38.5度だと

8月30日(土)

昨日、アリとキリギリスの話を使った授業をしました。アリが仲の良かったキリギリスに食物を与えず真冬の寒空に追い返したのは保護責任者遺棄致死罪に問われるかどうかということで、学生に話し合ってもらおうと思いました。ところが、クラスの大半の学生が、アリとキリギリスの話を知りませんでした。これはイソップ物語であり、一寸法師とか泣いた赤鬼とか、純粋な日本の昔話ではありませんから、誰もが知っているかと思いきや、まるで違っていました。

私が知っているアリとキリギリスの話は最後にキリギリスが死んでしまうのですが、知っていると言った学生の話は、アリがキリギリスを家に招じ入れたというものでした。結末がまるで正反対ではないかと授業後に調べてみたら、そういうストーリーもあるのだそうです。なんだかよくわからなくなってきました。

キリギリスが死んでしまうバージョンは、勤勉こそ何にも勝る、将来のために今汗を流すことの重要性といったことを説いています。キリギリスを助けるストーリーは、他者への慈悲、優しさの大切さを訴えているのだそうです。さらに、今では、人生の多様性とか、芸術の意義とか、そんな方面に話が進んでいるのだそうです。うさぎとかめなんかも、昼寝をしたにもかかわらずうさぎが勝って、“天賦の才に勝るものはない”なんていう結論になっているかもしれませんね。

さて、授業の方は、アリは無罪という意見が、有罪の3倍ぐらいと圧勝しました。でも、有罪を訴えた学生も、立派な論理を展開していました。

いや、今年のような暑さなら、アリも夏の間は働けず、そしてキリギリスと一緒に飢えてしまったかもしれません。東京の最高気温は38.5度、今年最高でした。

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180リットルも?

8月29日(金)

日本語プラスの生物は、「主な臓器」というテーマで、肝臓、腎臓、心臓を取り上げました。“肝心”ないしは“肝腎”という言葉があるくらいですから、この3つは、古来、重要な臓器として知れ渡っていました。それだけに、普段の生活の中でも、これらの臓器は話題になることがよくあります。

肝臓の働きの中に、解毒があります。まず、これを“かいどく”と読まないように注意し、「肝臓は体に有害な物質を分解しますが、有害な物質って例えば何ですか」と聞いてみました。真っ先に挙がったのが、アルコールでした。そうです。アルコールは解毒作用の一つとして、肝臓で分解されます。お酒の種類に関係なく、アルコールは毒です。酒は決して百薬の長などではなく、毒なのです。

さらに例を挙げるように促すと、「腐った食べ物」という答えが返ってきました。学生たち、痛い目に遭っているんですね。私が求めた答えは薬です。薬も最終的には肝臓で分解されます。健康な人にとっては毒になるものをあえて病人に与えたのが薬の出発点ですから、薬も毒なのです。“毒にも薬にもならぬ”なんていう表現があるくらいですからね。

次は腎臓。ここはおしっこを作る臓器ですが、そのおしっこの元は1日180リットル作られると言ったら、学生たちは驚いていました。その99%は腎臓内で再吸収されます。このときにグルコースも再吸収されます。再吸収されなかったら、糖尿病です。また、塩辛いものを食べると水が欲しくなる仕組みも、腎臓がかかわっています。

そして心臓。ここでは、血液型によって病気のなりやすさに違いがあるかという質問が出てきました。ABO式の血液型は、赤血球表面にある抗原の違いに基づいて決められます。これと病気のなりやすさは、あまり関係がなさそうです。Rh式も似たようなものです。

その他、血液のヘモグロビン、心臓のペースメーカーなど、心臓というか循環器関係もツッコミどころ満載です。さらに受験勉強を離れると、血液検査の正常範囲の数値として知っておいていい血球数なんかも取り上げました。

生物の学習内容は、物理や化学に比べて学生たちの身近にあうものや現象が多いです。だから、勉強してみると面白いし、役に立つし、おすすめなんですよ。

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成長

8月28日(木)

夕方、職員室で仕事をしていると、受付から声がかかりました。「先生に会いたがっている卒業生が来ていますよ」。カウンターに出て行くと、名前は覚えていませんでしたが、記憶にしっかり残っている笑顔が迎えてくれました。「ゴメン、名前は忘れたけど、顔は覚えてる」と正直に申告すると、「10年前に入学して8年前に卒業したSですよ」と名乗ってくれました。

SさんはA大学に進学し、その後T大学の大学院に進みました。そこを出て就職したものの、職場があまりに田舎だったので、2年でやめて東京の会社に転職したそうです。新しい仕事が始まるまでの1か月ほどの休暇を利用して、KCPまで顔を見せに来てくれたというわけです。

話を聞くと、ちゃんとキャリアアップしているみたいです。行った先々で自分の肥やしになる何かをつかんで新天地に踏み出しているようです。この次の転職は、いよいよ社長かもしれません。そんな話をすると、Sさんはちょっと照れていました。多少はそういうことも考えいるんじゃないのかな。

KCPにいたころのSさんは、高校を出たばかりだったこともあり、まだまだ遊びたい盛りでした。授業をさぼったこともありました。でも、受験が近づくにつれて真剣になり、どうにかA大学に手が届きました。そこで4年間みっちり鍛えられたのでしょう。名門T大学の大学院に進学しました。そこでも学んだことを自分の血肉とし、就職を果たし、さらに転職までしてしまいました。その業界は仕事が厳しいと言われていますが、その厳しさを乗り越え、さらに何かをつかんでやるぞという意欲を感じました。

日本語も流暢になっていました。KCPの卒業式の時でもいくらか手加減しなければならなかったのに、KCPの教職員に話しかけても、Sさんはごく普通に返してくれました。こういうことができるから、日本でどんどん成長できるのでしょう。

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朝から暑いですね

8月26日(火)

わりと最近まで、夏の高校野球は、開会式の頃はまだまだ夏の盛りだけど、決勝戦の頃は秋風が立ち始めると言われていました。しかし、今年は決勝戦が終わっても、秋の気配などまるでなく、東京は猛暑日が続いています。明日以降も当分猛暑からは解放されそうにありません。

私は朝暑くなる前に学校に着きますが、それでもシャワーを浴びたいほどです。炎天下を歩いてきたわけでもないのに、汗でシャツが肌に張り付きます。大気に熱がこもっている感じがします。風もほとんどないので、その熱が体にまとわりついて、汗を噴き出させます。

職員室は前日夜のエアコンの冷気がすっかり抜けてしまっていますから、学校に着いて真っ先にすることは、エアコンをONにすることです。1階ロビーは熱気がこもっていて、さらに汗が滴ります。職員室にこもって体を冷やしてから、正面玄関の鍵を開けます。

そんなことをしているうちに、毎朝計ったように6:24に来るKさんが職員室のドアをノックします。「おはようございます。今日も頑張って勉強します」と挨拶して、2階のラウンジに向かいます。ラウンジのエアコンをつけて、ガンガン冷やしてあげます。熱中症で倒れてしまいでもしたら、大騒動ですからね。

その後の小一時間は、私にとってはゴールデンタイムです。誰もいない静かな職員室で、集中力を要する仕事をします。今朝は、授業で使う教材を一気に仕上げました。予定より早くできましたから、来週の教材の素案を練りました。この時間、自転車操業には欠かせないひとときです。

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見下ろす

8月25日(月)

夏休みは、丸々福岡にいました。

16日(土)の朝いちばんの飛行機で福岡へ行きました。右手に志賀島を見て、博多港の貨物ターミナルの真上を通り、博多駅の新幹線ホームに降りるんじゃないかというくらいの勢いで市街地に突っ込み、さあ着陸だと、7時55分20秒、21秒、22秒、23秒、24秒、25秒と秒読みしましたが、最後のドスンというショックが来ません。それどころか、急上昇し始めました。筑後川らしき流れが見えてきたころに、機長からアナウンスがありました。「滑走路に鳥が止まっていましたので、着陸をやり直します」とのことでした。エンジンから火を噴いたり、オーバランしたりしたらとんでもないことです。約15分後に再着陸し、無事到着しました。めったにできない体験をさせてもらえました。

福岡城跡・鴻臚館、伊都国歴史博物館・高祖山、宗像大社、志賀島一周、可也山、直方・若松、能古島、板付遺跡・金隈遺跡・奴国の丘歴史資料館といったところを回ってきましたが、みなさんの食指は動きますか。

毎朝、ホテルのバイキングで意地汚く2食分詰め込み、日中は人跡稀なるところを歩き回り、シャワーを浴びたかのように汗をかいて、夕方ホテルに帰り着くという日々を送りました。毎日、スマホの歩数計で2万歩ぐらい歩きました。おかげで衣服からはみ出た手足はたっぷり日焼けし、冬まで黒白がくっきりしていることでしょう。

上述のように、今回は縄文時代から古代までを中心に見て回りました。そういった時代における、この地方と大陸との距離の近さが実感できました。より一層興味を掻き立てられました。また、標高は数百メートルにも満たないものの、眺めがいい山にいくつも登りました。空気中の水蒸気が若干多めでしたから、めちゃくちゃ遠見が利いたわけではありませんでしたが、山のてっぺんから平野部を見下ろすのは気持ちがいいものです。「あれがこれか」と、実際の景色と地図とを突き合わせるのも、実に楽しいです。

帰りの飛行機は、何事もなく定時出発、定時到着でした。東京は、福岡よりずっと暑かったです。

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10年後

8月15日(金)

「あなたは仕事を選ぶうえで、何を重視しますか」というテーマで、学生たちに話し合ってもらいました。意見を聞くと、第一はやはり給料。自分の興味に合う仕事も人気がありました。ワークライフバランス、やりがいなどという意見もありましたが、多くの学生の票を集めるには至りませんでした。

その次に、10年後、どんな仕事をしてどんなポジションにいるかという話をしてもらいました。給料を重視するのですから、課長とか研究リーダーとか、そこそこのポジションについているという答えが出てくると思いきや、働きたくないとか、仕事はロボットやAIに任せるという学生が、国籍に関係なく多かったです。

要するに、楽にお金を稼ぎたいのでしょう。大学を出たら必死に働いてお金をためて、そのお金を投資して、10年後は配当か何かで暮らすという、昔なら不労所得と蔑まれた働き方が輝いて見えました。

もちろん、発言の通りの暮らしをする(できる)学生はいないでしょう。あくせく働きながら2035年を迎えるというのが実際の姿ではないかと思います。でも、上述のような理想を持っていることは確かです。

私の若い時はどうだったかなあと思い出すと、学生時代に10年後の自分の姿を明確に描いていたとは言えません。でも、ドラえもんの道具に仕事を任せて自分は遊んでいるという近未来は考えていなかったと思います。早いうちに引退して好きなことをして人生を楽しむという道も考えないわけではありませんでしたが、実現可能性は低いだろうと思ってました。

そして、現実は、10年後どころか40年後も楽隠居には程遠い暮らしをしています。学生たちも、たぶんそうじゃないかな。だから、仕事は本気で選ばなきゃダメなんですよ。

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趣味日本語学習

8月14日(木)

授業後にクラスの学生の進路に関する面接をしました。

Cさんは、日本で進学も就職もせずに帰国すると言います。現在、リモートでしている仕事があり、国でそれを続けます。日本語の勉強は趣味だそうです。だから、入試に向けての読解や聴解などは、自分の必要とするないしは欲する勉強ではないので、あまり気が進みません。JLPTも、すでにN2に合格しており、日本で就職するつもりはないのでN1は不要であり、進んで取り組もうとは思いません。

趣味で語学を勉強するなんて、そして上級レベルまで上達するなんて、何とうらやましいことでしょう。そういう学習者を集めて授業ができたら、教師にとってもさぞかし楽しいことでしょう。でも、残念なことに、KCPは日本で進学する留学生のための学校であり、時には無理に知識を詰め込んだり、時には同じような練習を何回も繰り返したり、学習者にとってはつまらない授業もしなければなりません。楽しい日本語ではなく、苦しい日本語に陥っていることもあります。できないことをできるようになるまでさせるなんて、苦しい日本語の極致です。

Cさんは帰国したらどんな形で日本語と付き合っていくのでしょう。日本のドラマやアニメを見るなど、娯楽の日本語を追求するのでしょうか。日本語で思考回路を回してみて、新たな気付きを得ることだってあるかもしれません。これは発見の日本語かな。いずれにせよ、テストの点数に一喜一憂する受験の日本語とは大きく違います。

Cさんは、いい趣味を持っています。

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母は強し

8月13日(水)

レベル1の漢字の授業で「毎」を教えました。中国語では、下半分が“母”ですから、学生たちがよく間違えます。ですから、声を張り上げて「中国の学生、よく見て」と言ってから、ホワイトボードに大きく「毎」の字を書き、注意すべきところを赤で強調しました。これだけ印象付ければ“母”を書く学生はいないだろうと思って学生の教科書をのぞき込むと、Sさんは練習問題の答えにしっかりと“母”を書いていました。

レベル1の学生に私の日本語が通じなかったのか、脳にもペンを持つ指先にも深く刻み込まれた記憶と習慣の影響から逃れるのが難しいのか、ごく自然に“母”になってしまうんですねえ。中級・上級になっても尾を引き続けるのですから、記憶と習慣が主因でしょう。「毎」は作文や例文で何回直したかわかりません。これに限っては、中国人以外の学生の方が、正答率が高いと思います。

正直に言って、「毎」の下半分が“母”でも「毎」と認識できます。「苺」の下半分が“毋”でも「苺」と認識できます。だから、上記私の指導は重箱の隅的こだわりに過ぎないのかもしれません。でも、“末”と“未”も、“己”と“已”も、“申”と“甲”も、“礼”と“札”も別字です。もちろん、“母”と“毋”も別字です。入試の漢字の書き取りでこれらを取り違えたら、文句なし×です。重箱の隅的こだわりが利いている場合もあるのです。

ちなみに、「毎」を漢和辞典で調べてみると、“髪飾りをつけて結髪した婦人”を表した象形文字だそうです。とすると、中国の漢字(日本の旧字体)が本来の姿と言えます。

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最後まで

8月12日(火)

中間テストがありました。レベル1は会話の中間テストもあり、先学期に続いて試験官を務めました。レベル1のしかも前半が終わったばかりですから、話せることはそんなに多くありません。

でも、「お国はどちらですか」ぐらいはわかりますから、それを聞きました。「中国です」と答えれば○ですが、「お国は中国です」だったら×です。「学校はどちらですか」「学校はKCPです」は○なんですがね。

それに続けて、「いつ、日本へ来ましたか」と聞くと、すぐに「七月に来ました」と答える学生もいる一方で、指折り数えて「ななげつです」と言ってしまう学生もいました。さらに日にちまで答えようとして、やはり指折り数えたあげく、「七月ごっか」などと間違ってしまう学生も数人。

もちろん、中には、「夏休みは鎌倉へ海を見に行きます」と、授業で習った表現を応用して答えた学生もいました。結構意外な学生もそんな答えをしていたのは、習ったばかりで忘れる前だったからでしょうか。

でも、一番差が付いたのは、「じゃあ、これで会話テストを終わります」と言った後の態度でした。逃げるように席を立つ学生、ぴょこんと頭を軽く下げる学生、「フーッ」と大きく息を突く学生、「ありがとうございました」と言ってから立ち上がる学生、十人十色でした。こちらが終了宣言をした後ですからこの部分は採点対象外ですが、やっぱり印象が違いますね。

これと似たようなことを、上級の学生が入試の面接の場でやっていないとも限りません。面接練習の場で、要指導です。

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筆鋒鋭く

8月9日(土)

火曜日に行った選択授業・小論文の中間テストの採点をしました。5日のこの稿にも書きましたが、グラフから何かを読み取って小論文にまとめるタイプから、グラフなしの問題に変更しました。問題の説明をした時点で学生たちは喜んでいましたが、それが文章にも現れていました。

グラフ読み取りの問題に比べて、学生の文章が生き生きとしています。筆(シャープペンシル?)の勢いが全然違います。600字という制限を大きく超える大作を著した学生も少なくありません。その大作も、水太りで字数だけ増えたのではなく、筋肉太りですから読みごたえがあります。

私が取り上げた題材が学生たちにハマった面もあるようです。ある事件に関する意見を求めたのですが、意見がほぼ真っ二つに分かれました。学生たちにとって、議論のしがいがあるトピックだったようです。この選択授業の初回に説明した小論文の構成に則り意見を述べてくれた学生が多かったです。

学生たちは、頭の中で考えたことを原稿用紙の上に表すことに関しては、かなりの能力を有していることがよくわかりました。しかし、しかるべき根拠を示して議論を展開するとなると、まだまだだと思わざるを得ません。根拠がないので、文末が「~だろう/かもしれない/ではないかと思う」など、断定を避ける表現が目立ちます。

ここを鍛えておかないと、本番の入試の小論文で痛い目に遭いかねません。EJUの記述試験なら、根拠なしでも点が取れますが、“いい大学”の小論文は、それでは勝てません。やはり、グラフで鍛えていくのが、今学期後半の小論文の課題です。

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