きませんでした。そんなところで文法の講義をしたら、腹痛に加えて頭痛まで抱えてしまうことになりかねません。明日、Tさんが元気になって学校へ来たら、特別講義をしてあげましょう。

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失脚

6月6日(火)

上級クラスで「失脚」という単語を扱いました。学生に意味を聞くと、「やめること」という答えが返ってきました。確かに、「汚職がばれて、社長が失脚した」という文なら、「~社長がやめた」でも意味は通ります。ところが、学生に書いた例文の中に、「解決策が完全に失敗して、課長が失脚した」というのがありました。やはり、失脚するのは社長であり、課長が失脚するなんておこがましい感じがします。ですから、失脚する人はある程度の地位、トップかそれに近い人物である必要があります。

辞書で失脚を調べてみると、だいたい「失敗して、それまでの地位・立場を失うこと」とまとめることができます。でも、これだと課長も失脚していいことになります。失脚には、「権力者がその権力を失う」とういイメージが伴うような気がします。それも、「権力争いに負けて」とか、「高い地位にふさわしい仕事がうまくいかなくて」とか、「下の立場の者からの信頼を失って」とかという要素も含まれているのではないでしょうか。

そうすると、学生の例文「首相の長子は不正な行為で失脚した」はどうでしょう。首相官邸でどんちゃん騒ぎをしたり、外国で公用車を使ってお土産を買いに行ったりして、秘書官更迭という罰を受けたことを指すことは明らかです。しかし、首相秘書官が失脚に値する地位かというと、どうでしょうか。次期首相が約束されていたのなら失脚でもいいと思いますが、実際の首相長男氏はそれほどの地位だったかなという気がします。いや、首相の周りでは「失脚」と言っているのかもしれません。

学生の例文を読むまでは、「失脚」という言葉についてこんなに深く考えたことはありませんでした。また、学生に勉強させてもらいました。

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マスクなし

6月5日(月)

昨日は1日中全くマスクをしませんでした。第1回の緊急事態宣言が出される前以来ですから、3年3か月ぶりか4か月ぶりでしょう。電車にも乗ったし、お店にも入ったし、ごく普通に生活しましたが、朝から夜までマスクなしで通しました。

今年3月から、マスクは本人の自由意思となりました。でも、私はマスクをしてからというもの風邪をひかなくなったというマスクの効用も実感していましたから、マスクを外すことには慎重でした。最後までマスクをし続けるのではないかという予感もしていました。

とはいうものの、やっぱりマスクは鬱陶しいですね。マスクを外して歩くさわやかさには勝てません。最初はちょっぴり罪悪感もあったのですが、今は咳やくしゃみでもしない限り、そんなものは感じません。

さて、午後から年に1度の校内進学フェアがありました。昨年まではマスクはもちろんのこと、フェイスシールドやアクリル板も繰り出したこともありましたが、今年はマスクなしの大学が過半でした。大学や大学院の授業も、同じようにマスクなしでやっているのかなと思いました。私は、外ではマスクなしでも、授業では大声を張り上げてしゃべりますから、一応マスクをしています。

マスクに関しては学生たちの方が保守的なようで、ノーマスクの大学担当者対マスクをした学生という図式が多かったように見受けられました。私のクラスのMさんはマスク派でしたが、数校のブースを回って資料を集めていました。いわゆる有名校ばかりではなく、堅実なところの話もしっかり聞いたようです。先学期受け持っていたKさんは女子大に興味を持っていると言っていましたが、その通りに女子大の話を真っ先に聞いたようです。

この学生たちが受験の本番を迎えるころには、マスクなしがさらに浸透していることを願っています。

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