遅い報告

11月26日(月)

授業が終わるとBさんが駆け寄ってきて、「ご報告したいことがあります」と神妙な顔つきで話しかけてきました。「何ですか」「先生、C大学に合格しました」「おめでとう」…という具合で喜ばしい報告でした。

しかし、C大学の合格発表は先週の前半でした。ずっと何も言ってこなかったので、“落ちて恥ずかしくていえないのだろうか”とも思いました。普通の学生は、受かったら欣喜雀躍として報告に来るものですから。でも、Bさんは、性格的に、もし落ちたらすぐ次をどうするか相談に来るはずだから、何も言ってこないということはきっと受かっているんだろうとも思っていました。

困ったのはKさんです。高望みばかりしていて、EJUの成績などから見てほぼ絶望的なT大学を受験することにしています。しかも、滑り止めなしです。次の大学はT大学に落ちてから決めると豪語しています。普段から勉強しているならまだしも、遊んでばかりのくせして、この強気はいったいどこから出てくるのでしょう。

対照的なのはJさんです。第一志望のG大学の発表を明日に控え、ダメだった場合に備えてN大学の出願書類の準備を始めました。何が何でも日本で大学に進学するんだという強い意志があります。でもKさんとは違っていたって慎重です。N大学以外にも二の矢、三の矢を番えている様子です。

夕方からは2020年進学を目指す学生たち相手の受験講座。こちらはまだ具体的にどこの大学という声は上がっていません。あこがれレベルです。でも、そこに至るまでにどんな山坂が待ち構えているかは、少しずつ見えてきているようです。第二のKさんだけは生み出さないようにしなければと思っています。

55年ぶり

11月24日(土)

大阪で2025年に再び万博が開かれることになりました。前回が1970年でしたから、55年ぶりの開催となります。東京オリンピックの56年ぶりとちょうど同じくらいの間隔となります。

70年の万博は、当時京都に住んでいた親戚のうちに泊まって見に行きました。夏休みの真っ最中で60万人以上も入場した日だったので、米国館の月の石をはじめ“目玉”はすべて長蛇の列で、数時間待ちと聞き、見るのをあっさりあきらめました。だから、本当に会場に入ったというだけで、人ごみを見て帰ってきたというに等しく、万博に対する思い出はこれといってありません。でも、国全体が万博の熱気で盛り上がっていたことははっきり覚えています。幼心にとにかく万博を見なければと思い、また、親戚も是非見に来いと言ってくれたので、夏休みの京都行きとなったのです。まだ若かった両親も、好奇心満杯で見に行きました。

さて、25年の万博は何が目玉になるのでしょう。AIが何かするのでしょうか。そうだとしても、ちょっとやそこらのことでは、私たちは驚きません。見学者の耳目を引くには、相当なことができなければなりません。私なら、そうですねえ、AI搭載ロボットが頭のてっぺんから足の裏まで、文字通りツボを押さえたマッサージをして快感に浸らせてくれたら、驚いてあげてもいいでしょう。

日本語学校の教師としては、2025年に向けて日本語学習者が増えるかどうかが気になるところです。世界中で日本に興味を持つ人が増え、その一部でもこちらに回ってきてくれたらありがたいところです。通訳は機械がするようになっているでしょうから、外国人を引き付けるだけの魅力がこの国にあるかどうかが問われます。7年後、どんな答えが返ってきているのでしょうか。

安全運転は困ります

11月22日(木)

今週末に入学試験という大学が多いため、午前中の授業が終わってから、4連発面接練習でした。全員が女性だったこともあり、最後の頃は前の学生がした答えと今の学生の言葉とがごちゃごちゃになり、頭を整理するのが大変でした。

面接はただ単に日本語を話す力をチェックするだけではありません。コミュニケーション能力を見ます。つまり、受験生は、面接官の質問内容を理解し、その質問によって何を知ろうとしているかを察知し、それに対して試験官に理解できる的確な答えを返す力が試されるのです。立て板に水でも上滑りしていたら点数になりません。

また、おざなりの答えではいけないことは言うまでもありません。他の受験生でも誰でも答えられる内容の答えだったら、いくら上手な日本語で語っても点数にはなりません。独自の答えが求められます。志望校にどれだけほれ込んでいるか、その勉強にどれだけ打ち込もうとしているかが、面接官によって吟味されているのです。その大学、その学問にどれだけ人生を賭けようとしているか…といったら大げさかもしれませんが、それぐらいの気持ちで取り組んでもらいたいものです。

そういう観点からすると、全体的に安全運転でした。ミスをしないようにという気持ちが先に立ち、インパクトの強さや思い切りのよさがあまり感じられませんでした。4人の志望校を聞くかぎり、競争率が低いとは思えません。自分を売り込むつもりで答えるように、面接官からのメッセージをしっかり受け止めるようにとアドバイスしました。

ここまでしたら、残された私の仕事は、祈ることだけです。

寒い朝

11月21日(水)

今朝は寒かったですねえ。最低気温が5.8度だったそうです。今シーズン最低ですが、平年より1.3度低いだけです。ごく普通の変動範囲内です。それでも、結露でぐっしょりぬれている窓を見て、思わずワードローブからコートを引っ張り出し、あわてて洗濯タグを取り外し、がっちり着込んで家を出ました。マフラーを巻いていない首筋がスースーしました。

札幌は、平年よりだいぶ遅れて、今シーズン初積雪・3cmを記録したそうです。それも、記録上はお昼にはゼロに戻ってしまいました。やはり全国的に冬の歩みが遅いようです。気象庁のページで全国の積雪状況を見ると、どこも雪は少ないです。積雪の最大値が青森県の酸ヶ湯で15cmです。平年の1/4ぐらいにとどまっています。日本で一番雪の積もるところですから、さすがといえばさすがです。

この冷え込みを一番厳しく感じているのは、きっとゴーンさんでしょう。留置場とはいえ暖房なしということはないでしょうが、一夜にして世界一の辣腕敏腕経営者から容疑者に転落ですから、心の中は寒々しいものがあるに違いありません。

それにしても、毎年数億円から十億円以上も報酬をもらっているのに、さらに世界中に自宅を持つとは、いったいどこまで財産を築けば気が済むのでしょう。私だったら、1年だけ数億円の収入があったら、あとは遊んで暮らしちゃいますがねえ。死ぬまで働かずともよいお金を手にしたら、それ以上の財産は求めません。だから、一攫千金を求めて、もうすぐ発売開始の年末ジャンボを今年も買います。

紙くずが落ちていました

11月20日(火)

10時半に前半の授業が終わり、外階段を使って1階の職員室まで戻ろうとしたら、私の少し前をSさんが歩いていました。Sさんは私に気付いていないようで、1列に並んで前の学生の後について黙々と階段を下りていました。

5階、4階、3階と下りて、2階に着く直前の階段の上に紙くずが落ちていました。Sさんの前を歩いていた学生たちは気付いていないのか、気付いても無視しているのか、誰も拾いませんでした。私が拾わなきゃと思っていたら、Sさんが軽く腰をかがめて拾い上げました。そして、それをポケットに突っ込み、1階に下りたらそのまま学校の外へ行ってしまいました。コンビニへでも行ってくるのでしょうか。

Sさんは、入学後しばらくは毎朝早く学校へ来て、ラウンジで勉強していました。出席率は100%でした。しかし、最近は欠席が目立ち、ついに先月は1か月の出席率が80%を割り、欠席理由書を書く事態に陥ってしまいました。進学先が決まり、いくらか気が緩んだ面もあったと思います。

このまま悪い学生に落ちぶれて卒業していくのかと危ぶんでいただけに、さりげなく紙くずをつまみ上げた姿がより一層輝いて見えました。先週、最近校舎のあちこちに汚れが目立つようになったので、校内美化に努めてもらいたいという話を全校的にしたばかりでした。それに応えてくれたSさんの根本の部分は、決して腐ってはいなかったのです。すぐそばで見ていた私まで、心が洗われる思いがしました。

おかげで、清々しい気持ちで後半の選択授業、午後の面接練習と受験講座に取り組めました。

受験後方支援

11月19日(月)

土曜日休んだため、今朝はメールが山ほど届いていました。まず、Tさんからのメールから。Tさんは金曜日に志望理由書を見てほしいと言っていましたが、私の退勤時までにその志望理由書が送られてきませんでした。週末はずっとそれが気になっていたのですが、メールの受信時刻を見ると、私が帰宅してから間もなく送られてきたようです。大急ぎで添削しました。

Tさんの志望理由書は、文法的な間違いはほとんどなく、少なくとも今シーズン最高の文章でした。しかし、局地戦にのめりこんでしまい、戦局全体を見る目を欠いていました。つまり、専門の勉強がしたいという気持ちは伝わってきましたが、その勉強をその大学でする必然性が見えてこなかったのです。これだと、その勉強ができれば大学はどこでもいいのかなと思われてしまいかねません。

専門的過ぎる部分をばっさり切り捨てたら短くなってしまったので、どんなことを書いて字数を増やすか指示を出して、Tさんに送り返しました。それが7時過ぎ。授業前に見てくれていれば授業後に質問に来るかなと思っていたら、ラウンジでばったり会いました。Tさんはにこやかに「大丈夫です」と言っていましたから、あさってが締め切りでもありますから、ちょっと手を加えて出願するのでしょう。

授業後にはMさんからも志望理由書の添削を頼まれました。ワープロで打った原稿を持って来られたので、即手直し。こちらも語彙や文法の破綻はないのですが、流れがスムーズではないので段落の一部を入れ換えました。また、インパクトが弱いので、少々強気の言葉も加えました。あとは面接でこの志望理由書の本意を補ってもらうだけです。

Mさんの志望理由書の添削を済ませてロビーに下りると、先週さんざん面接練習したLさんがいました。練習した質問が出てきたそうで、それはうまく答えられたとのことです。ただ、「ここまでどうやって来ましたか」という質問に変な答え方をしたとか言って、気に病んでいました。それは、Lさんの緊張をほぐすためのやりとりで、直接合否にかかわらないよと言ってあげたら、多少は安心したようでした。

明日も、面接練習が2件入っています。

さすが×3

11月16日(金)

中間テストが終わったとたん、面接練習やら志望理由書の添削やらで、てんてこ舞いでした。

まず、Lさんの面接練習。前回、質問に対する回答が、「貴校にはいい先生がたくさんいらっしゃいますから」など、誰でも答えられる内容だと指摘しました。今回はきちんと練り上げて、具体的な内容、他の受験生は答えられない答え方になっていました。もちろん、文法や語彙の誤りはありましたが、日本語教師ではなくても理解可能な範囲でしたから、あまりねちこち注意するのはやめました。さすが3回目、順調な仕上がりです。あさっての本番では、緊張せずに力を出し切ってもらいたいです。

続いてMさんの志望理由書添削です。一読して、なんだかすごく上手に書けているように思いました。だって、意味がすんなり頭に入ってきたのですから。火曜日に中級の小論文クラスの中間テストがあり、それを毎日読んでいるのですが、二読三読してももやが晴れない文章が多いのです。ですから、流し読みで言いたいことがすっとわかるMさんの志望理由書が輝いて見えてしまうのです。さすが、超級です。でも、よく読むと、「っ」が抜けているなんていう基礎的なミスから、修飾関係を入れ換えたほうが文意が通りやすくなるなどという高度なものまで、いくつか改善点が発見されました。内容的には問題がなく、こちらはそのまま清書して出願となるでしょう。

T先生とS先生の学生が出願書類の作成に呻吟しているところに、今年2人の志望校に入ったHさんが、実にタイミングよく来ました。挨拶もそこそこに2人の出願の面倒を見てもらうと、さすが経験者だけあって、適切な指示を出してくれました。多忙な両先生、大いに助かっています。書類の指導が終わると、受験の心構えも話してくれました。進学して半年あまりで、ずいぶん成長したものです。今、感心しながら耳を傾けている2人の学生も、来年の今頃は感心させるほうに回っているのでしょうか。

手紙はいくら?

11月15日(木)

中間・期末テストの日は、学生の登校時間は早まり、教師の出勤時間は遅くなります。学生はラウンジで教科書を開いて最終チェックをしようと思い、いつもより早く学校へ来ます。教師は前日までに準備した試験問題を粛々とさせるだけで、授業準備が不要なので、のんびりとお出ましになります。定期試験日は、普段とはちょっと違う空気が流れる朝のKCPです。

試験監督は、いつもと違うクラス・レベルの教室に入るので、何かと刺激になります。私はレベル1のクラスの監督でした。監督中に学生が取り組んでいる試験問題をのぞいてみると、“80円の切手を5枚ください”という文を書かせる問題がありました。あれ、今、手紙って80円じゃなかったよねえ…と思いましたが、ちょっと自信がありません。消費税率が8%に上がった時に端数がついたはずだけど、最近郵便料金がまた上がったような話も聞いたし…。つい先日、年賀状を買った時、62円になっていましたからねえ、はがきが。

はがきと封書の郵便料金は、昔は常識でしたが、今はどのくらいの人が知っているのでしょう。先週あたりかなあ、クラスで「電話とメールとどちらが好きか」という話題になり、今はメールよりもLINEだとか、スカイプは電話なのかとかと話が広がりました。そのとき、「先生は手紙を書きますか」と聞かれました。振り返れば、ここ何年も、年賀状以外の手紙は書いていないような気がして、「年賀状だけですね」答えました。学生たちは笑っていました。

その学生たちにしても、出願書類を送る時になって初めて郵便局のお世話になったという例が多いと思います。郵便局という単語はレベル1で勉強しますが、実は学生にとっては縁の薄い存在のようです。そういえば、私も郵便貯金の口座があるはずですが、どうなっているのでしょう。

ネットで調べたら、封書は82円でした。

木枯らしも吹かず

11月14日(水)

今朝あたりはだいぶ気温が下がったと思いましたが、まだまだコートなしでも平気そうです。最近、秋の短い年が続いていましたが、今年は久しぶりに秋を満喫しています。

授業中教室の窓から空を見上げて、真っ青な秋空が目に入ると、思わず見とれてしまいます。冬の乾いた、光ばかりが目立つ青空ではなく、適度な瑞々しさが感じられる、手を伸ばして触りたくなるような青さに心が引き付けられます。こういう秋が、今年はじっくり味わえるのです。

KCPの校舎から見える狭い青空ではなく、広々とした青空に両手を伸ばしたいです。BBQのときがチャンスでしたが、あいにくその日はそれどころではなく、気がついたらたそがれ時でした。3日は好天でしたが雑用に追われ空を見上げるチャンスすらなく、以後、休みの日はいまひとつ空模様がパッとしません。今週末はどうなのでしょう。

秋を満喫するのはいいのですが、今年はまだ木枯らし1号が吹いていません。去年は10月30日でしたから、すでに半月遅れていることになります。木枯らし1号は、西高東低の冬型の気圧配置の日に吹きます。しかし、これから数日の予想気圧配置図を見ても、西高東低にはなりそうもありません。定義上、東京の木枯らし1号は11月の中旬までに吹くことが必要ですから、もしかすると、今年は木枯らし1号が吹かない年になるかもしれません。そうなると、1979年以来39年ぶりになるのだそうです。

気象庁の長期予報によると、エルニーニョが発生しているので今シーズンは暖冬になるそうです。秋が長いのが暖冬の兆候だとしたら、あまり喜んでばかりもいられません。

1時間待ち

11月13日(火)

午前の前半の授業が終わり、選択科目の教室に移動するために後片付けをしていると、Hさんが教室に入ってきました。Hさんは前半の授業を休んでいます。「どうして休んだんですか」「先生、すみません。踏み切りで1時間止められました」「踏み切りで止められた?」「はい、車に乗っていたんですが、踏み切りで全然動かなくて遅刻しました」「Hさんのうちはどこですか」「池袋です」…。

要するに、友達と一緒にタクシーで学校へ来ようとしたか、友達に車で送ってもらおうとしたかで、運悪く池袋駅近くの開かずの踏み切りに捕まり、1時間身動きが取れなかったようです。それならどうして車を降りて電車で来ようとしなかったかと訴えたかったのですが、次の予定が迫っていたのでHさんを釈放しました。

それにしても、Hさんは東京で1年半も暮らしているのに、車の中でボーっと1時間も待っていたなんて、いったいどういう神経をしているのでしょう。この1年半、日本の社会を全然見てこなかったのでしょうか。日本はクルマ社会ですが、東京で一番信頼できる交通機関は電車であり、クルマは、快適かもしれませんが、時間の計算の立たない移動手段です。こんな、東京人にとっては常識以前のこともわからなかったとしたら、Hさんは家と学校と、せいぜいアルバイト先にしか足を踏み入れていないのでしょう。それも、決まりきった道を通って。もしかすると、国の仲間だけと付き合い、日本のニュースには全く触れず、スマホで国のサイトばかり見ていたのかもしれません。日本語は多少じゃべれるようになったかもしれませんが、これでは社会性はまったく身についていません。

選択授業は、Hさんとは違うレベルの学生向けの小論文でしたが、社会性のある意見が出てくるか、若干暗い気持ちで授業に臨みました。