Category Archives: 試験

塵も積もれば

11月16日(月)

金曜日の中間テストを採点しました。

超級の大学進学クラスは、大学入試の過去問を出しました。採点してみると、漢字の読み書きで助かった学生が目立ちました。読解問題の失点をカバーしてかろうじて合格点を取った者、漢字で点を伸ばして評定をワンランク上げた者、そんな学生がいました。先学期から通学授業の日には毎日漢字テストをやって来た効果が表れたようです。半年前は漢字で足を引っ張られることが多かったのですから、大きな進歩です。でも、読解の筆答問題は、相変わらず弱くて、困っています。

中級クラスは、漢字のテストでなくても、どんな易しい漢字にもフリガナを振らせました。これが悲惨な結果を招きました。“学生”“欠席”など、初級で勉強したか今まで何度も接してきたはずの漢字にも、正しいふりがなが書けない学生が続出しました。“がっせ”“けせき”などというのをいくつも見せられると、それ以降採点せずに不合格にしたくなりました。おそらく、そういう学生は、ふだん、「けせきが多いがっせ」などと発音しているに違いありません。それをきちんと注意してこなかった私たち教師にも責任はありますが、初級の入り口の頃に出てきて、毎日のように耳にしているはずの単語がきちんと発音できないというのは、その学生が日本語に積極的に接しようとしてこなかったのではないからでしょう。

大学進学クラスの学生は、私なんかいじめ抜いていますから、できないという印象が先に立ってしまいますが、中級クラスの学生と比べると、やはり格が違うなと思います。鍛え続ければ伸びるものなんですね。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

試験監督の目

11月13日(金)

中間テストがありました。私が監督したクラスは、何事もなく無事に終わりました。そのクラス、実は私が週に1日は入っているクラスで、テスト問題も一部は私が作りました。

自分が作った問題を目の前の学生が解くのを見ていると、何とも不思議な気持ちになります。この程度の難しさなら解いてほしいと願いながら作った問題に頭を抱えている学生を見かけると、なんだこいつと思ってしまいます。渾身の力を込めて、解けるものなら解いてみろというぐらいの問題は、苦しんでいる学生にもっと苦しめと心の中でつぶやいています。

あんまりすらすら解かれると、学生の力を見くびっていたかなと不安になります。全学生が呻吟しているとなると、合格者が1人もいなかったらどうしようと心配になります。75点平均ぐらいが、見ている立場でも、学生の力を測るという意味でも、穏やかな気持ちでいられます。

学生の答案をのぞき込むと、ひねりを利かせた問題に大半の学生がつまずいていました。大学進学クラスですから、こういう問題こそ正解にたどり着いてほしかったんですがね。来週からも手を緩めることなく鍛えていかねばなりません。期末テストでは、こちらからの攻撃を跳ね返してもらいたいものです。

採点してみると、やっぱり筆答問題がまだまだかなあ。本文の抜き書きで済まそうという答案が目立ち、それを要領よくまとめる力が足りません。授業中に感じていたことが、そのまま答案用紙上に現れました。四択から正解を選び出せても、本当の読解力とは言わないんですよ。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

休んでいます

11月9日(月)

昨日のEJUの出来具合が気になるところですが、私のクラスはオンラインでしたから、詳しくは聞きませんでした。オンラインの小さい画面では学生たちの微妙な表情がつかめませんから、変なツッコミ方をして学生を傷つけてしまうおそれがあります。手加減が難しいのです。

気になるのは、受けた学生が2人全くオンラインに出てこなかったことです。Sさんは受験講座で面倒を見てきました。まじめな学生ですから、めったなことでは休まないはずです。ショックが大きくて立ち直れないのでしょうか。Tさんも気安く休む学生ではありません。授業後電話をかけてみましたが、反応はありませんでした。明日、ケロッとして登校してきてくれればいいのですが…。

SさんもTさんもそうですが、今年は昨日のEJUが実質的に一発勝負という学生が少なくありません。これに失敗したら不本意な進学をするか、日本留学をあきらめるかという厳しい選択を迫られるケースも考えられます。第一志望校には入れなくても、実力相応校には手が届いてほしいと思っています。学生たちの希望と実力と試験結果と各大学の特色と、そういったものを総合的俯瞰的(菅首相的な意味ではなく、文字通り)に見極めて、学生が進学してから満足できるような進路指導をしていくことになります。教師にとっての正念場です。

さて、オンライン授業に出席した学生たちですが、いつも以上に予習ができていませんでした。教科書の例文は漢字が読めないし、宿題はやっていないか間違っているかだし。それぐらいは大目に見てあげなきゃいけないかなと思いましたが、よく考えたら昨日EJUを受けていない学生もたくさんいたのです。

進路指導より先に、精神のたるみの解消が必要です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

新幹線でどこへ行きましたか

11月2日(月)

「Pさん、明日は学校は休みですが、どうしてかわかりますか」「えー、よくわかりませんが、休みです」

…という調子で11月が始まりました。今度の日曜日はEJUですが、学生たちに緊張感があるのかないのか、今一つつかめません。Pさんも受けるんですがね。

授業ではニュースの聴解をしました。題材は、新幹線のスピードアップ試験です。東北新幹線の仙台・盛岡間で報道陣を乗せた車両が時速380kmを記録したという内容です。この程度の聞き取りなら、地名を事前に入れておけば、そんなに難しくはありません。JRは2030年度までに新幹線を札幌まで開業させる計画だというのも、大部分の学生は聞き取れます。しかし、その新幹線電車の前部がどうなっているかとなると、聞き取れなくなってきます。現在の新幹線の運転最高速度より何キロ速いかとなると、380とか320とか、ニュースに出てきた数字を直接答えてしまいます。380-320=60(キロ)と、ほんに簡単な計算をするだけなんですが、ものの見事に引っかかってしまいました。こういうひとひねり加えられた問題がEJUによく出るんですが、今週末のEJUに一抹の不安を感じさせられる出来具合です。

答えを確認し、最後にもう一度ニュースを聞いたあとで、「今まで新幹線で旅行をしたことがありますか。どんなところへ行きましたか」ということで、学生どうしに話をしてもらいました。私が見回ると、あるグループは何もしゃべっていません。どうしたのかと聞くと、メンバー全員が「ない」で話が終わってしまったとのことでした。別のグループでは、来日後まもなく不要不急の外出自粛になってしまって東京の外へは出たことがないが、“Go to”を利用して〇〇へ行きたいということを話していました。また、熊本まで新幹線で行くのは、実はとても贅沢なことだなどと話していました。

学生たちは会話をしたいとよく言います。しかし、実際にさせてみると、問われたら答えるという、いわば事情聴取型の受け答えになってしまうこともよくあります。これだと、入試の面接が不安です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

80分1本勝負

10月29日(木)

学生たちに感心させられることの1つが集中力です。受験講座・理科を受けている学生たちは、毎週過去問を解いています。本番のEJUと同じ80分で、自分が選択する2科目の問題に挑戦します。その間、途中で息抜きをすることもなく、視線を、問題用紙と解答用紙の間を往復させています。一通り問題を解き終わっても、終了時間まで答えに自信の持てない問題に再度取り組みます。換気のため開け放った窓から、隣や向かいのビルの建築工事の騒音が遠慮会釈なく入ってきますが、それをものともせず、問題だけと向き合っている姿は、神々しくさえあります。

今の私は、80分もの間、ずっと1つに事を続けるなんてとてもできません。朝、教職員が出勤しない時間帯なら雑音が入ってきませんから仕事に集中できるはずなのですが、それができないんですねえ。メールをチェックしたり、ネットで調べ物をしたついでに余計なページを見たり、辞書でふと目に留まった項目を読んでしまったりなど、思考があっちこっちに跳びまくります。毎日この稿を書くのだって、寄り道がはなはだしいですから、原稿の長さのわりには時間がかかっています。自分がこんな体たらくですから、学生たちの集中力がうらやましくもあり、感心させられたりもするのです。

残念ながら、すべての学生が、受験講座・理科の学生たちのような集中力を有しているわけではありません。せいぜい30分のEJU聴解の過去問を解く間すら視線を泳がせる学生もいます。もっと短い面接練習の間さえ落ち着きのなさを振りまいている学生も普通にいます。こんな学生が、年を取るにつれて集中力が落ちてきたら、いったいどうなってしまうのでしょう。

EJU向けの受験講座は、来週が最終回です。もはや集中力を鍛えるどころではありません。適度に集中力を切らせながらも、しかるべき結果を出してもらいたいと願っています。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

次から次へと

10月22日(木)

秋の深まりとともに、受験シーズンもたけなわとなっています。

まず、授業が終わるや否や私を捕まえたZさんは、先日S大学に合格しました。初級の時に受けたEJUのスコアしかありませんから、それで勝ち目がありそうな大学ということでS大学を受けました。しかし、できればもう少し上のランクの大学ということで、T大学を狙っています。S大学の入学手続き締切がもうすぐだが、入学金などを払い込んだ方がいいかという相談でした。

もちろん、S大学の権利は確保しておかねばなりません。その上で、T大学でも他の大学でも受験すればいいのです。確かに、T大学に受かったらS大学に支払った入学金は戻ってきません。しかし、S大学の権利を放棄して受けた他大学が全滅だったら、来年4月以降の居場所がありません。日本人ならともかく、ビザの切れ目が日本との縁の切れ目になりかねない外国人留学生は、受験における背水の陣は避けるべきです。

1階に下りてくると、Nさんが声をかけてきました。R大学に合格したと報告してきてくれました。第一志望校ですから、大喜びです。Nさんは、担任教師でも言っていることがわからなくなることがあるくらい、日本語力に問題があります。R大学は日本語力よりも専門分野への興味の強さを評価してくれたのでしょう。その点だったら、Nさんは誰にも負けません。いい大学を選んだものです。

次はKさん。以前私が与えた課題について書いてきた小論文へのコメントを聞きに来ました。Kさんの文章は、前置きが長いのです。本論に入るまでに規定字数の1/4ぐらい使っています。それから、自分ならこうするという意見が足りません。書かれていることは間違っていませんが、それに対する考察や展望があまり見られません。これだと読み手に訴える力が弱いです。そういう点を指摘しました。

Kさんが終わったら、受験講座。11月8日を控えて、真剣勝負の最中です。先週よりもはるかに真剣なまなざしで、模擬テスト代わりに解かせた過去問の解説を食い入るように読んでいました。

明日も、進学行事が満載です。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

後悔先に立たず

10月21日(水)

先週末、ほかのクラスからは「T大学に合格しました」という声が聞こえてきたのですが、Cさんからは何の報告もありませんでした。“便りがないのは無事な証拠”と巷間では言われていますが、KCPでは“報告がないのは落ちた証拠”です。そういう意味で嫌な予感がしていたのですが、D大学の面接練習に来たCさんに聞いてみると、案の定でした。

そういうわけで、Cさんは今週末のD大学の試験に勝負をかけます。筆記はある程度自信があるようですが、面接はからっきしなのです。D大学の入試でも、面接試験会場で、KCPで練習したのと違う面接室への入り方を指示されたため緊張してしまったとか。半分は言い訳でしょうが、面接練習をしてみると、半分は事実のようでした。自分の短所として、人前ですぐ緊張する点を挙げていました。毎週授業で顔を合わせている私を目の前にしてあがってしまうようでは、先行き決して明るくはありません。

その1つの原因として、Cさんは自分の発話能力に自信を持っていない点があります。ネットや本など、文字情報を吸収することを中心に勉強してきたCさんは、自分から何かを発信することに慣れていません。授業で指名しても、単語でしか答えません。そういう答え方で、いわゆる化石化が起きてしまっているのかもしれません。D大学の入試には口頭試問もありますが、専門用語を黙読するばかりで声に出したことがないCさんにとってはこれまた難問です。頭で理解している事柄を日本語で口頭表現できないのです。そういう勉強をしてこなかったことを後悔している様子が、Cさんの表情からありありとうかがえました。

Cさんのような口が遅れている学生は毎年いますが、みんな入試で痛い目に遭うまで自分の勉強のしかたに問題はないと信じています。若いのに、どうして頭が固いのでしょう。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

今年一番の寒さ

10月17日(土)

寒い1日でした。東京は朝から気温が上がらず、最高気温も11月中旬並みにとどまりました。北海道と沖縄は平年並みだったようですが、本州、四国、九州の大部分は、1か月ぐらい先の気温となりました。5月23日以来毎日最低1か所はあった真夏日の地点が、このままいくと0になりそうです。

換気のため開けっ放しにしている正面玄関のドアから、寒気が容赦なく入ってきます。北国生まれで寒さに強いはずのNさんも、ジャケットを着て仕事をしています。F先生はブランケットにくるまっています。私もひざ掛けを出そうかな。

…などと考えていたら、寒気といっしょに、学校を通して出願した学生あてに、11月のEJUの受験票が届きました。宛名がパスポートと同じアルファベット表示になっているため、早速どれが誰あてなのかコンピューターで調べて、来週早々渡せるようにしました。

EJU読解の受験講座に来ていて、用事があって職員室に立ち寄ったDさんには直接手渡しました。EJUのサイトによると、今回から試験会場の表示がQRコードになったとのことでしたから、Dさんに頼んで中身を見せてもらいました。すると、試験会場は受験票に印刷されていましたが、会場への行き方・地図がQRコードから取り出すように変わっていました。QRコード一覧表が同封されていましたが、そこには北から南まで、東も西も、全国の会場のQRコードが並んでいました。

Dさんは超級の学生ですから、その中から自分の会場を見つけ、QRコード経由で地図などの情報を取り出すことはたやすいでしょう。しかし、初級の学生だったらどうでしょう。QRコードが左か右か、上か下かにずれてしまい、違う会場への行き方を信じてしまうおそれがあると思います。各会場の案内図を用意し同封する手間を省きたいということなのでしょうか。全国の会場のQRコード一覧表を全学生に送るとなると、紙の節約にすらなっていないような気がします。

Dさんの封筒から、冷たい風が吹き出してきたような気がしました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

顔を合わせて解く

10月10日(土)

雨が降り続くパッとしない天気でしたが、4週間後にEJUが控えていますから、EJU読解の受験講座を行いました。4月期、7月期はオンライン授業でしたが、今学期は対面で授業をします。解答時間を厳密に管理し、マークシートをしっかり塗るというところまで指導したいからです。また、問題に取り組んでいる時の学生の様子を観察したいという気持ちもあります。また、学生には、リラックスした状態で解くのではなく、他人の視線も感じながら、少し緊張した状態で解いても力が出せるようになってもらいたいと思っています。

実際にやってみると、目の前に問題文を読み、考え、鉛筆を動かす生身の学生がいる方が、コンピューター越しにしか学生の存在を感じられないオンラインより、ずっと安心します。問題用紙と解答用紙を配り、提出時間を告げた時に、明らかに脈拍数が下がったのが感じられました。試験監督をしていますからまるっきり気が緩んだわけではありませんが、オンラインの時よりリラックスしていました。

不思議ですね。目の前に誰もいない方が、何十もの目が光っている時よりも緊張するなんて。オンラインだと何をしているかわからないというのが、無言のプレッシャーだったのでしょうか。呻吟している学生を見て喜ぶなどという趣味はありませんが、どの程度苦しんでいるかを知るのは、その後の解説に生きてきます。

学生たちは淡々と問題を解き、時間が来たら黙って提出しました。マークシートの塗り方は、事前に注意しましたから、しかるべき濃さの鉛筆で枠からはみ出さないように几帳面に塗られていました。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ

学期休み中ですが

10月5日(月)

学期休み中ですが、受験シーズンとあって、切羽詰まった学生たちが学校へ来ています。

午前中は養成講座でしたが、授業が終わるや否や声をかけられました。S大学への志望理由書、学習計画書を書き上げたKさんが最終チェックをしてくれとのことでした。詳しく見ていけば言いたいことはたくさんありますが、ここは感度を若干下げて、細かいことにはツッコミを入れず、大きな流れだけを捕らえました。面接で聞かれそうな点1つと、語句の修正1か所を指摘し、出願するように指示しました。

昼食を取って戻ってくると、ロビーでEさんが待っていました。面接練習の約束をしていましたが、予定よりも20分ほど早かったので、また、下を向いて何やらつぶやいているようでしたから、声をかけずにそばを通り過ぎて職員室に入りました。すると、5分後ぐらいにお声がかかりました。準備はできたと言いますから、15分ほど早かったですが、練習を始めることにしました。

担任のO先生の話によると、Eさんの最大の意問題点は緊張しすぎることで、それを何とかするのが私の役回りです。Eさんは以前受け持ったことがありますから、まんざら知らないわけではありません。しかしEさんは手指も声も震え、一生懸命さは伝わってきますが、話の中身は頭の中でかなり補わないと理解できません。しどろもどろなんていうレベルじゃありませんでした。話すべきことを暗記してきたそうですが、逆効果でした。緊張のため最初の言葉が出てこず、頭が真っ白になってしまったことは、Eさんの様子からすぐわかりました。

ですから、言いたいことを単語で整理するように言いました。文を丸暗記するのは、Eさんの場合は危険ですから、それはやめさせ、キーワードだけ押さえておくことにしました。こうすれば多少は負担が軽くなり、今後の練習のしかたによっては、今よりは滑らかにしゃべれるようになるでしょう。

今年は入試戦線に大いに異状があります。そこを勝ち抜くためには、学生も教師も力を出し合わなければなりません。

日本語教師養成講座へのお問い合わせはこちらへ